新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ(完結済み)   作:KITT

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第三章 自分らしくある為に!
第十八話 新たなる脅威! 暗躍する第三勢力!


 

 

 古代守は状況を整理していた。

 聞けば、彼女には2ヵ月ほど前に救出されたようで、残されたわずかな医薬品を全て使って処置した後らしく、すでに峠は越えているらしい。

 そして、守の証言と照らし合わせる限りでは冥王星攻略作戦失敗から約3ヵ月が経過している。

 スターシア曰く、太陽系から比較的安全な航路を選んだ場合、ガミラスの宇宙船なら1月もあれば余裕でここ大マゼランまで帰れてしまうのだとか。

 

 ――つくづく、技術力の差を思い知らされる。

 

 守から地球の惨状を聞いたスターシアは、悲しそうに顔を伏せていた。

 ――果たしてそれが地球を憐れんでのものなのか、それとも隣人の暴挙に由来するのか、守には図れなかったが、何となく両方なのだと感じた。

 

 「古代守さん、貴方は――貴方は、ミスマル……いえ、テンカワ・ユリカという女性をご存知でしょうか?」

 

 スターシアの口から意外な人物の名が飛び出したと当時は思ったが、今になってみれば当然の問いだったと思う。

 

 「ええ、存じてます。彼女は――地球で数年前に起こった戦争を終結に導くきっかけを作った、“英雄”の1人ですし、つい最近起こったテロ事件での被害者でもあります。そして、正真正銘――地球最後の反抗作戦に使われる宇宙戦艦の建造に深く関わった、今の地球に欠かすことの出来ない人材です」

 

 守は当たり障りのないレベルで答えた。ヤマトの事で勧誘される前まで、その程度の認識だったのは事実であるし、彼女を――彼女達を死なせない為に自分は命を捨てたのだ。

 正直に言えば、彼女の安否は今も気になっている。守の記憶にある最後の姿の時点で、相当弱っていた事が伺えた。

 恐らく完成なったヤマトと共に、今も戦っているのだとは思うが……。

 

 「彼女の具合はどうでしたか? 私達が提供した医薬品は、効果がありましたか?」

 

 そう言われても、守は地球がイスカンダルから支援を受けた事を知らない。その事を伝えるとスターシアは残念そうに「そうですか……」とだけ返した。

 

 「スターシアさん、貴方はミスマル大佐とお知り合いなのですか?」

 

 守の質問にスターシアは丁寧に応えてくれた。

 スターシアが語った真実は守には飲み込み難いものだったが、ともかくユリカがボソンジャンプを利用して自身の意識をこちらに残されていたフラッシュシステムの端末――ガンダムのフレームにシンクロさせることでスターシアと綿密に打ち合わせ、ヤマトの再建に必要な支援だけでなく、噂に聞いた新型機や守も目にしたGファルコンと言った新兵器の完成にも関わっていたという事も理解した。

 

 更にスターシアは言う。ユリカはヤマトと共にイスカンダルに向かっているはずだと。

 確かに守の視点から見ても、ユリカがヤマトと言う戦艦にとても強い期待と愛着の様な物を抱いていた事は、直接勧誘された時に感じていた。

 しかしまさか、ヤマトの再建の裏にこのような事情が隠されていようとは……。

 だとすれば、体調云々以前にヤマトの旅とは、彼女の命を賭した文字通り最後の手段だった――という事なのか。

 ならば、あの入れ込みようも理解出来る。

 

 そうやってスターシアからユリカとヤマトの隠された秘密を聞かされながら、守はどうにかしてヤマトの旅を支援出来ないかと考え始めていた。

 守とて地球人だ。何か出来るのならしてやりたい。死んでいった部下達の命に報いる為にも、ヤマトの航海は絶対に成功させたい。

 

 そんなことを考えながらさらに1月が経った。守はだいぶ回復して自由に動けるようになっていた。流石に激しい運動を長時間続けるようなことは出来ないまでも、宇宙船を操縦するくらいなら問題ない。

 

 何とかして、航行中のヤマトに物資を届けられないだろうか。

 

 幸い、イスカンダルから地球までの大凡の宇宙図は手元にある。

 ヤマトのワープ性能も、改装に関わったイスカンダルのマザーコンピューターの演算によれば、跳べたとしても2000光年程度が目安で、自己改良を続けても、ガミラス艦を無傷のまま鹵獲して部品を移植でもしない限りは、プラス200光年が限界らしい。

 

 守はスターシアの許可を得て、タワーの最下層にある格納庫やそれに隣接した倉庫に足を踏み入れた。

 ユリカと交感し奇跡の立役者となったガンダム。使える機体の1つでもないだろうかと考えての事だった。

 スターシア曰く「全ての機体が解体・封印されましたが、もしかしたらまだ使える部品が残されているかもしれません」との事なので、僅かな希望を託す。

 

 幸いな事に、保存状態の良い部品の収まったコンテナが色々と見つかる。

 守の知識ではこの部品を完全に組み上げられるか判別出来ないが、何かの足しにはなるだろう。

 これは――幸先が良い。イスカンダルで組み上げるのは難しいが、ヤマトに運び込めれば何とか組み上げて戦力を拡充出来るかもしれない。

 恐らくヤマトには親友の科学者――真田志郎が乗っているはず。彼ならば、この部品とアイデアさえあれば独学で何かしら作れると、守は信じて疑わない。

 

 それに、オプションとして用意されたのであろう、波動エンジンとワープエンジンを搭載した巨大な外付けのモジュールらしい部品とデータも見つけた。

 これにイスカンダルに残存している連絡船を組み合わせれば――ヤマトに合流出来る。

 それに、この輸送モジュールのデータを反映すれば、ヤマトはイスカンダルやガミラスの域には及ばないまでも――連続ワープ機能を取り戻し、イスカンダルまでの旅路を短縮出来る。

 1日でも早く辿り着かねばならない彼女らにとってはこの上ない助けのはずだ。

 問題は、この広大な宇宙を旅するヤマトの所在をどう突き止めるか、だ。

 大凡の航路はわかるにしても、正確にワープアウトせねば行き違いになってしまう。何らかの事情で航路を逸れている可能性も否定出来ない。

 

 どうしたものかと悩んでいる守の耳に、スターシアの悲鳴が突き刺さった。

 駆けつけた守の視界に飛び込んだのは、ボソンジャンプシステムとフラッシュシステムが起動した例のガンダム・フレームと、その眼前で蹲るスターシアの姿。

 駆け寄った守に、スターシアは告げた。

 

 「ユリカの……ユリカの状態が急激に悪化しました……」

 

 

 

 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

 第三章 自分らしくある為に!

 

 第十八話 新たなる脅威! 暗躍する第三勢力!

 

 

 

 マグネトロンウェーブ発生装置を停止し、マグネトロンウェーブは勿論、強磁性フェライトと連動して動きを封じていた磁力線の影響も無くなったヤマトは、マグネトロンウェーブの影響で不調を起こしていたディストーションフィールド発生装置の再調整を完了していた。

 

 出撃出来ずフラストレーションの溜まっていたウリバタケの汗と涙の結晶というべき成果だった。

 フェライトを除去しない事にはヤマトのコンピューターが正常に動かないため、再起動したディストーションブロックとアーマーモードで展開したディストーションフィールドでフェライトを何とか艦体から隔離、その後フィールドをバリアモードに広げてから補助エンジンを点火して前進、フェライトの中から抜け出すプランが決行された。

 

 「補助エンジン始動、出力上昇中」

 

 「補助エンジン点火10秒前」

 

 工作隊として活躍して疲れ果てたラピスに変わって機関制御席に就いた山崎が、計器を読み上げ補助エンジンが正常に稼働中である事を告げると、大介が操舵席から補助エンジンの点火スイッチを押す。ゆっくりと前進を始めたヤマトが強磁性フェライトの中からゆっくりと姿を現す。

 相変わらず計器が正常とは言い難い状況なので、こうして前進するだけでもひやひやものだ。何しろ宇宙は何が飛んでいるか知れたものではない。こうやって進んでる間にも、何らかの物体がヤマトに直撃して損害を被る危険があり得るのだ。

 

 幸いにもそんなトラブルも無く、強磁性フェライトの霧の中から抜け出したヤマト。フェライトの影響を受けていた計器類も少しづつではあるが正常値に戻りつつある。

 

 「さて、後は工作班を動員して艦体に付着したフェライトの除去作業だな。ちゃんと除去してやらないと、トラブルの基になるからな」

 

 真田はヤマトの艦体に大量に付着しているフェライトを見て、「しかし面倒な作業だな」と珍しく愚痴る。

 この作業には工作班総出プラス作業用の小バッタ総動員で行う事になるが、綺麗に除去するには数時間は掛かる。

 とは言え、これをきちんと除去しないと計器類の完全復活もままならないのだから、やるしかない。

 

 「真田っちは休んでくれてて良いぞぉ~。俺達居残り組がせっせと除去しちまうからよ」

 

 苦労してきた真田を労わってか、ウリバタケがそう進言してくる。真田は少し悩んでから「では、お願いします」と了承してユリカに伺いを立てる。

 

 「いいよいいよ、休んじゃって。大活躍だったもんね」

 

 ウサギユリカ・はいぱ~ふぉ~むな艦長はもふもふな腕を組んでうんうんと頷く。

 

 ……やっぱり、早々に完成型を作ろうと真田は硬く誓った。

 緊張感が――保てない。可愛いのだが、人妻かつ恩人に対して長々とさせているべき格好では――断じてない。

 

 真田はまずは休憩して、それから超特急で済ませようと思って後方展望室にでも行くことにした。

 後方にある強磁性フェライトの霧は邪魔だろうが、少し星の海を眺めて心癒された方が良い。

 そう思って展望室を訪れた真田は、手すりに両腕を乗せてもたれる様に宇宙を眺めている進と出くわした。

 

 「真田さん――」

 

 「よう、古代。お前も息抜きか?」

 

 真田が問いかけると進は頷いてから、「兄の事を考えていたんです」と呟いた。

 その言葉には真田も表情が変わる。進の兄・守は、彼にとっても無二の親友と呼べる存在だった。

 その最期を思えば、心乱さずにはいられない――そんな存在。

 

 「古代……守、か。あいつは――どんな気持ちで囮役を務めたんだろうな」

 

 「? 真田さん、兄の事をご存じなのですか?」

 

 「ああ、良く知ってるとも……今まで黙っていたがな、俺とあいつは無二の親友だったんだ」

 

 真田の告白に進は我が耳を疑った。

 いや――待てよ、確か高校時代の守は、曰く「理工学系の面白い奴と友達になった」と楽しげに語っていたような気がする。何分幼き日の事なのであまり記憶に無いが……。

 

 「俺とあいつは、高校時代にたまたま知り合ってな。派手なお前の兄貴と地味な俺――全く正反対な筈の2人は奇妙なほど馬が合ってな。シームレス機の中で話したように、当時の俺は、将来は科学を屈服させようと息巻いてひたすら勉学に打ち込んでいた時期だったが……あいつと付き合い始めたおかげで良い意味でガス抜きが出来たよ」

 

 当時を懐かしむ様に振り返る。

 本当に――色々と振り回し、振り回されたものだ。大人と言うには幼く、子供というには年を取った、何とも半端な時期の思い出。だが色褪せない、在りし日の大切な思い出だ。

 

 「そうだったんですか……」

 

 「ああ。だからな、古代。気を悪くしないで欲しいんだが、お前を見てると――どうしても守の事を思い出してな……寂しい気持ちも沸き上がるが、それ以上にあいつに変わってお前を見守っていきたいと考え、今日までを過ごしてきた。正直に言って、お前の急成長には驚かされるよ。艦長やアキト君の存在が、今日のお前を形作ってきたんだと思うと、感慨深いものを感じるよ……」

 

 真田の言葉に進は小さく頭を振った。

 

 「艦長やアキトさんだけじゃありません。真田さん達が――ヤマトが俺を育てたんです」

 

 進の言葉に真田も笑みを浮かべて頷く。

 それからしばらくは、守の昔話が花咲く。家ではこんなだったとか、学校ではこういった事をしていた、とか。

 そうやって昔話にひとしきり盛り上がった後、進は言った。「俺は、兄がまだどこかで生きているような気がするんです」と。

 真田はその言葉静かに頷いて肯定した。

 

 「少なくとも、俺達の胸の中に――思い出の中で守は生き続けている。俺達が忘れ去らない限り、ずっとな」

 

