おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

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 お気に入り登録ありがとうございます。年末って何でこんなに忙しいんでしょう。


時間が解決してくれる

評議院第八支部。普段ならクエスト依頼やが受付がいる程度のこの支部が職員が右へ左へ人が行き交う修羅場へと変貌していた。待合室には開封作業も進んでいない荷物が乱雑に積まれており、歩くのにも苦労する有様である。普段は平和なこの支部がこんなことになってしまったのには理由がある。それは……

 

「この書類は全部没だ書式が違うし、表が見にくすぎだ。すぐ書き直させろ!!予算案の再検討は済んでいるのか、朝一番に見せるように言っていたんだがまだ届いていないぞ。全く目の回る忙しさっていうのはこのことだな。」

 

 評議院の第十席ジークレインがそこにいた。魔法界のトップがこの小さな支部に一体何の用があるのか。わからない彼は奥の会議室を丸々一つ自分のものとし、どこから持ってきたのかわからない高級そうな椅子に座り仕事を行っていた。この男ほどの権力者ともとなれば部下の数もそれなりにいる、にもかかわらず彼は部下を派遣せず自らここで仕事を取り仕切っている。現場にいつもはいない上司が一番忙しいときに来るとかどう考えても邪魔にしかならない。ハザマは今までの依頼のなかにもこのようなことがあり、実はおまえら暇なんじゃないかと常々胸の中で考えている。

 

「いや悪いな、この三日間はここに泊まりこみなんだ。突然仕事が増えたからと言って今までの仕事がなくなるわけじゃない。だからこの有様ってわけでな悪く思わないでくれ」

 

 周囲に山積みにされた書類の束を手に取りながら芝居がかった動きで話しかけるジークレイン。彼が話しかけた相手は顔が腫れ上がったハザマであった。何回か打ち合わせをしたときはこのような事にはなっていなかったところを見るに、このけがはクヌギ駅の修復中もしくは修復後につけられたものだろうとジークレインは推測した。

 

「ところでその顔のけがについて聞いても」

 

「聞かないでください……」

 

 目線を下にそらしながら不幸のどん底にいるかのような表情のハザマ。気のせいかジメジメした泥のようなオーラすらまき散らしている。

 

「そうか――なら手短にいくか。報告書の通りならクヌギ駅の復興はほぼ完了したと受け取っても良さそうだな」

 

 手渡された書類に目を通しながらもう片方の手でサインし続けている。

 

「まだまだ完了にはほど遠いと思います。修復できたのは線路と駅舎と周囲に建物のみ、周りの民家や商店を戻すには人手が必要です」

 

 ハザマ達が行ったのはクヌギ駅の周辺の主要建物と線路の修復のみである。そもそも依頼にあったのが駅機能の修復であり、期限もギリギリであっため作業をいったん終了して報告に来ている。壊れたモノをそのまま残して帰ってくるのは気になったがそういう契約なら仕方ない。

 

「おいおい、お前や派遣した錬成魔法が使える魔道士は人手不足だ。同じところに長い期間拘束することはできない。これからは魔法を使わない復興で十分だと判断した」

 

 魔道士と一口にいっても使える魔法は個々人によって様々である。大体が特異とする依頼の種類があり、それに適した魔法を使える魔道士達が集まりギルドとなる。そのため妖精の尻尾(フェアリー・テイル)のように依頼を選ばないギルドは数が少ない。

 だがその中に修理や治療を専門としたギルドは存在しない。回復魔法を使えるものは医者として認められておらず、あくまで応急手当というくくりになる。そのため戦闘系の大手ギルドにほとんどが所属しておりその数は全くといって足りていない。回復魔法の使い手そのものが希少であり、ポーションやその他の魔道具は総じてかなりの時間と金額がかかる。時間を気にしないのならば魔法を使わず修理するのは間違った選択ではない。

 

「私が派遣された理由は鉄の森(アイゼンヴァルド)が犯した罪を魔道士として償うことだと考えていたのですが」

 

