新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ(完結済み)   作:KITT

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第二十四話 激戦! 封じられた波動砲!?

 

 

 

 ヤマトが七色星団でデーダー率いる艦隊と熾烈な戦いを繰り広げている頃、ガミラスもまた緊迫した時間を過ごしていた。

 

 突如として出現した、暗黒星団帝国に属するであろう大艦隊は、バラン星で確認された艦艇を中心に未確認の大型艦艇数隻も確認出来た。

 ――途方もない規模だ、総数は確認出来ているだけで3000隻ほど。正面から戦えば如何にガミラスとはいえ、苦戦は免れない規模だ。

 

 その艦隊は今は、緊急出動した本土防衛艦隊と睨み合う形となっている。

 

 移民船団護衛の為本星に戦力の多くを呼び戻していた事が幸運であったと言えよう。喜ばしい事に、ガミラスの支配下にある星々にまでは手が及んでいないと報告を受けている。

 つまり、敵はガミラスとイスカンダルに対して全ての戦力を集中させてきたという事になる。植民星の防衛に戦力を割かなくて済むという点において、ガミラスは幸運であったと断言出来る。

 敵艦隊が防衛艦隊と向き合う事になったのは、接近が報告されてからきっかり20時間後。

 デスラーが緊急警戒態勢を発令しなければ、対応が間に合わなかったかもしれない。それほど敵艦のステルスは見事であったのだ。通常の警戒態勢だったなら、見落としていただろう。

 

 それにしても、こちらが思ったよりも防備を固めていたからか、それとも何かしら思惑があるのか、睨み合いの姿勢を崩そうとしない敵艦隊に違和感を覚える。

 バラン星を急襲したのは、ガミラスを浮足立たせるためのはずなのに、どうして艦隊行動がこうも遅かったのだろうか。

 ガミラスの力量をあれで量った気になって、大きく出ているのだろうか。

 いや、デスラーの戦士としての感がそれを否定する。そして、迂闊にこの硬直を解いてはいけないと、第六感が強く訴えている。

 そうやって睨み合って2時間。ついに敵に動きがあった。

 

 

 

 「私は暗黒星団帝国、マゼラン方面軍総司令メルダーズ。イスカンダルとガミラスは、我が暗黒星団帝国に即刻無条件降伏せよ。戦力の差は歴然である、抵抗は無意味だ。繰り返す、ただちに降伏して、我らが帝国に従うのだ。そうすれば、あの移動性ブラックホールに飲み込まれる前に国民の安全は保障してやっても良いぞ」

 

 動きがあったと思ったら妙に遅い降伏勧告だったとは。裏があるのではと訝しみながらも、デスラーは普段通りの態度を崩さず応対する。

 

 「大ガミラス帝国総統デスラーだ。生憎と無法者に屈する程我がガミラスは脆弱な国家ではない。痛い思いをしない内に逃げ帰ることをお勧めする。その方が双方の為になろう。無駄な血を流す事は無い」

 

 バラン星基地を奇襲で事実上潰された直後とは思えない、余裕な態度のデスラーの返答に、顔色を変える事無くメルダーズは、

 

 「――ガミラスの技術力であのブラックホールをどうにか出来るのか? バラン星基地を失った以上、諸君らに逃げる場所など無い。それとも、ヤマトに頭を下げて地球に入植させてもらうつもりか? そうだとすれば侵略者の立場にありながら、何とも面の皮が厚い事だ。滑稽にもほどがある」

 

 煽る様に切り込んだ。ガミラスにあのブラックホールをどうにかする技術が無いのは、移民計画を発案している事からも容易に推測出来る。

 そして、ヤマトが共同戦線を自ら持ちかけた事も察しがついている。

 その目論見は、恐らく可能な限り平和的に戦争を終わらせる事であろうが、ガミラスに行く先が無い事を考えるのであれば、地球に取り込むつもりなのかもしれない。

 ――だとしたら、たかが戦艦1隻に事実上大敗した国家となる。プライドもズタズタであろうし、虚勢を張っているとしか考えられないが――。

 

 「生憎だが、ガミラスはつい最近対処法を確立する事に成功している。地球に移民などしなくても、我が偉大なるガミラス帝国はやっていけるのだよ」

 

 デスラーは不敵な笑みを浮かべてメルダーズの脅しを切り捨ててやった。

 確かに痛い所を突かれはした。

 侵略者の身の上でありながら、最終的な結末がヤマトとの――地球との和解による共存共栄の道では、こう言われても返す言葉も無い。だが、今更それが何だというのだ。

 ヤマトを信じ、地球に償いをする。そして共に生きる。すでに決めた事なのだ。

 

 「――そうか、ヤマトか。ヤマトのタキオン波動収束砲であのブラックホールを吹き飛ばすつもりか」

 

 メルダーズは少々眉根を寄せて唸った。

 恐らくヤマトと交渉し、味方につける事に成功したのだ。あのタキオン波動収束砲の威力でブラックホールの排除する事を対価に、ガミラスに何かしらの要求をしたに違いない。

 地球に対する調査は碌に進んでいないのでその詳細は知らないが、捕虜にしたガミラス兵から口を割らせた情報によれば、ガミラスによる侵略で滅亡寸前にあり、イスカンダルからの援助で完成したヤマト1隻が対抗戦力らしいが、所詮末端の情報だ、過度な信用は寄せていない。

 だとすると、壊滅寸前まで追い込まれた地球に対するあらゆる援助当たりが取引条件になっていそうだが、そこを追及したところで目の前の男を追い詰められそうにない。

 

 「何を想像したのかは聞かないでおくが、繰り返しお伝えしよう。我がガミラスは何者にも屈するつもりは無い。余計な血が流れない内に、早々に逃げ帰る事をお勧めする。その場合は追撃はしないと約束しよう」

 

 デスラーはメルダーズがヤマトとガミラスの和解、と言う結論に至った事を察しながらも明言は避けた。下手をすると、そこに付け入る隙を与えかねない。

 恐らくヤマトはすでに連中の別動隊に襲われているはずだ。波動砲を葬り去り、戦局を一変させる手を潰すために。

 ドメルを派遣し、少数であっても護衛を付けた事は正解だったか。

 

 「――我々にも引けない理由がある。我が帝国の未来の為にも、そう易々と諦める事など出来ん」

 

 「では、その“理由”とやらを聞かせてもらおう。君達を退けてしまってからでは聞く事は出来ないからね」

 

 デスラーは努めて強気で余裕のある姿勢を崩さない。ここで少しでも気持ちが引けてしまっては戦いでも後れを取る。直感がそう囁くのだ。

 

 「我らの目的はガミラスとイスカンダルにある地下資源――ガミラシウムとイスカンダリウム……資源こそ、我々の欲するものだ」

 

 おおよそ推測通りだったと言える。やはり目的はイスカンダリウムとガミラシウムだったか。

 ……いや、まだ何か隠している。デスラーの感が囁く。

 確かに珍しい資源ではあるが、それだけのためにこれほどの大艦隊を派遣しするとは少々考え難い。

 もとを正せば効率が良いだけの核燃料資源。他に全く当てがないほど希少価値が高い物質ではないはずだ。

 圧倒的な戦力とそれによる戦意喪失を狙った降伏勧告。ついで“国民の安全は保障する”ときたのだから、恐らく人的資源も狙いに含まれているのではないだろうか。

 言及しない理由など、今はどうでもよい。デスラーのすべきことは明白だ。

 

 「なるほど。ならばますます応じる事は出来ない。イスカンダリウムもガミラシウムも、すでに何世紀も前に環境保全のために採掘を中止した代物だ。母なる星を傷つける行為は、決して容認出来ん!――メルダーズ司令、繰り返すが、我がガミラスは降伏には応じぬ。そして、親愛なる隣人、イスカンダルへの手出しも許すわけにはいかない! 資源が欲しいのならば、無人の星を開拓するなりしたまえ!」

 

 「……そうか。残念だが致し方ない。少々手荒い方法だが、力づくで屈服させるとしよう」

 

 と言い切り通信を切った。

 交渉が決裂に終わった事は残念だが仕方がない。予想されていた結末だ。

 降りかかる火の粉を払わないわけにはいかない。デスラーには国家の発展と安全のために力を尽くす義務がある。

 

 メルダーズ言うように、確かに暗黒星団帝国の艦艇はガミラスのそれよりも優れた性能を持つようだ。それは認めよう。

 だが、ヤマト程絶対的な差があるというわけでは無い。バラン星での戦いが証明している。

 奇襲という手段を取られて右往左往してしまったが、戦い方次第で対等以上に渡り合える。その程度の戦力差に過ぎない。

 たった1艦で全戦力をぶつければ――という考えを自然に出させたヤマトとは、比べるべくもない。

 撤退するようならそれ以上の追撃は勘弁してやるが、向かってくる限りは容赦せずに叩き落すのみ。

 

 「スターシア、申し訳無いが彼らとは矛を交える以外、道は無さそうだ」

 

 メルダーズとの通信を切った後、事の顛末を見守っていたスターシアにそう告げる。

 スターシアもメルダーズの言い様に同じ考えに至ったのだろう、静かに目を伏せながら、「デスラー総統、健闘を祈ります」と短く告げた。

 本来争いを好まないスターシアと言えど、イスカンダルの資源が宇宙戦争に利用されるというのは理念に反している。また、今イスカンダルが彼らに屈してしまえばヤマトにコスモリバースシステムを渡す事が出来なくなる。

 ――それは、どのような形であれ救いの手を差し伸べた地球は勿論、スターシアにとって掛け替えのない友人と想い人を見捨てることに等しい。

 それだけは絶対に出来ない選択だ。ユリカたちは――ヤマトはイスカンダルとスターシアを信じてここまで旅しているのだ。裏切るわけにはいかない。

 だが抗おうにもイスカンダルにまともな軍事力は既に存在しない。国民は全て死に絶えた。人も居なければ兵器も残ってはいない。

 ――だから今は、イスカンダルの防衛も買って出てくれたガミラスの厚意に甘える他無いのが辛い……。

 自国の防衛すら人任せにして黙って見ている事しか出来ない無力な自分が恨めしい。戦いたいとかそういう意味ではなく、他人任せにするしかない事が苦痛なのだ。

 ――それに、あのデスラーが、デスラーなりに戦わずに終わらせようと努力をしてくれたのだ。

 なのにスターシアにはこの事態に関与して解決に導けるような力は無い。それがまた、苦痛だ。

 

 「心得ている……スターシア、心配は無用だ。我がガミラスは簡単には屈しない。イスカンダルも必ず守り抜いて見せる。それに――君が呼んだヤマトも間もなくやって来る」

 

 デスラーはこの戦いがそう簡単には終わらないであろうと考えていた。恐らく、数日に及ぶ激戦となるはずだ。

 敵も味方も大規模であるし、互いに様子を伺いながらあの手この手を駆使した凌ぎ合いになる事は必至。根負けした方が事実上の敗北となるであろうことは想像に難くない。

 

 こちらにも切り札のデスラー砲があるとは言え、努々油断は出来ない。これほどの規模の艦隊を率いる存在が、小物であるはずはない。

 まだ確認が出来ていないだけで、何らかの移動要塞の類が背後に控えている可能性は否定出来ない。

 ガミラスは現在のところ大型の宇宙要塞――それも移動可能な拠点の運用は行っていないが、その類の兵力を扱っていた国家と相まみえた事はある。彼らがそういった戦力を保有していない、この戦場に持ち込んでいないという確証が得られないのであれば、むしろあると考えて行動した方が痛い目を見ないで済む。

 

 (もしも要塞の類を背後に控えさせているのならば、デスラー砲が最も有効なカウンターと成り得るだろうが……なんだ、この胸騒ぎは?)

 

 デスラーはこの艦隊を初めて見た時から感じる胸騒ぎがまた強くなるのを感じた。

 ――やはりデスラー砲の使用はギリギリまで控えるべきだろう。万が一にも通用しなければ、ガミラス最強の力が通じなかったというショックで士気が致命的に下がってしまう可能性は無視出来ない。

 それに、ガミラスが誇る超兵器は何もデスラー砲だけではないのだ。

 

 その威力、とくと味わってもらうとしようではないか。そしてとっとと尻尾を巻いて逃げ出して――2度とちょっかいを出さない事だ。

 

 デスラーは踵を返すとデウスーラ・コアシップへと移乗。そのまま工廠内にて出撃準備を整えていた艦体とコアシップを接続し、自身の座乗艦であるデウスーラを起動、ガミラス星の軌道上へと上がった。

 

 

 

 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

 第三章 自分らしくある為に!

