おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

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 新年度が始まったので更新


激突

 俺がたどり着いた時すでにエルザと鉄の森は激突していた。

 

 エルザは魔法のよって作られた武器を相手によって使い分けて戦っていた。持ち前の身体能力で敵と敵の間をすり抜け、踊るように剣で切り付けていく。切り裂かれ、戦闘不能になり倒れこむ相手の体を踏み台にして空に舞い上がると、その手にはすでに剣は握られておらず代わりに槍で敵を薙ぎ払いことで空中での移動を行う。勢いそのままに着地したエルザは違う場所で密集していた敵に今度は双剣で襲いかかる。密集していたため敵は大規模な魔法や武器は周りにいる仲間にあたってしまうため攻撃できず、小さな間合いで戦うエルザの独壇場となった。その様はまるで竜巻の中心にいるようで次々敵が切り倒されていく。

 

(相変わらずやべぇ速度の換装だな――)

 

 換装とは別空間に保存してある魔具の出し入れのことを言う。普通の魔法剣士なら、自分の得意な得物のみで戦うがエルザは状況に応じて武器を入れ替えて戦っている。正確な魔法制御とたぐいまれな戦闘センスがエルザのスタイルを確立している。さらにエルザの換装魔法はこれだけではない。

 

「貴様ら―これだけのことをしでかしたのだ。当然覚悟はできているだろうな」

 

 向かってくる敵全員の中心まで飛び込んだエルザは体全体から魔力を走らせる。一瞬エルザの着ていた鎧が剥げ煙が立ち上る。体からあふれ出た魔力が外気と反応して発煙したのだ。煙が晴れたときエルザは今までの甲冑鎧ではなく、今までまとっていたプレートアーマーが無くなり胸の部分は谷間が丸見えである。腹はへそが丸出しでさっきまで着けていた鎧のほうが、防御力が高そうだ腰回りはプレート状の腰鎧がついかされ、先ほどよりも長めのスカートがひざ下まで覆っている。しかし最も注目を集める部分はそこではない、背中には合計四枚の羽根が左右それぞれ二つずつきらめいており、アーチ状に広がったそれはエルザに仕える兵士たちが剣を掲げているように見えた。

 

――これがエルザの魔法……|騎士()()()()()

 

 魔法剣を使う魔導士は数多いが、魔法の鎧と魔法剣を駆使して換装できる魔導士はエルザを除いて他にいない。しかも換装というものは魔具の量と質に比例して魔力の消費が増えていく。

 

「剣たちよ立ちふさがる敵に裁きを――|循環の剣()()()()()()()

 

 宙に浮かせた複数の剣が周囲にいた鉄の森(アイゼンバルド)の奴らに襲いかかる。一人にあたったところでその勢いは止まらず、立っているものはエルザの剣たちの前に次々となぎ倒されていく。今使った剣もエルザの魔力に反応して自由に動かせる代物だ、こんな一級品の魔具を換装しても顔色一つ変えずに戦っている。これがS級、超一流と認められた魔導士の力だ。

 

「おいおい、あっという間すぎるだろ」

 

「うちのメンバー弱ぇー」

 

 エルザが蹴散らした中のまだ意識があるやつらを凍らせていたら、そんな声が聞こえた

 こいつら仲間が倒されたってのに笑ってやがる。エリゴールが狂ってるんじゃねえ、こいつら全員狂ってやがるんだ。

 

「――調子乗るんじゃねえぞハエどもこいつらを倒したくらいでいい気になるなよ。お前らもお前らだよなにハエごときにやられてんだよ。こっちは人間様だぞ……ああ分かったお前らはハエ以下なんだな―死ねよ役立たずどもが」

 

 後ろにいた虎島のパーカーを着けた男が指の根元から板状の黒い紐を伸ばした。指から繰り出された紐は真っすぐ俺たちのほうに向かってくる。

 

「チッ!!ハザマと同じような魔法か」

 

 正面に氷の壁を設置することで奴の紐を防ぐ、貫通力はあまりないのか氷壁ではじくことができた。しかし、はじかれても奴の攻撃は終わっていなかった。倒れて無防備な人たちの体を思いっきり突き刺しやがった。その中には()()()()()も含まれていた。

 

「おい!!お前こいつら仲間じゃねえのかよ」

 

