おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

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氷の中の悪魔

 でかい蛾が鎮座する謎空間からはじき出された先は氷漬けにされた悪魔の目の前でした。危険地帯から避難できたと思ったのにまったくそんな事はなかった。さすがはS級クエスト命がいくつあっても足りない……家に帰りたい。

 愚痴を言っても仕方がない。目に飛び込んできたこれがグレイ達の言っていた災厄の悪魔デリオラか見ると聞くとは大違いというが本当だ。たった一体で国を滅ぼす力を持った悪魔。その姿は想像よりもはるかに恐ろしく、これが生きて動いている姿なんか想像しただけで最悪だ。

 その上モンスター蛾にこの遺跡をぶっ壊せとかいう訳の分からん命令までされている。きっと俺の今日の星占いは最下位なのだろう。

 

「いっそこのまま海に沈めたら全部解決したりしないかな」

 

 ありもしない妄言を口にしたら答える声があった。ここには俺一人だけだと思っていたがそうではなかったようだ。

 

「それは困りますな。デリオラを移動させてこの島に連れてくるのにはとても苦労しましたのでね」

 

 ふり返ると怪しい仮面を付けた男が立っていた。万に一つの味方である可能性を考えてみたがデリオラを移動させたとか言ってる時点で敵なのは確定してしまった。俺は武闘派達とは違って立っているだけで相手の力量が分かるとかいう特殊能力はないので是非とも穏便にここから去っていただけないだろうか。

 

「こんな化け物を復活させたところで良いことは何にもないと思うけどな。一人の魔道士が命を賭けて封じたんだ。それをわざわざこんな島にまで来て……もっと他にやることがあるだろ」

 

 先手必勝、手のひらから念糸をだして仮面男に巻き付けようとするも、猿のような身のこなしですべての糸を回避される。

 

「糸を使った魔法ですかリオン様の手下にも同じような魔法を使う人がいましたが、私を直接狙ってきたところを見るとその人とは違う魔法のようですね」

 

 相手の話を聞く必要も手を抜く理由もない。出来がいいとは言えない俺型の式神を五体作り一斉に念糸を放つ。囲まれたら流石にかわしようがないはずだ。しかし現実はそううまくいかない突然足元の地面が崩れ、バランスを崩す本体の俺がすっころんでいるんだ同じように転んだ分身たちは紙に戻ってしまう。今のあいつの魔法か?土使いの魔道士ならこの場所はホームグラウンドのようなものだ……不味い。

 

「見たことない形態の魔法ですね。いやはやまさかロストマジックの使い手がこうも集まるとは」

 

ロストマジック?なんだそれは。そんなかっこよさげなカテゴリに俺が入れられるとは……。話の流れ的にこいつもそうなのだろうがろくな話じゃないだろう。

 

「私の魔法しかり、火竜(サラマンダー)くんの滅竜魔法(ドラゴスレイヤー)、あなたのあらゆるものを治す修復術。その強力さと副作用から歴史から抹消された魔法のことですよ」

 

「見ぃつぅけぇたぁぞぉぉぉ」

 

 ――ナツ!!上から降ってきたナツが仮面の男に突撃していった。全身に炎をまとった攻撃は男に当たらなかったが吹き飛ばされた地面から見るにくらったら無事では済まないだろう。

 

「いきなり攻撃とはずいぶんな挨拶ですな少々見くびっていたよう……遺跡で撒いたと思っていたのですがどうしてここがお分かりに?」

 

「俺は鼻が利くんだよ!!ちなみにお前からは女物の香水のにおいがする。それよりもハザマなんでおめぇがここにいんだよ!!」

 

「エルザに連れられてな」

 

「マジかぁー」

 

 エルザのことを聞くナツは絶望に包まれた。ドンマイあの怒りはちょっとやそっとでおさまるとは思えない。グレイの時も怒りに飲まれて剣を突き立てていたからな骨は拾ってやるから安心して怒られろ。

 それにしてもこの男女物の香水の匂い。まさかこの男女装趣味なのか、いや例え日常から仮面をかぶるような男でも趣味は人ぞれぞれ……どう見ても通報される不審者です弁護のしようがございません。

