マグノリアに戻ってきた俺達はまっすぐギルドに向かっていた。クエスト報告の義務を果たすためだ。評議会を通さないいわゆる身内が依頼者のクエストなのでサボろうと思えばサボれるのだがまったくウチの委員長様は本当に真面目である。
まあ今回はそれだけではないのだが……初めてのS級クエストの達成の興奮から船を降りでずっと騒がしいナを先頭に軽い足取りで歩きなれた道を進んでいく。
「帰ってきたぞぉぉ!!」
なんでこいつはこんなに元気なんだろう。S級クエストなんかバカ高い報酬とそれに見合った難易度でとても疲れる依頼なのにまったく堪えた様子がない。それに加えてこいつには帰ったらマスターから今回の落とし前が言い渡されるはずだ。帰ることにプラスの要素が全くないのに……俺なんか早く荷物を下ろして横になりたくて仕方が無いが、その元気だけは羨ましく感じる。
「帰ったらお前達のお仕置きが決まるんだけどな」
「げぇせっかく忘れていたのに」
いや忘れんなよ。おまえらが無断でS級クエストなんかに行ったせいで、自己責任が原則の魔道士が同じクエストを後から受けるなんて異常事態になったんだからな。これ評議会への言い訳とかどうするんだろうか。下手しなくても管理責任問題でまたお叱りの言葉でも受けるのではないだろうか。
「まあ依頼人が
マスターは甘いからな。そこがウチのギルドの良いところなんだが、そのしわ寄せがどこにきているかは考えないようにしよう。エルザの言ったとおり一応問題は解決できて依頼人も満足しているんだ。誰にも迷惑を掛けていないから、なんだかんだトイレ掃除くらいの罰で落ち着くんじゃないか。
「おいおいもしかしてアレやらされるんじゃねえか!!」
「イヤダーおいらあれだけはイヤダー!!」
「ちょっとアレって何よ!!そんなに嫌な事が待ち受けているの!!」
その場にうずくまってこの世のような顔をするグレイとハッピーにおびえたルーシィが問いただす。
「ルーシィ心配すんな。じいちゃんならよくやったって褒めてくれって」
「どっからくるのかしらその自信」
ナツがルーシィを安心させようと笑顔で不安を解きほぐす。だがエルザの一言でその態度は一変した。
「いやおそらくアレは確定だろう。お前達もしっかり準備しておけよ」
動きを止めたナツの体からダラダラと冷や汗が吹き出る。ナツの突然の変化にルーシィはそんなにも恐ろしいことが待っているのかと悲鳴を上げた。
大声を上げて大袈裟だな。まあルールを破ってS級クエストに行ったんだ。それくらいの罰は甘んじて受けてもらおう。
町を歩いていると少し違和感を感じた。道行く人達が足早に同じ方向へと歩いて行く。そのどれもが不安そうでどうやら愉快なことではないらしい。
――
「――何だよこれっ」
「嘘だろ……」「あぁあああ」
「「俺達のギルドが!!」」
いくつもの巨大な鉄杭がギルドを貫き、表に掲げられていた
◇◇◇
破壊されたギルドの前で呆然としていると話しかけてくる人がいた。
「おうおまえら帰ってきたか。ひでえもんだよな」
「マカオ……」
「どういうことだよマカオ!!なんで俺達のギルドがこんなことになってんだよ!!」
「ファントムの奴らだ」
ボロボロになったギルド館の中に入り普段は使われることないギルドの地下に降りる。そこにはギルドのメンバー達がそろっていた。ここは普段、食料や魔道具の保管として使われているスペースだ。そこに急拵えで修理された机や空き樽に腰掛け目の前の惨状について話し合っていた。
「おぉーエルザ達が帰ってきたぞー」
「ナツとグレイも一緒だ。これでファントムの奴らに攻め込む準備はできたな」
「この借りはきっちり返してやるぜ」
よかった誰も怪我をしている人はいなかったみたい。上があんな状態になっていたので心配していたのだが無事だったみたいだ。
「よっお帰り!!」
「マスターS級クエスト悪魔の島ガルナ島を無断受注のナツ、ハッピー、ルーシィを止めに行ったにもかかわらず一緒にクエストを受注したグレイの四名の確保完了しました」
「エルザにハザマご苦労さん。まったくナツ、グレイ、ハッピー、ルーシィお前達四人は勝手にS級クエストなんぞに行きおってからにー!!」
「えっ?」「はっ?」
ギルトが破壊されたことに関してはノータッチ?私たちのことよりも、もっと大変なことが起きていると思うんだけど……。
「罰じゃ!!今からお前達に罰を与えるから覚悟せえ!!」
「それどころじゃねえだろ!!」
「とりゃ、とりゃ、とりゃ、とりゃあ!!」
「キャッ!!」
マスタの伸ばした手が私のお尻をなでた。思わず悲鳴を上げてしまった。他のみんなは頭にチョップだったのに……もしかして罰ってこのセクハラ?
