『呪歌<ララバイ>とは禁忌黒魔法の一つである呪殺をさらに凶悪にしたものである。形状は三つ目の髑髏のついた笛であり、製作者は最悪の魔導士と名高いゼレフである。呪殺は対象者に対して死を与える魔法だがララバイは音色を聴いた全員に対して死を振りまく恐ろしい魔道具である。この魔道具の効力から逃れる方法として、魔道具使用時に笛に触れていることのほかに風魔法などで音をかき消すことも効果的とされている。もとは呪殺に用いられる触媒の一つであったことから、明確な防衛手段がないものには死から逃れるすべはない。また、この魔道具を大量に使用した魔導士は最終的に全員衰弱死を迎えている。このことから、魔道具の副作用によるものだとされているが詳しいことは解明されていない。現在は第二種禁忌魔道具として厳重に封印されている』<魔法界における禁止された魔法集 第二巻――黒魔術の章>より抜粋
ルーシィいわくララバイとは音色を聴いたものを呪殺する魔道具らしい。一番あってほしかったただの趣味の悪い笛であるという可能性は体が感じる悪寒とほとばしる邪気がそれを否定してくる。
「なるほど……エルザが聞いたララバイは間違いなくこの笛のことだろう。死を振りまく笛なんていかにも闇ギルドが欲しがりそうな代物だからな」
グレイが地面に置かれた笛を足で転がしながら納得がいったというようにうなずいている。
こいつはバカか、第二級の禁忌魔道具はそんな風に手軽に近づいていいものではない。俺ならたとえ封印魔法越しでも近づきたくない代物である。
「――どけ、グレイ」
第二級ということはとりあえず自動で発動するような代物ではなく、能動的にこの魔道具を使おうとしなければ魔法は発動しなければいいと考えていい……はずである。しかし、何かあってからでは遅いため直接触るのは遠慮したい。そこで、今持っている中で一番出来の良い式神を懐から取り出し召喚する。出てきた俺がものすごくひきつった顔をしている、俺も全く同じ顔をしているのだろう。だがあきらめろ、ここでこれをどうにかしなかったらもっとめんどくさいことになるのがうちのメンバー的に確実である。首を左右に振る式神、念糸で首に巻いてやるとやっとやる気になったのか式神も念糸をだす。式神が封印しようと試みるも、もともと俺自身が封印術は得意ではない上にこの魔道具が持っているもともとの魔力からかうまく封印できない。
「封印は無理だな――エルザ俺は一刻も早くこの笛をどうにかしたいんだが、というかこんな危ないもののそばにいたくない」
「ここに放置してさるわけにもいくまい。たしかこの辺で大きい街といえばオニバスが一番近かったか――まずは封印を施すためにそこへ向かおう」
大量殺人を行える道具を、人の多いところに持っていくのはどうかと思うが……かといって自分たちだけで解決するには問題の規模とリスクが大きすぎる。ここは……
「とりあえずなんか知ってそうなこの人に話してもらうことにしよう」
のびているこいつに聞いてみることから始めよう。
のびていた奴はエルザが酒場であった鉄の森(アイゼンヴァルド)のメンバーであり、名前はカゲヤマというらしい。得意な魔法は影魔法とそれを用いた魔法解除<ディスペル>。ララバイを狙ったのは、自分たちを追放した魔法社会に対する復讐のため、ララバイによる無差別テロを行うためだそうだ。
はぁぁぁ何やってるんだよ上は。――大量無差別テロを行えるような魔法を封印魔法のみで守っているなんて。せめて管理者くらい常駐させておけよこれだから魔法が万能だと思っているエリート魔導士どもは。とはいってもこんな危険物放置しておくわけにもいくまい禁忌魔法処理隊はこの近辺には駐留していなかったはずだし、封印魔法専門の人員がいる実働部隊でもいない限りどこにおいてもこいつが危険物であることに変わりはない。
それにしてもエルザさんマジパネエッス。これだけの情報を引き出すのにわずか30分ほどの時間しかかかっていないとは。いくら禁忌魔法を持ち歩いていたとはいえ見ているこっちがいたたまれなくなるくらいボコボコになってしまったカゲヤマ君。こういう時自重という言葉を知らないであろう、うちのギルメンは本当に頼りになる。念糸で縛り上げた人間をあそこまで容赦なく殴り、ブラフを織り交ぜながら目的の情報を引き出すのは一種の才能なんじゃないかとさえ思う。日常を送るうえで絶対いらない才能だがな――。
停めてある魔道自動車に、ナツとグレイが張り付いてガタガタ震えているといえばどれほどの現場であったかというのがよくわかる。新入りのルーシィちゃんは車の中で頭を抱えている。普通の女の子ならそうなるだろうな……先に列車を走らせて正解だったなこんなとこ普通の人には見せられない。……まあこの現場を作り出したのもルーシィちゃんと同年代の女の子なのだが……。
