新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ(完結済み)   作:KITT

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第二章 大自然とガミラスの脅威!
第十一話 絶体絶命!? ガミラスの罠!


 

 

 ガミラスの環境破壊で凍てついた氷の星となってしまった母なる星――地球。

 そこで懸命に明日へ命を繋いでいる人々の中に、旧ナデシコの通信士であり、地球が荒廃して以降もアイドルとして活動しているメグミ・レイナードの姿もあった。

 彼女もユリカの手回しもあって保護された1人で、彼女の家族も一緒になって保護されている。

 自分だけでなく両親にまで手が回ったのは、ユリカの要望を聞き入れたコウイチロウとアカツキの尽力によるものなので、軍やネルガルに良い印象の無いメグミも、その点に関しては素直に感謝の意を表していた。

 彼女は今、同じく保護された旧ナデシコのクルーであったハルカ・ミナトの見舞いに訪れていた。

 

 「ミナトさん、体の具合はどうですか?」

 

 「あらメグミちゃん、お久しぶり。見ての通り、もう全然平気よ」

 

 そう言ってミナトはわかり易くガッツポーズを取って見せる。実際軍に保護されてからはイスカンダル製の治療薬を工面して貰えたこともあり、ミナトの体調は倒れる前よりも良い位だった。

 

 「よかったぁ。倒れたって聞いた時は本当に心配だったんですよ。中々お見舞いにも来れなくてごめんなさい」

 

 そう言いながらメグミは持参した紙袋から、今は貴重になっている紅茶のティーバッグの箱を取り出す。今まで大事に残していた嗜好品である。

 

 「メグミちゃんは、確かあちこちの避難所とかシェルターで慰問ライブをしてるんだっけ?」

 

 「そうですよ――でも、皆気が立ってるのか、騒動になることも少なくないんです」

 

 沈痛な面持ちで語るメグミに、ミナトも相当苦労しているんだなと、労わりの表情を浮かべてそっと肩を叩く。

 メグミはガミラスの侵攻が始まってからもアイドルとして可能な限りあちこちを巡り、慎ましやかではあるが、無償でライブを行ったり、握手会を開くなどして少しでも人々を励まそうと苦心していた。

 勿論こんなご時世なので、治安の悪化などから危ない目に遭ったことも1度や2度ではないし、目的が目的なので当然お金にもならない。つまり、活動費用は自費になっている部分も多く、彼女自身の疲労もピークに達しようとしていた。

 

 軍とネルガルに保護されてからは、それらの活動に援助が付くようになったし、かつての同僚であるプロスペクターも護衛や交渉に力を貸してくれているので、幾分楽になった所だ。食事も質が良くなったので、何とか活動する体力を維持することも出来ているが、果たしてどれだけ続けられるかは自分でもわからなくなってきた。

 

 「大変ね、メグミちゃんも。でも、貴方の歌を聴いてると、私も元気が出てくるよ」

 

 そうやって励ましてくれるミナトに笑顔で応え、メグミは自分の想いを言葉にする。

 

 「そう言って貰えると嬉しいです。それに、私はユリカさん達が何とかしてくれるって、信じる事にしてますから――だから、ヤマトが帰ってくるまで、皆を励まし続けるって誓ったんです」

 

 正直に言えば、メグミとて絶望を感じている。木星とか火星の後継者とかの抗争とは桁の違う被害に、心折れそうになったことがある。

 だが、そんな時ひょっこりと顔を出したのは人体実験の後遺症で入院している、それも面会謝絶と言われていたユリカだった。

 かつての上司で、アキトを巡った恋敵。相性も良いとは言えない間柄だけに、最初はメグミも戸惑った。勿論彼女を、アキトを襲った非道な仕打ちについては知っていたし、具合が良くないと聞かされて心配しなかったわけではない。

 何だかんだ言って、2年近い時間を一緒に過ごして、苦楽を共にした仲間なのだから。

 

 「ユリカさん、はっきりと言ったんです。この状況を覆せる手段があるって。今はまだ表沙汰に出来ないけど、私達を助けてくれる異星人もいるって。その異星人の支援で、箱舟も用意出来るって、それはもう力強く断言してました」

 

 今だからこそわかる。それがイスカンダルと、宇宙戦艦ヤマトを意味していたと。

 

 「その時は絶対に人に言い触らさないでって念を押されて……でもその内皆にも知れるから、嘘じゃないからって。私が絶対に救って見せるって、凄く真剣な顔で宣言して……あの人、本当は病院で付きっきりの看病が必要な状態なのに」

 

 メグミは看護師の資格を持っているので当然相応の医学知識があるし、いざと言う時の応急処置くらいなら今でも出来る。

 だから、再会したユリカの顔色が優れず、何かしらの障害を抱えている事をすぐに見破った。

 

 まだ希望が残ってる、諦めたら駄目だと力説するユリカを1度は黙らせて、その病状について問い質した時は、しらばっくれ様としていたが、それでも問い詰めて吐かせた。予想通り、彼女の具合は芳しくなかった。

 

 当然メグミは安静にしていないと駄目だと訴えたのだが、ユリカは他と変わらぬ対応で丁重に断った。その理由については聞き出せなかったが、今彼女はヤマトと共に太陽系を飛び出して、イスカンダルに向かっている。

 

 ヤマトの存在とイスカンダルのメッセージについて発表された時、その少し前から出回るようになった新しい薬の存在と合わせて、メグミはイスカンダルの医療ならユリカの体を治せるのではないかと考え、ユリカが重病の体をおしてヤマトに乗り込んだのは、限界を迎えるより先にその医療に与ろうとしたからではないかと推測した。

 無論、メグミがユリカと最後に会ったのは半年以上も前の事で、現在の彼女の具合については知らされていない。だからこそ、ルリ達に比べると些か楽観的な予想ではあったが、概ね同じような推測に行き着いていた。

 

 「それに、さっきアカツキさんから聞いたんですけど、アキトさん、ヤマトに乗ったそうです」

 

 「ホントに!? ルリルリとの通信じゃそこまで話す余裕無かったから聞けてなかったんだけど……良かったぁ。ルリルリもユリカさんも、気が楽になったでしょうね」

 

 「ええ、きっとヤマトの中で所構わずイチャイチャして、周りを呆れさせてるんですよ」

 

 大正解であった。

 

 「ホントにね。ちゃんと帰って来れるか不安になっちゃうわ……」

 

 「でも案外何とかするんじゃないんですか。ユリカさん、何だかんだで私達をちゃんと平和な日常に返してくれましたから」

 

 ユリカの楽天的な振る舞いに不安を感じた事は数知れない。だが、彼女は何だかんだでナデシコを沈めさせなかったのだ。幸運による所もあったろうが、紛れもない事実である。

 正体不明の敵の新兵器を、その天才と称された頭脳で見事対処し撃ち破っても見せた。

 あのミラクルを期待するしかない。今の地球には、ヤマトとイスカンダル以外に縋るものが無いのだから。

 

 「そこで私、ホウメイガールズの皆と協力して新曲を作ることにしたんです。もうタイトルは決まってて、ユリカさんとヤマトについて歌ってみようかと」

 

 メグミの発言に驚いたミナトが目を丸くする。

 

 「あら! メグミちゃん戦争とかそう言うの嫌いじゃなかったっけ?」

 

 「嫌いですよ。だから、“ユリカさんとヤマトの歌”なんですよ。あの人って、ある意味軍人さんなのにイメージからほど遠い人ですから」

 

 そうはっきりと答える。どのような理由があっても、戦争だとか殺し合いは肯定出来ない。勿論そのための道具に過ぎないヤマトも、本来なら関わり合いたくない代物だ。

 しかし、道具は所詮使い方次第という考え方もあるし、今はあの艦を信じてみたいのだ。

 ――あの艦を指揮しているのは、かつての仲間なのだから。

 

 「なので、あの人の戦う動機なんかを考慮した題名は――」

 

 

 

 この愛を捧げて。

 

 

 

 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

 第二章 大自然とガミラスの脅威

 

 第十一話 絶体絶命!? ガミラスの罠!

 

 

 

 ガミラス帝国本星、銀河方面軍司令本部。

 ガミラス星の建造物は、いずれも植物を模したような有機的なデザインで構成されていて、この司令本部のデザインも、直線的なデザインが多用された高層ビルという感じの地球のそれと比べると、まるで巨大なツクシのような外見をしている。

 

 その建物に向かって、マントを翻しながらデスラー総統が歩いていた。

 地球のリムジンのような豪華な車から降り、赤い絨毯の引かれた道を歩き、階段を上る。その道の両端には、デスラーを迎える下士官や使用人がずらりと並び、ガミラス式の右手を掲げる敬礼を送る。

 デスラーはその中を悠々と歩き、長い廊下を世話係の者を引き連れながら進んでいく。

 中央作戦室に近づく、通路の端に控える軍人の階級も上がり、全員がそれまでの者達とは違う立派な軍服に身を包み、一様に敬礼しながら、

 

 「デスラー総統ばんざぁぁい! デスラー総統ばんざぁぁい!」

 

 とデスラーへの忠誠心を見せ、彼を称える。

 通路の照明の辺り具合によって、デスラーの肌は本来の青から時に肌色にも見える事がある。施設内の清潔さを保つための滅菌灯など影響によるものだが、デスラーとしてはやや疎ましく思える瞬間だ。

 衛生概念が希薄なのではなく、ガミラス人にとって青とは特別高貴な色とされている。如何なる理由があれそれが損なわれる瞬間と言うのは、ガミラス帝国をこよなく愛し、誇りとしているデスラーにとって不愉快な瞬間だ。

 

 そう、デスラーは決して私利私欲の為には権力を振るわない。その権力は全て誇り高きガミラス帝国の繁栄の為にこそ使われるべきものだと信じて疑わない。

 

 デスラーは大ガミラスの総統としての威厳たっぷりに通路を進み、中央作戦室に足を踏み入れる。そのまま奥にある自らの玉座の前に立ち、後ろを振り返り軽い笑みを浮かべて部下達に答礼する。

 そして悠然とした態度で自らの席に腰を下ろす。デスラーが腰を下ろした後、室内に控えていた部下達も自らの席に腰を下ろして身住まいを正す。

 

 今日、このような席が設けられたのは、ガミラスにとって甚だ不本意な大敗についての再度の検証と、その対策についてだ。

 

 「では、始めてくれたまえ」

 

 デスラーが促すと、傍らに控えていたヒス副総統が応じる。

 

 「は、それでは地球の宇宙戦艦ヤマト。その忌々しい航海ぶりについてご説明いたします」

 

 そう、今日の会議の題目は現在ガミラスが最優先で行っている地球攻略作戦を阻む強敵――宇宙戦艦ヤマトの動向だ。

 

 「デスラー紀元52年、301日に地球を出発したヤマトは、同年同日に太陽系第4惑星、火星宙域にワープテストを行い、成功させました」

 

 デスラーの眼前の巨大なモニターに、凍り付いた白い地球とその月、火星が、本来の距離を無視してわかり易く表示されている。その映像の中で、ヤマトの現在地を示す光点が、月軌道から火星軌道に瞬時に移動した。

 

 「地球の宇宙船としては初めて、光速を突破する性能を見せつけました。また、この際偵察に向かわせたデストロイヤー艦5隻を瞬く間に撃沈、続けて威力偵察に派遣したデストロイヤー艦4隻と高速十字空母2隻の攻撃を耐え凌ぎ、デストロイヤー艦4隻が撃沈、航空機部隊を壊滅に追い込んでいます」

 

 ヒスの報告に合わせて、モニターには回収されたヤマトとの交戦データが表示される。映像が主体だったが、その時間は戦果に対して短かった。

 最初のデストロイヤー艦5隻の時は、氷塊を割って出てから十数秒で呆気無く撃破されている。

 威力偵察に出した艦隊も、航空隊の死に物狂いとしか言いようのない猛攻に後れを取って碌にヤマトに攻撃出来なかった。

 とは言え、ヤマトに搭載されている航空機の性能がある程度計れたのは確かだ。どうやらヤマト出現の少し前から配備されるようになった強化型が主力の様で、見た事の無い大型爆弾を使い始めた以外は変化がない。だが、得体の知れない新型の姿がある。

 

