新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ(完結済み)   作:KITT

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第二十二話 愛を説いて! 目指せ大マゼラン!

 

 

 

 ドメルは連絡艇の窓から徐々に大きくなるヤマトの姿を眺める。

 こうして間近に見ると、ガミラスとの設計思想やデザインセンスの違いというものがはっきりとわかる。

 余裕の出来た初遭遇の後、ドメルなりに過去の資料を含めて研究してみた限りでは、ヤマトのデザインが水上艇のそれに酷似している事が伺えた。

 元来宇宙戦艦としては適切とは言い難いその形状を採用した理由まではわからなかったが、何かしら象徴的な意味合いがあるのだろうか。ヤマト以前の艦艇に比べるても、そのデザインははっきりと異なっている事も確認している。

 ヤマトの出自はこの宇宙の地球ではなく、並行世界にあるというデスラー総統の考察が真実であるのなら、ドメルでは予想も出来ない複雑な経緯でもあったのかもしれない。

 

 それにしても、あっさりと乗艦を許可された事には少々驚かされた。

 確かにデスラーの意思は伝えたし、水先案内人としての提案もしたとはいえ、少々彼らの人の好さが心配になる。もう少し警戒心があっても良いのではないだろうか。

 しかしこれ程までにヤマト側の和平への意識が高いとは……心底驚かされる。

 内心様々な葛藤があったはずだが、それでも意思を通そうとする芯の強さにはドメルとて感服せずにはいられなかった。

 

 ドメルが様々な思いを巡らせている間に、連絡艇はヤマト艦尾底部に開く発着口に滑り込み、発進用のスロープに着地する。

 ドメルは機を降りる準備を手早く終える。

 ガミラスの将校としての品格を損なわないよう、気を付けて振舞わねばならない立場にあるし、もしかしたらクルーの1人くらいは感情的になって襲い掛かってくるかもしれないのだから、緊張感をもって行動せねば。

 

 (――よし、首と耳に着けた翻訳機は正常に作動している。これなら会話に問題無いだろう)

 

 発着口が閉じ、スロープ内が加圧された後天井のシャッターが開いて傾斜していた床が持ち上がって水平になる。

 安全を確認した連絡艇の搭乗口が開く。小ぶりなスーツケースを片手に出現したエアステアを踏みしめながら、ドメルはヤマトの格納庫の床を踏みしめた。

 

 ――ついに、この日が来た。

 

 正直ヤマトにこのような形で――ドメルが描いた中で最良と言える形で接触する事が出来るとは……。

 ドメルの眼前には、出迎えに来たのであろう古代進艦長代理にアオイ・ジュン副艦長、そしてゴート・ホーリー砲術長の3人が敬礼と共に立っていた。

 右手を頭の横にかざした、地球への諜報活動の際に見られた彼らの敬礼。

 ドメルもガミラス式の敬礼ではあるが、毅然とした態度で応える。

 

 「乗艦を許可頂きありがとうございます。ドメル将軍、ヤマトとガミラスの交渉のため、ガミラス星ならびイスカンダル星までの案内人を務めさせていただきます」

 

 「ご足労ありがとうございます、ドメル将軍。宇宙戦艦ヤマトは、貴方を歓迎いたします」

 

 敬礼を終えた後は、進と握手を交わす。

 

 「この度の救援には、心の底から感謝しております。貴方方にとっては侵略者に過ぎない我々にこのような厚意を示して頂き、何と言えば良いのか……」

 

 「ドメル将軍、我々の目的は地球を救う事であってガミラスを滅ぼす事は目的ではありません。確かにこの戦争では多くの血が流れ、怨恨を生んでいます。しかし、だからと言ってガミラスを滅ぼすような真似を前提に行動してしまえば、我々に救いの手を差し伸べてくれたスターシア陛下に合わせる顔がありません」

 

 「……そうですか。あのスターシア陛下が認められただけの事はあります。古代艦長代理、この交渉が地球・ガミラス双方にとって最良の結果になる事を、心から願っています」

 

 「――我々も、そうなる事を願っています。それでは、ヤマトの艦内をご案内いたします」

 

 「ありがとうございます。しばらくの間、お世話になります。それと、先程の戦闘で消耗した物資がございましたら遠慮なく申し出て下さい。最大限補給に応じる様にと、デスラー総統からも命じられていますので」

 

 「ありがとうございます、ドメル将軍。それについては被害報告をまとめた後、提出させて戴きます」

 

 傍らに控えていたゴートの言葉にドメルも頷く。

 

 「こちらです」と案内を開始した3人の後に続きながら、ドメルは失礼にならない程度に格納庫に視線を巡らせる。

 格納庫には先の戦闘でかなりの被害を被った、ヤマトが誇る人型機動兵器の姿見える。

 殆どの機体が傷を負っていて、四肢の欠損が見られる機体も多い。

 

 その中にあって、傷は多いが四肢どころかアンテナ1つ欠損していないように見える機体が4体。

 資料によれば、かつてイスカンダルが世に生み出したという最強の人型戦闘機、ガンダムに酷似した機体だ。

 ヤマトがイスカンダルからの支援を受けている以上、恐らくあのガンダムは地球で再現された機体と見て間違いないはずだ。

 

 地球出港当初から存在が確認出来るダブルエックスという機体は当然として、次元断層の戦闘で確認されたエックスという機体と、今回の戦闘で確認された新型2機――エアマスターとレオパルドなる機体も視界に入る。

 ……ヤマトが自力で修理や改修を行うための工場施設を備えている事は予測していたが、だからと言ってまさか新型――それも単機性能ではそれまでリードしてきたはずのガミラスの機体すら圧倒する機体を3機も追加するとは流石に想定していなかった。

 

 「エアマスター、調子は良かったぞ。急ごしらえの機体とは思えんな」

 

 「レオパルドもだ。ホント、イスカンダルから救援物資を得たとは言っても殆どジャンク同然の部品だろ? マグネトロンウェーブ発生装置の残骸の資源還元も込みとは言え、よくここまでの物をでっち上げたよなぁ」

 

 ……今、聞き捨てならない事を聞いた気がする。

 イスカンダルから小型船舶が飛び立った報告は受けているしそれがヤマトへの救援だとは予想が付いていた。

 今のイスカンダルの状態なら完成品が届く事は無いと思っていたが、ジャンクも同然とは。

 そんな状態から、受け取って5日程度の時間しか経ってないというのに、ここまでの機体を用意出来るとは……!

 

 「まあ、構想自体は前々からありましたしねぇ。部品さえ都合が付けば何とかなりますって」

 

 パイロットと思しき2名に相槌を打つ整備員との会話に、ドメルは背中を冷たいものが流れるのを感じた。

 先鋭揃いとは思っていたがまさか航海中に限られた資材・設備にも拘らずこれだけの物を急ごしらえで、しかも破綻無く完成させる技術者を乗せているとは……!

 

 やはり総統と自分は正しかった。

 ヤマトの力は艦の性能だけではなく、それを最大限に引き出し維持するクルーの能力の高さにも由来していたのだ!

 

 案内されて格納庫のドアを潜り艦内通路に出る。出てすぐ隣にエレベーターに乗り込む。

 そのまま階層を2つ程上がった所でエレベーターを降りる。

 

 「ここがヤマトの居住区エリアです。ドメル将軍には空いている士官用の個室を使って貰おうと思います」

 

 「ありがとうございます。それと、ヤマトに収容して貰っている避難民の様子を見たいのですが」

 

 「そうですね。ドメル将軍に顔を出して貰った方が皆も安心するでしょう。それではこちら――」

 

 案内しようとした進の動きが固まった。何やら信じられない物を見た――ような顔つきをしている。

 他の2人もなにやら掌で顔を覆って大きく溜息を吐いている。

 どうしたことかとドメルが視線を巡らせると、視線の先には何やら丸みを帯びた大きなシルエットが――。

 

 「あ……あの、これは……その……」

 

 眼前のシルエットから若い女性と思われる声が発せられる。

 よく見れば――というか見なくても丸々としたシルエットの頭の部分から若い女性の顔が覗いている。

 羞恥からかすっかり赤くなって唇がわなわなと震えている。

 これは――着ぐるみと言う奴か。息子のヨハンと一緒にリビングでテレビを見ていた時、幼児向け番組の中でこういった物を見た記憶がある。

 番組に出てきた着ぐるみは、完全に着用者が隠れていて顔が露出していなかったが。

 正体のわからないネズミの様な動物(愛らしくデフォルメされている様だが)の着ぐるみを着た女性は、両手でカートを押していた。

 カートの上にはガラス製の食器の上に色とりどりの食品が置かれている。

 ――あれは、食器の具合から見て氷菓子だろうか。

 

 「――雪、一体どうしたんだ?」

 

 進の戸惑いを含んだ声色に、雪と呼ばれた女性はびくりと体を跳ねさせ、薄っすらと涙すら浮かべる。

 その様子に進も慌てているのがわかる。

 この状況は不可抗力だとドメルも思うが、だからと言って上手いフォローが出来る程ドメルも女性の扱いに慣れていない。

 

 「ひ、避難民の中には小さな子供も居て、中央作戦室に置きっぱなしだったなぜなにナデシコの放送機材一式を見たら、着て欲しいってせがまれて仕方なく……あと子供達の励ましになると思って、アイスでも配ろうかと……」

 

 「そ、そうなのか! いやぁ~雪は職務熱心で本当に尊敬するよ!」

 

 機嫌を損ねたと青褪めた表情の進が必死にフォローに入った。

 ……だがそれはフォローになっていないのではないかと、ドメルは内心突っ込んだ。

 この若さで艦長代理を任されるほどの男でも、女性の扱いは苦手と見た。と、ドメルも軽く逃避していた。

 …………女性に泣かれるのは、宇宙の狼とて苦手だ。むしろそんな状況に出くわしたくない。

 

 「うう……こんな格好で……こんな格好で……」

 

 着ぐるみ越しでもわなわなと震えているのが良くわかる。

 これは――不味い!

 

 「こんな格好で、本当に申し訳ありません!!」

 

 着ぐるみを着た雪は腰を深く折って平謝り。

 

 ――確かに、目上の人間に会うにはかなり問題のある格好ではあるが相応の理由もあるのだしそもそもガミラス側に咎める権利はないような気が……。

 

 「いえ、お気になさらず。我が国民に良くして頂いて、感謝の極みです」

 

 当たり障りのない回答でお茶を濁す。

 頼むから持ち直して欲しい。そして早くその氷菓子を子供たちに届けて欲しい。

 ほら、もう溶けてしまいそうだ。

 

 「ゴホンッ! 森君、アイスが溶けてしまうから早く行った方が良いと思う。ドメル将軍も気にしていないと言っているのだし」

 

 ジュンのフォローもあって、着ぐるみの女性は平謝りしながらもカートを押して通路の奥に消えていった。

 その先に避難民――特に子供たちが居るのだろう。

 

 「……その、申し訳ありませんでしたドメル将軍」

 

 「いえ、本当に気にしておりませんので」

 

 進に向き合ってそう言うドメルではあったが、ヤマトのクルーに抱いていた“高潔な救国の戦士”のイメージが大いにぐらついたことは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

 第三章 自分らしくある為に!

 

 第二十二話 愛を説いて! 目指せ大マゼラン!

 

 

 

 「タキオン波動収束砲……まさかこれほどとは……」

 

 デーダーは人口太陽を使った策で得られたヤマトのタキオン波動収束砲のデータを見て、眉根を寄せていた。

 

 「はっ……解析データによりますと、あの砲の威力は我が軍の機動要塞ゴルバの主砲に匹敵する出力を持っているようです。単純な出力比は五分ですが、あのタキオン波動バースト流なるエネルギー流の作用もあってか、実際の破壊力はわずかではありますが、ゴルバの主砲に勝っているようです。それに、とても厄介な作用も発見されました……」

 

 報告する部下の語尾が弱くなる。

 不審なものを感じながらもデーダーは先を促す。全てを把握しなければあの艦への対処を決められないのだ。

 

 「報告しろ」

 

 「はっ……あのタキオン波動バースト流に対して、我が暗黒星団帝国が実用化した金属元素は異常に脆く、特に動力エネルギーとは融合して過剰反応を引き起こす可能性が高いのです。万が一にもあの砲が我が軍に向かって放たれた場合、余波だけでも艦艇を沈め、直撃を受けた艦艇はエネルギー融合を起こして大爆発を起こします。最悪、タキオン波動収束砲1発で艦隊が丸ごと吹き飛んでしまう恐れもあります……」

 

 部下の弱気な報告にデーダーも叱責出来ず黙り込んでしまう。

 単に強力なだけの大砲だと思っていたが、どうやらそれは軽率な判断だったらしい。

 

 (くそっ! 連中の艦を鹵獲した時には気付かなかった! もしかすると、連中の動力エネルギー自体が我が軍に対して猛毒となる可能性が……!)

