おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

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九月中に投稿したかったのですが遅れてしまい申し訳ありません。


何が決める罪か

「それはおかしいですね。私が評議院にクエスト申請した時ララバイという名前を依頼内容に伝達したはずですが。どうやらその報告書には漏れがあるようですね」

 

 オニバス駅でエルザから初めて協力する依頼の内容を聞いたとき、評議院に報告のため式神を送っている。あのときは鉄の(アイゼン・ヴァルド)に喧嘩を売ることで、日頃から目をつけられている俺たちへのいちゃもんを防ぐためであった。意図しない物だが評議院が持っている報告書の不備を証明するのに一役買ってくれるとは、やっぱり報・連・相は大事だなぁー。

 

「確かにあるな。ハザマという名前で評議院にクエストの申請依頼が来ている。正規の手続きで申請されてるせいで30分後には受理しちまってるな。おまけにマスターボードに記録されてるから削除も不可能だ」

 

 マスターボードというのは全てのクエストを記録している情報統括魔法である。評議院がクエストの管理を設立から現在に至るまで記録しており、魔道士達が達成したクエストや未解決な物も含めその全てが保存されている。中には100年間挑戦したものが一人も帰還していないようなクエストまであるがその話はおいて置こう。

 この記録は申請さえすれば誰でもクエストの概要を知ることができる。侯爵にはこの記録を武器に評議院を糾弾してもらうつもりだったのだがその必要はなさそうだ。

 

 

「これは私たち『妖精の尻尾(フェアリー・テイル)』が、評議院が事態を把握するより前にララバイ事件を認識している証拠であり今回の事件を解決しようとしている証です!!」

 

 流石に盗んだ奴らがララバイの捜索クエストを申請したなんていう頓珍漢なことは言われなかった。ジークレインの発言からわかるようにこの記録は削除が不可能なものだ。だから自信をもって主張できるのだが……こいつら削除が可能ならば確実にもみ消すつもりだったみたいだな。どこまで腐ってるんだ。

 

「……確かに貴様達がララバイの第一発見者である()()()は認めよう。だがエルザ・スカーレットには破壊活動を行っていたという証言がある。これを無視し無罪放免とするのは話がちがうのではないか」

 

 嘘を証明するためには相手の嘘と事実の相違点を指摘するのが一番わかりやすい手段だ。とりあえず俺たちがララバイ強奪とは無関係であることに関しては問題ないだろう。だがもう一つの容疑である破壊活動に関しては難しい。

鉄の森(アイゼン・ヴァルド)との戦闘では当然エルザも戦っていた。この時、なにか物を壊していたらそこを徹底的に責め立て、難癖をつけてくるだろう。たとえ何一つ壊していないにしてもそのことを証明することは現実的に不可能だ。壊滅した町の残骸の一つ一つを何が原因で壊れたのか調査し、それが正しいと証明できればいいのだろうがそんなことはできるわけがない。

 

「こちらとしてはそもそもその証言が本当に信用できるものなのか疑っているのです。なにせララバイ発見の功労者の一人が、ララバイを盗んだ犯人であると()()されていたのが現状なのですから」

 

「ハザマおまえは何を言っている。これ以上評議員の心情を悪くするな」

 

 今まではだんまりを決め込んでいたエルザが問いただしてくる。両手を拘束されているから直接攻撃はしてこないが、普段なら間違いなく殴られている場面だ。なんでこの女騎士は自分を逮捕した評議員よりも俺に敵意を向けているのだろうか。目を三角形にして睨むなよ怖いから。

 破壊活動に関しては反論しない。この話に言及した瞬間こちらの負けになる。

 

「なにを誤解しているのか理解できませんな」「無駄なことに時間を使わせおって」「でも余計な勢力がしゃしゃり出てきそうね]

 

 静観していた他の評議員たちもそれぞれ好きなことを言い出した。さてこの中で俺が責め立てるべきなのは、やはり評議院のララバイの管理体制に対する問題だろう。だがこの問題を追及し、評議院の不手際を証明したとしてもエルザの無罪を奴らが認めるとは思えない。俺がやるべきことはエルザの無罪にすることだ――間違えるな。

 

 そのとき式神に持たせていた式神の消失を確認した。式神には五体の小型式神を持たせておりどの式神が消滅したかによって、貴族との話し合いの結果を知ることができる。コレが評議員と貴族この二つの交渉を同時進行で行えた理由だ。

 

 消えたのは貴族が評議院に対して抗議すると消す式神だ。これを活かさない手はない。

 

「侯爵閣下は国に今回の事件を国王陛下に報告するおつもりです。その際には当然被害者の話もお聞きになりなるでしょう」

 

 そもそもこいつらがエルザを強制的に逮捕したのはララバイ事件に対して評議院以外の介入を防ぐためだと推測できる。評議院には一度結果を出してしまえばたとえ国が相手でもそれを押し通せるだけの力がある。だが……今なら、まだ何の結論も出していない今なら――。   

 国という最大の所属数を誇る組織との対決を避けるよう動く。

現在この二つの組織は仲が悪い、なぜなら国は評議院が力をつけることを恐れているし、評議院は魔法使いというエリート意識から非魔法使い達を軽んじる傾向にあるからだ。互いを目障りだと思っている組織同士が今回の一件をきっかけにぶつかることは少なくとも評議院は避けるはず……今回の一件のすべてが評議員の汚点であるため、評議員は不利な勝負は挑まない、強引な裁判からも彼らの焦りが見えてくる。

