天上の料理人も異世界を余裕で生き抜くようです   作:グリアノス

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アガルタ攻略で遅くなりました…………


1話

今日も今日とて腹は減る。

 

それは生きている以上避けては通れない必定の理。ならば料理人たる自身がこうして調理場に立つのもまた必定の理である。

 

グツグツ。コトコト。土作りの大鍋の中でじっくりと煮込まれたヤギ肉のシチューは官能的とも言える様な芳しさを周囲に漂わせている。

 

「ホント、こんなの誰が想像出来るってのさ…………」

 

十人居れば十人揃って垂涎の様相を晒しそうなシチューを作る惣一郎だが、先程からどうにも溜息が絶えない様子た。

 

理由としては友人のジャーナリストの企画に乗り、移動の為に乗り合わせた航空機がまさかまさかの墜落の憂き目にあった事が原因だった。

 

航空機には日本全国はおろか、世界各国を渡るために今まで数え切れない程乗ってきたと惣一郎自身は自負するものなのだが、まさかよりにもよって航空機事故に遭うなどとは微塵も想像していなかった。

 

惣一郎が懸念する嫌な想像というのは今回の一件、並びにその裏側となるであろうナニカに対してのものだ

 

航空機の事故に遭いつつも死ななかったのは僥倖と言う他ない。それは間違いなく言えることなのだが惣一郎には今回の一件には何かしらの因果が働いているのではないかと睨んでいた。

 

原型を留めないまでに機体が損傷していたにも関わらず、怪我を負ったとは言え搭乗者全員が生存している? 何の冗談だ。そんな事がまかり通るのであれば今まで起きてきた事故で命を落とした人達はどうなるのか。

 

いやそれ以前にだ。どうやって自分達をあの状況下で生かすことが出来たのか。

 

「…………まあ、その辺りも今後に関わってくるか」

 

今の段階では解らないことだらけ、というより解らないことしかないのでは最善解など出せるはずも無い。

 

いくらあり得ない事が起きたからと言って、原因が分からないのは変えようのない事だと思い直した惣一郎は目を細めながらボソリと呟いた。

 

そんな風に考え事をしつつシチューを煮込んでいると背後から声を掛けられる。調理場にひょっこりと顔を出したのは自分達の命の恩人とも言える人の一人。

 

「やあソウイチロウ。調子はどうだい?」

 

「最悪じゃないって程度です。けどまあ、動く分には問題はありませんね」

 

「まったく、よくそんな体で動けるもんだよ。アンタと一緒だった子たちは未だに目を覚まさないってのに」

 

「料理人は体力がモノを言いますからね。そこらの大人よりは鍛えてますし、健康管理には人一倍気を使ってますから」

 

むんっ!と腕に力を入れると血管を浮かばせながら力強く隆起する上腕二頭筋。料理によっては中に食材がぎっしりと詰まった重い寸胴鍋を持ち上げたりもする惣一郎は、それらを十全に行う為にも万全の肉体作りを心掛けていた。

 

更に言えば国を跨ぐ移動等も頻繁にある惣一郎には気候の差や時差ボケなどといった身体的負担も大きく、活力に溢れた強靭な肉体を作ることは避けて通れない事であった。

 

そういった事をかいつまんでウィノナに説明すると、彼女は得心がいったとばかりの反応を返す。

 

「しかしアンタ、料理人って言うだけあって料理が上手いんだね。美味そうな匂いが外にまで届いてたよ」

 

「ははは、今日の晩御飯を楽しみにしておいてくださいね」

 

「料理で気が逸るのなんていつぶりだろうね。夜が待ち遠しいよ」

 

「そうだウィノナさん、誰かに味を見てもらおうと思ってたんですけど、ちょうど良いので味見をお願いしても?」

 

惣一郎は側に置いておいた小さな器に鍋の中身をよそうと匙と共にウィノナに差し出す。

 

「お、こいつは嬉しいね。ありがたく頂くよ」

 

ウィノナはそれを受け取ると、ふーふーと息を吹きかけて匙ですくい上げたヤギ肉を口にする。

 

「……………………」

 

もぐもぐもぐもぐ、ごくん。

 

「……………………」

 

もぐもぐもぐもぐ、ごくん。

 

「……………………」

 

もぐもぐもぐもぐ、ごくん。

 

ヤギ肉の発する独特な臭みやクセというのはかなりキツい。しかし惣一郎が持つ現代の調理法を持ってすれば、きっちりと筋を取り除かれ、トロトロになるまで煮込まれた肉は咀嚼する必要がないと思わせる程に柔らかく、口の中で優しく解けていく。

 

黙々とシチューを口に運ぶウィノナだったがもともと小鉢の様な小さな皿によそったのもあってあっという間に皿の中身は胃に収められた。

 