 

 最悪の可能性が頭を過ったデーダーはすぐに命令を下した。

 

 「すぐにメルダーズ司令に報告するのだ! ヤマトの――いや波動エネルギーの我が軍に対する危険性を確かに伝え、対抗策を講じてもらう必要がある! そして、我らは別動隊として、現在唯一タキオン波動収束砲の搭載が確認されているヤマトの撃滅を図る!」

 

 部下達はヤマトの威力に恐れ戦き及び腰になっている様だが、デーダーは自身に喝を入れるためにも座席の肘掛けを思い切り叩いて告げた。

 

 「幸いにも我々の手元には、ガミラスの連中から鹵獲した瞬間物質転送器とドリルミサイルがある! 連中が考案していた策を真似るのは癪だが、航空兵力を駆使した転送戦術を駆使してヤマトを翻弄し、ドリルミサイルをあの発射口に打ち込んで破壊してやるのだ! 我らが倒れてもタキオン波動収束砲さえ黙らせれば、ヤマトなど取るに足らん戦艦だ! 我が帝国の未来の為にも引く事は許されんぞ!」

 

 デーダーは口で言ったほどヤマトを侮ってはいなかった。

 むしろ侮っていないからこそ、最悪タキオン波動収束砲だけでも完膚なきまでに破壊して、その脅威を取り除きたいと考えたに過ぎない。

 あの砲は――暗黒星団帝国にとって致命的な存在でしかないのだから。

 

 

 

 

 

 

 雪との衝撃的な接触で印象が大きくぐらついたドメルではあったが、気を取り直して艦内を案内して貰う事になった。

 現在ヤマトは勿論ガミラス側も被害確認と復旧作業に勤しんでいる事もあり、今後の交渉の目途はまだ立っていない。

 それまでの間に今後のプランを少しでも考えておこう。

 出来ればヤマトのワープ能力を補完するためにも、同行艦が最低1隻欲しい所だが……。

 

 ドメル自身は連絡要員としてヤマトに乗り込んでいるため、降りる事が出来ない。

 そうなると同行する艦の人選も問題だ。対ヤマト戦の為に選抜した部下達なら、大丈夫だと思うが……(血気盛んなバーガーを除いて)。

 色々と思慮しながらも、宛がわれた個室に荷物を置くと早速避難民の様子を伺うべく案内を頼んだ。

 

 案内役として同行するようになったのはゴート1人だ。

 流石に最高責任者である進と雑務の処理があるジュンは一旦下がる事になった。何でも少し外せない用が出来たとか。

 大量の避難民を抱え、先ほど見た限りでは食事も用意してくれたようなので、ヤマトの備蓄食料にも無視出来ない消費が出たはずだ。

 ガミラス側から保存食――いや、地球人の体質は勿論口に合わないかもしれないから、出来るだけプレーンな食品を選ぶようにしよう。

 ドメルは心のメモにそう書き留めた。

 

 むっつり顔の巨漢に引きつられながら、まずはドメルの部屋から近い左舷展望室の様子を伺う。

 

 「あ! ドメル将軍だ!」

 

 顔を出すと早速避難民達から驚きと安堵の声が漏れ聞こえてくる。

 ドメルは彼らに笑顔で応えると同時に怖い思いをさせたと謝罪し、間も無く移乗の手筈が整うはずだと伝えて安心させる。

 しかし、この展望室には子供の姿が見えない。その事を不審に思って尋ねてみると……

 

 「子供達なら、皆右舷展望室に移っています。何でも動物の着ぐるみを着た女性がお菓子を配ってくれるとかで……一応、こちらのモニターから様子を見れるようにはしてくれたのですが……」

 

 何やら言い淀む男性に促されてモニターを覗き込むと、子供たちが喜び勇んで鳥らしい着ぐるみを着た――ドメルの見間違いでなければ少女に一斉に襲い掛かっているではないか。

 着ぐるみの少女が悲鳴を上げているが子供達は容赦なし。少女を揉みくちゃにして楽しんでいる。

 別の場所では先程の雪という女性が配っているアイスを堪能している子らもいるし、さらに別の場所ではトナカイの着ぐるみを着た強面の男性が襲われて悲鳴を上げている。

 

 「……」

 

 「ヤマトは敵国の艦ですし、彼らに心許したわけではありません。しかし、流石にこれは気の毒でして……」

 

 一刻も早く移乗の準備を整えさせよう。ドメルはすぐにゴートに話を通して貰ってゲールに訴えた。

 感動的な別れの後の若干シュールなやり取り。ドメルもゲールも苦い顔だった。

 

 それから30分ほどが過ぎた。ゲールが遣わしてくれた指揮戦艦級2隻がヤマトの両舷に接舷し、避難民と兵士達を回収して引き上げていった。

 

 残されたのは、もみくちゃにされてボロボロな少女――ラピス・ラズリ機関長(!?)と疲れ果てた表情の真田志郎工作班長に森雪生活班長の姿。

 ノロノロと着ぐるみを脱いでドメルに敬礼を送る3人の姿に、ドメルは答礼するなり「ご迷惑をおかけしました」と労いの言葉を送るのであった。

 

 

 

 そんな全く予期しなかったハプニングを乗り越え(同時にまだまだ自分が知らない世間があるのだと痛感した)、気持ちを持ち直したドメルは再度ゴートに案内され、これからしばらく世話になるヤマトの艦内を最低限見て回る事になった。

 

 驚いたのは軍艦であるにも関わらず居住環境が思いの外良かった事だ。

 ドメルが宛がわれた個室もシャワーやトイレが完備されたものであったが、それは高級士官用の個室と考えればそれほど不思議ではない。

 だがそれ以外の、乗組員の慰安を目的としているであろう各種レクリエーション施設の充実具合はかなりのものだ。

 

 避難民の収容も行っていた両舷の展望室もガミラスでは中々お目に掛かれないデザインであるし、複数人で同時に入浴が可能な大浴場に映画視聴室といった福利厚生の豊かさは、規模はともかく質という面ではガミラスの軍艦よりも上ではないだろうか。

 勿論、ガミラスとて軍人の福利厚生に関して言えばそれ相応に気を遣っている。

 軍人と言えど人の子。士気を維持するためにはやはり争いから遠ざかった楽しみも必要なのだ。

 ヤマトもその目的上乗組員のケアには気を遣っていることが伺える。

 それに食糧事情も厳しいとは考えていたが、艦内でたんぱく質の合成やプランクトンの育成、野菜類の品種改良による早期収穫を可能とした農園と、艦の規模に対して非常に優れた供給システムが整備されていると教えてもらった。これは、ガミラスの軍艦には無い施設だ。

 やはり、単独で超長距離航海に挑むとなればこれくらいの設備は必要になるのだろうと、しきりに感心させられるのであった。

 

 そして、艦内を見回っていると当然クルーの姿もかなり目に入ってくる。勿論ドメルの姿を認めれば敬礼で応えてくれるのだが……どうにもぎこちない。

 板についていないというか、そもそも階級が上の人間に会う事自体に慣れていないかのような振る舞いだ。

 そして、視界の外では妙に緩い空気を出しているクルーもチラホラ。

 一体どうした事なのだろう。

 

 「ドメル将軍。ヤマトのクルーは軍・民間の混在ですので、粗相があるやもしれません。ご理解いただけると恐縮です」

 

 「そうなのですか……わかりました。私にも立場がありますので、余程でなければ目を瞑りましょう」

 

 ゴートにフォローされてドメルの疑問は解消した。

 言い換えれば、正規の軍人だけでやっていけない程に地球が疲弊していたという事でもある。のだが、あれほどの戦果を挙げているクルーに民間から徴兵された人材が交じっているというのだから驚きだ。

 追い詰めてしまったガミラスが言えた義理は無いだろうが、地球人のタフネスと適応力には目を見張る思いだ。

 

 「助かります」

 

 フォローしたゴートも安堵した様子だ。

 さらに聞くならば、彼自身も元軍人に過ぎず、今はヤマトを完成させたネルガル重工という企業からの出向社員扱いらしい。

 にも拘らず砲術部門の責任者に着けるとは――。

 いや、むしろ民間出身故に軍事に染まっていないからこそ、あの柔軟で突飛な行動に繋がっているのだろう。

 ドメルはまたしても感心したのであった。

 

 そうやってしばらくは、入出を許可された範囲で艦内を見て回っていたのだが、やはりミスマル・ユリカ艦長の事が気になり始める。

 艦長代理が指揮を執っているという事は、今は指揮が取れない状況にあるという事だけは容易に想像がつく。

 問題は程度だ。仮に戦死しているのなら、代理ではなく新しい艦長として就任しているはずだから、生きてはいるだろう。

 さてどう切り出したものか。誤解を招く事は避けなければならない。

 そう悩んでいると、ゴートが「失礼」と断ってから左腕に巻かれている通信機を操作して表示された文面を読み、1つ頷いてからドメルに告げた。

 

 「……ん。艦長の身支度が整ったようです。ドメル将軍をご案内する様にと連絡がありました。今から艦長室にご案内したいと思いますが……」

 

 「是非ともお願いいたします。実は、デスラー総統からヤマトについてわかっている限りの情報を伝えられた時から、1度お会いしたいと常々思っておりました」

 

 ドメルは思いがけず対面する機会を得られた事に喜びも露にゴートについていく。

 来た道を戻って主幹エレベーターの左舷側に乗り込み、ゴート案内の下艦長室に足を運ぶ。

 本国との連絡前に対面出来たのは行幸だ。これで、デスラー総統に良い報告が出来る。

 

 

 

 

 

 

 「わかってるわね? 無茶は厳禁よ」

 

 「了解了解。ただお話しするだけだから」

 

 こういった交渉に不慣れなユリカを補佐するため傍らに控えたエリナに念を押され、ユリカはひらひらと左手を振りながらドメル将軍が現れるのを今か今かと待っていた。

 ようやく掴んだチャンスだ。

 最悪地獄に叩き落されるも覚悟の上でガミラス星を滅ぼすしかないのかと考えていただけに、このチャンスは是が非でもモノにしたい!

 勿論ドメル1人を味方に付けた所で体制に影響は無いかも知れないが、何もしなければそれこそ何も変わらない。

 ここに戦争の終結の可能性を見出せるかどうか、今はこの瞬間に全力を賭すしかない。

 そうごねてこういった場を設けて貰ったのだ、万が一の失敗も許されない。正直体調も心配だから、短期決戦を図る必要もある。

 

 ……とは言っても、ユリカ個人のやり方は1つしかない。

 つまり――

 

 

 

 「はじめましてドメル将軍! 私がヤマト艦長のミスマル・ユリカです! ぶいっ!」

 

 

 

 満面の笑みをこれでもかと浮かべて右手でVサインを突き出して一気に攻める!

 

 (これでドメル将軍のハートをキャッチ!)

 

 結局彼女はどこまで行っても彼女でしかなかった。羞恥でちょっと頬を染めながらも、初めてナデシコに乗った日の事を思い出して懐かしさが込み上げた。

 後継者が育って気が楽になってしまったのか、最初の頃の様に厳格さを出そうという考えは宇宙の彼方に飛んで行ってしまった様子。

 

 直後、エリナが思わず手刀を降り降ろしたのは、避ける事が出来ない必然であったといえよう。

 

 

 

 

 

 

 そんな一撃を貰ったドメルは、一瞬で思考が完全に停止した。

 デスラー総統がスターシア陛下からお聞きになられた情報で「女性」というのは知っていたが、てっきり冷静沈着な、所謂デキル女性のイメージを抱いていただけに、それはとても強烈な一撃となってドメルの頭をぶっ叩いた。

 珍妙な挨拶もそうだが、直後に艦長の脳天に手刀を振り下ろす女性クルーの存在にもさらに一撃貰った気分だ。

 ベシッ! という鈍い音がそれを助長する。

 

 (地球では、あれが普通なのだろうか……?)