 

「それはそれは魔法以外にそんな特技があったとは予想外でした」

 

「悪いが二対一だ卑怯だなんて言うなよ」

 

 怪しい不審者はとっとと牢屋にぶち込むに限る。ナツと二人で戦うなら俺はサポートに専念した方が良い。本気のナツの勢いは妖精の尻尾(フェアリー・テイル)の中でも上位に入る。

 

「おまえが下にいるってことは上で儀式をするやつはいねえ。俺たちとグレイがお前らをぶっ飛ばして終わりだ」

 

「ほっほっほっほ。私がここにいるからデリオラが復活しないと決めつけるのは早計ですぞ」

 

「――何だとぉ?」

 

 目線でデリオラを見るように促す仮面の男自信満々のその声色が気になってデリオラの方へ目を向ける。洞穴の上から降り注ぐ()()()()()その光が当たった部分から徐々にデリオラの氷が溶けていく。

 

「誰かが上で儀式をやっている……あの犬やろうか!!」

 

 ナツには心当たりがあるようだがこの洞穴にいては遺跡の屋上で儀式をしている男を止めることはできない。突然この場所に跳ばされた俺に屋上への道はわからないナツに案内してもらわなければたどり着けないだろう。

 

「一人で行う儀式では十分な威力を発揮することはできませんが、実はデリオラの封印はもう解ける寸前なのです。後は少しのきっかけさせあれば……」

 

 溶けるスピードが尋常じゃねえ。さっきまで全く溶ける様子を見せなかった絶対氷結(アイスドシェル)がまるで熱せられたバターのように溶け出している。時間がないとにかく上の儀式をなんとかして月の雫(ムーンドリップ)を止めないと。

 

「どうりゃぁぁ!!」

 

 燃え上がる拳で仮面の男に殴りかかるナツ。まずいナツは炎の魔道士だ。あいつが魔法を使えばそれだけデリオラの氷が溶けるスピードを速めてしまう。

 

「おや?いいのですか。こんな状態のデリオラの前で炎の魔法を使えばデリオラの解放を早めるだけですよ」

 

 ナツは関係ないとばかりに炎をまとわせた攻撃を繰り出し勢いを一切緩めない。溶けていくデリオラの氷が見えていないのか。

 

「炎くらいでとけたらテメェらも苦労しねぇだろ。さっさとおまえをぶっ飛ばして次に上のやつをぶん殴ればいい」

 

「ほほう、ただ無鉄砲なお方だと思っていましたが。なかなかどうして戦いの場で何をすべきなのかわかっていらっしゃる。あちらの方はそうお考えではないようですが」

 

 ナツが仮面の男を押さえている間に俺が月の雫(ムーンドリップ)をなんとかするしかない……だが状況は最悪だ。

修復術で氷を修復しようにも焼け石に水で全然足りない。光線の元を絶つため念糸で上に登ろうと岩壁に念糸を突き刺す。だが月の光に当たった念糸は解けて消えてしてしまい頂上まで登ることはできない。下から天穴を開いて吸い込もうとしたが光線である月の雫《ムーンドリップ》は吸い込まれず氷はとけ続けている。

 

――その時遺跡全体を揺るがす怒号に耳を塞ぐ。

 

「グオオオォォ!!」

 

「きた。ついに復活した」

 

「マジかよ」「なんだよ……こんなのどうすればいいんだよ」

 

 こいつ本当に十年氷漬けにされてたのかこいつは……仮面の男は復活したと言ったがまだ氷は残っているどうやら完全に復活しらわけではなく分厚い氷の中から声げ響いているようだ。

 

「ナツ時間がない。こいつをさっさと倒してみんなと合流するぞ!!」

 

「こちらもあなた方に構っていられなくなりました。少し本気を出させていただきますぞ」

 

 どこに持っていたのか仮面の男は水晶玉を自由自在に操り。大道芸として町中で披露されれば思わず足を止めてしまいそうな妙技でも自分に向かって飛んでくるなると話は別だ。

 

「――危なっ!!」

 

「洒落せえ」

 

 ナツは飛来する水晶を拳で打ち砕いた。あの速度で飛んでくる玉を狙って殴れるなんてあいつの反射神経と動体視力はどうなっているんだ。

 だが砕けたはずの水晶は破片が集まりまた元の姿に戻り、ナツの無防備な腹にめり込み体をくの字に曲げる。

 

「ウグァ」

 

はぁ?なんだアレは……新しい水晶を魔法で生み出したとかだったらわかる。グレイの造形魔法やそれ以外の錬成魔法のように生み出す魔法なら分かる。だがあの水晶は巻き戻されたかのように元に戻ったどちらかといえば俺の修復魔法に近い魔法か?