 現に周辺住民のハザマ達に対する印象は最悪であった。『自分たちの町を滅茶苦茶にした犯人と同類の者の手など借りてたまるか』という声が住人達から多く聞こえた。最初は駅周辺に立ち入ることすらままならず、目の前に崩壊した町があるにも関わらず手を出すことができないもどかしさを噛みしめることしかできなかった。

 

「確かにそういう側面もあったな。魔道士の不始末は魔道士が解決する実に立派な心がけだ。だがそれをすれば俺たちのメンツはどうなる。魔女狩りや異能排斥の歴史はお前も知ってるだろ」

 

 その昔、魔法を使う魔道士は魔法を使えない非魔道士に迫害されていた。評議院とはそんな魔道士を非魔道士から守るために作られた面がある。過去の評議員の中には必ず非魔道士が名を連ねていた。非魔道士の中にも魔道士との共存を訴えた人たちがいたのだ。時は流れ魔道士が社会に溶け込めるようになり百年ほどがたち、今では魔道士は国に対抗できるだけの力が付いた。魔法なしでは社会が成り立たなくまるほどだ。だが非魔道士の争いの傷跡は互いの間に確かに存在し互いに違うと認識していることが浮き彫りになる。

 

「…………」

 

「他に言うことがないのなら退出してくれ。見ての通り仕事に潰されていてね、余計なことをしている暇はない」

 

 部屋からハザマを退出させ一人になったジークレインは報告書に目を通す。この報告書は鉄道会社が作成したものだ。数十枚の紙にはびっしりとチェック項目ありそのすべてに完了の印がつけられていた。魔法の常識として同じモノを傷つけるのと直すのには消費魔力に大きな差がある。マグノリア鉄道が指定してきたクエスト内容を期限内に達成するとはジークレインもおそらく依頼を出してきたマグノリア鉄道も全く考えていなかった……だが現実に依頼は完遂された。

 

(あの短時間でこのクエストを完璧に終えるとはやはりお前は計画に邪魔だな――ハザマ)

 

 思案にふけるジークレインの手元の書類には深いしわが刻まれていた。

 

 

◇◇◇

 

 ふぃー疲れた。評議院の支部から出てきた俺はさっきまでの息のつまりを払拭するために大きく深呼吸する……それにしてもわざわざ直接報告することまで指定してくるとは役所仕事というか融通が利かないといくか。全く勘弁してほしい。

――イテテ、深呼吸した際腫れた頬を動かしてしまったらしく思わず顔がゆがむ。仕方なかったんだ。あの後、酒場から飛び出した俺は持てるすべての技術を使って逃げようとした。追いかけてきたのは普段は問題児ばかりだがその力は折り紙付き、撹乱に放った式神もあっという間に潰され元々身体能力に大きく劣る俺はあっという間に捕獲されてしまった。ボコボコになった俺をミラの待つギルドまで連行する仲間たち。その扱いはどこから持ってきたのかわからない棒に両手両足を縛り上げ、まるで今から料理されるブタを調理場に運ぶかのようだった――二度と味わいたくない。

 

 ギルドに連れ戻された俺はミラの前に放り投げられる。今回の件非は俺にあるのだろうか。いきなり眠りの魔法をかけられ倒れた先で、そばにいた女性を押し倒しその胸をわしづかみにした俺……。

――お客様の中に優秀な弁護士の方はいらっしゃいませんかぁぁぁぁ!!落ち着け人に頼る前にまずは自分でなんとかする方法を考えなくては……………ミラさんのご機嫌をとって許してもらうしかない!!

被害者はミラジェーン・ストラトス俺が知っている彼女はすぐに手が出るタイプの男勝りな女性で、その戦闘スタイルは荒々しいものでその被害は甚大なモノだった。その影響が今のナツ二人分よりも大きかったといえばどれほどのものかわかっていただけるだろう。しかしある事件がきっかけで彼女は魔道士としての活動を休止する。それからは今までの傍若無人ぶりが嘘のように優しく美しい妖精の尻尾《フェアリー・テイル》の看板娘として魔道士としてよりも有名になった。今ではグラビア写真集の表紙を飾っている彼女が元S級魔道士だと知っている人はほとんどいないだろう。だがその性格はS級時代から何一つ変わっていないと俺は睨んでいる。根拠は関知できる魔力や普段のたたずまい等がミラ現役の時と何一つ変わっていない。コンビを組み妖精の尻尾《フェアリー・テイル》の中でも一緒にいる時間が長かったからわかったことだ。むしろ魔力の質や安定感は今の方が増している気さえする。つまり何が言いたいかと言うと…………俺死んだわ。

