おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

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不定期ですが続けていきます


集団呪殺魔法<しゅうだんじゅさつまほう>

レンタルした魔導四輪車に乗って先ほどまで乗っていた列車を追いかける。エルザの情報から何やらきな臭いものを感じるがナツをほったらかしていくわけにもいくまい。気絶したらまったく別の場所というのは経験してみなければわからないがひどくパニックになる。――目が覚めるとそこは密林のど真ん中、周りには狂暴な魔物……よみがえる悪夢。

 

「見えたぞ――列車だ」

 

 上から聞こえたグレイの声で過去のトラウマから目覚める。フゥ落ち着け――過去のトラウマよりも今のストレスを解決しなければ、乗る場所がなかったため車の屋根の上に乗っている(詰めれば乗れないこともないが)グレイは屋根の上に行ってしまった。舗装されていない道の上を走るので屋根から落ちる恐れもあるが本人の希望なら仕方がない。俺たちが乗っていた車両は後ろから二番目だったはず……しかし先ずは運転手に状況を報告しなければなるまい。

 

「俺はちょっと運転手と話をしてくるから、エルザ達はナツの回収を頼む」

 

 こいつらは人とコミュニケーションをとる時も肉体言語からはいるからな!!新人の子はどうだか知らないが俺がいくのが一番確実だろう……ナツの回収が済んだら急いでここから離れたい。ほかの乗客への説明は列車の乗務員にお願いしよう――無理だな。あぁもう報告書には攻撃的な魔導士が列車内に居座っていたからとかではだめだろうか。

 

 

 

◇◇◇

「俺はちょっと運転手に話をしてくるから、エルザはナツの回収を頼む」

 

 そう言い残すとハザマは車から降り、先頭の方へ全速力で走って行ってしまった。何が彼をあそこまで必死にさせるのだろうか、魔導四輪車でも窓を見てブツブツつぶやいていたしあれ、もしかしてハザマさんて危ない人?

 

「ルーシィこないのー」

 

 ハッピーが外から呼んでいる。いつまでも車から下りない私を不思議に思ったみたいだ。いけない今は速くナツを迎えに行かないと…。

 

「てめえ殺してやる!!」

 

「上等だ!!ここはいつ動き出すかわからねえから外で相手してやる」

 

なんだろう。列車から他のお客さんの迷惑になるほどの大声が聞こえる。嫌な予感がして声が聞こえる車両に近づいてみると。――窓から飛び出してきたのはナツともう一人今にも取っ組み合いを始めそうな二人が――「何をしているナツ、お前は!!」「「グベボッ!!」」

 

 間に割って入ったエルザの拳が双方の顔に直撃し吹っ飛ばされる。ちょっとエルザさん!!ナツはともかく相手の人は大丈夫かしら?ナツはともかく。

 

「おいエルザ!!相手を見て殴れよ、こっちのアホはともかくあっちの奴は殴っちゃだめだろ」

 

 グレイもその認識なのね……まってこの変態と同じ思考回路ということかしら。受け入れられない。受け入れるわけにはいかない。

 

「……ダレニタイシテモナグッテハイケナイニキマッテイルデショウ」

 

「なんで片言?」「ハッピーうるさい」「なんで!!」

 

「いってえなエル、ザなんで殴りやがった。今からあのむかつくやつをボコボコにするとこ……ろ」ゆ

 

 掲げられた拳から炎が見える。あれエルザも火竜(サラマンダー)だったのかしら!?怒り心頭といったナツだったが、最後の方は消え入るような声で冷や汗が顔から出ている。言い訳を考えているのかしら目がきょろきょろと落ち着きがなく必死にエルザの怒りを回避しようしているのが見ていてとても分かりやすいうえ、普段はまったく使わないせいか頭から白い煙が立ち上っていた――すごいなサラマンダー、頭をつかって煙が出る人初めて見た。

 

「そうだ!!ひでぇじゃねえかエルザ、ハッピー、ルーシィ後全裸、お前ら俺を置き去りにしやがって」

 

 知恵熱?を出すほど考えた甲斐あって今回はお仕置きされる前にエルザの怒りをそらせることに成功する。

 

「ムッ。確かにすまなかったな」

 

「今は上半身しか脱げてないだろうが!!これは半裸だ!!」

 

「ごめんねーナツ」「ごめんなさい」

 

 さすがに悪いと思ったのか拳を下げたエルザ。私とハッピーも一緒に謝罪する。それにしても、影が薄いってわけじゃないのに置き去りにされるなんてふしぎだなー。あと裸族のこだわりは適当に流していく方向で

 

「なめたことしてくれるじゃねえか、ハエどもが!!」

 

 殴られた人が復活している当然のことだが怒っているようだ。よかった、エルザにパンチされてすぐに起き上がれるなんて、あの人実はすごい人なんじゃないだろうか?

 

 何をそんなに怒っているのかわからないといった表情で男を見ていたエルザだが、突然何かに気づき目を鋭くさせた。

 

「貴様、鉄の森<アイゼンヴァルド>のメンバーだな――」

 

 なっ……先ほど殴り飛ばされた人は私たちがが追っていた鉄の森のメンバーということはエルザが酒場で話を聞いたときその場にいたということでもある。もしかしてこれってクエスト解決の重要な手がかりが得られるチャンスなんじゃないかしら?