 

 ドメルの中で築かれていたヤマト――というよりはユリカに対するイメージが致命的なまでにひび割れる。

 そんなドメルを、傍らに控えていたゴートが気の毒そうに見ている姿が窓に映っていた。

 

 ……そうか、あれは別に普通でも何でもないのだな。

 

 ゴートの振る舞いに僅かな救いを見出しつつ、ドメルは気を取り直して――と本人は思っているが動揺が全く抜けていないまま、敬礼と共に自己紹介をする。

 

 「は、初めましてミスマル艦長。ガミラスの将軍ドメルです。この度は、お招き頂き光栄に思います」

 

 動揺抜けきらぬドメルは言葉を少し噛んでしまった。普段なら絶対にありえないのに……。

 

 「艦長の失礼をどうかお許しください。通信長のエリナ・キンジョウ・ウォンです」

 

 こめかみを痙攣させながら自己紹介するボブヘアの女性の妙な迫力に、動揺収まらぬドメルは少し気圧されてしまった。

 ――そう言えば、滅多に無いが妻イリーサを怒らせた時はこんな感じだった。

 やはり怒った女性は手強い。それも普段が冷静で穏やかに見えるような相手程。

 ドメルはすっかり思考が混乱し、ペースを乱されてしまったのであった。

 

 

 

 合掌。

 

 

 

 

 

 

 エリナの雷を受けて痛む頭頂を摩りながら、ユリカはドメルを観察する。

 屈強な軍人そのものといった感じの風貌。

 

 (うむむ、手強そう。でも、負けないもん!)

 

 先制攻撃で相手の出鼻を完膚なきまでに打ち砕いたとも露知らず、ユリカは無難に今回の戦闘に関する話題などで場を温める事にした。

 ちょっと隣から冷たい空気が流れている様な気がするが、気にしない気にしない。

 そうやって当たり障りのない会話を続けると、ドメルの視線が少し泳いでいるのを感じた。

 そう言えば、健常者ではなかったのだと思い出す。すっかり馴染んでしまっていて違和感が無かった。

 ――無事元の体に戻れたとしても、元の生活に戻れるのかちょっぴり不安になる。

 

 「ああ、すみませんドメル将軍。この格好だとやっぱり気になりますよね」

 

 「え? ええ、女性に対して失礼だとは思ったのですが、やはり気になってしまって……」

 

 何故か落ち着かない様子のドメルにユリカは「まあ、この格好じゃあねぇ」と自分の格好にこそ問題があると盛大に誤解している。

 勿論ドメルが落ち着かないのはあまりにも強烈な先制攻撃を受け、圧倒的不利な状況下にありながらドメルの包囲網を見事突破して見せたヤマトの指揮官――つまりユリカに対するイメージが大崩壊したショックが思いの外大きいためだ。

 

 当然格好など二の次である。

 

 「実は私、不治の病というものに侵されて……もうそれほど永くないんです」

 

 言い過ぎではないか、という雰囲気が隣からヒシヒシと伝わってくるが気にしない気にしない。

 とりあえず手っ取り早い所でバイザーを外して見せる。

 聴覚センサーとの接続を立たれたバイザーは電源がオフになってユリカの視覚が暗転する。

 それでもヤマトが誇る天才3人が精魂込めて作り上げた聴覚センサーは、驚いたドメルの息遣いを確かにユリカに伝える事に成功していた。

 まあ、焦点定まらぬ目を見たらそれは不気味だろうし驚くのは無理もない。

 でもお化粧はちゃんとしたから不細工ではないはず。

 

 「ガミラスとは無関係の地球人同士の権力争いに巻き込まれて、重度のナノマシン障害を患ってしまって。今はもう、自分の目と耳じゃ何も見えないし聞くことも出来ないぐらい悪いんです」

 

 言いながらバイザーを嵌め直すと、軽いノイズの後鮮明な視界が開ける。やっぱり、ドメルは大層驚いている様だ。

 

 「今は、ヤマト自慢の天才メカマンがわざわざ専用に補装具を作ってくれたおかげで、何とか日常を遅れてるんですけどね。ほら、このインナースーツもそういった目的で着てるんです」

 

 「ナノマシン障害? 確かにガミラスでも医療や体質改善にナノマシンを使う事は無くもないですが、人体への安全が確認されていないナノマシンを使う事はありません。一体何があったというのですか?」

 

 ドメルの問いかけに、ユリカはちょっと悩んでからエリナに相談してみた。

 彼女も悩んだ後、「ここは私に任せて」と説明役を請け負ってくれた。

 

 エリナの細を穿ちながらも解り易い説明を聞かされて、ドメルは低く唸っていた。

 まあ地球の恥部を打ち明けている様なものだから、エリナとしても正直口が重い。

 今後の交渉にも影響するかもしれない。かといって黙ったままではユリカの現状に説明がつかない。

 なので、「前の戦争で恨みを買って誘拐され、ボソンジャンプ解明のための実験体にされた」として、その過程でボソンジャンプに適性を持った生命体の研究と称してナノマシンによる生体改造を受けた後遺症、と誤魔化す事でA級ジャンパーについては秘匿した。

 そして、医療による回復が見込めない為、コスモリバースシステムに頼る以外に活路が無く、ヤマトを操れる指揮官が他に居なかった事から無理を承知で艦長を務めていると、少々苦しい説明となってしまったがそこは散々活用してきた話術で誤魔化す。

 誤魔化すったら誤魔化すのだ。

 

 「なるほど……そのような体でここまで頑張れたのは、そういった事情がありましたか……」

 

 ドメルは何時死んでもおかしくない状態のユリカが艦長をする、という不可解な状況に一応の納得はしてくれた様子。有難い事だ。

 

 「そうなんですよ! もう、コスモリバースシステムの影響をほんの少しでも利用して回復しない限り、私は大好きな夫や子供達と明日を生きられないんです! あ、夫っていうのは――」

 

 哀れ将軍ドメル。頭お花畑状態のキャピキャピユリカに中てられる。

 既婚者と言えど基本堅物なドメルなので、こういった状態の女性の相手ははっきり言って苦手だ。苦痛――とまでは行かなくても辛いとは断言出来る。

 隣のエリナが早い段階で(物理的に)制止してくれたのがせめてもの救いだ。

 そうでなければ彼の精神力は極度に疲弊し、しばらく立ち上がれなかっただろう。

 

 そんで話が真面目な方向に戻ってすぐ、二転三転する場の空気に疲れた表情のドメルは、ヤマト出現時から議論されていたという、ヤマトの不自然な来歴について尋ねてきた。

 この質問については予想されていたので回答も用意してある。

 まあ、ほぼそのまま伝えるだけで良い。過去の記録に触れさえしなければ単に並行宇宙から漂着した戦艦で済む。それ自体は別に明かしても特別誰も困らない。

 

 「やはり――ヤマトは別の宇宙に存在する地球の艦艇でしたか……デスラー総統の推測は正しかったようですね」

 

 「ありゃ。やっぱりデスラー総統にはバレてましたか。スターシアの言う通り物凄く賢い人なんだ」

 

 スターシアから聞いた、と誤魔化せばヤマトの記憶を垣間見た事もある程度は誤魔化せる。

 

 (ふふふ、スターシア便利説!)

 

 などと友人に対して失礼な事を考えた報いだろうか、ユリカは急に激しく咳き込んだ。

 慌てずすぐに背中を摩り、ドメルに断った上でドロップ薬を含ませて対処するエリナに感謝しつつ、改めてドメルに向き直る。

 ドメルもユリカの体調が気がかりなのか、出来るだけ早くに話を終えて休ませたいと顔に出てしまっている。

 

 (ほむ? 意外と顔に出やすい人なのかな?)

 

 ユリカはそうドメルを評したが、別に彼は腹芸が苦手なのではなく、単にユリカの特異な振る舞いにやられて自身のペースが保てないだけだ。

 

 ドメルは決して悪くない(断言)。

 

 「やはり、デスラー総統についても知っておられたのですね。ならば、総統の人柄を考慮した上での介入だったのですか?」

 

 「私もスターシアからそれほど詳しく聞いたわけではありません。私達の個人的な感情と、この戦争の行方を私達なりに真剣に考えた結果です。私の見解では、このままガミラスと戦い続けても泥沼化が深刻化するだけで、最終的に地球は滅びます」

 

 

 

 正直ドメルはユリカの性格に相当面食らったが、決して自分とデスラーがヤマトの振る舞いから感じていた物が間違いでなかった事も知った。

 

 ――自分の観察眼を大いに疑ったのは紛れもない事実だが。

 

 しかし、ユリカの見解を聞かされて思った以上に真剣に今後の事を考えている事に驚かされた。

 ドメルもある程度の事は考えていたが、ユリカの考えはドメルよりも時間を掛けて考えていたことがわかる。

 恐らくは、ヤマト再建とほぼ並行してこの戦争の行く末を真剣に考え、イスカンダル到達がガミラス本星到達である事を意識した上で様々なパターンを考慮したのだろう。

 

 ユリカの言う通り、ガミラスは規模の大きな星間国家だ。

 軍事力では地球など及びもつかないのは揺るがない事実である。

 ヤマトが対抗出来ているのは、移民政策の最中で余力が無く、波動砲という切り札を持つヤマトを降すに十分な戦力を確保するのが難しいから。

 そして、デスラーが本腰を入れて叩くのを躊躇しているからだ。

 

 デスラーから告げられたコスモリバースシステムと波動砲の関連を聞かされれば――イスカンダルからの帰路に就いた後のヤマトは、ガミラスをここまで戦慄させ警戒させた最大の要因である、波動砲を失う。

 仮に地球帰還後に再改修して再装備に成功したとしても、ヤマトは所詮“点”の戦力に過ぎない。

 防衛戦においては数が物を言う。何時何処から来るかわからない敵の存在を念頭に置き、臨機応変に対応しなければならない。

 ヤマトがどれほど強力であっても単独である以上、多方面からの攻撃に対処する事は物理的に不可能だ。

 ヤマト単艦であっても対処出来る局面が描かれれば何とかなるだろうが……防衛線でそのような状況に陥る事は稀だろう。

 余程地理的に敵の進行方向が限定されているなどで、敵戦力が一方から来ない限り。

 仮に6連射のトランジッション波動砲に依存するとしても、たったの6発で、しかも広範囲の敵を殲滅するには不向きな高収束型のエネルギー砲では、連射式でも限界がある。

 

 つまり、ヤマトが地球をガミラスの脅威から護り抜くには、デスラーごと本星を滅ぼし、ガミラスの戦意を完膚なきまでに打ち砕いて手を引かせるか、何とか交渉するなりして終戦協定を結ぶの2択しかない。

 だがユリカが懸念している通り、ガミラスにはその力を頼りに自国の安全を求めて望んで統合された国家も少なくはない。

 ガミラスを武力で滅すれば地球の安全は守れる。

 その代わりガミラスの傘下にあっても、今回の戦いに直接関与していないそれらの国家の安全を脅かす事になる。

 そして地球には、ガミラスに変わって彼らの安全を守る力は無い。

 彼らの存在を鑑みれば、ヤマトが採れる手段は自ずと交渉による停戦になる。

 

 幸いにも彼らには、ガミラス最大の脅威であると同時に救世主足りえるトランジッション波動砲という交渉材料がある。

 ガミラスを救うも滅ぼすも、ヤマト次第といえる状況が用意されているのだ。

 さらにデスラーがスターシアの人なりを知り、その彼女が見込んだ相手がヤマトに乗っているという情報を得た事で、ガミラス内部でも停戦を引き換えにヤマトと和解するという案が出るに至っている。

 そういう意味では、ヤマトは十分ガミラスにその力を示した。

 

 ガミラスにとってヤマトは神にも悪魔にもなりうる。そういう存在であると、誰も疑いはしなくなった。

 

 全ては様々な状況が重なり合った結果生まれた奇跡と言えよう。

 

 「それに、私はスターシアに禁を冒させてしまっています。つい先日確認された暗黒星団帝国と名乗った集団や、今後遭遇するかもしれない敵性国家に関しては保証しかねても、せめてイスカンダルの隣人くらいは平和的に解決したいんです。スターシアは――私達を悪魔にするために波動砲を提供したわけじゃないと、証明したいんです」

 

 そうこれだ。スターシア陛下すら認めたこの人柄だからこそ、地球はともかくヤマトは信じられる!