「ハッピーこれをマスターに届けてくれないか、俺達も後からクローバーに向かう」
気絶しているこいつを死ななないが体を動かすのが億劫になるくらいの治療を施しながらハッピーに頼み事をする。とりあえずマスターに指示を仰ぐか、俺に封印できないということは専門家に頼まなければこれを封印することはできないだろう。一時的な処置から念糸でぐるぐる巻きにしているが一刻も早い対策が必要だと考える。
「えー、おいらだけでぇ。今お腹いっぱいだから激しい運動したくないんだけどなー」
このどら猫が猫で青色の体色しているならちょっとは人々の手伝いをしろよなどと思いながらも、今回の件は失敗がシャレにならないやつなので仲間のモチベーションは最高に保っておきたい。
「頼むハッピー……これはお前にしかできないことなんだ。お前のその翼にこのクエストの成功がかかっているんだ」
「もーしょうがないな、帰ったらギルドの生魚定食おごってよね」
口角の上がった顔でハッピーは俺から荷物を受け取ると飛び立っていった。フゥー……ちょろいな。
しかし生魚定食とはあの魚の盛り合わせのことだろうか、あそこは曜日によって仕入れ値が変わるから木曜日の一番安い時にご馳走することにしよう。そうしよう。
「――さあ俺達も出発しよう」
「うっ体がイテェ」
魔導自動車を走らせてしばらくしたらテロリストが目を覚ましたようだ。念糸で簀巻きのような状態にしているからか首を動かして自分の状況を確認している。そして周りにエルザがいないことを認識したのか突然でかい声でがなり立ててきた。
「てめぇら雑魚のハエが調子にのりやがって、とっとと俺を開放しっ」
突然言葉を途切れさせたこいつは俺をにらんできた。それはそうだろう念糸で首元をきつく締めたのだから……全く本来こういった念糸の使い方は本意ではないのだが仕方がない。ナツは車酔いでグロッキーだしルーシィはその介抱、エルザは運転、となれば残るのは俺かグレイ。さらに、こいつがディスペルの使い手である以上リアルタイムで監視しておかないといつ抜け出すか分かったものじゃない。グレイの魔法で氷漬けというのも案としてあったのだが疲れるから嫌らしい。まあ俺はそこまで消耗する魔法というわけでもないそのため見張りは必然的に俺になってしまった。残ったグレイはというと、この馬鹿と一緒にいられるかと言ってまた屋根の上に行ってしまった。グレイには笛の管理をお願いしたのだが大丈夫だろうか。笛に強い衝撃などを与えてないか心配である。
「おとなしくしておいた方がいいと思うぞ。応急処置をしたとはいえけが人なんだから」
事件の細部についてはもっと落ち着いてからゆっくり考えることにしよう。
◆◆◆
クヌギ駅。普段はのどかなこの町だが15分ほど前から駅の前に怪しい集団が現れていた。そのため何人かが兵士を呼びに行くか相談していたところ、列車が到着するとそれを待ち構えていたかのように魔導士たちが列をなして駅に侵入してきた。周りにいた駅の利用者たちはその集団に危機感を感じ、道を開けた。フロアに入ってきたのは身の丈ほどの大きな鎌を背負ったやせ形で長身の男のみであった。
「おいっそこのお前列車が遅れて到着しているみたいだが何があった」
ゆらりと体重を感じさせない動きで突如駅員の眼前に踏み込んだ男は鎌を相手の首に沿わせ尋ねた。
「――ヒッッあの……えっと、列車内に凶暴な魔導士がいるという通報がありまして。……しかし無事フェアリーテイルの魔導士の方たちによってとらえられたと……なので列車が遅れたしまったことをお詫び……」
どもりながらも言葉をつなげていた駅員が突如言葉を切った。一番そばにいたからこそ変化を感じ取ったのだろう。
「……ハエが……だと?」
しばらく黙り込んだ男が一言漏らすと空気が変わった。
男の周りに突如台風を思わせる暴風が吹き荒れる。周りにいた人たちは立っている人は誰もおらず突然の天災にうめき声をあげることしかできない。
「エリゴールさんどうしました?そんなにはしゃいじゃって、何かうれしいことでも――ギャァァァ!!」
様子を見に来た集団の一人が様子を見に来たが風の斬撃を浴びてしまい腹から血を流して転げまわっている。
「何かありましたか……」
恐る恐るといったように別のメンバーが尋ねる、その他のメンバーも続々と様子を見に何人か近づいてくる。
「カゲヤマの野郎しくじりやがった」
「カゲちゃんが」
「それもハエごときにとらえられたらしい……実に目障りだな」
「どうするんですか」
「――決まっている叩き潰すぞ。ハエもハエにとらえられるようなカスも。すべて殺せ――ハエが飛び回っちゃいけねえ森があることをわからせろ」
うずくまる人の中で死神が次に刈り取る命を決めた。