おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

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 お気に入り登録等ありがとうございます。今回オリジナル要素強めです。苦手な方はご了承ください。


もう一体の怪物

 大地を揺るがす轟音がジャングルに響きわたり鳥たちは留まっていた木から飛び立った。まさかデリオラが復活したのか?慌てて空を見上げ太陽の位置を確認する。太陽は海岸線に沈みそうだがまだ月の光がこの島に降り注いではいない封印が解かれるには突然すぎだ。

 

「――なに!!何の音!!」

 

 地鳴りに文字通り飛び上がって驚いたルーシィはパニックを起こしながらあたりを見回す。

 

「――大変だよ。遺跡が傾いちゃってる!!」

 

 上空からハッピーの声が聞こえる。遺跡が傾いている?となれば今の衝撃は遺跡を支えていた柱でも壊れた音か?

 ハッピーの案内で遺跡を目視できる場所に向かう。木々の間からは確かにピラミッド型の遺跡がその巨体を大きく傾けている姿を見ることができた。何をどうすればあんな風になるんだよ。

 

「ちょっとーなによあれ!!」

 

「どういうことだ?なぜ遺跡が傾いている?」

 

 地震もないのに遺跡が傾く訳がない。それに最初に遺跡に入ったとき中の様子は歴史を感じさせるものであったが、頑丈そうでちょっとやそっとで壊れるとは思えなかった。となれば何か原因があったはずだ。

 

「……ナツだな」

 

「なぜ分かる?」

 

 エルザは鋭い目つきをこちらに向けてくる。決めつけるのは早計だと言いたいのだろう。だが事は単純な消去法だ。

 

「今この場にいないのであの遺跡を破壊することでメリットがあるのはナツだけだからな」

 

 もしかしたらリオン達との戦闘の余波が及ぼした偶然かもしれないが、結果的に遺跡地下の洞窟に設置されたデリオラに月の雫(ムーンドリップ)を当てることはできなくなった。

 

「ハザマ、悪いが式神を一体頼めるか。魔力に余裕がないのは知ってるが……まてハザマはどこに行った」

 

 エルザがハザマに呼びかけるが返事は帰ってこなかった。ジャングルの中を走っている時は確かに一番後ろを走っていたはずだ。こういうとき黙っていなくなくなるような奴じゃないのは分かっている。

 

「おいおいまさか迷子じゃねえよな。この大事なときに――」

 

 時間は俺たちの味方じゃねえ。遺跡は傾いたが何らかの方法でデリオラに月の雫(ムーンドリップ)を当てられたら絶対氷結(アイスドシェル)が溶けてしまう。何よりもまずはデリオラの復活を止めなければならない。だがハザマも心配だ。島民が悪魔に変わるような状況だ何が起こっても不思議じゃない。二手に分かれることも考えたがリオン達がどのくらいの戦力なのか分からないのに分散して事に当たるのはリスクが伴う。

 

「――不味いな。囲まれている」

 

 エルザが警戒の声を上げ周囲の木々が風音ではないざわめきを立てる。

 

「見つけたぞ妖精の尻尾(フェアリー・テイル)お前達に零帝様の邪魔はさせない!!」

 

 ジャングルの奥からフードをかぶった男達がワラワラと出てくる。こいつらはリオンの手下達、最悪のタイミングで見つかっちまった。

 

「うわ、なんなのよこいつら」

 

「換装――天輪の鎧」

 

 疑問を挟まない問答無用の攻撃。周囲に浮かべた剣群を巧みに操り、俺たちを取り囲もうとしていたフードの男達に宙に浮かんだ剣達が襲いかかる。

 

「「――ぐわぁぁ!!!!」」

 

「行け――ハザマのことは私達がなんとかする。お前はリオンとの決着を付けてこい」

 

「――――」

 

 エルザが作った道を全速力で駆ける。目指すはリオンのいる遺跡だ。ハザマの事はエルザを信じて任せるしかない。こうなったら仕方ない俺は俺のやるべき事をする。それがあのときウルに助けられた俺の責任だ。

 

 

◇◇◇

 

 グレイの過去の話を聞きながらジャングルを走っていたはずなのに気がつけば見知らぬ場所に立っていた。突然の出来事に現状の把握ができない。ここはどこだ?何が起きた?目に写るのは土の壁、ジャングルのムシムシとした空気から一転して、鼻が取り込んだ空気はほこりっぽい。おそらくここは閉ざされた空なのだろう。いや天井には大きな穴が開いている所を見ると洞穴といった方が正確か。

 遭難してしまった場合、まず現在位置をどうにか把握する事から始めるべきだ。自分がどこにいるかまったく分からない場合は動き回って体力を消耗するより安全な場所で待機し動かず救助を待つ事が基本だ。

 だが今の状況はそれに当てはまらない。記憶にない場所にいるというのはこれまで何回か経験した事があるが、気絶もせずそれが起こったというのは初めてだ。夢の中という可能性を考えて手のひらをつねると普通に痛いし赤くなった。幻覚魔法か転移魔法かどんな絡繰りかは知らないが、相手は相当腕が立つと見た。

 