 

 「正直、それでも冥王星基地を攻略するまでは自分でも無理かもしれないって結構悩んでたんです。でも、基地を脱出した司令官が残存艦隊を引き連れてヤマトに向かって来た時に確信したんです。確かに侵略という手段は許せません。被害者としての立場からならなおさら……でも、彼らも私達と同じ思いを抱えて戦っている。そう考えたら、和解の道もあり得るんじゃないかって強く思えるようになったんです。その後はベテルギウスの時に、命を捨ててヤマトを葬ろうって突っ込んで来た艦も居て……あれが無かったら、こういう形で対面する事も無かったかもしれません」

 

 その言葉にドメルは、シュルツとその片腕だったガンツが思わぬ遺産を残していた事を悟った。

 彼らの国と総統に対する忠誠心が、最大の敵として君臨していたヤマトを味方へと転ずる一手として機能していたのだ。

 その事を知らされてドメルは目頭が熱くなるのを感じて、天井を仰ぐ。

 

 「そうですか……! 彼らの行動が、このような結果を残してくれていたとは……!」

 

 「ドメル将軍、失礼かと思いますが――冥王星基地の指揮官のお名前を教えてはいただけませんか?」

 

 ドメルは少し悩んだが、教える事にした。

 亡きシュルツやガンツがどう思うのかはドメルにはわからない。だが、彼の行動が結果としてガミラスを救うかもしれないと知れば――名誉と思ってくれるだろう。

 

 「冥王星前線基地司令官の名はシュルツ。ベテルギウスでヤマトと戦ったのはその副官であったガンツという男です。彼らは戦いに敗れ、使命を果たせず逝った事を悔やんでいたでしょうが……この和平が成功すれば、彼らは結果としてヤマトを止めるという大任を果たしていた事になる……きっと、喜んでくれるでしょう。彼らの墓には、私から報告しておきましょう」

 

 「……彼らを手に掛けた私達が言うのも失礼かと思いますが、よろしくお願いします」

 

 突然湧いた神妙な空気に、先程までの緩かった空気との落差が激しい。

 しばしの沈黙が流れる中、ドメルは思う。

 彼女は確かに色々と頭のねじが吹っ飛んでいるタイプではあるが、根は真面目であるし頭の回転は速く、第一印象からは想像出来ないが(失礼なことに)、意外なほど物事の表裏を見極められる人間の様だ。

 だからこそ、人が付いてくるのだろうと。

 この天性の明るさがクルーに襲い掛かる不安を打ち消し、有事の際はその明晰な頭脳と型にハマらない性格だからこその発想力で皆を引っ張り切り抜ける。

 恐らくその性格上乗組員は逆に不安を感じる事もあったろうが、彼女のプレッシャーに負けそうで負けないこの振る舞いが、未知の航海に挑むヤマトを支えてきたのだと。

 

 ――スターシアが惹かれたのも、何となくわかる気がする。

 

 初手にキツイ一撃を貰ったのでかなり人物像が揺らいでしまったが、こうして面と向かって話してみれば中々に面白い人物だ。

 ――無論、マイペースで楽天家なうえ“天然”という属性を備えているせいで時折会話に(激しく)疲れる事があるのが玉に瑕だが、まあ許容範囲だろう。――多分。

 

 ともかく念願だったヤマトとの交渉に続き、スターシアすらも惹きつけた彼女の人柄の把握を果たしたドメルが満足していると、

 

 「ドメル将軍。1つお願いがあるのですがよろしいですか?」

 

 と切り出された。

 はて、何が望みだというのだろうか。

 

 

 

 その要望に快く頷いたドメルはエリナに準備をお願いした後、艦長室の外で待っていたゴートに案内されて第一艦橋に降り立った。

 ユリカも昇降機能付きの艦長席で早々に艦橋に降りて来ている。

 艦長席の傍らには古代艦長代理と並んで見かけない男性が立っていた。

 男性は板についていない敬礼と合わせて、

 

 「戦闘班航空科所属、ガンダムダブルエックスのパイロット、テンカワ・アキトです」

 

 と自己紹介をした。続けて「私の旦那様で~す」とそれはもう嬉しそうなユリカの補足も頂く。

 彼がそうなのか。

 アキトは真っ赤になった顔で「すみません、艦長――妻がご迷惑をかけまして」と恐縮している。

 確かに面食らったし思っていた人物像とは350度程異なっていたが、悪い人間ではないし敬意を払うに十分な人物だとは思っている。

 

 話していて少々――いや結構疲れるのは事実であるが。まあ、こちらが抱いていたイメージとのギャップの問題だろう、多分。

 

 そんな考えがつい顔に出てしまったのか、アキトは勿論進も他のクルーも気の毒そうな顔をしている。

 そうか、皆同じような感想を抱いているのだな。

 ドメルは妙な親近感を抱いた。彼らとは、きっとこれからも仲良くやっていけるだろうと、心の底から実感した。

 

 「ドメル将軍、準備が出来ました」

 

 通信室でガミラスの超長距離通信装置との接続作業をしていたエリナから報告を受け、ドメルはドメラーズ三世の通信コードを使用してガミラス本星に報告を行う。

 本来なら通信室でやる予定だったのだが、ユリカがデスラー総統と話をしたいというので第一艦橋で行う事になった。

 そこで、ドメルからも1つだけ要望を付け加えておいた。

 

 「デスラー総統、ドメルです。無事にヤマトに乗艦、彼は我々と交渉する用意があるとの事です」

 

 「そうか……!」

 

 デスラーはドメルがヤマトの艦橋と思しき場所から連絡をしている事に疑問を覚えたが、一先ず国家の危機は去ったと安堵する。

 その思いのままモニターに映る室内に目を向けると、ガミラスの言葉で話しているからか内容がわからず少々困惑気な顔をしたクルーの姿が映る中、一段高い座席に座る女性の姿を捉える。

 緑色のバイザーを着用して耳には青いヘッドフォンの様なものを付けているが、彼女が恐らく……。

 

 「デスラー総統、ヤマトのミスマル艦長が総統と話がしたいと申しております」

 

 ドメルの言葉にデスラーは大いに心が躍った。

 ついにあのスターシアを説き伏せ、デスラーにとって最も理解し難い「個人的な愛憎」が国家の危機を救うに足るのかどうかの答えを得られるやもしれない人物と、通信機越しとは言え対面出来るのか!

 デスラーは翻訳機が正常に作動しているかを確かめる。問題無く作動している。念のために準備をしておいて正解だったようだ。

 翻訳機の準備が整った事をドメルに伝えると、彼はバイザーを付けた女性に振り返って促した。

 

 「それでは……ミスマル艦長、どうぞ」

 

 促されて女性は「それではご要望にお応えして……」と妙な前置きをした後、

 

 「はじめましてデスラー総統! 私がヤマト艦長のミスマル・ユリカです! ぶいっ!」

 

 ドメルの要望通り、先程と全く同じ挨拶をしてもらった。

 予想外の行動に流石のデスラーも驚きで目が丸くなり口が半開きになる。ついでに他のクルーが全員頭を抱えたり顔を覆って恥ずかしがる。

 予想通りの結果にドメルはデスラーに見えない様に、強く拳を握る。

 

 (申し訳ありません総統。しかし、ミスマル艦長の人柄を知りたいと切望されていた総統の気持ちを汲むには、この方が良いと……ご無礼をお許しください!)

 

 故意的だった。

 

 しかし、彼なりにデスラーへの忠誠心からの行動ではあった。

 

 

 

 

 

 

 予想だにしない挨拶にデスラーは勿論、傍らに控えていたタランもヒスも同じような表情で驚き一瞬思考が停止してしまったようだ。しかし無理も無い事だろう。

 デスラーは勿論タランもヒスも、“あの”ヤマトの艦長という事でドメルの様に不屈の闘志と溢れんばかりの使命感を感じさせる、デキル女性と(それもある程度年配者であるとすら)考えていたにも拘らず、実際眼前に現れたのは年齢の割に色々頭が軽そうなキャピキャピした女性。

 衝撃を受けない方が可笑しい。

 

 それでも大ガミラス帝国の総統として国を統率し、難局に立ち向かってきたデスラーの立ち直りは非常に速かった。

 彼女の行動を咎めるでも眉を顰めるでもなく、非常に大らかな格好で受け止める事にした。

 

 「これはこれは、中々元気の良い艦長さんだ。お初にお目にかかる、私が大ガミラスの総統デスラーだ。以後お見知りおきを」

 

 ユリカの非を咎めるどころか受け止めてみせたデスラーの姿に、画面に映っている他のクルーから、

 

 「ユリカさんの“あの”挨拶を怒りもせず流した……!」

 

 「凄い……! 流石はガミラスの総統だ……! 器がデカい……!」

 

 と驚いている。特に薄青の髪と金色の目を持つ細身の少女と、ミスマル艦長の隣にいるぼさぼさな髪の男性が。

 やはり、彼らの常識でも“あれ”は無いのか……デスラーは地球の常識が“あれ”では無い事に少し安堵する。

 ちらりと見ると、ドメルもデスラーの様子に感服している様子。

 そうか、やはり君もこうなったのか。デスラーは少しだけ彼に同情した。確かにこれは面食らう。

 とはいえ、彼女を良く知りたいと願ったのはデスラーだ。恐らくドメルもこれで相当面食らいながらも、デスラーの願望を汲んで敢えて非礼とも取られかねないこの挨拶を願ったのだろう。

 実際、彼女は微妙に恥ずかしいのか頬を赤くしている。どうやら突飛な割に羞恥心はあるようだ。

 

 「今回は交渉に応じてくれた事に感謝する。君達にはガミラスに向かってタキオン波動収束砲――いや、波動砲と呼んでいたね。それを向ける権利も動機もある。にも拘らず言葉による解決という手段を許してくれた事に感謝する。そして、君達を辺境の星の野蛮人と嘲るような真似をした事を……ガミラスの総統として深くお詫びする」

 

 「いえ、私共と致しましても、スターシアの顔に泥を塗るような真似はしたくありませんでしたし、このまま戦争が続いて殲滅戦になるのは望んでいないので、大変ありがたい申し出でした。勿論、ヤマトはカスケードブラックホールの排除に全力を注ぎます。なので、出来るだけ今回の和平で便宜を図って頂けるとこちらとしては有難いのですが……」

 

 彼女の言葉にデスラーも大きく頷く。

 

 「無論だ。詳細に関しては今後地球政府との間で協議する必要があるが、出来るだけの支援をしよう」

 

 これで、デスラーが理想とする「偉大なガミラス帝国」の実現が不可能になってしまうかもしれないが、もう四の五の言っていられる状況ではない。

 ヤマトが信じられるとわかった以上、味方に取り入れる事に迷いは無く、そのためならこの苦々しい敗北も受け入れよう。

 ――そうすれば、ガミラスは路頭に迷うことも、母なる星を失うことも無くなる。生き残りさえすれば、足掻く事は幾らでも出来るだろう。

 デスラーはヤマトが失敗するとは最初から考えてもいない。

 ヤマト最大の使命、地球を救うを果たすという目的の前ではカスケードブラックホールなど“道中の障害”に過ぎないのだ。

 そんなものに屈するヤマトではないはず。デスラーはその一点で、ヤマトを信じる事が出来た。

 

 複雑な思いを胸に抱きながら放たれたデスラーの言葉に、ぱっと笑みを浮かべるユリカ。バイザーで目元が覆われていてもはっきりとわかる程のリアクションに、デスラーの心中がさらに複雑な感情が吹き荒れる。

 

 「そう言う事でしたら、私達も心置きなく全力を尽くせます。それにつきまして、どうしても必要になるものが3つ程ありますので、用意して戴けると有難いのですが……」

 