 この言葉に進も頷き、2人は仲良く連れ合い後方展望室を後にする。折角の機会だからと、真田はユリカ用の補装具の制作に関して意見を少々求めたのだ。

 ウリバタケの思惑を振り切りさっさと仕上げてしまうためにも、ここは“そういう意味”では常識人の進の視点が欲しい、との事だった。

 幸い今は進も長めの休憩を貰っていて特別支障が無いので、所在を第一艦橋に報告してから真田に同行する。

 真田がわざわざこういうのだから、さぞウリバタケ発案の補装具と言うのはおかしなものなのだろうと警戒しながら、進は機械工作室のドアを真田と一緒に潜る。

 

 そこで見せられたウリバタケ案の補装具のアイデアを見せられて、進はそっとアキトに一報を入れるのであった。

 

 

 

 そして、進とアキト監修の元、ユリカ用の新しい補装具が形になった。

 真田とイネスに言わせれば「まだ完全とは言えない」らしいのだが、何時までもウサギユリカでは士気に関わる(緊張感を削ぐ)と、短い休憩で必死こいて形にしてくれた力作だった。

 まだ工作部隊として突撃して3時間程度だというのに……アキトと進は頭が上がらないな、と感謝の意を示す。

 

 勿論、ウリバタケが艦外作業で関与出来ない事も織り込み済みの作業である。

 ウリバタケが示したアイデアを見て呆れ――を通り越して怒りが込み上げてきたのは、アキトも同じだった。

 

 「ほえぇ~。これが正式版なんだ!」

 

 早速エリナとイネスの手も借りてユリカが身に付けたのは、身体に密着した黒いボディースーツだ。

 ベルト状の人工筋肉や体温維持に必要な保温・冷却機能が盛り込まれた、ある意味次世代型パワードスーツの雛型というべき代物である(現時点ではその用途に使える性能は無い)。

 また、今のユリカは不健康そのものと言えるくらい体の線が細くなってしまっているので、人工筋肉だったり保温・冷却機能も利用して在りし日のスタイルに近づける様、肉襦袢よろしく盛ってある。

 これは散々悩んだ末、「健康そうに見える方が良い」という決断から実施された気遣いだ。

 この上に何時もの艦内服を着こみ、胸元には皆が送ったブローチを飾り、艦長帽とコートを羽織れば、新スタイルのミスマル・ユリカ艦長の出来上がりだ。

 

 「うん! すっごく良いよこれ! 着ぐるみよりは全然動きやすい!」

 

 その場でくるくると回って見せるユリカの行動にエリナとアキトはハラハラするが、特に転倒しそうな素振りは無い。上手く仕上がっている様だ。

 他のクルーにもちゃんと仕上がった事を報告すべく映像と音声を艦内中に放送しているので、さながらファッションショーの様。

 すっかり色が抜けて白髪となってしまった頭髪も、もう染めて誤魔化しても手遅れと判断してそのままにしてある。

 衰えた姿には違いないのに、「旧ヤマト式の敬礼!」とか言って拳を握った右腕を胸の前で横にして掲げてみせるなど、何時ものノリなので皆苦笑しながらも、元気そうで何よりと、ちょっと安心した。

 

 「ちぇっ。結局この案で通っちまったか」

 

 完成の報を聞いて、お披露目会場となった中央作戦室に駆けつけたウリバタケは残念そうに呟く。

 ウリバタケが最初考えていたのは、真田案では悩んだ末だったスタイル補助の肉襦袢も最初から盛り込んだ“旧女性用艦内服型のボディースーツ”だ。

 一応着替えの手間も減るし、緊急処置の時脱がしやすいという合理的な理由を上げてはいるが、はっきりとセクハラ親父の考えが透けて見える。

 それをよぉ~~く理解しているアキトは、残念そうなウリバタケの後ろから肩を叩いた。

 

 「セイヤさん、人の妻で遊ぼうだなんて……そんな不謹慎なこと考えてませんよね?」

 

 静かだが、とても迫力のある声色にウリバタケの体が硬直する。

 

 「と、当然だろテンカワ! お、俺は純粋に自分の案の方が機能的だと思っただけで……!」

 

 アキトは言い訳をするウリバタケに「次は無いですからね」と釘を刺す。アキトの放つ黒いオーラ(殺気混入)にウリバタケは一も二もなく頷いて応じた。

 

 

 

 そんな騒動の後、アキトは格納庫に戻ってダブルエックスの修理作業の手伝いを始める。

 工作班の大半は強磁性フェライトの除去作業で忙しいので、人手を増やして少しでも作業を進めておきたい。

 ガンダムはヤマトの貴重な戦力だ。何時またガミラスが来るかわからない状況下で、何時までも整備中のままにはしておけない。

 

 「テンカワ」

 

 コックピット周りの基盤の交換作業をしていたアキトに、コックピットハッチから顔を覗かせてイズミが話しかけてきた。

 

 「良かったね、艦長がとりあえずは元気になって」

 

 どうやら心配してくれていたらしい。同じ科の同僚としては唯一真相を知らされている事もあってか、イズミは最近こうしてアキトを気遣う機会が増えている。

 

 「ありがとう、イズミさん。でも、油断は禁物なんだ。流石に日常の雑務の類はもうジュンとか進君に投げっちゃって、戦闘指揮とか今後の方針に関わる重要な決断に関与するに留めた方が良いって、イネスさんからも念押しされてるくらいだからね」

 

 基盤の交換作業を終え、メンテナンスハッチを閉じたアキトがコックピットから這い出す。

 今ダブルエックスは、全身の装甲の張替えや損失した部位を新品に置き換えるなど、大規模な修理作業の最中。普段の格納スペース内では手狭なので、今は駐機スペースの方に置かれ、直立状態で整備を受けている。

 全身の装甲の大半が剥がされて内部構造を露出した姿は痛々しい。

 が、機動兵器でありながら駆逐艦の砲撃の直撃に耐えきり原形を留め、数時間の修理作業で復旧可能で済んでいるあたり、やはりガンダムは化け物だ。

 プチヤマトの異名は伊達じゃない。

 

 「お~い、アキトく~ん!」

 

 声の主を探してダブルエックスの足元を見ると、ヒカルが手を振っていた。

 

 「リョーコがコックピット周りの調整教えてって言ってるよ~」

 

 どうやら手こずっている様子。リョーコはまだガンダムに触れて間が無いので、テストパイロットも含めれば数か月以上乗っているアキトの方が、整備作業含めて一日の長がある。

 

 「わかった! すぐに行く!」

 

 「こっちは私が手伝っとく。リョーコの世話を頼むよ」

 

 イズミに送り出されて、アキトはダブルエックスの胸部付近にまで上がっていたリフトに乗り込み、下に降りると向かいのスペースで作業中のGXの元に向かう。

 イズミはそんなアキトの後姿を見送りながら、アキトの代わりに頭部センサーの部品交換を手伝う事になった。

 

 主砲も波動砲も使えない今、ガンダムがヤマト防衛の要。

 そう考えるとイズミとてこの機体の整備を黙って見ている気にはなれない。自分の時も心底辛かったが――友人夫婦が死に別れるのを見せつけられるのは、正直御免だった。

 せめてあの夫婦の危機だけでも、乗り越えさせてやりたいが――果たして、上手くいくのだろうか。

 

 (波動砲から生まれたサテライトキャノン。強大過ぎる滅びの力……今はこれに縋らないと生き抜く事すら危ういとはね……)

 

 イズミは生き抜くためとはいえ、無差別に破壊をまき散らす大量破壊兵器を搭載したガンダムに、複雑な気持ちを抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 「……デスラー総統」

 

 声を掛けられ、目を通していた書類から顔を上げると……険しい表情をしたタラン将軍が立っていた。

 

 「どうかしたのかね、タラン?」

 

 「は……イスカンダルから、宇宙艇が発進しました。進路を計算してみた所、バラン星の方角に向かっています――イスカンダルがヤマトに対して何らかの支援を敢行した可能性がありますが、妨害いたしますか?」

 

 その報告にデスラーも少し驚いた。イスカンダルがヤマトの大凡の所在を突き止めている事もそうだが、支援物資を直接的に渡すとは――スターシアの性格と方針を考えれば信じられない事だ。

 となれば、

 

 (あの時見逃した捕虜が行動した、という事か。しかし、スターシアの承諾も無く実行出来るとは考え難い。そして――スターシアが行動を起こさざるを得ないとなれば……)

 

 ドメルからの最新の報告によれば、ヤマトは現在ビーメラ星系第四惑星を目指していると聞く。

 先を急ぐ航海とは言え先立つ物は必須。度重なる戦闘やトラブルを考えれば、ヤマトの物資も困窮しているのであろうことは容易に予想される。

 そうなると、バラン星から少し航路を外れるが、水と植物が補給出来るビーメラの存在は無視出来ず、必ず進路を取る。そうすれば超新星間近の例の赤色巨星に接近するだろうから、そこに仕掛けた罠で痛めつける。撃沈は出来なくても良い。

 さらに、ビーメラ星系に到着したヤマトを民間施設に手を加えたマグネトロンウェーブ発生装置でさらに打撃を与えつつ――水と食料、そして金属資源を意図的にくれてやる事で時間を数日とは言えロスさせる。

 

 そうする事で、バラン星への接近を遅らせ基地を隠蔽させる算段となっている。

 

 無論、くれてやった物資の中にはバラン星基地を匂わせてしまう物も含まれているが、それ自体が“基地施設に民間人が居る事を匂わせ、攻略に二の足を踏ませる”誘導にもなっている。

 

 地球攻略を断念し完全に手を引いた場合の事を考えると、バラン星基地が破壊される事だけは絶対に阻止したい。

 あそこの基地は、移民計画に則り先発してインフラ整備をしている民間人が多数居住しているのだ。

 当初の予定通り地球を手に入れたとしても、居住出来るように環境を元通りにするには時間が掛かる。

 凍てついた地球を急速解凍するための装置のテストも民間主導で行われているし、地球の準備が整うまで――そしてヤマト出現以降は万が一の失敗に備えた重要拠点として拡張が進行している施設だ。

 

 万が一にもヤマトに発見され、破壊されるような事があったらガミラスは行き場を無くしてしまう。あそこが無事なら、ビーメラから水と食料を得る事が容易で、他の星を探すまでの時間稼ぎが出来る(原生林の規模からくる開拓の手間やら周辺状況を考えると第二のガミラスには適さない)。

 故に、正攻法では攻略出来ないヤマトの強さを逆手にとって、こんな変化球な作戦を実施している。

 まだ……ヤマトに沈んでもらうわけにはいかない。

 

 あのスターシアの眼鏡に叶ったミスマル・ユリカという人間なら、恐らく民間施設を確認すれば攻撃を控えて逃走する可能性は高いと見て間違いない。

 そんな人間でなければ、どれほど縋ったとしてもあのスターシアがコスモリバースシステム――それと密接に関わったタキオン波動収束砲を渡すとは思えない。

 しかし、同時にあの艦はどうしても避ける事が出来ない状況下では、涙を呑んでそれを成す覚悟がある。そこに躊躇は無いだろう。

 デスラーはヤマトの戦いをそう解釈しているし、スターシアもそういう用途の使用であれば咎めはしないだろう。

 故に、ドメルが計画しているヤマトへの艦隊決戦が失敗に終わったら――デスラーは大人しくヤマトのイスカンダル行きを認めるか、移民船を護るべき戦力を総動員してでも対峙するかの二択を迫られる事になる。

 

 ヤマトはイスカンダルとガミラスが連星であると知っている。となれば、タキオン波動収束砲に物言わせて降伏を迫ってくる可能性は高い。そうなったら――ガミラスは飲むしかないのが実情だ。

 勿論その場で飲んだ振りをして、地球帰還前に反故して叩き潰す事は容易だ。コスモリバースを受け取ればタキオン波動収束砲も封じられる。ヤマトとて、承知の事だろう。

 そうなれば武力に物言わせて降伏を迫る事は決して不可能でない。ガミラスの未来を考えるのならそうするべきなのはわかっている。

 

 しかし、決断出来ない。

 

