ジャングルを抜け遺跡までたどり着いた。リオンの手下であるフード達の足止めを任せたエルザ達は心配ないだろう。あれくらいの数ならエルザ一人でお釣りがくる。問題なのはハザマの奴だ突然姿を消した理由が分からない。本人の意思なのかリオンの仕業かそれ以外の原因か。
(……手がかりは何もねえ。俺にできることはリオンを倒してエルザたちと合流するのが一番確実だ)
遺跡内部では激しい戦闘音が鳴り響いている。音の発生源は氷に覆われた部屋だ。生み出された冷気に息が白くなる。
リオンの作った氷はナツの炎でも溶かす事のできない代物だ。普通なら壊すのは難しいだが俺は氷の造形魔道士だ。魔力を無理矢理流し込みリオンの氷の一部を俺の氷に変化させる。一部でも崩せたならそこから壊すことはたやすい。
「決着をつけにきたぞ……リオン」
「誰だぁ?」
「――ほぉう。懲りずにまた来たか」
やはりさっきまで戦っていたのはナツとリオンのようだ。人が戦っているのに横やりを指すのは流儀に反するが、こいつとのケジメは俺がつけなればならない。
「ナツ下がってくれ決着は俺がつける」
「何言ってんだてめえ。てめえは一回負けてんじゃねえか」
「安心しろこれで最後だ」
口から火を出しながらにらみつけていたナツを後ろに下がらせリオンの前に立つ。俺にリオンを責める資格はないのかもしれない。ウルが死んだのは俺の所為だ。俺がデリオラに挑まなければウルが氷になることもなかった。
だが仲間を傷つけ、村人を悪魔に変えデリオラを封じている氷を溶かそうとするお前だけはなんとしても止めなければならない。
「二人でかかってくるんじゃないのか?俺はそれでも構わんぞ。デリオラを倒す準備運動くらいにはなるだろうからな」
「いや俺とお前の一騎打ちだ。俺がしでかしたことのケジメはつけないといけねえ」
「ケジメだと。お前が……お前が何をしたところでウルは戻ってこない!!お前があの時デリオラに挑まなければウルは死ななかった。俺とウルが止めるのも聞かず忠告を無視してデリオラに挑んでのうのうと生き延びたお前が今さら――」
「だからこそ俺がお前を止める……一緒に
両の手のひらを天と地に向け交差させる。記憶に焼き付いているこの構えにリオンは驚きの表情を浮かべる。
「その構えは――
「今すぐ島の人達の姿を戻して仲間を連れてこの島から出て行け。これがお前に与える最後のチャンスだ」
「その魔法は脅しか……。下らんなそんなことで俺がひるむとでも?」
魔力を全力で放出する。
「――本気だ」
「ふざけるなよ……グオァァ!!」
「あれからどれだけ時間が経っても俺の所為でウルが死んだことに変わらねえ。どっかで責任をとらなきゃなんなかったんだ。その責任を今ここでとらせてもらう――死ぬ覚悟はできている」
「本気で撃てるのかお前に……」
壁際でうずくまるリオンに狙いを定める。外す可能性はゼロだ。
「選べ!!リオン。共に封じられるか生きるかだ」
思いとどまってほしい。デリオラの復活なんて事は絶対に止めなければならない。たとえリオンと共に氷に封じられたとしても。
「ハッやれよ――お前にそれが撃てるわけがない」
残念だ……俺にリオンを心変わりさせることはできなかった。だがこんな俺でもできる償いがある。無関係の島の人達をあんな姿に変えた上、デリオラの封印を解こうとしているリオンはなんとしても止める。そうでなければあの日命を賭してデリオラを封じたウルに顔向けできない。
「これで全て終わらせる。アイスド――」「だらっしゃぁー」
俺の顔に拳がめり込む。体ごと持っていかれる一撃は放つ直前の
「はぁふぅふぅはぁ」
俺を殴ったのはナツだった。魔力の塊に飛び込んできたナツも無事ではなく、体のところどころから血を流している。
「……ナツ」
