新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ(完結済み)   作:KITT

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第二十一話 未来を切り開け! 決意の波動砲!

 

 

 ヤマトの艦内に収容されたガミラスの兵士は、不安に駆られながらもレーザーアサルトライフルを握りしめ、同じく収容された民間人に視線を巡らせる。

 

 一様に不安気な表情を浮かべている。

 

 無理もない。この艦は敵国の艦――それも、ガミラスの手で滅亡寸前にある星の艦なのだ。

 何時どのようなタイミングで報復されるかもしれないという不安はあって然るべき。

 ――この部屋に閉じ込められたまま、生命維持装置を切られるかもわからないのだ。

 軍艦ともなれば、機密保持や安全確保のためにこうやって民間人を一か所に纏める事は不思議ではないが……。

 

 兵士は手元にある小銃の感触を確かめるかのように難度も握り直しながら、民間人に不安が伝染しないように気を引き締め直す。

 

 武装解除されなかったのは幸いだ。連中に言わせれば「武装したお前たちが入り口に立っていた方が安心出来るだろう」との事らしい。

 実際、民間人は縋るような視線で兵士達を見ているし、この中央作戦室という部屋以外に収容された民間人にも、付き添いとして武装した兵士の同行が許可されていると聞く。

 

 ……その気になれば、このヤマトを内側から破壊することも出来なくはない状況にはある。

 とはいえドメル司令やゲール副司令からも「ヤマトには手を出すな」と厳命されていて、これだけの数の民間人を抱えていては迂闊な行動は出来ない。

 収容されてからもヤマトは被弾による衝撃だったり戦闘機動による揺れ等があったが、今はそれも止んでいる。

 ほんの少し前には「これよりヤマトは波動砲を使用します。全員衝撃に備えて下さい!」と若い女性の声でアナウンスが流れ、それからあまり間を置かずに計5回の衝撃が襲い掛かった。

 特に5回目は4回目までに比べても一際大きな衝撃で、誰もが不安の声を漏らしたものだ。

 静かになった事を考えると恐らく戦闘は終了しているのだろうが、まだドメル司令は何も言ってこないし、ヤマト側も何も言ってこない。

 

 兵士はままならない状況に内心苛立ちながらも、少しでも彼らの安心に繋がる様にと虚勢を張る。

 そんな緊張状態の中、ヤマトのクルーがワゴンを押しながらやってきたではないか。

 黄色を基調に黒の装飾が施された服を着て、正面にはエプロンを掛けて両手には肘まであるゴム製と思われる手袋。

 見るからに炊事係だ。となれば、ワゴンの上に乗せられている大鍋の中身は自ずと推測出来るが……。

 

 「皆さん、戦闘は無事終了しました。ドメル司令指揮の元、受け入れの準備が進められていますので、今しばらくお待ちください。それと皆さんお疲れでしょう。温かいスープをご用意致しましたので、どうぞ召し上がって下さい」

 

 言いながらも鍋の蓋を取る。中には少量の豆と野菜が浮かぶ薄茶色の透明感あるスープがたっぷりと入っていた。

 

 「……」

 

 漂ってくるスープの香りが鼻を突くと、ここまでの疲労もあってか腹が空いていたのだと今更ながらに自覚させられた。

 ――とはいえ、はたして信じて良いのだろうか。毒が入っていたりしないだろうか。

 ヤマトクルーは中央作戦室に居る全員に漏らさずスープを配膳した。

 誰もが一応受け取りはするが、警戒心が強く口を付けていない。それでも受け取ったのは、やはり助けて貰ったという意識があって無下に出来ないからだろう。

 ――緊張状態を続かせるのは、良くないだろう。

 

 「……すまない、助かる」

 

 こうなれば自棄だと、口先だけの礼をしてスープの注がれたカップを受け取り毒見役を買って出る。

 兵士は意を決して渡されたスープのカップに口を付けて、中身のスープを啜る。

 口腔内に広がったスープは熱過ぎず啜るように飲めば丁度良く、適度に塩味も利いていて疲れた体に心地良かった。

 

 ――美味い。

 

 何の捻りも無いシンプルな感想が頭を過る。

 その後は一緒に渡されたスプーンで具の豆や野菜を口にかき込んで、簡素だが温かい食事を終える。

 

 「ご馳走様。美味かったよ」

 

 そう言って空になったカップを返す。今度は本心からの礼だった。

 その様子に安心を得たのか、他の兵士や民間人も恐る恐る食事に口を付ける。

 しばらくすれば、突然訪れた危機の連続に張り詰めていた気も緩んだのか、皆幾らか表情が柔らかくなる。

 

 そんなガミラス側の様子にヤマトのクルーも満足気だった。幾らか余裕をもって用意したのだろう、何人かがお替りを要求すればありったけを提供してくれた。

 

 そんな様子を見ながら余裕を取り戻した兵士は改めて辺りを見回してみる。

 そういえば、ヤマトのクルー達は受け入れの際大量の毛布を運び込んでは床の上に敷いて、民間人達が冷たい床に座らないで済むように配慮してくれたし、上に羽織る毛布も用意してくれた。

 戦闘中ともなれば、他にする事も多いだろうに。

 彼はこの場に留まって護衛を担当しているのだが、食事を提供してくれたクルーに何人かが怪我をして医療室に運ばれた家族や友人らの様子を尋ね、それに応えたクルーがそっと彼らを医療室に向かって案内したり、様子を聞かせている。

 

 滅亡の淵に追いやった憎むべき敵国の人間だというのにこの紳士っぷりだ。ヤマトのクルーは途轍もないお人好しだというのは間違いないだろう。

 

 彼とて軍属になってそれなりに長い。他の星の侵略する際銃をもって戦場を駆けまわった事もある。

 少なくとも、侵略された側の態度ではない事だけは確かだ。

 

 だから疑問に思って尋ねてみた。末端の兵ではまともな返事が返ってこないかと思ったがそうでもなかった。

 

 「ヤマトは地球の未来を考えて、ガミラスと共存していく道を模索しているんだ。恩を売ると言えば聞こえが悪いかもしれないが、こうする事で戦争を終わらせる事が出来るなら……怨恨だって飲み込んで見せるさ。綺麗事だと馬鹿にされても、ヤマトはそういう方向で行くと決断したんだ」

 

 その回答を聞いて、呆れるべきか感心すべきか少々判断がつかなった。

 が、彼は思った。

 少なくとも、今この場で救いの手を差し伸べてくれたことに関しては素直に感謝すべきだろうと。

 

 

 

 しかし、余裕が出来た今だからこそ気付いたのだが……部屋の端っこにある妙な機材は一体なんだろうか……。

 

 

 

 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

 第三章 自分らしくある為に!

 

 第二十一話 未来を切り開け! 決意の波動砲!

 

 

 

 少し時は遡る。

 

 ドメル艦隊と合流したヤマトは、艦載機の補給と再出撃を繰り返しながらひたすら遠方の空母に対して砲撃を続けていた。

 

 「艦首ミサイル、煙突ミサイル発射!」

 

 実戦の中で慣れてきたのか、威勢も良く守が牽制と露払いの為のミサイル発射を指示する。

 ビーメラ軌道上でマグネトロンウェーブ発生装置の残骸から補充したミサイルも、残り少ない。

 

 艦隊の中で敵艦に対して必殺の威力を発揮出来るのはヤマトとドメラーズ三世だが、敵空母のいる辺りにまで届くのはヤマトの主砲――3連装46㎝重力衝撃波砲のみであった。

 また、敵艦隊もこちらの優先目標が空母であると知ったのだろう。前衛艦隊が空母を護るべく盾として立ちはだかり、射線を塞がれる。

 ――この動きは、転送装置搭載艦を隠す意味もあるのかもしれない。

 そのため、ヤマトに射程で劣るドメラーズ三世と戦闘空母が率先して露払いを務め、障害となる艦を沈めに掛かる。勿論ヤマトも主砲は温存しつつ、ミサイルと副砲で攻撃を続けた。

 

 対する黒色艦隊も負けじとビームとミサイルを撃ち返してくる。爆撃機の転送も止まない。

 その砲火の殆どは、ヤマトとドメラーズ三世を含む艦隊に集中している。バラン星基地への追撃は不要と判断したのだろうか。

 先程までと違い艦隊に編入された事はヤマトにとっては追い風となったが、それでも今までは基地攻撃のついで程度の攻勢で済んでいたのが、集中攻撃に切り替わったのはかなりの痛手だ。

 

 ヤマトへの被害も徐々に増していく。だがより深刻だったのはドメラーズ三世だ。

 

 元々重装甲重火力の艦隊旗艦としての役割が重視された設計故、対空装備が乏しくその巨体による被弾面積の広さと鈍重さが、敵爆撃機の大火力に良いように弄ばれる要因となっていた。

 本来は僚艦の対空装備や味方戦闘機によって制空権を確保して対処する設計思想なので、転送戦術で前線の概念が消失した今、自身に対空装備が乏しい欠点が浮き彫りになってしまっている。

 ヤマトに匹敵する装甲とフィールド強度で耐え凌いでいるとはいえ、満足な迎撃が出来ないドメラーズ三世の被害は増すばかりだった……。

 アステロイド・リング防御幕もすでに壊滅的なダメージを受け機能を失っている。

 ヤマトのパルスブラストもドメラーズ三世に向いた面の物は、ドメラーズ三世のために使用しているのだが、十分とは言えない。

 僚艦である戦闘空母も、飛行甲板を裏返して露出した火器を全開放して砲撃を続けている。

 こちらは流石にドメラーズ三世程の防御力は無いが、代わりに対空戦闘能力が高く、対空ビーム砲を多数撃ちかけて必死に防空戦を展開している。

 が、自身の防衛が精一杯でドメラーズ三世に手が回っていない。

 戦闘機部隊も合流しているのだが、その場に留まっての戦闘が苦手の宇宙戦闘機では……。

 

 「コスモタイガー隊はドメラーズ三世の防衛に機体を回してくれ。ドメル司令を失うわけにはいかない」

 

 「了解! イズミとヒカルとサブは俺に着いて来い! ドメラーズ三世の防空に当たる!」

 

 「りょ~か~い」

 

 「―――――」

 

 「お任せあれ!」

 

 守の指示を受けて、リョーコが声をかけると各々の反応を示して承諾した。イズミが何かしら駄洒落を言っていたようだが無視だ無視。

 リョーコはちらりとエックスの傍らを並走する真紅の機体を見る。

 

 エックスよりも全体的に武骨で火器を満載した動く弾薬庫。

 その赤いボディと“デストロイ”という名も併せて、敵陣を火の海に沈める為に生まれてきた機体の生き様を感じさせる。

 

 「折角の新型のお披露目。相応しい舞台を用意して貰っちゃあ、頑張るしかありませんなぁ!」

 

 やはり木星出身者だけあって、「強力な新型機」というフレーズに心揺さぶられるのか、何時もより気持ちテンションが高い気がする。

 

 「気張り過ぎて壊すなよ。貴重なガンダムなんだからな」

 

 一応隊長として釘を刺しておく。まだ完全とは言い難い機体なのだから、無理をされたら困るのは事実。

 それに――

 

 「わかってますよ隊長殿。まだデートも出来てないのに死ねませんからねぇ」

 

 「最後が余計なんだよ馬鹿! 良いからさっさと防空任務に就けぇ!!」

 

 一気に赤面したリョーコが怒鳴り散らすと、サブロウタは「へ~い」と気負う事無くドメラーズ三世の艦橋の上に機体を立たせ、防空体制に入った。

 

 ――でもまあ、これが無事に済んだら飯くらいは付き合っても良いかな。

 

 苛立ち交じりに敵機を撃墜しながら、ふとそう思った。

 

 

 

 「さてさて、新型の威力をとくとご覧あれ!」

 

 許可を貰った上でドメラーズ三世の円盤のような艦橋に降り立ったサブロウタとレオパルドは、早速防空任務を果たすべく全兵装の安全装置を解除、その攻撃性能を全開にする。

 ブラックサレナが改修の過程で経たストライカータイプやエステバリスの重機動フレームの発展型として生み出された機体の威力、とくと味わうが良い。

 

 背中に収納されていたツインビームシリンダーの砲身が伸長し、マウントアームによって脇下を通って機体正面に差し出され、側面のカバーを解放する。

 解放されたカバーの中に両手を潜らせ砲身の後ろにあるグリップをそれぞれの手で掴み、掌にあるコネクターとグリップに内蔵されたコネクターを接続、エネルギーラインを成立させる。同時にカバーが閉鎖されて両腕に固定されたツインビームシリンダーとバックパックと繋ぐマウントアームが外されフリーになる。

 さらに右肩外側に装備された連装ビームキャノンの砲身を前方に向け、左肩側面に装備された11連ミサイルポッドが正面のハッチを解放、胸部の黒い装甲ハッチが跳ね上がり、内側に収められた8砲身のブレストガトリングの姿を露にする。両膝に備えられたカバーが前に倒れ、収められていたホーネットミサイルが発射体制に移行した。

 そして、コックピットのモニター前面にガンダムタイプ共通のターゲットスコープが下りて来て複数のターゲットマーカーが出現。

 レオパルドの特徴でもある多重ロックオンシステムが稼働して、複数の兵装を異なるターゲットに指向出来るようになった。

 

 ――準備完了!