 

 第二十四話 激戦! 封じられた波動砲!?

 

 

 

 ヤマトがギリギリの賭けに勝利して、最大の脅威とみなしていたドリルミサイルを辛くも退けた。時同じくして、こちらも命辛々発進を成功させた爆撃機と雷撃機部隊に、GファルコンDXとGファルコンGXが合流する。

 

 「ふぅ~……ヤマトから貰ったバリアミサイルが無かったら発進出来なかったぜ……」

 

 愛機の中でバーガーが冷や汗と共に呟く。

 予想よりも激しい攻撃に一時は出撃出来るかも危ぶまれていたが、敵の注意がヤマトに集中していた事が幸いした。見向きもされなかった事にプライドが傷つかないでもないが、ヤマトが恐るべき艦なのはバーガー達も良く理解している。

 ドリルミサイルをあそこまで改造して運用したところから見てもヤマトの波動砲を相当恐れている事が伺えた。だからこそ確実にヤマトを潰しにかかったのだ。ヤマトさえ潰せば、ガミラスの艦艇など物の数ではないと言いたいのだろう。

 ――腹立たしいが、確かに今の艦隊で最も脅威度が高いのはヤマトだ。

 そのおかげで戦闘空母が艦載機を発艦させてもそこまで執拗な攻撃も受けず展開出来たのだが……プライドが傷ついたことは事実だ。

 

 「舐めくさった報い、しっかりと受けてもらうぜ!」

 

 バーガーは部下達を率いて予定通りGファルコンDXと合流する。クロイツ率いるDMT-97隊はGファルコンGXの担当だ。

 

 「頼むぜアキト! 調子に乗りまくったあいつらにガツンと1発決めてやろうぜ!」

 

 「――そう言うお前が調子乗り過ぎて撃墜されるなよ、バーガー!」

 

 アキトは左コンソールのキーを操作して、普段は使っていないボソンジャンプ関連のシステムのメニューを呼び出す。大規模なジャンプを実行するためには相応の準備がいる。

 今、ガミラス機にはヤマトの艦内工場で生産したジャンプフィールド発生装置を取り付けてある。急造品だが、何とか行き帰りのジャンプに対応する事が出来たので、攻撃に成功したら速やかにガンダムと合流して再ジャンプすれば、母艦に戻る事が出来る。

 ――ここが瞬間物質転送器との最大の相違だろう。

 装置を稼働したら、後はA級ジャンパーのアキトが行き先をナビゲートしてダブルエックスのジャンプシステムと連動してやれば、敵の眼前に限界まで爆装した爆撃機を送り込めるという寸法だ。

 それにイスカンダルからの情報提供によれば、ガミラス人とイスカンダル人はボソンジャンプに耐えられる遺伝子素養を持っていると聞いている。ヤマトでも検査で確認を取り、大丈夫だろうと結論付けられた。

 人為的なA級ジャンパーの生み出し方こそわかっていないが、ジャンプに耐えうる遺伝子改造の手段そのものはすでに確立されているのだから検査結果は間違っていないはず。

 とは言っても失敗したら目も当てられないので、ジャンプ時には外部ボソンジャンプユニットの物も含めてディストーションフィールドを最大展開するようにと指示を出している。

 あとはアキトらA級ジャンパーが仕損じなければ問題は無い。

 

 (まさか、火星の後継者の戦法を真似る事になるとはな……)

 

 思わず苦笑してしまう。ボソンジャンプを使用しての奇襲作戦事態はアキトもヒサゴプランを始めとする破壊工作任務で多用しているが、部隊を率いて敵艦隊に急襲をかけるとなれば、火星の後継者がサクヤ攻防戦で統合軍の艦隊に対して実行した手段の方が遥かに近い。

 多少複雑な気分になりはしたが、すでに復讐を乗り越えたアキトにとって火星の後継者は“過去の存在”に過ぎない。

 何より進にとって“お父さん”代わりになってしまった以上、みっともない姿は見せられない。

 

 「準備完了――ジャンプ……!」

 

 アキトのナビゲートでバーガー率いるDMB-87隊が虹色の光と共に消失。僅かな時間を置いて敵艦隊の後方――機動部隊の直上に出現する。

 

 「こっちもやるわよ……! ジャンプ……!」

 

 艦隊防空戦で振り回されて軽く酔ったイネスも気力を振り絞ってジャンプする。クロイツ率いるDMT-97隊を引き連れて、アキトらとは別の方向に出現して波状攻撃の構えだ。

 敵空母は10隻。バラン星の戦いで見た800mにも達する巨大空母。その内5隻の担当は――。

 

 「良し……サテライトキャノンを使うぞ」

 

 静かな声でリョーコはGコントローラー後方のスイッチを震える指でスライドさせる。

 使うのはこれで2度目だが、今度はあの時と違って敵を吹き飛ばす目的で使うのだ。緊張しないわけがない。

 右肩上に位置していたサテライトキャノンが展開していく。右肩後方に位置していたリフレクターが頭の後ろにまで移動して、後ろ向きにリフレクターを開く。開きながらパネルが回転して内側の鏡面が前方に向く。

 砲身の下からグリップが出現し、頭の後ろから延びる砲身を右前方に構える。

 

 「エネルギー充填70%……90%……」

 

 管制モニター上のX字のエネルギーメーターが、中心から先端に向かって赤いゲージが伸びていく。

 敵の対空砲がこちらに指向するのを見て、背中に冷たい物が流れるのを感じる。

 特にパイロットとして前線に出た事の無いイネスは引き攣った表情で言葉も出ない。

 じりじりと伸びていたゲージが先端に届いて――メーターが青く点灯する。

 照準は――問題無い!

 

 「いっけえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 絶叫と共に引き金を引く。

 僅かな間を置いて、サテライトキャノンの砲口からタキオンバースト流が猛烈な勢いで吐き出される。

 それは波動砲に劣るとはいえ、絶対的な破壊力を持つエネルギーの奔流。

 その直撃に見舞われた巨大空母5隻は、ドテッ腹に風穴を開けられた後、被弾個所を中心にまるで塵と化すように崩壊してゆき、最後には大爆発を起こして消滅する。

 エックスのサテライトキャノンのビームの直径は推定100m程度なので、敵艦を丸ごと飲み込むような真似は出来なかったのだが、それでも直撃すればこの威力……重ね重ね、小型機動兵器が持つべきではない火力だと痛感させられる。

 想定よりも爆発の規模が大きくて焦ったが、妙な二次被害は出ていない様だ。

 

 ――安堵したのもつかの間、リョーコは初めて戦略砲を友人兵器に向けて――殺す目的で撃ったという重圧が圧し掛かってきたのを感じた。

 ヤマトやガミラスからすれば共通の敵――侵略者に過ぎないが、連中も生きているのだ。ヒューマノイドタイプの宇宙人という事は、ガミラス同様立場的に理解が及んでいないだけで、地球人と変わらない文明や生活様式を作っているかもしれない。

 そう思うと、単なる大量殺戮にしかならない大量破壊兵器の使用という選択が、どれほどの重みを持つのかが身に染みる。

 

 (古代の奴――何時もこんな思いをしながら波動砲の引き金を引いてたのか?)

 

 強大な力を使うには、相応の責任が求められる。

 そんな陳腐な表現が頭を過って気分が悪くなったが、まだ戦闘中だと自分に言い聞かせてステータスモニターをチェックする。

 仕様通り、エックスのエネルギーはほぼゼロだ。各所のエネルギーコンダクターが保持してくれた最低限のエネルギーしか残っていない。

 だが、今は消耗せずに残っているGファルコンのアシストを受ける事が出来るので辛うじて行動と――自衛程度の戦闘は可能だ。ここに来るまでの戦闘で追加したミサイルや魚雷を使い尽くしてしまったのが心許ないが、内蔵されたマイクロミサイルはまだ半分程度残っている。

 Gファルコンのエネルギーだけでも搭載火器は使える。スーパーチャージャーの追加で出力が強化された恩恵だった。

 ガンダムの冷却が完了してエンジンが通常稼働出来るようになるまでの間、Gファルコンのエネルギーだけでやりくりしなければならないため、そう無理が出来る状況ではないが、何も出来ないよりは格段にマシだろう。

 そんなエックスの元に、迎撃部隊を突破してきたDMF-3の部隊が合流する。迎撃機との戦闘を経たようで、数が少し減っていた。

 

 「流石だな、ガンダムエックス」

 

 合流したゲットーから賛辞を受け取るが、リョーコは歯に詰まったような返事しか出来ない。

 ゲットーも何となく察したのか、特に追求せずDMT-97隊と合流するまでの間、エックスの護衛を買って出てくれた。彼らの機体にもジャンプシステムが外付けされていて、攻撃成功の有無に関わらず、無力化した攻撃部隊と共に1度帰艦する予定だ。

 流石に対ヤマトを念頭に選抜されただけあり、素晴らしい練度で編隊を組んで能力低下の激しいエックスのフォローを完璧にこなしてくれている。

 おかげでリョーコは合流成功までの間、あまり敵の攻撃に悩まずに済んだ。

 ……サテライトキャノンの絶大な威力に敵が混乱して追撃どころではなかった、というのも大きいのだろうが。

 

 

 

 サテライトキャノンの一撃であの巨大空母が纏めて5隻“消滅した”のを見て(ついでに余波で多少機体が煽られたので)肝を冷やしながら、バーガーは愛機を操り眼前の超大型空母目掛けて次々と爆弾やミサイルを叩き込んでいく。

 バーガー率いるDMB-87隊は、戦闘空母の搭載能力の都合から普段の半分程度の物量で攻撃を敢行したにも関わらず、巨大空母を2隻も沈める事が出来た。

 だがバーガーはさして驚きを見せなかった。何故なら今し方連中に叩き込んだのは非常識なまでの防御性能を誇る“あの”ヤマトを打ち破るために用意された新型弾頭なのだ。

 確かに暗黒星団帝国の艦艇はガミラスの艦艇よりも全体的に性能が勝っている。だが戦い方やクルーの経験値で覆せる程度の差でしかない。

 

 そういう意味では、経験値という点では劣っていてもクルーの能力がすこぶる高く、何より“絶対的な数を確保しない限り戦い方でどうにかなる性能差じゃない”ヤマトの方が数十倍も手強い。

 

 下手に突っ込めば波動砲の餌食。

 波動砲を封じても戦艦としての火力と防御力はドメラーズ級並かそれ以上で、武装が多彩で隙らしい隙が無い。

 そして、最高速度はデストロイヤー級駆逐艦を上回りかねないときた。

 おまけに搭載数こそ軽空母並みで展開性能が劣るとはいえ、多彩な戦術に対応出来る人型に、ヤマト同様非常識な性能を持つガンダムが今や4機。

 

 ここまでくると、よくあるヒーロー番組のラスボスだ、ラスボス!

 

 プロキシマ・ケンタウリ第一惑星で痛い目を見てから、バーガー達はドメルの招集に応えてヤマトを攻略すべく様々な議論を交わし、戦術や装備を検討していた。

 ヤマトと和解した事で本懐は遂げられなかったが、その準備のおかげで今こうして戦えている。

 幾ら巨大と言っても所詮は空母。戦艦に比べれば装甲も薄くて耐久力も劣っているというのは、万国共通の弱点というもの。

 

 そうでなくてもヤマトより軟い時点で沈められないわけがない(辛辣)。

 

 機体を旋回させて離脱に入ったバーガーの視界の片隅で、同じように腹に抱えた巨大な宇宙魚雷を敵艦に叩き込んで離脱するクロイツ率いるDMT-97隊の姿が見える。

 向こうも2隻沈めて意気揚々と帰っていく。

 ――1隻残っているがそれの相手は……。

 

 「ちょっとばかし同情するぜ、暗黒星団帝国さん」

 

 バーガーがちらりと様子見した瞬間、件の空母が無様に沈んでいく姿が目に入った。

 

 「まあ、ダブルエックスに取りつかれたら終わりだよな」

 

 

 

 そう、最後の1隻を担当したのはダブルエックスだ。

 アキトはボソンアウトと同時に事前に打ち合わせた通り、自身が担当する最も奥の空母に向かって全速で突き進んだ。

 空母であるのに武装が外見から確認出来る限り3連装の有砲身砲塔が4基だけと、対空戦闘をまるで意識していない構成だ。直接戦闘に参加する艦種でもないだろうに、どうしたこのような武装構成を採用したのかはわからないが、対空迎撃が無いのなら楽なものだ。

 

 狙いは勿論大抵の兵器の弱点――機関部だ!