 

「また直しやがった」

 

 ナツは自分で迎撃できていたが俺はそうはいかない。空中を駆ける水晶に全身を殴打された半端なくいてえ。

 

「グハッ、ゲボッ水晶って武器にもなるんだな。水晶には嫌な思い出しかない」

 

「それはそれはおかわいそうに同情しますぞ。そんなに不思議そうな顔をして……種明かしとしましょうか。私は物体の時を操ることができるのです。水晶の時を戻せばご覧の通り」

 

 言葉通りに飛行する水晶玉はさっきと変わらず洞穴の中を飛び回っている。見た感じあの水晶に特別魔力は感じないあいつの言葉通りただの水晶玉で再生するような力はなさそうだ。

 

「時?ありえねえ」

 

「私の使う時のアークなら可能なのですよ。次は水晶の時間を加速させてみましょう」

 

 飛び回っていた水晶が視界から消え風を裂きながら飛ぶ水晶の音が変わる。

 

「はっ?」

 

 さっきまでは辛うじて残像をとらえることができていたのだが、それすらも叶わなくなってしまう。

 

「うわぁぁぁ」

 

 全身に襲いかかる強烈な打撃だが何もせず終わるわけにはいかない。狙って当てる事ができないなら待ち伏せればいい。念糸を四方八方にばらまいてクモの巣のように張り巡らせる。当然水晶は避けようと飛行するが全ての糸をかわすことはできない。絡みついた糸が一本から二本三本と増えていきその数が数十本に達したとき水晶の動きが止まった。

 

「――砕けろ!!」

 

絡みついた糸を締め上げる。一本では止められなかった水晶だが何本もの糸をより合わせる事で硬い水晶を粉々にする。

 

「ほう……お見事です。ではコレはどうですかな?」

 

指の間から小さな水晶を四つ左右の手からそれぞれ取り出し空中に浮かべた。……不味い念糸の目は付け焼き刃のせいもあってそれほど細くない。さっきの水晶なら捕らえることができたがこの小さい水晶では簡単に網の目をくぐり抜けてしまうだろう。おまけにさっき砕いた水晶も動画の逆再生のように球体に戻り奴の周りを浮遊している。

 

「だけどお前のその魔法人間には効かねえみたいだな」

 

 ナツの指摘に仮面の男は隠す様子もなく肯定した。

 

「おや?鋭いですね。正確には生物の時間は操作できません……だからこそウルが姿を変えたデリオラの氷も溶かせなかったのですが」

 

 生物の時間を操れないというなら俺達の時間を進めて老人にしたり逆に若返らせて子供にするといったことはできないのか。だが無生物の時間を好きに操れるとだけでも十分に脅威的だ。さっき食らった突然できた穴も恐らく地面の時間だけを加速させて作ったのだろう。

 

「それでお前らの目的は何なんだよ。こいつを復活させてリオンとか言うのがそれを倒す。「リオンとかいうのはそれでいいかも知んねえが、他の奴らは何でこんなことに協力してんだよ」

 

 確かにデリオラによってもたらされた被害は十年のときを経てもまだ残っている。そんな怪物をわざわざ復活させ倒そうとするような危険人物が何人もいるとは思えない。

 

「さあ私は最近仲間になってもので、皆さんのことをよく知っている訳ではないのですよ」

 

「じゃお前ので良いよ。お前リオンがデリオラに勝つと思ってないだろ」

 

「いやはや本当に鋭いまさか見破られるとは思いませんでしたな。零帝さまは気づかれなかったのですが……あなたのおっしゃる通りデリオラはあんな小僧ごときに倒せるような怪物ではない」

