「ただいま帰った。
馬鹿でかい角を担いだ細身の女性がいた。甲冑を身に着けたその姿から容姿とは裏腹にその力が尋常なものではないことを窺わせる。彼女の名前はエルザ・スカーレット。妖精の尻尾でも数少ないS級魔導士の一人であり
「お帰り!!総長は定例会よ」
帰ってきたエルザを出迎えたのはミラジェーンだった。迎えの言葉にはぬくもりがありなぜか俺に鳥肌が立つ。こう猛獣が笑顔でいる恐怖的な?
担いでいた角を床に置く。ズシンと建物が少し揺れその角が見た目通りの重さであったことが証明された――本当に人間か?あと捕まれた腕の力が強くなって痛いんですけどミラさん。
「……エルザさん……そ、その馬鹿でかいのはなんですか?」
「む?これか。これはだな」
エルザの一番近くにいた男がギルドを代表して尋ねる。エルザはその実力からまだ若いにも関わらずギルドの内でも一目置かれている。強い奴には敬意を払う、魔導士に年功序列制度はないのである。懐かしき日本の文化が恋しい今日この頃。
「討伐した魔物の角に、地元の物が装飾を施してくれてな、綺麗だったので土産としてもらってきたのだが……迷惑か?」
「い……いえ、そんことありません」
本音を言うのであればそんな大きなオブジェをギルドのどこに設置しても邪魔にしかならなのだが、それを口に出す度胸のあるやつは一人もおらず皆一様に目をそらしている。文句でもいって彼女の機嫌を損ねては大変だからな。
まあ、エルザは少々?いや、かなり押しが強いが根は悪い奴ではないので問題を起こすことはない。それどころかこのギルドの風紀を取り締まっているのはエルザである。なので静かにしていたら基本的に無害な奴だ……実に素晴らしい。
「それよりお前たち、また問題ばかり起こしているようだな。総長が許しても私は許さんぞ」
ギルドのメンバーが一斉に居住いを正す。――逆に問題を起こすような奴らには容赦がないということになる。
「カナ・・・なんという格好で飲んでいる。ビジター、踊りなら外でやれ。ワカバ、吸い殻が落ちているぞ、ナブ・・・相変わらず依頼板クエストボードの前をウロウロしているのか?邪魔になるからさっさと選べ。・・・まあ今日のところはこの辺りにしておこう」
踊りよりも目立つ雄々しきオブジェを背に、一通りの説教をしたエルザは一息ついた。
指摘された面々は慌てて取り繕っている。キャラが濃いフェアリーテイルのメンバー達が大人しく注意に従っているのを見るとスッとする。本当にエルザさんにはずっとギルドにいてこいつらを管理してほしいものだ。
「ところで、ナツとグレイはいるか?」
「あい」
キリッとした動作でハッピーが酒場の奥に手をやる。するとそこには……。
「「や、やあエルザ……オレたち今日も仲良……よく……や、やってるぜぃ」あ゛い」
目をきょどらせながらナツとグレイが互いに肩を組みながら返事をする。いつも喧嘩ばかりしている二人がまるで親友のように……うん、見えないな。
「ナツもグレイもエルザが怖いのよ」
「――ええっ‼」
ミラさんが新入りに説明している。――俺はあなたが怖いです。そして腕をはなしてほしいです。
「ちなみにナツは勝負に負けて、グレイは裸でいるところをボコボコのされたのよ」
「うわー……」
ナツの喧嘩は見ることができなかったがグレイのはすごかった。空中で八コンボ決められていた。セクハラの罪は重いのだ、服を着る余裕がないくらいにボロボロにされていたからな……グレイが。
「二人とも仲が良さそうでよかった」
満足そうにうなずいた。エルザさんあなたは二人がかいている尋常じゃない量の汗が見えないのですか?