 

 アキトは手始めにカーゴスペースから引っ張り出したハイパーバズーカ2挺を脇に抱えて全弾連射。撃ち切ったハイパーバズーカを遠慮なく放り投げ、続けてロケットランチャーガンを1発撃ち込むとマウントに戻す。

 すぐに武器交換。右手にビームジャベリン、左手にGハンマーを握りしめ、ビームジャベリンを力一杯投擲。空いた手にツインビームソードを握らせる。

 並行して左手を外に思いきり伸ばした後、Gハンマーのワイヤーを伸ばし、邪魔になる左リフレクターを下に倒したあと立てて、左拡散グラビティブラストの砲身も上に向ける。

 障害物をのけた後、鉄球を下から上に回転させて勢いをつける。

 

 何でも散々「使い辛い」とぼやいたせいか、ウリバタケは色々改修を加えた様で、この変形もその一環。

 本体はワイヤーを最新の物に交換しつつ延長され、最長30mも伸びるようになった。ついでにフィールドの展開装置とスラスターの強化で威力を稼ぐ方向にシフトし、鉄球を軽量化している。おかげでエステバリスでも(何とか)使えるようになったらしい(誰も使いたがらなかったが)。

 

 そのハンマーの勢いを殺さないように注意しながら、ハイパーバズーカとロケットランチャーガンとビームジャベリンが連続で命中して負荷の掛かった部分目掛けて、強化されたスラスターも足したハンマーを勢い良く叩きつける。

 ――空気があったならさぞかし派手な轟音が鳴り響いたことだろう。ワイヤーを通してビリビリと振動がダブルエックスの腕にも伝わってくる。勿論直撃した空母の装甲は大きく陥没して砕けている。

 ディストーションフィールドとは若干異なる偏向フィールドを装備しているとはいえ、やはり質量攻撃に対して万全と言える防御力は得られない様子。

 若干使い易くなったし、意外と馬鹿に出来ないGハンマーの活躍が期待出来そうだ。

 アキトはすぐにワイヤーを巻き取って鉄球を回収すると、間髪入れずに弓の様に出力したツインビームソードを押し付けて装甲を溶断してさらに内部に深く食い込ませる。

 少々時間がかかったが、装甲を切り裂いて露出した内部構造目掛けて、ツインビームソードと持ち替えたロケットランチャーガン、続けて最大出力かつ収束モードの拡散グラビティブラストを左右交互に4発づつ連射。

 ヤマトの様に区画毎に防御フィールドを張っているわけではないのだろう、ダブルエックスの攻撃は容易く機関部に届いて完膚なきまでに破壊する。

 効果を確認するとすぐに離脱に入るが、その頃には左手の武器をDX専用バスターライフルに持ち替え、さらに破損部に向かって駄目押しの10連射をお見舞いする。

 

 情け容赦ない暴力に屈した巨大空母は、機関部から巨大な炎を吹き上げた後内側から爆発して吹き飛んだ。さしもの巨大空母も機関部を滅茶苦茶に破壊されては一溜りもない。

 

 その巨大な爆発を尻目に離脱したGファルコンDXは、事前にドメルから渡されていたデータを参考に瞬間物質転送器搭載艦艇を速やかに探し出す。

 ――見つけた!

 最大戦速で突き進むGファルコンDXに、直掩の戦闘機がビームの雨を降らせてくるが最小限の回避行動で突き進む。

 フィールドで防ぎきれなかったビーム弾が装甲に当たるが単発では貫通出来ない。サテライトキャノンの砲身が破損し、装甲の何か所かが欠ける損害を出しながら突き進んだGファルコンDXは、本体の撃沈は強行せず瞬間物質転送器のみに狙いを絞って、再装填したロケットランチャーガンとバスターライフル、拡散グラビティブラストを発射する。

 装置は1対で成立すると聞かされている。つまり、片方だけでも破壊すればもう連中は瞬間物質転送器に頼る事が出来なくなるというわけだ。

 アキトの決死の攻撃の前に、右舷の瞬間物質転送器が火を噴き、粉砕される。

 ――任務完了!

 効果ありと判断してすぐに反転、GファルコンGXと共にDMB-87隊とDMT-97隊に合流、さらには先行偵察とGファルコンGXの護衛を請け負ってくれたDMF-3隊に合流、ジャンプ装置の稼働を確認した後アキトとイネスの共同ナビゲートでヤマトと戦闘空母の元に帰還する。

 

 今回の転送戦術の軍配は、ヤマト側に上がったようだ。

 

 

 

 「ダブルエックスから入電。我、急襲に成功セリ!」

 

 エリナの言葉に第一艦橋の面々もほっと一安心。

 

 「さっすがリョーコにアキト君! これでこっちも少しは楽になるかな」

 

 拡散放射モードのハモニカ砲で弾幕を張りつつヒカルが喜びの声を上げる。

 

 「ふっ―――――」

 

 イズミが何かしら喋ったようだが爆発の振動に遮られて聞こえなかった。彼女も多連装照射モードのハモニカ砲を振り回して敵機を薙ぎ払う。巻き込まれた数機が落ちた。

 しかしヒカルもイズミも少々ディバイダ―を使い過ぎている。補助エネルギーパックがもうそろそろ空になりそうだ。

 右手に持っているビームマシンガンもエネルギーが空に近づいていて、実弾兵器は撃ち尽くした。

 Gファルコンの武装も連続使用が祟って放熱の限界やらジェネレーターの出力低下を招いていて、これ以上の戦闘はかなり厳しいと言わざるを得ない。

 

 対照的にエアマスターとレオパルドの2機はまだ少し余裕があった。

 レオパルドはミサイルをはじめとした実弾は全て使い切っているが、極力節約しながら武器をローテーションして使ったので、多少出力が低下しているがまだ何とか戦える程度には収まっている。

 エアマスターも同じようなもので、ミサイルは撃ち尽くしたが、常に合体したままではなく時折分離しては人型のノーマルモードに変形し、徒手空拳で敵機に格闘戦を挑んでエネルギーを節約している。

 ガンダムで最も装甲が薄いとはいえ、それでも使用されている素材がヤマトと同じとなれば頑強さに定評がある。コックピットやら構造的脆弱性を持つであろう部位を選んでやれば、そうそう当たり負けはしない。

 追加装備のミサイルライフルはミサイルを撃ち尽くしているがビームライフルとしては使える。連装型なのでビームマシンガン同様合成射撃をすることで専用の軽量型バスターライフルよりむしろ一撃は重い。

 そうやってバスターライフルを上手くローテーションする事で何とか弾薬を持たせながら戦っていた。月臣の技量あってこその戦い方である。

 

 「月臣少佐、当然まだいけますよね?」

 

 「無論だ。お前こそこの程度でへばっちゃいないだろうな?」

 

 軽口を交わす余裕もある。そこに、ガミラスの航空部隊を引き連れたダブルエックスとエックスの2機がボソンジャンプで帰ってきた。

 

 「きっついのお見舞いしてきたぜ! もう増援も来ないだろうから、ヤマトに群がるハエ共を残さず叩き落すぞ!」

 

 「了解隊長! でもGXは回復するまで時間かかるから下がっててね」

 

 サテライトキャノンの威力に気落ちしかけたリョーコも自分を奮い立たせるように威勢を振りまくが、即座にアキトに諫められる。サテライトキャノンの運用に関してはアキトの方が先輩なのだから当然の成り行きだ。

 

 「けっ! 仕方ねえ、月臣にアキト! 連中を自慢のスピードで撹乱してやれ! 母艦がやられて連中も浮足立ってるぜ!」

 

 「了解!」

 

 月臣もアキトも快く応じる。確かにヤマトの攻撃部隊も思わぬ本隊の被害に動揺してか、動きが精細さを欠いている。

 これなら一気に叩ける!

 

 Gファルコンバーストと収納形態に変形したGファルコンDXの2機が、猛スピードで戦場を駆け回って爆撃機をメインに襲い掛かっていく。

 GファルコンDXは機首のビームマシンガンを撃ちかけながら要所要所で拡散グラビティブラストの散弾を撃ちかける。

 相手のサイズが大きいので、ビームマシンガンだけでは致命傷を与えられないが、散弾とはいえグラビティブラストの火力なら問題ない。ビームマシンガンで追い立ててからグラビティブラストに繋げる、その繰り返しで3機程仕留めた。

 戦闘機が追いすがってきたなら、急減速からの展開形態への変形を実行し、右手のシールドバスターライフルと左手の専用バスターライフルを撃ちかけて反撃する。

 ビームの応酬を繰り返し、互いに避けては当てるを繰り返す事になったが、防御で勝るダブルエックスの方が優位と言えた。

 攻撃はフィールドと自慢の装甲で耐え、急接近した敵機には専用バスターライフルに取り付けたビームナイフを出力して切り裂く。

 致命傷には至らなくても損傷で動きが鈍った機体を、コスモタイガー隊のエステバリスが的確に攻撃して撃ち落としてくれる。

 もう弾薬もエネルギーも残り少ないだろうに、ここまで共に戦ってきた仲間達は的確に合わせてくれる。

 これまでの航海で培ってきた連携があって初めて実現出来る戦いであった。

 

 Gファルコンバーストも、ビームマシンガンの代わりに両腕にマウントしたバスターライフルを連射して敵機を煽り、時に撃墜しながら拡散グラビティブラストの散弾やノーズビームキャノンの大型ビーム弾を撃ち込んで爆撃機や戦闘機を次々と撃墜していく。

 その優れた機動力と運動性能で敵の攻撃を的確に回避していくが、ここまでの戦闘で機体もパイロットも消耗しているため全てを避け切る事は出来ない。

 戦闘機のビームを何発も被弾して装甲に傷がつく。

 だが、かすり傷如きでは止まっていられないとばかりに攻撃を続ける。

 3機ばかりの戦闘機に後ろに着かれたなら、分離して二手に分かれて敵の目を迷わす。その隙に速やかに変形して両手のバスターライフルを撃ち込んで手傷を負わせる。

 合体メカであり、分離した機体の制御も可能という特徴を利用した分離戦術も駆使し、群がる敵機と互角の死闘を繰り広げる。

 

 そんなエアマスターが撃ち漏らした敵機は、レオパルドの砲火に晒されて消える。

 まだ両腕のツインビームシリンダーや右肩のビームキャノン、Gファルコンの拡散グラビティブラストなど複数の武装が使用可能なレオパルドの火力は、ダブルエックスを凌いでいる。

 回復を待たずに出来る限りの応戦を続けるエックスをフォローしながら弾薬を吐き出して、ヤマトの周囲から敵機を退ける。

 増援が断てなかった先程までは、この火力をもってしてもなかなか数を減らせなかったが今は違う。このまま戦い続ければ、最後に勝利を掴むのはコスモタイガー隊だ。

 母艦たるヤマトも、ローテーションで撃ち出すパルスブラストの弾幕は健在。その弾幕に飲まれて消える敵機の数は、決して少なくはない。

 予期せぬ本隊への大打撃に転送戦術の瓦解による混乱に見舞われた航空部隊が、勢いを得たヤマト・ガミラス艦隊に駆逐されるのは、それから間もなくの事であった。

 

 

 

 

 「……ん?」

 

 真田はエックスから送られてきた敵艦隊へのサテライトキャノンの効果を見て、僅かに首を傾げる。

 おかしい、想定よりも破壊の規模が大きいような気がする……。だがかなり接近しての砲撃であったし、敵艦もかつてない規模の空母だから爆発が大きくても無理はないのだが……。どうにも気になる。

 

 「どうかしたんですか? 真田さん」

 

 ハリが真田の様子を訝しんで声をかけてくる。

 

 「――いや、ちょっとな。気にしないでくれ、俺の勘違いだろう」

 

 データの解析をしている時間はない。まずは連中を退け、その後ルリの手も借りて徹底的にデータを解析すれば答えがわかるはずだ。それまでは、余計な不安を煽らない方が良いだろう。

 敵航空部隊を退けたとは言っても、どの艦もかなりのダメージを受けているのだ。

 直接戦闘に参加せず雲海に身を潜めている第一空母は無傷だが、それ以外の艦艇はいずれも傷を負っている。

 特に深刻な被害を受けているのはヤマトの両脇に控えている指揮戦艦級の2隻で、艦中央部を中心に黒煙や炎を吹き上げていて、見るも痛々しい姿となっている。

 

 「ドメル司令。指揮戦艦級2隻を下げましょう。これ以上戦闘に参加させるのは危険です」

 