 

 「それじゃあ……乱れ撃っちゃうぜ~~っ!!!」

 

 ワープで至近距離に現れた敵機を素早くロックオン。持てる火力を出し尽くしていく。

 右腕の4砲身ビームガトリングと3連装ビームキャノンが生み出す弾幕が敵機を捉え、容赦なくフィールドを削り取ってハチの巣にする。

 左腕の大小の複合ビーム砲の生み出す重い一撃の連打が、捉えた敵機のフィールドを数発で撃ち抜いて、砕く。

 そのビームの暴風雨の援助をするショルダーキャノン。ややテンポの違う攻撃が敵機の回避行動に喰らい付く。

 最も射程距離が長く精密性に優れた連装ビームキャノンが、基部の関節を活かして他の武装の射程外の敵機に次々と襲い掛かり、フィールドに削がれながらも確実に手傷を負わせていく。

 合わせて11連装ミサイルポッドから対空ミサイル、両膝の熱探知型のホーネットミサイルが一挙に放たれ、ツインビームシリンダーよりも外側に位置する敵機に複雑な軌道を描きつつ着弾。

 左右に振ったツインビームシリンダーの火線を潜る様にして機体の正面に飛び出して来た粗忽者は、ブレストガトリングの生み出す弾丸の嵐と、両頬に内蔵されたヘッドビームキャノンの砲撃でごり押して撃墜して見せた。

 

 機体も凄いが、5日程度のシミュレーター訓練しか受けていないにも関わらず、実戦でここまで使いこなして見せたサブロウタの技量の高さも称賛されるべきだ。

 Gファルコン配備後は、スーパーエステバリスの運用方法が武装数の少ないレオパルドの様なものだったので下地はあり、それ故話を聞いた時にこの機体へ搭乗を希望したのだが、まさに運命的な出会いであった。 

 そのレオパルドが生み出す弾幕に恐れをなし、軌道を外れた敵機の運命は――。

 

 「はぁ~い、残念でした」

 

 「山の頂点、それは……いっただき~」

 

 機体を乗り換えたイズミとヒカルに撃ち落とされるという結末だった。

 両肩の連射式カノンとミサイル、左手のハモニカ砲、右手のビームマシンガンにGファルコンの拡散グラビティブラストとミサイルが、レオパルドが撃ち漏らした敵機を容赦なく葬り去っていく。

 おまけにヤマトから継続されているパルスブラストの砲撃も容赦なく襲い掛かる、敵からすれば優位性が突然消え失せてしまったかのような阿鼻叫喚の有様となっていた。

 

 「う~ん。エステちゃんとは感じがちょっと違うけど、良い子だねぇ、アルストロメリアちゃん」

 

 「同感。これなら、もっと早くに古代に強請っておけば良かったかも」

 

 調整不十分とはいえ、エステバリスを凌ぐ新型機の手応えにヒカルもイズミもご満悦だ。

 改修で両肩に武装ユニットが追加された事もあり、Gファルコンの合体パターンはかつてのエステバリス同様、Bパーツの可変を伴う方式に変更されているのだが、ガンダムとは異なる機体バランスを持つアルストロメリアにとってはこちらの方が小回りが利くようだった。

 元々の素性の良さも影響しているのだと思う。ヤマトでの改修も軒並みアルストロメリアにとっては最適解と言えるものだったのも影響しているのだろう。

 

 対してつい先程まで乗っていたエステバリスカスタムの場合、重力波ユニットの復活と設置位置の下降と合わせたバランスの再調整を受けて合体位置が下にずれていた。

 スラスターが足首よりも下に下がってしまうのでウイング部分をやや後ろに傾斜させる事で改善をしていたのだが、やはり重量バランス的に細かい運動に関して言えば改修前の方が軍配が上がる。

 やはり、無理を重ねた改修の影響であちこちに無理が出てしまっているのだと否が応でも理解させられた。

 言い換えれば、これほどアルストロメリアと性能が開いていたにも関わらず、それでも致命的な破綻をせずに運用してこれたのは、やはり真田とウリバタケの技術力の賜物だろうと尊敬の念も生まれた。

 

 しかし、ジャンパー処理を受けていない2人ではアルストロメリアの長所である短距離ボソンジャンプを戦術に組み込めないという問題もあるのだが、それを差し引いても乗り換える価値があった。

 なにせ、ボソンジャンプによる強襲を前提に開発され、対艦戦闘の場合フィールドはジャンプで突破するという戦法から固定武装がクローのみだったというのに、今のアルストロメリアはスーパーエステバリス並みの重武装と合体形態もあって、すっかり射撃戦に偏った機体となっているのだから。

 

 この機体なら、そうそう当たり負けはしない。

 

 「オラオラオラァ! 余所見してると命を落とすぜ!」

 

 ……と思いつつも、補給を終えて暴れまわるエックスには及ばないのだとも思う。

 補給を終えたエックスはGファルコンGXのままだったが、左手に「ロケットランチャーガンよりも大きくて取り回しが悪いが、弾の使い分けが容易で射程距離と装填数で勝る装備」として用意された、ハイパーバズーカを左手で担いでいる。

 右手には補給したシールドバスターライフルを持ち、避けられない被弾は銃身とスコープを収納し、側面の装甲を展開してグリップを折り曲げて完成するシールドモードで何とか凌ぎつつ、Gファルコンの武装やハイパーバズーカを使って果敢に反撃して戦い続けている。

 武器弾薬の補給こそ行われたが、機体は特に消耗部品の交換を始めとする整備作業を受けていないのに全く問題ない稼働状態を維持していた。

 ――補給前にも結構被弾していたと思ったのだが、この耐久力と防御力はどこで差が付いたというのだろう。

 

 彼女も補給前の戦いではアキトと同じくフラッシュシステムを使ったGファルコンの遠隔操作を駆使した戦闘を行っていたが、やはり「疲労がぱねえ」という理由で今は控えている。

 勿論それは、

 

 「あやや。ガミラスの戦闘機は大変だねぇ~。その場に停滞出来なくて」

 

 「――戦闘機だしね。宇宙空間での停滞戦闘は人型の特権よ」

 

 2人が軽口を叩いている通り、ガミラスの戦闘機部隊と共同戦線を実施しているからだ。

 おかげで無理に分離戦法を取らなくても、数に負けて押し込まれる事も無くなった。

 

 そして2人の指摘通り、宇宙戦闘機としての形態を持つガミラスの戦闘機は、一定の空域に留まって戦う事は苦手の様で、転送戦術における防空戦闘という点においては、その場に留まった戦闘が可能な人型機動兵器に軍配が上がるようだ。

 それをわかっているのかそれともドメル司令辺りが指揮を出したのか、ガミラスの戦闘機は近接防御はコスモタイガー隊にほぼ一任し、その穴を埋めるような形で部隊を展開して防空作戦を展開している。

 きっと、こちらが何時敵に回ってしまわないかと内心冷や冷やものだろう。

 ……こちらも同じ気分だが。

 

 「……和解にも至ってない連中と共同戦線を張るなんて、地球を出た頃は考えてなかったぜ」

 

 即席混成部隊の事を思うとついつい軽口が飛び出す。

 そうしている最中もシールドバスターライフルからビームを撃ち出して敵機を沈め、接近してきた敵にシールドバスターライフルと弾切れになったハイパーバズーカを振り回して敵機に叩きつけたり(勿論バズーカは折れ曲がった)と、攻撃の手は休まない。

 今まで相対してきたガミラスの戦闘機ですら、全長(または全幅)18m程とエステより大きいのに、暗黒星団帝国の使う戦闘機は全長30mにも達する。

 特に大きさと火力から爆撃機と判断した機体は、触覚型ビーム砲が3本と3連装砲塔が4基も付いている、全長60mものかなりの大型機。当然の様に相応の頑強さと火力を有しているので、6m程度のエステバリス系列機ではかなり厄介な機体だ。

 単純にサイズだけなら決して珍しいと言えるほどでもない。地球でも大昔にはこの程度の大きさの戦略爆撃機もありはした。

 が、その大きさの割に機動力がかなり高いとなれば話は別だ。

 おまけにサイズの分だけ出力も高く、数の暴力があるにせよ、ヤマトの防御性能をもってしても完全に無効化出来ない火力のビーム砲を装備しているのも厄介で、しかもまるで触手の様にフレキシブルに動いて照準してくるのだから堪ったものじゃない。

 

 細部形状や意匠はともかく、多少有機的だが地球製の航宙機に近しい形状であり、かつ比較的運用思想が地球と酷似している部分のあるガミラスに比べると、形状と機能の違いから戦術が読みにくい分、少々戦い辛いのは事実だ。

 ただ、地球人がかつて考えていた円盤型UFOのような物理法則を無視したかのような鋭角な軌道を描いて飛んだりしないので、そういう意味では安心したパイロットもそこそこいた(特にヒカル)。

 それに強力なビーム砲とは言っても航空機の兵装の範疇に留まっている。艦砲射撃に比べれば火力は雲泥の差なので、ディバイダーやガンダムの防御力相手では必殺とは言えず、比較的余裕を持って戦えているというのもある。

 もしディバイダーが配備されていなかったら、エステバリスは火力や防御力の面で戦力外通告を受けていたかもしれない。

 ガンダムにしても、「ヤマトの護衛」を目的としたワンオフ上等・性能最優先の設計と、サテライトキャノン搭載の恩恵でやたらと頑強でだからこそ対等以上に戦えているだけで、これが純粋にアルストロメリアの発展型――というような形で開発されていたとしたら、ここまでの戦果はありえなかっただろう。

 

 ――相も変わらずワープで投入される爆撃機の姿が途絶えない。やはり撃墜出来ている数が少なく、補給と再出撃を許してしまっているからだろう。

 それでもレオパルドの火力のおかげで防衛は幾分楽になっている。

 すでにミサイルを全て撃ち尽くし、実弾のブレストガトリングの残弾も大分減っているのだが、その他の武装はビーム兵器なのでまだ少し弾薬に余裕があった。

 

 しかしながら、相転移エンジン搭載とはいってもエックス以下、Gファルコン以上という程度で特別優れているわけではないし、コンデンサーの規模と数からエックス程のエネルギー貯蓄量はない。

 特にツインビームシリンダーは消費が大きく、ある程度対策されているとはいってもエネルギーを容赦なく喰い尽くす。

 流石に消費が厳しいと判断したサブロウタは、右のビームシリンダーを外してバックパックに戻し、右手にだけ装備されたリストビーム砲の砲身を前方にスライドさせて発射する。

 大口径1門と小口径4門の計5門のビーム砲から、そこそこの威力のビーム弾を発射して応戦を続ける。

 

 エステバリスの消耗した武器弾薬は、戦力に余裕が出て手の空いたGファルコンがカーゴスペースに満載して戦場に運搬、弾切れになったライフルを捨ててウェポンラックに固定された新しいライフルを掴み取る事で解決している。

 手を使って速やかに装備を交換出来るのは人型の特権だ。Gファルコンの武装はどうにもならないが、携行武装が補填出来るだけありがたい。

 

 そうやってガミラス機では真似出来ない継戦能力を最大限に駆使して、ヤマトとドメラーズ三世を中心に艦隊の中枢を防衛し続けた。

 

 

 

 その頃、アキトのGファルコンDXと月臣のエアマスターバーストは揃ってガミラスの航空部隊と並走、敵艦隊に突撃を敢行していた。

 2機のガンダム以外はガミラスの戦闘機と爆撃機と雷撃機で構成された部隊で、ヤマトの射線を塞いでいる敵艦を沈めて主砲の射線を確保する事を目的としていた。

 空母への直接攻撃はその規模と距離から現実的ではないと判断され、却下された。

 