頬につけられた痣は取り押さえられる際、野郎どもにつけられたものだ。あいつら『うらやましいんだよ。こんちくしょう』とか『――シネ』とか言いながら人を足蹴にしてくるからなミラの前に引きずり出された時にはボロボロで前もろくに見えなかった。

 だが体の傷よりも今から行われる処刑のことばかり考えていた俺は体をガクガクと震わせ今にも漏らしそうな有様だった。(あくまで漏らしそうであり漏らしてはいない……決してない)

 

「大変血が出ているじゃない……」

 

 頬から流れている血をハンカチで拭う。このとき何をされるのかもわからなかった俺は目からボロボロと流しそうになっていた。(あくまで流しそうであり流してはいない……決してない)

 

「そんなに怖がらなくてもいいわよ。ハザマがわざとこんなことできる人じゃないってことは私がよく知っているから。ほら鼻水が出てるわよ」

 

 鼻を布で擦られる感触がする。俺の意識はここで途切れているおそらく日頃の疲れがここで限界を迎えたのだろう。(恐怖のあまり気絶した可能性はなきにしもあらず)

 

 

その後ギルドの床で目が覚めた。窓から見える空は星空で腹の減り具合からかなり遅い時間だと推測できる。普段の喧騒からかこの場所の静けさに違和感しか感じない。あたりを見回すと誰もいないと思われた酒場の一カ所だけ明かりがともっていた。

 

(……こんな時間まで誰かのこっているのか?)

 

 普段なら軽い酒盛りが終わったら皆自分の家へと帰っていく。ここは酒場の形をしているが本来の役割はあくまでギルドだ。普通の酒場のように夜遅くまで営業していることはあまりない。というか皆が皆飲むだけで配膳やら料理やらをする奴が少ないことも原因だろう。

 

「ようやく目が覚めたか。まったくお前さんも間が悪いというか無謀というか……」

 

 カウンターに座っていたのはマスターだった。いつもなら夕方にでもなれば帰るのにこんな夜遅くまでなぜ……。

 

「流石に気絶した仲間を置いて帰るわけにもいかんじゃろ。元はといえばミストガンの魔法が原因じゃしな。まあそれにしても胸をもんだのはお前じゃがな」

 

 それを言われると俺は何も言えない。あのできることならマスターの方からミラにどうすれば許してもらえるか聞いてもらえませんかね。いや決して直接話すのが怖いとかそういうのじゃないから。ほらあっちも俺の顔なんて見たくないでしょうし。

 

「わしから言ったところで何も変わらんぞ。強いて言うなら落ち着いたらしっかりと詫びをいれるんじゃな」

 

 お詫びと言われても何をしたら良いのか……。真っ先に思いついたのがプレゼントを贈るというものだったのだが、果たして女性の胸をもんでしまった時に適切なプレゼントとは一体なんだろう。胸を守るプレートアーマーでも贈れば良いのか……間違いなく殴られるな。

 マスターに何を贈るべきか聞こうとするもマスターは俺が目覚めたのを見届けるとさっさと帰ってしまった。え、俺ギルドの鍵持ってないんですけど。

 

 

 

 

 その後は朝が来るのを待ってから報告のためここまで足を運んだのであった。つまり何一つ解決せずここにいる。ここまで回想して一つ気づいた事がある。それは偉大なるマスターの言葉の中にある。『()()()()()()しっかりと詫びをいれるんじゃな』さすがはマスターお互いに冷静じゃないこの状況なら時間を置くのが一番の解決策だと言いたいのだろう。だが、このまま何もせず家に帰り時が過ぎるのを待つというのはあまりにも外聞が悪すぎる。ちょうどやり残してきた仕事もあるし、次に向かう目的地が決まった俺は最最寄り駅に足を向けるのであった。

 




 
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