 周囲からいくつもの悲鳴があたりに響く。なんで仲間まで攻撃しやがった相手の意図がわからねぇ。周りで立っている奴らも自分たちの仲間が仲間によって攻撃されてるっていうのに気にした素振りすら見せねえ、まるで当然のことだというように。本当に虫でもを踏みつぶしたとでも思っているのか。

 

「は??役立たずには罰を与えねえと。こいつらが倒されようが殺されようが俺の知ったことじゃねえが、俺がこいつらと同じだと思われるのは許せねえ。二度とこんな失態を侵さねえように教えなきゃなんねえだろうが――なんせハエに倒されるくらいにマヌケなんだからな」

 

「レイユール焦っちゃいけねぇ、物事には順番てものがある。確かにハエを叩き潰すこともできないようなグズどもは鉄の森(アイゼンバルド)にはいらねえ。……だがな、ガキの使いもできないような奴のほうが先に死ぬべきじゃないか?なあカゲヤマ」

 

 そういうとエリゴールは後方で縛り上げられているカゲヤマに目をやる。全身縛られたあいつだがいつの間にか口につけられていた封印は自力で解いたようだ。

 

「エリゴールさん」

 

 エリゴールが紐使いの男にそう話しかけると先ほど駅の乗客を切り裂いた時と同じように鎌を一振りする。――マズイ!!周りの奴らを守るために魔法で氷を展開しているため、魔導自動車のほうまで守ることができない。

 ハザマに縛れてたためさっき放り出された状態のまま動けないカゲヤマはあきらめたように顔を俯かせ、そのまま切り裂かれると思われた。そこに割って入る一人の人間がいた。

 

「なにやってんだよお前……」

 

 ナツだ。両手から出した炎でエリゴールの魔法を殴り飛ばした。体からは火の粉が舞っており、その目はエリゴールをにらみつけている。

 

「同じギルドの仲間じゃねえのかよ!!なんで仲間がやられってのにへらへら笑ってられるんだ。どうして仲間を傷つけるんだ」

 

 叫んだナツは口から火炎を吐き出す。ナツの怒りの声に呼応するように少し離れた場所に立っている俺にも熱さが伝わってくる。突然のことで反応できなかったのだろうあっけなく炎はエリゴールたちを包みこみこのまま燃やし尽くされてしまうかのように見えた。

 

「何を勘違いしてるんだよ。仲間っていうのは利用できる間だけ利用するもんだろうが、誰かの力をあてにするようなそんなザコになった覚えはねえよ」

 

 エリゴールはナツの攻撃を片腕を前に出すだけで防いで見せた。手の前には何も見えず、まるで炎が見えない道を通らされているようにエリゴールたちを避けている。

 

「いい加減ララバイを渡して死ねよ」

 

 エリゴールに守られた紐使いの男の紐がこっちに飛んでくる――マズい!!さっきのナツの炎で氷を出しづらいまにあわ…

 

「しっかりしろグレイ!!」

 

 エルザだった。先ほどまで着けていた魔法鎧ではなく普通状態の鎧でも奴の攻撃を手に持った小剣を投げることですべて地面に縫い付けた。

 

「チッ……邪魔がはいったか」

 

 不意打ちが成功しなかったことを悟るともう用はないといわんばかりに縫い付けられている部分を切り離してスルスルと紐を手元に戻していく。状況は極めて悪い相手は無差別に攻撃できるのに対してこっちは倒れているけが人とララバイを気にしながら戦わなければならない。意識が分散してしまい不意を突かれやすい。エルザが大半の鉄の森(アイゼンバルド)の構成員を蹴散らしてくれたおかげで大分楽にはなったが、残った奴らは全員エース級の実力を持っているのがはっきりとわかる。

 

「もういいメンドクセェ全部ふっ飛ばしてララバイ探したほうがはやそうだ」

 

 そういうとエリゴールは力をためるとあたりに強い風が吹き空に舞い上がった。風か、奴の魔法は風魔法かそれならナツの攻撃をあのようにあっさりと防ぐことができたのにも納得がいく。

 

「ちょっ!!エリゴールさん俺達も巻き込む気ですか!!」

 

 奴の仲間が慌てた声をだすがそんなものは気にも留めない、エリゴールが手を天に掲げる。すると周りの空気に圧迫感が増した。大規模魔法を放つようだ、まだ倒れているけが人が大勢いるのにどうすればいい。

 

「グレイ!!こちらは私が何とかする、お前はお前で何とかしろ」

 

