天上の料理人も異世界を余裕で生き抜くようです   作:グリアノス

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プロローグ

日本には、世界に名を轟かせる八人の高校生がいる。

 

 

一人は中東の紛争地帯で弱き民の為に刀を振るう、一騎当千も斯くやと言える稀代の剣士。

 

 

稀代の剣士・一条葵を取り囲む無数の兵士。彼等は一斉に手にしている銃火器の照準を剣士に向け、一斉に引き金を引く。しかし葵の前には自動小銃に始まる近代兵器から怒涛の勢いで撃ち出されるは弾丸その影を射抜く事さえ叶わず、味方である他の兵士を撃ち倒す始末。

 

兵士達は驚愕と共に有り得ないと叫び、喚く様に銃火器の引き金を引き続けるが葵は風の様に地を駆け抜け、幾人もの兵士を斬り伏せた。

 

常人ならば向けられただけで竦み上がる近代兵器を物ともせず、一振りの刀を手に戦場を駆け抜ける姿はおとぎ話の世界からそのまま抜け出した英雄の様である。

 

 

二人目は剣士のいる戦場の後方に設置されている難民キャンプで治療を施す至上の名医。

 

 

至上の名医・神崎慧音は劣悪な衛生環境や絶えず響き渡る絶叫により、阿鼻叫喚の地獄と成り果てた難民キャンプにて神懸かった手つきで絶え間なく患者の処置を行っている。難民キャンプともなれば医療品、中でも麻酔薬等は特に不足しがちなのだが、その程度のアクシデントで手を止めるならば『至上の名医』等と大仰な呼ばれ方はしない。彼女は患者に対して小さな針を打ち込む事で痛覚を麻痺させると共に、周囲のNPO職員に指示を飛ばした。

 

『倫理観などよりも自分の方が命を救える』

 

そう豪語する彼女の医術に治せぬ病はこの世には無く、万人に共する寿命すらも抗えぬ存在ではないのである。

 

 

三人目は文字通りに空に身を踊らせ、今まさに大衆の視線を集める小粋に着飾った少年。

 

 

少年が今いるのは自由の国と称されるアメリカ合衆国のニューヨーク・リバティ島。そこに聳え立つは言わずと知れた世界一有名な銅像『自由の女神像』。今、アメリカ合衆国の象徴ともされる自由の女神像にはその姿を覆い隠す様に白い布を掛けられていた。そして少年は奇術師の装いをはためかせ、手に持つステッキを一振りすれば…………今の今まで存在していたはずの女神の像がその姿を露と消した。ニューヨークに集った群衆がその光景を目にし、有り得ない、そんな馬鹿なと騒然となるのも無理からぬ事。

 

その様を遥か上空から見下ろす少年は芝居のかかった高笑いと共に群衆にマジックの成功を布告した。

 

少年の名は人呼んでプリンス・暁。世界中をおいてしても隔絶されたまごうこと無きイリュージョンは誰であってもタネを暴く事は出来ない。

 

 

四人目は、薄暗い研究室にて黙々と研究に励む少女。

 

 

彼女の研究室が置かれているのはなんと地球の衛星軌道上を周回する宇宙ステーションである。それも国際的な宇宙機関が製造したものでは無く、彼女手ずから製作された一品物だ。人が聞けば色々と突っ込ませろと声が上がりそうなものだが、それには異論を挟む余地など微塵も無い、止むに止まれぬ事情があるのだ。

 

彼女、大星林檎は知る人ぞ知る世界最高の科学者として名高い存在である。『小型核分裂炉』や『液体金属』『放射性廃棄物の完全無害化』等、彼女が世に齎したものは世界中において最早切り離せない発明ばかり。その発明の数々を生み出した頭脳は世界水準の数世紀先を行くと言われ、世界各国がその頭脳を手中に収めんとエージェントを差し向けてくるからなのである。

 