 地球人全てを信じるなど到底出来ない相談であるし、地球に屈するつもりも毛頭ない。

 だが、あのヤマトなら、ヤマトを操る地球人達なら――解かり合えるかもしれないと、漠然と考え始めていた。

 自分でも驚く解決方法であるが、デスラーとて誇りがある。誇りがあるからこそ、“本物”に対しては相応の敬意を払うべきだと考えている。

 故に、後から反故して後ろから撃つような選択は無い。デスラーのプライドも許さない。

 

 ヤマトは敬意を払うに相応しい存在だ。

 

 きっと彼女らもガミラスが地球を諦めると言えば、完全に信じはしなくてもこちらが反故するまでは一切の攻撃を止めるだろう。恐らく地球に戻った後も、こちらが手を出さなければ何もしてこないはずだ。

 そのような人間性を感じなければ、スターシアが託すわけが無い。

 それ故にデスラーはヤマトを信じる事が出来る。

 

 徹底抗戦を選ばない限り、ヤマトは過去の遺恨を乗り越え和平の道を選ぶと。

 

 勿論、ヤマトからしてもその提案はこの上ない魅力のはずだ。

 タキオン波動収束砲を失い、決定打を欠いた状態で妨害を掻い潜りながら地球に帰るのは容易ではないし、帰った所でガミラスが健在では、今度は地球を背に守りながら戦う事になる。如何にヤマトでもそれでは勝ち目が無い。

 つまり、ヤマトにとってもイスカンダル到達は決断の時なのだ。

 

 ガミラスと和解して共存の道を模索するか、侵略者への報復、解り合えない敵と断じて徹底的に叩き潰すか、どちらかを選ぶ時が迫っている。

 だがガミラスの不手際無しに後者を選べば、恐らくスターシアはコスモリバースをヤマトに渡さないだろう。

 結果として、ヤマト側も和平に望みをかけるのが得策なのだ。

 恐らくスターシアはミスマル・ユリカを信じると同時にヤマトの安全保障として――カスケードブラックホール破壊に必須なそれがある事で、デスラーが尻込みする事も見越しているに違いないだろう。

 

 とすればそれが最善策であろうが、その場合は結局戦艦1隻に屈したという拭い去れない大敗の記録が刻まれる。

 ガミラスとて無敗だったわけではないが、相手が戦艦1隻というのはインパクトがあまりに強過ぎる。

 それも滅亡寸前からの大逆転という、大衆好みの英雄譚そのものとなれば、その影響は計り知れない。

 

 そうなったら、デスラーが愛するこの国の栄光が損なわれてしまう。ただでさえカスケードブラックホールに――何者かの侵略に屈したという泥を被っているというのに!

 

 それを避けるためには何としてでもヤマトを撃滅するしかないが……払う犠牲が甚大過ぎる。

 今、ガミラスの工廠という工廠は軍艦ではなく移民船の建造に全力を割いていて、損失した戦力の補填すらままならなくなっている。これも、ヤマトに対して積極的に数の暴力で襲い掛かれない理由の1つだ。

 同時に、機械力に依存しているガミラスとて一人前の軍人を育てるには相応の時間もかかる。この大事な時に貴重な人材をみすみす死なせるなど愚の骨頂だ。

 宇宙戦艦でありながら大量破壊兵器を保有し、任意のタイミングで使用する事が出来るヤマトは、そういう意味でも無視出来ない存在だ。

 デスラーの美学に反するが、困窮気味なガミラスの現状を考えて研究を進めている無人艦や、アンドロイドを利用した操艦もまだ不完全。

 そんな半端な戦力では数を揃えたとしても、あのヤマト相手では一方的に蹂躙されて終わりだろう。数だけで勝てるのなら冥王星基地が敗北するはずがない。シュルツはそこまで無能な男ではなかった。

 

 つまり、ガミラスはヤマトが対処出来ない規模の戦力をぶつけて始末する事も出来ない程追い詰められているのだ。

 ――やはり、確実にガミラスの存亡を図るのなら和平を検討するのが正しいのだが……。

 

 「放っておけ。それでヤマトが時間を使い、バラン星基地の隠蔽工作が滞りなく進むのであればそれに越した事は無い……ヤマトにバラン星基地を攻撃されるわけにはいかないのだ」

 

 「わかりました、総統。しかし――相手があのヤマトとは言え、ここまで消極的な対応を迫られるとは……」

 

 タランの表情は複雑だった。たかが戦艦1隻に振り回される屈辱もあれば、たった1隻でここまでガミラスに立ち向かう偉業に対する敬意も入り混じっていた。

 

 「総統。お言葉ですが、総統はヤマトをどうしたいと考えられているのですか? 万が一にもドメル将軍が敗れれば、ヤマトはイスカンダルに接近し――我がガミラスをタキオン波動収束砲の射程に捉えます。ヤマトがイスカンダルの隣にガミラスがあると知れば――」

 

 その言葉はヤマトに対して明確な“脅威”を覚えているからこその言葉だろう。

 万が一にも接近を許せば、あの星すら砕きかねないタキオン波動収束砲の威力が物を言う。

 対してこちらの同型装備はまだ最終調整中で、ヤマトの進行速度次第ではそれ無しで対峙しなければならなくなる。

 完成していたのなら、イスカンダルとガミラスを擁するサンザー恒星系への航路を計算して厳重警戒し、ヤマトを射程に捉えると同時に超長距離からタキオン波動収束砲の狙撃をもって撃滅を図るという戦法も取れる。

 しかし次弾発射に時間がかかる我が方と、6連射を確認しているヤマトでは仕損じた後のリカバリーに雲泥の差があり、1度でも発射すれば発射地点を特定されカウンタースナイプされる危険性も極めて高い。

 そうやってタキオン波動収束砲の搭載艦を撃滅した後は――ヤマトのタキオン波動収束砲がガミラス星を襲うだろう……イスカンダルへの影響を加味して威力を加減する事が出来るのなら、星を吹き飛ばす事無くガミラスを滅ぼす使い方もあるやもしれない。

 

 ――本星に接近される前に、いずれかの方針に定めて全体を統率しなければ最悪の事態を招く可能性は極めて高い。

 タランの懸念も尤もであり、言われるまでも無くデスラーも散々検討した。しかし――

 

 「タラン。ヤマトはとっくにその事を知っている。承知の上で進んで来ているのだ」

 

 デスラーの言葉にタランの表情がはっきりと強張る。

 

 「でしたら……」

 

 早急に叩くか、それが叶わぬのであれば和平を視野に入れた活動のいずれかが必要になる。そう訴える前にデスラーは――。

 

 「タラン――ヤマトは我らを滅ぼしてイスカンダルに向かうと思うか?」

 

 デスラーの問いかけにタランは少し悩んだ後、

 

 「はい、総統。我々が徹底抗戦の構えを崩さなければ、ヤマトがその選択肢以外で地球を救えないと考えたのなら、躊躇しないと思います」

 

 「そうか……ならばタラン。軍と政府内でのヤマトに対する危機意識について調査を頼む。戦うにしても講和するにしても、皆の反応を知っておきたい。想定外の事態ではあるが、これはガミラスにとっても非常に重要な決断になる」

 

 デスラーの指示にタランも慎重な面持ちで頷く。

 

 果たしてヤマトはガミラスをどう思っているのだろうか。

 憎むべき侵略者と認識されていれば、そこに和解の余地は無い。容赦なくあのタキオン波動収束砲の業火に国を焼かれ、国家としてのガミラスは滅する。

 

 対策を一任されたドメルは少数先鋭の艦隊決戦に備え、ヤマトのタキオン波動収束砲を封じ、かつヤマトを翻弄して撃滅可能な新しい戦術を考案した。

 今、ガミラスの兵器開発局はタキオン波動収束砲を装備した総統座乗艦と平行して、そのオーダー通りの兵器を汗水垂らして必死に形にしている最中だ。

 

 最初その案を見せられた時、タランは実現性を疑ったが、完成すれば今後の切り札になり得るとデスラーの許可も降り本採用に至ったとはいえ、ドメルもそれで確実にヤマトを撃滅出来るとは考えていないようだった。

 

 「まだ直接対峙した事が無いので確たることは言えません。しかし、ベテルギウスの1件を見る限りでは、ここぞと言う時の爆発力は無視出来ないでしょう。それにタキオン波動収束砲の封印を狙う装備は、ヤマトの航空戦力の間隙を縫い、かつヤマトの意表をついて回避行動を取らせないよう、高度な連携をもってあたらなければ成功しません。もう1つの装備にしても、ボソンジャンプの技術を有する地球の情勢を考えれば、速やかに対処される可能性もあり得ます」

 

 ドメルはタランにそう言い切りながらも、「それでも私はヤマトを討ち取って見せます。それが、ガミラスの為になるのなら」と死すらも覚悟した表情を浮かべ、まだ見ぬ強敵との戦いを考えていた。

 タランはそこに口を挟みはしなかった。軍事においてはドメルの方が上手であるのは承知していたし、その戦術の有効性は実現出来れば素晴らしいものだと、彼も考えていたからだ。

 

 しかしタランは、願わくばヤマトと手を取り合い、共存の道を選ぶ方が良いと考えていた。総統の補佐官として接点の多いヒス副総統も同じような考えを示している。

 ヤマトが頷いてくれるかどうかは定かではないが、6連射可能なタキオン波動収束砲はガミラスで開発中の物よりも優れている。もしかしなくても、あのカスケードブラックホールを消滅せしめる威力を有しているかもしれない。

 

 そうなれば――都合の良い話だが、ガミラスは地球を狙う理由が無くなる。

 そしてヤマトに恩が出来る。

 それを理由にすれば、“敗北”という形ではない講和を求める事が出来るかもしれないが――それは全て、ヤマト側の考え次第。

 何より侵略者という身の上でありながら、被害者相手に身勝手な期待を抱いている事自体、恥ずべき事であるという自覚は――決して消える事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 艦長室で眼前に見える緑豊かなビーメラ第四惑星と、その手前にあるヤマトをびみょ~うに苦しめたマグネトロンウェーブ発生装置を時折見ながら、ユリカは呼び出した進やアキト、エリナやイネスと言った“共犯者”を交えて、奇しくもデスラーとタランが繰り広げていたのと同じ話題で議論を重ねていた。

 

 マグネトロンウェーブ発生装置の罠の不自然さなどから、ユリカ達はあれはヤマトへの事実上の補給物資であり、バラン星への接近を暗に遅らせて欲しいと言う意志表示と見ていた。

 つまりそれは――。

 

 「――バラン星にガミラスの基地があるのはほぼ確実と考えて良いのだとすると、接近は避けて通り過ぎるのが一番安全って事になるわね」

 

 エリナの言葉に頷きながらも、進は戦闘班長としての立場から、

 

 「素通りした場合、基地施設を交えた艦隊との戦闘は避けられますが、後方に敵を残す形になります。そうなった場合、ガミラス本星に接近した際に講和出来たのならともかく、そうでない場合は帰路の妨害も心配しなければならなくなります。それに、バラン星基地の情報が艦内に噂として広まると、木星の1件が引っかかりますね」

 

 と指摘する。後願の憂いを立つ。そのためにヤマトは波動砲をもって市民船を――木星人達の故郷の一角を消滅させたのだ。

 立地条件的に太陽系内に拠点を残すに比べれば、一見危険度は大きく劣るようにも思える。

 が、バラン星の基地の規模が不明な現状では断言出来ない。

 ガミラスはこちらよりもワープ性能が優れているのは容易に伺え、バラン星からでも地球に対して進軍する事が不可能とは言い難い。

 それに、銀河系と大マゼラン雲を結ぶ延長線においてバラン星は丁度中間地点。前線基地ないし補給基地として大規模な施設を有している可能性は極めて高い。

 だとすればヤマトの航海の安全のためにも、波動砲をもって一気に撃滅を図るのが得策ではあるのだが……。

 

 「バラン星の基地の規模がわからない限り、迂闊に波動砲と言う訳にもいかないよな……ユリカ、確かガミラスはカスケードブラックホールによる母星消滅の前に地球に移住する事が目的なんだろ? だったら、バラン星には――」

 

 「中間補給基地も兼ねた移民船の停泊地――または一般市民の一時避難先になっている可能性も否定出来ないよ。今回の件からするに、もう民間人が入ってる可能性は高いと思う」

 

 ユリカも険しい顔でアキトに答える。

 それがあるから、バラン星に基地があるとした場合の対応が難しい。

 