「マスターふざけないでいただきたい。今がどんな状況か分かっているのですか?」
「ギルドが壊されてんだぞ!!」
「まあまあそんなに怒りなさんな。騒ぐほどのことでもないでだろうに」
私たちのギルドが壊されたにも関わらずそれが大したことじゃないみたいにお酒を飲んでヘラヘラと笑っているマスターが信じられない。
「――いや騒ぐことでしょうよ。俺達のギルドが壊されたんだぞこのまま黙ってなんかいられない」
後ろから怒鳴り声が聞こえ、今まで黙っていたハザマがマスターに詰め寄った。
「ハザマ放せ酒がこぼれる」
「マスターあなたは今回の件なあなあで済ませるんですか!!」
「この話はこれでしまいじゃ。上が直るまで仕事はここで取り仕切る。ハザマには修理を頼みたい。このギルドで一番お前さんが適役じゃからな」
「断る。あいにく予定が詰まってるんでね。それが終わったら喜んで修理でもなんでも言ってくれ」
ハザマは何をする気なのかしらハザマが修復魔法で直さなかったらギルドはいつまでもあのままでみんな困ると思うんだけど。
「今から
びっくりした。ハザマがそんな過激なことを言うなんて思って無かった。どちらかというとナツやエルザの二人が言いそうなのに。
「そうだなここまでこけにされて黙っていることなんてできない。私も行こう」
「それでこそ
ハザマの言葉にみんな立ち上がる。この場にいる誰もが自分たちのギルドを破壊されて黙っていられるような人はいなかった。
「いい加減にせんか!!ハザマ。お前達もじゃこれはギルドマスターとしての命令じゃ。破ったらどうなってもしらんぞ」
「罰が怖くて
マスターの言葉を無視しようとしていたハザマだったが、言い終わる前に巨大化したマスターの腕に虫みたいに叩き潰された。ピクピクとわずかに動いているところから生きてはいるみたいだけど……大丈夫なのかしら。
「年寄りにあまり体を動かせさせるなハザマ。お前達もこうなりたくなかったら今日のことは気にするな。黙ってファントムに突撃するなんて真似は言語道断じゃからな」
誰も何も言うことができなかった。評議会からの勧告書が届いたときも、気にせず自由にやれと言っていたマスターが有無言わさずに命令した。
「マスターハザマを気絶させちゃったら誰が滅茶苦茶になったギルドを直すんですか!!責任とってマスターが修理してくださいよね」
気絶したハザマを軽々と背負ったミラさんがちょっと怖い顔でマスターに詰め寄った。ミラさんやっぱり思ったより力あります?男の人をそんな背負って何でそんな動けるんですか
「えーとミラわしこのギルドのマスターなんじゃが……」
「だからなんですか。修理してください」
「……はい」
「まったく。私もハザマを寝かせてきたら手伝いますから」
頭をうなだれさせたマスターが肩を落として階段を登って行く。流石にマスターとミラだけに片付けを任せるわけにもいかない。ギルドを壊されてみんな悔しい。ファントムがなんでこんなことをしたのかは分からないけど、絶対にこのままじゃ終わらせない。ゾロゾロと階段を上がる私たちの気持ちは一つだった。
◇◇◇
目が覚めるとそこは硬いベットの上だった。はて、おれはどうして眠っているのだろう。回らない頭に少しずつ記憶が同期する。S級クエスト、帰る、ギルド、破壊、マスター、いくつかの記憶がフラッシュバックしようやく俺がベッドにいた理由がわかった。
「ああハザマ目が冷めたのねよかった」
ベッドの横で椅子に腰掛けたミラが安堵した顔でこちらを見下ろしていた。どうやら気絶した俺を心配してずっと見ていてくれたようだ。
「俺、どの位気絶してたんだ」
「六時間くらいかしら大丈夫?痛いところとかない?」