「現実逃避するのは汝の勝手だが、招かれたものとして最低限の礼儀というものがあるのではないか?」

 

 後ろから声がするだが振り向いてはならぬ。目の前にひたすら集中するのだ。洞穴の壁は普通の壁だ。俺に使える魔法にはこの洞穴を掘り進めるような魔法はない。式神による人海戦術は俺の魔力的に無理だ。ナツ達がいたのなら崩落覚悟で一発……いや、ないな。

 

「久々の戯れが汝のようなものになろうとは……緊急事態故にこの島の人間ではないものを頼るというのは我も本意ではないが、時は一刻を争う。汝としてもあの害悪が復活するのは避けたいのではないか?」

 

 となれば脱出の方法は天井にあいた穴からということになる。チラリと見た限りでは念糸で十分届く範囲だろう。だがこの場所がどこか分からないと

 

「この場所に招いたのは我だ。平時ならともかく封印が弱まった今、目の前にいる汝の無礼を罰することにためらいはない。無事にここからでたいのならそれ相応の振る舞いをしろ」

 

 閉ざされたはずの洞穴に突然突風が吹き荒れる。後方から吹き出すそれになすすべもなく俺は壁と衝突する。肌をこする岩肌は間違いなくそのものでここが現実であることに疑いはなくなった。

 

「――ハブシュ」

 

 いい加減現実から目をそらせるのはやめよう。瞬きの間に移動した場所でチラリと見えたあるものそれと目を合わせないためにずっと壁を見続けていた……いくぞ、せーのでふりむくぞせーの!!

 

「ようやくまともに話ができるか。本来なら言葉を聞くことすら許されない立場なのだ。感涙にむせべ」

 

 振り向いた先に鎮座していたのは巨大な蛾であった。

 

 

 

 

 見間違いというか見たものを信じたくなかった。必死に目の前のモノに頭の中であれこれ解釈をこさえたが端的に表現すると蛾であった。

 それも普通のサイズの蛾ではない俺の体の二倍は優に超えるでかさの蛾なのだ。虫が苦手という訳ではないがさすがにこのサイズの蛾をマジマジと見るのは気が引ける。しかしそう言っている場合でもない今の俺の状況を作り出したのは間違いなくこの蛾なのだ……意識をこいつに向ける必要がある。

 体長はおよそ三メートルくらいか、その倍以上の大きさの羽が六枚黄色の鱗粉で斑目模様が描かれている。顔は太い角が生えており眼は夜空のように黒く澄んでいる。胸の部分をもふもふとした白い体毛が覆っていた。だが最も目を引くのはそこではない――。

十本以上の柱がこの巨大な蛾を縫い止められているのだ。羽、顔、足、胸、胴、体の至る所を突き刺す柱によって身動きなど一つもできないだろうにその姿に何一つ安心感を得られない――無造作に磔にされているだけで漂う圧倒的な存在感。

 

「――ハァ、ハァ、ハァ」

 

 柱からでている結界は魔力とは違う壁で蛾と俺を隔てている。磔にして動けない者を檻に入れる。この結界を作った奴はよっぽどコレが怖かったのだろう。この結界がどれほどの技術と魔力を持って作られたのかは想像もできないがそいつが感じた恐怖に完全に同意する。この結界がなければ視界に入れただけで精神に深刻なダメージが入るだろう。

 目を合わせているだけで呑まれそうになる。呼吸を無理矢理行う落ち着け冷静になれ――呼吸とはこれほど意識をしなければ行えない動作だっただろうか。心臓の音がやけにうるさい。魔法を使おうとすれば殺される予感がする。

 

「そうだ。それでいい我も取って食うためにわざわざ汝を招いた訳ではないのだ。近頃の人間というのはどうも神に対して不敬が過ぎる……まともな会話もできないほどにな」

 

 気がつけば俺は地面に膝を押しつけ頭を下げていた。俗に言う跪くというやつだ。無意識にこの行動をとって気づいた。この体制は上位者の気配を薄めるためのものだ。頭を下げ目を伏せるのは相手を見ないため、膝をつくのは自分の行動の起点を封じ翻意がないことを示し相手の意識をそらすため。俺はこれが自分よりも上位の存在だと本能的に認めてしまっている。

 

「無礼をしてしまったのなら謝ります……しかし私は……森の中を仲間と共に歩いていたはずなのです。招いたとおっしゃっていましたが……貴方様が……私を?」

 

目を地面に向けたままなれない言葉遣いで話す。この態度が正しいのか間違っているのか分からない蛾に対する礼儀なんて今まで考えた事がない――どうすれば良いんだ!!

