おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

25 / 29
今回は短めです。すみません


崩れ落ちる氷と悪魔

「――デリオラ」

 ついにデリオラの氷の封印が解けてしまった。地上に蘇った悪魔は牙をとがらせ咆吼を上げるように口を大きく開けながら俺達を見下ろしている。

洞窟の奥からグレイがやってきた。壁伝いに歩いてくるその体には血がにじんでおり無事とは言い難い。万全の状態であっても勝てるとは思えない敵、心強い仲間がきたものの単に犠牲者が増えたようにしか思えない。できることならそのまま引き返して欲しいんだが……そうはならないよな。

 

「グレイ来たのか」

 

「ナツ……ハザマ」

 

はぐれたときよりも傷だらけになっているグレイあいつも相当苦労したみたいだな。仮面の男をどうにかぶっとばしたというのにラスボスが復活してしまった。ナツがぶん殴ったあいつを確保しようとあたりを探してみても影も形も見えない。もしかしてあいつ逃げたのか。デリオラは蘇り、仮面の男には逃げられる試合に勝って勝負に負けたというのはこういうことを言うのだろうか。

 

「こうなったら俺たちであいつを倒すしかない。手伝えグレイ!!」

 

 ナツはこの怪物を倒す気か?正気を疑う言葉だが確かにこいつが俺たちを逃がしてくれるとは思えない。せめてもの抵抗だちっぽけな人間にも命は譲ってやれない。折れていない仲間がいるというのはこんなにも心強いものだな。覚悟を決めたところで視野が広がったのか今まで目に入らなかったものが認識できたグレイの後ろに誰かいる……見たことない奴だあいつは誰だ?

 

「お前らには無理だ……デリオラは俺が……ウルを……この俺が……」

 

 地面を這いずる一人の男、その血走った眼はとても正気とは言えずデリオラのみを見ている。こいつが通ったであろう地面には血の跡が続いている。傷だらけの体でここまで来たようだ。今すぐ治療しないと命に関わるような傷だ。なんでたってそんな体でここにいるんたんだよ。あいつを助けるにはひとまずデリオラから離してからじゃないと巻き込まれるぞ。チクショウ!!ただでさえ絶体絶命なのにあらに余分なミッションが増えやがった。

 

「リオン!!」

 

 このボロボロのけが人がグレイの兄弟子で今回の事件を引き起こしたリオンか。満身創痍のその体でデリオラに挑むその姿はとてもまともとは言いがたい。そんな体になって今更何ができるというんだ。この期に及んでまだデリオラに挑む気なのかその執念は常軌を逸している。とはいえいくら狂っているとはいえ見捨てるのは目覚めが悪い。どうにかしないと……。

 

「もう無理だろ。おとなしくしとけよ」

 

 止めようとしたナツの言葉も耳に入らないのかただひたすらにデリオラだけを見つめ横たわった体を持ち上げるる。無理矢理縛り付けたいのは山々だが、こいつを縛り付けるとなるとデリオラが動き出したときに対処できなくなってしまう……どうする。

 

「ウルが勝てなかった……唯一の怪物……お前を倒して俺は……俺は……ウルを()()()

 

 大きく開かれた目がデリオラを映す。魔力なんてかけらも感じないような状態にもかかわらず戦おうとするリオンは、俺には彼が声にならない悲痛な叫びを上げているように見えた。

 

「……もう良いんだリオン。お前がしでかした不始末は俺が償う。いや、俺が犯した過ちだな……すまない」

 

 息も絶え絶えで立っている事がやっとなリオンの首にグレイが手刀を当てる。地面に崩れ落ちたリオンに立ち上がる様子はもうない。とっくに限界はこえていたんだろう無理もない。俺を除いて全員が重傷だ。こんな状況でデリオラを倒すことなどできるわけがない俺にしても空元気でいる自覚がある。しかしそう思っていない奴もいた……グレイだ。あいつは両手を交差させて呪文発動の構えをとる。

 

「――絶対氷結(アイスドシェル)

 

「――やめろグレイあの氷を溶かすのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!!お前が氷になったところで無駄なんだよ俺は諦めない。必ずお前を溶かして再びデリオラに挑む!!必ずだ!!」

 

