おとぎ話の妖精   作:片仮名キブン

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炎と風

たどり着いた俺達が見たものはエリゴールに翻弄されているナツの姿だった。エリゴールは自分の魔法で自由に飛び回り、上空からの攻撃でナツに近づかず遠距離からじわじわとなぶるように攻撃している。いくらナツが頑丈とは言っても限界がある。避けようにもエリゴールの風が周囲に存在しどこにも逃れられる場所がない。

 

「……ぐはっ!!ハァハァ。ふわふわ飛びやがって卑怯だぞ降りてこい!!」

 

 地面に片膝をついた状態でそう吠えるもエリゴールが正々堂々勝負するわけもなく空中を漂っている。だが、その顔は少し驚いているようで額には汗が浮かんでいる。

 

「頑丈な奴だなお前を刻むのにももう飽きた。これで仕舞だ―」

 

 急降下してきたエリゴールは大鎌を振りかぶりナツの首めがけて一直線に迫ってくる。膝をついたナツにその攻撃をかわすことはできそうにない。だから、ナツは最初からその攻撃を避けることを()()()()()()()()。自分の前腕で奴の刃を受け止めそのまま力を籠める。鎌は皮を裂き骨を断ち腕をそのまま刈り取るかに思われた。しかしその予想とは異なり鎌は途中で止まりピクリとも動かなくなってしまう。普段から馬鹿力を発揮するナツの腕だ。その鍛えられた筋肉の密度はまさに人外級。見るからにひょろそうなエリゴールの力では到底抜けるものではない。

 

「……やっと捕まえたぞこの野郎―火竜の咆哮(かりゅうのほうこう)

 

 ナツの口から吐き出された炎を鎌から手を放すことで回避する。奴にとってもギリギリだったのだろう。自分の武器である大鎌を捨て、ナツから遠く離れた空中に逃げるその姿は今の一撃を警戒していることが感じられる。

 

「ちくしょう!!今のは惜しかった」

 

 悔しがるナツを上空から見下ろすエリゴールに先ほどまでの見下した態度は見られない。

 

「どうやら簡単に殺せる奴じゃないみたいだな。だが貴様のそのデタラメな魔法もここまでだ――暴風衣(ストームメイル)

 

 空中に浮いたエリゴールに周囲の風が集まっていく、先ほどのようにバカでかい竜巻を起こすようなものではなくその風はエリゴールを守るようにずっと留まり続けている。だが感じられる魔力量はあの竜巻に匹敵するものである。なによりも異質なのは風が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

 

「なんだよさっきまでとは違って今度のは随分と地味な魔法だな。周りでそんだけ風が吹いてたら寒いだろこれであったまとけ――火竜の鉄拳(かりゅうのてっけん)!!」

 

 突き出したナツの拳はエリゴールに軽々と受け止められてしまう。拳に灯った炎はかき消されボシュっという気の抜けた音が鳴る。大岩を砕く攻撃がただのパンチになり下がったことが信じられないといった表情で今度は左手で殴りかかるも結果は同じ。

 

「やはり炎をまとっていなければ貴様の魔法はさっきまでの威力はないようだな。この暴風衣(ストームメイル)が炎をかき消している限り俺に貴様の攻撃はきかない!!」

 

「――マズイな。グレイ、ナツを援護するぞ」

 

 ナツの攻撃が完璧に封じられているこのタイミングに間に合ってよかった。これ以上最悪な状況にしないため戦意をたぎらせる。剣を抜いたエルザとナツの元へ走る。

 

「おうナツも気に食わねえがエリゴールの野郎はもっと気に食わねえ。こんだけ町をめちゃくちゃにしたんだ。町の奴らの分もたっぷりお礼してやらなきゃな」

 

 こちらに気が付いたエリゴールが後ろを振り返る。

 

「チッ!!レイユール達はやられたみたいだな。あの役立たずども()()()()たちを殺したら、次はあいつらを殺してやる」

 

 今あいつはなんて言った。仲間がやられたことを気にも留めねえところも気に食わねえが。それよりももっと聞き逃せねえことがあった。やつはギルド長(マスター)を殺すって言ったのか、まさかさっき言ってたターゲットって言うのはじいさんたちのことを言ってたのか。

 

「なんでじっちゃん達を」

 

 驚いたのはナツも同じようで攻撃の手を止めエリゴールに問いかける。

 

「俺たちの仕事と生きがいを奪ったのが奴らだからだ。暗殺依頼を禁じ、破ったら投獄だとふざけるな何の権利があって俺達を縛る。だから思い知らせてやるんだよ、いくら強力な魔法を使えるギルド長(マスター)の奴らだろうが笛を聞かせることくらい造作もない。自分達が人の上に立っているというその傲りが奴らを殺す――これは粛清だ」

 

 自分たちが闇ギルドに認定されたことを言っているのか。非合法なクエストを受けた自分たちだろうが。それに対するペナルティを決めたじいさんたちを殺すためにララバイを盗んだっていうのか。

 

「「「――ふざけるな!!!」」」

 

「そんなくだらない理由でララバイを盗んだのだな貴様は、ここで私が切ってやる」

 

エルザがマジ切れしている。正直奴の話を聞いていて俺もキレていたのだが、となりのエルザがもっとキレていたので逆に冷静になっちまった。

 

「ふん……貴様らの相手はあとでしてやる。そこでこいつがやられるところをおとなしく見ておけ―魔風壁(まふうへき)