 「例えガミラスが敵国で、地球を滅亡寸前に追いやった怨敵であっても――それを理由に波動砲で避難先を……一般市民ごと吹き飛ばすような真似をしてしまえば、平和的な解決を模索する事は絶対に出来なくなる。仮にガミラス本星に接近してから波動砲で脅してもなお徹底抗戦の構えを取るのであれば、こちらも徹底抗戦しかないけれど……良い気分じゃないわね、仮定の話だとしても」

 

 イネスもいつも通り冷めたような表情と口調ではあるが、声には苦いものが混ざっている。

 

 「――ガミラス憎しを口にしていた俺が言えた義理では無いかも知れませんが……それでも、平和的に解決出来るに越した事は無いと思いますし、自ら進んで波動砲で破壊の限りを尽くせば――俺達は、それこそガミラス以下の暴君に成り下がってしまう。それだけは、亡き沖田艦長から受け継いだこのヤマトの使命に掛けて、断じて容認出来ません! ヤマトが敵国そのものを滅ぼすとしたら……それは、そうしなければ地球が滅んでしまうような極限状況下に置かれた時だけです。俺達は――このヤマトに込められた願いの為にも、平和的解決を模索するべきだと考えます」

 

 「戦争という嵐で平和と言う安寧が流されないよう、繋ぎ留める……か」

 

 進の言葉にエリナはヤマトに施された白い錨マークを思い浮かべる。

 ユリカが希望したヤマトに込めた願いの刻印。――波動砲の真上に描かれた、願い。

 平和を求めるヤマトが、平和とは真逆の行為に進んで手を染める事は避けるべきだ。

 この艦の再起を最初から見てきたエリナは、ユリカの言動も併せて彼女なりに真剣にヤマトの取るべき道を求めていた。

 

 エリナは今し方進が口にした沖田の人なりも含めて多くを知らない。名前を知ったのもヤマトの再建作業中に倒れたユリカのうわ言で耳にしたのが最初だ。

 後で聞いた話では、その沖田という人物は宇宙放射線病なる病気を患いながらもヤマトの航海に挑み、完遂すると同時に仮死状態に陥ったのだと聞く。

 その後、懸命の治療で一命を取り留め長らく療養を続けていたようだが、元の世界におけるヤマト最後の航海にて、再び艦長に復帰して戦い――最後はヤマトと運命を共にして遺体はこの世界に漂着し、ユリカが埋葬して弔ったと聞く。

 それでも、ヤマトの次期指揮官として教育された進にとっては、偉大な先人でありヤマトの父と言う認識が強く、自分の道を模索するための指針にしている様子が伺える。

 

 「となると、切り札になるのはやはり波動砲ね。本当に波動砲の全弾発射でカスケードブラックホールを破壊出来るの?」

 

 この中では唯一の技術者であるイネスが珍しく疑問の声を上げる。流石のイネスも波動砲は未知の要素が多く、その真価を知っていても不安が拭えない。

 

 「理論上はね。特にあのカスケードブラックホールは人工物だし。ブラックホールと言っても単にそう見えるだけで、その正体は次元転移装置なんだって。スターシアがデスラー総統からそれを理由に波動砲の技術提供を求められたらしいから。断ったって言ってたけど、ガミラスの科学力ならそろそろ波動砲の自力開発に成功してもおかしくないから、丁度ヤマトがイスカンダルに辿り着く辺りが一番危険だって」

 

 「だとすると、イスカンダルを眼の前に波動砲で狙撃される危険が伴うって事になりますね――その場合、こちらにも波動砲による反撃の名目が立つと言えば立ちますが……その場合波動砲の向ける先は……」

 

 「間違いなくガミラス本星になる。でも、連星だというのなら迂闊にガミラス星に波動砲を撃つと、イスカンダルへの影響が懸念されるわね……」

 

 「確かにね……前にヤマトが本土決戦を挑まれた時の記憶に、海底火山脈に波動砲を撃ちこんで相手の足場そのものを崩すって手段があったの。記憶見ただけで詳細はわからないんだけど、沖田艦長の助言によって実行されて――」

 

 「向こうの世界の俺が、撃ったんですね。俺もファイルの資料を見ただけですけど、それしか方法が無い状況に追い込まれていたのは確かだと思います。言い換えれば、和解の手段を見つけられずにガミラス本星に接近するという事は――」

 

 「ヤマトかガミラス、どちらかが屈するか滅びるまで砲火の止まない殲滅戦になる……か。正直、心底有難くない状況よね」

 

 ユリカと進の言葉にイネスも心底嫌そうに自分の感想を漏らす。

 だが、ガミラスが応じてくれなければ和平はあり得ない。

 それに――。

 

 「クルーの考えも気になります。カイパーベルトの戦いやベテルギウス突破以来、明確にガミラスへの怨恨を口にするクルーはかなり減ってしますが、それでもここまで地球を追い込み、特に木星を始めとする宇宙移民の人達は国自体を滅ぼされています。信頼されているユリカさんの方針が和解の道の模索であっても、従ってくれる保証がありません。今結束が乱れれば、ヤマトは……」

 

 進の指摘にユリカ達も重々しく頷く。

 単純な戦艦としての機能の高さではなく、クルーの結束が生み出す想いの力をヤマトが受け取る事で絶大な戦果を導き出して来たのがヤマトだ。

 

 だが、その結束を生み出す要因の1つが目的意識。

 今回のヤマトの旅はあくまでイスカンダルに辿り着きコスモリバースを受け取り、地球を救うことが第一。

 それ以外にクルーの願望としてユリカの回復があるが、ガミラスに対しては基本的に「障害になるようなら排除する」の方針で一致している。

 これは、ガミラス星の所在がわからずこちらから打って出る事が出来ないと考えられているからこそだ。

 逆に所在が知れていれば、波動砲で殲滅という極端な手段も取れるし、そうするべきだという意見が出て来てもおかしくない。

 

 「俺達の意思統一もそうだけど、果たしてガミラスが俺達の要求に耳を傾けてくれるのかってのも疑問が残るんだもんな。ガミラスが交渉らしい交渉をせずに地球を侵略に掛かったのも、俺達を下に見ていたってのもそうだけど、もしかしたら木星との戦争とか火星の後継者のテロによる国内の混乱が影響してる可能性が無きにしも非ず、何だろ? 波動砲があるにしたってたかが戦艦1隻。ガミラス程の連中が本腰入れて潰しに来ないのも妙な話だ。波動砲が欲しいならなおさらヤマトを無力化して鹵獲したがってもおかしくないのに……」

 

 アキトの発言に全員腕を組んで悩む。

 流石のスターシアも、ガミラスの総統デスラーが事前の交渉も無く「奴隷か、さもなくば殲滅か」等と強硬姿勢を一切崩さず侵略を開始した詳細を知るには至っていないし、仮に知っていたとしても、ユリカと交信出来る時期を逸脱していては意味がない。

 

 それを聞けたであろうサーシアは……命を落としてしまった。

 

 地球を下に見ているからこそ、同時に内紛で混乱している上、事前調査等で火星の後継者の主義主張は勿論、遡った先にある木星との怨恨等を知っているのだとすれば、傍から見れば未成熟な文明と見做されても反論しきれないのは、アキト達も感じている事だ。

 無論、侵略者に言われたくはない、という反感もあるが。

 

 彼らに「自分達と対等」と思わせられるだけの何かをヤマトが示せない限り、この戦いは殲滅戦にしかならない。

 そして、1度でもヤマトがガミラスの一般市民に砲火を向けてしまえば、こちらが和解ではなく報復を望んでいると解釈され、和解の道が閉ざされてしまう。

 

 しかし、イスカンダルに辿り着く時には何らかの決着を付けなければ、コスモリバースで地球を回復させてもその後の戦争で地球はガミラスに屈するしかなくなる。

 どれほど強力でも“点”の戦力でしかないヤマトでは、殴り込みによる解決はまだしも、“面”の戦力を求められる防衛戦にはとことん向いていない。

 そして、今の地球は将来的な艦隊整備の企画が上がりこそすれど、それを実行してガミラスに対抗出来る宇宙艦隊を用意する余力など残されていないのだ……。

 

 「――そろそろ、潮時かもしれないね」

 

 天井を仰いだユリカがぽつりと告げる。

 言わんとすることは、ここに居る全員がわかっている。

 

 ユリカ達は、航海に集中して貰うため、そしてある種残酷であるが故に幾つもの秘密を抱えながらここまでやってきた。

 

 イスカンダルとガミラスが双子星であること。

 ガミラスが地球を侵略した理由。

 ヤマトの歪な改装の真実。

 

 そして――ユリカが艦長としてヤマトに乗り込んだもう1つの理由。

 

 全てを1度に打ち明ける事は難しくても、ガミラスとイスカンダルの関係と侵略の目的については、そろそろ打ち明けるしかないだろう。

 

 「でも、一歩間違えればイスカンダルへの不信に繋がりかねないわよ。確かにイスカンダルは貴方と何らかの形で交信して、その上で援助を申し出てくれたって事はベテルギウスの後、ルリちゃんが口にした考察が広まって周知の事実にはなっているけど、それでクルーが付いてきてくれるかは、打ち明けてみないとわからないわ」

 

 ユリカの方針に賛同しつつも、問題がある事をエリナは指摘する。

 

 「わかってる。でも、ここから先は地球とガミラス――そしてイスカンダルの未来に関わる航海になる。最悪、ガミラスに対してはカスケードブラックホールの破壊に協力する、って形で譲歩を引き出すことは出来ると思うけど、破壊の成否に関わらず、波動砲の全力を解放したヤマトは――多分戦闘能力を喪失する。その状態でもガミラスの攻撃に備えるって目的もあって、ダブルエックスが――サテライトキャノンが開発されたとは言え、流石に波動砲程の威力も無いからね」

 

 そう、サテライトキャノンと言う化け物が開発された理由の1つがそれだった(アキトはヤマトに乗ってからユリカに聞かされ、絶句した)。

 実際サテライトキャンの威力は随所で示され、いずれの場合もヤマトの別動隊として、護衛として遜色の無い戦果を挙げてはいるが……この間の異次元空洞内の戦闘であまりにも規模の桁が違いすると流石に支えられない事が露呈してしまった。

 本来予定に無かった、エックスと言う戦力が加算されてこれである。

 

 となれば、ガミラスとの和解を前提としないカスケードブラックホールの破壊はヤマトにとってリスクが高過ぎるという事になる。

 無論、救いの手を差し伸べてくれたイスカンダルをむざむざ飲み込ませるわけにもいかないので、破壊しないという選択肢は取れない――取れないが、ガミラスと言う不確定要素を抱えたままでは実行出来ないのも事実。

 もしも、ガミラスと本土決戦を展開したとしたら……ヤマトは全力の波動砲を撃つ余力を残せない可能性もある。

 それにガミラス星を滅ぼしたとしても、その残党まで狩っている時間的余裕は無く、その後の報復などを考えるとつくづく割に合わない。

 

 相手は地球を上回る規模の軍隊を持っているのは疑いようが無く、ヤマトが本星を撃破すれば報復のために各地に散っている部隊が集結して攻撃してくる可能性は極めて高いと、ユリカは予想している。

 

 それに、全く話し合えず解かり合えないという確証がない限り、ユリカとしては和解して共存を目指していきたい。

 

 「ガミラスが上手く乗ってくれれば良いんですが……ともかく、発表のタイミングはヤマトの修理と補給が完了してからで良いですよね? 今公表して修理や補給が滞ってしまっては問題ですし」

 

 進の提案にユリカも頷く。

 

 「そうだね、まずはあれを解体して傷ついたヤマトの回復と、第四惑星で水と植物の採取が最優先だね。折角ガミラスからご厚意頂けたんだし。進、悪いけど第四惑星に降りる調査隊の護衛を任せても良いかな? 出来ればアキトも付いていってあげて」

 

 アキトと進はユリカの提案を了承した。

 ユリカにはちょっと申し訳ないが、ヤマトの外を出て惑星調査に託けたリフレッシュをしたいとか思っていたのだ。

 勿論、進はそれに託けてちょっとは雪との進展を――等と下心もあったが。

 

 「艦長、惑星の大気に有害な細菌や物質が含まれていない事が確認されたなら、貴方も降りて少しリフレッシュして来なさい。歩き回ったりしなければ問題無いと思うわ」

 

 とイネスからの有難いお言葉もあり、調査隊に同行するアキトとのデートは断念したが、介護役のエリナと護衛の月臣とゴートを引き連れて、ユリカも惑星に降りる事になった。

 ――久しぶりの艦外と思うと、胸が躍る気分であった。

 

