甲高い汽笛の音とともに力強く列車が動く。クエストの内容は列車の中でするということになり、今回のクエストの依頼人でもあるエルザさんにみんな注目していた。あっ、ナツはいつものように乗り物酔いでダウンしています。
「ったく、なさけねぇなぁナツは……」
「しょうがないわよ。ナツは自転車でも酔うんだから」
「それがナツです」
「マジでか!!」
私よりも付き合いが長いグレイに驚かれるほどに乗り物に対して弱いナツ。普段はあんなに元気に動き回っているのに今は青い顔でうめくだけである。
「仕方ない奴だな……ナツはほら私の隣に座れ」
あまりにも苦しそうなナツを見かねたエルザさんが自分の隣の席をポンポンと叩きそこに座るように促した。背中でもさすってあげるつもりかしら?
「フンッ!?」
ドスっという重い音が車内に響いた。一瞬白目をむいたナツの瞼をエルザさんがやさしくおろす。崩れ落ちたナツの頭を自分の膝に置き撫でながらこれで少しは楽になるだろうと聖母のような微笑みを浮かべている。どうしよう……すごく優しい笑顔なのに三秒前の行動が頭を離れず、口元がひきつっているのが自分でもわかる。
「そっそういえば。ハートフィリアさんは腰に鞭をつけてるけどそれをメインで使う魔導士なのかな?」
口角があがったままのハザマさんがこのいたたまれない空気を追い払うように質問してきた。
「ルーシィでいいですよ。えっと……私、精霊魔導士なんですけどまだまだ未熟でこの鞭はお守りみたいなものですよ。エルザさんはどんな魔法を?」
恐る恐るこの空間を作り出した人にパスをする――仕方ないじゃない!!グレイはわれ関せずだし、ハッピーは猫だもんほかに話題を振る人がいない。
「エルザの魔法はキレイだよ。血がいっぱい出るんだ。相手の」
それは綺麗ではなく物騒と呼ぶべき代物ではないだろうか。
「エルザでいい……たいしたことはない。それよりも私はグレイの魔法の方が綺麗だと思うぞ」
「む、俺のか」
エルザさんそこは謙遜ではなく否定の言葉がほしかったです。全力で目をそらしていたグレイだが自分の魔法が話題になったのはさすがに無視できないらしく、開いた右手の上に拳をのせ魔法を使った。握られた手の中からは氷でできたフェアリーテイルのエンブレムが乗っていた。
「わぁ!!」
思わず歓声を上げてしまう。それにしてもこの男には似合わない魔法である。
「俺はハザマの魔法も面白れぇと思うけどな」
「ハザマさんの?」
「俺も呼び捨てにしてね。えっと……そうだな……」
壁に立てかけていた槍?真ん中に丸い穴の上に刃物が付いた武器を床に降ろし。懐から一枚の紙を出す。手のひらそれをのせるとポンっ!!という音とともに白い人形?が立っていた。
「うわぁ――かわいい」
人形はお辞儀をすると私の膝に飛び移り踊り始めた。
「なんだか。おいらのマスコットポジションが奪われている気がするな!!」
青い猫のいうことは無視して私は小人のダンスに集中するのであった。
◇◇◇
私たちはオニバスという駅で電車を降りた。今回のクエストの具体的な話は電車内では出なかったけど大丈夫なのかしら。
「それでエルザ本題の今回のクエスト。いったいどんなものなんだ?お前が力を借りたいなんてよっぽどのことなんだろ」
グレイがエルザに問いかける。そうよねぇナツやグレイ達を借りてきた猫みたいな姿にさせる人だ。よっぽどのことでもない限り一人で何でもこなせるんじゃないかしら。
「そうだな……話しておこう。前の仕事の帰り。ここオニバスで魔導士の集まる酒場へ寄ったときのことだ。気になる客がいてな」
エルザの話をまとめると、酒場にいたマナーの悪い連中がララバイという名の魔法を見つけたのだが封印が解けないという話だ。
「そこで聞いたエリゴールという男。死神エリゴールと呼ばれている。奴は魔導師ギルド
不気味な異名だ。そんな連中が解こうとしている封印なんて絶対ろくなものじゃない。
「結果…六年前に魔導士ギルド連盟から追放……現在は闇ギルドとして活動しているらしい」
思い出されるのはミラさんから説明された闇ギルドの恐ろしい話――思わず鳥肌が立つ。
「確かにギルド相手に一人で喧嘩を売るのは流石にエルザでも分が悪いか」
グレイが今回の件にようやく納得がいったとうなずいた。
「ちょっと待って!!ギルド連盟から追放されたならもう活動は行えないはずなんじゃ」
「実際刑罰を受けたのは
思った以上に深刻な事態だった。あたしなんかが割り込んでいい事態じゃない。もう帰りたい。
「エルザ――そのことは評議院に報告は?」
「いや、私の独断だ」
「伝えようよ!?これ下手したらギルド間抗争と捉えられかねない状況じゃないか。――ああもう」
ハザマが慌てて先ほどの紙を手から空に放つ。それは一瞬で白い鳥になった。
「闇ギルドアイゼンヴァルドのメンバーによる未確認の魔法ララバイの封印解除計画の情報を入手。フェアリーテイル所属。エルザ・スカーレット、ナツ・ドラグニル、ルーシィ・ハートフィイリア、グレイ・フルバスターと評議院二級委託魔導士ハザマによる計画の阻止を行う――以上、いけ!!」