「ウィノナさん。実はこれ、ちょっと多く作り過ぎちゃったんですよね。なのでもう少し食べていただけると嬉しいんですけど…………」

 

惣一郎の言葉にウィノナは黙って小鉢を差し出すだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして大絶賛の夕食から一晩明けた次の日。惣一郎はウィノナと共に目を覚ましたという司の元に足を向けていた。

 

「まずは一人目。いやぁ、俺たちがこうして助かったのもこの村の皆さんのお陰ですね」

 

「気にする必要は無いよソウイチロウ。死にかけてる奴を見かけたら助けるのは当然だろう?」

 

この村の備蓄を見るに得体の知れない余所者に施す余裕はお世辞にもあるとは言えないだろうにウィノナを始めとした村の皆は当然の事と言ってくれる。隣人同士の繋がりが形骸化しつつある現代日本の冷え切った価値観での元ではなかなか聞けない言葉だと惣一郎は思う。

 

「ありがとうございます。助けてくれたのが貴方達で本当に良かった」

 

「良いって事さ。こっちも文字通り美味しい思いをしてるんだからね」

 

「ははは。今日の夜も手塩に掛けて作らせて貰います、っとそういえばリルルちゃんが昨日のシチューを司の所に持っていってるんですよね?」

 

「ああ、ついさっき私の所に来て、目を覚ましたから食事は無いかって言われてね」

 

リルルというのは現代日本のファンタジー作品にて度々登場するエルフの様な長い耳が目を引く女の子で、ウィノナから聞くところによれば自分を含めた皆の面倒をウィノナを始めとした女衆と共に看てくれていたのだという。ある程度の役割分担は出来ていたのだろうが、それでも目を覚まさない怪我人が八人だ、その負担は誰から見ても相当なものだったのは言うまでもない。

 

「しかしソウイチロウ。昨日のアレだけど、皆があれだけ食べてた筈なのによく残ってたね?」

 

「それはですね。味見してもらったウィノナさんの反応から、昼のままの量だと残らないどころか足りないなと思ったので追加で作ったんです」

 

「よ、よく見てるんだね…………」

 

そう答えるウィノナの顔が薄っすらと赤くなる。

 

「それはそれとして、傷が治ったら俺も狩りに出るんで道具をお借りしても?」

 

「…………それはありがたい話だけどさ、アンタってば狩りまで出来るのかい?」

 

「ははは、料理人ですからね」

 

あえて言うまでもない事ではあるのだが、狩猟能力は料理人という職業における必須スキルでは無い。無いったら無いのだ。

 

「あ、畑仕事でも手伝えますので遠慮なく言ってくださいねウィノナさん」

 

「……………………そうかい。頼りにしてるよ」

 

狩猟だけでなく農作業までこなせるという、惣一郎の多芸さにウィノナはもはや諦めの境地に踏み込みつつあるようで、今更ながらになんだかとんでもない連中を拾ったんじゃないかと、ウィノナは眉間のあたりを指で揉みほぐしながらウィノナは独りごちた。

 

「さて………司、起きたばっかりだけどちゃんと食べ、ら………」

 

そうこうしている内に司の居る部屋に辿り着いた惣一郎とウィノナだったが、部屋に入って目に映った光景に言葉を失った。

 

確かに司は目を覚ましてはいたのだが、看病をしていたリルルと現在進行形で接触中であるというのは一体どういう事なのだろうか。

 

そしてリルルも後ろに惣一郎が居ると気づいたのか司との接触状態のまま固まってしまっていた。

 

「…………あー、うん。目を覚ましたとは聞いてたけど思いの外元気そうだね」

 

「あらあら〜? もしかしてアタシ達、お邪魔だった〜?」

 

「そうかもしれませんね。ウィノナさん、とりあえず1時間後くらいにまた来ましょうか」

 

「いや〜、若いって良いね〜!」

 

リルルが固まってしまったが故に、口を塞がれたままの司は若干悪ノリの入ったウィノナと若干現実逃避に陥った惣一郎を諭す事が出来ない。そして気を利かせると言わんばかりに部屋を後にするウィノナと惣一郎だったが、部屋を出て三秒も経たずに再び顔を覗かせた。

 

「司、避妊出来ないなら責任ちゃんとは取るんだよ?」

 

「リルル、気に入った男にはガツンと当たるんだよ!」

 

様子を見に来た二人に好き放題言われた司としては、このまま言われたままにしておくのは要らぬ誤解を残しかねないと思う所ではあるのだが………。

 

(彼女がこのままではどうしようもない、か…………)

 

唯一動かせる口を塞がれたままの今の司には、リルルの再起動を待つ事しか出来ないのであった。

 

 

 

後に司はこの時ほど口が聞けない事を歯痒く思った事は無いと語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。



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