 ガミラスも、大昔にはこの手のロボット兵器が実用化されていた時代がある。

 しかし、最終的にその版図を大マゼラン全域に広げていく過程で、より航続距離に優れ、生産性に優れた兵器を欲するようになり、最終的に大気圏内両用の宇宙戦闘機が主力兵器となった経緯がある。

 勿論、ガミラスにとって力の象徴である強大な宇宙艦艇の方が主役である事も影響し、その武装はあくまで宇宙艦艇の補助がメインで、様々な観点からビーム機銃と外装式の対艦ミサイルか対空ミサイルに留まっている。

 例外的に、敵の本星を攻略する目的の航空爆弾と、それを運用するための大型の重爆撃機も存在しているが、近年ではあまり使われていない。艦砲射撃や惑星間弾道ミサイルで賄える様になったからだ。

 

 そういう意味では、地球がロボット兵器――それも人型を模した兵器を航空戦力として使っている様は、ガミラス視点から見ると極めて古典的な人形遊びにしか見えない。

 尤も、その運動性能と火力は中々侮りがたく、度重なる実戦を経て洗練された我が軍の宇宙戦闘機相手に食らい付いてきているあたり、ボソンジャンプと同じく他文明の技術を吸収してそこそこ立派な人形を拵えたものだと、嘲笑を持って受け入れていた。

 だがその程度で覆せるほどガミラスは甘くない。物量も科学力も。

 

 「それで勢いを得たヤマトは、同年302日……我が軍が接収し、前線基地として使用していた第5惑星木星の大型の市民船を、タキオン波動収束砲の6連射を持って撃破しました」

 

 辛うじて得られた映像データには、ヤマトの艦首から吐き出された強力無比のタキオン波動バースト流が、凄まじい威力を持って駐屯していた艦隊諸共小天体にも匹敵する市民船6隻を苦も無く消滅させている姿が映っている。

 その圧倒的な威力に、ガミラス軍の将軍達が揃って息を飲み、血の気を失う。

 これほどの大砲は、ガミラスと言えども保有していない。少なくとも、艦載兵器としては。

 

 「ふふふ……しかし未熟な文明でありながらタキオン波動収束砲を使うとは、地球人も中々頑張るじゃないか。そう思わんかね、ヒス君?」

 

 他の面子と違い、唯一表情を動かしていないデスラーが余裕を見せてヒスに問う。勿論、内心ではこの結果を相当苦々しく思っているのだが、それを表に出しては総統など務まらない。

 偉大な大ガミラスの指導者として、余裕を見せる場面なのだ。

 

 「は……忌々しくはありますが、敵ながら天晴れな奮戦ぶりです」

 

 デスラーの顔色を窺いながらそう答えると、デスラーはくつくつと笑いながらヒスに報告を続けるよう促す。

 ――どうやら、機嫌を損ねずに済んだようだ。ヒスは内心ホッとしながら報告を続ける。

 

 「そして同年304日、第6惑星土星の衛星、タイタンにて何らかの作業を行ったと見られますが、偵察部隊が詳細を報告する前に撃破されてしまったため、不明です」

 

 その報告にはさしものデスラーも眉がわずかに動く。何の結果も出さずに敗退するなど、誇りある大ガミラスの恥だと言わんばかりに。

 その事を察しながらも己が職務を遂行すべく、ヒスの報告が続く。

 

 「同年309日、ヤマトは地球側が準惑星と呼ぶ冥王星に築いた、太陽系における我が軍最大の軍事拠点、冥王星前線基地に攻撃を仕掛けました。冥王星前線基地から退却した、副官のガンツが持ち帰ったデータによりますと、ヤマトは冥王星前線基地の全兵力、超大型ミサイル40発とデスラー総統が遣わした援軍含め、デストロイヤー艦120隻の艦隊、それに反射衛星砲の全てを退けて前線基地を撃破」

 

 その報告に改めて将軍達が顔を顰める。たかが戦艦1隻の戦果としては、ガミラスの目から見てもあまりに常識から外れている。

 

 「また、この戦闘でヤマトはタキオン波動収束砲を使用していません。つまり、ヤマトはタキオン波動収束砲の威力に頼ることなく、この戦果を挙げたことになります」

 

 その補足でとうとう会議に参加した将軍達が呻き声を上げる。

 戦略兵器に頼らずにそれだけの戦果を挙げたとなれば、推測されるヤマトのスペックは勿論の事、指揮官やその手足となって動くクルーの能力も凄まじい事になる。

 一方的に弄っていたはずの地球の思わぬ反撃に、歴戦の兵達もこれは空想の産物ではないかと疑いたくなる。だが、それをしてしまってはいよいよ敗北が濃厚になると、懸命に現実として受け止めた。

 

 「この事から推測されるヤマトのスペックは、我が軍の最新鋭宇宙戦艦、ドメラーズ級を遥かに凌ぐ事が判明しています。特に機関出力は、タキオン波動収束砲の仕様等から推測するに、ドメラーズ級の3倍以上――つまり波動エンジン6基分以上が確定しております」

 

 報告するヒスも頭が痛くなってきた。

 ヤマトがデスラーの言うように並行世界から漂着した艦だとしても、正直行き過ぎだと感じる。恐らく地球製なのは疑いようが無いだろうが、下手をするとその世界の地球は、科学力に関してはガミラスと同等、もしくは凌駕している可能性も否定出来ない。

 最低でも、軍事に関わる科学力、造船技術は同等だろう。

 だとしても、戦艦1隻にこれほどの性能を詰め込むとは――正気の沙汰ではない。万が一にも反乱など起こされたら、どうするつもりだったというのだ。

 

 「ガンツが持ち帰ったデータの内、映像記録がこちらになります」

 

 モニターに映し出されたのは、冥王星前線基地の猛攻を前に果敢に立ち向かうヤマトの姿。超大型ミサイルの猛攻も、艦隊による包囲も、全て巧みな操艦と攻撃目標の選択によって見事に耐え凌いだ。艦の性能も素晴らしいが、やはり指揮官の采配の素晴らしさも際立つ。

 

 「また、ヤマトは反射衛星砲の攻撃には対処しきれず、計3発の被弾で1度は冥王星の海洋に沈みましたが、事前に発進していたらしい敵新型機動兵器の攻撃で基地が破壊されてしまいました。敵新型機動兵器は、全高8m未満の大きさでありながら、我が軍の超大型ミサイルにも引けを取らない威力の戦略砲を搭載していたことが、この戦いで判明いたしました」

 

 モニターに流れる映像には、海面下の基地に向けてサテライトキャノンの狙いを定めるGファルコンDXの姿が映し出されている。

 まるで輝く羽を広げたかのようなシルエットには、デスラーを除いた将軍達が唸る。

 最近強化パーツを付けてガミラスの宇宙戦闘機に迫る機動力を手に入れ、持ち前の火力と運動性能にも磨きをかけたロボット兵器と同じく、戦闘機を模した強化パーツを装備した姿は、お世辞にも洗練されているとは言い難い。

 

 だが、その威力は本物だった。映像には両肩の大砲から強力なビームを発射し、海面下の基地をただの1撃で吹き飛ばす悪魔の姿がやや不鮮明な部分があれど、納められていたのだから。

 

 「艦載機にこのような火力を持たせるなんて……地球人は何を考えているのだ……!?」

 

 衝撃的な記録に将軍の1人が呻き声を出す。ガミラスでは航空戦力にこれほどの過剰火力を持たせることは絶対にしない。

 万が一の反乱も懸念されているし、何よりガミラスは大艦巨砲主義に根差した戦術思想を持つため、火力が欲しければ艦艇を使うのが一般的で、航空戦力の仕事は基本的に対航空戦力と敵艦隊の攪乱が主だ。

 

 これはガミラスが交戦した事のある惑星国家の全てにおいて共通している事で、「戦闘機に戦略兵器を標準装備する」発想自体がすでに時代遅れの産物なのだ。

 これも惑星間戦闘というスケールの広さと、それを可能とする宇宙戦艦の強力さに由来している。

 逆に、どの国家も惑星の中での戦争を繰り返していた頃は、航空戦力が戦いの主役となり、その過程で戦略装備を運用可能な戦闘機が登場する事ともあったが、全て過去の話だ。

 

 「また、映像や被害から推測するとこの砲は、恐らくタキオン粒子砲の一種であり、タキオン波動収束砲を機動兵器でも使えるように手直しした物と思われます。威力はオリジナルのタキオン波動収束砲には到底及びませんが、それでも戦局を左右するに足る威力があり、並大抵の手段では防ぐ事が出来ないと考えられます」

 

 窮鼠猫を噛む。そんなことわざが将軍達の脳裏をかすめる。イスカンダルの支援を得たとは言っても、自力で自らの太陽系を出る事も叶わない未熟な文明が、これほどの兵器を作り上げるとは……。

 必要は発明の母とは本当らしい。

 

 「その後ヤマトは、冥王星軌道の外側にある小惑星帯に身を潜め、冥王星基地を脱出したシュルツ以下、残存艦隊と交戦、これを撃破した模様です。先の戦略砲搭載型機動兵器も、通常兵装でこの戦闘に参加、それ以前に交戦した機動兵器とは別格の強さで我が軍を翻弄しています。また、この際ヤマトは周囲のアステロイドを何らかの装置で制御して攻防一体の戦術を披露するなど、ヤマトの戦い方は我々の常識では測れないものがあると言っても、過言ではないでしょう」

 

 予想だにしなかった地球の抵抗に、将軍達の顔色も冴えない。

 勿論、ガミラスの全力を叩きつけてやれば勝てない相手ではないだろう。所詮は1隻だ。が、1隻だからこその身軽さが、大艦隊との戦いに慣れたガミラスの裏を突けている気がする。

 

 数に頼った飽和攻撃を掛けたくても、あのタキオン波動収束砲を使われたら甚大な被害が出る。今の所収束射撃しか確認されていないが、広域放射が出来ないという保証がない。

 また、包囲殲滅も同士討ちの危険性を考慮すると自ずと数と隊列に限界がある。そしてヤマトは、単艦に対して密集可能な限界数と対等に渡り合った実績がある。

 血を流す覚悟無くしては決して勝てない強敵と言えよう。

 

 「同年334日、ヤマトは修理を終えたようで、小惑星帯から発進した事が確認されています――これが、現状得られているヤマトの全てです」

 

 それでヤマトの動向に関する報告は全て終わった。

 

 「総統、現在我が軍はヤマトに十分な戦力と労力を割ける状態にはありません。かと言って、半端な戦力を差し向けたとしても返り討ちに遭う危険性があります。そこで、艦隊戦力ではなく罠に嵌めて撃滅する方が得策だと考えます」

 

 ヒスの反対側に控えていたタラン将軍がそう進言する。

 タラン将軍はある意味デスラーが最も信頼する参謀と言っても過言ではない。政治面なら副総統のヒスが、軍事では現在本星を離れて大マゼラン防衛の為、ルビー戦線に赴いているドメル将軍が勝るが、彼は政治と軍部の双方に精通している。

 基本的に軍事も政治も統率しているデスラーにとって、両方の面で補佐を頼める優秀な人材だった。

 

 「ヤマトは恐らく長距離ワープの事前テストを兼ねてと思われますが、太陽系から4.25光年の距離にあるプロキシマ・ケンタウリ星系にワープアウトが確認されています。その星系の第1番惑星には、我が軍の採掘部隊が派遣されています」

 

 眼前のモニターに小規模ながら資源採掘を行っている工作艦の姿が映る。ガミラスの宇宙船の中でも最大級の大きさで、惑星からの資源採掘や浮きドックの代わりも務まる艦艇だ。

 

 「この惑星は恒星との距離が非常に近く、恒星に面した面は極めて高温になります。特にこの恒星は閃光星であり、その活動には波があります。しかし、それ故に他の星では余り類を見ない、特殊な耐熱金属資源を確保出来る星でもあります」

 

 タランの説明に合わせてモニター上にはその資源に関する簡略な資料が表示される。

 当然ガミラスはその金属資源を採掘している。地球攻略は早急に終わらせることが望ましい状況だが、兵站の確保を疎かには出来ない。

 恒星間航行可能な宇宙戦艦に使える金属資源は貴重だ。

 ガミラスが盛んに版図を広げに掛かれるのは、母星であるガミラス星にガミラシウムと呼ばれるエネルギー資源があり、ガミラス星が属するサンザー恒星系とその近くの恒星系にコスモナイトが豊富に埋蔵されているからだ。