「勝手にしゃしゃり出てきて何様だおめぇ。あいつとは俺が戦ってたんだ!!」
「俺が戦うっていっただろ!!」
「俺がわかったっていったか?アァン?」
なっそんな屁理屈を……。だがこれだけは譲ることはできない。
「あいつとの決着は俺がつけなきゃなんねえんだ――遊びじゃねえ死ぬ覚悟決めてここに来てんだよ!!」
ナツのマフラーをつかみ上げながら宣言する。絶対に引けねえ。あのとき生き残ったこの命はここで責任をとるために……。
――その言葉を聞いたナツはつかんでいる俺の腕をつかみあげるとデコをぶつけてきた。
「死ぬ覚悟だぁ何勘違いしてんだ。負けていい戦いがあるわけねえだろ。にげてんじゃねえ負けっぱなしでいるのが俺達か!!」
俺の右胸の紋章にナツつかんでいた腕を話すと肘を当てる。胸が打たれた衝撃に一瞬なにも考えられなくなった。ナツは一切目を揺らさず俺を見つめている。
突然響き渡る地響きに意識が覚醒する。
「――何だっ」
リオンの仕業かと思ったがあいつも知らなかったようで周囲を警戒していた。地響きはどんどん大きくなりそれと共に傾いていた床が水平になっていく。遺跡が持ち上げられている?そんな事ができる怪物に心当たりがある。
「どーなってんだよ!!」
まさかもうデリオラが復活したのか――!!
「いやいや失敬。そろそろ夕月が見える時間ですからな。もとに戻させていただきましたぞ。氷の様子から見てデリオラの復活は今夜でしょう。十年も眠りこけていたのです……睡眠時間としては十分でしょう早く起こしてしまわなければ」
「ザルディお前だったのか。こいつらの相手は俺がする」
「いえいえリオン様。流石に二対一は分が悪いと見えます。ここは微力ながら私と――」
「俺が苦労して柱をぶっ壊していったのに……お前!!どうやって戻したんだ」
「ほっほっほっ」
「どうやって戻したぁぁぁぁ」
怒り狂ったナツをまったく気にすることもなくこちらに目も向けない。
まさかあの仮面の男が遺跡の傾きを直したのか。これだけ巨大な建造物をわずかな時間で直せるとは計算が狂った。デリオラの復活は阻止できたと思ったが簡単に状況はひっくり返ってしまった。ザルディと呼ばれるこの男一体何者だ?
「さて私は|零帝様の命令に従いませんと……皆様ごきげんよう」
ナツの問いの一切を無視してザルディは走り去ってしまう。
「待てやコラァァァァァ!!」
「――ナツ!!」
口から炎を吹きながら追いかけるナツを呼び止める。さっきの一言で目が冷めた。俺が何か言う前に言葉が投げかけられる。
「俺はあのくそったれの仮面野郎をぶん殴る。そいつはお前に任せてやる。負けっぱなしじゃいらんねえだろ……言っておくがお前じゃねえぞ」
ああそうだ俺はリオンに負けただが、
「一人減ったかまさかあいつが
「リオン一つ聞きたい。なぜ俺に
「なに単純な話だ。たとえ氷漬けにされようともここは世界で唯一
「迂闊だった……
「切り札が使えなくなっても俺に挑むのか。実力差はハッキリしているのはお前が一番よく知って――」「もうやめよう!!」「何?」
「デリオラの復活を諦めるんだ」
こいつを止めるにはウルとの約束を破ることになるが
「何を言ってるんだ。お前ごときでの言葉で俺が止まると思っているのか。10年前ウルが死んでから俺の夢は閉ざされた。三年掛けて
「ウルが生きていると言ってもか……」
「…………」
俺が言った一言にリオンは言葉を失ったようだ。リオンの記憶ではウルは死んだ事になっているはずだ。だがウルは氷となって生きている。その氷を溶かしていた事実をリオンに伝えることはウルに止められていたが……リオンを止めるにはこれしかない。
「
腕組みをしたまま目を大きく見開くリオン――(あいつの事だ私が氷になったことを知れば、あいつは私を元に戻す方法を探し続けるだろう)