 収納形態で機動力を優先したGファルコンDXと、ファイターモードに変形したエアマスターはガミラスの高速戦闘機に匹敵する速度で戦場を突っ走る。

 胸部装甲を回転させて後方にスライドした頭部を隠し、腰を回転させて膝をクランク状に折り曲げつつ太腿を前方に曲げてやや高い位置に固定、折り畳んだつま先に内蔵されたスラスターと胸部の回転と連動して後方に倒れたスラスターユニットから、ブースタービームキャノンを乗せた主翼を横に開き、背中のノーズユニットを前方に移動させたファイターモード。

 エアマスターの特徴というべき可変機構によって生み出される機動力の高さに、GファルコンDXに乗るアキトも驚く。

 データは見せて貰っていたが、やはり実物を見せつけられると印象が違って見える。

 この機動力と運動性能は――それだけで強力な武器になり得る。多少火力が低くても、この機動力を活かしたヒット&アウェイは、対空・対地戦闘においては絶大な威力を持つ。

 強いていえば、対艦・対要塞攻撃には打撃力が不足しているのが難点だが、それはGファルコンとの合体や他の機体との連携で補える。

 

 開発時に「ブラックサレナの高機動ユニットのエアロタイプと重武装タイプを参考に、機体と一体化した」と聞かされた時は苦虫を噛んだような顔をしてしまったが、この威力は素直に称賛しようと思う。

 

 一方、まだ馴染んでいるとは言い難いエアマスターを操りながら、月臣は眼前に広がるイモムシ型戦闘機の大群を見据える。

 

 「テンカワ、打ち合わせ通りに頼むぞ。エアマスターとDMF-3の部隊で迎撃機は抑えて見せる。今は、お前達攻撃部隊の火力が頼みだ!」

 

 「――わかってる。任せろ月臣!」

 

 機体の性能を鑑みた役割分担だった。

 エアマスターとてガンダムタイプの1機。火力は勿論ガミラスの戦闘機よりも高い水準にある。

 だが今回の出撃では、対艦戦闘に従事するには少々火力不足な状態にあった。

 ガンダムは基本的にGファルコンとの連動前提で取り回しの良いビーム兵器を主兵装とし、グラビティブラストをオミットしている。例外は合体を前提としていないガンダムエックスディバイダーに限られる。

 今回エアマスターは調整不足で火力の要であるGファルコンと合体して運用出来ず、火力が足りない。

 なので、単体でもGファルコンDXの収納形態に迫る機動力と上回る運動性能を活かして、迎撃機の対処に回るのは必然といえよう。

 

 ヤマトがドメル司令の指揮下に置かれた事で、度重なる航空戦でその実力を示して来たアキトと月臣は、進の推薦で敵艦隊の攻撃部隊に編入された。

 言語の問題に関しては、ルリが必死にガミラスを解析し続けた成果もだが、地球の事を――ヤマトを分析し続けて来たドメルもヤマトで主に使用されている言語の解析を行っていたことで解決出来た。

 両者の努力結晶である翻訳ソフトが通信機器に組み込まれ、部隊行動を問題なく行える程度の意思疎通は可能となった。

 

 無論、両者の間には信頼関係が築かれていないので、その連携はギクシャクしたものではあったが。

 

 「――迎撃機の出撃を確認した! 全機、作戦通りに行動開始だ!」

 

 レーダー反応を確認したゲットーの指示で、パッとガミラス・ヤマト攻撃部隊が散開する。

 月臣とDMF-3の編隊は、ほとんど同じタイミングで増速。迎撃に出てきたイモムシ型戦闘機の編隊と相対した。

 突出して会敵したエアマスターは、機首のノーズビームキャノンから巨大なビーム弾を、翼部のブースタービームキャノンから小型ビーム弾を撃ち込みながら突撃する。

 両腕にマウントされたビームライフルは敢えて使わない。

 ガミラスのDMF-3もエアマスターに劣らない速度で敵航空編隊に突撃する。

 主翼に内蔵された大口径ビーム機関砲――パルスガンを発射しながら突っ込む。合わせて主翼に懸架された対空ミサイルもばら撒き、敵の編隊行動を妨げ攻撃部隊を通す間隙を生み出す。

 そうして生まれたわずかな隙をGファルコンDX、ガミラスの爆撃機と雷撃機であるDMB-87とDMT-97が、見かけに反したアクロバティックな機動で必死に潜り抜けていく。

 それでも全機が無事抜ける事が叶わず、何機かが被弾して煙を吹き、速度を鈍らせるが脱落は辛うじて居ない。

 エアマスター率いる戦闘機部隊と交戦状態に突入しながらも、何機かが反転して追撃しようとしている。

 それを見て月臣は素早く機体を人型のノーマルモードに変形させ、マニピュレーターで改めて保持し直した軽量型バスターライフルを追撃に移った敵機に向けて発射する。

 両手で腰溜めに構えたバスターライフルから放たれたビーム弾は、人型特有の安定感と細やかな照準によって次々と敵機のエンジン部に突き刺さっていく。

 単発の火力はダブルエックスやGXが使うライフルに劣るが、その分速射性に優れファイターモードの主砲としても使える様に調整されている。

 エアマスターの倍近い大きさのイモムシ型戦闘機とはいえ、機関部に4発ものビーム弾を連続して叩き込まれては一溜りもない。機関部が爆発して機体の後ろ半分が吹き飛び、誘爆して武装している前半分も砕け散る。

 さらに頭部バルカンも連射して敵の回避運動を誘いながら、両手のバスターライフルを矢継ぎ早に撃ち込んで敵機の数を減らすべく攻撃を続ける。

 今度はファイターモードに変形、敵陣に突っ込みながらバスターライフル以外の火器を全力で撃ち込む。そして敵の只中で再変形して両手に持ったバスターライフルを左右に、上下に、同じ方向にと撃ち分けて敵機を翻弄する。

 エネルギー管理のための武器の使い分けで、息切れしないように慎重に、だが大胆に戦う。ヤマト艦載機隊の中でも一番と称された月臣だからこそ出来る流れるような戦闘スタイルだった。

 

 エアマスターはそうやって人型と戦闘機形態を適時切り替えながら、ガミラスや暗黒星団帝国の戦闘機では決して真似出来ない戦闘機動で絶大な戦闘能力を見せつけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 「……マジかよ。ヤマトの奴ら、一体何処からあんな機体を……!」

 

 DMB-87を操りながら、バーガーはヤマトの新型機――エアマスターと言うらしい――の戦闘能力に肝を冷やす。

 今は味方だから良いが、これからあんなのも相手にしなければならないのかと思うと、想定していた対ヤマト戦術を練り直さなければならない。

 というか、戦艦内部の工作設備であんなものを1から用意出来るなんて、信じがたい事実だ。

 

 「爆撃機部隊の隊長、突っ込むぞ」

 

 「お、おう!」

 

 今は並走して飛行している戦略砲持ちの人型から――ダブルエックスと言うらしい――の通信に、どもりながらも応じる。

 ……本当は七色星団の決戦で雪辱を果たしてやるつもりだった機体だ。それが今は僚機とは……。

 ダブルエックスは、背中に合体している戦闘機の様なパーツに安定翼を追加、その上下に三角柱のミサイルや円筒状の魚雷と思われる装備を追加している。

 以前交戦した時よりも重武装であり、自分達が来る前からバラン星基地を護る為に航空戦を展開していたとは思えない程の健在っぷりだ。

 

 ……つくづく化け物染みた機体だ。その戦いを違った立場で分析出来るのは今後を考えると有難いとポジティブに考えるべきだろうか――今後があればだが。

 

 バーガーは愛機を翻して弾幕の中を軽やかに舞い、敵艦目掛けて突き進んでいく。確かに爆装されたDMB-87はDMF-3に比べて重く鈍いが、DMT-97に比べると動きは軽い。

 黒色艦隊の艦載機も、こちらより図体が大きい割に追従出来るだけの機動性と運動性能を持つが、技量はどうやらバーガー達ガミラス陣営やヤマトのパイロットが勝るようだ。

 まあ当然だろう。こちらは対ヤマト選抜メンバーの集まり、向こうは母国の存亡を背負った先鋭揃い。

 連中がどこから何の目的で来たかは知らないが、簡単に下せるような面子ではない。

 そんな事を思いながら、バーガーは円盤型の艦体を持つ敵艦に向かって突き進む。まずは艦隊からの砲撃を遮る邪魔な艦から始末する。

 隣には、ダブルエックスの姿もある。どうやらバーガーが狙っている艦の隣を始末するつもりの様子。

 その様子を視界の端に捉えながらも、バーガーは最良のタイミングで機首の8連装ミサイルランチャーと翼下に懸架した大型爆弾2発と中型爆弾を胴体格納分含めて16発、全火力を容赦なく叩きつける。

 僚機たちもそれに倣い、各々の標的に食らい付いていく。

 バーガーの機体だけでは火力不足だったが、僚機の攻撃も交えて撃沈に成功した。

 

 対して隣のダブルエックスは、懸架したミサイルと魚雷を放出した後人型に変形してから急接近して密着、その後左手で握ったビームを上下に出力した剣か弓の様な武器でフィールドを力技で押し切って装甲を切り裂き、機関部と思われる場所に容赦なく搭載されたミサイルや火砲を撃ち込んで、単機でありながら敵艦を沈めている。

 本当に化け物染みた性能の機体だ。あれが、過去のイスカンダルが生み出した星間戦争に耐えうる人型機動兵器――ガンダムの実力だというのだろうか。

 

 そんな感想を持ちながらも、敵艦を撃沈出来た事にひとまず安堵する。

 

 (……射線さえ確保すれば、あのヤマトの長射程砲が――)

 

 思考を遮るようにヤマトからの警告が飛び込んできたので慌てて離脱。直後に放たれた重力衝撃波(という事が解析で判明している)が9発、バーガーとダブルエックスが沈めた敵艦の残骸の隙間を縫う精密射撃でその先にいた空母1隻に突き刺さり、容赦なく撃沈して見せた。

 装甲が薄い傾向がある空母型とは言え、全長800mにも及ぶ大型艦艇をあっさりと沈めてみせたその火力には、本当に肝が冷える。

 だがこれでまた1隻、空母を減らした。少しは航空攻撃が緩くなってくれれば良いが……。

 そう考えながら、弾を撃ち切って武装が後方迎撃用のパルスビーム機銃のみとなった機体を翻して撤退に移る。弾切れになった爆撃機など的にしかならない。

 流石に見逃してはもらえず、戦闘機部隊の妨害を振り切って追撃してきたイモムシ型戦闘機の攻撃に晒され、1機、また1機と味方機が撃ち落とされていく。

 

 「くそっ! こんな所じゃ死ねぇ!」

 

 バーガーも後方に食い付いた敵機にパルスビーム機銃で牽制を掛けるが、それを掻い潜って触覚の様な砲台からビームが次々と撃ちかけられる。

 このままでは墜とされる! そう肝を冷やした瞬間、横から撃ちかけられたビームの直撃を受けて敵機が爆発四散する。

 ――ダブルエックスの援護か。

 

 「大丈夫か、隊長さん」

 

 「……助かった、礼を言うぜ」

 

 今度会ったら絶対報復すると誓った相手に救われるとは……。

 正直気分が悪いがバーガーも戦士の矜持ぐらいは知っている。なので、すぐに救って貰った礼をしておく。

 

 「殿は任せて下がってくれ。こっちもミサイルは撃ち尽くしたし、ライフルのエネルギーも今ので最後だけど、予備のライフルもあるしまだエネルギーも残ってる。迎撃機の相手くらいなら問題ない」

 

 そう告げるパイロットにバーガーも頷き、渋々ではあるが殿を任せて後方に下がる。

 

 (対艦攻撃装備と対空戦闘装備を両立して、どっちにもシームレスに対応可能だなんて……悪夢みたいな機体だぜ。パイロットの腕も良いし判断も的確だ。味方に付けりゃ、確かに頼もしいと言えるが……)

 

 殿に就いたダブルエックスは、左手のショートシールドに固定していた(開戦時から姿を見る人型のと同じタイプの)ライフルを右手に掴み取り、3点射で群がる敵機を牽制、胸部に合体した戦闘機の機首を思わせるパーツのビーム機関砲と背中のグラビティブラストを合わせて、帰還中の攻撃機部隊への被害を抑えるべく奮戦している。