 

 は?リオンがデリオラを倒せないと思ってるんだったらなんで復活させようとしてるんだ?こんなのが暴れたら自分の身だって危ないだろ。

 

「お前が戦うのか?お前もそんなに強そうには見えねえけどな」

 

「いやいやとんでもないただ私が欲しいのは力そのものですよ。圧倒的な力……いかにデリオラが不死の怪物でも操るすべはあるものです。それを手中に収めたいと思うことはそんなに変な事ですかな」

 

 聞き捨てならない言葉が仮面の男が口にした。

 

「お前デリオラを使()()つもりなのか?こんな化け物を用意して戦争でも起こすきかよ」

 

 笑みをたたえた仮面の男は言葉を落とす。

 

「戦争?そんな小さなものじゃございませんよ」

 

 戦争よりももっとやばいことだと……人類の敵にでもなるつもりなのか例えば人が大勢いる都市部にでもデリオラを移動させるだけで大勢の人が死ぬことになる考えればきりがない。最悪の未来を想像しているとナツの声が思考を中断させる。

 

「――つまんねーな」

 

「ほうつまらないとはいったいどういう?」

 

「俺はてっきりもっと…こう、燃える理由があってだな……」

 

 煮え切らないといった表情のナツはあきれて言葉がでないようだ。なんでこいつはがっかりしてるんだデリオラを復活させる燃える理由ってなんだよ。デリオラを復活させようとしているこいつも理解できないが仲間であるナツのことも理解できなかった。

 

「あなたには分かりませんか。力が必用な時が必ずくるということが」

 

「そん時はこんな化け物の力なんて頼らず自分と仲間を信じる。妖精の尻尾(フェアリー・テイル)の力をな!!」

 

 こいつの考えは理解できないがその言葉には完全に同意だ。妖精の尻尾(おれたち)はどんなことにもそうやって立ち向かってきた。こいつの想像する未来に一体何が起こるのかは知らないが。

 

「こいつは大勢の人を殺した怪物だ。封印から解き放てばまた同じ事が起きるそんな事は絶対にさせない」

 

「貴方たちが信じる者など圧倒的な力の前では無力なのです。そろそろ終わらせますか天井よ時を加速し朽ち果てろ」

 

「無力かどうかはてめえ自身に教えてやんよ――合わせろハザマ!!」

 

「――おう!!」

 

 両手両足から吹き出した炎をブースターに仮面の男目がけてかっ飛んでいく。

 

「すさまじい速度ですな……ですが真正面からでは対応もたやすい」

 

 礫の弾幕がナツ目がけて降り注ぐ。だがナツはひるむことなく宙を翔け、大きく膨らませた右手の炎で礫を全てかき消した。だがこのままでは落ちてくる天井に潰されぺちゃんこだ。炎が起こした煙に紛れてナツの姿が隠れる。ここからは俺の仕事だ落ちてくる天井を念糸で支え崩れる天井が糸によって吊り上げられパズルを組み上げるようにもとあった場所に戻っていく。あいつの魔法が時間を操っているのならそれ以上の速度で修復すれば奴の魔法を無力化できた確証のない作戦だったがうまくいって良かった。

 

「――天井が落ちてこない」

 

 上を見上げた仮面の男の隙を見逃すナツじゃない。土埃の中から飛び出てると一瞬で浮かぶ石の群れの内側へ。

 

「そんないつ来るかもわからない未来よりもてめえは明日の自分の心配でもしてろ!!――火竜の鉄拳(かりゅうのてっけん)!!」

 

「きゃあああああぁぁぁっ!!」

 

 仮面の男は体を回転させながら洞窟の壁に叩き付けられた。すごい吹っ飛んだなこれであいつの邪魔もなくなった。だが安心してはいられないこうしている間にもデリオラの封印している氷はとけ続けている。

 

「おいっナツ急ぐぞ!!とりあえず上に行っ……」

 

「オオオオオオオオオオオ」

 

 怪物を閉じ込めていた氷が完全に溶けていた。今までこの怪物を封じていた氷の姿はそこになく地面にできた大量の水が残っているのみ――厄災デリオラは解放された。

 

 

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