 これがガミラスの宇宙進出を助けてくれていた。

 

 「恐らくヤマトは大規模な修理作業で資源を枯渇しかけている事でしょう。だとすれば、ヤマトはこの恒星系内で鉱物資源の採取を行う可能性は高いと思われます」

 

 タランの発言に将軍達も頷く。確かに単艦での作戦行動、しかも何が起こるかわからず常に自給自足していかなければならないヤマトの状況を鑑みれば、資源は喉から手が出るほど欲しいはずだ。

 

 「ですので、我々はこの星に罠を張ります。他の星は資源の採掘には向かない褐色矮星と、目ぼしい資源の無い岩石惑星のみですので、ヤマトは資源を求めてこの惑星を訪れると考えられます。予想されるヤマトの航路上に資源を得られそうな恒星系は決して多くありません。貴重な機会を見す見す棒に振る事は無いでしょう。ヤマトが確実に惑星に降下するよう仕向けるため、すでにこの惑星から我が部隊は撤退させ、採掘跡は巧妙に隠蔽しております」

 

 モニターには予想されるヤマトの進路と、隠蔽工作について事細かに描かれている。予想では、ヤマトは褐色矮星である第三惑星方向からプロキシマ・ケンタウリ星系に侵入し、第二惑星を経由して第一惑星に向かうとされている。

 もちろんこれは、効率的な探査航路を模索しての結果だ。

 

 「ヤマトが資源採取の為に惑星に降り立った後、恐らくおざなりな調査しかしないであろう第三惑星に隠れた工作部隊が惑星の死角から軌道上に侵入し、総統の名前を頂いた新型宇宙機雷、デスラー機雷で惑星を封鎖いたします」

 

 モニター上にはまるで金平糖のような形をした、青色の宇宙機雷が表示されている。大きさは球体部分の直径が3m程、棘の部分を含めても6m程とかなり小さい。

 

 「このデスラー機雷は総統の名を頂くに相応しい、高貴な青に染められているため、宇宙空間での低視認性も備えておりますし、ステルス塗装も兼ねているためまず長距離用のコスモレーダーには引っかかりません。そのため、ヤマトは資源を得て意気揚々と惑星を出た所で、この機雷に包囲されることになります。後は、機雷の動きを制御するコントロール機雷の指示に従い機雷は徐々に徐々にヤマトを絡め取り、閉じ込めます」

 

 モニター上のシミュレーション映像では、機雷原に突入したヤマトが絡め取られる様が映し出されている。

 

 「このデスラー機雷はワープの空間歪曲に反応しても起爆しますし、ボソンジャンプ対策も施されています。とは言え、現在までヤマトがボソンジャンプを行使した事はありません。波動エンジン搭載艦艇のボソンジャンプが極めて危険であることは、両者をある程度研究すれば自ずと知れる事ですので、ヤマト側も承知であると思われます。が、エンジン停止状態なら話は別です。ヤマトの工作員が使用した例が冥王星前線基地の交戦記録にある為、この機雷はボース粒子反応を検出して起爆する様にプログラムもされています。残念ながら、ジャミングではジャンプそのものを阻害は出来ないため、このような対策を取るほかありませんでした」

 

 ガミラスはかつてボソンジャンプの技術を持っていたのだが、波動エンジンと波動エネルギー理論が構築されたあたりから、その相性の悪さが引き起こす大事故の危険性が示唆され完全に封印されてしまった。

 この時はまだ交流が活発だったイスカンダルの技術者の後押しもあり、封印は速やかに行われたと伝えられている。

 外敵に使われた時のためにジャミングシステムとその概要こそ残されたが、ボソンジャンプそのものを実行するための手段やそれに繋がりかねない技術や情報は残されていない。

 

 ジャミングシステムも、ユリカがスターシアから聞かされたように出現時の位置と時間の座標を狂わせて精密さを失わせると言うのがメインで、イメージ伝達の阻害は出来ない。

 勿論、ジャミング範囲内では入力にも誤差が生じるのだが、ボソンジャンプの申し子たるユリカと、その夫であるアキトの繋がりが凌駕した。

 あの時アキトが成功出来たのは、実は演算ユニットとユリカがリンクしている事が原因で、薬でも抑えられないユリカの無意識がアキトを失うまいと強く補正した事が原因であった。

 勿論、アキトもそしてユリカもこの事実を知らないのだが……。

 

 「本来であれば、機雷原突入と同時に起爆したい所ですが、ヤマトの防御力と機雷の移動速度を考慮すると、すぐに起爆することは叶いません。機雷の間隔を徐々に狭め、最終的に機雷の放つ電磁波がヤマトに接触したところで起爆し、ヤマトを吹き飛ばす予定です。艦隊を投入して艦砲射撃と合わせる事も検討されましたが、ヤマトには例の戦略砲撃を可能とする艦載機があります。恐らくヤマトは機雷原に囚われた直後、周辺の警戒のために出撃させるでしょうし、あの出力から推測される有効射程外から砲撃する事は、我が軍の艦艇でも叶いません。よって、本来は冥王星基地への援軍を予定していながら間に合わなかった、多層式宇宙空母3隻がアルファ・ケンタウリ星系に再度派遣されております。搭載された新型戦闘機と爆撃機による攻撃で、ヤマトの艦載機部隊を封じる手筈です」

 

 モニターに映ったのは、全通式の飛行甲板を3段備えたガミラスではポピュラーな宇宙空母の姿。ガミラス艦の標準色である緑と青と紫に塗り分けられている。

 

 「恐らくヤマトは人型による機雷の撤去作業を試みるはずです。あの手の機械類の器用さと汎用性は、ガミラスとしても認めざるを得ません。しかし航空攻撃を仕掛けられれば、機雷の起爆を阻止するため迎撃に向かわせざるを得ないでしょう。あの戦略砲が航空戦闘に向いているとは思えませんので、1撃で壊滅とはいかないはずです。人型が航空部隊で足止めされることで機雷を撤去する労力を得られず、ヤマトは紙飛行機の様に儚く燃え尽きる事でしょう」

 

 タランの提示した作戦にデスラーも満足げに頷く。だが、作戦はこれだけではない。

 

 「私としては、ヤマトにはここで終わってもらいたいのだが、万が一にもこちらの策に乗らなかった場合に備えて、もう1つ策を用意してある。尤も、それを披露するのはヤマトが無事に突破したら、の話だがね」

 

 万が一にもあるまい、という態度を示し不敵に笑うデスラー。

 

 しかし、その胸中は複雑だ。

 

 あの大氷塊から飛び出して以降、デスラーはヤマトの存在を大層疎まくに思ってきた。

 偉大な大ガミラスに歯向かう愚かな艦、野蛮人が得た身の丈に合わぬ超兵器。

 それがデスラーのヤマト評だった。だったのだが……。

 

 (冥王星前線基地攻略戦のヤマトの姿。滅びゆく祖国の為に死に物狂いで向かって来るあの姿。この上なく美しく、そして力強かった……)

 

 デスラーのヤマトに対する評価が変化したきっかけは、敵前逃亡というガミラスでは死刑確定の大罪を2度も犯したガンツが、それすら承知で持ち帰ったデータだった。

 本当はすぐに処刑してしまうつもりだったが、必死の形相でデータの重要性を訴えるガンツに僅かばかりの猶予を与え、超空間通信で送られてきたデータを目にする。

 デスラーにとって初めて目にするヤマトの奮戦ぶりを克明に記録した映像データは、彼の目を捉えて離さなかった。

 あれだけの猛攻を耐え凌ぎ、最後の最後まで諦めずついに圧倒的戦力差を覆したヤマト。

 しかも、超兵器タキオン波動収束砲を封じたまま。

 

 (どのような困難に直面しようとも、生き抜いて護り抜こうとする強い意志を感じる。記録映像だというのに、それが色褪せる事無く伝わってくるとは……あの戦いぶりには一片の曇りも無い、まさに守護者の戦いぶり。敵ながら……本当に素晴らしい戦いぶりだった……)

 

 デスラーは戦士だ。大ガミラス帝国を背負う戦士なのだ。だからこそ戦士の心が理解出来る、ヤマトの戦いを支える心の強さが手に取るようにわかる。

 それが生み出した美し戦いぶりには、本当に惚れ惚れした。

 繊細かつ大胆な操艦が生み出す美しさ。それに的確な攻撃で確実に障害を打ち払っていく力強さ。

 その2つを支えているのは乗組員の練度の高さもそうだが、艦としてのスペックの優秀さ、何よりその背に祖国の命運を背負っているという使命感の強さだろう。

 

 (頑ななスターシアをも動かした人間――ミスマル・ユリカ……と言ったか……その女性がヤマトの艦長か――会って話してみたいものだが……)

 

 その事実もまた、デスラーがヤマトに急速に共感を覚え始めた理由の1つだった。

 あのスターシアが、頑なに封印してきたタキオン波動収束砲を提供しても良いと考えさせるような人物とは、一体どのような人柄をしているのか。個人的な興味も尽きない。

 

 3週間前に事故でイスカンダルに墜落した護送船に乗っていた捕虜なら、案外知っていたのかもしれないと思うと残念だ。

 デスラーはイスカンダルに墜落した護送船の詳細を問い質そうとはしなかった。

 ただ乗員の生死に関してはホットラインで問い合わせたが、彼女は「生存者は地球人1名だけ」と返した。

 本当なら捕虜の引き渡しを求めるべきなのだろうが、デスラーは敢えてそのままイスカンダルに置き去りにすることを選んだ。

 スターシアは孤独だ。日々の変化も乏しいあの星においては良い刺激になるだろうし、彼女の話し相手になるかもしれないのなら、多少こちらが損をしても構わない。

 

 もしかしたら、甘んじて滅びを受け入れようとする彼女が心変わりする切っ掛けになるかもしれない。

 

 そう思ってデスラーは、生き残った捕虜に関する情報を握り潰した。

 ただ、デスラーは1つだけ問うた。

 

 君に接触した地球人について僅かでも良い、教えてくれないか――と。

 

 スターシアはデスラーの要望に、

 

 「ミスマル・ユリカと言う女性です。彼女は愛する家族の未来を護るために、ヤマトの艦長としてこのイスカンダルに向かっています。勿論彼女には、私が知る限りのイスカンダルとガミラスの状況を全て、教えています」

 

 とだけ答えてくれた。

 デスラーはそれで十分と霊を述べた後通信を切った。この時得た情報は、未だデスラーの胸の内に留めている。

 

 本来なら最後の切り札になるであろうガミラスとイスカンダルの関係すら知られていては、今後の戦略に修正が必要だろう。

 それに、スターシアは「ミスマル・ユリカ」なる地球人に共感を抱いている事が、僅かにだが見て取れる。

 戦う理由としては個人的だと思うし、そもそも人を愛するという事の理解が乏しいデスラーには、それで国や民族の運命を背負って戦えるものなのかと理解に苦しむところはある。

 

 しかし――護るべき何かの為に戦う事の意味と強さは、デスラーも知っている。

 

 もしもガミラスが今、苦境に立たされていなかったら――地球制圧がもっと余裕のある作戦であったとしたら――きっとヤマトとの戦いをお遊びとしか思えなかっただろう。

 ユリカなる人物がスターシアに接触しようとも、特に気にも留めなかっただろう。

 

 しかし、今のデスラーは違う。ある意味ではヤマトと同じ状況に立たされている。

 

 祖国を救う為、全てを賭して抗う立場に。それが「愛」だというのであれば、まさしくヤマトとデスラーは同じ動機で戦っているのだ。

 

 その奇妙な感覚がそうさせたのだろうか、貴重なデータを持ち帰ったとして、デスラーはガンツに温情を与え、今回の機雷網による撃滅作戦が失敗した時の為の後詰めを任せている。生還は望めない作戦だと念押ししたが、シュルツの元に逝きたがっている彼らには、どうやら最上の任務になった様だ。

 敬愛する上官を討ち取られ、ヤマトへの敵意に溢れているガンツは命と引き換えてでもヤマトを討ち取ると誓いを立て、デスラーが送り込んだ補給隊と接触し、作戦に必須の装備一式を受け取る算段になっている。