 そこにやや遅れながらも戦闘機部隊も合流、殿を務めてくれた。

 やはり一際活躍が目立つのはダブルエックスとエアマスターとかいう機体で、被弾の痕こそ見受けられるがどちらの機体も装甲表面で防げているらしく、動きが鈍っていない。

 

 ――今更かもしれないが、今後は人型機動兵器だからと言って侮る姿勢は改めた方が良さそうだ。

 

 バーガーはそう固く胸に誓った。

 

 

 

 

 

 

 「……ううむ。予想よりも手強いな」

 

 あまり見かけない人型機動兵器の思わぬ善戦にデーダーは苛立ちがさらに増すと同時に、これ以上の交戦は徒に戦力を消耗するだけだと強く感じた。

 

 「――作業の進展は?」

 

 「はっ。システムへの侵入に成功、まもなくプログラムの改変も終えます」

 

 部下に問い質すとすぐに待ち望んだ答えが返ってきた。よし、と頷くとデーダーは全艦に司令を出した。

 

 「艦載機を収容した後、順次バラン星宙域からワープで退却しろ!」

 

 と命じる。

 

 これで作戦は成功した。鹵獲品のテストも兼ねた下準備は終了したも同然。

 後は、艦隊司令――メルダーズの擁するマゼラン方面艦隊に合流し、ガミラスを屈服させるだけだ。ついでにイスカンダルも制圧すれば、更なる戦果を得られるだろう。

 連中の星があの移動性ブラックホールに飲まれるまでまだ数ヵ月ある。悠長には構えていられないが、それだけあれば必要量のガミラシウムとイスカンダリウム――それにもう1つの資源を得られるだろう。

 

 移民計画の重要拠点であろうバラン星基地を攻撃する事で連中の焦りを生み、浮足立たせる事が出来れば上等。

 そのわずかな隙が、こちらの勝利を不動のものとするのだ。

 

 「プログラム改変完了。制御はこちらのものになりました」

 

 「――よし。ガミラスの人口太陽を起動、その後敵艦隊目掛けて直進させろ。観測機器を最大稼働させるのも忘れるな。ヤマトが例のタキオン波動収束砲とやらを使うのを見届け、解析する。あれが我が帝国にとってどの程度の意味合いを持つのかを、ここではっきりとさせるのだ!」

 

 わざわざこの場に飛び込んで来てガミラスと共闘したヤマトだ。

 恐らく武力によってガミラスの侵略を跳ね除ける事に限界を感じて、講和に持ち込む事を考えたに違いない。

 だからこの状況を――第三勢力の手によってガミラスの危機に味方として乱入し、その意志を示した――といったところだろう。

 超兵器を持ちながら何と弱気な事だと思うが、おかげでこのような機会を設ける事が出来た。

 連中もどうやらイスカンダルを目指している様だし、その制圧を考えている我々と衝突するは必然。

 最悪最大限に譲歩して、こちらの邪魔をしない代わりに連中の行動の一切を黙認しても良いが、あれだけの艦、見過ごすのはあまりにも危険。

 ――あのタキオン波動収束砲という大砲がどうしても気になる。第六感が囁くのだ。あれを放置する事は、我が帝国の足元を掬われるに等しい。

 デーダーは長年の感がそう訴えるのを聞き逃さなかった。

 

 そのデーダーが見守る中、モニターに映っていた巨大なプラネタリウムのプロジェクターの様な建造物の穴から高温のプラズマが噴出。

 サイズこそ小さいがまごう事なき恒星の姿を作り出し、バラン星基地とその防衛艦隊目掛けて緩やかに動き始めた――。

 

 

 

 

 

 

 その頃ヤマトの第一艦橋は、突如として飛び込んで来たユリカの言葉に困惑していた。

 敵艦隊はどんどんワープで戦闘宙域から離脱を始めていて、ようやく戦闘に一段落着くと安堵していた矢先だったので、なおさらだった。

 

 「太陽? 太陽が迫ってくるんですか、艦長?」

 

 「うん。多分非常に近い未来の事だと思う。それを夢って形で見たみたいなの」

 

 ウィンドウに映るユリカの姿に、進と真田は顔を見合わせた後ドメル司令に問い合わせる事にした。近くに恒星の影は無いのだが、進は何となくその正体を察した。

 と、その前にユリカを下げさせなければ。

 艦長代理が指揮を執っているのに艦長が顔を出すと混乱を招くかもしれないから、今はまだユリカの姿を晒すべきではないと訴えると、

 

 「そうだね。私、パジャマのままだからこのまま話すのは失礼だもんね。おめかししてから出直さないと礼儀がなってないって思われちゃう。さっすが進! 礼儀も弁えた成長にお母さん感激だよ!――じゃ、着替えてお化粧するね」

 

 と言って通信を切った。

 

 ――違う、そうじゃない。

 

 そんな感想を抱きながらも、進はドメル司令を呼び出して事の詳細を確かめる事にした。

 が、それよりも早く向こうからこちらに通信が送られてきた。

 

 「古代艦長代理、不味い事になった」

 

 深刻そうな表情のドメルに進は悟った。ユリカの警告は一足遅かったのだと。

 

 「我がガミラスがバラン星でテスト運用していた人口太陽のコントロールを奪われた……どうやら、基地諸共我らを飲み込ませるつもりのようだ。あれの移動速度を考えると、ワープでの撤退は不可能だ。艦隊が密集し過ぎていてワープインに支障をきたしてしまう。それに、民間船の足では到底逃げ切れないだろう……」

 

 「人口太陽?――まさか、ガミラスが地球を解凍するための?」

 

 「その通りです。包み隠さずお話ししますと、あれは寒冷化により凍結した地球を解凍し、ガミラスの早期移住を実現するために開発されたもので、貴方方の太陽系に運び込む前にバラン星でテストを繰り返し、完成後に輸送する手筈になっていました」

 

 やはりか。ガミラスは、何の考えも無しに地球をあのような状況に追い込んだわけでは無かった。

 地表を荒廃させるのが人類死滅への早道であるのは自明だが、将来的な移住を考慮するのであれば荒廃の程度を考えないと行く当てを失くしてしまう。

 

 ガミラスは星を凍結に持ち込んでも解凍する術を持っていた。

 だからこそ、地表への被害を限界まで抑え、ある程度は本来地球が持っている生態系の情報を保存出来(凍結で保存された地球全土の生物のDNAを採取して、クローニングすることも出来るのかもしれない)、場合によっては人類が築いた文明の残りを活用する事でより素早く文明の復興を可能とする――そういう算段だったのだろう。

 

 自分達の滅亡が掛かっているからだろうが、やる事がエグイ。

 

 はたして地表に大量の遊星爆弾を墜とされ、放射能汚染で赤茶けた星に成り果てた――ヤマト出生世界の地球とどちらがマシだったのだろうか。

 ついそんな比較が頭を過る。

 

 「どうやら連中は、貴方方と同じくハッキング端末を基地に打ち込み制御装置に干渉したようです。残念ながら、安全に停止する手段はもはやありません」

 

 あ、やっぱりばれてた。

 

 「――古代艦長代理。貴方方の決意に水を差す事になってしまい……本当に申し訳なく思う……だが――だが、撃って欲しい。タキオン波動収束砲で……人口太陽を」

 

 静かに、だが申し訳なさと苦渋さを多分に含んだ声色でドメルは告げた。

 

 波動砲で人口太陽を撃て、と。

 

 「……」

 

 ユリカから警告を受けた時にすでに考えていた。……波動砲しかないと。

 元々こういった状況を想定して、すぐにでも解放出来るように封じてあるのだから、問題なく使用出来るだろう。

 しかし。

 

 「恐らく敵の狙いは、タキオン波動収束砲のデータを得る事にあると推測されます。艦隊に撃たれるのを避けつつ、データを収集するためにタキオン波動収束砲でしか破壊が望めない人口太陽のコントロールを奪ったのだと、私は解釈しています……その結果を見て、ヤマトを手に入れるか破壊するかの判断を下すつもりなのでしょう」

 

 「――確かに連中と遭遇した時、波動砲に興味があるという言葉を聞きました。ヤマトを無条件に差し出せとも。だとすれば――」

 

 「撃たなければ、ヤマトは逃げられても艦隊の大半と基地は壊滅。当然、民間船も……撃てば、敵にその威力を曝け出す事になり、解析され、今後の戦略に不利が生じる。どちらを選んでも、得をするのは敵だけ……この状況に持ち込まれた瞬間、我々の選択肢は奪われてしまったのです」

 

 ドメルの冷静な言葉に、進はギリッと歯を噛む。

 データを解析するのはガミラスも同じ。

 つまり、この後ガミラスとの和解が成立出来ない――またはガミラス側がカスケードブラックホールの窮地を抜ける為だけにヤマトを利用したとしたら……もうヤマトは地球を救えなくなる。

 

 だが!

 

 (俺達は――俺達は何のためにこの場に来た? 地球を救うため、最善と思える事をするために来たんじゃなかったのか? ここで如何なる理由であっても尻込みして撃たなければ、俺達がここに来た意味は無くなる……)

 

 正直迷いがある。

 波動砲をわざわざ封印したのは、この絶大な威力を封じる事で覚悟を見せる為だった。意思を示すためだった。

 確かに今は非常事態だ。この状況を覆せるのは――トランジッション波動砲だけだ。頭では理解している。

 しかし安易に解除出来る封印だと知れたら、ドメル司令はともかく、ガミラス上層部に受けが悪いのではないだろうか……。

 

 ――古代――

 

 突然進の頭に、今まで聞いたことのない重々しい声が響く。

 

 ――古代、覚悟を示せ――

 

 進はドメルと通信中だという事も忘れて後ろを振り返った。

 ――そこにあるのは、いや、居たのは初代ヤマト艦長沖田十三のレリーフ。

 

 (沖田艦長――!……貴方はまだ、ここに居られるのですか? ずっとずっと、俺達の事を見守ってくれていたのですか?)

 

 レリーフの沖田は何も言わない。幻聴だったのかもしれない。

 しかし進の目には、レリーフに刻み込まれた沖田の表情が柔らかく微笑んだようにも見えた。

 ――それだけで十分だった。

 ヤマトの在り方を決定付けた父――沖田に背を押されて、進は前を振り返る。

 

 (沖田艦長……俺は――俺達は! 覚悟を示します!)

 

 決心がついた。

 俺達は俺達の道を――母ユリカから学んだ、「自分らしくある」生き方を貫く!

 

 もう、迷いはない!

 

 「……封印解除だ! トランジッション波動砲用意! 目標、人口太陽!」

 

 進の決断を、クルー達は後押しした。

 

 「封印プラグ強制排除!」

 

 真田がキーボードを叩いて暗号コードを撃ち込むと、波動砲口を完全に密閉していたオレンジ色の蓋の周囲に小さな爆発が連続して起こり、最後にひと際大きな爆発が砲口内部で発生、反動でプラグが外れてヤマトの前方にゆっくりと回転しながら慣性で漂い始める。

 

 「ルリさん、波動砲で人口太陽を破壊するとして、それによる被害がどの程度のものになるのか計算してくれ」

 

 「了解」

 

 進の要望にルリもすぐに応じる。

 

 「人口太陽の構造データを提供します――古代艦長代理、決断に感謝します」

 

 ガミラス式の敬礼と共に言葉とデータを送ってくれたドメル。進もヤマト式の敬礼を持って応える。

 

 「――解析結果が出ました。破壊するだけならコア部分に波動砲を1発撃ち込めば事足りますが、人口太陽自体の崩壊を波動砲の作用が助長して――周囲に高温のプラズマと重力衝撃波をまき散らし、後方の基地は勿論、艦隊や民間船への甚大な被害が懸念されます。先に周囲のプラズマを波動砲で剥ぎ取る事も検討しましたが、収束率の高いヤマトの波動砲では効果的に剥ぎ取る事が出来ません。せめて、波動砲のエネルギーで全体を飲み込んで押し流せれば被害を抑えられるのですが……」

 

 ルリの計算結果に全員渋い顔になる。

 ここに来て、波動砲が艦隊決戦兵器として辛うじて機能している問題点――何らかの物体を破壊する際にタキオン波動バースト流が四散し周囲に破壊作用をばら撒いてしまうという難点が重く圧し掛かっていた。

 それに、地球を早急に解凍するためのものという事もあってか、それとも人口太陽というものは大体この規模になるのかはわからないが、プラズマの生み出す表面とでも形容すべき部分の直径は小惑星クラスだ。

 ――収束型の波動砲では、飲み込む事が出来ない!