 崩れ落ちたリオンだが意識は保っていたようだ――まて絶対氷結(アイスドシェ)だと。そいつはグレイの師匠が体を氷に変えた魔法のはずだ。まさか……自分を犠牲にしてデリオラを封じる気か!!そんな事絶対にさせない。仲間を犠牲にして生き残ってなんになる。誰かを見捨てて生きていけるほど俺は強くない。グレイの周囲を魔力の壁が生み出されていく――なんとかして止めようとするも念糸は全て弾かれてしまう何か方法はないか。

――必死に周囲に目をやるとグレイに背を向けデリオラの前に立つナツの姿が見えた。不味い!!あの距離では絶対氷結(アイスドシェル)にナツも巻き込まれてしまう。

 

「止めろグレイ!!」

 

 俺の叫びは届かない。構えを崩す様子もなくグレイはナツに吠える。叩き付けられた怒号は仲間に向けられたものとは思えない程に敵意にあふれている。

 

「邪魔だ!!お前も巻き込まれるぞナツ!!」

 

 だがグレイの声をナツはそんな事を気にするそぶりもなく宣言する。静かなその言葉は不思議と周囲によく響いた。

 

「――俺はあいつと戦う」

 

 デリオラに喧嘩をうるなんてまともな神経ではないが、グレイが氷になる事に比べたら百倍ましだ。それに四字熟語には先手必勝という言葉もある。意外と挑みかかったほうが生存できる可能性は高いのかもしれない。これは愚か者選択だ。だが心を覆っていた恐怖はどこかへ去った。

――ナツの決意が俺を動かす。俺もグレイの前に立ちデリオラを見据える。さっき仮面の男にきった啖呵をもう実行に移すことになるとは思いもしなかったが、けれど人生なんてそんなもんだろう。何が起こるか分からないから今を必死に生きるしかない。我ながら考えなしで行き会ったりばったりだあきれるしかない。

 

「死んで欲しくないからあのとき止めたのに俺の声は届かなかったみたいだな」

 

「お前が犠牲になって生き残って俺たちが喜ぶとでも思ってんのかよ!!馬鹿にするのもいい加減にしろ。そんな事させるためにここまで追いかけてきてお前の体を治したわけじゃねえんだよ!!」

 

「ナツ……ハザマ」

 

 一瞬ふり返ったナツは深い失望を浮かべていた。普段はいがみ合っている二人だが同じギルドの仲間だ。死にそうな仲間がいたら止めようとするのは当然のことでそこに迷いはない。考えたらイラついてきたぞ。どうせこのままじゃ死ぬだけだ破れかぶれでも全力であがいてやる。

 

「ナツ一撃に全てを込めろ合図したら一直線に突っ込め。お前が拳を叩き込むまでの道は俺がつくってやる」

 

「ああ任せたハザマ」

 

 今まで動きを見せなかったデリオラがとうとう動き出す。右腕を高々と振り上げ俺たちを叩き潰す気なのだろう。デリオラは怪物と呼ぶにふさわしい姿をしている。だがその体の部位は人間と同じで手足と胴体でできている。ならば人間と同じように間接の可動域に限界があるんじゃないか。俺の念糸で奴の動きを封じられるとは到底思えない。だが奴自身の力なら奴の体を壊すことができるんじゃないか。確証も自信もないだが俺が奴の動きをとめるとしたらそれしかない。

 

「――俺たちはお前なんかに絶望しない!!」

 

 賭けに勝てるチャンスは一瞬だけ奴が攻撃を振り下ろす瞬間。そのタイミングで念糸を繋げる。上げているだけではダメだ。力の向きを変えられたら簡単に引きちぎられる。振り下ろしている最中ではダメだ。動いている対象に設置した念糸の強度は著しく下がってしまう。狙うのは静から動にうつる刹那の間合いそこに念糸を()()()()。限界まで引き絞られた糸のような極限の集中状態、デリオラの腕以外が意識から消え、暗闇の中腕のみが浮かび上がる。だが俺が念糸を放つことはなかった。デリオラが動かなかったのだ。振り上げた拳は振り下ろされることなく制止している。見上げる俺達の前でそれは始まった。

 

 ――デリオラが崩壊するその様が……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。