 しかし、デスラーはこの2段構えの作戦をもってしても、ヤマトを止められないのではないかと、第六感が警鐘を鳴らすのを感じている。

 

 ヤマトは強い。それは単に優れた宇宙戦艦だからではない。

 人の意思だ。途轍もなく強い人の意思だ。

 それがヤマトに常識を超えた強さを与えている。

 だとすれば、かつてイスカンダルで研究された事があるという、人の意思を体現するマシンだとでも言うのだろうか。

 

 「ガミラスの科学の粋を集めた宇宙機雷です。如何に強力な宇宙戦艦だとしても、地球人の科学力では突破は不可能でしょう」

 

 デスラーに誇らしげに語るタランの姿に、デスラーは部下としての頼もしさを感じると同時に、ヤマトに対する考え方の違いをはっきりと感じた。

 タランもヤマト攻略のために同じ資料を見ているはずだが、デスラーの様に妙な共感を覚えたりはしていないのだろう。

 

 「とは言え、不可能に思われた冥王星前線基地攻略を成功させた艦が相手。油断して足元を掬われないよう、2段構えの作戦を構築した次第です――あの艦は祖国の命運を背負って飛び出してきた、いわば地球人類そのもの。映像記録からでもヒシヒシと感じる強い意志に敬意を表して対峙せねば、勝てぬ相手でしょう」

 

 訂正、タランもヤマトの強さの本質を感じ取っているようだ。これだからこの男を傍らに置いておきたいと思うのだ。

 その時、タランの部下の1人が中央作戦室の入り口に立ち敬礼を掲げる。

 

 「ご報告いたします。ヤマトがプロキシマ・ケンタウリ星系を航行中です。予想通り、第三惑星を通過した後、第二惑星を向かっています。この様子では、第一惑星にも向かうでしょう」

 

 どうやら予想通りに事が進んだ様子。ヤマトはきっとこのまま第一惑星に降下して資源の採掘を始めるだろう。

 罠が張り巡らされているとも知らずに。

 

 いや、デスラーだけは罠の可能性を考慮しながらも敢えて資源を採掘し、どのような罠であっても食い破って航海を続ける考えなのだろうと予測した。

 ガミラスの未来すらも砕きかねないヤマトに敵意はある。しかし、それと同時に奇妙な共感を抱くのを止められない。

 そんな気持ちが出たのだろう。デスラーはある意味では現状に相応しくない、しかしヤマトなど歯牙にもかけていないとするのであれば、適切とも言える言葉を口にしていた。

 

 「ふふふ……では諸君、宇宙戦艦ヤマトの無事を祈ろうではないか」

 

 従者が用意したグラスを掲げて不敵の笑みを浮かべる。グラスに映る自分の顔を見て、これなら妙な誤解は招くまいと安堵する。

 その時「ガハハハッ!」と不愉快な笑い声が耳に飛び込む。

 デスラーは不愉快そうに視線を送ると、

 

 「ヤマトの無事を祈るとは! 総統も相当、冗談がお好きなようですな!」

 

 と太めで髭を生やした中年の将軍が笑っているではないか。

 デスラーは無言で座席左側の肘掛けの一部をスライドさせ、タッチパネルを露にすると手早く操作した。

 その瞬間、下品な笑い声を上げていた将軍が座席毎床下に引き込まれて消え去る。その様を見ていた将軍達は視線を逸らし、素知らぬ顔で無言を貫く。

 

 「ガミラスに下品な男は不要だ……」

 

 そう言って改めてグラスを掲げる。その頃には全員にグラスが行き渡り、皆一様にグラスを掲げて、

 

 「デスラー総統ばんざぁぁい!」

 

 と唱和する。

 デスラーはそれを聞きながらグラスの中の酒に口を付ける。

 

 (さて、どうなるヤマト? ここで終わるとは思わんがね?)

 

 デスラーは早々にヤマトに消えて欲しいという気持ちと、ヤマトと直接対峙してみたいという気持ちがせめぎ合うのを感じながら、酒を飲み干した。

 さて、この作戦の結果が楽しみだ。

 

 結果が出るまでは、ガミラスの移民計画に関しての修正案について検討を進めるとしよう。

 地球の確保が遅れるにしても、カスケードブラックホールにガミラス本星が飲まれる前に国家を維持する対策を完了せねばならないのだ。

 それはガミラスの総統として、努々疎かに出来ない事案であった。

 

 

 

 

 

 

 宇宙戦艦ヤマトは、太陽系に別れを告げるワープ航法を終えた。

 青い閃光に包まれながら滲みだすように通常空間に復帰するヤマト。

 その輝きが消え去り本来の姿を現したヤマトの姿に、ワープテストの時のような傷は見えなかった。そして、以前とは違い安定翼を開いた姿でのワープであった。

 

 「ワープ終了!」

 

 操舵席でワープレバーを引き戻した大介が報告する。各計器はヤマトが無事に通常空間に復帰した事を告げている。

 予定通り、地球から4.25光年離れたプロキシマ・ケンタウリ星系の近海に出現していた。

 眼前には(宇宙規模の視点で)それほど離れていない恒星が1つ確認出来る。

 

 「艦の損傷認めず」

 

 艦内管理席の真田が計器をチェック。ヤマトの各所に設置された自己診断システムは異常が無いと知らせる。が、念のため工作班の面々を各所に派遣してチェックさせよう。

 

 「波動相転移エンジン、異常無し。引き続き検査を続けます」

 

 機関管理席のラピスも計器上はエンジンに異常が無い事を報告する。

 

 「どうやら上手く行ったみたい。私も特に何ともないみたいだし」

 

 艦長席のユリカがほっとした声を出す。

 前回のワープでは終了直後に気絶してしまったことを気にしていたのだが、どうやら今回は大丈夫だったようだ。

 

 「ええ、どうやらヤマトの改装作業は成功したようです――長い足止めも、悪い事ばかりではなかったようですね」

 

 真田が部下の報告を受け取りながらそんな感想を口にする。

 冥王星前線基地で大損害を受けたヤマトの修理は長期化し、25日も足止めを食らった。

 

 だが転んでもただでは起きないのがヤマト魂!

 

 修理が長期化する事が明白となった瞬間、真田とウリバタケは各部署の総責任者と一緒に会議を招集。

 発進から冥王星基地攻略作戦までのわずかな運用データではあるが、それと各部署の意見を聞いて回って出来る限りの改修作業を行ったのだ。

 

 まず最初にトラブルを起こした装甲の支持構造は、部品の品質と取り付け時のヒューマンエラーが主な原因だったようで、修理作業に並行したわずかな補強と手直しで想定値に近づける事が出来たはずだ。

 次に主砲や副砲、パルスブラストと言った重力波兵器。動作自体は問題は無いが、実戦で獲得したデータを基に、エネルギーの消費量やら重力波の収束率等に微調整が加えられた。これだけでも幾分違うはずだ。冷却装置にも少しだが手直しを加えたので、少しは連続使用時間が延長されたはず。

 衝撃で破損したり不具合を起こした部位は、やはり修理と並行して改修され、少しでも信頼性を高めるべく工作班の苦心が垣間見える。

 

 そして、一番の問題児である波動エンジンも再調整を加えていた。

 航行も戦闘もしないのなら、相転移エンジンの供給だけで賄えなくも無いので、特にトラブルを起こしていない6連相転移エンジンは稼働したまま波動エンジンを停止。

 1度熱で溶けたり折れたりしたエネルギー伝導管やコンデンサーも含めて、再度徹底的な検査が行われた。

 タイタンでの改修はやはり上手く行っていたようで、冥王星での激戦を経ても深刻なトラブルを起こす事は無く、その部位に目立った破損も不具合も見られなかった。

 が、問題が皆無というわけではない。

 

 確かにワープや波動砲の様に大量のエネルギーを1度に消耗したわけではないが、主砲や副砲にパルスブラスト。おまけにディストーションフィールドにディストーションブロックと、とにかく長時間に渡って大量のエネルギーを湯水の如く使いまくった。

 そのおかげでエンジンは常に全力回転を余儀なくされたし、被弾による衝撃等で制御システム等に小規模のトラブルが頻発。機関班はエンジンを保つのに大奮戦を余儀なくされたのである。

 

 その忙しさは戦闘班と比べても遜色が無いとまで評され、戦闘終了後は互いの健闘を称え合って仲の良くなった班員が多かったと聞く。

 なので、折角の停泊の機会に徹底して調整作業が行われるのは必然と言えた。

 

 「ワープによるエンジンの損傷を認めず。出力の回復も順調――再調整の甲斐があったようです」

 

 再調整の甲斐もあって、ヤマトの艦体は勿論、エンジンへの反動は見られない。

 タイタンでの改修の際は、時間的余裕の無さもあって破損した部品の交換と大雑把な調整しか出来なかったが、カイパーベルトでの長期修理中に時間をかけて調整した結果がちゃんと表れているようで、ラピスも満足気だ。

 後は、試射以降使用の機会に恵まれていない波動砲だ。改修したエンジンに妙な反動が生じないかどうかが気がかりである。

 

 「改装した主翼もワープ航法時のスタビライザーとしてちゃんと機能したようです。上手くいって良かった、これでワープ航法時の人体への影響を減らせると思います」

 

 そう、ヤマトが安定翼を開いたままワープした理由は、改装によってワープ航法時の衝撃を減らすスタビライザーとしての機能が開放されたからだ。

 改装された安定翼は重力波放射装置に手を加える事でタキオンフィールドを展開可能になり、それによってワープ航法開始時と終了時、つまり次元の壁を超える際の艦の安定を保ち、人体に掛かる加速度等の衝撃を和らげる保護バリアの役割を果たしてくれる。

 従来のヤマトの場合はそんな事をしなくても乗組員が慣れさえすれば問題無かったが、今回は重病のユリカが居る。それに、ヤマト自身身の丈に合わない改装で安定性に欠けると考えた真田が、少しでも信頼性を高めるために再建時に考案し実装していた機能だ。

 

 この発想に至った理由は、惑星の大気圏や宇宙気流の中、場合によってはガス雲の中くらいでしか用途が無く、使用頻度自体決して高く無いがオミットするには……というポジションだった安定翼なので、使い道を増やしてデッドウェイトにしないようにと言う考えである。

 ので、ワープのデータが得られてから段階的に改装していく予定が出航当時からあり、重力波放射機能を付加されていたのもその改装を視野に入れた設計の恩恵だ。

 

 技術的にはサテライトキャノンのリフレクターユニットと似た様な物なので、サテライトキャノンの研究・運用データが参考とされている。

 さらに、もう1つ秘匿されているシステムを使用するためにも必要な改装なので、折を見てそちらのテストもしてしまわなければならないだろう。

 

 真田は予想以上に上手くいった事に満足している。これで、ユリカの病状の進行が少しでも抑えられたら幸いだ。勿論、戦闘やトラブルで負傷者が出た時も、負傷者への負担を減らしつつ航行を続けられるというのは大きい。

 改装には怪我人の治療を終えて少し手の空いたイネスの協力もあったので、思いの外スムーズかつより高い完成度で仕上がった。やはり彼女は素晴らしい頭脳の持ち主だと改めて感服する。

 今後とも、仲良くしていきたい所だな、と真田は1人頷いた。

 

 「よし! じゃあ点検作業を続けながら、通常航行でプロキシマ・ケンタウリ星系に接近。可能であれば惑星から資源を採取しつて、それが完了次第、次の経由地であるオリオン座のベテルギウス近海に向けての大ワープテストを実行します。今度は地球から約642光年、現在地からでも638年は離れた遠方にワープするからね!」

 

 チェックを怠らないようにと釘を刺すユリカに、特に真田とラピスが強く頷く。

 航行責任者の島も関係者ではあるが、彼の場合はメカニズムに対してではなく、ワープの航路計算や天体観測データによる航路算出等が主だった仕事なのだ。

 なので、早速航路計算に移らなければならない。

 

 「それじゃあルリさん。すみませんがプロキシマ・ケンタウリ星系の観測と、そのデータ解析をお手伝い願えますか?」

 

 島はそうルリに要望を出す。一応電算室はハリでも扱えるが、ハリは航海班の副官として、一緒に航行艦橋である第二艦橋での解析作業に同席して貰いたい。となると、ルリか雪に頼むしかないのだ。