いくら凄腕のエージェントと言えど、宇宙まで追い縋る事は叶わない。なので彼女は昼夜という概念がほぼほぼ存在しない、青い地球を俯瞰できる宇宙ステーションにて日々を過ごしている。

 

 

五人目はラスベガスの夜景、所謂『100万ドルの夜景』を一望出来るレストランで美女と会食する少年。

 

 

一食で万札が帯をつけたまま飛んでいくであろうレストランに、国中の男を魅了してやまない新進気鋭の女優。世の男共に聞けば十人が十人とも、このシチュエーションを生み出した少年に羨望と殺意を向けるのではないだろうかだがしかし、二人の間に漂う空気は華やかなものでも、心躍るものでも、極上のシチュエーションに充てられたものでも無かった。理由は少年が目の間の美女をそっちのけでビジネスのお話に首ったけであるからだ。商談を取りまとめてディナーのお相手に向き合った時には既に彼女の姿は店内には無く、ウェイターによれば涙を零しながら出ていったらしい。

 

これには少年も残念そうに肩を竦めるが、はっきり言って自業自得も良い所だと言えるだろう。

 

そんな世界中の男共から殺意を一身に受けそうなこの少年の名は真田勝人。悪魔じみた先見の明を持ってしてあらゆる事業を成功させた実業家である。死に体の窮地にいた実家の家業を立て直し、今や世に出回る財貨の約三割に彼の息が掛かっているとすら揶揄される財界の魔王なのである。

 

…………なんだか凄い面より駄目な面が微妙に目立っている様に見えるが気にしてはいけない。

 

コホン、気を取り直して六人目の紹介をするとしよう。

 

 

六人目は乗っていた公用車から降りた所で突然として拳銃を向けられた少年。

 

 

愛と慈しみのある日本のためにと愛国の思想を高らかに上げ、拳銃の引き金を引こうとするこの男は言うまでもなく、目の前の少年を亡き者とする為に現れた襲撃者であった。しかし襲撃者が引き金を引くよりも先に、一発の銃声が昼間の大通りに響いた。

 

寸分違わず射抜かれた額から血と脳髄の混じったものをどろりと零しながら、糸を切られた人形の様にくたりと倒れ伏す襲撃者。

 

息絶えた人間が血溜まりを作り出す光景。

 

それをたまたま目にしてしまった群衆が次に次にと悲鳴を上げる中、標的とされていた少年、歴代最年少の内閣総理大臣・御子神司は暗殺を水際で防いだ秘書官に労いの声を掛けた。

 

実の所、彼がこうして凶行に見舞われるのは今に始まった事ではない。改正された公職選挙法によって彼が内閣総理大臣の役に就いて早二年。司は悪政で腐りきっていた政権内部を類稀なる手管を以て一新し、悪化の一途を辿っていた国内の福祉と治安、経済情勢を見事立て直すというめざましい実績を挙げた。しかしその実績と比例するだけの恨みや憎しみを買っている、今世界で最も多くの暗殺者に命を狙われている人間なのである。

 

 

七人目は東京スカイツリーの頂上に立つ報道腕章をつけた少女。

 

 

彼女は常人どころか人の範疇を逸脱している視力で先程の襲撃現場を俯瞰しながら手にしたスマートフォンに語り掛けていた。通話の相手は無論の事、御子神司である。

 

司とは、やれまた勝手にそんな所に登っているのかだとか仕方のないやつだなど程よい社交辞令を交えつつ、聞きたい事を聞き終えた少女はスマートフォンをしまい込む。結論から言えば、彼女は電話の相手から色良い返事が聞けてご満悦、といったところだろうか。

 

そうすると彼女は何でもないかの様に、地上から六三四メートル上空地点から身を投げた。彼女を知らない一般人が見ればたちまちに顔を青くして失神してしまう様な暴挙であるが、何らかの理由を以てした投身自殺などでは無いそれは単純に、彼女にとってそれが一番楽な移動方法だったから、というだけの事であった。

 