 

 

 それからしばらくして、艦体に付着した強磁性フェライトを除去し終えたヤマトは、作業を一気に進めたい欲求もあったのでロケットアンカーをマグネトロンウェーブ発生装置に打ち込んで牽引、ビーメラ第四惑星の軌道上に進路を取った。

 後は、軌道上に付いた後、静止衛星軌道を維持してマグネトロンウェーブを内向きに発生させて発生装置を解体、資源を回収しながらヤマトの修理作業を進め、同時進行で生活班を主体に第四惑星の資源確保を続ける算段だ。

 

 地球が壊滅的被害を被って以来となる緑豊かな惑星への寄港に、否応なくクルーの気持ちも高まる。

 

 結局、ヤマトの修理が完了するまでは停泊と言う事になったので、その間交代で希望者は惑星に降りてちょっとしたリフレッシュを行う事になった。

 調査の結果、ビーメラ第四惑星の大気は地球人にも適したもので、特に有毒な物質も変わった細菌の類も無い事が確認出来たからであったが。

 

 

 

 

 

 

 「何!? 試験中だった瞬間物質移送器搭載艦が消息を絶った!?」

 

 ゲールが持ち込んだ報告に、バラン星基地に赴任してから初めてドメルが声を荒らげた。

 

 「は、はいドメル司令。報告では、司令が依頼していた瞬間物質移送器のテストの為、決戦場として想定していた七色星団に向かっていた艦と連絡が取れなくなり、不審に思った調査隊が向かった所、跡形も無く消え去っていたとの事です」

 

 ドメルの剣幕に怯えながらもゲールは報告を続ける。

 

 「他にも、対ヤマト用に司令が考案されていたドリルミサイルを搭載した重爆撃機もテストをしていたようで、そちらも消息を絶っています……司令、私見で申し訳ないのですが、ここ最近大マゼランに侵入してきていた、例の艦隊の仕業でしょうか?」

 

 ゲールの言葉にドメルも「断定は出来んが、その可能性は十分にある」と苦々しい顔で頷く。

 しかし、最悪の事態だ。

 あの瞬間物質移送器はガミラスの最高軍事機密に属するものだ。昔からドメルが考案し、つい最近になったようやく形になりつつあった、指定対象を外部からワープさせるいわば“転送戦術”の要となる装置。

 あの類を見ない強敵、ヤマトと対等に渡り合うために完成を急がせていた新装備だった。

 

 それに、同時に試験していた重爆撃機は昔から存在する機体だが、ドリルミサイルは対ヤマト用に用意した絡め手の1つだ。

 

 惑星の探査目的で開発された特殊削岩弾をベースに、ヤマトの波動砲に打ち込んで砲栓として使用を封じ、ドリルで砲口内を掘削して内部に侵入し起爆、ヤマトを撃沈するという考えの基に生み出されたものだ。

 元が民間転用とは言え十分な時間を掛けて改造している。例えヤマトでも易々とは撤去出来ないようにと。

 それが外部の手に渡るという事は、当然今までガミラスが手に入れてきたヤマトのデータも外部に漏れた可能性がある。

 

 (いかん。転送器だけでも深刻な問題だが、ヤマトの――タキオン波動収束砲の情報が洩れれば、それを狙った他の星間国家が横槍を入れてくるかもしれん……!)

 

 ドメルは状況の悪さに唸った。もしかしたら、ヤマトとは手を取り合える可能性があるのだ。

 ドリルミサイルにしても、使用すればヤマトに対して致命的な一打を与えられる切り札足りえるが、ガミラスにとっても無視しがたい6連射可能なタキオン波動収束砲に致命的な損害を与える事が前提の兵器であるため、ドメルとしてもそのまま使うかどうかを少々悩んでいた代物だ。

 最悪、内部まで侵入せず発射口を塞ぐだけに留め、そこから発射口を伝って工作員を内部に送り込んで内側から制圧し、ヤマトを手に入れるという策も検討している最中だというのに……!

 もしも第三者相手にヤマトが敗れれば――タキオン波動収束砲の技術までもが外部に漏れ、ガミラスに向けられる危険性が高い!

 

 「ゲール! すぐに本国に詳細を問い質して何としても行方を追わせるのだ! あれが無くてはヤマトに勝てん……! それに、我らに敵対する国家の手に渡った可能性がある以上、あれがどのように活用されるか予測がつかない。すぐに対策本部を設立する様に訴えねば!」

 

 ドメルの命令にゲールもすぐに応じる。彼もこれが国家の危機である事は重々承知だ。

 小ワープによる転送戦術は今後のガミラスの戦術の要になるかもしれない、ある意味ではタキオン波動収束砲にも劣らぬ強力無比な戦術だ。それが漏洩したとあれば……。

 

 これは……ヤマトにも劣らぬ大事になるかもしれない。

 ますます、ヤマトがバラン星を素通りしてくれることを祈らんばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 「ほう、地球の――宇宙戦艦ヤマト、か」

 

 男は捕らえたガミラス艦の乗員から聞き出した情報に興味を抱いた。

 最初は何かしら資源を得られるかと、あの七色の輝きを持つ美しくも険しい星団を訪れたのだが、思わぬ拾い物を得た。

 まさか、指定範囲内の物体を小ワープさせる装置を開発しているとは……ガミラスも中々に優れた技術を持っている。

 勿論手に入れた戦利品――瞬間物質移送器のデータは本国に送るべきだが――その前に使えるかどうかをその目で確かめておきたい。

 

 それに、面白い情報も得た。宇宙戦艦ヤマトと、それが装備しているという6連射可能なタキオン波動収束砲とかいう超兵器――興味が尽きない。

 我が帝国に取り入れられるのであれば取り入れ、危険因子であれば消滅させる。まずは現物を手に入れねば――。

 

 「そのヤマトの現在地は――ビーメラ星系の第四惑星か……ふむ。攻略予定のバラン星と近いな……よし、バラン星攻略艦隊から何隻か選抜して、捜索に当たらせろ。気になる存在だ」

 

 男はすぐに指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 ガミラスを揺るがす一大事が起きているとも露知らず、ヤマトはビーメラ第四惑星の衛星軌道に留まり作業を続けていた。

 

 「改良? パルスブラストの?」

 

 例によって真田から持ち掛けられた改良案に首を傾げながら、ユリカは栄養ドリンクを口にする。

 病状の進行でとうとう今までの栄養食でも足りなくなってしまったユリカは、就寝時以外は2時間置きにこうして専用に調整された栄養ドリンクを規定量飲み、それに合わせてさらに調整された栄養食を3食食べて何とか体力を維持している。

 それでも戦闘指揮後は消耗が激しいであろうことを考慮して、医務室か医療室で点滴を受ける事を義務付けられている状態だ。

 味の方も相も変わらず――いや今までよりも不味くなった食事に辟易しつつも、イスカンダルまで道半ばまで来たと堪えているのだ。

 

 「はい。修理も兼ねて、Gファルコンの拡散グラビティブラストのシステムを組み込み、パルスブラストでも拡散射撃を可能にしようと考えまして。有効射程が短くなる代わりにより高密度で予測の難しい弾幕を張れるようになりますし、今まで通りの収束射撃との切り替えも可能ですから、遠方と近距離で役割分担出来るようになります」

 

 真田の発案にユリカは軽い調子で許可を出した。

 幸い資材もあるし修理作業と合わせても時間的ロスが少ないらしい。だったら今後の事を考えてちょっとしたパワーアップも悪くない、そんな気持ちでOKを出す。

 

 「それと艦長。修理ついでのガンダムの改修もだけどよ……無茶を承知で新しい機体の開発をしても構わねえか? 前々から思ってたが、やっぱりあの2機に完璧に追従出来て、制空権の確保や敵機の排除を担える機動特化と砲撃特化の機体を用意して安全確保を図らんことには、今後大規模戦闘が起こった時サテライトキャノンを完璧に封じられちまう。サテライトキャノンが使えないとどうなるかは、今回の戦いで痛感させられたしなぁ……」

 

 それは困る。ユリカは表情を変えずに考えた。

 ただでさえ今後のヤマトの自衛に関して、サテライトキャノンが要になるかもしれないというのに、それを封じられたらお話にならない。

 

 「――うーん。まあ、別に良いかな? 今は資材はたっぷりあるんですからジャンジャンやっちゃって下さい。どうせほとんど持って行けないんです」

 

 ユリカが艦橋左側面の窓に視線を向けると、窓の外には哀れ工作班と自身のマグネトロンウェーブで解体されてバラバラになってしまった、マグネトロンウェーブ発生装置の残骸が浮かんでいる。

 シームレス構造の外層はマグネトロンウェーブではどうしようもないので、小バッタやエステバリスを駆使して、例によって増設バッテリーで使えるようにしたハイパービームソードや大型ビームソードで切り刻み、外殻に切れ目を入れた後はマグネトロンウェーブで内側を解体して現在に至る。

 

 勿論、データを得るために再度内部に突入して制御装置の類を抜き出し、遠隔操作で強引にマグネトロンウェーブを作動させて解体するのは忘れてはいない。

 あと困窮気味だったコスモナイトがそこそこゲット出来たのは本当にありがたい。しかし、構造を解析した真田曰く「別に使う必要が無いのにわざわざ組み込まれていた」との事なので、ヤマトに補給物資を送った事は確定された。ありがとうガミラス。

 

 こうも露骨だとバラン星に基地があるのは確定だ。それも推測通りガミラスにとっての最重要拠点として。

 だからヤマトが接近することを恐れている。

 発見すれば波動砲で撃滅されると恐れ、十分な物資を与えて腹を満たす時間を割かせる事で、隠蔽工作の時間を稼ぐつもりだろう。

 実際、避けられなかった補給ではあるがヤマトは数日ロスした。それで十分隠蔽出来る算段なのだろう。

 

 ――この警戒振りからするにやはり民間人がいる可能性が高い。

 地球とガミラス星の中間地点。地球に限らず天の川銀河への渡航を考えるのであればこれ以上ない立地条件で、ビーメラ星系にも近い。地球が駄目なら最悪そっちを開拓して――というサブプランがあるのかもしれない。

 

 つまり眼前の資源の数々は、ヤマトに“意図的に”見落として貰いたいが故の“賄賂”なのだろう。

 ――恐らくスターシアから何らかのやり取りで聞き出して、ユリカが接触してガミラスについても情報を得ていると踏んだ上での作戦だろう。

 地味に効果的なやり口だ。ユリカの人柄も考慮してなのだろうが……ガミラスと雌雄を決する展開になったとしたら、ここで見逃すのは痛手でしかないが……。

 

 「サンキュー艦長! 前々からアイデア自体は温めてて、ありあわせの資材だけでも造れるようにと備えてたんだ! こんだけの資材を貰えるなら最低限の形にはして見せるぜ、突貫工事で!」

 

 「早いに越した事は無いですけど、完璧に造って貰う方が大事ですからね?」

 

 一応念を押しておく。まあ、GXの建造データもあるし何とかなるだろうとは思うが……。ウリバタケだし。

 

 「ユリカさん、ちょっと良いですか?」

 

 第三艦橋に降りて、マグネトロンウェーブ発生装置のコンピューターを解析していたルリの姿がマスターパネルに映し出される。

 

 「どしたのルリちゃん?」

 

 「はい、解析していてわかったのですが、やはりあの物体は軍事目的ではなく廃棄処分した宇宙船の解体を目的として建造された、スクラップ処理施設の様です。それと、色々情報も残されていた――というよりは、意図的に残したとされる情報が幾つかあります」

 

 ルリは助手として手伝って貰っていたハリと一緒に、解析によって得られた情報を幾つか伝える。

 それは、この物体がバラン星に配備されていたという事、だ。

 そして、この物体を製造したのはどうやら民間企業らしく、ここに置かれる以前は民間のスクラップ業者によって運用されていたという。

 さらにプレゼン用と思われる資料も残されていて、最終的には地球に移送して移民に伴う都市開発の資源として移民船の解体作業に役立てる云々という内容まで、きっちりと。

 

 「ありゃ~」

 

 まさかこんな方法でヤマトにそれを警告してくるとは思わなかった。

 これで確定だ、バラン星には民間人が居る。それも決して少なくない人数が。

 

 「ユリカさん……これが嘘でなければ、中間目標と定めていたバラン星にガミラスの拠点があって、そこに民間人が決して少なくない人数が入植している、という事になりますよね?」