幸いにもマスターが手加減してくれたおかげで蚊のように叩き潰された俺だが怪我等はしていないようだ。そんな事よりも気になることがある。
「大丈夫だ。それより他のみんなはどうなった。あの後ファントムに攻めにいったりしたのか?」
あいつらを野放しにしておくのは許せない。どうやって復讐してやろうか。あいつらのギルドも同じように破壊してやれば少しはこのどす黒い感情も晴れるのではないか。あいつらが何かとウチのギルドにぶつかってくるのは昔からよくあった事だ。同じクエストにブッキングして横取りしたり、わざとウチが受けたクエストの妨害のクエストに何人もギルドメンバーを派遣したり、だが今回の事は今までの嫌がらせの範囲を大きく超えている。このまま放置していては相手はつけあがるだけだろう。そうなる前に――。
「落ち着いて、今のところはマスターがファントムに手を出すことは許さないって強権を発動させてみんなおとなしくしている。あのあと上の片付けは手分けして壊れた物は可能な限り集めて置いてあるわ。でもやっぱり建物はあの鉄杭が邪魔で修理できなかったの」
ミラが起き上がろうとした俺の肩を押さえてて再びベッドに横たわらせる。そうだギルドが壊されたんだよな。このままじゃいつ完全に倒壊してもおかしくはない。外から見ただけでも壁や屋根に巨大な鉄柱がうちこまれていた。引っこ抜くだけならマスターの
「ミラは許せるのか?俺達のギルドがあんな風にされて黙ってろって言うのか」
「そんなわけないじゃない。今からでもあいつらの所に乗り込んで一人残らずぶん殴りにいきたいわ。でもそうなったらめんどくさい評議院が出てくるでしょう」
なぜ評議院が出てくるのだと考えればそういえばギルド間の抗争は禁止されていたことを思い出した。たとえいかなる状況であっても宣戦布告は最初にした方が罰せられる。こんな風に建物を壊されてもまずは評議員に通報してそれから長い間の調査が間に入りたとえファントムの罪が認められたとしても、注意程度で済むのが過去の出来事から推測できる。だが、もし俺達が宣戦布告をしてしまった場合はどうだろうか。その場合評議院は検束魔道士を派遣し
「まあでもよく考えたら評議院が出てきても変わらないわね。殴る敵の数が増えるだけだし、どうするハザマ今からでも一緒にファントムのギルドにカチコミに行かない?」
うわぁ外面からは、わからなかったが相当にぶち切れていらっしゃる。発言が昔コンビを組んでいた時みたいに物騒になっている。口調も少し崩れているし体から放たれる魔力がゴゴゴと漫画に出てくるラスボスみたいに空気を震わせている。
ミラさんに対する恐怖で冷静さが戻ってくる。自分に向けられたわけでもないのにこの殺気、ここではいと返事したらマジでファントムに襲撃に行くことになる。今までの付き合いで間違いなくそうなるであろうことがわかった。
「いや遠慮しておきます。はい、僕も冷静になりましたんで……」
「なにその口調、ちょっとかなりムカってするんだけど」
「なんでもないですマム!!いつも通りですはい!!」
「直ってないし、でもそれだけ大声をだせるんだったら体は大丈夫そうね。もう夜も遅いし、ハザマも家に帰るでしょ途中まで一緒に帰りましょう」
ミラさんに連れられてギルドの地下から上の酒場へと上がる。ガルナ島から帰ってきた頃に比べると大分片付いているが、割れた皿や散乱した家具の破片が隅の方に固められおり屋根に開けられた穴から入る月明かりだけが破壊されたギルドを照らしている。
「ミラやっぱり家に帰るのはなしだわギルドをこのままにしてはおけない」