 

 にらめつけていたエルザだったが、段々とその目を険しいものに変えていたが突然。

 

「……酒場で見かけたときの奴はそんなに膨れた頬ではなかったな、すまない私の勘違いのようだな」 エルザさんそれは今しがたあなたがぶん殴ったからではないかしら。普通に考えてナツとけんかして列車から飛び出てくるなんてまともな人じゃないはずだし……。

 

「ぶっころす――影よ」

 

「だがフェアリーテイルを馬鹿にするものはゆるさん」

 

 エルザに殴られた人が突然魔法を使ったと思ったら、エルザはどこから取り出したのか剣で魔法を横なぎにしてかき消した。まさか自分の不意打ちがこんなにあっさり対応されるとは思っていなかったのだろう呆けている間に彼女は金属鎧を着ているとは到底思えないスピードで肉薄し、腹部に強烈なこぶしを叩き込んだ。体力おばけのナツを一撃で沈める拳だ。そんじょそこらの魔導士に耐えられるはずもなく謎の男は一瞬で気絶させられた。

 

「うわーあれは痛ぇぞ」

 

「お前も食らってたしな」

 

 向こうでけんかしていた二人もこちらに来たようだ。

 

「ナツこいつは誰だ」

 

 この人達は人が一人気絶しているというのに平常運転。恐ろしすぎる。も―私の周りには私以外の常識人はいないの?

 

「知らねえよ、列車の中でいきなり喧嘩をうってきたんだ。なんか闇ギルドがどうとかいってたな」

 

「ねえ、ルーシィこの人ろくなもの持ってないね。あ、リンゴ――あーん」

 

 いつの間にやらこの猫はこの人の荷物を物色していたようだった。鞄の中から適当に放り出しただけのようで周りには、荷物が散乱していた。何も知らない人がこの状況を見たら強盗と勘違いしかねない。

 

「こら、勝手に食べないのそれよりも……」

 

『オニバス名物味噌まんじゅう』

 

 なぜ彼は数あるお土産の中でこれをチョイスしてしまったのだろう。しかしちょっと食べてみたい私もいる。

 

「何だろうこれ?」

 

 ハッピーが散らかしてしまった荷物の中にその場にふさわしくないものがあった。笛だ。それも普通の笛ではなく、三つ目の髑髏がつけられた笛だ。まさか、この人は趣味で笛を吹くのだろうか?味噌味の饅頭を買う人だ。センスが普通じゃなくても驚かないが――何かが引っ掛かる。

 

(笛……ララバイ……骸骨)

 

どっかで聞いたことあるんだけどどこだったけ。何かとても重要そうなことが思い出せそうで思い出せない。

 

「――ハッピーなんでそんな恐ろしいものを持っているんだ。早くゆっくり手を放しなさい!」

 

 列車の運転手と話をしに行くといっいたハザマが慌てた様子列車の窓から体を乗り出し矛盾したことを叫んでいた。

 

◆◆◆

 列車の運転手になぜ緊急停止してもらったかの理由の説明をし、乗客の無事を確認していたところ一か所だけ窓が割れた車両があった。嫌な予感がし、外に目をやると案の定見知ったメンバーと地面に倒れこんでしまった男性。傍らにはエルザが立っているところを見るに犯人は彼女だろう。状況を表現するなら強盗と被害者といったありさまだ。車掌と目が合い彼はどうにかしてくださいと言いたげな表情でこちらを見ていた。無理もないが俺は戦闘は苦手なのだ。仲間の潔白をどうやって説明しようか考えているとんでもないものが映り込んできた。

 

「――ハッピーなんでそんな恐ろしいものを持っているんだ。早くゆっくり手を放しなさい!」

 

「どうしたのハザマそんなにあわてて?」

 

 暢気すぎるだろうこの猫は――自分が持っているものの危険性がわかっていないのか。わかっていないのだろう、わかっていたらこのような状況にはならなかったに違いない。

 

「いいからその笛を地面に置け」

 

「そんなに怒んなくてもいいじゃんかぶーぶー」

 

 ようやくハッピーが持っていたもの地面に置いた。見てるだけで鳥肌が止まらないやばい物体。よく観察してみるとそれは笛の形状をしていた。

 

「こんなやばそうなものどこにあったんだ……」

 

「エルザが……気絶させた人の……鞄の中に…はいってた。ごっくん」

 

 この笛は評議員会が厳重に封印しているとかそういったレベルのやばい魔力が感じられる。決して列車の乗客の鞄の中から出てきていいような代物ではない。

 

「口に食べ物を入れたまましゃべるな」

 

 リンゴを食べながら幸せそうな顔をしている暢気な青い猫をにらめつけながら、さてどうすべきかと考えを巡らせる。事態は一介の魔導士の独断で決められる範囲を超えている。上の人たちと折衝役はいつものごとく俺になりそうなので、面倒ごとは極力早めにかいけつして被害を最小限に食い止めたい。今ならまだ列車のダイアの乱れ程度で「アッッーー!!」――思考を遮る悲鳴が隣から響いた。誰だよっ考えがまとまらないだろうが、思わずそちらを向くと新人魔導士のルーシィがさらなるトラブルの素を口にする。

 

「――これ集団呪殺魔法の呪歌<ララバイ>だ」

 

 そんな事実知りとうなかった。

 

 


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