 地球からの観測では、1つ惑星が存在する事が観測されているが、もしかしたらヤマトの距離からなら発見されていない他の星があるかもしれないし、発見されている惑星にしても、有用な資源を得られるかもしれない。

 ヤマトの倉庫事情は依然厳しいままなのだ。

 

 「わかりました。すぐに始めますか?」

 

 「そうですね。自動操縦にセット、第二戦速でプロキシマ・ケンタウリ星系に向かって航行する様に設定しました。到着予定は10時間後を予定していますから、十分時間がありますね」

 

 島の操作で自動操縦に切り替わったヤマトは、安定翼を格納してメインノズルを点火。悠然と宇宙を航行し始める。

 

 「では、私も機関室に降りてエンジンの様子を直接見てきます」

 

 ラピスも機関制御席を立って早々にエレベーターに足を向けている。

 

 「艦長。俺も同行して構いませんか? 波動砲の制御装置の様子を見ておきたいので」

 

 「別に良いよ~。職務熱心でお母さん嬉しいよ……」

 

 よよよよ、と言った感じで涙を拭う振りをするユリカに「では失礼します」と、進は全く取り合う事無くラピスと一緒に第一艦橋を後にする。

 いい加減ユリカのあしらい方を学んだらしく、以前の様に赤面したり過剰に反応して恥ずかしがる事はほぼ無くなっていた。

 そのおかげか、自分の感情をコントロールする術も学んできたようで、ヤマト乗艦直後に比べると、直情的で熱血漢な部分が適度に抑えられつつあるようだ。

 

 「……進のイケずぅ~」

 

 顔の前で両手の人差し指を「ちょんちょん」とぶつけながら嘆くユリカだが、第一艦橋に残ったクルーは誰も取り合わない。

 通信席でエリナが右手で額を抑えて「はあ~」と溜息を吐いていた事が、ユリカの態度に対する唯一の反応と言って差し支えないのかもしれないが。

 

 

 

 進とラピスはエレベーターに乗りながら言葉を交わす。内容は普通に職務に関わらる事なので、2人とも真剣な表情だ。

 

 「ラピスちゃん、今のエンジンの状態で波動砲を使ったとしたら、問題出ないと思うか?」

 

 「難しい質問ですね。確かにエンジンも波動砲も、テストの時から可能な限りの改修は加えています。しかし、あれから波動砲は1度も使っていませんし、改修内容が正解なのかどうかは、やはり実用データが無いとはっきりとしたことは言えません」

 

 機関長として現状を正確に伝えるラピスに、進も「そうか……」と頷く。

 確かに発射時のデータを基にエンジンも波動砲の関連装置も調整を加えている。勿論ラピスはエンジンの改修と調整に自信を持っているが、だからと言って不安が消え去ったわけではない。

 

 「改装を訴えたユリカ姉さんには悪いと思いますが……やはりこの改装は無茶だったとしか考えられません。エンジン制御はまだ何とかなります。実際多少の不具合こそ起こしましたが、冥王星海戦では最後まで戦い抜く事が出来ました。しかし、ワープに比べて波動砲の負担は大き過ぎます」

 

 波動砲発射後の波動エンジンの惨状を思い出してラピスは身震いする。

 ワープの時も、エネルギー伝導管が溶ける被害を被ったが、比較的修理は簡単だった。その後の改修も上手くいっているようで、このプロキシマ・ケンタウリ星系へのワープでもトラブルを起こしていないようだ。

 

 しかし、波動砲はもっと酷かった。

 エネルギー伝導管どころかコンデンサーも複数破損してしまった。それに波動砲口周辺の装甲板にも亀裂が入った。

 幸いにもライフリングチューブや2つの収束装置は損害を免れたようだが、波動砲の反動の大きさに一抹の不安を覚えたのも事実。

 勿論、あの時の甚大な被害は本来反動を吸収してヤマトを空間に固定するのみならず、艦全体の保護にも使われる重力アンカーが正常に作動しなかった事も原因ではあった。

 一応、あの時の経験を基にした改修を行い微調整を繰り返しているが、やはり撃ってみないとわからない。

 

 「単発での発射なら大丈夫だと思います――でも、連射の反動に耐えられるかどうかは保証出来ません……ユリカ姉さんは、一体どうして波動砲の連射なんて考えたんでしょうか? そのためのエンジン強化のおかげで、冥王星基地攻略を成したと言えなくも無いですが、そもそもあそこまで過剰戦力をぶつけられたのはトランジッション波動砲のせいじゃないかって、思うんです」

 

 ラピスの意見は尤もだと進は考える。とは言え、波動砲は例え1発であっても想像を絶する威力の超兵器であることに変わりない。

 結局、波動砲の存在が敵を刺激したには違いないだろう。それに……、

 

 (ガミラスはやけに必死だった。波動砲が怖いのはわかる。だがそれでも……たかが1隻に過剰戦力も辞さないなんて、自分達の優位性を信じて疑わなかったガミラスにしては、やけに切り替えが早くないか?)

 

 進はそこが気掛かりだった。如何にヤマトが強力でも、所詮は1隻。

 直接戦闘指揮を執る事は無かったが、冥王星海戦の時の敵艦の数は些か大袈裟に思える。

 進が知るガミラスだったら、自分達の優位性を疑う事無く、それこそゲーム感覚で適当に叩こうとするのが常だと思う。

 

 それなのに、いきなり形振り構わない全力を尽くしてきた。

 勿論冥王星前線基地にとっては目の前の脅威だからわからないでもないが――それだけでは説明が付かない必死さを感じた気がする。

 進はアキトと共に、ヤマトに恐れを抱いている基地要員の姿を直接見ているのだ。

 

 あれではまるで、ヤマトがガミラスそのものにとっても脅威になると言わんばかりの慌てようだった。

 

 「確かにトランジッション波動砲は過ぎた力だと思う。だけど、その存在が俺達の航海の安全を守ってくれている気もしてるんだ。あれだけの超兵器、向けられたくないのは誰だって一緒だろうしね」

 

 進は努めて冷静にラピスに自分の意見を言う。幾ら機関長の任を拝命しているとはいえ、まだ13になったばかりの少女なのだ。それに、進にとっては可愛い妹分。徒に不安がらせることは言いたくない。

 

 「それだと良いのですが……」

 

 それでもラピスの表情はあまり明るくない。そんなラピスと一緒に、進はヤマトの機関室に足を踏み入れる。

 

 艦首側にあるドアを潜れば、眼の前にはワープエンジンを含めれば、全長が160mにも達する長大な6連波動相転移エンジンがその威容を見せつける。機関室にある部分だけなら110mと幾分短くなるが、従来の地球艦艇では類を見ない超大型複合エンジンだ。

 その先端部分に、波動砲の薬室と突入ボルトを兼ねている6連相転移エンジンがある。

 回転弾倉式拳銃用のスピードローダーを彷彿とさせる、実包のような配置の小相転移炉心。

 中央にある動力伝達装置とも呼ばれる波動砲の薬室部分。

 

 「何時見ても、凄いよなぁ……このエンジン」

 

 「ええ。ナデシコCと比較しても24倍以上ですからね、最大出力だと」

 

 ラピスの言葉に改めてこの巨大連装エンジンの凄まじさがわかる。

 そもそも、従来の相転移エンジンでは最高クラスの出力を誇っていた改修後のナデシコCのエンジンよりも、眼前の小炉心の方が出力は上だ。それが6つ。

 大炉心の方は、エネルギーの収束と波動エンジンへの供給用でエネルギーを生み出していないから除外しても、この部分だけでナデシコCの4倍近い出力がある。

 その出力が、波動炉心で波動エネルギーとして出力されると、6倍化されて24倍もの大出力を生み出す。

 333mと言うサイズの宇宙戦艦には、あまりにも過大な出力だ。

 

 「それに、その出力も技術的に未熟でエンジンのポテンシャルを引き出せていない現段階での話ですから、もっと理解が進んで、ポテンシャルを引き出せるように手を加えたら……」

 

 もっと増える。ラピスは暗にそう告げた。

 それは、ガミラスで最も交戦経験が多いあの駆逐艦クラスと比較しても、8倍越えと言う絶大な出力差を持っている。

 それが生み出すパワーを利用した攻撃力と防御力、そして機動力。それらを最大限に生かしたヤマトはあれほど苦戦を強いられていた、いや、そんな表現すらも生ぬるい程圧倒されていたガミラス艦隊相手に、真っ向から立ち向かえるだけのポテンシャルがある。

 再建される前のヤマトのスペックも把握しているが、炉心の強化によるパワーアップは凄まじく効果的だったと言える。

 もしもこのエンジンを採用していなければ……仮に主砲を重力衝撃波砲に換装しようが、ディストーションフィールドを搭載しようが、ヤマトはもっと不利な戦いを強いられていただろう。

 勿論、過大な出力の対価として艦全体の完成度を低下させ、旧ヤマトでは乗り越えていたであろう問題が幾つも再発し、未だ根治に至っていない。

 

 「最初に出航した時は、これでガミラスに勝てるって……単純に浮かれてたんだよな」

 

 「はい。あの時はそれが当然だと思いますけど、浅はかだったとも思っています」

 

 あの時の進達は、ようやく対等になれた事にだけ意識が向いていて、その力が何をもたらすのかまでは考えていなかった。

 恐らくユリカ以外は、同じだったはずだ。

 

 「あ、機関長! それに古代さんも!」

 

 眼前で相転移エンジンと波動エンジンを繋ぐ、エネルギー整流装置――スーパーチャージャーに取り付いていた太助が、並び立って歩く2人に気付いて敬礼と挨拶をする。

 その陰になるところで整備作業を手伝っていた山崎も、油汚れで黒くなった手をウエスで拭いながら太助同様に敬礼と挨拶をした。

 

 「機関長、ワープ後の確認作業ですか?」

 

 「はい、山崎さん。第一艦橋の計器だけでは全貌がわかり難くて……」

 

 機関制御席だと全体のエネルギー管理やエンジンの自己診断システムによる状況はわかっても、実際のメカニズムの具合はわかりにくいのだ。

 

 「古代さんはどうしたんですか? 戦闘班長が機関室に用って事は……」

 

 「ああ、察しの通り波動砲に用があるんだ、徳川」

 

 一応進の後輩に当たる太助なので、2人の間には多少の上下関係があった。

 と言っても、ユリカに毒された進は割とフレンドリーで、修理作業の時も波動砲絡みで何度か機関室に足を運んだ進なので、この場に現れてもあまり嫌な顔をされていない。

 何しろ波動砲の引き金を引くのは進なので、気にするのも当然だろうと思われているのである。

 

 ただし偶に“進お兄さん”と笑われるが。

 

 「なあ徳川。お前から見てトランジッション波動砲のメカニズムに、何か疑問とかは無いのか? ほら、イスカンダルからデータが送られて来たんだろ? そこに何か良くわからないものがあったとか」

 

 そう言われて太助は答えに窮する。所詮下っ端に過ぎない自分が告げて良いものなのか判断に困ったのだ。そう、進の疑問の答えは太助も、いや機関士なら全員が知っている。

 

 「古代さん。疑問に思われている通り、波動砲には……正確には、それも含めたエンジンの制御システムには、ハード・ソフト両方にブラックボックスがあります」

 

 太助の隣にいた山崎がそう答える。進の隣のラピスが「構わない」と目で告げたのに気づいたからだ。

 

 「ブラックボックス?」

 

 「ええ。トランジッション波動砲や6連波動相転移エンジンの制御システムには、普段は機能していない正体不明のシステムが組み込まれています――例の通信カプセルを覚えていますか?」

 

 「はい。ユリカさんが、サーシアさんってイスカンダルの人から受け取った、あのカプセルですよね?」

 

 進の答えに山崎も太助も頷く。

 

 「古代さん、実は、その通信カプセルがエンジンの制御装置に組み込まれてるんです。提供された図面に、必ず制御装置に組み込むようにと指示が書かれていたんですよ」

 

 太助が困惑気な表情で告げると、進は大層驚いた様子で「あのカプセルが?」と少々間抜けな声を出す。

 