 

 ルリはやや青ざめた表情でユリカの判断を求めている。

 前線基地があるのならば、可能な限り打撃を与える方がヤマトにとっては都合が良い。後願の憂いも断てるし、ガミラスに打撃を与えた方が地球侵攻を遅らせる事が出来る。

 だが、一般市民を巻き込むような戦いをすれば最も理想的な解決方法である講和が非常に困難になってしまう。

 少なくとも、一般市民を巻き込む攻撃をしたヤマトが訴えた所で聞く耳持たないだろう。

 

 ルリは、講和があるとすればヤマトの――波動砲の威力を見せつけてガミラスと戦力的に対等になったと強調し、無益な争いを続けるくらいなら終戦を、という流れだと思っていた。

 ヤマト以外に頼れる物が無い地球は決してガミラスに強くは出れないが、それでも何とかする道筋があるかもしれないと、希望的な観測も持っている。

 しかし、ヤマトがこのままバラン星に到達し、基地を攻撃するような事態になったら……。

 

 「ルリちゃん、この事を他に知っているのは?」

 

 「ハーリー君とオペレーターだけです。解体に関わった工作班の人達は、ガミラスの言語がわかりませんから……」

 

 「じゃあ悪いけど、こっちでタイミングを見て発表するからそれまでは黙ってて。正直なところ、今ヤマトの中でガミラスとの終戦条件に和平を考えてくれてる人がどの程度いるのかわからないし、下手に不安を煽ってヤマトの修理と補給が遅れる方が不味いから……」

 

 ユリカに言われてルリもハリも、ECIのオペレーター達もやや青ざめた顔で頷く。これは迂闊に口外出来る情報ではない。

 

 「そのままモヤモヤしてても体に良くないから、手の空いた人は星に降りてリフレッシュして来て良いよ。丁度、先に行った便が帰って来てるし」

 

 ユリカの提案に全員が頷き、責任者という事で残ったルリ以外のオペレーターガールズは、ECIを後にして帰艦したGキャリアーに向かう。

 多目的輸送機を使った食べられそうな植物と綺麗な水の採取作業。それに託けて、クルー達は自然の中に羽を伸ばしに降りている。2機ある内の1機は、そういった観光目的で運用されていた。

 ヤマトが大気圏内に降りていれば、第三艦橋両脇にあるバルジ内に格納された地上探索艇も使えるのだが、まだ修理作業と金属資源の補給作業が終わっていない。

 無重力の方が作業しやすいので、それが終わるまではヤマトは大気圏内に降りれないし、そもそも作業の終了が同時なら降りる機会すらない。

 

 「――俺達も、黙ってた方が良さそうだな」

 

 「ええ。私達も、今の事は口外はしません。私は――艦長の判断に従います」

 

 ウリバタケと真田も箝口令に従うと意思表示をした後、各々の作業に戻っていった。

 ユリカは第一艦橋で勤務していたゴートやジュン、ラピスにも同じように口止めをした後、天井を仰いで呟いた。

 

 「……和解の道――ホントにあるのかな……」

 

 

 

 

 

 

 その頃古代守は、連絡船の中で1人寂しい食事を摂っていた。

 スターシアがフラッシュシステムからもたらされた情報に嘆き悲しんだ後、何とか落ち着かせた守はその詳細を窺った。

 

 要約してしまえば、恐らくは次元断層か何かに落ち込みボソンジャンプの演算ユニットとの接続が一時切断、その後脱出に伴い再接続された影響で抑えていたナノマシンが活性化、ユリカの病状が急激に悪化した可能性が高い、との事だった。

 かつて彼女とリンクしイスカンダルと繋いだガンダムのシステムは、この危機的状況をもイスカンダルに漏らすことなく伝えたのである。

 

 しかし、おかげでこのフラッシュシステムは彼女に断続的に接続状態にあるらしく、ヤマトの所在に関する手がかりを掴む事が出来た。

 時間的余裕は無いと判断して、ナビゲーター代わりにガンダム・フレームから切り離したボソンジャンプシステムとフラッシュシステムに、使えそうな部品を可能な限りコンテナに詰め込んだ。

 後は、当初の予定通りかつてはガミラスとの往来に使われていた連絡艇に例のワープユニットを接続して準備完了だ。

 

 スターシアを1人残していくのは不安だったが、彼女からも「ヤマトを頼みます」と言われては行くしかない。

 1日でも早く合流し、ヤマトの旅の手助けをせねばならない。

 スターシアも、文字通り命を削って救いを求めてきたユリカを救いたがっている。一目会いたがっている。

 “滅亡寸前のイスカンダル”において、すでに隣人の暴走を止める活力も無く、ただ存在し続けていただけのスターシアに活力を与えてくれた彼女を。

 

 そして――

 

 「守。貴方も無事に再びイスカンダルにやってくる事を、願っています」

 

 守のリハビリテーションを務めさせるうちに、スターシアの介護を受けるうちに、互いに恋に落ちた自覚はある。

 まだ想いを交わしてはいないし、スターシアは守が地球に帰った方が幸せだと考えている様だが、守はイスカンダルでスターシアと添い遂げる覚悟を決めている。

 愛するスターシアの為にも、生きて戻らねばならない。

 そして、イスカンダルをカスケードブラックホールから救う為にも、例え離れ離れになってしまうとしても、弟の進がこれからも生きて行く地球を救う為にも、ヤマトの力が必要なのだ。

 

 「待っていてくれヤマト。必ずこの物資を届ける。どれほど微力でも良い、必ず助けになってみせるぞ! 替えの無い命を散らさせてしまった、俺の部下達の為にも……!」

 

 思い返すのはアセビの部下達。明日への希望を繋ぐために共に命を懸け、先に逝ってしまった若者達。その犠牲は――無駄に出来ない。

 彼らに報いる為にもヤマトは絶対にイスカンダルに辿り着かせ――地球を救うのだ!

 

 

 

 

 

 

 その頃ヤマトは、ビーメラ第四惑星での停泊2日目に突入していた。

 初日の調査で食用に出来る植物の存在が確認され、水も一応フィルターを通せば飲み水としても使える事がわかった。

 ついでに被弾やら何やらで艦内の圧縮空気ボンベの消費もそこそこあるので、水を分解して少し補充していくことも決定した。

 

 まさかこのような惑星で補給が出来るとは思っていなかったので、特にカツカツな資材をやりくりしていた生活班は安堵するやら喜ぶやら、とにかくまたとないチャンスとがっついていた。

 それに同行して漫画のネタ集めに写真を撮りまくってるヒカルの姿もあったが、珍しい事には違わない緑豊かな地球型惑星なので、誰も咎めない。

 

 進とアキトも打ち合わせ通り雪達生活班の護衛として降り立ったのだが――お約束的に原住生物、しかも運が悪いというか、地球で言うのならクマに相当するような大型(体長3m!)の肉食獣に見事遭遇した(しかも数回)。

 進やアキトは死に物狂いで肉食獣の囮となりコスモガンを連射、気分は生物パニック映画な状態で何度も危うい橋を渡ってようやっと撃退した(物凄くタフで中々殺せなかった)。

 苦心の末撃退した肉食獣は調査分析に回され――た結果食用として使える事が判明したので、ヤマトの食卓に並ぶ事になった。

 

 獣肉故癖が強かったものの、太陽系を脱してからは専ら合成肉が主体だったこともあってか、久方ぶりの天然物のお肉に舌鼓を打ち、皆で美味しく頂いた。

 

 雪も生活班長として気を抜けない仕事であるので、少しでもバリエーションを持たせた食事が出来るように、同時に栄養バランスを考えた食事が提供出来るようにと平田と協議。

 で……。

 

 「ホントに少し、少しだから!」

 

 と2日目にして戦闘班を動員しての“狩り”が実行され、大型獣を中心に20頭ばかりを確保。クルーの英気を養うために保存食への加工よりも、全員参加型の焼き肉パーティーが優先、実施された。

 

 ――唯一まともな食事の出来ないユリカが物欲しそうにしていたが、そこは見て見ぬふりだ。

 

 停泊3日目、潤沢な物資に肉で力を付けた工作班の努力の賜物か、当初4日掛かるとされていた主砲の修理も3日目にして終了、ヤマトの状態がほぼ万全と言える状況にまで回復した。

 小バッタやエステバリスを活用した修理技術の恩恵もあるが、やはり工作班の不休の努力と眼前に漂うジャンクの山の威力は大きい。

 植物の採取と水の補給も終えたが、今後何時補給出来るかもわからないので、思い切ってバラストタンク内にも水を貯える。

 後は、少々遅れ気味の機関部の改装とミサイルなどの弾薬の補充を急ピッチで行う事となった。

 

 そして、ヤマトが停泊して5日が経過。

 ようやく補給も完了し機関部の調整が一段落したので、使い切れなかったジャンクに後ろ髪を引かれながらもテストを兼ねたワープを実行、飛距離を伸ばして何と最高記録の2500光年のワープに成功して、少々浮かれていた。

 24時間のインターバルを置いて再度2500光年のワープ。今度も無事成功、ヤマトにも異常は無い。

 後はインターバルを短く置いた場合の人体への影響を調査するため、最高記録の半分のワープを2度、12時間の間隔を開けて実行。

 どうやら、1度に2500光年跳ぶよりは気持ち負担が小さいらしい。

 後は、もう少しワープの距離を短くしてインターバルを短縮し、24時間以内のワープの回数を増やせれば、日程の遅れを取り戻せるかもしれないと考えていた時だった。

 

 古代守がヤマトとの合流に成功したのは。

 

 

 

 「守!? この野郎……! 生きてやがったのか!?」

 

 「に、兄さん!? い、生きていたんだね! 兄さん!!」

 

 ワープ明けからしばらくして、救難信号の様な物を受信したとの報を受け、戦闘体制に移行しながら発信源に接近したヤマトは思わぬ拾い物をした。

 それが、イスカンダルから物資を持ってきたという、死んだはずの古代守だったのだから驚きだ。

 2度と会えぬ考えていた無二の存在の奇跡の生存に、真田や進の様に驚きと嬉しさを隠せず騒ぎ立てる者もいれば、

 

 「ううぅっ……! よ、よがっだよ゛~~~っ!!」

 

 「古代中佐――本当に良かった……うぅっ」

 

 ユリカとルリの様に泣き出して止まらなくなる者もいた。

 

 ヤマトクルーには守とは初対面の者も多かったが、それらの反応を見れば彼が死んだと思われていた古代進の兄である事が、かつての冥王星海戦でユリカ達を地球に無事返すため囮となったアセビの艦長である、という事に思いの外早く行きつき、誰の説明を要する事も無く艦全体が納得していた。

 

 ――そして、空気を読まず守が持ち込んだイスカンダルの物資の数々に狂喜乱舞していたのは、相も変わらずウリバタケだった。

 ただし、1人で勝手に騒いで守に内容を問い質したりしなかったのは、彼なりに気を利かせていた、という事なのかもしれない。

 だったら騒ぐな、とは誰しもが思うだろうが。

 ついでに感動の再会を見てもらい泣きしながらも「漫画のネタゲット!」と写真撮影をしているアマノ・ヒカルの姿もあったという。

 

 

 

 「そうか……そういう経緯があったんだ」

 

 感動の兄弟の対面や親友との再会、ついでに大泣きした戦友2名が落ち着くのを待ってから、話し合いの場所は中央作戦室に移っていた。

 一応、話の流れもあってユリカ(とおまけのアキト)が進の義理の親も同然の関係に至った事を聞かされた守は、最初は目を点にして驚いた後、「まあ、そう言う事もあるかもな」とちょっと複雑な顔をしたが一応受け入れてくれた。

 知られて恥ずかしげではあったが、進がそのような関係を心底喜んでいる事はすぐにわかったし、“あの”ユリカの人柄を耳にすれば、眼の前で自分を死なせてしまった、見殺しにしてしまった事の後悔からそんな突飛な行動に出ても不思議は無いかも知れない。

 

 ――でもお母さんはぶっ飛び過ぎだと思う。

 常識人な守はそう考えたが、口には出さないでおいた。

 

 「はい。俺は、スターシアに助けられて何とか生き延びました。そして、治療を受けながらどうにかしてヤマトを支援出来ないかと手段を模索していたところ、艦長とリンクしていたガンダムのフラッシュシステムが共鳴現象を起こしまして……」