 

「その質問の答えは是だ。確かに我が汝を招いた。付け加えるなら汝が我にかけらも敬意を持たず恐怖心だけで跪いていることもな」

 

 流れでる汗が顎を伝い地面にしみをつくる。俺の心を読むことができるのか?確かに魔法の中にはそういった魔法も存在する。だが俺の魔法の性質上そういったものには敏感なはずなのだがいくら注意をこらしても魔法を使われた気配はない。魔法だとしたら俺よりも数段上、張り合おうとすることが間違いのレベルだ。

 口を開くことができない。自分の動きの何か一つでも不興を買えばこの存在に押しつぶされそうだ。

 視線が体に刺さる。見られている行為そのものが体の負荷になる。どれほど規格外なんだこいつは。

 

「ああ、意識を向けすぎたか。久しぶりの相対故に加減を忘れてしまったようだ。何度も言うが我に汝を害する意図はない。ただ令を下すために汝を招いたのだ」

 

 圧が弱まり脳に血が通い出す。招いたというより連れ去られたといった方がこの場合当てはまるんだが抗議の声なんて上げられるはずもない。この短い対面でこいつに逆らう意思は打ち砕かれている。逃げることも考えたがここが普通の場所ではないことは明らかで情けないとは思うが俺にできることと言えば唯々諾々と従うことくらいだろう。

 

「名を名乗れ招かれし者よ……」

 

 人の名前を聞くときは……と減らず口が頭を横切るが慌ててその思考を閉め出す。アレは人の考えを何らかの方法で察知している。余計な考えは自分の首を絞めることになる。

 

「――妖精の尻尾(フェアリー・テイル)のハザマと申します」

 

 聞かれた事だけ答える。思考が読まれるなら直感と反射のみで応対すれば多少ましになるの……のか?いやでも考えないって事はこの状況を打破する方法も思いつかないというわけで……どうしろと。

 

「名前を預かったこれでお前とも縁がつながった。お前にしてほしいことというのは我の封印を壊してほしいのだ」

 

 封印というのはおそらくあの柱だろう。見るからにあの蛾を閉じ込めている。体を貫かれ動くこともできない様相には同情を覚えるが果たしてそれを解除しても良いのだろうか?この蛾が封印されている理由も知らないのだ。この蛾の封印を解除した瞬間デリオラの復活とかいう可能性も当然ある。こんなのがこの島に出没するようになれば今度はこいつがS級クエストの原因になりかねない。リスクが高すぎる。

 

「ふむ……なにやら不信感を抱いているようだが。我の名を告げることはできぬが……島のものから我のことは聞いておらぬか?村の子の縁をかすかだが感じる。神域のあれを討伐するためにお前達二人を招いたのだろう?」

 

 二人?ナツ達はハッピーを含め四人だし俺とエルザの事か?この蛾はどうやら村とつながりがあるらしい。村人達がこの遺跡について口を閉ざしていたのはこいつの存在を知っていたからだろう。こいつの封印を作ったのが村人ならまんまとだまされたって訳だ。だが俺に黙っていた理由はなぜだ。こいつはデリオラと敵対しているみたいだがなぜこんなところで封印されている?

 

「恐れながら村人達から貴方様の話は聞き及んでおらず。封印といっても氷に閉ざされた悪魔位しか心当たりがなく何をすれば良いのか……」

 

「神域にあのようなもの本来ならば相応しくないのだが、役目を全うできない暴虐にも死ぬ権利はあるだろう。縁なきものでもない故にな今回ばかりは目を瞑っているがな。そもそも封印というのは神域を封じ、我をここに縛り付け月の光を遮り大地をそびえているものだ」

 

 まさかとは思いますが遺跡そのもののことをおっしゃっているのだろうかこの蛾様は……。いやいや無理だから直接見たわけじゃないからなんとも言えないがグレイ達の話を聞くに今にも崩れそうな廃墟というわけでもないだろう。いくらナツが修復依頼の原因ダントツトップとはいえそんな巨大な建造物を簡単に破壊できるとは思えない。

 

「何を危惧しているのかはあずかり知らぬが既に令は下された。封印は一部壊され後はそれを繰り返すだけだ。縁からして汝の仲間と思ったのだが――――忌々しい」

 

 突然蛾様を貫く柱が一本増えた。足を縫い止められた蛾様だったが何事もなかったようにこちらに語りかけてくる。

 

「不味いな封印が復活した。このままでは汝もここから出られなくなる」

 

 突然見知らぬ場所に連れてこられあげく帰れないとはこれ誘拐じゃないか?不味いぞ非常に不味い。あの蛾様が壊せない封印を俺ごときが解除魔法(ディスペル)できるような代物ではない…………。

 嫌だぁぁぁぁぁこんな怪獣みたいな蛾と一生共にしたくねぇぇぇぇぇ!!

 

「慌てるな。招いたときのようにはいかぬが汝は神域から出られる。だが忘れるな令は既に下された。汝が令に背いたとき汝の命は絶たれるだろう」

 

 知らぬまに俺の命が危機的状況に陥っていた。命令に従わなかったら命を落とすなんてたちの悪い呪いと変わらない。呪いを解きに来たのに呪いにかけられるとは……。

 

 我が身の不幸を嘆いていると突然体が浮遊感に包まれた。プカプカと上の大穴に向かって浮かんでいく俺の体。とっさに念糸で体を支えようとしたのだがまるで魂が抜け落ちていき意識が離れ何も考えられない。

 

「ゼレフ……汝の願いをかなえられる存在はまだ現れていないのか」

 

 言葉は人の耳には届かず静寂が場を支配した。

 




 
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