「実はナツ、グレイ、そしてハザマ三人頼みたいことがある。ついてきてほしい」
ファッ!!――今フェアリーテイルきっての武闘派の中に混じってはいけない名前が聞こえたんですが。ですが‼。
エルザが放った一言はギルドを無音にする十分すぎる威力があった。だってそうだろうあのバカでかい角を持つ魔物を一人で討伐できるような奴が助力を求める。ということはいったいどんな化け物を相手にするつもりだ。皆、固唾をのんで聞きにはいる。
「詳しくは明日移動中に話す。準備しておいてくれ」
それだけ言い残すとエルザはギルドの奥へと行ってしまった。
「エルザ一人だけでも気が重いってのになんでこのバカも一緒なんだよ」
「ありえないだろこのメンバー、さぼりてー」
アハハハ、帰ってきたと思ったらまた依頼なんでこんなに仕事ばっかりやらなくちゃいけないんだよ。最近クエストボード見てねエもん、報告したと同時に緊急クエストみたくわりこんでくる。ふざけてやがる。宿屋かセーブポイント位行かせろや。
俺は膝から崩れ落ちると、そのまま目の前が真暗になっていった。
気が付いたら駅にいた。何故かクエスト用の装備一式を身に着け、売店でマジックポーション(レッド・ブルー)を買っていた。上が赤色で下が青色のポーションを不機嫌そうなおばちゃんの目が速く受けてと言っている。慌てて受け取り売店から離れるながら味を我慢して飲み込む。それにしてもこの色合い前世なら間違いなく買わない代物だよな――それよりも。
怖い自分が怖い、夢遊病のようにクエストに行こうとするなど病名はわからないがどう考えても病気だろう。……俺、このクエストが終わったら部屋の大掃除するんだ。
さて、未来への抱負を胸に刻みテンションを無理やり上げる。うっすらと残る記憶から、このマグノリア駅が集合地点であるはずだ。他のメンバーはどこだろうと周辺を見渡すと、右手の方から騒がしい聞きなれた声が聞こえた。――さあ、お仕事だ。(ゲッソリ)
◇◇◇
「助っ人は俺一人で十分だからお前は返れ」
「冗談じゃねえ、エルザの言うこと無視して無事ですむわけねえだろ!!」
周囲の迷惑を顧みず大声で互いをけなしあうのは私と同じフェアリーテイルのメンバーであるナツとグレイである。なんで誘われてもいないのにエルザさんが指定した集合場所に来ているかというと……。
(確かにあのメンバーだったらどんなクエストでも達成しちゃうと思うけどナツとグレイが連携出来ないと思うのよね。ハザマはともかくエルザはソロクエストばっかりだし、だからルーシィあのメンバーのサポートしてくれない?」
(いやいやいや……新人の私が入らなくてもハザマさんが頑張ればいいと思うんですけど)
(ああ、ハザマには無理よ。押しに弱いからすぐに流されるわ、だからお願い。ね。)
ミラさんスマイルは女の私が見ほれるほどに綺麗だった。お色気の値段が1000Jだった私との違いは何なのだろうか、ハア、ミラさんから頼まれたとはいえこの二人の仲を取り持てというのは新人には少々酷ではないだろうか。それよりも膝から崩れ落ちたその人を軽々と支えているミラさん――見かけによらず力持ちですね。
ミラさんに押しが弱いと太鼓判を押されるハザマさんとはいったい。
「でも、あの人も変なひとみたいだからなぁ」
「エルザはまだ来てないのか」
「わっ!!」
後ろから急に声をかけられ変な声が出た。それも相手にかなり失礼なことを考えていたときに、嘘……もしかして私声に出してた!?
「はじめまして、新人のルーシィです。この二人の付き添いできました。よろしくお願いします」
元気のいいあいさつでさっきの独り言をうやむやにする。聞かれてたかなぁと内心冷や汗を流していたが、どうやら聞こえていなかったらしく相手も自己紹介をしてきた。
「……どうも俺はハザマ、この二人の付き添いなんて大変なのに――頑張って!!」
なんか励まされた。
「すまない……またせたか?」
大きな荷物をもったエルザさんの到着。アタッシュケースを荷車にのせ、貴女は今から引っ越しでもするのですかというような荷物の量である。
エルザさんにも自己紹介をした。するとナツともう一人今回の依頼を受けるにあたって条件を提示してきた。
「このクエストが終わったら俺と勝負しろ――あの時とは違うんだ」
「わたしも自信はないが…いいだろう受けて立つ」
「俺も頼みがある」
そういったのは私の隣にいたハザマさんだった。
◇◇◇
俺は考えた……どうすれば依頼を受けなくてもいいか。来る日も来る日もクエストとギルドを行ったり来たり、RPGではそれが普通かもしれないがこちらは生きた人間なのである。たまには一日中部屋の模様替えをしたっていいじゃない。のんびり旅行したっていいじゃない。とにかくクエスト以外のことがしたい――なのでギルドには近づかない。
「今回のクエスト、どんなものかは知らないが今回は報告は俺抜きで行ってくれ」
魔導士には依頼を達成した後ギルドに報告する義務がある。これは評議会が定めたルールであり通常の場合参加したメンバー全員で報告した後ギルドから仲介料天引きされた分を報酬として支払われる。しかし今回の依頼はエルザが同じギルドのメンバーに行っている。これにより、一般のクエストとは異なり、評議会を通じず直接の依頼である。つまり義務を少しサボってもバレなければ怒られることがないのである。いつもなら風紀委員長様であるエルザはこのような怠慢は決して許さない。しかし、ナツの頼みを聞いといてしかも自分が協力を要請したクエストという条件が重なることにより計画が通りやすくなっている。名付けて強制イベントには近づかない大作戦。
「?…そのくらいならば別に構わないが?」
突如しゃがみ込みガッツポーズをしだした俺から距離をとるルーシィちゃん。確実に変な人だと思われてるけど気にしない(大嘘)。