 

 (考えろ……何か……何か策があるはずだ。破壊によって持たされる被害を相殺する何かが……)

 

 必死に頭を捻る真田。工作班長の意地と誇りに掛けて、何としてもこの場で応急的にエネルギーを拡大させる方法を考える。

 時間はあまり残されていない。

 何かあるはずだ。こういった局面に役立ちそうなアイデアが!

 真田の脳裏に波動砲に関連した様々な出来事が駆け巡り――。

 

 「……そうだ! 過去の戦訓を活かして照射範囲を拡大すれば良いんだ!」

 

 この局面で真田が閃いた!

 

 「なぜなにナデシコの第二回放送を思い出してくれ! “過去にヤマトの波動砲は、敵大型ミサイルを飲み込んで破壊した時、その爆発で照射範囲が拡大した事例がある”事が説明されていただろう? あれは恐らく艦長が見たヤマトの過去の記憶――つまり実際にあった事なんだ! だったら、それを意図的に引き起こしてやれば良いんだ!」

 

 真田の発言に、進お兄さんとして収録に参加した進もその意図を理解した。

 あの時は、詳細不明だがヤマトの1/4程の大きさがありそうな超大型ミサイル複数によってその現象が引き起こされていた。

 ヤマトには当然そんな大型ミサイルは搭載されていないし、ガミラスとてすぐには用意出来ないだろう。

 ――しかし、ヤマトにはそれに比肩し得る威力のミサイルを搭載した支援艦を搭載している!

 

 「感付いたようだな、古代。そうだ、信濃の波動エネルギー弾道弾を波動砲の軸線上に配置して起爆させれば、波動砲をその地点から広域に拡大させる事が出来るはずだ! 予め波動砲の収束率を限界まで下げた状態でそれを起こせば、あの人口太陽を飲み込める規模にまでエネルギーを拡大させる事が出来るかもしれない! ルリ君!」

 

 「再計算開始!…………結果が出ました。78%の確率でエネルギーが拡大して広域に広がります。ただ、乱暴な手段でエネルギーを拡大させるため、波動砲1発分ではエネルギーが不足して人口太陽を飲み込ませる事が出来ませんし、爆発によって広がるエネルギーを押し流し切れません。計算では弾道弾24発で拡大を狙い、波動砲2発分のエネルギーを1度に放出出来れば完璧なのですが……」

 

 「全弾発射システムを使った場合、ほぼ強制的に6基分のエネルギーを使ってしまいます。残念ですが、現時点のシステムでは必要分のエネルギーを供給して射撃出来るようには造られていません」

 

 元来がカスケードブラックホール破壊の為に構築された、応急的なシステム。そこまで器用な運用には対応していない。

 エンジンを停止しただけでは駄目だ。エンジン内に残留するエネルギーが使用されてしまう構造になっている。

 モード・ゲキガンフレアのようにタキオン波動バースト流にまで加工していなければある程度の調節も出来るのだが……。

 

 「ならば、あえて4発無駄撃ちしてエネルギーを減らした後、残った炉心だけで全弾発射システムを構築するのは駄目か?」

 

 ゴートの思わぬ閃きにルリとラピスが早速検証すると、成功率が意外と高い事が判明した。

 

 「よし! 波動砲4発を無駄撃ちしてから、残ったエネルギーを拡大放射して人口太陽を破壊する!――ドメル司令、それでよろしいですか?」

 

 「異存はありません。念のため、艦隊をヤマトの上下左右に広げ、最大出力でフィールドを広域展開して後方の艦と基地の盾となるべく配置しましょう――ヤマトの成功を祈ります」

 

 敬礼を送った後、ヤマトの邪魔をしない為かドメルは通信を切断、マスターパネルから姿を消した。

 敬礼で見送った進は、改めて指示を出した。

 

 「トランジッション波動砲用意! すぐに4発を無駄撃ちして残った2発を同時射撃して対応する! 信濃の発進準備も急げ!」

 

 今回のような防衛戦や乱戦では使い道が無いと埃を被っていた信濃に思わぬ出番が回ってきた。

 早速大介は艦の操縦をハリに任せて信濃に乗り込むべく移動する。

 

 「……艦長代理。俺は波動砲の使用に不慣れだ。発射はそちらに任せた方が良いと思うが」

 

 守の進言に少し悩んでから、頷く。

 

 「艦長代理、俺も島に同行して波動エネルギー弾道弾の展開を補佐する。なに、一緒に戦闘指揮をしてきた仲だ、お前のタイミングに合わせる自信はあるぞ」

 

 自信たっぷりに胸を張るゴートの言葉にちょっぴり感動しながら、進は信濃を親友と少し前までの副官に任せる事にした。

 

 「艦首を人口太陽に向けます」

 

 操縦桿を引き継いだハリがヤマトの艦首を人口太陽の方向に向ける。

 眼前の人口太陽は物凄いスピードでこちらに向かって猛進してくる。この様子だと、安全圏で破壊する猶予はほんの2分程、5分もしない内にこちらを飲み込んでしまうだろう。

 

 「波動相転移エンジン、出力120%へ!」

 

 「了解! 出力120%へ!」

 

 第一艦橋からの指示を受け、山崎がエンジンの出力を上げる。

 エンジンの稼働音が一際高くなり、生み出される振動も激しくなる。

 

 「フライホイール始動!」

 

 太助がそれまで単にエンジンの回転を円滑にするためにしか機能していなかったフライホイールが、エンジンの再始動を円滑にするための補助エネルギーを溜め込み始め、淡い発光が徐々に強い発光へと移行していく。

 出航後数回に渡るエンジンの再調整でその機能は洗礼されつつある。真の力を発揮するには至っていないとはいえ、出航当時よりも格段に進歩しているのだ。

 

 「信濃、発進準備完了!」

 

 「ハッチ解放! 信濃発進だ!」

 

 大介の報告に、すぐに信濃の格納庫に併設された管制室に連絡してハッチを解放させる。

 ヤマト艦首下部のハッチが一段下がった後観音開きに開く。中から出番に恵まれなかった信濃がゆっくりとその姿を現し、安定翼を伸ばしてブースターを点火、猛加速してヤマトの正面下方に向かって飛び去って行く。

 ――これで波動砲の軸線から外れつつ弾道弾を発射する準備が整う。

 

 「島さん、ゴートさん、波動エネルギー弾道弾はヤマトから10㎞の地点で交差する様に発射して下さい。起爆そのものは波動砲に巻き込まれるだけで大丈夫ですから、信濃が巻き込まれない距離から正確に交差させる事に専念して下さい」

 

 額に汗を浮かべながらルリが指示を出すと、両者から「了解!」と威勢の良い声が返ってきた。

 安全を期すなら事前に波動砲の軸線上に波動エネルギー弾道弾だけを放出して留めておけば良いのだが、今回は事前に4発無駄撃ちしなければならない為、その余波で起爆してしまわないように直前まで信濃で守らなければならない。

 余波に巻き込まれることがあったら信濃は木っ端微塵。それ以前に上手くエネルギーが拡散しなかったら人口太陽崩壊の余波に巻き込まれる――。

 

 あまりにも急な作戦故万全とは言い難いのが心苦しいが、今は出来る事をやるしかない。

 

 「安全装置解除、ターゲットスコープオープン!」

 

 「操舵を艦長席に委譲します」

 

 進は艦長席のコンソールを操作、正面のモニターが奥に倒れて中から出現したスコープ付きの発射装置を両手でしっかりと掴む。

 発射装置の上に取り付けられた2枚重ねのターゲットスコープには、猛進してくる人口太陽の姿が映し出されている。

 しかし、最初の4発は意図的に外さなければならない。進は意図的にヤマトの艦首を人口太陽から右にずらす。

 

 「出力120%に到達。4連射、準備完了」

 

 ラピスの報告に頷くと、ジュンにガミラス艦に向けて、エリナに艦内に向けて波動砲発射に伴う警告を発する様に指示する。

 

 「発射15秒前! 総員対ショック防御!」

 

 戦闘中のヤマトの窓には全て防御シャッターが下ろされている。閃光防御は必要ない。

 艦長席用の発射装置を握るのは2度目だが、戦闘指揮席の物とは違う重圧を感じる。

 

 (……沖田さん、ありがとうございます。未熟な俺の、背を押してくれて)

 

 進は力強く目の前の発射装置を両手で掴む。

 2枚のターゲットスコープには、ヤマトの艦橋測距儀が捉えた人口太陽の姿が映し出されている。

 フィルターを通した姿は、まるで生き物の様にプラズマの炎を振り乱しながらこちらに突き進んでくる、物の怪の様。

 

 「10……9……」

 

 カウントダウンが進む。だが不思議と緊張はしていなかった。ただ悠然と、成すべきことを成す。

 

 「6……5……」

 

 (俺は、沖田さんとユリカさんに恥じないよう、この仕事をやり遂げて見せます)

 

 「3……2……」

 

 死してなお、宇宙を超えてなお、進に言葉を――父の優しさを示してくれた沖田艦長に感謝しながら、照準を調整する。

 

 「……1……発射っ!」

 

 (俺は、沖田さんが育て、ユリカさんが受け継いだ――宇宙戦艦ヤマトの指揮官だ!)

 

 力強い想いと共に引き金を引く。

 

 6連炉心が突入ボルトに激突して、莫大なエネルギーが波動砲収束装置に流し込まれる。

 そこで高圧・高エネルギーのタキオン波動バースト流へと至った波動エネルギーがライフリングチューブ内を駆け巡り、最終収束装置を通過した後、凄まじい光芒と共に艦首の砲口――ヤマトのシンボルというべき場所から放出される。

 最大まで収束率を下げているので、その奔流は何時もよりも倍近く太くなっているのが見て取れる。

 

 1発、2発、3発、4発。

 

 炉心の頂点を入れ替えながら4度、突入ボルトに6連炉心が激突してエネルギーを流し込む。

 放たれた波動砲の光芒は、人口太陽を大きく右に反れた宇宙空間を突き進んで遥か彼方で減衰して宇宙に溶け行く。

 

 「波動砲、全弾発射システムのプロテクト解除! 全弾発射システムを構築します!」

 

 ラピスは4発分のエネルギーを撃ち切った事を確認した後、予め施されていたプロテクトを機関長権限で解除して全弾発射システム――普通に使ったら反動でヤマトが砕けかねない、未完の最終兵器の安全装置を解除する。

 

 6連炉心の内部回路が切り替えられ、モード・ゲキガンフレアと同じように全炉心直結状態になる。エネルギーが突入ボルトから洩れて機関室内に漏洩する危険性から、スーパーチャージャーの側面の溝に沿って、ハニカム状の補強が入った防火扉が天井から降りてくる。

 勿論、防火扉が降り切る前に機関室一同は機関室の後部――ヤマト誕生当時から改修を重ねて使われているという波動炉心側に退避する。

 

 今回はカスケードブラックホール対策の要となる6発分ではなく2発分での発射。本来の1/3程度の負荷になるから恐らく問題無く発射出来るはずだが、それでも普段の倍の負担が掛かる。

 機関士の一部からは「ヤマトの能力が過去に比べてインフレしてるせいか、感覚が可笑しくなりそう」と漏らしているが、恐らくそれが真っ当な反応であろう。

 

 

 

 「よし、4連射を確認した。ゴートさん、頼みます」

 

 「うむ。任せて貰おう」

 

 波動砲の余波に巻き込まれないように距離を取りつつ、波動エネルギー弾道弾の発射予定ポイントで待機していた信濃が波動エネルギー弾道弾の発射準備を整える。

 ゴートはルリが計算して出してくれたポイントを入力し、発射装置の安全装置を外す。

 信濃のVLSのハッチが開いて、ヤマトの危機を何度か救ってくれた波動エネルギー弾道弾の姿が覗く。

 発射レバーに手を添えながら、ゴートは緊張で唾を飲みこみ喉を鳴らす。

 大見得を切って出てきたが、不安なものは不安だ。仕損じれば、今はまだ停戦もしていない敵国とはいえ、多数の民間人を犠牲にしてしまう。

 ゴートの脳裏に過るのは、重ねた勝利に驕り、見殺しにした――いや、生き残る為に“殺してしまった”火星の避難民達の事。

 

 あの過ちを――繰り返すわけにはいかない。

 