 

 その場に集められていた各部署の責任者と副官一同に、艦内放送で傍聴を許可されたクルー全員が、守生存の真相は勿論、ユリカがどうやってイスカンダルに渡りを付けたのかを、ここで初めて知る事になった。

 勿論“共犯者”は全部知っているし、ルリの様に持ち前の頭脳と様々な情報の組み合わせから察していた者も少なくは無かったが。

 

 「そこで俺は、スターシアの許可を得たうえでイスカンダル王家が住まうタワーの地下にある倉庫から、使える物が無いかと探してみたのです。そこで、ガンダムに使われていたとされる部品を発見する事が出来ました。これがヤマトへの助けになる考えた俺は、スターシア協力の元、イスカンダルに辛うじて残っていた連絡艇と、ガンダム用のオプションだったと思われるワープ可能な超長距離用ブースターユニットを使って、何とか合流を図った次第です」

 

 「ふ~む。しかし、あんな外付けのオプションでこれほどのワープが実行可能とはな……改めて思うが、イスカンダルの技術とは本当に凄いな」

 

 「ああ。とは言え、流石に無茶が過ぎたようだ。元々倉庫で埃を被っていた物を碌に整備もせずに使ったからな……本当なら完全な状態で渡してやりたかったんだが、そう上手くも行かなかったらしい」

 

 申し訳なさそうな守だが、真田もウリバタケも「参考に出来るだけ有難い」と特に気にも留めていない。

 守が乗ってきた連絡艇の追加エンジンユニットは、メンテ不足で動かした為かオーバーヒートを起こしていた。

 ヤマトが偶々守が立ち往生した空域の近くにワープアウトしたのをユリカとリンクしたフラッシュシステムが捉えたので、一か八かの救難信号を発したから事なきを得た。

 が、最悪の事態の1歩手前だったことを考えると、我ながら後先考えずだったかと反省する次第だった。

 

 「ともかく、回収したエンジンからこの図面に書き込まれた部品を抜き出して、壊れてるようならコピーしてヤマトの波動エンジンとワープエンジンに組み込めばいいんだな? しかし、6連波動エンジンの設計もイスカンダルがやってくれたはずなのに、ここまで開きがあったのか……」

 

 ウリバタケも自分達が歓喜していたあのエンジンがまだまだ不完全だったのだと思い知らされた気分だ。

 そうだ、ついでに聞いておいても良いだろう、例のブラックボックスの事を。

 話を振られた守は、少し驚いた様子を見せた後、無理も無いか、と1人納得した様子を見せる。

 気になる。何か隠している事はもうわかった。

 

 「ウリバタケさん、それは俺の一存では話せません。艦長の許可が無いと……」

 

 この流れは不味い。ユリカ達は内心焦る。確かにいずれは告げなければならない事だが、心の準備も無く話すのは辛い。

 

 「――艦長、そろそろ話してくれませんか? ヤマトの歪な改装やブラックボックス――そして何より、貴方が“艦長として”乗り込んだ本当の理由を」

 

 真田の言葉に心臓がドキリと跳ね上がる。

 

 「貴方の体調は――正直余りにも悪い。普段の振る舞いから忘れそうにはなりますが、単にイスカンダルに行くことだけが目的なら、冷凍睡眠という手もありますし、それが出来ないにしても、もっと軽い役職についても文句は言われないでしょう。確かに、我々には貴方の力が必要です。貴方の指揮のおかげでここまで来れましたし、倒れられている時でも貴方に報いたいと必死になれた――それは、地球を救いたいという思いにも決して劣らぬ、我々の素直な気持ちです」

 

 真田の言葉がユリカの胸に突き刺さる。

 まさか、そこまで真剣に考えて貰えていたなんて……。

 クルーの印象に残る様にと色々な事をしてきたが、普段はアキトとイチャラブしたくて自重が足りなかったから、半分呆れられていると思ったのに。

 

 「教えてください艦長。艦長という役目に付き、我々を導いた理由は――ヤマトの精神を、それを構築した前艦長の遺志を我々に継がせるというだけではなかったはずです。単に戦闘指揮をするだけなら、戦術アドバイザーでも良かった。確かに影が薄い副長ですが「おいっ!」――それでも艦長の不在時には為すべきことをされていましたし「無視かよっ!?」――わざわざ艦長になったのにも何か意味があるはずです」

 

 ジュンの嘆きを完全に無視して真田は続ける。誰もジュンのフォローはせず、ユリカの解答だけを待っている。

 ここまで迫られては――もう黙っているのも限界だろう。止むを得ない、予定より早いが皆に真相を打ち明けよう。

 

 「……わかった。全部話すよ。その代わり、約束して。これから明かされる“真実”がどれほど残酷だとしても、受け入れ難いとしても、前に進むことを止めないって――ヤマトの精神である、“最後の最後まで諦めない”を果たすって」

 

 力の籠ったユリカの言葉に、クルーは相当辛い内容である事を察し、ごくりと唾を飲みこんでから頷く。

 今まで話してくれなかった事から、何となくそういう内容だとは覚悟していた。

 しかし、内容がどのようなものであっても知りたい! ユリカがどんな覚悟を背負ってヤマトを蘇らせ――ここまで来たのかを!

 

 クルーの覚悟が定まったと感じたユリカは、重々しく口を開こうとする。その時だった。

 艦内に非常警報が鳴り響く!

 

 「どうしたの、オモイカネ!?」

 

 すぐにルリが監視を任せていたオモイカネに問い合わせると、「警告!」「未確認の艦隊接近中!」とウィンドウが躍る。

 

 「ネタばらしはまた後で! 総員戦闘配置!」

 

 こうなっては仕方が無い。後ろ髪を引かれながらも各々の部署に走り、システムを立ち上げていく。

 

 守も「とりあえず第一艦橋に!」と言われた事もあり、進の隣の予備操縦席に着席して艦の管理を手伝う事になった。とは言え、初めて乗る艦に初めて扱う計器。

 如何に場数を踏んだ守とて、マニュアルを呼び出してまずは計器の場所と種類を覚える必要がある。

 ヤマトの計器は、それまでの宇宙戦艦と勝手が違い過ぎる。

 

 そうやって慌ただしくなったヤマトの艦内とは対照的に、未確認の艦隊はゆっくりと威厳を示すかのようにヤマトに接近してくる。

 

 「データベースに無い未確認の艦隊だ。フォルムも違い過ぎる……これは、ガミラスではない!」

 

 額に汗を浮かべながらゴートが報告する。砲術補佐席から呼び出した過去の戦闘記録データに該当する物が無い。

 過去のヤマトの戦闘データは欠損が多かったし、下手な先入観を得ないようにと意図的に封じられているので、この場で参考には出来ない。

 

 「艦長、敵艦が通信を求めて来ています」

 

 緊張を顔に滲ませながらエリナが報告する。ユリカはすぐに繋げるように指示すると、頭上のマスターパネルに人の顔が映し出された。

 灰色の肌に頭髪の無い丸坊主の頭に、強膜(白目と呼ばれている部分)が青く、唇も厚く角ばった顔立ち。そして筋骨隆々とした体格の良い身体。

 今まで得たデータから推測されるガミラス人とは、容姿がかなり違う。

 身に付けた服もまるでタイツの様で体のラインが出ていて、肌の色と同じ灰色なのでまるで全裸の様にも見える。

 それに黒い肘まである手袋と膝までのブーツ、裏地が赤い黒のマントを羽織った出で立ちだ。

 

 「――こちらは地球連合宇宙軍所属、宇宙戦艦ヤマト。貴官の所属と目的を教えられたし」

 

 全く未知の文明ともなれば言語が通じる保証はない。少なくともヤマトには彼らの言語のデータも無いので、敢えてこちらから声を発する。

 もしかしたら向こうはこちらの言語データを持っていて、解析して話せるかもしれない。

 ユリカの思惑は当たっていたようで、画面に映し出された指揮官と思しき男は1度目線を画面の外に向けて何かしら手で合図をする。しばらくして男が口を開けば、こちらの言語――日本語に翻訳された言葉が返って来る。

 どういう手品かを追求する余裕は無いが、かなり高度な文明を持っている事は伺える。

 

 挨拶もそこそこに告げられた男の言い分は、極めて単純だった。

 

 「ほう、貴様らがガミラスも手を焼いているという宇宙戦艦ヤマトか。その力、我らが暗黒星団帝国に献上して貰おう。丁度今行っている宇宙間戦争に役立ちそうだ。速やかに降伏し、その艦を明け渡した貰おうか」

 

 居丈高に告げられた内容にユリカは即座に「お断りします」と断言する。

 当然だ。ヤマトの力はあくまで“護る”為にこそあるのだ。交戦国の母星まで遠征する事も想定されているとはいえ、それはあくまで戦争を終わらせるための手段の1つ。

 間違っても侵略を目的とする輩には渡すことは出来ない。

 

 ――それに何より、ユリカはその名前に覚えがあった。

 

 “ヤマトが――地球が戦ったことのある侵略国家として”。

 

 「ほう。中々に強力な超兵器を備えていると聞くが、まさかそれだけで我が艦隊に勝てるとでも思っているのか? よかろう、ならば力尽くで奪うまで。精々足掻いて見せると良い」

 

 言うだけ言って一方的に通信を切られた。その態度に通信を繋いだエリナも「こんな相手だったら問答無用で攻撃しとけば良かった……」と敵意剥き出しかつ呆れ顔だ。

 

 宣言通り、眼前の敵艦隊は戦闘態勢に入った様子。艦同士の距離を開けて攻撃態勢を取る。

 眼前の艦艇は、全長が150m程のおにぎり(三角形)を連想させるような円盤型の艦体を持ち、中央よりやや後ろに直立した細めの艦橋、その頭頂部分にアンテナが、艦橋の前後に有砲身の三連装砲が装備されている艦艇が15隻。

 さらに先程通信してきた指揮官が座乗しているであろう敵旗艦は、共通のフォルムを持ちながらも先の艦艇の倍の大きさを持っている。その上三連装砲塔が艦首側が左右に1基づつと後方1基の計3基。艦橋トップにまるでヤマトの艦長室のようなドーム状の艦橋を有し、艦首からは触覚の様なセンサーが伸び、艦底部には大小合わせて4つのミサイルのような構造物が見える。

 いずれも艦体が黒く塗られ、艦首や艦尾の先端部分がオレンジ色で塗られている。

 

 今更ではあるが、本当にガミラスとも地球とも異なる異質なフォルムに、改めて別の星間国家と遭遇し図らずも交戦状態に突入してしまったことを実感する。

 

 ――喧嘩売ってきたのは向こうだが。

 

 不幸中の幸いか、どうやら艦載機は居ないようだ。

 

 「コスモタイガー隊は出撃を急げ! 主砲・副砲発射準備! フィールド戦闘出力で展開!」

 

 進がマイク片手に各部署に指示を出す。

 本来準備に相応の時間が掛かるコスモタイガー隊も、これまでの戦訓に則って即座に対応出来るように最低数の機体が用意されている。

 駐機スペースに引き出してGファルコンを接続し、後は下部の武器庫から必要な装備を引っ張り出してカタパルトスロープに乗れば、4機は即座に展開出来る。

 それにカタパルトを使用するガンダム2機とアルストロメリアを含めれば6機もの機体をすぐに展開出来る。

 駐機スペースの確保は勿論日常点検等々を考慮して、待機している機体はとりあえずそれだけだが、他の機体もすぐに発進出来るようにロボットアームが動き、格納スペースから機体を引き出していく。

 

 展開された機体はアキトのダブルエックスにリョーコのGXディバイダー、月臣のアルストロメリアとサブロウタのスーパーエステバリス、それにイズミとヒカルのエステバリスカスタムと毎度のメンツだ。

 このメンツは機体性能も技量もヤマト艦内では上位の存在なので、ローテーションで当番から外れていない限り大体緊急出撃メンバーに選ばれている。

 

 コスモタイガー隊が展開するとほぼ同時に、修理なった主砲が重々しく、副砲が軽やかに旋回して狙いを付ける。

 

 「主砲、副砲、発射準備よろし!」

 

 「発射!」

 