 進の進言にドメルも頷く。確かにその通りだ。辛うじて戦闘能力を維持しているとはいえ、これ以上戦わせても精々盾にするのが精一杯。

 だが、ヤマトも戦闘空母も十分な戦闘能力を維持出来ている。彼らを捨て駒にする必要性は薄い。

 ドメルはすぐに両脇に控える指揮戦艦級2隻に後退して応急修理するように指示する。

 

 これでこちらの戦力は戦闘空母とヤマトだけだ。

 DMF-3隊もコスモタイガー隊も損耗激しく、これ以上の戦闘は危険。ガンダムはまだやれそうではあるが、これ以上無理をさせると、応急修理程度では本土防衛戦に参加出来なくなる可能性があるので無理はさせられない。

 弾薬を使い果たしたDMB-87隊とDMT-97隊も同様だ。戦闘空母は戦艦としての機能を備えた影響でどうしても補給作業にかかる時間が専門の空母に比べて長くなる傾向がある。

 現状では再出撃は無理と諦めるしかない。

 

 ――何しろ波動砲の威力を警戒してか、巨大な円盤型の恐らく戦艦を旗艦とした、計90隻の敵艦が至近距離にワープアウトしてきたところだ。

 DMF-3隊を収容するために一時合流した第一空母は、着艦作業を終了したあと再びヤマトから離れて身を隠す。

 これからの砲撃戦に空母は邪魔なだけ。

 今後の戦いを左右するのは艦自身の大火力と重装甲――つまり、ガミラスが最も得意とし、ヤマトの能力を最も活かせる戦い――砲撃戦だ。

 

 

 

 

 

 

 ヤマトの人型やガミラスの艦載機隊に思わぬ被害を受けたデーダーではあったが、ドリルミサイルを退けたはずのヤマトが一向にタキオン波動収束砲を撃つ構えを見せないのを見て勝負に出た。

 

 (ヤマトが如何なる理由で撃たないのかは知らぬが、撃たないというのであれば撃ちたくても撃てないよう、接近して砲撃戦に持ち込んでくれるわ!)

 

 予想もしていなかった反撃にすっかり冷静さを欠いてしまったデーダーだが、そこは数々の戦いを潜り抜けてきた軍人。いざという時の思いきりは失われていなかった。

 バラン星での観測データから、タキオン波動収束砲の発射には相応の時間がかかる事がわかっている。

 エネルギーが少々厳しいが、小ワープで一気に接近して砲撃戦に持ち込めばまだ勝機はある。

 ヤマトもあの武装空母も、この旗艦プレアデスの前では赤子も同然なのだ。

 それに――接近さえすれば、万が一プレアデスが敗れたとしても道連れに出来る確信が、デーダーにはあった。

 

 「ECM最大稼働! 少しでも良い、敵の目を眩ませるのだ!」

 

 

 

 

 

 

 「主砲、副砲射撃用意! パルスブラストも対艦攻撃に備え!」

 

 守の指示でヤマトの主砲と副砲、パルスブラストが旋回を始める。

 敵艦はヤマトの前方、左右から真っ直ぐに突っ込んでくる形になっている。

 対するヤマトは第一主砲が右、第二主砲が左の最も遠い敵に指向。副砲は最も距離の近い敵機を狙うべく艦首軸線砲口の敵艦に向けられた。

 両舷のパルスブラストは第一副砲脇の4基のみが前方方向に向けられ、使用可能な残りのパルスブラストも出来るだけ艦首方向に指向して備える。

 敵も必死なのか、ECMの影響でレーダーの感度が著しく低下してしまっているが、この距離なら測距儀でも狙う事が出来るだろう。

 しかし艦橋の測距儀はドリルミサイルの影響で破損してしまっているので、主砲についている砲塔測距儀しか使えないので多少精度が落ちるが、それでも盲目で射撃するよりは遥かに具合が良い。

 

 「艦首ミサイル、両舷側ミサイル発射用意――ルリさん、オモイカネ、頼むぞ」

 

 「お任せ下さい。オモイカネも良いですね?」

 

 ゴートが信濃に移動しているので、守は続けて各ミサイル発射管の発射準備を進める。

 幸いにも対艦ミサイルの雨はナデシコユニット搭載のミサイルを中心に煙突ミサイルを足す形で行われたので、艦首と舷側ミサイルは消耗を抑える事が出来た。まだ十分に残弾がある。

 ECMの影響下なので精度は多少落ちるが、ルリとオモイカネの最強タッグが手を組めば幾分補えるはずだ。

 戦闘指揮席のモニターに、主砲と副砲がそれぞれの目標を捉えた事を示すロックオンマーカーが現れ、各砲から射撃準備を終えた報告が飛び込んでくる。

 ミサイルも準備は出来たが、主砲や副砲に比べれば数に限りがあるのでここは温存しておく。

 

 「撃ち方始めっ!!」

 

 左右に向けられたヤマトの主砲と正面を向いた副砲から計9本の重力衝撃波が放たれる。

 先制攻撃はヤマトが取った。今はヤマトの右舷1000mの位置にいる戦闘空母も僅かに遅れて艦首の砲戦甲板と艦橋の前に装備された主砲から重力波を何本も射る。

 ヤマトからの砲撃が着弾する頃になって、暗黒星団帝国の艦艇からも大量のビーム砲が撃ちかけられてきた。が、ヤマトのショックカノンは勿論、戦闘空母のグラビティブラストに干渉されて狙いが逸れる。

 強力な暗黒星団帝国のビーム兵器ではあるが、グラビティブラストによる干渉までは防げない。

 火線が交わる場所では一方的に捻じ曲げられ、打ち消され、ヤマトと戦闘空母に届いた砲火は僅かだった。

 

 一方ヤマトも、光学センサーの測距儀だけでは多少狙いが甘く、第一主砲が狙いを逸れてしまったが、第二主砲は命中、巡洋艦と思われる艦艇を以前の様にあっさりと射抜いて撃沈する。副砲は端の1発だけの命中だったので、損傷させるに留まった。

 戦闘空母も似たような効果だったが、ヤマト以上の投射量を活かして矢継ぎ早に砲撃を撃ちかけて、命中は望めなくてもこちらへの砲撃が遮られれば良しの姿勢でいた。

 後は互いに砲撃を繰り返して誤差を修正して、有効打を増やしていくしかない。

 

 戦況は、互いに一進一退を繰り返す膠着状態に突入していった。

 

 

 

 

 

 

 「ぬぅ……重力波砲の干渉か……! 敵ながら厄介な性質だ……!」

 

 ECMの効果もあって、プレアデス以外には致命的なヤマトの主砲の命中率を下げれたまでは良かったのだが、あの武装空母が干渉目当てで撃ちまくっているせいで、こちらの命中弾も減ってしまって全く有効打を与えられず、膠着状態に陥ってしまった。

 対してヤマトと武装空母は逸らされる事なく直撃弾を出してくる。

 失念していたわけではない。むしろ理解していたからこそ接近戦という手段を選んだ側面もある。

 だが、敵がそれを利用すべく目暗撃ちするとまでは考えが及んでいなかった。――少々、いやだいぶ冷静さを欠いてしまっているようだ。

 

 ――タキオン波動収束砲を意識し過ぎて、ヤマト自身の戦闘能力を過小評価してしまっていたのかもしれない……。

 

 実際敵の性能・練度共にデーダーの予想を遥かに上回っていた。

 やはりここで仕留めなければ……!

 

 「全艦、偏向フィールドを最大出力で展開しつつ接近を続けろ! もっと接近しなければ通用せん! 恐れるな! 我が帝国の未来を左右するこの戦、負けるわけにはいかんのだ!」

 

 死なば諸共。最初から生きて帰れなくても良いと覚悟のうえでここに来た。

 ヤマトは野放しにしておくにはあまりにも危険な存在。ここで確実に沈めて我が帝国がイスカンダルとガミラスを抑えてしまえば――あの脅威極まりないタキオン波動収束砲をこの宇宙から抹消する事も出来るだろう。

 ――無論、接近してヤマトを――波動エンジン搭載艦を至近距離で撃沈するのはこちらにとってもハイリスクだが、そうも言っていられない。

 

 それはこの艦隊の全員が理解しているリスクだ。皆承知の上で作戦に従事しているが、人間及び腰になる時はなってしまうもの。

 だからこそ、尻込みさせないためにデーダーが鼓舞してやらなければならない。

 ――万が一勝利の果てに生き残る事が出来たのなら、この戦いの死者全てを手厚く弔ってやろう。

 デーダーは固く心に誓い、自らを鼓舞するべく叫んだ。

 

 「確実にここで仕留めるぞ! メルダーズ司令の元に行かせてはならん!!」

 

 

 

 

 

 

 「敵艦隊、フィールドを強化しつつ接近してきます。恐らくグラビティブラストによるビーム兵器への干渉を避ける為、接近戦に持ち込むつもりと思われます」

 

 一早く敵の意図に気付いたルリが報告すると、進はわずかに悩んだ。

 

 (どうする? 敵の意図に乗ればこちらも早急に敵の撃滅を図れる)

 

 主砲の命中率は徐々に改善されているが、敵も棒立ちしているわけではない。回避行動を取りながら撃ち合い続ければ、消耗戦にしかならないだろう。

 敵艦のフィールドが強化されたため、主砲の威力も目に見えて衰えている。ヤマトの主砲をここまで減衰させるとは、驚くべきフィールドだ。

 距離を詰めればこちらも直撃弾を生みやすくなるので、敵の数を減らせるがグラビティブラストの干渉が相対的に減ってこちらも被害を被り易くなる。

 ――どちらを選んでも損害を被るというのなら、今欲しいのは時間だ。

 勿論干渉による命中率低下があるにしても、バラン星の時に比べると少々不自然に思えるほど積極的なのも気に掛かる。

 

 「艦長代理。バラン星の時に比べると、敵艦隊が異様なまでに積極的です。冥王星基地防衛艦隊同様、波動砲封じを図っているにしても、これほどまでに前に出てくる必要は感じません――何か裏がある可能性もあります」

 

 流石に冷静なルリは頼りになる。進と同じ懸念を抱いたようだ。

 

 「僕も同感だ。もしかしたら波動砲封じだけじゃなくて、冥王星残存艦隊同様、差し違える覚悟で挑んで来ている気がしてならない。慎重に対処しよう」

 

 ジュンの助言も受けて、進は決断した。

 

 「敵艦隊との過剰な接近は避けるぞ! 多少時間が掛かっても良い、敵の思惑に乗って余計な被害を出すわけにはいかない!――俺達はガミラスとイスカンダルに向かい、地球を含めた3つの星の未来を救うという重大な使命がある!……ここでやられるわけにはいかない!」

 

 「――そうだな。古代艦長代理の判断を尊重しよう。ハイデルン、ヤマトに続け! このまま距離を取りつつ砲撃戦を継続する! 敵の接近を許すな!」

 

 進の決断をドメルも支持、交戦を続けている戦闘空母に指示を出す。

 戦闘空母のハイデルンも獰猛な笑みを浮かべて「了解しました! 連中に我々の実力を見せつけてやりましょう!」と大変乗り気だ。

 

 「島、ゴートさん。隙を見て信濃を発進させる、備えておいてくれ。攻撃のタイミングはこちらから指示をする」

 

 信濃に乗艦している2人からすぐに返事が飛び込んでくる。後は発進のタイミングだが、敵の眼前でハッチを開放しては狙い撃ちになる。

 だからこそ、地形を使うべきだ。

 ――丁度活用出来そうな、暗黒ガス雲がヤマトの左舷方向にあるではないか。

 そのままヤマト自身が突入しても良さそうに思える巨大なガス雲。これを利用しない手は無い。

 

 「ハーリー、左舷の暗黒ガス雲に接触する進路を取ってくれ。あの足の様に伸びている一角だ。戦闘空母に死角を作ってもらいながら、ガスを通過する時に信濃を発進させて紛れ込ませる。ここで伏兵を作っておくぞ」

 

 「は、はい! 取り舵35、ピッチ角10、第三戦速でガス雲上方を通過します!」

 

 命令を受けてハリはヤマトの操縦桿を操る。大介に比べると手際が悪いが、こればかりはキャリアの差だ。

 それでもヤマトは進路を変更、左舷にある暗黒ガス帯に向かって進路を取る。戦闘空母もヤマトに追従、自然と敵艦隊が右舷方向に来るので火力を右舷にのみ集中して応戦する。

 

 「ハイデルン。聞いての通りだ。信濃発進の瞬間を隠すため、タイミングを合わせてヤマトと敵艦隊の間に入って死角を作ってくれ」

 