 ヤマトと繋がったままの通信機からは、進の声で波動砲のカウントダウンが進められている。

 グローブの中の手に大量の汗が滲むのがわかる。

 レバーを何度も握り直し、高まる緊張に視野も狭くなるが、それでも計器から目を離さない。

 

 進のカウントが残り5を数えた時、ゴートはここぞと思ったタイミングでレバーを引いた。

 VLSからロケット噴射の尾を引いて、24発の波動エネルギー弾道弾が一塊となって飛び出していく。

 

 

 

 進はターゲットスコープの端にちらりと映る、波動エネルギー弾道弾の姿を捉えた。

 後は、こちらがタイミングをしくじらなければ大丈夫のはずだ。

 今度はしっかりと人口太陽の中心にターゲットを置き、カウントダウン。

 

 「3……2……1……発射ぁっ!!」

 

 5度目の引き金が引かれた。

 

 6連炉心が再び突入ボルトに叩きつけられ、通常の倍の量のエネルギーが注ぎ込まれ、タキオン波動バースト流の奔流がさらに激しく収束装置とライフリングチューブの中を暴れ回り、先程までよりもさらに激しい光芒と共に発射口から噴出する。

 一回り大きくなったタキオン波動バースト流は軌道上に割り込んできた24発の波動エネルギー弾道弾を飲み込んだ瞬間……爆ぜた。

 それでも普段の倍もある力強い奔流は散り散りになる事なく1本であり続け、波動砲1発分の30%にも達した波動エネルギーの開放によって急激に流れが広がり、そのエネルギーすらも取り込んでより強大な奔流と化して、眼前の人口太陽を軽々飲み込む規模にまで膨れ上がる。

 

 波動エネルギー弾道弾の起爆による損失と照射範囲の拡大で単位面積当たりの威力は通常の1/5以下にまで落ち込んだのだが、太陽とは言え人工物。

 本物の恒星には遠く及ばない。その程度のエネルギーで耐えられる程、この一撃は軽くは無かった。

 人口太陽は成す術無くタキオン波動バースト流の流れに飲み込まれ、外周のプラズマを残さず押し流されながら、コアが激しく変動する時空間歪曲場に飲み込まれて塵も残さず消滅、その膨大なエネルギーを外部に解き放とうとしたが、それすらタキオン波動バースト流の流れに飲み込まれて遥か彼方に遠ざかっていく。

 人口太陽を飲み込み、内部で爆発されたタキオン波動バースト流はさらにその奔流を広範囲に拡大。地球の月程度なら飲み込んでしまえるような凄まじい閃光となって、宇宙の彼方に去っていった……。

 

 

 

 

 

 

 ドメルは眼前で放たれたタキオン波動収束砲の威力に、改めて言葉を失った。

 次元断層内で見た時も、それから数度の使用を観測してデータは得ていたが、人口太陽程のエネルギー体を容易く消滅させる威力を見せつけられては、驚くなという方が無理というものだ。

 ――余波を受け止めるべく備えていた用意も無駄と終わったという現実が、それを後押しする。

 

 (やはり、ヤマトの波動砲の制限は6発まで。予想はしていたが、艦隊を丸ごと飲み込むような広範囲放射は通常出来ないものだったか……火急の事態とはいえ、それらの欠点すら示してくれたか……)

 

 ドメルはヤマトの誠実さに感激を隠せなかった。

 地球を救うだけなら見捨てても良かったのだ。

 それなのに、加害者であるため自ら言い出すにはあまりにも都合が良過ぎると悩んでいた和平への道を考え、行動してくれた。それどこか手の内まで明かすリスクを背負って……。

 これに応えられねば誇りも何もない。すぐにでもデスラー総統に全てを伝え、ヤマトの誠意に応えねばならない。

 総統ならきっとわかってくれる。ヤマトと手を取り合ってくれる。

 ヤマト1隻の振る舞いで地球の全てを理解したと言い切るつもりはないが、彼らも我らと変わらないメンタリティを持ち、ガミラスにも勝るとも劣らない気高さを見せてくれた。

 ならば、文明の遅れた野蛮人などと見下すべきではない。

 それにその威力を眼前で見て確信を持てた。あの砲ならガミラス本星を飲み込まんとしているカスケードブラックホール――次元転移装置を破壊出来る。

 彼らはきっとイスカンダルの為にもそうするだろう。となれば、ヤマトを生かせば必ずガミラスは恩恵を得られる。

 

 母なる母星を捨てずに済むのだ。

 

 ドメルは改めて全軍にヤマトに対して一切の手出しを禁止する命令を出すと、まずはデスラー総統に一報を入れるべきとし、長距離通信の準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 デスラーはバラン星襲撃の報を受ける直前まで、自身の新たな座乗艦となる新型艦の視察に赴いていた。

 ガミラス本星がカスケードブラックホールに飲み込まれるまで後数ヵ月。

 移民後の政府再建のための準備もそうだが、自身が先に立って民族を導く為に必要な力の象徴も欠かす事が出来ない。

 

 それにデスラーはヤマトとの最終決戦があるとすれば、その矢面に立つのは自分だと思っていた。

 ヤマトが見込み通りの存在なら、例え報復や復讐といった感情を捨てられずとも、発端となった指導者である自分を討ち取りさえすればそれで矛先を納めてくれるはずだ。

 つまり、移民船団を護る戦力を温存するためにも、ヤマトと最後の決戦を挑むのはこのデスラーが乗る艦1隻で行わなければならない。

 

 勿論、これからが大変なガミラスを見捨てるに等しい行動であるとは重々理解している。

 しかしデスラーが倒れれば、ヒスもタランもヤマトからは――地球からは手を引く。そうすれば、あの強大な力がガミラスに向けられることは……もうない。

 ならばこそ、ドメルが敗れたとしても総力戦を演じず、1対1の戦いを挑み、勝てればそれまで、負けたとしてもデスラーの命で満足して貰えるように誘導するしかないのだ。

 

 デスラーは眼下で最終調整段階に入った――デウスーラと名付けた自らの新しい座乗艦を見下ろす。

 高貴な蒼で塗装された艦体はガミラスの艦艇でも2番目に大きい638mにも達している。

 最大の特徴は勿論艦首に搭載されたガミラス製タキオン波動収束砲――通称デスラー砲だ。

 デスラー砲は時短のため、工廠で何とか完成形になった試作品をそのまま搭載出来るように手配したのだが、それも艦の大型化の一因になっている。

 元々デスラーは、総統府に格納された専用の脱出艇を使って移民船団に同行する予定になっていた。脱出艇には総統府としてそのまま機能出来る設備が多かったからだ。

 なので、この脱出艇をコアシップとして捉え、艦体の大部分を“拡張ユニット”として建造する事で、不安視されていた戦闘能力を飛躍的に強化しつつ、総統府としての機能を両立する事が出来るようになったのである。

 同時にこれは、デスラーの意思に反してデスラー砲が使われないようにするための安全措置も兼ねていた。

 

 「総統のご要望通り、デスラー砲の搭載にも成功し、コアシップと艦体の出力を組み合わせる事で、計算上はヤマトのタキオン波動収束砲2発分のエネルギーを撃ち出す事が出来ます」

 

 工廠の管理者を共に付け、艦の説明を受けながら内部を案内される。

 作業の殆どは完了しているので雑多な印象は無い。

 脱出艇そのままの艦橋やデスラーの個室は、品を損なわない程度に装飾されていて、ガミラスの総統の威厳をこれ以上無く引き立ててくれる。

 艦橋後部中央には、デスラーが腰を下ろすための立派な椅子も用意されていて、普段は床に収納されているが指揮卓も用意され、デスラーが過不足なく艦隊を指揮出来る様に配慮されている。

 デスラー砲の搭載に伴って艦橋に追加された発射装置は機関銃を模した形状で、非使用時には床下に収納されている。

 左手で側面から飛び出している安全装置の解除レバーを動かし、右手でトリガーを引く事で発射される。

 眼前の小モニターがターゲットスコープの役割を果たすなど、武骨な様で気品を感じさせるデザインと機能性の両立に、デスラーは作業に携わった者達を労い称賛した。

 こういう気配りも、国を統べる者には不可欠な技能だ。

 

 

 

 そうやって滞りなく視察を終えた直後、バラン星が最近国境付近に出没していた黒色艦隊の仲間と思われる大艦隊に襲撃されたとの報告を受けた。

 険しい表情で中央司令部に飛び込み状況確認を進める中で、思いもよらぬ事態に発展していた事を知る。

 

 宇宙戦艦ヤマトが……あの宇宙戦艦ヤマトが、バラン星基地防衛の為に力を尽くしてくれたというのだ。

 

 報告を受けた時、デスラーを含めた将校達は我が耳を疑い、報告したドメルに再度問い合わせたのだが、ドメルは基地や艦隊の各艦、さらには自身の艦が修めた戦闘データとヤマトからの通信データ、その一切を提出して応えた。

 その中には勿論、ヤマトが敵の制御下に置かれて暴走した人口太陽をタキオン波動収束砲で消滅させたことまでもが含まれていた。

 

 ヤマトの行動も驚きではあったが、同時に重要拠点であるバラン星基地を易々と陥落させてしまったドメルの失態を責める声も大きかった。

 ドメルの隣に立っていたゲールも顔色が悪く、連帯責任を恐れているようでありながら、ドメルの進退を案じているようでもあった。

 

 ドメルはそれに対して「全ての責任は私にあります。如何なる処罰も甘んじて受けましょう。しかし、今一度ヤマトと交渉し、地球との共存の道を模索するべきだと進言させて頂きます」と応じた。

 何人かの将校は憤ったが、デスラーはそれを制して問うた。

 

 「……それが、君のヤマトに対する結論か?」

 

 「そうです。彼らは信を置くに値します。決して、我らが地球人に対して下した、野蛮人などという評価が適切な存在ではありません」

 

 力強く言い切るドメルの姿勢に、デスラーは決断し告げた。

 

 「バラン星基地陥落の事実を鑑み、ドメル将軍を銀河方面作戦司令長官の任から外す。勿論バラン星基地司令の任もだ。副官のゲールは改めてバラン星基地司令に任命する。生き残った人員を纏めて再編を急いでくれたまえ――ドメル将軍は使者として宇宙戦艦ヤマトに赴き、彼らに交渉に応じる気があるかを問い質し、彼らにその気があるのであればヤマトをガミラス星ならびイスカンダル星まで案内するのだ。今後、別命あるまで宇宙戦艦ヤマトへの敵対の一切を厳禁する。それと、この戦闘でヤマトが受けた被害の回復と、物資の補給には応じる事を厳命する。今回は、彼らに多大な恩がある事を忘れるな」

 

 デスラーの命令にドメルは快く、ゲールは戸惑いながら応じ、中央指令室に集まっていた将校達は驚く者と妙に納得した者とで真っ二つに分かれた。

 バラン星からの通信が切れると、デスラーは眼前の部下達に静かに告げた。

 

 「ガミラスの現況を鑑みるに、これ以上ヤマトとの交戦を続けるメリットは無い。ましてや所属不明の国家が我がガミラスに牙を剥いているというのなら、猶更だ。また、ヤマトにはタキオン波動収束砲が装備されている。それも、先日完成したデスラー砲の3倍の威力がある。この脅威を払拭出来るのなら、交渉の価値はある」

 

 デスラーの言葉に先程納得の姿勢を示していた将校も頷き、納得出来ていない将校達も理解の色を示す。

 

 「それに、ヤマトはイスカンダルと我がガミラスが置かれている状況を知っている可能性が高いとの情報も得ている。だとすれば、イスカンダルが提供したであろうあの砲の使い道の1つは……」

 

 「――カスケードブラックホールの破壊……でありましょうか」

 

 真っ先にデスラーの言わんとすることを理解したのは、やはりタランだった。

 

 「そうだ、タラン。ヤマトがイスカンダルに恩義を感じているのなら――イスカンダルの危機を見過ごす事はしないだろう。スターシアは侵略戦争を行っていることを理由に我らに提供を拒んだが、ヤマトには提供している。となれば、ヤマトを指揮する者はその眼鏡に叶った人格の持ち主のはずだ……とすれば、ヤマトは最初からこの戦いの結末としてカスケードブラックホール破壊を前提とした貸しを理由に、講和を考えていた可能性が高い。しかし、我々がそれに応じずあくまで戦う道を選んだのなら――」

 

 「タキオン波動収束砲でガミラスを滅ぼす事も辞さない、という事ですね、総統」

 