 「そうなんです。私も組み込む前にルリ姉さんに解析を依頼したんですけど、プログラムの中に解析出来ない部分があると報告を受けて、ブラックボックスの存在が判明したんです。とは言え、無理に抉じ開けて駄目にしてしまっては本末転倒でしたし、当時の私達の技術力だと、このエンジンの制御プログラムを完成させられなかったので……」

 

 悔しそうなラピスに「仕方ないじゃないか、未知のエンジンなんだから」とフォローをしながらも、進はさらに追及してみる。

 すると、組み込んだ通信カプセルは確かに通常時にはエンジンの制御プログラムとして機能していて、膨大なエネルギーを生み出すエンジンを事細かに制御している。

 

 しかし、エンジンに組み込んでみた後判明した事があった。

 てっきり制御に必要と思われていたブラックボックス部分は、全く動作していない事が判明したのだ。

 しかも、それ以外の制御プログラムはルリ達にも解析出来た部分であり、エンジン制御はそこでのみ行われていたのだ。

 また、トランジッション波動砲にも使われていないハードウェアが組み込まれていて、それも波動砲を発射するまでは存在が知れないようにと巧妙に隠蔽されていたと言うのだ。

 

 今の所問題は出ていないが、それが何を意味しているのか未だに解析出来ていない。

 機能していないのに、ブラックボックスは他のプログラムやハードウェアと密接に絡んでいて、手が出せなかったのである。

 

 「ユリカさんには報告したのか?」

 

 「ええ、でも艦長が放っておいて良いと取り合ってくれなくて……まあ、ヤマトの再建に最初から関わっている人ですし、僕達には知らされていない秘密の1つや2つあるのかもしれないですけど、ちょっと不安ですよ」

 

 「ユリカ姉さんはイスカンダルは信じて大丈夫だから、必要な物なんだよって言っていましたし、凄く自信たっぷりだった事もあってそれ以上追及するのが憚れて……」

 

 ラピスの補足に進も「ふむ」と頷く。

 

 「わかった、とりあえずこれ以上の追及は無意味そうだし止めておくよ――とにかく、現状波動砲に問題は無い、と考えて良いんだな?」

 

 進の言葉にラピスは勿論と頷く。エレベーター内で話した通り、不安は残るが単発での使用なら恐らく大丈夫だ。

 

 「ただ、繰り返しますが連射の反動はまだ不安が残ります。それに、ワープ直後の使用は艦体に負荷が掛かって損傷する危険があります。威力もそうですが、ヤマトへの負担を考えると安易な使用は首を絞めると考えて下さい」

 

 ラピスに念を押されて「わかった、気を付けるよ」と朗らかに答えて進は機関室を後にする。だが機関室を出る時に、6連炉心を一瞥する。

 

 機関室を出て、第一艦橋には戻らず格納庫で機体の整備作業をすると断りを入れてから格納庫に入り、愛機であるコスモゼロの格納スペースに入り込むと、コックピットの中に滑り込んでハッチを閉じる。

 

 「なるほど。波動砲とエンジンにブラックボックスか……となると、これがユリカさんとイスカンダルの秘密に繋がってるみたいだな」

 

 何故波動砲のデータ、それも旧ヤマトを凌ぐトランジッション波動砲を地球に提供したのか。それと密接に絡んだ6連波動相転移エンジン。

 そしてハードとソフトの双方に仕込まれた、ブラックボックス。

 進は着実に答えに近づいていると、感が囁くのを感じた。全ての謎が解けた時、果たして真実を受け止められるのかはわからない。

 

 だが、漠然と如何なる真実であっても受け入れなければならないと感じ取っていた。

 

 

 

 10時間後、ヤマトはプロキシマ・ケンタウリ星系に接近していた。丁度第三惑星である褐色矮星が進路上にあるが、あれは木星などと同じくガスの塊の天体、と言うより太陽のなりそこないと言われることもある天体なので、ヤマトが欲する資源を得ることは出来ない。よって詳細な調査予定が無い。

 

 「何か、太陽に比べると可愛らしい大きさだね」

 

 マスターパネルに映るプロキシマ・ケンタウリの映像と比較された太陽の大きさを見て、率直な感想を漏らすユリカ。

 

 「確か、プロキシマ・ケンタウリは赤色矮星だから、恒星としては特に小さい部類に入るんじゃなかったかしら? ヤマトに乗る前に少し天文学を少し齧ってみた時に書いてあったけど」

 

 エリナがそんな補足を入れた瞬間、彼女は来た。

 

 「説明しましょう!」

 

 やっぱりか。と全クルーが心の中で呟いた。

 

 「調査時間を減らしたくないから手短に済ませるわね。プロキシマ・ケンタウリは地球から最も近い位置にある恒星で、赤色矮星という主系列星と呼ばれる時期の恒星としては最も小さい部類に入る星よ。大きさは大体太陽の1/7で、質量は1/8程、平均密度は40倍と言われているわ。ヤマトでの観測結果も大体合ってたわね。磁気活動によって不規則かつ急激に明るさが変化する爆発型変光星――くじら座UV型変光星の一種でもあるわね。赤色矮星は質量が小さく核融合反応が緩やかに行われるため、私達が良く知る太陽よりもずっと寿命が長く、それこそ宇宙創成からすぐに誕生した星ですら、まだ寿命を迎えていないと言われているわ。プロキシマ・ケンタウリは、地球から最も近い事もあって、しばしば恒星間航行の目的地として挙げられているわよ。これ豆知識。以上、簡易だったけれど、イネス・フレサンジュでした」

 

 空気を呼んだのか至ってシンプルな説明で終わらせてイネスの放送は終わった。というよりも、自分がさらに調査したくて早々に打ち切ったのだろうと、付き合いの長いエリナと趣味が似ている真田は感付いていた。

 

 実際、ヤマトが接近して初めて観測出来たのだが、地球から観測されていた岩石型惑星の他に、それよりも少し外側の軌道に褐色矮星が1つ、それよりも内側の軌道に地球より少し小さいサイズの岩石型惑星が1つ確認された。

 褐色矮星はともかく、岩石型惑星は何らかの鉱物資源を得られる可能性がある以上、俄然調査の意欲が高まる。

 しかも太陽系外の天体を直接観測するのは初めてなのだから、可能であれば褐色矮星にプロキシマ・ケンタウリも調査もしたいと言う欲求はあるはず――いやあるに違いない。

 その気持ちは真田もわかる。人類で初めて太陽系外の天体に接近したのだ――それも太陽系には無い褐色矮星に赤色矮星。調べたい気持ちはある。

 

 とは言え、ヤマトの旅が成功すれば波動エンジンを搭載した艦艇が量産されるのだろうから、いずれそのような機会もあるだろうし、タキオン粒子を使用した超長距離測定技術が誕生した事もあり、太陽系からでも今までよりもずっと精度の高い観測が可能にはなるだろう。……が、やはり現物を生で見るのは素晴らしい感動を得られる。

 ゆくゆくは、ヤマトをそう言った用途に改装して、この大宇宙を探査して回るのも面白いのかもしれないな、と真田は考える。

 

 退役したヤマトを払い下げて貰えるのなら、だが。

 

 「艦長、第一惑星と第二惑星は岩石型惑星ですので、もしかしたら資源を得られるかもしれません。地表近くに鉱脈があれば短時間で採集が出来るはずです。浅い場所にあるのなら、乱暴な手段にはなりますが、ヤマトの砲撃やサテライトキャノンで地表を吹き飛ばして採掘する事も可能です」

 

 さらっと怖い事を言う。隣の席のハリ等はその光景を想像したのか引き攣った顔をしている。

 砲撃で巻き起こる粉塵に飛び散る大地。

 自然を大切にね。とかいう謳い文句が脳裏を過った。

 

 「まあ時短の為にはそれくらいしないとどうにもなりませんよね……悠長に発破なんてしてられないし、さっさと回収しようとしたらそれしかないんだよねぇ~」

 

 ユリカは憂鬱そうな顔で真田の意見を肯定する。

 惑星の環境破壊などを考慮すると過剰手段にも程があるし、生命の存在を考慮するならそもそも不必要に惑星に立ち寄ること自体が問題行為なのだが、ヤマトはその目的の都合から、航海の成功に必要であるのなら必要分だけの作業は政府から許可されている。

 尤も、許可が無くても問答無用で採掘を行ったのがユリカだが、ヤマトの存在故に不問とされている。

 

 「とにかく接近しよう。ガミラスへの警戒は怠らないでね。太陽系に一番近い恒星系だから、ガミラスも中継地にしている可能性があるしね。もしかしたら、希少資源とかがあって、ガミラスが採掘してるかもしれないしね」

 

 あははは、と笑うユリカに頷き真田はルリに改めて解析と警戒を促す。勿論ハリも、航行補佐席で周辺宙域の不審な動きが無いかを警戒する。

 航行補佐席だけあって、航路探査にも不可欠な周辺の重力異常や空間歪曲等を探知するのに向いている。

 

 「赤色矮星とは言え恒星系だものね。さしものタキオン光学測定も、惑星の近海まで接近しないと鉱物資源の探査が無理なのが残念だわ」

 

 エリナが一応自社で形にした新しい探査システムの数少ない弱点に嘆息する。

 光学測定の名の通り、タキオン粒子が発する光を使っている以上、光によって阻害される事がある。特に恒星系では主星の輝きに飲まれて惑星探査に支障が出る事も多いのだ。

 実際太陽系の場合、太陽から遠く殆ど恩恵に与れない土星以降の天体で何とか離れた位置からの探査が出来る程度だ。

 

 赤色矮星のプロキシマ・ケンタウリは太陽の1/7程度の大きさとは言え、密度的には太陽の8倍の恒星風出している。それに、閃光星の都合から安定した光量を保っていないため殊更観測が難しい。

 今プロキシマ・ケンタウリは、急激に増光しては元に戻る、という活動を数回繰り返していた。急激な光の変化対応すべく、ヤマトは窓に装甲シャッターを下ろして艦内を保護していた。

 一応ヤマトの窓には減光フィルター機能が追加されたのだが、それでも限度がある。

 波動砲もそうだが、恒星に接近すればその強烈な光が窓から飛び込んで内側を焼き尽くしかねず、艦長室で生活するユリカの要望に応える形で、それはもう嬉々としてアイデアを絞って修理作業と並行して全ての窓という窓に処置を施したのだ。――ウリバタケが。

 

 なお、減光フィルターを搭載した関係でヤマトの窓は、それまでの透明から赤味の強いオレンジ色に見え、内側からの光をあまり外部に出さない特徴がある。

 内側から外を見る分にはほとんど色が見えない、マジックミラーのような性質もあるようだが、良くもこんなアイデアを思い付いたものだと、皆感心したものだ。

 

 そうこうしている内に、ヤマトはプロキシマ・ケンタウリ第二惑星の重力影響圏内に入った。

 地球よりもほんの少しだけ大きな岩石型惑星の姿が見える。さて、本腰を入れて惑星の鉱物資源の探査活動を行おう。

 

 「真田さん、ルリちゃんとハーリー君と協力して、プロキシマ・ケンタウリ第二惑星の調査を継続して下さい。有用な資源があるようなら、確保していきます。今は消耗したヤマトの倉庫事情を潤すチャンスを見逃せません」

 

 「ガミラスが近くに居ない事を祈ろう。採掘作業中はヤマトも無防備だしね」

 

 ジュンは不安げだった。太陽系外ともなれば、人類はほとんど何も知らないに等しい。地球からの観測データは、当然だが年単位で古いものになる。

 光の速度より速く伝達される情報が自然界に無い以上、光年単位で離れると情報も距離の数字分古いものになるのは避けれれない。

 それに、地球から観測出来る天体の大半は恒星で、惑星の存在を知る事が出来てもその詳細な姿と特性を知る事は極めて難しいのだ。

 

 「ヤマトの目的地は知られてるだろうけど、それにしたって艦隊戦力で叩くなら戦場を選ぶと思うよ。やみくもに戦って勝てる相手だとは思われてないでしょ」

 

 波動砲もあるし、とユリカは言外に匂わせつつ断言した。太陽系内での拠点だったとはいえ、冥王星での戦いを経験した限りでは、敵はヤマトを相当脅威に感じているようだった。

 

 見えない不安を払拭しきることは出来なかったが、それでも資源を求めて惑星の探査作業に移る事になった。勿論、周辺への警戒は怠らない。

 特に探査作業に従事する真田とルリは忙しい。ルリは高精度解析を行うため第三艦橋に急降下。いい加減慣れた様で、悲鳴は聞こえなくなった。

 