 ユリカが告げたのは、カスケードブラックホールの詳細な情報と反射衛星砲に使われている反射フィールド関連と波動エンジンの制御技術の提供であった。

 カスケードブラックホールのデータは勿論デスラーも提供するつもりだった。ヤマトが排除してくれるのなら、ガミラスとっては願っても無い千載一遇の好機。それを邪魔立てする理由は無い。

 だが反射衛星砲と波動エンジン関連のデータは一体何に使うのだろうかと尋ねてみた所、

 

 「実はヤマトのトランジッション波動砲は、地球側の技術不足で不完全なままなんです。特にカスケードブラックホールを破壊するためには、6発分以上のエネルギーを1度に撃ち出す全弾発射が必須なのですが、それを実行するための耐久力がヤマトには無いんです。もし今の状態で発射したら、ヤマトは確実に内部から破壊されて沈みます。下手をすると、私達は共倒れになります」

 

 なるほど、それは確かに困る。ヤマトが沈めばガミラスとしては最も利益を得られる展開になるのだが、デスラーとしては絶対に避けたい展開だ。

 ――恩を仇で返すなど、デスラーの美学に反する。イスカンダルも巻き込まれているとはいえ敵対国、しかも自分達を滅亡の淵まで追い込んだガミラスを救うとまで言い切った彼らの気高き精神に応えずして、何が偉大な大ガミラス帝国か。

 

 「それに、波動相転移エンジンのフルスペックを解放するためにも、波動エンジンの耐久力の補強は勿論エネルギー制御の改善も必要でして……」

 

 ヤマトの大出力の正体はそれだったのか。まさか、相転移エンジンが――過去の遺物が波動エンジンの増幅装置として機能するとは思いも至らなかった。

 元々ガミラスの波動エンジンもイスカンダルが開発した時に提供された代物だけに、意図的に封じられた、または伝えられなかったであろう点が多い事を、改めて実感する。

 

 「わかった。ガミラスの存亡にも関わる事故、特例として技術提供しよう。カスケードブラックホール破壊までは、ガミラス星に滞在してヤマトの改修作業を行うと良い。ドックを用意させよう」

 

 「感謝します、デスラー総統……正直に言いますと、ガミラスとこのような形で手を取り合えて私を始め、ヤマトクルー一同心から安堵しています。もしもヤマトが軍事力で勝るガミラスに勝てるとしたら、それは波動砲の威力を前面に押し出した力押ししかありえません。そうなれば、ガミラス民族は勿論、ガミラスの庇護下にある他の文明にすら弓引くも同然の結果になっていたと考えると、改めて講和という手段を選べた事を嬉しく思います」

 

 彼女の言葉にデスラーも同意を示す。

 確かにヤマトは強力無比な戦艦ではあるが、数の暴力に抗うには限度がある。それを覆すのが波動砲というのなら、なるほど確かに彼女の言う通り、そしてデスラーが予想していた通り、和解せずに最後の最後まで行ってしまえば、その先に待つのは凄惨極まる殲滅戦しかない。

 ――確かに安堵するに足る出来事だ。スターシアから聞き及んでいるのなら、ガミラスが支配する星々の全てが武力による侵略のみならず、自ら進んで庇護を求めてきた文明がある事くらいは想像がつくはずだ。

 

 「それはこちらも承知していた。君達はすでにスターシアから知らされているだろうが、我がガミラスとて余裕が無い状況にある。君達がイスカンダルを目指す以上、途中で阻めない限り必ずガミラス星も波動砲の射程に入る……私にはガミラス民族を護る義務がある。君達が報復のため、ガミラスそのものを滅ぼす事を前提していると仮定した場合の対応を検討しつつ、そうでなかった場合に備えた対応として講和も考えられていた……君達が誇り高き戦士であった事を、幸運に思う」

 

 「私達も同じです――ただ、講和の切っ掛けになったとはいえ、第三者にこの戦いを見られた事が確定した事は、地球・ガミラス双方にとって不利に働くかもしれません。ガミラスにとっては戦艦1隻に抗われた結果講和を許してしまったというのは、国家の威厳にどうやっても傷をつける結果になってしまいますし、地球にとっても波動砲の存在故にそれが成ったと見られるのは、国力を大きく損なっている現状ではやはり他の国家に目を付けられ、さらなる侵略を招く可能性が否定出来ませんし……」

 

 それにはデスラーも思い至っていた。ガミラスはどう足掻いてもヤマト1隻に苦汁を嘗めさせられた事実を消す事は出来ない。暗黒星団帝国だけではなく、ガミラスに敵意ある他の国家にとっても、付け入る隙が出来たと考えられても不思議はない。

 そして地球に関してもその通りだと思う。ヤマトに波動砲が搭載されていなかったと仮定したら、太陽系すら出る事は叶わなかったかもしれない。出られたとしてもベテルギウスの時確実に始末出来ていたであろうと考えれば、たった1隻の戦艦で(本腰を入れていたとは言い難い面があったとはいえ)ガミラス程の国家に抗える力を与える波動砲の威力をこれ以上無く外部に示した形になる。

 これは十分争いの種になるだろう。

 

 そうやってやり取りを重ねながら、デスラーは自身の抱える疑問がさらに増したのを感じる。

 話をしてわかった。彼女は地球を救うだけではなく、ガミラスの事まで気にかけている。

 何故、敵国に対してそこまで気を回せるのだろうか。

 

 「……ミスマル艦長……直接話す機会を持てたら是非尋ねたいと思っていた事があるのだが……」

 

 「? 何をですか?」

 

 「私はスターシアから、君が家族の為に戦っていると聞いた」

 

 「? そうですけど?」

 

 脈略の無い話の繋がりに困惑しているのが見て取れる。無礼だとは自分でも思う。だが、デスラーはどうしても気になるのだ。

 

 「私には理解出来ない。そういった個人的な愛憎が、国家の危機を救う動機足りえるのか? それに君は地球だけではなくガミラスまでも気にかけている。家族という狭く小さいコミュニティーを護るだけなら、ここまでしなくても良いのではないか?」

 

 困惑を多分に含んだデスラーの言葉に、ユリカは小首を傾げた後、

 

 「デスラー総統には恋人とか奥さんが居ないんですか?」

 

 と切り込んで来た。

 率直過ぎてタランが「少し失礼では?」と苦言を呈するが片手で制する。

 こちらから振った話題で、礼を失したのもこちらが先だ。目くじらを立てる必要はない、と。

 

 「居ない」

 

 「好きな人とかも?」

 

 「生憎そのような感情自体がどのようなものかわからない。だから答えを求めている」

 

 デスラーの問いにユリカは僅かに悩んだ後、

 

 「多分それは、理屈じゃなくて心の内から湧き出るものだと思うんですよ。私だってアキト――夫の事は大好きですけど、その気持ちに気付いた時だって何となく、ああ、これが恋なんだなって思ったくらいですし……」

 

 「……そういうものなのか?」

 

 「だと思いますよ。まあ、私とアキトの場合はもう生まれた時からそうなるって決まってたようなものですけどぉ!」

 

 言いながら頬に手を当てて身を捩っている。

 ――何だろう、この背中がむず痒くなる思いは。ちらりと視線を横に向けるとタランもヒスもむず痒い顔をしているではないか。

 つまりこれは、当たり前の反応なのだろうか。

 おや、隣に立っていた男性が赤くなっているではないか。もしかすると――彼が件の夫なのだろうか。

 ついでに他のクルーも間違いなく羞恥で赤くなっている。

 

 ……そうか、君達も大変なのだな。同情する。

 

 「私個人の見解ではありますが、個人的な愛憎が国家云々に関しては十分な理由になると思います。だって私は、夫も子供達も、友達だって大事だから。皆が皆らしく生きて行く世界を護りたいっていうのは、当然の欲求だと思います」

 

 「当然の欲求?」

 

 「はい! 全員が全員そうじゃないとは思いますけど、私の場合はそうでした。私、これでも料理人の妻ですし。私個人としては、夫と一緒に生活出来るだけでとても幸せなんですけど、それは私の幸せであって夫の幸せとイコールじゃない。だって、夫の夢は一人前の料理人になる事。そして、自分の料理を食べて皆に笑顔になって欲しいっていう夢があります。だから、妻として夫の夢を応援して支えるのは当然の事です!」

 

 胸を張る彼女だが、デスラーにはイマイチピンと来ない。

 幼い頃から帝王学を学び、自分なりの美学や願望をもって総統の地位に就いたとはいえ、デスラー自身はその権力を自分自身の豊かさの為にではなく、ガミラスという国家をより良くするために使ってきた。

 だから、わかるようで、わからない。

 

 「イマイチ理解されてないみたいですけど、要するに料理人って料理を食べてくれる人が居ないと成立しないじゃないですか? だから今まで来てくれたお客さんは勿論、これから来るかもしれないお客さんだっています。勿論、料理に使う食材だって農家の人が作ってくれているわけですから、やっぱり感謝の気持ちもありますし、欠かせない存在です。それに、個人的な願望としても親しい友人達と一緒に楽しく生きて行きたいし、将来的には子供を作って温かい家庭を持ちたいわけですし、だとしたら生まれてくる子供の為にも一緒に大人になっていく子供達も大事なわけで、当然その子供の中には私の友人達の子供も含まれているかもしれない、そんで、子供達が大きくなれば家庭を持つことだってあり得る訳で……格好付けた言い方をしてしまうと、愛って繋がっていくものだと思うんです」

 

 満面の笑みと共に放たれたその言葉が、デスラーの胸に染み渡る。

 

 「……愛とは、繋がっていくもの?」

 

 初めて、聞いた言葉だ。

 

 「はい! 人はそうやって愛を育んで、皆で生きて行くものだと私は思っています。勿論、人ってみんなそれぞれ個性があるから時にぶつかり合ったり――酷い時は命の奪い合いに発展する事もあります……それでも、私達がすべきことは憎しみあって殺しあう事ではなく、愛し合う事だと思うんです。それが凄く難しい、限りなく綺麗事でしかないとしても、私は頑張ってみたいんです……それが叶わない時は、戦う事を躊躇いませんけど」

 

 彼女の言葉に、何となくだがデスラーも理解し始めていた。

 要するに関連付けなのだ。彼女にとって、自身の幸福は勿論家族や友人と言った存在も愛すべき存在であり、故にそれを取り巻く状況や世界そのものを護りたいという願望の発露に繋がり、結果としてそれが国家の危機を救う原動力となったという事か。

 

 それは、デスラーがガミラスという国家の為に死力を尽くす様と似ている。ガミラスという国家を形成しているのは人だ。人が集って初めてそこは“国”となる。

 それを理解しているからこそデスラーは、決して国民を追い詰めるような真似はしなかった。

 国民の生活を豊かにするためにも、国家としての力を付けるためにも様々な努力を重ねてきたし、成果が示された時は心から喜んだものだ。

 具体的には違うのかもしれないが、大切なモノと関連付けられたからこそデスラーはガミラスという国家を成り立たせる全てを護りたいと思えるのだろう。

 そこまで考えが及んだ時、デスラーの胸に去来するものがあった。

 

 「そういう事なら……理解出来る」

 

 デスラーは彼女の言葉を反芻して噛み砕く。そうか、そういう事だったのか。

 

 「ようやく、スターシアが私に呈していた苦言の意味が理解出来た。確かに、君の言う意味では私には……愛というものが見えていなかった。国を愛する心を持っていたというのに、国という群ればかりを見て、人という個を見ていたわけではなかった……そして、自分とは異なる価値観に対する理解も、及んでいなかった……ありがとうミスマル艦長。期待していた通り、君に教えてもらう事になった様だ」

 

 「デスラー総統……」

 

 「……この宇宙には暴力が蔓延っている。中には破壊と略奪に明け暮れる無法者も多い。そうならないように気を付けていたつもりだったが……どうやら、私はそういった連中と紙一重の所にいたらしい……ガミラスのためとはいえ、これまで私は戦いの中にある命の輝きに美しさを見出して来た……その結果として国が繁栄するのならばそれが正しいと思ってきたが、どうやら私は間違っていたようだ。今は、自国の事ばかり考え、この宇宙で生きる他の命に敬意を払いきれていなかった自分が恥ずかしい……そして、完璧と胸を張れる調査も出来ていないのに醜い面だけを見て全てを理解した気になり、君たち地球人を一方的に見下した事を、改めて深くお詫びする。我らの心は――私の心は――」