 ヒスの言葉にデスラーは神妙に頷く。

 

 彼もヤマトと交渉するというデスラーの意向に従う姿勢を示している。

 当然だろう、元々タランも、そして水面下ではヒスも、どちらに転んでも良い様に色々と準備を重ねてきたのだ。その過程で、最もガミラスにダメージが小さく済む流れは――ヤマトとの交渉による終戦だ。

 仮に地球を諦める事になったとしても、あの威力をガミラスに向けられるに比べたら安い対価だった。

 それにあのドメルが「信を置ける相手」と断じたのなら、1度取り決めた事を反故してまでヤマトがガミラスに攻撃する事は無いと考えても良いだろう。

 

 問題は、地球が復興して十分な戦力を整えた後、ヤマトとの交渉結果を「ヤマトが独断でした事。地球政府が従う謂れはない」と行動した場合だ。

 ヤマトが搭載を成功した以上、地球の艦は今後タキオン波動収束砲が装備されている艦艇を大量に生産する可能性が高い。勿論、こちらも生産力では負けていないので、今後デスラー砲を搭載した親衛艦隊を構築して備えることは出来なくもないのだが……。

 

 ここまで考えて、ようやくあの戦略砲持ちの人型の存在意義も解った。

 

 あの機体は、カスケードブラックホールを破壊してもなおガミラスの攻撃が続いた時、ヤマトをその猛攻から護り抜く為に用意された機体だったのだ。

 数の暴力を覆す絶対的な暴力として。良心の呵責を捨て去り、向かって来る脅威を機械的に排除するために。

 その威力を早々に見せつけていたのも、それしか手段が無かったのもあるだろうが、こちらに警戒させてこういった考えに誘導するための布石だったのかもしれない。

 

 「今後の対地球戦略については詳細を考える必要があるが、これで当面はヤマトを気にせずに済むはずだ――ヤマトには我が帝国の民を救って貰った恩義があり、ヤマトが戦ってくれたおかげで艦隊への損失も最小限に出来た。多少の譲歩をしてやったとしても、道理に反してはいまい」

 

 デスラーにそこまで言われては、反発する者は誰もいなかった。

 誰もがヤマトを恐れていたのだ。単艦でありながら度重なる罠を潜り抜け、初めてであろう宇宙の難所を幾度も潜り抜けてきた、そのタフネス。

 タキオン波動収束砲の絶対的な威力も、自軍で開発に成功した事でより鮮明にわかるようになった。その威力を1度に6度も叩きつけられたら……仮にエネルギーを使い果たして無力化したヤマトを叩く余力が残せたとしても、ガミラスも尋常ならざる被害を被って、今新たに現れた黒色艦隊を始めとする外部勢力によって滅亡してしまうかもしれない。

 

 しかし、恐れると同時に孤立無援の戦でありながら、最後の最後まで諦めず、敵とすらわかり合おうとするその姿勢には畏敬の念すら覚えずにはいられない。

 普段なら青臭い平和主義的主張で一笑するところだろうが、滅亡寸前に追い込んだ相手に対して、和平出来る保証も無いのに自ら切り込みに来たその振る舞いには敬意を払うべきだと考えた将校も、一定数居たのである。

 

 そしてデスラーは対ヤマトの方針が決定するや否や、敵艦隊の目的について自身の考えを述べる。

 その考えを吟味した結果、満場一致で全軍に緊急警戒態勢を命じる手筈となった。

 敵艦隊の目的は、間違いなく――。

 

 (艦隊の配備が間に合えばよいのだが……)

 

 デスラーは一抹の不安を感じずにはいられなかった。

 敵は間違いなく――強大だ。

 

 

 

 ガミラス本星との通信を終えたドメルとゲールは、1つ息を吐いてから互いに向き合う。

 

 「後始末を任せる形になって、申し訳なく思う――バラン星基地の皆をよろしく頼む、ゲール司令」

 

 申し訳なさそうであるが、どこか清々しいドメルにゲールも、

 

 「……お任せ下さい、ドメル将軍。短い間でしたが、貴方の副官であれた事を誇りに思います。艦隊は私に任せて、貴方はヤマトとの交渉を成功させて下さい……私が言うのもなんですが、交渉の結果が、ガミラス・地球、双方にとって良きものであらん事を、願っております」

 

 ヤマトに対して思う所が無いと言えば嘘になる。

 ただ1度救われたくらいで手の平を返すほど軽々しい訳でもない、と思いたいが、全力を尽くしてくれたヤマトに感謝の念が無いと言えば嘘になる。

 

 「ありがとう、ゲール司令。成功を祈ってくれ」

 

 敬礼を交わし合い区切りを付けた後、ドメルは踵を返して連絡艇に向かう。

 すでにヤマトとは話が付いている。

 快くドメルを受け入れ、準備が出来次第発進する手筈だ。

 

 (政治とは、距離を置くつもりだったのだがな……人生、何が起こるかわからないものだ)

 

 軍人として実直に勤め上げてきたドメルにとって初めての経験だ。

 だが、悪い気はしない。

 それだけの相手と巡り会えた。

 

 一方ゲールは、ドメルが視界から消えた後、今度は窓の外に見えるヤマトに向かって敬礼を捧げる。

 そのヤマトに向かって、つい先程まで上官であったドメルを乗せた連絡艇が向かっていくのが見える。

 

 (ドメル司令……先程のは世辞でも何でもない、本心でした。どうか、お気を付けて……)

 

 互いに第一印象は最悪だったと思う。

 目敏いゲールは、ドメルが司令室の調度品に不満たらたらである事はわかっていたし、出来る事なら入れ替えたがっていた事も知っている。

 

 そして、不和を生まない為かぐっと堪えてくれたことも、あのヤマトと対峙して生きて帰って来れる様に作戦を練ってくれていたことも、わかっている。

 気に入らない存在なら、作戦に託けて謀殺する事も、作戦失敗の責任を取らせて処刑することも出来たのに、彼はそれをしなかった。

 

 勿論ゲールにとって忠誠を捧げるのはデスラー総統ただ1人だが……。

 

 (ドメル将軍。今度会う機会があったら、酒でも酌み交わしたいものですなぁ)

 

 ゲールは連絡艇がヤマトの格納庫に着艦するまで、ずっと敬礼を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 その頃スターシアは、通信装置の前で逡巡していた。

 

 「……」

 

 思い起こされるのは3年前、デスラーからタキオン波動収束砲の技術を求められた時拒絶した事だ。

 あの時はその決断が正しいものだと思っていたが、その2年後に遥か16万8000光年も彼方の星――地球から救援を求められるとは考えてもいなかった。

 勿論最初はガミラスの時と同じように断るつもりだった。

 だが、イスカンダルが拒絶した結果ガミラスが地球に侵略の手を伸ばしたのかもしれないと思うと、無下にも出来ない。

 そう思ってユリカと言葉を交わす内に、彼女の事が好ましく思えたのだ。

 当時のスターシアは共に暮らしていた妹サーシアを除けば、極稀にホットラインで言葉を交わすデスラー以外の人間と接する機会は皆無であり、常識的に考えてとても無礼な手段でコンタクトを取ったユリカには、呆れを覚えながらももう少しだけ言葉を交わしたいという渇望が顔を覗かせるのを、抑えられなかったのもある。

 

 彼女はとても変わっていた。

 頭はとても良く回転も速いのに、どこかずれた応答をすることがあるのがとても珍しく、彼女がイスカンダルの事を知るきっかけとなったという並行宇宙の宇宙戦艦――ヤマトについて語ってくれた時、その特異性について一緒に考えると同時に……すでに地球にはそのヤマトが波動エンジンとタキオン波動収束砲をもたらしていた事を知った。

 

 それは別宇宙の物であるのだから、この宇宙のイスカンダルが保有するそれとは別物と言えるかもしれない。だが、その破壊力はこの宇宙のイスカンダルのそれと遜色ない事が彼女との会話で窺えた。

 

 だから彼女に問うたのだ。

 本当に大丈夫なのかと。

 ユリカは「大丈夫!」と、胸を張って答えた。

 だからスターシアは方針を捻じ曲げてでも応える事にした。

 

 ……その事でガミラスに、デスラーに思う事が無いわけでは無かった。

 どのような理由であれ他の星を侵略するなど、スターシアからすれば言語道断、到底許せる事ではない。

 しかし、隣国の人間であり元々は1つの種族だった存在だ。

 それに……スターシアとて自分の物言いが絶対に正しいわけではない事は重々承知している。

 

 この宇宙に戦いが満ち溢れているのは揺るがない事実。どれほど平和主義を唱えたとしても、相手に聞き入れる意思が無ければ何の意味もなさない事は、スターシアとて理解している。

 イスカンダルとて、かつてはそれを理由に捨てたはずの武力を取り戻して争ったのだから。

 

 他国との国交が閉ざされて久しいイスカンダルは、この宇宙の情勢を正しく把握しているとは言い難い。が、少なくとも今イスカンダルは2つの勢力から狙われていることがわかる。

 1つはその正体こそ杳として知れないが、何者かが送り込んできた次元転移装置。――恐らくはイスカンダルやガミラス星自体を目的とした、資源採取を目的とした行動であることだけは察しがついたが、正体を見極めるには情報が不足し過ぎている。

 

 もう1つはガミラスの国境を侵犯し始めているという正体不明の黒色艦隊。

 デスラーが教えてくれたので恐らく間違いはないだろう。

 

 デスラーが隣人としてスターシア達を気遣ってくれている事は、素直に有難く思う。

 同時に、彼が単なる暴君でない事の証左だと信じたい気持ちもある。立場上相容れないとはいえ、彼自身を嫌っているというわけではないのだから。

 

 「……」

 

 正直な話、ユリカは信じるに足る人間だと思った。しかし状況が状況なので、スターシアと接触出来ていた時期から時間を経て考えが変わってしまうことも十分考えられた。

 ガミラスとて、ヤマトが発進すればその目的地がイスカンダルである事は容易に予想するであろう。

 デスラーはタキオン波動収束砲の事を知っている。そして、タキオン波動収束砲とコスモリバースシステムが表裏一体の存在である事も。

 ヤマトがタキオン波動収束砲を使えば、イスカンダルが支援していることはすぐに判明するだろう。

 その場合、地球とガミラスの違いとは一体何なのかと問われたら、スターシアには応えられる自信がない。

 確かに地球はガミラスの様に他の星を侵略してはいないが、それはまだ彼らにその技術が無かっただけで、自らの民族内で不毛な戦いを続けている。

 そのような文明が将来的にタキオン波動収束砲を使って他の星を侵略しないという保証はない。むしろタキオン波動収束砲が引き金になってしまうかもしれないのだ。

 

 特に現状では、加害者側とはいえガミラスに対してはその力を向けない理由が無く、実際ヤマトはその威力を駆使してガミラスの脅威を潜り抜けているのだろう。

 

 実際問題、スターシアがヤマトにタキオン波動収束砲――それも6連射可能な技術を提供したのはイスカンダルでヤマトに大規模な改装を行う余力も時間も無いのが一番の理由だが、その威力でヤマトの航海の安全が少しでも得られるのであればとの思いがあった。

 

 ――そう、その威力故にタキオン波動収束砲を封じて外部にその存在を知られないように表に出さず、隣人達の危機すら看過して封じてきたタキオン波動収束砲なのに、その力に縋ってしまったのはスターシアも同じだった。

 

 「……」

 

 通信機モニターの隣に目を向けると、そこにあるのはイスカンダル星の――自爆スイッチ。

 イスカンダル王家の人間のみが押す事の出来る最終手段にして、イスカンダルの負の遺産を未来永劫葬り去るために設けられた、封印装置。

 ユリカと出会う前は、カスケードブラックホールに飲み込まれる前にこのスイッチを入れてイスカンダルを滅ぼすつもりだった。

 しかし今はヤマトが来る。ヤマトに託したタキオン波動収束砲の威力ならば、あの次元転移装置を破壊する事も可能だろう。

 今は……それに期待している自分が居る。生きたい欲求が生まれたのだ。

 

 「……守……サーシア……」

 

 スターシアは迷っている。

 今一度デスラーを説得して、地球とヤマトから手を引くように訴えるべきだろうか。

 しかしながら、引き換えに出来る条件をスターシアはすでに失っているだろう。

 ガミラスの技術力なら2年もあればタキオン波動収束砲を自主開発出来るだろう。

 カスケードブラックホールを破壊するに足る6連射型――ユリカがトランジッション波動砲と命名した域に至っていなければまだチャンスはあるが、デスラーが約束を反故しない保証はない。