 ルリが第三艦橋に移動して準備を終えると、ヤマトは探知装置をフル活用して惑星の組成や鉱物資源に関しての調査を開始する。

 第三艦橋の探査プローブ(小)のハッチが2つ開いて中から小サイズの探査プローブが射出される。

 こちらは惑星の地表探査に特化したもので、先の光学測定器を使用して惑星の金属資源の分析作業が開始される。

 タキオン粒子の放つ光は粒子の放つ波動の影響か、物体を透過しやすい性質があるようでこの手の探査作業に向いていた。勿論、その反応を見てどのような資源が得られるかを見極めるのは、システムもそうだが扱うオペレーターの手腕に依存するところも大きいが。

 

 プローブが取得したデータが第三艦橋(電算室)でノイズなどを除去された状態で真田の艦内管理席に送り込まれ、そこのデータと比較して惑星の鉱物組成等を改めて確認する。

 電算室との連動で情報処理能力が格段に向上したヤマトであるが、電算室だけで全ての情報処理を賄っているわけではない。

 首脳陣が詰める第一艦橋の各々の座席には、それぞれの役割に特化した情報や処理能力が与えられており、双方に補完し合う事で初めてヤマトはその優れた情報処理能力を活かしきれる。

 今も電算室が収集し、解析したデータを改めて真田が確認する事で、単に解析したデータをコンピュータとオペレーターが確認するだけでは気付けないような情報を引き出そうとしている。

 

 「うーむ。どうやらこの星には目ぼしい資源は無い様です。鉄にケイ素と、ありふれた資源のみで、足しにもなりません」

 

 「そっか。じゃあ第一惑星の方に向かおうか。その程度の資源に時間は割けないし」

 

 ユリカの言葉を受けて、大介はすぐにヤマトを第二惑星近海から発進させる――前に勿体ないからとプローブをエステバリスで回収して再使用に備える事も忘れない。

 そうしてから発進したヤマトの航路を指示すべく、ハリは大介に第一惑星への最短コースの情報を届ける。それに合わせて大介はヤマトの航路設定を行い、自動操縦でヤマトはプロキシマ・ケンタウリ第一惑星の周辺に到達した。

 そこで改めて回収したプローブを使って惑星の探査を開始する。

 そして――

 

 「艦長! 大変な事がわかりました!」

 

 興奮も露に大声を出す真田にユリカも表情を強張らせる。

 

 「何か不審な物でも!?」

 

 だとしたらすぐにこの星系を離れて次の経由地に移動した方が良い。資源採掘のチャンスを潰すのは痛手だが、それ以上に余計な損害を被りたくはないのだ。

 

 「いえ、この惑星には今まで見た事も無い変わった組成の金属資源が埋蔵されているようです! 恐らく主星に近く惑星表面が非常に高温な事が要因で、太陽系では存在しない鉱物が形成された可能性があります!」

 

 報告を受けてユリカ含め第一艦橋のクルーは「ああ、だからそんなに興奮したのか」と納得すると同時に、人騒がせな報告に自然と視線が険しくなる。

 その視線に我に返った真田は、コホンと咳払いをして続ける。

 

 「っと、失礼しました……回収して調べてみない事にはどのような特性があるのかはわかりませんが、上手くすればヤマトの機能を向上させる事が出来るかもしれません」

 

 「それは素晴らしい。しかし、ガミラスはそれを知っているのだろうか。もし知っているのなら、ガミラスもこの資源を採掘するために部隊を派遣している可能性があるのでは? もしかしたら、拠点を備えている可能性も」

 

 最近影の薄さを嘆いているゴートが率直な感想を漏らす。ガミラスの母星がどこにあるのかわからないが、太陽系への侵入方向から考えると、このプロキシマ・ケンタウリが進行方向に被る事が計算でわかる。

 

 「どう思いますか、真田さん?」

 

 「う~む。可能性はあります。しかし、その資源があるのは恒星を向いた面です。あの第一惑星は潮汐力の影響もあって、自転と公転が同期して常に同じ面を恒星に向けています。丁度、地球の月を想像して頂けるとわかり易いと思います。そちら側は表面温度が1500度を超えていますし、閃光星故の不安定な環境でもあります。ガミラスの技術力に関しては詳細がわかりませんが、仮に採掘しているとしても、この環境下に施設を造るのは困難でしょう――恐らく、工作船の類で乗り付けて採掘して持ち帰るという手段を取っていると思います」

 

 真田の推測に少し悩んだ後ユリカは、

 

 「――ちょっとリスクがあるかもしれないけど、惑星に降下して資源を採掘しましょう。ヤマトには補給が必要です」

 

 惑星への接近を指示した。

 ヤマトの懐事情の厳しさは目に余る。もしガミラスが採掘したのなら、その跡を使わせてもらえば作業が迅速に済むだろう。

 勿論、ヤマトが経由するのを見越して罠を張っている可能性は十分にある。

 太陽系から最も近い恒星系ともなれば、恒星間航行のテスト地点として都合が良いのは考えればすぐにわかる。

 ガミラスが見落とすとは思えない。

 だがユリカの予想が正しければ、しばらくの間ガミラスは艦隊戦を仕掛けてこないはずだ。

 波動砲は驚異的だろうし、冥王星基地を単独で陥落させたヤマトの脅威は敵が一番良くわかっているはず。相応の戦力と戦場が無ければ、ヤマトに艦隊戦を仕掛けてくるとは考えにくい。

 とすれば、宇宙戦艦として如何に強力であっても対処するのが難しい、何らかの罠を展開する可能性が高いと言えるが……

 

 「ルリちゃん、ハーリー君。センサーの最大探査範囲内におかしな動きってある?」

 

 「今の所ありません。プロキシマ・ケンタウリの恒星風や光が邪魔ではありますが、センサー範囲内におかしな動きはありません」

 

 「こちらもです。一応タキオンスキャナーを使って半径2000光年の範囲を探査してみましたが、不審な動きは見られませんでした――と言っても、あくまで航路探査用のシステムですし、惑星の位置情報やワープ航法時の障害物探査用のセンサーなので、数千隻を超える大規模艦隊でも無ければ補足するのは非常に困難なのですが――」

 

 ルリとハリが各々報告する。

 数千光年を1度に跳躍出来るヤマトのセンサーは当然だがワープの最大距離に応じた最大捜査範囲を誇る。光よりも速いタキオン粒子の性質を利用した事で初めて実現したセンサーだ。とは言え、詳細を検査する程の精度は流石に無い。

 基本的には光年――数字の年数分だけ誤差が生じる天体の位置情報やワープの障害になる重力場などの情報を大雑把に収集するのが目的のセンサーなのだ。

 宇宙船等を対象にした索敵ともなれば、障害物による死角を除外しても精々惑星間が限界なのが実情だ。

 余談だが、ワープ航法システムにはこのセンサーの穴埋めとして、航路上に惑星等の重力場等を“障害物”として感知し、それらに“衝突”しないように強制ワープアウトさせて危機回避する安全装置も組み込まれている。

 ただし、この装置で強制ワープアウトすると空間歪曲場や急減速の影響で艦に大きな負担が掛かり、損害を受ける危険性も高い。

 とは言え、悠長に安全なワープアウトを実行して激突しては元も子もないので仕方が無い部分はあるのだが。

 

 「じゃあこのまま行きましょう。仮に罠が張られていたとしても、それを食い破って突き進むのがヤマトです。真田さん、現宙域で仮に戦闘になった場合、艦への影響はありますか?」

 

 「ヤマトは問題ありません。熱と放射線は強烈ですが、ヤマトの装甲なら十分に耐えられる熱量ですし、強力な放射線シールドに除去装置も用意されています。合わせてディストーションフィールドもありますから、仮に赤色超巨星に接近したとしても、短時間なら持ちこたえられます。ただ、ミサイルは自爆の危険がある為使用は推奨出来ません。ですから、艦は持ちますが波動エネルギー弾道弾が不安な信濃は出撃を見合わせるべきだと思います」

 

 「なら、艦載機はどうなりますか?」

 

 今度は進から質問が飛ぶ。

 

 「ダブルエックスなら耐えられる……それ以外の機体は何とか活動は出来るが戦闘は少々厳しいだろう。環境が悪過ぎて、機体の保護にフィールドを最高強度で保ち続けるくらいしないと、熱で機体がやられてしまう可能性がある。ダブルエックスはヤマトと同じ構造材で造られているし、ヤマト艦載が前提で開発された唯一の機体だ。当然ヤマトと同じく極限環境での運用も視野に入っている。放射線対策も万全だから、仮にフィールドを喪失してもパイロットがすぐにやられる事は無い。ただ、戦場が惑星の裏側なら放射線も熱も遮られるから、エステバリスでも問題無く活動出来るはずだ」

 

 「戦えるだけマシです。なら、ダブルエックスはGファルコン装備で格納庫で発進準備をさせて、いざと言う時は出撃して対応させましょう。艦長、よろしいですか?」

 

 進の提案にユリカは頷く。たった1機されど1機。ダブルエックスはガミラスの駆逐艦に匹敵する戦闘能力を持つ事はすでに証明された以上、当てにするのは当然だ。

 それに、ヤマトの波動砲では過剰破壊が懸念される局面でも、それ以下で済むサテライトキャノンは手加減としても有難い。

 戦略砲である以上、“波動砲よりはマシ”程度でしかないが、多勢に無勢を切り抜けるにはどうしてもこの手の装備が必要になってしまう。

 ジレンマだ。

 

 「古代、武装にはレールカノンを選択してくれ。この状況下ではビームの粒子が太陽風の影響ですぐに減衰するだろうし、何より磁場などの影響も受けて真っすぐに飛ばないかもしれない。ラピッドライフルでは心許無いが、レールカノンなら火力も十分だ」

 

 「わかりました。格納庫、ダブルエックスはバスターライフルの代わりにレールカノン装備で準備だ。それ以外の装備はそのままで構わない」

 

 早速マイクを掴んで真田のアドバイスを基に準備を進めさせる。とりあえず、今打てる手はこれくらいだろう。

 

 ヤマトは慎重にプロキシマ・ケンタウリ第一惑星に接近し、改めて惑星表面の探査を行う。目当ての資源の採掘ポイントを探ると同時に、ガミラスの痕跡の有無を探る必要があった。

 大気は無いが安定性を高めるために安定翼を開いた姿で、ヤマトは第一惑星の低空を飛行しながら探査装置を全開にする。

 ガミラスが採掘したらしい痕跡は、今のところ見当たらない。勿論ヤマトの接近を警戒し、油断させるために隠蔽している可能性もあるので、警戒は続ける。

 鉄をも溶かす高熱に晒されながらも、ヤマトは特に問題を生じることなく探査活動を続け、ようやく採掘場所を定めた。

 ヤマトは耐えられるが、流石に作業艇にこの高熱は厳しいでは済まされない。

 仕方が無いので反重力感応基と反射衛星の技術を組み合わせたリフレクトビット(ウリバタケ命名)の実践投入となった。

 

 これはユリカとルリの「岩石を自在にコントロール出来るのなら、バリア弾頭にくっ付けて自由に制御すれば、盤石の防御を構築出来る可能性があるんじゃ?」という意見を反映したものだ。

 開発には反射衛星砲の反射衛星が参考にされていて、ディストーションフィールドの他に、先端部を開いて反射衛星と同じ反射フィールドを形成可能で、それによって敵の砲撃を屈曲させて防ぐ事が出来るだけでなく、ヤマトの砲撃を捻じ曲げて普段は届かない死角に向かって砲撃させることも可能となった。

 1基ではサイズの問題からショックカノンは無理だったが、それも数基連動すれば解決するため主砲の砲撃の屈曲させて意表を突く使い方も出来るのではないかと期待が高まっている。

 

 企画段階ではパルスブラストの部品を転用して砲撃用途に使えるブラストビットのアイデアもあったが、こちらは冷却システムだったりエネルギー問題等からまだ実用に至っていない。

 

 そのおかげでピンポイントミサイルの発射管は完全に反重力感応基絡みの発射装置として扱われていて、すっかり補充されなくなった。

 ――他に搭載出来る場所が無いという世知辛い事情もあるが。

 今は半分がアステロイドリング用の反重力感応基、半分がリフレクトビットと振り分けられていた。

 