 

 エルザと二人で固まって立っていたためまとめて風に捕らわれてしまう。風の檻から抜け出そうと手で触れてみるが鋭い刃物で切り裂かれたように、肉が切り裂かれ血が流れてしまう。エルザの魔法剣や、俺が造形した氷を風にぶつけてみてもたやすくはじかれてしまいここから出ることができない。

 

「どうするエルザ、ナツ一人には任せておけないぞ。どうにかしてここから出ねえと」

 

「お前の氷で凍らせることはできないのか」

 

 さっきから試みているがあの風は魔力を散らしてしまうようだ。氷の造形魔法の基本は形を定めそれを造り出すことだ。常に動いているあの風のせいで凍らせることはできそうにない。

 

「無理だなさっきから凍らせようとしているが、魔力が散らされちまって氷を形成できねえ。エルザは風を切り裂けるような鎧や剣は持ってねえのか」

 

「私の武器も力押しのものばかりだからな。こういった魔法を解除できるような武器はない」

 

 外ではエリゴールがナツを追い詰めていた。奴はナツの攻撃が届かない遠距離から風の斬撃を出し、ナツを近づけさせないように立ちまわっていた。カウンターを狙おうにも風の鎧でナツの攻撃はすべてはじかれる。すぐに距離を詰めようとナツがミサイルのように飛び出すも風の鎧が常に奴の周囲に吹き荒れており、炎どころかナツ自信も吹き飛ばされてしまう。

 

「納得いかねえこの風さえすりゃぶん殴ってやれるのに」

 

「この風の中では自慢の炎も吹き飛ばされる。お前は俺に勝てねえんだよ」

 

「だったら正々堂々戦えよ。無関係な奴らを巻き込んで、ララバイなんて卑怯な道具は使わず、気に入らねえなら殴りかかってこいよ」

 

「――うるせぇ!!」

 

 竜巻の直撃を食らったナツは吹き飛ばされる。ダメージ自体は大した事なさそうだがせっかく詰めた距離を広げられてしまった。

 

「絶対ぶん殴ってやる。真正面から戦わねえような臆病な奴にじっちゃんたちを殺させてたまるか」

 

 ナツは体全体かたら炎を燃やしていた。奴から離れたことにより風の影響が弱まったからか、どんどん大きく火の勢いが増して火柱が立つほどである。まるでナツの怒りがそのまま炎に乗り移ったかのようだ。

 

「いくら炎を出そうと無駄なことだ。炎じゃ風には勝てねえよ、貴様はすべてを切り刻む翠緑迅(エメラ・バラム)で肉片に変えてやる」

 

 翠緑迅(エメラ・バラム)だと、風翔魔法の中でも上位の殺傷威力を誇る魔法だ。エルザの鎧でも直撃すれば防御力が高いものでないとバラバラにされるといえば、どれほどの威力かわかるだろう。

 

翠緑迅(エメラ・バラム)」「火竜の咆哮(かりゅうのほうこう)

 

 衝突する火炎と竜巻。すべてを切り裂く風も決まった形を持たない炎には効き目が薄く()()()()()()()()()()()()。どういうことだ、風が炎を散らし吹き荒らすのではなく、絡み合い一進一退の攻防に見えた。

 

 突然ナツが火炎を吐き出すのをやめた。そうかナツの攻撃はブレス攻撃、息を吐き続けることができなければいくらナツの肉体が頑丈とはいえ呼吸をしなければならないことには変わりがなく息継ぎの隙が生まれる。風はあっという間に炎もろともナツを飲み込み辺りには土煙と火の粉が舞う。

 

「――ナツ!!」

 

「ハハハハ弱いくせに俺の前に立つからだ待ってろ、次はお前たちの番だ」

 

 ナツを倒したことで次は俺達を相手にするらしいナツのかたきだ絶対許さねえ。

 

「……それはどうかな」

 

 エルザはナツが無事だと確信しているようだ。どういうことかと檻の中から外を見ようと風の渦に近づく。手に血がにじむがそんなことは気にしている場合じゃねえエルザの見つめる先、ナツが立っていた位置に目を向けるとまださっきの燃え残りと思われる煙がくすぶっていた。どいうことかとじっと見つめるとだんだん煙と火の隙間からナツの姿が現れた。頬を大きく膨らませエリゴールをにらめつけると口を大きく開けた。

 

「――|火竜の雄叫び()()()()()()()()()

 

 さっき放った火竜の咆哮(かりゅうのほうこう)の数倍の魔力しかもが感じられる。まさか風によって逆流した自分の炎を吸収したというのか。あいつも大概、規格外なことをしでかすな。炎とだと思っていたそれは爆発し、周りの空気を震わせながらエリゴールへと迫っていく。

 

「バカな!!さっきと規模が違い過ぎる。俺の風の魔力を感じる炎だと。どういうことだ。自分の炎と俺の風、体が無事ですむはずがない。まさか……」

 

 風の盾で炎と熱を反らせているようだがじわじわと爆炎がエリゴールに近づいていく。自慢の風の鎧も爆発が起きるたび吹き飛ばされどんどんみすぼらしくなっていき、この先どうなるかは火を見るよりも明らかだ。

 

「お前がそうだというのか古の忘れられた魔法、魔力を回復する魔法、滅竜魔法(ドラゴンンスレイヤー)の使い手だというのか」

 

 その言葉を最後にエリゴールは炎に飲み込まれていった。

 

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