 それに――ヤマトは今、必死の思いでこのイスカンダルを目指しているはずだ。

 初めて体験する未知なる宇宙の洗礼を存分に浴びて、ガミラスの妨害も掻い潜って。

 

 ここでスターシアが万が一にもデスラーを引かせる事が出来たとしても、それでは彼らの努力を無駄にしてしまう。

 それにスターシア自身が彼らを試しているのだ。

 

 本当に困難を乗り越えてでも生き抜く意思があるかどうかを。

 

 その主張を通すのであれば、スターシア側からガミラスに話をすることは重大な違反だ。

 しかし、スターシアは地球に技術提供をしたことで内心ガミラスに負い目がある。

 その負い目が形となって、ついデスラーにユリカの事を話してしまった過去もある。

 大切な友人であるユリカの容態も心配が尽きないし、上手く合流出来たのなら――守の事も気がかりだ。

 その気持ちが表に出過ぎた結果、守をヤマトへの支援物資になりそうな遺物と共に送り出すという支援を行ってしまっている。

 

 “女王”として毅然な態度を崩さないように努めるべきだと理性が訴える。だがスターシアの“人間”の部分が悲鳴を上げているのも自覚している。

 

 そうやって悩み抜いた後、やはり女王としての姿勢を貫くべきだと頭を振って通信機の前から離れようとした時、件のガミラスから――デスラーからのホットラインが入った。

 

 

 

 

 

 「やあスターシア。お加減如何かね?」

 

 「デスラー……今回はどのようなご用件ですか?」

 

 画面に映る美しい尊顔に浮かぶ表情に、デスラーは内心苦笑する。

 何か言いたげだが口に出せないと顔に書かれている。これは、とても珍しいものを見れたようだ。

 だが、デスラーはこれからもっと珍しいスターシアの表情を見る事になるだろうと少々期待していた。

 

 「今回は色々とイスカンダルにもご報告しておきたい事があってね。まず最初に、ガミラスはタキオン波動収束砲の開発に成功したと伝えておこう。中々に手間取ったがね」

 

 そう告げると露骨にスターシアの表情が変わる。

 禁忌の力に手を出したという非難と、やはりそうなったかという落胆――そしてヤマトの今後を思っての憂い。

 ここまでスターシアが感情を表に出す事は珍しい。

 デスラーなりの推測だが、恐らくは女王として毅然としなければという公人としての理性と、1人の人間としての感情がせめぎ合っているのだろう。

 後者に関しては簡単に推測出来る。

 ヤマトに乗っているであろうミスマル・ユリカ艦長の安否と……少し前にイスカンダルが保護した地球人の捕虜の事だろう。

 予想通り、あの宇宙船に乗っていたのはその捕虜で、ヤマトへの支援物資を運び込んだとみて間違いなかったようだ。

 

 「いやはや。君が封印したがるのも解る威力だったよ、あれは。流石はガミラスすら上回る技術力を有していたイスカンダル製の超兵器だ……しかしながら、流石に一朝一夕では万全とは言い難くてね。ヤマトの6連のトランジッション波動砲とやらには及ばないのが実情だ」

 

 「……改めて技術提供をお求めになるつもりですか?」

 

 スターシアが警戒も露に言葉を紡ぐ。

 きっと心中穏やかではいられないだろう、今デスラーは「波動砲」と口にした。この名前はヤマトが――地球が使っている名前であって、イスカンダルもガミラスも使っていない通称。

 しかも、正式名称として向こうが使っている「トランジッション波動砲」の名前まで出されては、スターシアとしては最悪の事態も想像せざるを得ない。

 少々悪趣味だと自分でも思ったが、かつて技術提供を断られた身の上としては意地悪の1つでもしたくなるのが人情というものなのだろう。

 こちらとて、多くの人民を束ね守り通さねばならない国家元首の立場にあるのだから。

 

 「求めた所で提供などしてくれないのだろう、スターシア? それに、喜ばしい事にわざわざイスカンダルから提供して貰わなくても、すでに実用化されたそれに頼れる状況になっている」

 

 「……! まさか、ヤマトを鹵獲したとでも言うのですか!?」

 

 おや、予想よりも反応が激しい。

 珍しくも語気も荒く言葉の先を促すスターシアに意味返しは十分と判断したデスラーは、それまで浮かべていた微笑を払って真剣な表情でスターシアに告げる。

 

 「鹵獲などしていない。スターシア、我がガミラスはヤマトと一時休戦し、和平の道を模索する事となった。まだ本格的な交渉には至っていないため詳細は未定だが、地球と終戦協定を締結する事になった場合、第三者の視点も必要だと考えてね。その際は地球にとって恩人であり味方と見做されている君に、是非とも交渉の席に参加して頂き、進行役をやって貰いたい」

 

 スターシアは大層驚いた。目を大きく見開き僅かに口も開いている。

 デスラーにとって今まで見た事の無いその表情に何か胸が高鳴るのを感じながら続けた。

 

 「流石は君の見込んだ人物だ。ヤマトは――ミスマル・ユリカ艦長は最初からガミラスと殲滅戦を演じるつもりは無かったようだ。最後の手段として想定しながらも、我々と和解する道筋を探していたようでね。つい先程連絡があった。バラン星に設けていた我が軍の前線基地が、例の黒色艦隊に襲撃され壊滅的被害を被ったが……ヤマトが救援に駆けつけてくれたのだ。おかげで我が国民200名余りがヤマトに直接救助され、バラン星に派遣していた部隊への被害もかなり抑える事が出来たよ」

 

 「ユリカが……やってくれのですか?」

 

 「恐らく指針を定めたのは彼女だろう。ただ、実際に艦の指揮を執っていたのは、艦長代理の古代進という男性だと報告を受けている」

 

 「古代進? 古代――っ!?」

 

 スターシアの表情の変化を見て、デスラーは彼女の頭の中で様々な考えが一瞬で巡ったのを察した。

 だが、そこには触れないのが礼儀というものだろう。

 

 「しかも、君が託したトランジッション波動砲を使ってまでガミラスを救ってくれたと聞いている。その気になれば、便乗してバラン星基地諸共にあの黒色艦隊をも吹き飛ばせたろうに、最初はご丁寧に発射口を封印してまで救援を申し出たらしい……全く、君が見込んだだけあって、我々の常識では測れない存在のようだ」

 

 「デスラー……私としては大変喜ばしい報告です。ですが何故貴方は地球と和解する道を選ぶ事が出来たのですか? 今までの貴方方の方針に則れば――」

 

 「確かに軍事力という一点に関しては、ヤマト如きに負けるガミラスではない。だが、私はあのヤマトという艦をとても気に入っているのだよ。敵として打倒してしまうにはあまりにも惜しい。それにヤマトを討ち取ってしまえば、この母なるガミラスも、隣人である君達イスカンダルもこの宇宙から消えてしまうが、ヤマトさえ味方に出来ればそれを回避出来る。それが成されるのなら、地球に対する振る舞いを改めることに異存は無い……それと――君の心を掴んで見せたミスマル・ユリカという女性にも興味があってね。是非とも会って話をしたいと、ずっと思っていたのだ」

 

 それはデスラーの本心だ。

 本気で戦えば、犠牲は避けられずともヤマトは討ち取れる。ヤマトを討ち取れば、この偉大なガミラス帝国が銀河辺境の未熟な文明の戦艦1隻に負けたという、不名誉な称号は得ずに済む。

 実際最後の最後まで悩みに悩み抜いた。

 ヤマトを気に入っているというのは、結局デスラー個人の考えでありガミラスという国家の総意ではない。

 確かにガミラスの政治形態は軍事一体で総統であるデスラーによる独裁政治形態に近いため、デスラーが一言告げれば問題無く流れを作ることは出来る。実際そうだった。

 ……ヤマトという存在をどこまで信じて良いのかは図れなかったから、最後の一押しが出来ないでいたが。

 

 しかしデスラー自らが遣わしたドメルによってヤマトの方針を知る事が出来た。ならばデスラーは迷うことなく進む事が出来る。

 ドメルは人を見る目がある。前線に立つ事の出来ないデスラーの代わりは十分に務まると考えていたが、予想を裏切らなかったようだ。

 

 「……わかりました。そういう事情があるのなら交渉のお手伝いをしましょう。それと、デスラー……」

 

 「ん?」

 

 「イスカンダルの方針があったとはいえ、貴方方を見捨てるような真似をした事を、謝罪します」

 

 意外なスターシアの反応にデスラーは困惑した。

 

 「……いや、君はイスカンダルの女王として当然の事をしたのだ、気に病む事は無い」

 

 そのせいか無難な応対しか出来なかったが、まあそれでいいのだろう。

 最初から覚悟していた事であるし、何よりスターシアが素直に提供していたら、デスラーはきっとその後の星間戦争でその力を存分に――振るっていたかどうかはわからないが、タキオン波動収束砲の封印を掛け直す事には難色を示していたはずだ。

 それくらい、あの威力は魅力的なのだ。

 

 そういう意味でも、その威力に心奪われず最後の最後まで自制しているヤマトのクルーに、艦長のミスマル・ユリカに会ってみたいと強く願う。

 艦長代理という存在を立てている所からするに、すでに先は長くはないのかもしれない。

 ならば、逝かれる前にどうしても話がしたい。

 もしガミラスの医学で何とかなるのなら助けてやりたい。

 彼女の“甘さ”が無ければ、そしてなにより護るべきものの為に全身全霊を尽くす、あの気高き精神をデスラーに感じさせなければ、この戦争はどちらかが滅びるまでの殲滅戦にしかなっていなかったのだ。

 

 その功績を称えるという意味でも、それくらいの援助は当然だろう。

 

 デスラーはその後、幾つかの事柄においてスターシアと打ち合わせをした後ホットラインを切り、改めて今後の地球との関りに関しての方針を思案しながら、ヒスとタランがそれぞれ用意していた和平政策の資料を読みふける。

 ヒスとタランでは多少やり方が違うが、概ね共通しているのは今後ガミラスと地球は同盟関係を築く事が無難であろうというものだった。

 それはデスラーも賛成している。

 仮に一切の関りを絶ったところで将来的に再度接触する可能性は十分にある。

 ……その時友好を築けなければ、その先に待つのは波動砲を突きつけ合った戦争になるだろう。

 その威力を熟知したからこそ、監視下に置いておきたいと考えるのは自然な事だ。

 地球側にしても、ガミラス側の動向を知れるというのは決して損では無いはず。

 ヤマトが勝手に締結した終戦など容易に反古出来ると考えるのが当然で、ガミラスという国家が健在であればまた戦争になると警戒もする。

 

 ならば、双方監視し合うのが現状ではベターではないかと思う。

 

 だとすれば――色々譲歩してやる他無いだろう。

 少なくともガミラスの傘下に入れるというよりは対等な立場での同盟が無難な落としどころか……。

 

 恐らくそう間を置かずに動きを見せるであろう黒色艦隊を始め、色々と今後の事を考えながら、デスラーはヤマトと直接対面出来る瞬間を楽しみにしていた。

 今はまだバラン星の状況が落ち着いていないので先延ばしにしているが、もう少し我慢すれば件のミスマル・ユリカと言葉を交わせるかもしれない。

 

 あのスターシアに認められた人間性は如何ものだろうか。

 そして、「大切な家族を守るため」という彼女の「愛」が本当に国家の危機に、脅威に立ち向かえる力足りえるのかがわかる。

 

 そうすれば――スターシアが言っていた「愛」というものが何なのか、デスラーにも理解出来るかもしれない。

 

 その瞬間が待ち遠しい。

 

 デスラーはふと視線を上げ、外殻に空いた穴から除く深淵の宇宙――そして微かに視界に入る隣人イスカンダルの姿を捉え、ふと唇に笑みを浮かべた。

 

 

 

 ヤマトの戦いは無駄にはならなかった。

 

 ついにその思いが届き、ガミラスとの戦いに終止符が打たれようとしている。

 

 しかし油断は出来ない。

 

 ヤマトの力を把握した暗黒星団帝国の目的とは何か!?

 

 凍り付いた地球に残された人類が滅亡する日まで、

 

 あと、246日しかないのだ!

 

 

 

 第二十一話 完

 

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

    第三章 自分らしくある為に!

 

    第二十二話 愛を説いて! 目指せ大マゼラン!

 

    ヤマトよ、その愛を示せ!


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