あの時ウルの禁書をリオンは途中までしか読んでおらず、ウルの最後を見てはいない。そのためあいつはウルと知らずに氷を溶かし続けていた。
「今まで黙っていたことは悪かった……だがウルに口止めされていたんだ」
「……クハ、アッハッハッハッハ」
「――何がおかしい!!」
リオンの笑い声が氷の部屋にこだまする。驚きの表情はその顔には浮かんでおらず目に手を当てながら狂ったように嗤い続けた。
「
至近距離で放たれる氷の剣。腹を突き刺す冷気がその殺意を俺に伝わり、腹に満ちた血が口から吐きでる。
「この島に来る前からそんな事は十分に分かっている。何も知らずデリオラに挑んだお前と違ってな。あの氷は邪魔なんだよ!!何をしてもどんなことをしても俺は必ずウルを超える」
「……し、知って…たのか」
「ああ知っていた何ならお前よりも詳しいくらいだ。あの魔法は造形魔法の一種と言うより変身魔法と封印魔法の複合魔法であることも、術者自身を魔方陣の触媒としていることも当然知っている」
「知ってて……デリオラの氷を溶か…して、グッ、グハァ」
体からマグマのような熱が湧き出てくる。
「その傷だもう動けはしないだろうが念には念を入れておかないとな。俺がウルを超える記念すべき日にお前が生きているのは興ざめだ」
リオンが俺を見下ろしている。俺を殺すつもりなのだろう剣で刺された腹からは血が流れていてこのままじゃ直に死ぬことになる。だがそんなものこの怒りに比べたら些末なことだ。
全身に力を込めて渾身の力でリオンの顔面に拳を叩き込む。完全に油断していたリオンは防御を固める間もなく手応えのある一撃の感触が腕に残る。
「――バカな!!その傷でなぜ動ける!!」
確かに体は万全とは言いがたい目はかすみつま先や足先の感覚は既になく満身創だろう。だけどな
「あんとき動けなかったんだ。死にかけてるくらいで俺が止まると思うなよ」
「あ??」
「アイスメイク――狩人(ハンター)」
手にもつは矢がつがえられた弓。三本の矢がリオンに向かって駆けていく。しかし直撃はせずリオンも造形魔法で壁を造る。しかし体勢を崩すことには成功した背中から地面に倒れ起き上がろうとしたリオンの顔を蹴りつける。
「ぐぁぁぁ!!」
攻撃の手は緩めない悲鳴を上げるリオンの体に容赦なく蹴りを放つ。今度は腕とそこに装備された氷によって阻まれる。だが接近戦では魔法を使うよりもそのまま殴った方が強い場合もある。|妖精の尻尾に入って学んだことだ。最強の魔法も使えなければなにもない。俺の攻撃にリオンは為す術もないとどめの頭突きを決めるもこれは決定打にならない
揺れる視界の中でリオンが立ち上がるのが見える。血が足りねえ……長期戦は不利だな。
「がっ、はぁはぁ……この俺が…グレイごときに倒されるなどあってはならんのだ!!アイスメイク――白竜(スノウドラゴン)」
頭突きの衝撃でリオンと距離ができてしまった。わずかなスキで造られた巨大な造形魔法の竜が俺に襲いかかる。
「ぐあぁぁぁッ」
造形魔法とも呼べない氷をまとわせただけの攻撃でどうにか白竜を砕く。
「無駄なあがきはやめろ!!俺の相手はお前だけじゃないんだ」
リオンも大分消耗しているようで、荒い呼吸で体を震わせながら立っている。リオンの造形魔法を食らって一つ気づいたことがある。不意打ちが成功したことを加味してもリオンの造形魔法は威力が弱い。死にかけの俺がまだくたばっていないのがその証拠だ。
「させ……るか……よ。はぁはぁ」
「今さらお前が何をしてももう遅い。たとえ俺を殺したとしてもデリオラは復活する……必ずな」
「はっそれはねえな」
「死にかけのお前に何ができる?ザルディが今頃
「俺じゃねえよ。あのいけ好かない仮面野郎なんかにナツが負けるかって話だ」