 「了解です、ドメル司令、古代艦長代理!――俄然、楽しくなってきましたなぁ!」

 

 歴戦の猛者はアドレナリンで脳内を満たしている事が一瞬でわかるような笑みを浮かべ、敬礼した。

 進もドメルもそれに応えつつ、敵に気付かれずに信濃を放出出来るかどうかが勝敗の分かれ目になりそうな予感を感じていた。

 

 ガス雲に進路を向けながらも、右舷側から敵艦隊の猛攻が続く。

 舷側ミサイルも弾頭をバリア弾頭に変更して防御シールドを展開し、ヤマトと戦闘空母に向かってくるビームを遮り、ミサイルを防ぐ。

 ヤマトの進路に交わる様に接近してきている敵艦隊なので、徐々に距離が詰まってきている。

 おかげで互いの砲撃が命中しやすくなるが、それでも互いに妨害し合っているので命中率は4割にも満たない。

 ヤマトと戦闘空母は、じりじりと詰まってくる敵艦隊との距離に注意しながら、目当ての暗黒ガス雲に侵入した。

 同時に、ヤマトの右舷側に位置している戦闘空母が動き出した。事前に作戦を了承している戦闘空母は、ベストのタイミングでヤマトと敵艦隊の間を通過するように進路を取って、ヤマトの艦底部ハッチが開いた事を隠す。

 ガスの濃淡と戦闘空母が、敵艦隊の目から中々良い具合に隠してくれた。

 発進準備を終えていた信濃が素早く格納庫から飛び出して、ガス雲の中に溶け込むように消えていく。

 発進完了と同時にすぐにハッチを閉鎖、格納庫内に侵入した暗黒ガスを排出する。

 

 「増速、第四戦速! 進路修正左5度、ピッチ角マイナス7!」

 

 すぐにヤマトの速度と進路を修正。

 信濃放出地点からかなり離れた、よりガスが濃くて視界も悪く、レーダーも機能停止しかねない密度のガスの中へと身を潜めていく。

 ヤマトと戦闘空母を見失なってなるものかと、敵艦隊からの砲撃も激しさを増す。

 勿論このままガス雲の中で追いかけっこをするつもりは無い。

 ヤマトも戦闘空母も盲目のままでは敵艦隊とは戦えないし、このままガス雲の中を航行し続けるのはリスクが大き過ぎる。

 

 「フィールド艦首に最大出力で集中展開! 最大戦速に加速!」

 

 進はさらなる増速を指示。

 抵抗を減らして増速すべく、艦首に集中展開したフィールドで濃密なガスを押しのけつつ、10分近くをかけてガス雲を突き抜けた。

 ガス帯に突入されたことでヤマトと戦闘空母の姿を一時見失った敵艦隊は、その動きに追従しきれなかった。

 それでもこちらの行動をある程度予測していたようで、増速してヤマトと戦闘空母が飛び出すであろう地点目掛けて猛然と突き進んでいた。

 だが、行動が予測されるのは想定内だ。計器飛行すら満足に出来ない暗黒ガス雲の中に留まり続ける事は危険であるという事は共通の認識であろう。

 ましてやここは七色星団。タランチュラ星雲の中でも特に危険なスターバースト宙域。ガス雲の中で何が起こっているかなど、容易には知れない。

 いずれガス雲から飛び出す事も、下手に進路変更して迷子になる事を避けると判断されるのも、想定内の事。

 

 ガス雲を飛び出したヤマトと戦闘空母はそのまま急速上昇、宙返りの要領で敵艦隊の頭上を取り、互いに艦の上部を向け合ったまま高速で交差した。

 

 「全兵装、攻撃始め!」

 

 進の号令でヤマト、そして戦闘空母の全火器が一斉に火を噴いた。

 主砲と副砲が重力衝撃波を、パルスブラスト全76門から重力波を、艦首・艦尾ミサイル発射管、両舷のミサイル発射管と煙突ミサイルといった全てのミサイル発射管からありったけのミサイルが発射され、ルリとオモイカネの制御でECMの妨害に抗いつつ、七色星団の空を舞う。

 戦闘空母も持てる限りの火力を艦の上部――敵艦隊の頭上目掛けて放出した。

 計4基の大口径3連装有砲身グラビティブラスト、艦体側面の小口径3連装有砲身グラビティブラスト、隠蔽式砲戦甲板にある口径違いの3連装無砲身グラビティブラスト6基、対空パルスブラスト36門、艦橋後部の6連装ミサイル発射機2基から、指揮戦艦級すらも上回る火力をひたすらに撃ちかける。

 その火力によって、全力で展開しているであろうフィールドを力尽くで食い破り、何隻かを火達磨にしてガス雲に飲み込ませた。

 

 だが敵艦隊も全火力をヤマトと戦闘空母に集中する。干渉や相対速度の差で命中率は低かったが、それでもかなり接近した状態の砲撃なので、命中した時のダメージが大きかった。

 ディストーションフィールドを最大出力で多重展開して攻撃を減衰しながらも、防ぎきれなかったビームの弾痕を装甲に刻みながら進むヤマトと戦闘空母。

 傷を深めながらも敵艦を十数隻も沈め、敵艦隊後方にまで到達。

 そこで見つけた一際大きな戦艦に向かって主砲を撃ち込むが……。

 

 「なっ!? ショックカノンが弾かれた!?」

 

 守が思わず声を上げる。

 眼前に躍り出てきた敵旗艦と思しき巨大戦艦。

 ここぞとばかりにヤマトは自慢の46㎝3連装重力衝撃波砲が2基、その火力を集中させるが、近距離で命中したにも関わらず、フィールドに僅かに拮抗しただけで弾かれ、明後日の方向に飛んでいく。

 巡洋艦クラスであっても減衰されていたのだから不思議ではないかもしれないが、まさかこの距離で正面から弾かれるとは思っても見なかった。

 対する巨大戦艦の砲撃はヤマトの多重フィールドをあっさり貫通し、右舷に被弾。装甲を半ばまで貫通され、安定翼の開閉システムに深刻な障害を受けた。

 負荷で弱っていたことを加味しても、ヤマトの多重展開フィールドをこうもあっさりと撃ち抜くとは……敵艦の主砲はドメラーズ級の斉射に匹敵――あるいは凌駕する威力だ。

 装甲の薄い部分に命中したら、ひとたまりも無いだろう。

 

 「艦尾ミサイル、目標敵旗艦!――てぇっ!」

 

 守はすぐに艦尾ミサイルを艦橋からの制御で発射。

 すれ違いざまに7番から12番までの発射管から撃ち出された対艦ミサイルは、狙い通り巨大戦艦に命中するが目立った効果が見られない。

 

 「――強力なエネルギー偏向フィールドの一種だ。解析データを見る限りでは、ディストーションフィールドと同じ空間歪曲フィールドの一種のようだが、異なる性質を持ったフィールドを多重展開する事で効率的にエネルギーを受け流しているようだ……ショックカノンでは接射かつ全火力を狭い範囲に集中でもしないと、突破は難しいな……」

 

 真田は分析結果に険しい表情だ。

 あの円盤型の巨大戦艦のフィールド出力はヤマトと同等程度なのに、異なる性質のフィールドを多重展開する事でヤマトを凌ぐ防御性能を得ている様子。

 エネルギー反応を見る限りでは、機関出力はドメラーズ級と同等程度でヤマトの方が上回っているのだが――。

 

 「不味いぞ……この推定強度だと波動砲――いやサテライトキャノンクラスの威力が無いと貫通出来ん……ミサイルのフィールド中和機能は機能しているようだが、出力が桁違いだ。もっと残弾に余裕があれば、主砲と併用して火力を集中させれば突破出来たと思うが、現状では数が足りん。一番手っ取り早いのはモード・ゲキガンフレアだが、安定翼を損壊してしまった今は使う事が出来ない」

 

 一見すると手詰まりになってしまったような状態だ。

 七色星団への影響を無視して波動砲を使うにしても、接近された状態でチャージを始めれば、発射する前にヤマトはハチの巣にされるだろう。

 サテライトキャノンもエックスの物は既に使ってしまっている。

 エックスの機能は回復しているが、激戦で少なからず傷を負っている事を考えると、メンテナンス無しに2発目を使用するのはリスクが高い。

 傷を負っているのはダブルエックスも同じだ。砲身の損傷は軽微なので修理自体はすぐに終わるだろうが、今後の事を考えるとここで無理はさせたくない。

 モード・ゲキガンフレアも、肝心の安定翼の開閉システムを損傷してしまっては使うに使えない。

 

 だが!

 

 「――信濃の波動エネルギー弾道弾なら、十分切り札足り得ますね」

 

 進は性能的な問題もあって温存されていた信濃を使う事を決めた。

 ヤマトは主砲が通用しない場合に備えてより強力でありながら、波動砲よりも低威力で取り回しに優れた必殺武器を数点用意している。

 波動エネルギー弾道弾もフィールド中和機能を有しているし、何より通常の対艦ミサイル弾頭とは桁違いの火力を持っている。

 仮にフィールドを突破しきれずに起爆したとしても、波動エネルギーならあのフィールドをも突破して本体に打撃を与える事が出来るはずだ。

 

 「エリナさん、信濃にヤマトの合図に合わせて波動エネルギー弾道弾を発射するように指示して下さい。真田さん、波動エネルギー弾道弾もヤマト側で誘導可能でしたよね?」

 

 「勿論だ。信濃はヤマトの補助兵装と言った方が適切な存在だからな。相応の用意はしてある。ボソンジャンプ通信を利用した誘導方式なら、暗黒ガス雲の中でも正確に誘導出来るし、妨害を考慮すればまず気付かれんとは思うが、奇襲である以上タイミングが命だ。信濃の存在に気付かれたら、一巻の終わりだぞ」

 

 真田の答えに進は大きく頷く。

 たった4発しか残されていない波動エネルギー弾道弾。無駄撃ちしたら後が無い。

 それに信濃も、所詮は相転移炉式艦艇。波動エンジンやそれに匹敵する動力を持つ暗黒星団帝国の艦艇に正面対決を挑まれてしまっては、虫けら同然に捻り潰されてしまうだろう。

 勝利するためには、奇襲以外に術は無い。この奇襲作戦がこの戦いに勝利するために残された、最後の手段だ。

 

 「エリナさん、戦闘空母のハイデルン艦長に連絡を。波動エネルギー弾道弾の爆発の影響を避ける為、発射と同時に最大戦速で敵旗艦から距離を取るように伝えて下さい――構いませんね、ドメル司令」

 

 「勿論だ、古代艦長代理。ヤマトの武器の威力は、私よりも君達の方が断然詳しい。君達の判断を尊重しよう」

 

 ドメルは進達の判断を尊重する姿勢を崩さない。

 彼らの実力を信じているからこその采配だ。

 

 「ルリさん、信濃の放出地点の正確な座標をマスターパネルに表示してくれ――確実に命中させるためにも、タイミングをしっかりと計らなければ……」

 

 

 

 

 

 

 その頃、デーダーはプレアデスの艦橋で勝利を半ば確信してほくそ笑んでいた。

 予測通り、ヤマトの主砲ではプレアデスの防御を突破出来ない。

 それもそうだ、暗黒星団帝国でも数が少ないこの艦艇は艦隊旗艦として運用するために開発された。

 だから過剰な武装こそ施されていないが、艦載機運用能力は勿論生半可な攻撃では傷つかないよう、徹底した防御力が与えられている。

 武装も数が少ないだけで、破壊力は暗黒星団帝国の艦艇の中でもトップクラスを誇る。

 こちらも予想通り、プレアデスの火力ならヤマトの防御フィールドも紙切れ同然。防ぐ事が出来なかった。

 このまま砲撃戦を続ければ、プレアデスが勝利を掴む事が出来るはずだ。

 ヤマトがこちらのフィールドを突破出来るとしたら、さらに接近して自身のフィールドをぶつけて中和しつつ、横っ腹を見せた斉射を行う必要がある。

 だが、向こうが中和出来るという事はこちらも出来るという事。砲撃をする前にヤマトの倍はあるプレアデスの体格を活かして弾き飛ばして、隙を見せた所を撃ち抜くのみ。

 それに、どうやらヤマトはこちらが過度に接近戦を挑みたがっている事を警戒して距離を取る戦法を選んだらしい。

 となれば、接射による強引な防御の突破は心理的に選択し辛いだろう。仮にその手段で撃沈されたとしても、デーダーの予想が外れていなければヤマトを道連れに出来る可能性は残されている。