 先ほどの剣を浮かせた鎧とは違い体のすべてを金属で覆われた重鎧を身にまとっていた。どっしりとたたずむその姿は巨大な岩のようで一歩一歩歩くたびに足元の地面が少し陥没している。肘につけられた二つの大盾を前に掲げ魔法陣が起動させた。エルザが持つ鎧の中で最高の防御力を誇る金剛の鎧(こんごうのよろい)だ。あっちの人たちはエルザが何とかするだろう問題はここで蹴散らされた鉄の森(アイゼンバルド)の奴らだ。放っておいたら間違いなくエリゴールはこいつらも巻き込んで魔法を放つだろう。

 

「――ちくしょう、お前らこの件が片付いたら二度とこんなことするなよ!!」

 

 気絶した何人かがうめき声をあげる。……助ける必要があるのかこいつらは敵だ。どうなろうが知ったことじゃねえ。だがこいつらを見捨てるのはエリゴールたちと同類になっちまう。駅をこんなに破壊した連中だが見捨てていいわけじゃねえ。……決めた。

 

「アイスメイク…“(シールド)”」

 

 普段使うシールドよりも規模の大きいものがエリゴールたちとの間に出現した。魔力を多めに使ったことにより少し息が苦しくなる。

 

「――嵐闘(デスペラード)

 

 とうとうエルゴールが魔法を行使した。それはバカみたいにでかい竜巻だった、黒い竜巻はあたりを蹂躙しようと勢いを大きく拡大させながらその大きさをどんどん広がり続ける。地面に散らばっているがれきや線路といった軽いものはすべて巻き上げらえられてしいこのままではこの盾が吹き飛ばされるのも時間の問題だろう。

 

「アイスメイク―“(ウォール)”」

 

 正面だけでなく全体を守るように氷を作る。威力が上がっているのか壁にひびが入り、揺れ動くのがわかる。厚みを増やすために魔力を込め、防御力をあげる。次第にひびが補強されていくが傾いた壁に風があたり吹き飛ばされそうになる。さらに巻き上げられた石や柱といった廃材が壁の中に落ちて地面に突き刺さる。動けない奴らはこれをかわすことができない。

 

「アイスメイク―“守殻(シェルガード)”」

 

 壁の固定と並行して屋根に氷を設置する。自分が可能な魔力コントロールの限界だが、体が膝をつくことになっても必死に耐える。体を氷壁に押し付けるようにしてこの避難所の強化に全力を注ぐ。もっと重くもっと強固に、次第に嵐は収まり何とか耐えきれたようだ。

 

 体の力を抜いた瞬間今まで周りを覆っていた氷のドームが消滅する。前方にはさっきまで散乱していたがれきは鉄の森(アイゼンバルド)のメンバーもろともすべて吹き飛ばされたようで、何もないまっさらな地面のみが残っていた。そんな更地の中心に立つ一人の男がいた。――エリゴールだ。

 

 エリゴールに全ての神経を集中させていたため、()()()()迫ってくるもう一人の敵の存在に気がついたのは不意打ちを食らった後だった。

 

「エリゴールさんにばっか気を取られてんじゃねえよ!!」

 

 地面から生えてくるように姿を現したのは分厚い唇の巨漢の男だった。おそらく潜行(ダイブ)系の魔法を使ったんだろう。地面からのアッパーは意識をもうろうとさせるには十分な威力をもらった俺は受け身をとることもできず吹き飛ばされていった。その拍子にコートの内側に入れておいたモノが零れ落ちる。

 

「ん??あれは――おいカラッカ、そいつ何か落としやがったぞ」

 

「本当だ。ん?これ!!ララバイみ―つけた!!」

 

「まったく無駄なことに無駄な時間を使わされたな」

 

「――グレイ!!」

 

 殴られた拍子にララバイを落としてしまった。デブの男がララバイを取りに行くよりも速くレイユールと呼ばれた男が手から伸ばした紐でララバイを回収する。どうやら奴らはピンピンしているらしい。エリゴールの竜巻で飲み込まれたようには見えない。

 

「エリゴールさんも無茶をする。カッラカの野郎がもう少し遅かったらボロ雑巾みたいになっちまうところだぜ。――さあエリゴールさんこれがララバイです」

 

 エリゴールの手にララバイがわたる。

 

「ようやくだ……ようやくお前たち羽虫に死神の福音を届けられる――皆殺しだ!!」

 

 奴の手の中にあるララバイから魂が深い穴に吸い込まれるようにオオオォォォンと不気味な音があたりに響いた。

 




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