 

「私としてはこのような閉ざされた裁判ではなく公正な裁きによって、事実を明らかにしていってくれることを願っています」

 

 そもそもこの裁判は事実の上書きを狙ったものだ。反論が立てられない出来レースで結果を出し他の陣営の声を黙らせよるのが目的だ。しかしこの状況ではそれは望めない。ならばどういった手を打ってくるのかいくつかの候補が考えられる。しかしそのどれも意味のないものだ。

 

「君は一体何がしたいんだい?いたずらに事件を引っかき回して、エルザ・スカーレットの処罰についてもこちらとしては穏便に済ませようとしていたのだぞ。ここまで事態を大きくしてしまってはそれもできない」

 

「……エルザを助けたいだけですけど」

 

 理由は本当にこの一言に尽きる。そんなことを確認してくるのは予想外だ一体何の意図があってこんなことを聞いてきたのだろうか。

 

「まあ確かにこいつの意図したとおりエルザ・スカーレットに今、裁きを下すことはできなくなったな」

 

 ジークレインがやれやれと首を振りながらそうこぼした。

 

「――どういうことだ?こんな奴、早急につまみ出してエルザ・スカーレットを裁けばよい」

 

「はあ?そんなインテリみたいな格好していて脳みそは詰まっていないのか、こいつを相手にしているだけ時間の無駄なんだよ。すでに事態はこいつの手を離れている。もうこいつをどうしようが国は今回の事件を捜査するだろうよ」

 

 そう、侯爵が国を動かした瞬間から俺の手には負えない状態になってしまった。最悪の予想はここで二大組織が互いを敵と認識して争い内乱状態になることだったが、評議院は一応冷静な対応をする気らしい。

 

「会議の時も言ったが、妖精の尻尾(フェアリー・テイル)はララバイを奪還の立役者だ。死人が出なかったから、犯人に対する捜査よりも復興の方に世論の意識が向いているが到底ごまかせるような事じゃないんだよ」

 

「そうだなここら辺が潮時だろう。あわよくば評議院の名に傷を付けぬよう収束させたかったが仕方ない」

 

「落としどころはどうしますかな」「会見でも開かせて辞任も視野に入れてもらいましょ」「新聞社には私の方から掛け合いましょう。何人か顔の利く者が知り合いにいましてね」

 

 評議員達が一人を除いて次々と騒ぎ出した。ジークレインや他三人ほどは最初からエルザへ責任を押しつけることに反対だったのか積極的に動いてくれている。

 

「ど、どういうことだ。もしやワシにすべての責任をとらせるつもりか!!今まで魔法界のために貢献してきたのを忘れたわけでは――」

 

 一人だけ大声を出しているこの老人に誰も意識をむけない。最初は自分もこの立場だったのか思うと冷や汗が出てくる。今までの自分の立場突然なくなり、それに伴って付随していた権力も消滅する。権力というのは人につくのではなく役割に対して付く力である。それを理解せず自分の物と思っていた力が消えたこの男は無様にわめくことしかできない。とりあえず目標を達成したな――。

 

油断したのがいけなかったのか後ろから破壊音が空気を震わせる。すわ敵襲かと振り向けば、見知った顔の女が口から火を噴きながら会場に突入した。

 

「俺が鎧の魔道士だ――そいつは偽物だ!!文句があるなら俺に言いやがれ」

 

もう嫌だ……この乱入者の招待に心当たりがある。しかしこの馬鹿は変装の意味を知っているのか。姿はエルザでも声と振る舞いから誰かが魔法で変身しているのが一目でわかる。そもそも<<俺>>って言っちゃってる時点でエルザに似せようとする気ゼロだろう。目に両手で覆い何も見えなくする……私は何も見ていない。

 

「な、何事かね」「――あら」「ブ、アッハハハッハ」

 

 侵入者は扉を吹き飛ばしただけでは飽き足らず、椅子や止めよとした検束魔道士を蹴散らしながら評議員の眼前まで迫ってくる。木の柱は崩れ、法廷には似つかわしくない怒号と悲鳴が上がる――そんないかれた侵入者よりも俺としては、隣で震えていらっしゃるエルザ様の方が怖い。

 

「おまえらの言う罪ってのはギルドマスターの命よりも大切なんだろうな」

 

 偽エルザが評議員に啖呵を切る……実にうらやましい俺にはそんな度胸はない。こんな風に後先考えず無謀な挑戦は俺にはできない。

 

 上にいる奴らも大笑いする奴や怒りに打ち震える者、キョトンとしたまま現実を見られず無言の奴、今までこの場を埋め尽くしていた重圧がすべて吹き飛んでしまった。侵入者が暴れたせいで法廷も妖精の尻尾(フェアリー・テイル)の大食堂と同じような有様になってしまった――つまりは大惨事ということだ。。

 

「ふ……二人を牢屋へ」

 

 体を震わせながら一言だけ口から漏らす。すみませんと頭を下げるエルザの顔にはここに入ってきた時の敵意は感じられず。ただただ申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にすることしかしない。その横でドヤ顔決めている同じ顔の女にきつめの説教を是非してほしい。

 

 最終的には何だかなーと思わせられる終幕であった。

 




 ララバイって原作でもかなり強力な武器だと思うんですよね。強者勢には効かなさそうですけど危険性はかなりの者だと思います。そんな危険物が盗まれたことをもみ消した評議員。






いろいろ考察できますね。

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