 どちらにせよ、分はこちらにあるのだ。

 そして、敵のミサイルの火力ではこちらのフィールドと装甲を撃ち抜くには少々火力が足りていない。

 おまけにヤマトの艦体サイズとここまでの戦闘で使用した分を考えれば残弾も残り少ないはず。

 これでは主砲にミサイルの火力を足して遠距離から強引に突破、という手段すら取れまい。

 

 デーダーはそう考えてヤマトに砲撃を集中させる事を指示。早急にヤマトのフィールドを瓦解させ、この戦いの勝利を収めるつもりだった。

 

 だから彼は、ヤマトがどうしてわざわざ暗黒ガス雲に突入したのか、深く考える事は無かった。単に体勢を立て直すための苦し紛れと自己完結してしまっていたのである。

 そのせいで命を失う事になるとは、この時は露程も考えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 巨大戦艦への攻撃は一先ず無意味と判断したヤマトと戦闘空母は、出来るだけ敵艦隊と距離を離すようにしながら信濃が身を潜めるガス雲に向かって回避運動を行いながら進んでいた。

 ボソンジャンプを利用したボソン通信で信濃の位置情報を確認しながら、信濃もガス雲の中をヤマトからの位置情報を頼りに進んでいる。

 ガンダムやA級ジャンパー単独のジャンプは誤魔化す術は無いが、通信程度の用途で使うのならアクエリアスドックの秘匿の為に使われていた隠蔽シールドで十分に隠蔽出来る。

 それでも多少の重力異常などは検出される危険性があるにはあるのだが、この七色星団の環境下ではそれすら紛れてしまうだろう。

 七色星団の環境は、決してヤマトに不利のみをもたらしたわけではない。環境さえ事前に把握していれば、むしろ利用出来る箇所もあるのだ。

 また、この場を決戦場として選んでいたドメルの協力が得られている事も大きい。彼が事前に調べ上げた最新のデータにその頭脳が加われば、最小限の通信で連携する事も出来る。

 

 敵艦隊は、ヤマトが自慢の主砲を無力化されて逃げに転じたと盛大に誤解してくれたのだろうか、巨大戦艦を前面に押し出しながら逃げるヤマトと戦闘空母を追撃してくる。

 逃走しながら艦尾の武装を使用して、巨大戦艦の陰に隠れていない端の方の敵艦を撃沈しながら機会を伺い続ける。

 巨大戦艦は元より、他の艦艇からの砲撃もヤマトと戦闘空母に幾度も突き刺さり、時にはフィールドを貫通して装甲に傷を残していく。フィールド発生装置も負荷が蓄積され、このままでは長くは持たない。

 焦って失敗してしまう事は避けたいが、焦りが募るのを避ける事が出来ない根競べ。

 クルーの心労も溜まっていった。

 

 ヤマトは艦尾ミサイル・舷側ミサイル・煙突ミサイルから残り僅かなミサイルを牽制も兼ねて放出、戦闘空母も後部の主砲やミサイルランチャーを使用して抵抗を続けながら、敵艦隊の接近を少しでも阻む。

 敵艦隊はヤマトと戦闘空母が暗黒ガス帯に逃げ込もうとしていると考えているのか、ガス帯との間に砲撃を通して牽制してくる。

 最初からその気はないのだが、それで牽制されたフリをして、タイミングを見計らう。信濃との合流予定地点までもう少しだ。

 

 …………。

 

 ………。

 

 ……敵巨大戦艦が、暗黒ガス帯に――まるで触腕の様に伸びた一角に近づく。その飛び出した部分を通せば、波動エネルギー弾道弾を確実に命中させられる。

 ドメルの助言を基にルリが算出した、最良のポイント。

 進は迷わず信濃に打電、発射準備を整えさせた。そして……最良と思われるタイミングで発射を指示した。

 

 「てぇぇぇっ!!」

 

 ゴートは命令通り眼前の発射レバーを引き倒す。同時に解放されたVLSのハッチ。飛び出す波動エネルギー弾道弾が4つ。信濃のありったけが敵艦に向かって襲い掛かる。

 ……起死回生の一打は、ヤマトから誘導されながら暗黒ガス帯の中を突き進み――敵巨大戦艦に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 デーダーはヤマトと戦闘空母が這う這うの体で逃げ出していると思い込んで、なおさら躍起になって追撃を指揮していた。

 この状況ではタキオン波動収束砲は勿論、あの人型の大砲も満足に使えないはずだ。このまま消耗させて捻り潰すべく、決死の攻撃を続けさせる。

 暗黒ガス雲に逃げ込もうとするような素振りを見せれば(実際は回避行動で進路がそちらを向いただけ)、砲撃で遮り逃げ込むことを許さない。

 何としてでももっと距離を詰めて決定打を与えるべくヤマトと戦闘空母を追尾する。

 そんな風に視野が狭くなっていた事もあり、プレアデスの進路上にガス雲から延びた“触腕”の存在など気にも留めなかった。

 濃度が薄く規模も小さい、あっという間に通過してしまうので目暗ましにもならないという先入観があったからだ。

 

 そして運の無い事に、ヤマトには小型の艦載艇が存在し、タキオン波動収束砲のエネルギーを広域に拡散させるほどの威力を持ったミサイルを搭載していたという事を失念していたのである。

 

 プレアデスが暗黒ガス帯から触腕の様に伸びた一角に最接近した時、その中から4発のミサイルが飛び出してきたのを確認して、初めて艦載艇の存在を失念していた事に気付いたほどだった。

 ミサイルがプレアデスの艦体と艦橋に命中、対フィールド弾頭の力でプレアデスの強固なフィールドを中和しながら艦体に接触。

 

 直後、眩い閃光が弾けた。

 

 今際の時となって、デーダーは思い出した。

 そういえば昔誰かに言われたことがあった、「お前は優位に立つと詰めが甘くなる」と。

 その通りとなってしまった。そして、この距離ではデーダーがヤマトを道連れに出来るだろうと考えていた、波動エネルギーと暗黒星団帝国のエネルギーの過剰融合反応による爆発でヤマトを巻き込める保証すらない。

 自省する間もなく、デーダーの意識は光の中へと消え去っていった――。

 

 暗黒星団帝国が誇る巨大戦艦――プレアデスは、ヤマトが、ガミラスが予想だにしなかった巨大な閃光と共に爆ぜ、残った艦に次々と誘爆。

 まるで波動砲の直撃を受けたかのような凄まじい爆発と共に、七色星団の一角を照らしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 巨大戦艦に波動エネルギー弾道弾の直撃を確認して、その効果を確かめようとしていたヤマトと戦闘空母は、予想だにしない大爆発に狼狽えていた。

 十分に距離を取っていたつもりだったのに、激しい爆発が生み出した衝撃波に揺さぶられ、押し流され、危うく近くにあった宇宙気流に飲み込まれてしまうところであった。

 各種センサーや構造上脆弱な部位に損傷が生じ、各部から被害報告が殺到する。

 

 「また爆発オチか~~~!!」

 

 などという悲鳴が各所から聞こえたとも言われているが、真偽は定かではない。

 

 予想外の事態にうろたえながらも、ヤマトと戦闘空母は大きな被害を受けずに済み、何とか体勢を立て直して現状維持に努めた。

 

 暗黒ガス雲に紛れていた信濃も巻き込まれた事が予想され、一時は大介とゴートの生存も危ぶまれた。

 が、ボソン通信装置を利用した救難信号を意識を取り戻したユリカが察知。「ヤマト右舷の濃い雲の中、距離と方位は――」と詳細を語る。

 それを聞いたアキトとリョーコが疲労を押してGキャリアーで出撃して暗黒ガス帯に突入、爆発によって撹拌されたガスの淡い部分に漂う大破した信濃を発見、重傷を負いながらも生存していた大介とゴートを救出する事に成功した。

 

 ――しかし、安定翼や追加ブースターも全損、機関部も全損し竜骨も折れてしまった信濃は修理不能判断され、ここまでヤマトの航海を陰から支えていた信濃を放棄する事が決定。

 放棄された信濃はすぐ傍を流れる宇宙気流に飲み込まれ、バラバラに分解されながら彼方へと去っていった……。

 

 その後、ヤマトと戦闘空母は後方に避難していた第一空母と指揮戦艦級2隻と合流――ついでにドリルミサイルでブレード部分に大穴が開きながらも現存していたナデシコユニットも回収。まだ使えそうなので再装着しつつ被弾個所の応急処置を続けながら、七色星団を突き進む。

 損害は決して軽くは無かったが、腰を据えて修理をするほど時間的余裕も無く、外装の応急処置が完了次第ワープでガミラス星とイスカンダル星を擁するサンザー恒星系の手前にある、ライネック星系に向けてワープする事になった。

 

 

 

 「真田さん、イネスさん。あの爆発は一体何だったんですか?」

 

 回収された大介とゴートの安否を確認した後、進はヤマトの頭脳である2人に問うた。

 ヤマトの遥か後方では、先程の大爆発の影響で混沌としている空間が広がっている。

 ハリの懸念通り、波動砲に匹敵する威力となってしまった波動エネルギー弾道弾の爆発の影響で、凪であった空間は荒れ狂う嵐の空間へと変貌している。

 そう、余波によって元々不安定だった気流の流れが変化してしまったからだ。精密検査こそしていないが、あの広大なガス雲の中をかき乱して星の誕生に繋がりそうだと思えるくらいの、凄まじい爆発だった。

 

 「――艦長代理、ドメル司令。これを見てほしい」

 

 真田はマスターパネルに表示させたのは、サテライトキャノンの効果や先程の波動エネルギー弾道弾の効果を観測したデータと、予想されていた被害規模の比較データだった。

 

 「数値を見てわかる通り、一見何の問題も無かったとされるサテライトキャノンによる被害も、想定値より2割程上回っている。波動エネルギー弾道弾に至っては数十倍もの劇的な反応を見せている――推測ではあるが、もしかしたら敵の動力エネルギーとタキオン粒子――いえ波動エネルギーは過剰反応する性質があるのかもしれん」

 

 真田の報告に最初に反応したのはドメルだった。

 

 「過剰反応?――ふむ、ガミラスも宇宙に進出して永いが、このような劇的な反応を起こす文明とは遭遇した事が無いな……真田工作班長、念のため本国のデスラー総統に至急連絡を入れたい。具体的な推論は、その後でも構わないか?」

 

 「構いません。むしろすぐに本国に知らせるべきでしょう。ガミラスの兵器事情には詳しくありませんが、波動エネルギーを転用した兵器をすでに実用化しているのであれば、事は一刻を争います……」

 

 真田は深刻そうな表情でドメルの判断を肯定した。ドメルも流石にデスラー砲に関しては口を噤んだが、すぐにエリナに戦闘空母に繋ぐよう指示を出し、ハイデルンに戦闘空母を中継して本国への緊急ラインを繋げるように指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 ヤマト・ガミラス混成艦隊が七色星団に到着した頃、デスラーは艦隊旗艦であるデウスーラの艦橋で戦況を見守っていた。

 敵の主力兵器であるビーム砲はグラビティブラストの干渉で多少逸れてくれるので、前衛艦隊は戦線の構築のみならず、大量の砲撃を放って敵の攻撃に干渉して逸らす盾の役割をも担う事になった。

 干渉で敵の砲撃が逸れてくれるとはいっても、全てを防げているわけではない。性能面で多少なりとも

 しかし戦線は膠着状態のままだ。互いにまだ様子見の段階を逸しておらず、攻勢が互いに緩く、損傷艦はすぐに下げて戦線を維持する事に注力し続けている。

 今はグラビティブラストの干渉という利点を活かして抑えているが、長くは続かないだろう。

 本土防衛戦という状況故、損傷した艦艇の応急修理や弾薬の補充が容易である事は優位に働いているが、一歩でも間違えれば市街地に敵弾が届いてしまう。これは数多くの戦いを制してきたガミラスと言えど、あまり経験のない戦いだった。

 だが、ヤマトとの戦いで移民計画が遅れ気味であった事が幸いもしている。

 本来ならバラン星基地に移動させた民間人の護衛やら太陽系各所に配備して新たな本星となる地球の防備を固める為の戦力が、丸々本星に残されているのだ。

 もしヤマトが出現せず、もしくは早々に叩き潰せていたとしたら、ガミラスはここまで余裕をもって戦う事は出来なかったであろう。

 皮肉な事だ。

 そして、そのヤマトとの戦いを経て多少の改良が施された装備も、もう間もなく準備が整う。

 