 ヤマトから放たれたリフレクトビット計28基は、ヤマトの頭上に散らばって、ヤマトからの信号とエネルギーを受信するための後部アンテナ4枚と、各種フィールドを展開する為先端のプレート4枚が開かれ、ディストーションフィールドを展開。

 ヤマトからのエネルギー供給を受けて巨大な日傘となる。

 

 主星からの光と熱を完全に遮蔽する程ではないが、作業艇とエステバリスが活動するには十分な遮蔽に成功し、ユリカもルリもアイデアの正しさを示されてホクホク顔で、見事形にしたウリバタケも誇らしげな表情だ。

 

 目当ての資源が得られる鉱脈は、比較的地表に近い事が確認された。普通に砕いていては時間がかかってしまうので、ここは火砲を使って手早く鉱脈を地上に露出させる事にする。

 鉱脈毎吹き飛ばすわけにはいかないので、GファルコンDXが早速新装備のディバイダーを携え、拡散モードの拡散グラビティブラストとハモニカ砲の拡散連射モードを駆使して適度に加減しながら地表を抉っていく。

 

 「環境破壊、ごめんなさい」

 

 アキトは誰に向かってというわけでもなく謝罪しながら砲撃を続ける。

 最近ダブルエックス共々土木作業が板についてきた気がする。大出力頑強が使い易いのはわかるが、ぶっちゃけ戦闘よりも土木作業やヤマトの修理のお手伝いとか資材集めとか、戦闘以外の用途に駆り出される機会が多過ぎる。

 それだけ機体の完成度が高くて汎用性が優れているという事なのだろうか……。

 

 「こちらアキト、粗方地表を剥いたぞ。このまま採掘も手伝うのか?」

 

 アキトが通信機に向かって問うと、ユリカからすぐに返事があった。

 

 「ご苦労様アキト! ダブルエックスは戦闘待機だから戻って良いよ。そしたらパイロット室で待機してて」

 

 「了解」

 

 アキトはすぐに機体を翻して、採掘作業に従事すべく出撃したエステバリスとすれ違ってヤマトに帰艦する。

 

 GファルコンDXを駐機スペースに戻し、再出撃に備えてカタパルトへ接続出来るロボットアームに固定する。

 Gファルコンのコンテナ部分、下部ハッチの両脇の4か所にあるハードポイントに接続されたロボットアームは、収納形態のGファルコンDXを軽く浮かした状態で停止する。後はアキトがコックピットに飛び乗ればすぐにでもカタパルトに接続して出撃出来る。

 コントロールユニットは接続したままスタンバイ状態に設定、アキトは即応体勢が整った事を確認してから機体を降りる。

 

 「お疲れアキト。お前すっかり土木作業が板についてきたな」

 

 パイロット室に入るなり待機中のリョーコからそう言われて、「ああ、やっぱりそう言う認識なのね」とアキトは半分諦めたような表情をする。

 すると「あ、わりぃ。気にしてたのか」とリョーコが軽く謝罪する。

 

 「いや、ヤマトの旅を成功させるためなら何でもするつもりだけどね……」

 

 ただ単に「確か惑星の環境をむやみに破壊するのって禁止されてなかったっけ?」と疑問に思っただけだ。まあ、そんな事を気にしていたらヤマトの航海は立ち行かないのだが。

 

 「ご苦労さん。ユリカの為にも失敗出来ないしな。今度は俺が変わってやろうか? 戦闘は無理でも作業くらいなら何とか出来るかもしれないぜ?」

 

 「ありがとうリョーコちゃん。でも、それはちゃんと操縦出来るようになってから言ってね」

 

 少々上から目線に聞こえるかもしれないが、本当に慣れないと戸惑うのだから仕方が無い。

 それを承知しているからこそリョーコも「言うじゃねぇか!」と笑いながら憤慨している様に見せて、お互いにゲラゲラ笑いあった。

 

 

 

 それからしばらくは、黙々と採掘作業が続いた。

 今回は駆り出されたヒカルやイズミ、サブロウタも工作班の指示に従って資源を運んだり掘り起こしたりと、人型ロボットのパワーと器用さ、特にIFSの柔軟性を存分に活かして手際よく進めていく。

 ダブルエックスが特に便利使いされているだけで、いつ何時このような作業に駆り出されても大丈夫なようにと、工作班に出向いて講習を受けるという珍妙な場面が展開されているだけあって、経験値が高くない割には作業は淀みなかった。

 人員の補充が効かず、自前でやりくりしなければならないヤマトの過酷な労働環境が伺える瞬間であった。

 

 そうやって工作班と航空科の共同作業で採掘された未知の金属資源は、そのまま艦内工場区の機械工作室に運び込まれ、真田とイネスの手によって解析される。

 

 「艦長、例の金属資源の解析が終了しました!」

 

 「早いですね。結果はどうでした?」

 

 採取してまだ1時間程度しか経っていないのにもう解析出来たのか、と雪が気を利かせて持ってきてくれた栄養ドリンクをストローでチューっと吸いながら、結果を聞く事にする。

 食の娯楽が乏しいので、すっかり栄養ドリンクがジュース替わりのユリカであった。

 

 「この金属は単体ではあまり役に立たないのですが、チタン系の素材とコスモナイトで合金化すると、耐熱性を大幅に引き上げられることが判明しました。流石にヤマトの装甲に反映するには時間と労力が足りませんが、エンジンやスラスター、武装等の耐熱性が求められる部分の部品をこの素材で作って置き換える事で、耐久力や信頼性の向上が図れます。特に波動砲やワープ機関、長時間の使用が想定されるパルスブラストやディストーションフィールド発生機には率先して改良を加える価値があります」

 

 真田の報告に進とラピスは「おお~」と驚きながらも思わず拍手。

 ただでさえ問題児のエンジンと波動砲が機能改善を果たせるのなら、作業に伴う多少の時間ロスも惜しくないと感じてしまう。

 それに、主砲や副砲は発射サイクルの関係でそれほど深刻ではないが、弾幕形勢が役割であるパルスブラストは、冥王星での戦いで冷却が追い付かない場面があった。それを考えると、可能であれば改修したいところだ。

 

 「作業にはどれくらいかかりますか?」

 

 「採取と並行して部品の製造と置き換えには、そうですね……エンジンだけなら1日貰えれば何とかなります。それ以外の部位は、航行しながら作業するしかないでしょう。あまりここで足止めを食らうと、ただでさえ遅れている航行スケジュールへの影響が懸念されます」

 

 真田の提案を受けて視線で大介に問うユリカ。その意味を汲み取った大介は、

 

 「真田さんの言う通りです。1日くらいならともかく、一気に改修を進めて2日も3日も足止めされると、航行スケジュールの修正が効かなくなります。ただでさ当初の予定から15日以上も遅れているのです。ただ、ワープの信頼性を高めるためにも、エンジンの改修が可能であるのなら多少のロスは航海班の誇りにかけて、必ず修正して見せます!」

 

 大介の意見にユリカはうんうんと頷き、「じゃあ作業しましょう。エンジントラブルはシャレになりませんし」と改修作業を許可する。

 

 一応、カイパーベルト内でも再調整はしているが、問題を起こした事があるエネルギー伝導管とコンデンサーの問題が少しでも解決出来るのなら願ったり叶ったり。あれ以来不具合を起こしていないが、専ら波動砲のせいで不安が残っているのだし。

 幸いにも炉心内部やエネルギー交換用のタービン等には損傷が無いようで助かっている。というか此処が壊れたら航行中の修理は絶望的だ。機関室内でそこまで派手にエンジンをばらす事なんて出来ない。

 

 もしも壊れたら、1度メインノズル毎エンジンを艦体から抜き出して、宇宙空間で分解整備が必要になってしまう。そんな手間は、とてもかけていられない。

 

 工作班と航空科は、交代しながら資源の採掘と運搬、部品の製造と置き換え作業を続ける。エンジン関係だけあって機関班も総動員しての作業と相成った。

 制作に必要なコスモナイトは、カイパーベルトでの長期修理中にラピスに泣き落とされて頑張ったアキトが集めた分が使われる。

 取り外した部品は工場区に運び込まれ、解体の後再度資源化されて予備部品に早変わり。

 色々と懐の寂しいヤマトでは、壊れた部品や交換した消耗品を再度加工してまた使えるようにでもしなければ立ち行かない。

 そういう意味では規模こそ小さいが資源の加工から複雑な部品まで製造可能なヤマトの艦内工場は、かなりオーバースペックな代物と言えた。

 断じて宇宙戦艦に積むような代物ではない。

 

 なお、新生ヤマトの艦内工場は木星にあった古代火星人(とされる宇宙人)の工場プラントの技術が転用されているため、地味に旧ヤマトからアップデートされた部位でもあった。

 

 作業は順調に進み、真田の言葉通り1日でエネルギー伝導管とコンデンサーの交換作業は終了した。

 経験値が蓄えられていたこともあって部品の製造も取り換え作業も前回よりも格段に早く進み、そこそこの時間をかけて再調整する事が出来た。後は飛びながらでも調整出来るし、武装や推進装置の部品も作り始めているので、少しずつ交換していけばヤマトの信頼性が格段に向上する――かもしれないのだ。

 

 ヤマトは翼を開いたまま惑星の裏側に回り込んでから重力圏を離脱すべく飛行していた。

 イスカンダルへの航路に復帰するには、そちらの方角が正しいからだ。

 資源の補給も出来て、機関部の改良も滞りなく終わり、しばらくかかるだろうが武装や推進装置の性能も底上げ出来る。

 真田によれば、高熱に晒され続けた故に変質した構造の解析が出来たそうで、ヤマトの工場区でも少々難易度が高いが類似した金属を精錬する事が出来るそうで、今後も改良した部品の製造は一応可能らしい。

 本物には若干及ばないらしいが、そうそう別の星でも採取出来るとは思えないので、類似品が作れるだけマシである。

 

 惑星の引力権を離脱寸前、大介とルリが異変に気付いた。ヤマトの惑星間航行用計器が何かの障害物を検知している。

 レーダーには何も映っていないので誤作動か何かを疑ったが、念のために制動を掛けてヤマトを停止させることにする。

 ルリも大介の報告を受け取って電算室に移動して、ヤマトのセンサーをフル稼働して異変の正体を探る。

 結果が表示されると同時にルリが叫び、データを即座に受け取った大介が急制動に操作を切り替えたが、全ては遅かった。

 

 ヤマトはガミラスが設置した宇宙機雷の群れの中に突入してしまっていた。

 すぐに逆進で抜け出そうとするが、機雷が動いている。これでは迂闊に動けない。機雷に接触したら連鎖爆発で一巻の終わりだ。

 

 「なるほど。やっぱりこの星の存在を知っていて、ヤマトが補給に立ち寄ることを想定して罠を張ってたのか。艦隊戦をしたくないから機雷でドカン、か……」

 

 世の中そう甘くないね、と真剣そのものなユリカの言葉にヤマトの艦内は緊張に包まれる。

 

 「艦長! 前方から航空機多数! ガミラスの戦闘機と爆撃機の編隊です!」

 

 電算室から続けて飛び込んで来たルリの絶叫にますますクルーの表情が強張る。

 その中で、ユリカと進は焦りを表に出すことなく眼前の機雷原と航空機編隊を睨みつける。

 

 「さあ、この罠を食い破ってイスカンダルに行こうか……!」

 

 「ええ、ヤマトなら切り抜けられられます……!」

 

 誰もが急展開を迎える事態に困惑する中、この2人だけは戦意をむき出しに応じる。

 そんな2人に引きずられる様に、クルーは事態に対処すべく艦内を走り回るのであった。

 

 

 

 ガミラスの巧妙な罠に囚われたヤマト。

 

 だが屈するな、そして旅路を急ぐのだ!

 

 地球は刻々と最後の日に近づきつつある。

 

 ヤマトよ、君が戻る日は何時か。

 

 人類絶滅と言われる日まで、

 

 あと、327日。

 

 

 

 第十一話 完

 

 

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

    第二章 大自然とガミラスの脅威

 

    第十二話 機雷網の脅威! 灼熱の星を越えろ!

 

    全ては、愛の為に

 


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