 

 もはや、最後の言葉を口にするのに戸惑いはない。

 

 「地球人と何ら変わりはしない。もう、地球と戦う理由はない。この戦争は終わりにしよう」

 

 その言葉に彼女は驚きと喜びの混じった表情を浮かべ、

 

 「じゃあ、公の場における立場とかはありますけど……私達もうお友達って事で大丈夫ですね!」

 

 タランとヒスが「何故一気にそこまで飛躍するのですか……!?」と小声で悲鳴を上げているが、デスラーはその言葉を聞いて胸に暖かい何かが宿るのを感じた。

 そうか、考えてみれば愛する人どころか、個人として親しい友人すら居なかった事に今更ながら気付かされた。

 立場もあるとはいえ、デスラー自身が他者に一歩踏み出す事が無かったのも原因だろう。

 そうか、あの時の、和解さえ成立すればヤマトは最高の理解者になるだろうという予感は――間違いではなかった。

 

 「ありがとう、ミスマル艦長――貴艦らの航海の安全を祈る。一刻も早いガミラス星並びイスカンダル星到着を期待している。今度は、顔を合わせて話がしたいものだ」

 

 そう微笑むと彼女も微笑みを浮かべ――直後激しく咽込んだ。

 慌てて傍らに控えていた男性(恐らく彼女の夫)が駆け寄って背中を摩る姿が見える。

 

 「――!? どうしたのだ!?」

 

 「すみませんデスラー総統。艦長は病気で体調があまり良くないのです。これから先は、艦長代理の古代進が引き継ぎます」

 

 傍らに控えていたユリカと同じコートを着た青年が変わってデスラーと応対する。

 ユリカの咳は止まらず、顔色もどんどん悪くなっていくのがモニター越しにも理解出来てしまう。

 

 「わかった。艦長代理に変わって貰おう。すぐに艦長を医務室に連れて行きたまえ。無理をさせた様で、すまなかった」

 

 デスラーは素直に謝罪して、下がらせるように訴える。

 彼女の隣に控えていた男性は礼を述べると、彼女を抱き抱えて第一艦橋を後にする。

 それを見送った後、その事について軽く尋ねてみた。

 

 「――艦長の病気はガミラスとは直接関係しない、地球人同士の争いが原因です」

 

 と前置きした上で簡単な説明を受けた。ボソンジャンプ演算ユニットに由来するナノマシンに侵されている、と。

 なるほど、コスモリバースシステムは地球だけでなく自分自身の将来すら掛かった最後の希望だったわけか……。

 それなら、先程の動機と合わせて彼女が――ヤマトが必死な理由がわかる。

 誰だって個人としての幸せは掴みたいものだという事くらい、デスラーも理解している。

 すでにメンタルに差が無いと理解出来た以上、嘲る気持ちも無い。

 

 「という事は――ヤマトにとってイスカンダル到達のタイムリミットは後1ヵ月程度という事になるのか。それも最大限の延命を図り、ミスマル艦長にこれ以上負荷を掛けないという前提があっての事か……」

 

 あまりにも短い時間だ。報告によれば、ヤマトは連続ワープ技術をついに完成させたようだが、それでも24時間当たりの跳躍距離は精々5000光年。トラブルなく常に最大距離で跳べたとしても単純計算で16日程の時間が掛かってしまう。

 残された時間の約半分を移動に使ってしまう。何事も無いのなら余裕があると言っても良いのだが、カスケードブラックホールの対処の為にはこちらから出向かなければならないという点が気にかかる。

 カスケードブラックホールはガミラスとイスカンダルを飲み込むまで後3ヵ月程度の距離にあるため、恒星間ワープが可能ならヤマトの性能でも問題はない。

 だが、話を聞いた限りではヤマト自身がそれを成すための改修を必要としている。その作業にかかる時間と破壊作業の往来、イスカンダルでシステムへの組み込み作業が完了するまで、どれほどの時間を要するのか見当もつかない。

 デスラーの推測だが、6発全弾発射システムの危険性を考えれば、艦長権限でのセーフティーが掛かっているはずだ。

 その点も質問してみた所、

 

 「その通りです。残念ながら、私の権限ではトランジッション波動砲の全弾発射は出来ません。それに、次元転移装置が生み出す重力場の乱れ等を考慮して狙いを付ける為、艦長の状態を利用した狙撃が考案されています……カスケードブラックホール破壊までは、ヤマトから降ろす事が出来ません」

 

 悔しそうな進の表情にデスラーも思案する。

 今の彼女の容態では、冷凍睡眠も安全とは言い難いらしい。

 ……ヤマトのイスカンダル・ガミラス星到達までの時間を短縮させるしかない方法は無い。それも、ワープによる負荷を抑えきった上で。

 一番の解決法はガミラスの超長距離ワープ技術を提供し――ヤマトが体得したばかりの連続ワープ機関をブラッシュアップする事だ。だが、最高軍事機密の漏洩以前に改修にかかる時間を考えればこの手段は選択出来ない。

 だとすれば解決策は1つしかない。丁度要望もあった事だ、この手で行こう。

 

 「ドメル」

 

 「はっ!」

 

 「君には継続してヤマトに乗り組んでもらうが、ヤマト護衛の為に何隻か同行艦を選抜してくれたまえ――ヤマトのワープ機関を改修している余裕は無い。我が軍の艦艇で先導し、曳航する事で超長距離ワープを実現させるのだ」

 

 デスラーの指示を受け、同じことを考えていたドメルは即座に応じる。

 

 「幸いな事に、つい先程ゲールからヤマト護衛の為に艦艇を数隻程度回す用意があると進言があったところだ。例の暗黒星団帝国の事もある。連中の目を引く事を避ける事は勿論、曳航式ワープの干渉の事もある。あまり大規模な艦隊を組むのは推奨出来ない。よって、少数精鋭の部隊でヤマトを護衛し、一刻も早くガミラス星に到達させるのだ――それと、超長距離通信の使用を許可する。彼らも地球と話す事があるだろう。それと――敵は必ずヤマトを狙ってくる。対策を講じる為に必要であれば、機密情報の一部開示も許可しよう」

 

 「了解しました、デスラー総統。私の全てを掛けて、ヤマトをガミラス星に1日でも早く到着させてご覧にいれます」

 

 ドメルもやる気は十分だ。バラン星基地を――ガミラスの明日を左右する重要拠点を護りきれなかった失態をヤマト護衛で償って見せる、と。

 そうやって話が纏まりつつあった時、異変が起こった。

 

 「何事だ!?」

 

 通信に割り込む形で鳴り響いた緊急コールにデスラーが険しい表情で応える。

 

 「デ、デスラー総統! 暗黒星団帝国の物と思われる艦隊がガミラス星並びイスカンダル星に向かって進撃中です! レーダー反応が微弱である為総数は分析中でありますが、会敵予定は今から20時間後と予想されます!」

 

 やはりバラン星基地を攻撃したのは、こちらの動揺を誘う為だったか。デスラーはそれ以前からの兆候から暗黒星団帝国の狙いが最初からガミラスへの侵略にあり、そのための陽動としてバラン星基地を襲ったであろうと見当は付けていた。

 実際、今ガミラス軍部は予想だにしなかった大損害に動揺が広がっているのは事実だ。しかし、同時に最大の脅威として認識していた宇宙戦艦ヤマトと事実上の和解が成立している。

 その分意識を集中出来るので、そういう意味では連中が考えいたであろう展開よりガミラスには余裕がある。

 

 「デスラー総統! すぐにヤマトも救援に向かいます!」

 

 「……心強い言葉だ、古代艦長代理。ヤマトは我がガミラス帝国と十分に渡り合える猛者、助力頂けるのならこれ以上の救援は無い」

 

 デスラーの――大ガミラス帝国の総統としてのプライドが少し傷ついた。確かにヤマトは強いが戦艦1隻。その救援を心強く感じてしまうのは大国の長として情けなさを感じる。

 だが――迷うことなく救援を訴えてくれた進の、ヤマトの誠意に暖かいものが込み上げてくる。

 つい先日まで――互いの民族の存亡を賭けて殺し合っていた仲だというのにこの切り替えの早さ……。

 この柔軟さが――そして気高さが、彼らの最大の武器だったのだと感じると傷ついたプライドも慰められる。

 地球人とメンタルに差が無いと実感出来た今、ガミラスにも同じ事が出来るのだと知ったも同然。

 ならばこのデスラー、ヤマトが如くどのような窮地においても泥を啜り石を齧ってでも道を切り開いて見せる。

 祖国と、ついに得た理解者達の為にも!

 

 「デスラー総統、敵の目的に関して、こちらが得ているだけの情報を伝えたいと思います」

 

 進は簡潔に纏めて知らせる。暗黒星団帝国が宇宙戦争を優位に進める目的でヤマトの波動砲を欲した事を。

 

 「……なるほど。ならば、連中の狙いはイスカンダリウムとガミラシウムの可能性もあるな……どちらも純度が高くエネルギー変換効率に優れた地殻物質。どこかでその情報を得て狙ってきたという事か」

 

 ガミラスが独自にヤマトと同じ波動砲――デスラー砲を開発している事を知られているかは定かではないが、知られている事を前提に対策した方が足元を掬われ難そうな予感がする。

 こちらはすでに最高軍事機密の瞬間物質転送器を奪われているし、余裕の無さもあってテストの際の隠蔽工作が足りなかった可能性も否定出来ない。

 安易な使用は却って首を絞めるやもしれないし――ヤマトを認めた以上、安易に使って良い代物ではない事も理解した。

 これは……本当に最後の切り札だ。

 そういった理屈とは別に、デスラーの第六感が敵にデスラー砲を使うなと警告している。

 こういった感は信じた方が賢明であると経験上知っている。

 

 後は――ヤマトの到着までに仕留められるか、それとも助太刀願う事になるのか。それを左右する敵の出方と戦力の徹底分析次第だろう。

 

 (――この大ガミラス相手に挑んだのだ、覚悟は出来ていると見た。我が愛すべき祖国、簡単に討ち取れると思うな)

 

 降りかかった火の粉を払うに躊躇は無い。偉大な祖国を護り抜くは総統の務め。断じて屈することなど無い!

 

 

 

 

 

 

 「島、ガミラス艦に曳航して貰ったとしても、イスカンダルとガミラス到着にはどの程度の時間が掛かると思う?」

 

 「データだけでは何とも言えんが、ガミラスのワープ能力はヤマトのそれを凌いでいる。恐らく数日中には着けると思うが……そのためには最短コースを取らなければならない」

 

 大介が難しい顔をしていると、水先案内人を務める事になったドメルが捕捉する様に自身の乗艦からデータを取り寄せた。

 そのデータを参照するため、ユリカを含めたメインスタッフが中央作戦室に移動する。

 正直状態が良いとは言い難いユリカだが、もしかしたら自分が知恵を貸す必要があるかもしれないと、イネスと雪を伴っての参加と相成った。

 車椅子に座って点滴台と共に参上した時は、誰もが「大人しく寝てろ」と容赦ない物言いで気遣ったのだが、結局頷かなかった。

 ちなみにドメルはその物言いに手で顔を覆っている。

 

 「ヤマトの諸君、これを見てくれ」

 

 部屋の中央に立ち、ルリが表示したデータ――星系図を愛用の指示棒で指しながらドメルは解説する。

 

 「これがイスカンダル星とガミラス星を擁するサンザー恒星系だ。丁度、大マゼラン雲のこの辺りに存在している」

 

 言いながら大マゼラン雲の一角を指す。

 

 「そして、ここが諸君らの銀河系と大マゼラン雲の中間地点――今我々が居るバラン星だ。ここからイスカンダル星並びにガミラス星に最短コースを取るとなると、避けて通れなくなるのがタランチュラ星雲だ。この星雲は大マゼラン近海の領域の中でも最も活発なスターバースト領域にあたり、その範囲も広大、特に中心近くの若い星団には、君達の太陽系の太陽の265倍もの質量を持った青色超巨星を始めとする巨星、超巨星から構成されていたりと、危険地帯が多く我々とて迂闊には近づけない場所が多い……残念ながら、それらの重力場の影響もあって、大ワープで一気に突破する事が難しい宙域なのだ」