 ゴートの報告を受けて進が射撃を指示する。

 誕生以来シンボリックな存在であり続けた自慢の46㎝砲が、宇宙戦艦になって口径が増した20㎝砲が強力な重力衝撃波を撃ち出す。

 砲撃は狙い違わず黒色の艦艇に吸い込まれるように命中し、相も変わらず1撃でその艦体を打ち砕く。

 しかし、ガミラス艦に比べると装甲防御が優れているのかそれとも着弾時に観測出来たフィールドの強度が優れてるのか、破壊の規模が小さい。

 

 どうやって知ったか知らないが、どうやら波動砲以外は大したこと無いと見下していた様で、思わぬ反撃に艦隊が浮足立ったのが感じ取れる。

 それでも即座に無事な艦から“ビーム砲”が放たれヤマトに命中する。

 被弾の具合から粒子ビーム砲の一種である事が伺えるが、かなりの威力だ。

 ヤマトのフィールドに対して通用する貫通力と破壊力を持っているようで、集中砲火を浴びれば決壊する可能性がある。

 極力被弾は避けるべきだろう。

 

 ヤマトから発進したガンダムとエステバリスの混成部隊は協力して敵艦に食らい付き、6機分の火力を一斉に叩き込んで瞬く間に1隻を火だるまにする。

 元々単機で対艦攻撃を行えるガンダムが2機、それにエステバリスのお供が付けば当然の結果だった。とは言え、やはりガミラス艦に比べると固いらしく予想よりも攻撃回数が増えたようである。

 

 ヤマトは巧みな操艦で敵艦隊の攻撃を躱し、時に被弾しながらも持ち前のフィールド強度と重装甲で耐え凌ぎ、コスモタイガー隊と連携して確実に敵艦を沈めていく。

 思いもよらぬ猛反撃に戦意を失ったのか、大口を叩いた割には旗艦と思われる大型艦はあっさりと逃げの姿勢を取った。

 そして旗艦を逃がすためか、ヤマトに最も接近していた小型艦が体当たりも同然の勢いでヤマトに急接近する。

 小回りの利く副砲の一撃で撃沈はしたが、残骸の一部がヤマトの第一艦橋の真後ろに激突した。

 質量兵器には弱いフィールドの弱点と艦体に比べれば装甲が薄い艦橋という事もあり、損傷は避けられなかった。

 幸い気密も破れず、第一艦橋にも鐘楼自体にも決定的なダメージを受けるには至らなかったが、丁度艦長席の真上付近で内壁の一部が破損し、脱落してしまった。

 

 ――艦長! 避けて!!――

 

 ヤマトの切羽詰まった声に反応したユリカはすぐに席を立ったが間に合わなかった。脱落した内壁の一部は鋭い槍となって彼女の腹に突き刺さる。

 「が……っ!?」と短い苦痛の声が口から洩れる。不幸中の幸いか、服の人工筋肉が防刃繊維に似た役割を果たした事で即死は免れた。

 ――免れただけで、致命傷である事に変わりはなかったが。

 

 「ユリカ!!」

 

 「いやあぁぁぁっ!!」

 

 エリナが叫び、ルリとラピスが悲鳴を上げる。

 一気に混乱に見舞われたヤマトを尻目に、大型艦は生き残った小型艦数隻を引き連れて全速力でヤマトから離れていく。恐らく十分に距離を取ってからワープで逃げるつもりだろう。

 

 「追撃は不要だ! 雪! イネス先生! 艦長が負傷した! すぐに手当ての準備を!」

 

 進は戦闘終了を指示して医務室で待機中の2人を呼び出す。とは言え、進の目から見てもユリカが致命傷なのは一目瞭然だ。

 ――これは、普通の手段ではどうにもならない。

 

 (こんなところで……死なせない! お母さん!)

 

 進は独断で“ブラックボックス”の1つを使う事を決意した。とは言え、本来イスカンダルで完全なものになるはずのそれを使える保証は限りなくゼロに近い。

 だが、そのシステムを搭載しているのはヤマトなのだ。

 

 命を宿し自我を得たこのヤマトなら、消えかけた命を繋ぐくらいの奇跡を起こせる可能性はある。

 特に、ユリカとの関係を考えれば確率はゼロでなくなる!

 

 進は自分の席のマイクにしがみ付くようにして怒鳴った。

 

 「波動砲、モードゲキガンフレアで用意だ!! 急げっ!!」

 

 「古代! そんな場合じゃ――!!」

 

 「敵艦に追撃するにしても主砲で――!」

 

 気でも触れたかと止めに掛かった大介やジュンなど気にも留めず、進は艦長席に駆け寄る。

 ユリカはすでにゴートの手で座席から移動させられ、すぐ横の床に寝かせられている。担架無しで運ぶのは無理と判断しての事だろうが、ありがたい! これなら意識を嫌でも集中出来る!

 進はユリカがどかされた血まみれの艦長席に腰を下ろすと、眼前のスイッチを所定の順番で操作した。

 すると、正面の一番大きなモニターが前方に倒れ、中からアームで保持された艦長用の波動砲トリガーユニットが現れ、進の目線の高さにまで持ち上げられる。

 戦闘指揮席とは形状の違うトリガーユニットは、シンプルな筒状の本体と上部に覆い被さる様に取り付けられた2枚のターゲットスコープを備え、右側面に支持アームが接続されている。後部のボルトは戦闘指揮席の物と違って殆ど伸びていないが、進は構わずそれを押し込む。

 小振りで2枚重なったターゲットスコープに「Mode ゲキガンフレア」と表示された。その後ファイルと口頭で教えて貰っていた通り、ボックス下部の隠しパネルを開いて中のスイッチとレバーを操作。

 するとターゲットスコープの表示が変化、第一艦橋の各席や機関室やECI等にも同じ表示が現れた。

 

 「コスモリーバスシステム 起動」

 

 と。

 

 

 

 「な、何だよこれ……?」

 

 第一艦橋の喧騒も知らず、指示通り波動砲モード・ゲキガンフレアの準備を進めていた太助は、コンソールとウィンドウに表示された単語に我が目を疑う。

 

 コスモリバースシステム。

 

 それはヤマトが地球を救う為に求め、イスカンダルにあるとされている装置のはず。

 何故それが、ヤマトのコンソールに表示されているというのだ。

 

 「何だこれは……!? これが、ブラックボックスの正体なのか!?」

 

 驚愕する山崎達の前で、最終手順前まで準備されていたエンジンは、機関士達の手を離れて勝手に動き出した。

 

 ベテルギウスの時の様に。

 

 

 

 「頼むぞヤマト……! 俺達の想いに答えてくれ……!」

 

 ――やってみせます。彼女には恩がありますので――

 

 「――タイミングは任せるわ。今は不完全でも、コスモリバースシステムに掛けましょう」

 

 事情を知るエリナは進の行動を支持する事を表明し、ユリカの手を握る。

 

 「ゴート・ホーリー、彼のタイミングに合わせて破片を引き抜いて」

 

 「そんな事をしたら出血多量で死ぬぞ!?」

 

 エリナの思わぬ発言に難色を示すが、目線で訴えられた。信じて欲しいと。

 その視線にゴートも折れ、呼吸に合わせて動く破片に手を添えて、何時でも引き抜けるように準備した。

 

 「古代君……一体何をしようとしているんだ?」

 

 状況が飲み込めないままではあるが、それが唯一ユリカを救う手段だと察したジュンも作業のバックアップをすべくコンソールを睨む。

 システムのコンディションを示すステータスモニターの表示は、殆どの装置が接続されていない、不完全な状態である事を示している。

 が、最後に記された一文を見て彼の表情がはっきりと歪んだ。

 

 『アクセス端末・情報変換素子 ミスマル・ユリカ 未接続』

 

 「……ユリカが――コスモリバースシステムの部品?」

 

 次々と現れる秘め事の数々にもう理解が追い付かない。

 だがそれでも理解出来た事は、時期は不明だが進は全ての真相を知っていて、この窮地を切り抜けるために今まさに明かされようとしていた秘密を駆使しようとしている事、そしてエリナも知っていたという事だ。

 

 「艦長の様子は!?」

 

 息を切らせて雪や医療科のクルーを数人引き連れて来たイネスが開口一番に問う。

 しかし誰かが答えるより先に、艦長席の傍らに寝かされたユリカの姿を見て険しい表情になる。

 ――致命傷だ、治療はとても間に合わない。

 そして、艦長席に座った進の姿と表示されたウィンドウの内容から何をしようとしている事を察して、ユリカを運び出す事を一旦保留した。

 

 「進君、今は不完全でもコスモリバースシステムに掛けましょう」

 

 「進君!? 何が――っ!?」

 

 突然連絡も取れなくなり安定翼を開いたヤマトの姿を見て状況を確認したかったのであろう、アキトが通信を繋げて来た。

 そして、第一艦橋の惨状を見て絶句した。一瞬思考が停止したようだが、すぐに進がやろうとしている事を察したのだろう、格納庫には戻らず第一艦橋にダブルエックスを横付けすると、非常用のエアロックを使って飛び込んで来た。

 

 「ユリカ!!」

 

 アキトはすぐにユリカの傍に駆け寄ると、視線で進に促す。

 

 コスモリバースに全てを賭ける、と。

 

 準備の全てが完了した事を確認した進は、艦内通話を全てオンにする。

 これから“奇跡”を形にするには、他のクルーの協力が不可欠だ。

 

 「戦闘班長の古代進だ! 艦長が負傷されて危険な状態にある! 応急処置の為ヤマトのブラックボックスの1つを起動する! 詳細を説明している時間は無いため、全員スリーカウントに合わせて“艦長が助かる様に祈れ!”」

 

 突然の放送に事態を把握していない部署のクルーはおろか、次々明かされる秘密に混乱の極みにあるクルーも頭の処理が全く追い付かない。

 一体これから何が起こるのか、何をしようとしているのかさえも。

 

 「良いか!? 3……2……」

 

 困惑を他所に進のカウントダウンが始まる。

 もう半分自棄になって、負傷したというユリカが助かる様に――今まで自分達を励まし導き、このヤマトという最後の希望を繋いでくれた艦長が助かる様にと、強く願う。

 

 「……1……起動!!」

 

 カウント終了と同時に進はトリガーを引き絞る。同時にゴートがユリカに突き刺さった破片を引き抜く。

 機関室で6連炉心が突入ボルトに接続され、膨大な量の波動エネルギーが全て波動砲口から放出され、ヤマトを包み込む。

 ここまではモード・ゲキガンフレアと同じだった。違うのはここからで、ヤマトの艦内にも光の粒子の様な物が舞い散り、空間が優しい青い光で満たされる。

 すると、引き抜かれた事で溢れだした血はおろか、それまでに流れていた全てのユリカの血液が、まるで逆再生の様に傷口から体内に戻り、傷口がどんどん小さくなっていく。

 

 摩訶不思議な現象に現場に居合わせた詳細を知らないクルーはさらに混乱するが、結局傷が完治に至る前に光が消え失せ、ヤマトのエネルギーが一時的に空になった。

 

 「ほら! ぼさっとしないで艦長を医療室に運ぶわよ! 完治したわけじゃないんだから!」

 

 イネスは呆然としている雪達を急かして持ち込んでいた担架にユリカを乗せ、医療室に向かって超特急で向かう。

 完全に塞がり切らなかった傷口からはまた出血が始まっていた事もあり、雪達もその場は大人しく従った。

 ユリカが運ばれて行くのを見届けた進は、強張った両手を波動砲トリガーから引き剥がして、艦長席に体を預けて虚脱する。

 

 これで、ヤマトの秘密の大部分は明かしてしまった。

 

 ――もう後戻りは出来ない。これから先はどれほど辛い現実に直面しようとも、前に進む以外の選択肢は存在しない。

 誰もが全てを理解した上で乗り越えていくしかなくなった。

 最悪の可能性も含め、ユリカ達が抱えてきた全てを受け止めて。

 

 共にこの現実に立ち向かう事を強制されるのだ。

 

 

 

 全ては――愛の為に。

 

 

 

 ついに明かされるヤマト改装にまつわる秘密!

 

 イスカンダルで積み込む予定だったはずのコスモリバースが積まれていた真実とは如何に。

 

 そして、正体不明の脅威の出現にヤマトは、そしてガミラスは、どう対処していくのか?

 

 急げヤマトよイスカンダルへ!

 

 地球に残された人々のタイムリミットは、

 

 あと、258日しかないのだ!

 

 

 

 第十八話 完

 

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

    第三章 自分らしくある為に!

 

    第十九話 明かされる真実! 新たな決意と共に!

 

    ヤマトよ、立ち止まるな!

 


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