マスターに直談判していた時は見えていなかったギルドの有様を今こうして見ると、このままにしてはおけないという胸の痛みが俺を刻んだ。
「今から修復するの?明日になってみんなが集まってから一緒に直した方が早く片付くと思うけど」
「今から修復する。できることを早くはじめた方が早く直る。俺にできることを早めに終わらせばその分他のみんなの仕事を手伝える」
ミラに言ったのは建前で本当は俺が目の前の惨状を許容できないからだ。この分だとフルで式神を投入しても一夜の間には修復できないな。今から徹夜すれば明日の夜には修復できるだろう。そうと決まれば気合を入れなければ、俺はいつも常備している式神を全て実体化させたその数43体。これだけではとても足りないな一体は家の保管庫から式神を運ばせて最低でも百人体制でやらなければ朝までに終わらせることはできなさそうだ。
「そうなら私も手伝おうかしら。ハザマが何人いても壁に刺さった鉄柱を外せなさそうよね」
確かに俺ではあの鉄杭を外すことはできないだろう。式神で人数を増やせると言っても一体一体の身体能力は普通の人の域をでない。何人かでロープでも引っかけて引っ張ろうと思っていたがミラがいるのなら彼女に任せれば杭を引っこ抜くことくらい余裕でできるだろう。
「昼間もずっと片付けしていて疲れているだろう。俺のことは気にしなくていいから今日はもう寝た方が良い」
「あのねハザマギルドがこのままなのは許せないって思っているのはあなただけじゃないのよ。徹夜なんか一緒にクエストに行っていた頃はしょっちゅうだったでしょ。それにハザマが言った理屈からして私が手伝った方が早く修理できるでしょう」
見抜かれているあげくに自分の言葉がそのままブーメランになって返ってきた。
「……」
「ほらほら言い訳を考えるよりも手を動かしましょう」
ミラに促されて修復をはじめようとしたところ大慌てでギルドに走ってくる人影があった。
「――ハザマさん、ミラさん大変なんです公園でレビィちゃん達が……レビィちゃん達が!!」
尋常じゃない慌てようでレビィちゃん達が、レビィちゃん達がと繰り返す人物。よく見ればよくウチの酒場でレビィ達シャドウギアとよく話していた人だ。
「どうしたんだよ。こんな夜更けにレビィ達なら今日はギルドに来てないぞ」
大方ギルドの有様を見て心配になってウチに来たんだろうが、あいにく地下でもレビ達の姿は見かけなかった。大方
「違うんです。レビィちゃん達が公園で……つるされていて……」
最後に続く言葉を聞いて俺とミラはギルドを飛び出した。ギルドをこんな風にした奴らだ。その矛先が建物だけに向けられていたとなぜ錯覚していたんだ。
考えれば分かることだあいつらは俺達に戦争を仕掛けにきた。評議会が定めたくだらないルールをお行儀良く守るわけがない。最低でもギルドの惨状を知ったときにギルドメンバー全員と連絡を取るべきだった。俺なら式神を飛ばせばそれができたのに完全に俺の失策だ。
マグノリア公園に着くとレビィ、ジェット、ドロイの三人がボロボロの状態で地面に下ろされていた。集まった他のギルドメンバー達が下ろしたんだろう。
「――レビィ、ジェット、ドロイ!!」
横たわった三人に駆け寄ってすぐに修復魔法を使う。話に聞いたとおり長時間つるされていたからかその肌には拘束の跡が痛々しく浮かんでいた。中でも目を引くのは全員の腹に刻印された
「マスター!!」
「ミラ、ハザマお前さん達には三人を頼む他の奴らここにいない他の奴らを集めろ」
三人のそばで治療魔法を掛けていたマスターがゆっくりと立ち上がり宣言する。
「――戦争じゃ――」
握りつぶされた杖の破片で切ったこぶしから垂れた血が地面に落ちた。