息少しを整える。デリオラの事はナツに任せたとはいえ、ここで伸びたままリオンを行かせる訳にはいかない。さっきの柱が戻ったときの揺れとは違いれ連続した震動が遺跡を震わせる。
「デリオラの氷が解け始めたようだな。もうすぐだ……もうすぐ俺はウルを超えられる。十年だ。十年掛けて
向かってくる氷の鳥たち自由自在に空を舞う鋭利な刃を全てかわすことはできない。ある程度体で受け周囲に集まったところを作り出した氷で弾き飛ばす。
「長い時間を掛けてやってきた事がこんなくだらねえ事なんてな」
「ウルが死んでから何もせず、ただギルドに入っていただけの奴が俺の十年を語るな!!」
「何もしてなかったわけじゃねえ。俺はウルの言葉を信じただけだ」
ウルが言った西には私よりも強い魔法使いはいくらでもいるという言葉。そいつらなら
じいさんには何か心当たりがありそうだったが、俺には教えてくれなかった。今にして思えばこの島のことをだったんだろうな。だが
「まさか兄弟子であるお前が、ウルを殺すようなことをしているなんて思わなかったがな」
「ウルを殺したのはお前だろう!!お前がデリオラに――そうか……お前は夢を叶えたからな!!デリオラは封じられた。そんなお前が俺を止めるだと!!どこまで、どこまで俺の邪魔をすれば気が――」
「俺は!!ウルが氷になって良かったと思ったことは一度もない!!ずっと後悔だけが俺を生かしてきた。ウルに助けられた命を自分勝手な理由で蔑ろにするわけには行かねぇ……ああそうだよ俺がウルを殺した。だから!!お前にウルを殺させねえ」
俺に突撃してきたリオンの右手から造られた氷狼が俺に襲いかかる。紙一重で躱した身体を無理矢理ひねり下段から造り出した氷の両手剣で奴を一閃する。手に残る感触に違和感を感じ切り裂いた体をよく見るとそれは氷で造り出された人形だった。
「アイスメイク――白虎(スノータイガー)」
巨大な氷の虎から振り下ろされた一撃。俺が今から回避しても間に合わないタイミングだ――なら活路はここしかねえ。両手を地面に叩き付け下から氷を造形する。
「――アイスメイク…牢獄(プリズン)」
地面に埋め込まれた檻の展開の勢いでそのまま上に昇る。一瞬俺の姿を見失った虎は柵へと衝突しその牙と爪で檻を壊そうとしている。
「貴様の造形魔法など簡単に壊して……」
いくら攻撃しても檻を砕くことはできず逆に自らの体を砕いていく獅子。ただ我武者羅に前に進もうとするその姿は今のリオンと重る。
「片手の造形魔法はバランスが悪くなりやすい。だから攻撃が軽くなる――ウルの教えだろ」
「――バッバカな!!」
両の手を合わせ氷を造形する。冷気と一体になり自分のイメージのまま魔力で氷の武器を形作る。
「アイスメイク…氷雪砲(アイスキャノン)」
「ぐぁぁぁぁっぁぁ!!」
両手に構えた大砲から発射される氷の砲弾。遺跡の壁を全て貫通し外にまで及んだ一撃をリオンはその体で受け止めた。
「ウルを超えてえなら俺に勝ってからにしろ」
「……グ、グレ…イ。ガハッ」
血を吐き気絶したリオンが立ち上がる様子はない。危なかった……腹の傷が思った以上に深い。さっさと凍らせときゃ良かったな。勝てたのはリオンが油断していたのも大きかった。俺の腹を刺してからあいつは俺を舐めきっていたあの様子ではデリオラに挑んでも死ぬだけだろう……少しはウルに恩を返せただろうか。
「オオオオオオオオオオオ!!」
忘れもしない忘れられない怒号が遺跡を揺らす。体が勝手に震えてくる。これは断じて武者震いなんかじゃねえ。恐怖の象徴厄災デリオラの咆吼だ。10年間氷漬けにされてもなんら堪えた様子のないその声を聞いた瞬間俺の意思は決まった。
やるしかねえ――
今回、何回絶対氷結と入力したことか……