 

 ドメルがルリに視線で促すと、この手の作業は手慣れているルリがすぐに表示される情報を切り替え、小さなウインドウも併せてわかり易く展開する。

 

 「とはいえ、今回は急を要するため最も短い距離を走破する必要がある。そうなると避けられないのがタランチュラ星雲の中でも最大の難所――七色混成発光星域、通称七色星団と呼ばれている宙域だ。ここは、異なる性質を持った6つの星とガス状の暗黒星雲、黒色矮星からなる混成星団だ。濃密な暗黒ガスと星々から流出する星間物質によって生み出される強烈な宇宙気流が特徴で、これらの影響で長距離レーダーが機能不全を起こし有視界による航行も困難。通年通して“嵐”で荒れ続けている宙域と言っても過言ではない。場所によっては“凪”の状態にある場所もあるが、それは極限られた場所、時間も限定されている」

 

 ドメルの言葉にヤマトクルー一同、押し黙る。

 オクトパス原始星団を思わせる、異なる性質の恒星が互いに干渉し合って生み出される危険地帯。真っ当な神経の持ち主ならまず迂回すべき場所と言っても過言ではないだろう。

 

 「そういった環境故、当初君達との和解がありえるとしたらイスカンダル到達後と踏んでいた我々が、最後の決闘の地として選んでいた場所でもある。ヤマトと少数戦力で渡り合うには、こういった荒れた場所で君達が目暗ましされている内に、新兵器の瞬間物質転送器を使った転送戦術で翻弄、隙を見て試作兵器のドリルミサイルで波動砲を封じ、抵抗力を削ぎ落した上で降伏または撃沈を狙う――という策を練っていた。無論、君達が勝てば以降ガミラスは君達に手を出さないという条件も添えて、戦って貰うつもりだったのだ」

 

 「なるほど――確かにこの場所であの転送戦術を初見で食らったら混乱は避けられませんね。私達はボソンジャンプを使った同じ戦術を体験した事はありますが、あれもまだ完成の領域には達していませんでしたしね」

 

 実際は火星の後継者が半ば完成させていたのだが、ユリカはそのための部品として利用されていたので自身が体験したのは精々ジンタイプの短距離ジャンプ程度。

 1度食らえば連想して対策――まではいかなくても心構えくらいは出来るだろうが、即興で対処して凌ぎきるのは不可能に近い。

 流石はドメル将軍。宇宙の狼の称号は伊達ではない。

 

 「幸運な事に実行する前に貴方方との和解が成立したのでお蔵入りになりましたが、この作戦は暗黒星団帝国――最低でも今ガミラスに仕掛けてきた一派には知れていると考えるのが妥当です。今はお話出来ますが、私がヤマトとの決戦に使おうと技術部に用意してもらっていた転送器とドリルミサイルは、事前テストの為派遣されていた部隊事彼らに鹵獲されたと見てまず間違いないでしょう。その際何に使うつもりだったのかも聞き出されたと見て、間違いないと考えています。だからこそ、連中は――」

 

 「ヤマトに目を付けて手に入れようとした、という事ですね」

 

 進もこれで因果関係がはっきりしたと納得する。となれば――。

 

 「連中はヤマトとガミラスが共同戦線を張った所を目撃している。こちらの狙いをどの程度掴んだのかは不明だが、ヤマトがガミラスとの全面衝突を避けて組みしたと考える事は十分あり得る。となれば、バラン星攻撃で浮ついたガミラスに仕掛けた連中も、ヤマトが本星の防衛戦に参加する可能性を懸念していると考えても、考え過ぎではないだろう」

 

 真田も渋い顔をしている。

 ヤマトは最短でイスカンダルとガミラスに到達し、その防衛に当たらなければならない。だが、敵がそれを予測しているのなら必ずどこかで妨害をしてくる。波動砲の威力を間近で見たのなら猶更。

 そして、最短コースを取る以上避けられないのがこの七色星団で、そこでヤマトを迎え撃つガミラスの策を知っているとあれば――。

 

 「真田工作班長が考えている通り、ここでヤマトを妨害しようとするでしょう。如何に波動砲が決定的な威力を持つといっても、当たらなければ何の意味も成さない。レーダーも光学カメラも働き難いこの宙域でなら、波動砲による先制攻撃を避ける事が出来る」

 

 「レーダー障害が著しいとは言っても、それを回避するための手段が無いわけではありません。ヤマトにも搭載されている探査プローブの様な探査機器を撃ち出す、艦隊を広範囲に散開させる等してデータリンクを確立すれば、探査範囲を補う事は可能です。それにワープアウトの空間は同を直接感知出来ずとも、出発地点と到着地点を結んで、かつこちらの事情から最短距離で走破すると看破するのであれば、大よその出現地点を予測出来るはずです」

 

 「戦いは避けられそうにないか。しかも、待ち伏せ出来る分向こうが有利という事か……」

 

 ルリとゴートが考えを巡らせる。こうなると、運良く会敵しなかったという事が無い限り、まず戦闘は避けられない事になる。

 となると問題は――。

 

 「転送戦術に対する効果的な対抗策は現状ありません。しかし瞬間物質転送器にはその性質上、運用によってカバーしなければならない致命的な弱点もあります」

 

 「――片道一方通行であるという事ですね、将軍」

 

 ジュンの指摘にドメルは頷く。

 そう、片道一方通行なのだ。つまり攻撃部隊は消耗したら自力で帰艦しなければならない。

 断続的に部隊を送り込んで翻弄すれば、撤退中の部隊への追撃を抑えたりその行方の追跡を惑わす事も出来るかもしれないが、それは相手が困惑してくれた場合に限る。

 

 「そうです。最初からそれがわかっていれば、撤退中の部隊を追尾して母艦の位置を掴む事は十分可能です。また、総統もこの欠点にお気付きになられ、送り込む物体をミサイルや宇宙機雷など、撃ちっぱなしにしても問題が無いものに変更する等の対処法を編み出しておられました。連中も恐らくその程度の知恵は働くでしょうが、それは事前に準備が必要になります。転送器を鹵獲した部隊がそれを実行可能な程物資に余裕があるかどうかにかかっていると言っても良いでしょう」

 

 相手の懐事情が読めないので何とも言えないが、ガミラス本星に大挙として襲撃した以上余裕があると考える方が正解だろう。

 

 「そうなると、至近距離に出現したミサイルや機雷に対処する事も考えないといけなくなりますね……ルリさん、やっぱりこの手の戦術に対する有効な防衛手段は、アステロイド・リング防御幕だと思いませんか?」

 

 「ハーリー君の指摘は尤もだと思います。あれなら360度どの方向からミサイルや機雷を送り込まれても、そちらに接触させることでヤマトへの直撃を避ける事は十分可能だと思います――ただ、それはヤマトからある程度離れた所に出現した場合に限ります。もし接触寸前の近距離に出現させられたらお手上げです」

 

 ハリとルリのやり取りにドメルは否定的な見解を示す。

 

 「あれはまだ試験段階の兵器です。そこまでの精密さはまだありません。また、送り込める物体の質量の制限もあり、現状小型艇以上の物体の転送は不可能です。また、ワープエンジンを搭載している場合はそちらとの干渉もあり転送に影響が生じる為、自力ワープ可能な艦艇を消耗させずに送り込む、という使い方も出来ません。この短期間で欠点を把握して改修するのは、無理と判断して良いと思います」

 

 「ドメル将軍、七色星団の中にアステロイド帯は存在しますか?」

 

 「いえ、あまりにも荒れているため、密度の高い小惑星帯は存在していません。それに、“凪”の状態ならまだしも、荒れた場所で一戦交える可能性がある以上、精密制御を要求されるアステロイド・リングは使えないと断定して良いでしょう」

 

 これにはルリもハリも頭を抱えてしまう。

 アステロイド・リングはヤマトの重要な防御システムの1つだ。それが使えないとなると、ヤマトの防御が必然的に薄くなる。

 ――尤も、ガミラスから言わせれば「無くても尋常ならざる防御と耐久を持っている」と真顔で返すであろうし、何より今回ありったけを使ってしまった反重力感応基もリフレクトビットも補充が到底間に合わない。

 どちらにせよ、頼る事は出来そうにない……。

 

 「バラン基地の工廠も被害を被っているが、まだ使用に耐える。短時間で用意出来る物には限りがあるが、何かしらのアイデアがあれば実現出来るかもしれません」

 

 ドメルの進言にふとアキトが閃いた。

 

 「真田さん、ウリバタケさん。いっそヤマトに追加装甲ないし追加パーツを施すのって駄目ですか? ブラックサレナとかGファルコンみたいに」

 

 アキトに言われて真田とウリバタケも「その方法なら、ある程度問題を解決出来るかもしれない」と乗り気だ。

 

 「そうだな……確かにヤマトの消耗を抑えるための追加パーツがあっても良いかもしれないなぁ……問題は作る時間だが、構造を徹底して簡略化してやれば何とかなるかもしれねぇな」

 

 「ドメル将軍、工廠に問い合わせて貰えませんか?」

 

 真田とウリバタケの言葉にドメルは快く応じてバラン星のゲールに事の次第を伝える。

 多少渋い顔だが、既に総統命令でヤマトとの和解が成立しているとあればそれに逆らうゲールではない。

 ドメルへの個人的な感情もあり、機密を気にする部下を叱咤してすぐに交渉を稼働させる準備を進めさせた。

 

 「後は、ヤマトに同行する艦艇の選別ですね。本星に攻撃の目が向いているとはいえ、ここの防衛力を削ぐわけにはいきませんし――」

 

 「ええ。ここにはまだ大勢の民間人が残されています。彼らを無防備には出来ませんし、今後の地球との良き関係を維持するためにも、バランを捨てるわけにはいかないでしょう。敵の目的があくまでガミラス星とイスカンダル星、恐らくバラン星基地が再度の襲撃を受ける可能性は極めて低いでしょうが、第四の勢力が出てこないとは断言出来ない。基地に十分な戦力を残す必要があります。それに七色星団を突破するのであれば、大艦隊で突入するのは自殺行為です。荒れた場所ですので、ワープアウト可能な空間も限られてしまいますし、重力場の干渉などで多少精度も落ちます。もしワープアウト時に嵐に煽られて接触事故でも起こったら、一気に壊滅してしまう危険性もある。諸々の事情を考慮すると、連れて行けるのは多くても4隻。ヤマト含めた5隻の艦隊で挑む他無いでしょう」

 

 進とドメルはやはり連れて行けるのは極限られたメンバーに限定されるだろうと考えた。

 通常複数の艦艇がワープを実行する場合は、衝突を避けるためワープ空間の出口が重ならない様に制御している。それに対して意図的に出口を重ね、同じ出口に誘引することで強引にワープ能力に劣る艦艇を曳航するのが、曳航型ワープというわけだ。

 その原理上先行する艦艇と後続の艦艇が衝突するリスクが高く、それを回避するのにもそれなりの手間がかかる。

 何しろ意図的にワープアウトの接触事故を誘発するような真似をするのだから当然だ。

 

 「幸い――と言っては何ですが、ヤマトとの決戦に備えた先鋭部隊がバランにいます。対ヤマト戦術の最終確認の為、そしてバラン星基地が攻撃を受けた時のための保険として合流し、この戦いを生き延びています。彼らと共に行きましょう」

 

 ドメルの進言に進はユリカと目線を合わせ、頷く。

 

 「それで行きましょう。何としても最短時間で七色星団を突破して、本土防衛戦に参加しなければ……ヤマトには波動砲以外にも、ダブルエックスとGXのサテライトキャノンがあります。迂闊な使用は自分の首を絞めかねますが、いざと言う時には頼れます」

 

 進の進言にドメルも頼もしさを感じる。

 確かに気軽に使って良い力ではないが、使い方さえ間違えなければこれほど頼もしく――戦局を左右する力は無い。

 

 「それでは、補給と整備が完了次第出発しましょう。幸いな事に、バラン星とタランチュラ星雲までの間には大きな障害はありません。なら、ガミラスの技術なら一気に飛び越える事も可能な筈です」

 

 「それについては保証します」

 