 一進一退の攻防は、その後数時間続いた。

 だが、敵黒色艦隊が緩やかに後退を始めた事でその均衡が崩れていく。

 

 「総統、敵艦隊が後退を始めています――第二波攻撃の準備でしょうか?」

 

 「恐らくそうだろう。しかし解せん。敵も本気で攻め込んでは来ていない……何を企んでいるというのだ?」

 

 さて、どう出てくる。

 数の上ではこちらが優位だが、性能面では敵が優勢。

 グラビティブラストの干渉による攻防一体の戦術でイーブンに持って行ったが、それ自体が想定外の出来事であったのか、または想定されていた事なのかが読み辛い。

 

 敵は間違いなく、ある程度の時間をかけてこちらの分析をしていたはず。にも拘らず、どうしてこうもこちらを探るような行動をしてくるのだ。

 グラビティブラストによる干渉も、多少戦局を優位にはしたが絶対的な優位性とは言い難い。

 だからこそバラン星を襲撃してこちらの浮足を立たせて、本土襲撃という作戦を立案したはずだ。

 にも関わらず進行は緩やかでまるで防衛線を構築するのを待っていたかのようにも見受けられ、その意図が掴みにくい。

 連中にとってもイレギュラーと言えるのはヤマトの存在くらいだが……。

 

 (このデスラーですら最後の最後まで悩み続けたヤマトとの和解――地球との共存共栄の道を選ぶなど、連中が予想していたとは考え難い)

 

 だとすれば、本来のプランではヤマトへの警戒も疎かには出来ないこちらの弱みに付け込んだ奇襲によって、一気に制圧するつもりだったと考えるのが自然だ。

 ヤマトに関しても、最初は瞬間物質転送器やドリルミサイルを鹵獲した時に得られたデータ以上の事は知らなかったはずだ。

 知り得た情報は「ガミラスが追い込んだ地球から突然湧いて出た超兵器搭載の戦艦」以上のものではないはずだ。ヤマトが波動砲を理由に襲撃を受けたという報告で裏付けられる。

 ――だとすれば、バラン星の戦いでヤマトが偶然居合わせる可能性は想定していても、ガミラスと共同戦線を行った事は想定外だったはず。

 そこに自ら促したとはいえ、波動砲の絶大な威力を目の当たりにしたことで、技術レベルに大差ないガミラスが同様の装備を持っているかどうかを警戒するようになった、というのだろうか。

 

 (……情報を整理してみよう)

 

 ――暗黒星団帝国と名乗る軍勢の存在をガミラスが認知してまだ2ヵ月程度。

 ガミラスの国境付近で確認された最も古い記録がそれなのだから、もしかしたらもう少し前から調査をしていたかもしれないが、デスラーはガミラスが彼らの存在を掴んだ時期と彼らがガミラスに目を付けた時期に大差は無いと考えている。

 

 その要因の1つがグラビティブラストの干渉だ。

 

 もっと前から入念に調査していたというのなら、もっと対策を練っていても不思議はないのに、それが成されていない。

 それどころか、連中はより強力な兵器であるグラビティブラストを所有していない。

 勿論これはガミラスにとっても他文明が開発したものを利用しているに過ぎない(デスラーは後にシャルバートから現在までに連なる歴史をスターシアから聞かされた)が、ワープ航法を開発する過程で空間歪曲関連の技術はどうしても開発する必要がある。

 例えば、自力でそれらの技術を開発したのではなく、地球の様に他の文明からの技術付与という形で得たのであれば、段階的に発展していく過程で得られる技術を素通りしてしまう、歪な技術体系もあり得る。

 現に地球が最後の希望として送り出したヤマトも、その性能バランスは歪だ。

 6連波動相転移エンジンというイスカンダルしか技術を有していなかった、ガミラスすら上回る超高出力機関を持ちながらも、密接な関係にあるはずのワープエンジンの性能が目も当てられない程低いのが良い例だ。

 しかし、ここまで大規模な艦隊を整備して他国に侵略戦争を仕掛けられるだけの文明が、果たしてこんな初歩的な見落としをするのだろうか。

 空間歪曲フィールドやワープ航法。いずれも開発の過程でそれらに関わる技術を兵器転用する発想は、一定以上の技術力があれば出てきそうなものなのだが……。

 ……それとも、技術的には可能でも有用性を見出せなかったという事だろうか。

 

 (……彼らは目的から探ってみてはどうだろうか?)

 

 目的はあくまで“資源”と言っていた。

 だがもしその“資源”に“人間”が含まれているとしたら、バラン星を攻撃したのはこちらの動揺を誘って奇襲するためだけではなく、ガミラスの移民計画についての情報を掴んでいたからこそ“逃がさないため”に行った可能性が浮上する。

 バラン星への奇襲は確かに効果はあった。だがそのせいでデスラーは警戒を深めた。

 奇襲するならこの戦力で一気に本星を攻撃した方が、むしろ一気に押し込めた可能性が否定出来ない。

 ――にも拘らずバラン星を襲撃した。そして緩やか過ぎる艦隊行動。

 連中は奇襲でなくてもガミラスを侵略出来るだけの自信――すなわち切り札を有しているということだろうか。

 しかし、それでも腑に落ちない点が多い。

 それほどの切り札があるのなら、最初から投入してしまえば良い。戦力の出し惜しみや逐次投入は愚策であるというのは、万国共通の戦術論のはず。

 ――気に入らない。切り札ならこちらにもデスラー砲がある。あるのだが……相変わらずデスラーの第六感が訴えるのだ。

 気易く使ってはならない、と。

 そして、敵艦隊の行動には何かしらデスラーが知り得ない思惑がある、と。

 

 「デスラー総統。ヤマトのドメル将軍から緊急の通信が入っています」

 

 通信士からの報告に頷くと、考え込んでいたデスラーはすぐに気持ちを切り替え繋げるように命じた。

 

 「デスラー総統、ドメルです」

 

 緊迫した様子のドメルにデスラーは先を促す。

 ――嫌な予感がする。最高の機密レベルの秘匿回線を使用しているという時点で、何かとてつもなく重大な案件が生じた事が伺えるが、その予感がますます強くなった。

 

 「我々は七色星団において予想通り敵艦隊の襲撃を受け、これを退ける事に成功いたしました。しかしその戦闘で思わぬ事態に遭遇し、至急、総統のお耳に入れるべく連絡致した次第です」

 

 「――思わぬ事態?」

 

 「はっ、我々は敵艦隊と一進一退の攻防を展開した末、ヤマトの主砲ですら貫通困難な敵旗艦と思しき巨大戦艦に対し、波動エネルギーを封入したミサイルを4発用いて撃破を図りました。それ自体は目論み通り成功したのですが、その際敵艦が波動エネルギーとの過剰反応と思われる大爆発を生じるという異常事態に直面致しました」

 

 ドメルの報告にデスラーは顔が強張るのを自覚した。

 

 「波動エネルギーと――過剰反応だと?」

 

 デスラーの様子に事態の深刻さが伝わったと判断したドメルは、「ヤマトの真田工作班長が私の代わり、事態の説明を行いたいと訴えています」と伝え、デスラーはすぐにそれに応じた。

 

 「ヤマト工作班長の真田志郎です」

 

 「真田工作班長。説明をよろしく頼む」

 

 デスラーに促され、真田が重々しく口を開く。

 ――だが真田を映した映像の端の方で、亜麻色の髪の女性が必死に片腕を掴んで抑えている、金髪で白衣を羽織った女性の姿が一瞬移ったのを、デスラーとタランは見逃さなかった。

 

 その女性――イネス・フレサンジュの事を、彼女が“説明”という行為に反応して出たがっていた事を2人が知ったのは、もう少し後の事だった。

 

 「出来るだけ手短に説明致します。我々が敵巨大戦艦に対して使用したのは、波動エネルギーを封入した波動エネルギー弾道弾と呼称しているミサイルの一種で、これはヤマトの波動砲の1/80に相当するエネルギーを封入しています――勿論、波動砲1発分の1/80です」

 

 まず最初にヤマトが使用した武器についての説明を受けて、デスラーはヤマトに関する報告の中にその武器を積載した小型の艦載艇があった事を思い返した。

 

 「七色星団という不安定な環境に配慮した結果、我々はより威力の高い波動砲の使用を禁じ、ガンダムエックスのサテライトキャノンと、この波動エネルギー弾道弾を切り札として敵艦隊と交戦しました。しかしこの2つを使用した際、どちらも通常とは異なる反応を示しました――ドメル将軍が報告された通り、過剰反応と思しき威力の増大現状の事です」

 

 「これをご覧下さい」と、真田はその2つの兵器を使用した時の観測データを幾つもこちらに転送してきた。

 ガミラス最高レベルの暗号通信とはいえ、なかなか思い切った行動だと感心する。

 

 「気分を害されるかもしれませんが、これはガミラス艦に対して使用した時のデータと比較したものです。艦艇のサイズや防御性能の違いは、多少の推測を交えながら補正しています――御覧の通り、サテライトキャノンで約2割、波動エネルギー弾道弾に至っては数十倍もの威力の向上が見られています。サテライトキャノンに関しては観測機器の精度による誤差の範疇かもしれませんが、波動エネルギー弾道弾に関しては、到底誤差では済みません。間違いなく劇的な反応によって威力が増大しています」

 

 「確かに――このデータに間違いが無ければ、連中は波動エネルギーに対して異様な反応を示すという事になるな……」

 

 「その通りです。交戦によるセンサー類の破損、ECMによる妨害等を受けていた為具体的に何が過剰反応を引き起こしたのかが不明ではありますが、このデータを信じるのであれば敵の何らか物質――またはエネルギーはタキオン粒子に対して反応を起こす事が推測出来ます」

 

 真田はそこまで言ってから新しいデータを送ってきた。これは――。

 

 「御覧の通り、タキオン粒子に対して反応は起こしているようですが、我々の機動兵器が使用しているタキオン粒子を封入したロケット弾は過剰反応と思しき反応を見せていません。反応を見せるようになったのはタキオンバースト流にまで加工したサテライトキャノンからです」

 

 サテライトキャノン――あのガンダムという人型が保有している戦略砲。その存在がガミラスに知られた時は、デスラーすらも驚かざるを得なかった代物だ。

 艦載機に戦略兵器を搭載する前時代的な発想(繰り返しになるが、広大な宇宙空間を戦場にすると航続距離や積載量の関係で宇宙戦艦を使った方が効率が良い為、時代遅れになった)は勿論、艦載機に搭載出来るサイズで纏め上げた発想と技術力には、素直に感服せざるを得なかった程だ。

 そうか、今までは波動砲の亜種とまでしか判明していなかったが、あれは波動エネルギーに至っていないタキオン粒子を同じように高圧化・収束して打ち出すタキオンバースト流を利用した兵器だったのか。

 ガミラスでは波動エネルギーやタキオン粒子の兵器への直接転用は積極的でなかった(不思議とそういう発想があまり出てこなかったり、既存の戦力で十分であるなどの理由)。

 実際デスラーも、カスケードブラックホールの一件が無かったら、デスラー砲――タキオン波動収束砲の開発に手を出していたとは言い難い。確かに優れた武力ではあるが、威力が高過ぎて加減がし難いのは、あくまで版図を広げる事を目的としているガミラスにとってデメリットも大きかったのである(手に入れるべき星を吹き飛ばしてしまっては本末転倒)。

 

 ――ある意味では、“追い込まれて奇麗事を言っていられなくなった地球の惨状があってこそ実用化された兵器”と言えるそれが、未知なる脅威に対しても絶対的な威力を生じるとは、きっと夢にも思っていなかったに違いない(これに関してはヤマト自身が余計な先入観を与えないために隠蔽していただけである)。

 

 「それを踏まえて考察するに、“未加工の波動エネルギー”であれほどの反応を生み出したというのであれば、“より威力を発揮するように加工した”波動砲を使用すれば、どれほどの被害が生じるのか皆目見当もつきません。我々はガミラスの兵器開発事情に詳しくはありませんが、艦長から教えられたガミラスの状況を考えるに、独自に波動砲を開発していると考えています。もし完成しているのでしたら――」

 

 真田の言葉を遮るようにデスラーは疑念に応えた。

 

 「疑念は尤もだ。そちらの推測通り、ガミラスもカスケードブラックホール対策としてタキオン波動収束砲の開発を試み、つい先日完成したばかりだ。切り札を最初から切るつもりは無かったので使わないでいたが――どうやら正解だったようだな」

 