命令を受け取った鳥はプラットホームを抜け一瞬で空へと飛び出していった。ハザマの魔法は紙を使って色んなものに変身させる魔法みたいね。確かに聞いたことのない便利そうな魔法。
「今の魔法は?」
「一応、お役所に届けておかないと後でいちゃもん付けられるからそれじゃなくてもうちのギルドは上の人から疎まれてるからね」
へえ、そんなところまで気配りするなんてフェアリーテイルのみんなはそんなこと気にしてなかったのに。
「おいらは?」
「あ……」
「ひどいや。おいらだってフェアリーテイルのメンバーなのに仲間はずれにするなんて」
「えっと、ほらハッピー達は評議会に報告とかしないだろ。だから今回は別にしたというか」
「忘れてただけでしょ!!ハザマがこんなに薄情だなんて思わなかったよ――ねえナツ!!」
ハッピーが同意を得るためにナツの方を向くがどこを見てもナツの姿を見つけることはできなかった。
「あれ……ナツは?」
私たち全員の動きが止まった。
◇◇◇
「何ということだ!!あいつは乗り物に弱いというのに。ハザマの魔法に気を取られていたばっかりに」
「あーあ、ハザマやっちゃったね」
ハッピーが横から俺を責める。この猫はさっきメンバーに名前を入れなかったことを根に持ってやがるな。猫のくせに……お前はどう見てもペット枠だろ。
「うぇ!!俺の所為。お前らだって忘れてたじゃないか」
他の奴らを見るとエルザは自責の念に駆られており、ルーシィに殴るように言ってルーシィが戸惑っている。グレイは……。
「道理でさっきから涼しくなったと思ってたんだが、あの鬱陶しいのがいなかったからだな納得」と半裸で頷いていた。
いやそれ脱いでるだけだから、物理的に涼しくなっちゃってるから。と相変わらず気にもしていない。ちょっとは周りのこと気にしようよ、なっな、そうすれば普段お前がどんだけ白い目で見られているかわかるから。
「こうしてはいられない。すぐにでも列車を止めナツを救出せねば――というわけで列車を止めてくれ」
落ち込んでいたエルザが立ち直り、そばの駅員に列車を止めるように指示を出す。しかし答えは当然NO。当然だろうダイヤの乱れは一か所にとどまるわけがない。緻密な計算によって組まれたシステムは一つの乱れがすぐに全体へと波及してしまう。日本だってそうだったのだから……。エルザは行動力がありすぎるのが玉に瑕だな。ここで列車を止めた場合のクレームがフェアリーテイルに及ぶクレームの山ががGA。
「ちょっと待った――実は私、評議院の者でして、今回の列車の中に危険人物が乗り込んでいるとの情報を得てここに来たのですが。何分非常に緊急性のある件で、お願いです。一刻も早く危険人物をとらえなければならないのです。お願いします。列車を停止してください」
手に評議院の紋章を出して駅員に見せる。
「いや……そういわれましても」
「こうしている間にもその危険人物が列車内で暴れているとも限りません。そいつはクロッカスの町を半壊に追い込んだやつなんです。もし、何かあったら“《責任》”取ってくれますか?」
「――わかりました」
フー。こういう時は自信満々で少々の真実を交えながら相手の認識範囲外に話題を持っていくに限るな。実際、委託魔導士には緊急時検束魔導士に代わり現行犯やその危険性が高い者を拘束する権限などが与えられる。これを提示することによって評議院が矢面に立ちクレーム処理を評議院がおこなってくれる。常日頃から人を指名して依頼してくるのだからこれくらいしても罰はあたらないだろう。こういう風に権力を行使するとなんだか休みから遠ざかりそうで嫌なんだけど……ハァー。
「さすがだな。――そこの者これをホテル チリまで頼む」
そう言うとエルザはズンズンと外へと進んでいった。
「――いやすみません。仲間が迷惑をお掛けしました。緊急事態でして」
いくらなんでも見ず知らずの他人をパシリとして使うなよ。行動力があるのではなく、猪突猛進と呼ぶのがふさわしいな全く……俺は懐から式神を取り出し荷物を運ぶように命令を出した。
オリジナル設定のため補足 評議院委託魔導士とは、評議院がギルドに所属する魔導士の中で能力を必要とする者にクエストを反復継続して指名するための制度である。これにより検束魔導士のように犯罪を犯しているものまたはその危険性が高い者を拘束する権限が与えられる。
二級とはS級魔導士の付き添いがあればS級クエストに参加することができることを評議院に認められる。一級なら一人で可。このためミラとよくクエストに行っていたのが主人公。
ちなみにハザマはフェアリーテイルの後処理のため同じクエストの価格の七割程でクエストに行っている。これは評議院が定める最低クエスト価格を下回っている。なお本人は知らない。え、問題にならないのかって?何事にも例外というものがあるんですよ。