彼女の名は猿飛忍。先祖にかの猿飛佐助を持つ忍者の末裔にして、忍者の技能を駆使する事で地域密着の小さな噂話から、世界有数の先進国の抱えるコールタールよりもドロッとした機密情報まで例外なくすっぱ抜く世界最恐のジャーナリストである。

 

「ニンニン♪ 皆で集まるのは中学以来だから楽しみー♪ あ、確認ついでにソーイチの所行ってご飯貰おーかな?」

 

 

 

そして最後を飾る八人目は、忍の唐突な申し出により急遽厨房に立たされている体格の良い少年。

 

 

 

「あのさ忍、来るなら来るで構わないよ? 俺も数少ない友人をもてなすのはやぶさかじゃないし歓迎もするけどさ、それでも来る30分前に連絡してきてご飯くださいは無いと思うんだけどそこら辺どう思ってんのか聞いてもいいかな?」

 

只でさえ、彼女の企画によって押せ押せでスケジュールを組み上げて切羽詰まる状況にも関わらずだ。んなもん知ったこっちゃねえと言わんばかりに乗り込んできて食事を作らされている少年・沢渡惣一郎は嘆息混じりに愚痴を溢した。

 

「だから急にごめんって言ってるじゃーん…………ん〜♪ソーイチってばまた腕上げたねー?」

 

「そう言われても俺には解らないよ。()()()()()()?」

 

焼き上がって皿の上でジュウジュウと芳ばしい音と香りを立ち上らせる厚切りのステーキをナイフとフォークで切り分け、それにかぶりつく様に食べる忍は世界最高峰の腕を以て焼かれたステーキに舌鼓を打ちながら惣一郎を褒め称えるが、その手放しの賛辞を受けても惣一郎は顔を複雑そうに顰めるばかりだった。

 

「まあ勿論知ってるけどさ。シノブちゃんとしては賞賛くらいは素直に受け取っても、むぐむぐ……良いんじゃないかと思うのですよー?」

 

「まあ、俺としても友人達の賞賛ならそこら辺の『自称』舌の肥えたグルメの言葉とは比べ物にならないくらいには嬉しいけどね。そう簡単には割り切れないんだよ」

 

出来上がった柑橘系のフルーツソースをかけた生ハムのサラダを忍の前に出すとともに惣一郎は力無く答えると、スマートフォンのスケジュール管理アプリを立ち上げてうんうんと唸り始めた。

 

「農場は暫く行けないって富田さんに連絡いれておいて…………農場を回る予定の時間を支店の視察に回して…………」

 

「はぐはぐ…………いやー、大変そうだね?」

 

「ああ、まったくだよ!」

 

そんなわけで。このどうにも自分はこの少女に遊ばれている感が否めないなと眉間に寄った皺を揉みほぐす少年・沢渡惣一郎はミシュランガイドにて、現在三年連続で三ツ星を獲得している世界で最も注目される料理人だ。

 

更には彼が独自展開する広大な農場で栽培される野菜や果実は、他の農家では追随を許さない程に質が高く一流の料理店でも極めて重宝されていていつ如何なる時も品薄であったり等、料理だけでなく農業分野でも高い実績を打ち立てている。

 

世界中の料理研究家はそんな彼に対し、口を揃えてこう呼んだ。

 

こと料理分野に関しては、神は彼の上に人を作らず。即ち『天上の料理人』と。

 

 

 

以上。いずれも高校生の範疇に欠片ほども納まらない才を持つ八人の少年少女。人々はその卓越した能力と実績に対し、敬意と畏怖を込め彼等を『超人高校生』と称した。

 

…………だがある日、彼等八人が乗る航空機が広大な太平洋上でパタリと消息を絶った。

 

世界中の人々が全身全霊を以てして行った必死の捜索でも機体の残骸すら発見出来ず。

 

彼等は海中深くにその身を沈めてしまったのか。

 

否。そうではなかった。

 

 

 

これは遠く離れた地にて幕開けた、一つの物語の始まり。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。


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