 進のプランにドメルも太鼓判を押す。

 ガミラスのワープ技術なら、最速を極めれば1週間程度でガミラスと地球間を移動する事も可能なのだ。

 ――ただ、そのためには七色星団は勿論、ヤマトが手こずったオクトパス原始星団に似た、ガミラスにとっても迂闊に飛び込みたくはない危険地帯を駆け抜ける必要があるし、何より無理な超長距離ワープは艦にも乗員にも決して小さくは無い負担が掛かる。

 なので、通常は負担にならない程度に抑えつつ安全な航路を使うのが一般的。

 それでも、1日1万光年程度のワープなら容易いので、遅くとも17日以内には到着出来てしまうのだ。

 とはいえ、今回は曳航式ワープと合わせて少々無茶をするしかない。

 七色星団で本当に襲撃を受け、その後の損害回復にどの程度の時間をロスするかはわからないが、無茶をすれば残された8万4000光年程度なら、3日もあれば突破出来る。

 敵勢力の規模も戦力も、ガミラスがどの程度粘れるのかも不明瞭なので3日の旅程では間に合わない可能性もある。

 だが、不思議とそう簡単には雌雄を決しないという確信を持てたのであった。

 

 

 

 

 

 

 その頃バーガーは第二空母の航空指揮所で思わぬ展開に絶叫していた。

 

 「ヤマトがガミラスと和解したって!?」

 

 まさに寝耳に水。もしかしたら交渉の末そういった事もあるかもしれないな、と冗談半分に考えていたバーガーはそれはもう驚いたのなんの。

 報告したゲットーも釈然としない様子だが、敬愛するドメルも忠誠を誓ったデスラーも乗り気なのだから文句も言えない。

 

 「しかも、我々はこのままヤマトのイスカンダル行きの護衛としてヤマトに同行しながら本土防衛戦に参加する事になった。バーガー、気持ちはわからないでもないがくれぐれも自重してくれよ。連絡要員兼案内役として、ドメル司令はヤマトに乗り続ける事になっているんだからな」

 

 と言われたが最早居てもたってもいられなくなったバーガーは、すぐにドメルに連絡を取り、許可をもらってヤマトへと乗り込んだ。

 自分の目で確かめたい。上が決めた事に文句があるわけではないが、直に触れて連中の事を知りたい。そうでなければ気持ちが乗らない。

 そういった感情に突き動かされたバーガーを見透かしたドメルは敢えて止めなかった。

 何とかなるだろうという漠然とした思いもあったが、同時に「直接見なければとてもわからない」と、経験上これ以上無く理解したからであった。

 

 

 

 そして今、バーガーは連絡艇から降りてヤマト格納庫に足を踏み入れる。

 

 「――ダブルエックス」

 

 すぐに目に入ったのは必ずの報復を誓ったはずの人型の姿。今は整備中なのだろう、あちこちの装甲が剥がされたりメンテナンスハッチが開いている。

 多数の整備員が取り付いて部品の交換作業やチェック作業を続けているのがわかる。

 少し視線を巡らせれば、他にもガンダム――と連中が読んでいた機体の姿も見受けられる。

 報告では、ヤマト出航時に確認されていたのはダブルエックスだけだったはずなのに、航海中に3機も追加された。一体連中はどういう手腕をしているのか個人的にも気になる程だ。

 

 「え、と。ご用件は何ですか?」

 

 機体に気を取られていると、油汚れの付いたぼさぼさ髪の青年が訪ねてきた。

 

 「いや……ついさっきまで敵だった連中と共同戦線を張る事になったから、どんな連中なのかが気になっただけさ」

 

 声と発言に辛辣さが混じるのも無理ない。事態が急変するにも程がある。

 

 「ああ、その気持ちはわからなくもないですね。俺達だってまだ実感が湧いてないって言うか、事態が急変し過ぎというか……」

 

 青年は恐らく暗黒星団帝国の襲撃も合わせた感想を述べているのだろう、困惑が伝わってくる。

 しかしそうやって普通に接せられると、悪態をついた自分が恥ずかしくなったのでバーガーは素直に謝っておく。

 

 「済まねえ、困惑していたとはいえ暴言だった。許してくれ」

 

 「気にしてませんよ。俺達だって、冥王星のシュルツ司令が俺達と同じメンタリティを持っているって示してくれなかったら、多分殆どのクルーが納得出来てなかったでしょうし」

 

 シュルツの名を知っているのか、恐らく情報の出所はドメルだろう事が伺える。そうか、命を捨てて挑んだあの司令官の行いが、この和平の遠因になったのか。

 直接の面識こそ無いが、文字通り命懸けで最大の脅威となっていたヤマトを退けたその業績に、敬意を払わずにはいられない。

 

 「そうか……世の中、色んなことがあるもんだな」

 

 しみじみと呟いた後で、何か頭の後ろで引っかかってる何かを感じた。そうだ、どこかで聞いた声――気付いた、眼の前の青年も同時に。

 

 「ダブルエックスのパイロット!」

 

 「爆撃機隊の隊長!」

 

 思わず互いに指差して、笑い出す。

 

 「ちくしょう! 会ったら真っ先にプロキシマ・ケンタウリでの借りを返してやろうと思ったのに!」

 

 「げっ! あの時の爆撃機隊も指揮してたのかよ!?」

 

 一触即発の空気――にはならず、互いになぜか笑い出して小突きあう珍妙な状況になっていた。

 

 「ったく! あんな物騒なモン乗り回してるからどんな厳つい奴かと思ったら、こんな優男だったとはな!」

 

 「……いや、ある意味アレに乗ってるのは嵌められたというか何と言うか、詳細を知らされていなかったと言うか」

 

 なんじゃそりゃ、と問い質すとちょっと同情した。うむ、死にかけの女房を助けるために乗り込んだ機体が偶々あれで、それ以前の経歴(あまり詳しくは教えてくれなかったが)から任されるようになったと。

 お前不幸だな。

 

 アキトもアキトで、話の中であの機雷網の攻防戦の時に放ったサテライトキャノンが掠めた空母が目の前の軍人――バーガーの乗艦だったと聞かされて内心焦った。

 知らぬが仏とはまさにこの事だったのだろうか。一歩間違えてたら吹き飛ばしていたところだったのか……。

 

 「まあ良い、過ぎた事にしてやる。だが個人的にも決着を付けたいと常々思ってたんだ。シミュレーターでも何でも良いからケリ付けようぜ!」

 

 「そう言われてもダブルエックス整備中でシミュレーターも……」

 

 なに、スペース節約の為コックピットがシミュレーター替わりだと!

 と驚いているとヤマト航空部隊の隊長と名乗った女性が現れ、

 

 「整備終わるまでどっか行ってろ! 邪魔だ!」

 

 とアキト共々格納庫から追い出されてしまった。

 

 「俺、ダブルエックスの整備が……」

 

 哀れアキトもお邪魔虫。

 結局その後は食堂で茶をしながら駄弁る事になり、行く先々で出会ったヤマトクルーには気軽く挨拶され、食堂に入ったら女性クルーから「あらやだイケメン!」とか騒がれたり。

 

 ……ここは本当に軍艦か(真顔)。

 

 色々常識を木っ端微塵に打ち砕かれた気分になったが、アキトとの会話は結構有意義な物だった。

 バーガーもかつて、任務で恋人を眼の前で失う悲劇に見舞われて荒れていた時期があった。

 あの時は周りの連中に色々と面倒を掛け、支えて貰って立ち直って今に至った経緯があるので、アキトの動機は他人事には思えなかった。

 

 結局バーガーは、アキトとのシミュレーターによる対決こそ叶わなかったものの、思いの外清々した気分で第二空母に戻っていく。

 確かに部下を殺されはしたが、同時に救われもした。あの時ダブルエックスが殿を務めてくれなかったら、バーガー自身も危うかったかもしれない。

 忠誠を誓った国家の意向もあるし水に流してやろう。

 

 ……だから見定めさせてもらう、ヤマトの戦いを。

 

 

 

 

 

 

 それから20時間程が経過した。

 ヤマトは自前の艦内工場とバラン星基地の工廠を使って簡易追加パーツを制作、その身に纏ってドックを後にする。

 結局ノリに乗って大暴走した真田とウリバタケとアイデア担当のイネス(ユリカの看病で手が離せない)によって、ヤマトは新たな姿に変貌した。

 

 ヤマトの艦体側面に、初代ナデシコのディストーションブレードとエンジンユニットを連結したかのような構造物が接続されたのである。

 ブレード部分は強固なディストーションフィールドを展開するための外部フィールドユニット兼武装ユニットで、上下にVLSが左右合わせて60門搭載されている。

 エンジンユニットは戦闘で破損、機関部は無事だが艦体の損傷が著しかったデストロイヤー駆逐艦のエンジンを回して貰ったものだ。

 これで重量増加分の推力を確保しつつ、防御用出力を負担する事でヤマトの消耗を減らすという発想である。

 残念な事にワープ機関の調整までは手が回らなかったので、曳航して貰わないといけないという問題は解消出来ずじまいであったが。

 また、ドリルミサイルが連中の手に渡っている事を考慮した結果、七色星団突破までは波動砲を確実に保護した方が良いとの判断から、左右に分割された開閉式の装甲ハッチが外付けされた。

 

 パーツの接続は反重力感応基と同じ重力制御とガミラスから提供された磁力制御の併用で、その気になれば切り離して独自に動かすことも出来る仕様だった。

 これが通称「ナデシコユニット」。カラーも勿論白基調に赤のアクセントと、初代ナデシコを強襲したものである。

 

 一連のユニットは急ごしらえなので色々と詰めが甘いと真田とウリバタケは漏らしていたが、短時間でこれだけの物を容易く設計、効率的な人海戦術と工廠設備の活用で完成させた手腕に、ガミラスの技師達も顎が外れんばかりに驚いたという。

 

 「実は、1度ミキシングして見たかった!」

 

 とは真田とウリバタケの言葉であり、直後進から「その発想は無かった」と呆れ半分のお言葉が送られたとか送られなかったとか。

 

 新たなヤマトは、「折角ナデシコユニット付けたんだから名前も追加しようぜ!」というウリバタケの進言もあって、協議の結果あくまで追加装備を施した状態限定の愛称という形で採用される事になった。

 

 ヤマトナデシコ。

 

 それが追加武装を施した、ヤマトの名前であった。

 あまりにもまんま過ぎる愛称に「捻りがない」「安直過ぎる」「創意工夫が感じられない」「というか追加装備自体のデザインが手抜きだ」等々――。辛辣極まりない評価を浴びせられながらも、ヤマトは次の戦いに備えたその場凌ぎ的な強化を果たす事が出来たのであった。

 

 

 

 なお、ヤマト本人は「まさかのマイナーチェンジに感激です! ありがとう!!」と喜んでいた。

 曰く「私は再建された時にナデシコの“血筋”も混じっているんです。ですから、ナデシコの血縁を感じさせる姿に抵抗はありません」とのこと。

 心通わしたユリカの艦と言うのも、ヤマトが親しみを覚えている理由なのかもしれない。

 

 

 

 かくしてヤマトは、非常に場当たり的な改装を受けて飛び立った。

 その傍らに戦闘空母、第一空母、指揮戦艦級が2隻。いずれもガミラスの艦艇を従えて。

 バラン星に残るガミラスの面々に見送られながら、イスカンダル星とガミラス星を目指して。

 地球を発ったばかりの頃は予想すらしていなかった地球・ガミラスの混成艦隊を結成し、今この航海の最後となるであろう戦いに赴いていく。

 その行く手に待ち構える戦いの行方は果たして――。

 

 

 

 心通わせることでついにガミラスとの戦いに一応の終止符を打ったヤマト!

 

 だがまだ戦いは終わったわけではない。

 

 その眼前にはガミラスとイスカンダルを脅かす暗黒星団帝国の魔の手が迫っているのだ。

 

 ヤマトよ、その愛に誓ってこの脅威を払拭し、地球とガミラスの間に真の平和を築き上げるのだ!

 

 凍てついた地球に残された人々に残された時間は、

 

 あと僅かに245日しかないのだ!

 

 

 

 第二十二話 完

 

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

    第三章 自分らしくある為に!

 

    第二十三話 七色星団の死闘!

 

    愛の為に戦え!!


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