 これも最高軍事機密に属する内容ではあったが、今はそんな事を言っていられない。正確な情報を共有し合って対策を立てなければ最悪な事態を招きかねない事態になってしまった。

 そんなデスラーの含みを持った言葉に、真田は自分の推測が当たっていた事に呻く。和解が成立していなければ、その矛先がヤマトに向いていたであろうことは想像に容易い。

 同時に、デスラーが安易に波動砲を使用しなかった事を安堵した。

 

 「その通りだと思われます。もしも波動砲が敵艦隊を直撃した場合、直撃を受けた艦が強烈な反応で爆発、最悪周囲の艦艇にも大爆発で飛散したタキオン波動バースト流の影響を受けて誘爆を重ね――極めて広範囲を吹き飛ばす危険性があります。言い換えれば、周辺への被害を考慮しなくて良い環境下であれば、波動砲は暗黒星団帝国の艦隊に対して絶対的な威力を発揮出来るという事であり、逆に周辺に考慮しなければならない環境下では――波動砲は絶対に使えません。二次被害があまりにも大きく、予測がつきません」

 

 断言する真田にデスラーも苦々しい顔だ。

 勿論真田が気に入らないのではなく、不可解な彼らの行動の意図を自ずと察したからである。

 

 「――連中が距離を詰めて交戦してこない理由はこれか……!」

 

 「彼らがこの事を知っているのなら、過剰反応を恐れてと考えて間違いないでしょう。これまでの戦いで、ガミラス艦もヤマトと同じ波動エンジンを搭載している事はわかっているはずです。だからこそ、影響を受ける可能性がある至近距離での交戦を避け、どの程度の距離ならば問題ないのかを推し量っているのでしょう。迂闊に撃沈して波動エネルギーが漏洩し、それが連中の“何か”に過剰反応してしまえば、最悪一帯が吹き飛んでしまう恐れがあります――勿論、連中が欲しがっているであろうガミラスとイスカンダルも纏めて吹き飛んでしまう可能性も否定出来ません……恐らく、ヤマトがバラン星で波動砲を使用した際にデータを取得し、その可能性に気付いたのではないかと推測します。バラン星の時と七色星団では、敵艦隊の動き方に違いが感じられましたので……」

 

 これは――ますます辛い戦いになるやもしれない。

 これではこちらも迂闊に接近出来ない。

 接近戦に持ち込めば、敵艦隊は過剰反応を恐れて攻撃の手が緩むかもしれないが、言い換えれば反撃を受けてこちらが撃沈された場合敵味方問わず甚大な被害を被る可能性が出てきてしまった。

 

 「確認される限り、敵艦隊もディストーションフィールドと同じ空間歪曲場による防御装置が装備されています。それが、撃沈等で漏洩した波動エネルギーを遮断して反応を防ぐに足る性能があるかどうかまでは判明していません。こちらの検証の限りでは、波動エネルギーはディストーションフィールドに対する中和効果が確認されています。だからこそ、波動エネルギー弾道弾を開発したのですが……」

 

 「なるほど。確かにこれでは迂闊な真似は出来ないはずだ……」

 

 デスラーも腕を組んで考え込んでしまう。

 恐らくこの問題がある限り敵艦隊も迂闊に接近してこないとは思うが、むしろ我々がこの事実に気付いた事を承知した上で裏をかかれる可能性もある。

 長距離通信で言葉を交わしているのだ、暗号化しているとはいえ漏洩しない保証はない。

 無論、ドメルも真田も承知の上で最悪の事態を避ける為にこうして通信してきたわけなので、責めるつもりは毛頭無いが……。

 

 「――我々は既に何十隻も敵艦を撃破し、こちらも同等の被害を被っている。敵艦隊の攻撃が消極的だったのが事実だとすれば、撃破した時のエネルギー漏洩による影響を調査する目的があったからかもしれない。とすれば……」

 

 敵はこれまでの戦いで十分な情報を得て、それに合わせた対策を構築している最中と考えていいだろう。

 だとすれば――。

 

 「古代艦長代理に代わってもらえないか?」

 

 デスラーの要求に真田はすぐに応じて、艦長席に回線を繋ぐ。

 そして、回線の秘匿性を確かめた上で尋ねた。

 

 「古代艦長代理、ヤマトの到着予定はどうなっている?」

 

 「七色星団での損傷の応急修理の時間を考えると、本来の予定よりも数時間程遅れるかもしれません」

 

 進は淀みなく答えた。

 実際この後寄り道をしてからイスカンダル・ガミラスへのワープを行う事になっている。

 戦闘があると最初から想定していたので、当然そこでの修理や補給による時間的損失はスケジュールに含まれてはいるのだが、思った以上に損害が大きい。

 予定よりも時間を取られる可能性は十分にある。

 そこまではデスラーも想定内だったのだろう。小さく頷くと今度は別の事を問うてきた。

 

 「古代艦長代理。私は先程の説明を聞いて、サテライトキャノンは使用しても問題無いと解釈したが、サテライトキャノンのコンディションに問題は無いだろうか?」

 

 率直な問い掛けだった。現状、過剰なエネルギー反応を気にせず使える兵器としては最大の破壊力を誇るサテライトキャノンは、文字通り戦局を左右する一手になる。

 勿論ガミラスにもまだ切り札は残されている。残されているが、切れる手札は多い方が良いのは言うまでもない。

 だからこそ、救援に向かっているというヤマトの誇るサテライトキャノンの威力が――どうしても欲しい。

 

 「……現時点では問題無く発砲可能です。しかし、ご理解頂けていると思いますがサテライトキャノンは人型機動兵器の搭載火器です。艦載の波動砲に比べるとどうしても脆く、使用に伴う制約も大きい。エネルギー確保は何とかなりますが、使用前後に生じる無防備な瞬間を狙われてしまえば、発砲どころではありません――波動砲と全く同質の兵器と考えて頂く必要があります」

 

 進の率直な答えにデスラーは「わかった。そのように捉えておこう」と返事をする。

 なるほど、そういった制約があったからこれまでの戦闘でもその威力を前面に押し出してこなかったのか。

 冥王星や次元断層での解析データからすると、威力は波動砲には流石に及ばないが艦隊決戦兵器として通用する威力がある事は間違いない。

 ――つまり、波動エネルギーを直接転用していない、敵のエネルギーに対して過剰反応せずに済む兵器の中では事実上最強装備だ。

 もしも敵が切り札を――奇襲などしなくてもガミラスを叩き潰せる自信を持つ札を切ってきた時、これが通用するかしないかで戦局は大きく左右されるだろう。

 

 敵にまだ動きは無い。

 ヤマトの到着のタイミング次第で、戦局を大きく左右されるかもしれないと、デスラーは漠然と考えながら、情報交換を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 「ふむ……予想よりも手強いな。奇襲の成功程度で少々思い上がっていたか?」

 

 メルダーズは座席に深く身を沈めながら戦況モニターを見詰めていた。

 バラン星での戦闘記録と比較すると随分と練度も士気も高い。

 恐らく、ヤマトが敵ではなくなった事でこちらにだけ集中すれば良い事になり、当初の思惑に比べて心理的余裕が出ているのも影響しているだろうが、やはり本星を背にした戦いでは気合が入るものなのだろう。

 ――それはどこの国も同じだな、と述懐する。

 

 (それにしても、まさか連中が使う波動エネルギーと我が軍のエネルギーが過剰融合反応を起こすとは……流石に予想していなかった……)

 

 腕を組み、目を伏せて頭の中で考えを巡らせる。

 当初の予定ではバラン星の攻撃成功と同時にガミラス本星に奇襲を敢行するつもりだった。

 だが、あの戦場に現れた思わぬ乱入者――ヤマトの存在がその予定を狂わせる。

 メルダーズとしても、単艦でここまでガミラス相手に抗ったヤマトの事は高く評価せざるを得なかった。

 その要因となったであろうタキオン波動収束砲が、ここまで我が暗黒星団帝国にとって危険極まりない物であったとは、流石に予想の遥か上を行っていた。

 そのため、バラン星からの報告が上がった直後に予定を変更し、ガミラス艦底を撃破した時に炉心から漏洩する波動エネルギーによる影響の有無、ガミラスがタキオン波動収束砲を装備していないのかどうか等を改めて調査する必要性が生じてしまった。

 

 迂闊に奇襲を仕掛けて星の近くでこの現象を誘発してしまっては――得られるものが無くなり、損失だけが重なってしまう。

 おかげで予定されていた奇襲作戦は破綻し、“わざと警戒網に引っかかって”艦隊を宇宙に上げてもらい、実際に戦いながら情報を集めて対処していかなければならなくなった。

 

 この現象さえなければ、奇襲攻撃で抵抗力を根こそぎ奪い、最後はこの機動要塞ゴルバの威力を持って完全に鎮圧出来ていたのだが……これでは迂闊にゴルバを近づけるわけにはいかない。

 ――尤も、タキオン波動収束砲と言っても粒子ビーム砲の一種であるなら、最大出力で展開したゴルバの偏向フィールドで防ぐ事は不可能ではない。が、ミサイルの弾頭等に波動エネルギーを封入していないとも限らない。

 事実ヤマトはそのような兵器を使ったと報告を受けている。

 それにあの連射式は厄介だ。あの性能だと、最悪防御を力尽くで抜かれてしまう可能性が否定出来ない。

 

 「さて――どう攻めたものか……」

 

 今の所タキオン波動収束砲の装備が確認されているのはヤマトだけ。そのヤマトも七色星団でデーダーが迎え撃っているはずだが――未だに撃沈の報が無い事を考えると仕損じたが、相打ちのいずれかだろう。

 となれば、遅くとも明日にはか明後日には到着し、戦線に加わると見た方が良いだろう。

 また、この戦場で新たに確認された大型艦――恐らく敵艦隊の旗艦――の艦首にも、大口径エネルギー砲と推測される装備が確認されている。

 連中がブラックホール対策にタキオン波動収束砲に目を付けていたとするなら、ヤマトと共闘する以前から開発に着手していた事は確実。

 恐らくあの大砲が、ガミラス製のタキオン波動収束砲である事はまず間違いないだろう。

 

 ガミラスとヤマトがこの現象について知っているかどうかはわからない。

 が、もしもヤマトがデーダーを打ち破ったのなら、タキオン波動収束砲や波動エネルギー封入弾頭のミサイルを使用していたのなら、気付いているだろうし同盟関係に至ったガミラスにも知らせているはずだ。

 

 さて、どうしたものか。

 解析の結果、動力エネルギーにさえ直接触れさせなければ、劇的な反応を起こさない事がわかった。

 勿論装甲に直接触れるのも不味いが、脆くなるだけで済むなら安いものだ。

 飛躍的に難易度が上がったガミラス・イスカンダル攻略作戦ではあるが、だからと言って引くわけにはいかない。

 ガミラスとイスカンダルで得られる資源は暗黒星団帝国の未来を考えれば必要なものだ、みすみす諦めらめるわけにはいかない。ましてや本国は今も熾烈な戦いの最中であり、時間をかけて部隊を再編する余裕すらない。

 

 そして何より、波動エネルギーへの脆弱性を露呈したまま撤退してしまえば、ガミラスも――そして地球も波動エネルギーを転用した武装で身を固め、暗黒星団帝国の干渉を避けようとするだろう。

 

 ――ヤマトとガミラス旗艦にしかタキオン波動収束砲が搭載されていない今が絶好の機会なのだ。

 これを逃せば、現在の帝国の状況を考えるに二度目は無いと言い切って良いだろう。

 イスカンダリウムとガミラシウムを逃せば、今行っている宇宙戦争でも苦しい戦いを強いられる可能性は高い。

 ――メルダーズに失敗は許されていないのだ。

 

 彼は攻略計画を練り直しながら、遥か遠くの祖国に思いを馳せた。

 

 

 

 辛くも七色星団の死闘を制したヤマトではあったが、予期せぬ形で波動エネルギーと暗黒星団帝国の相性の悪さを知る事となった。

 

 波動砲という決定打を封じられたヤマトとデスラーは、果たして暗黒星団帝国の軍勢を退け、迫りくるカスケードブラックホールを葬り去る事が出来るのだろうか。

 

 ヤマトよ、地球とガミラスとイスカンダル。3つの星の命運は君の肩に掛かっているのだ!

 

 人類滅亡と言われるその日まで、

 

 あと、243日!

 

 

 

 第二十四話 完

 

 次回、新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

    第三章 自分らしくある為に!

 

    第二十五話 ヤマトの戦い! 機動要塞ゴルバの脅威!

 

    ヤマトよ、覚悟を示せ!


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