新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ(完結済み)   作:KITT

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第二十五話 ヤマトの戦い! 機動要塞ゴルバの脅威!

 

 

 

 デスラーとの通信を終えたヤマト・ガミラス艦隊は、装甲外板の応急修理を終えただけの状態でサンザー恒星系から約8光年ほど離れたライネック星系へとワープしていた。

 被害甚大ではあったが、1隻も脱落せずに困難を乗り越えられた事は大変喜ばしくある。が、同時にガミラスとイスカンダルが現在直面している危機を解決するためには、些か被害が大きいという認識があった。

 

 なので艦隊はバランを発つ際、戦闘があった場合の損害回復のための手段として事前に話を付けていた、ライネック星系にあるガミラスの自動兵器工場に向かっていた。

 なんでも大規模な太陽光発電を利用したスペースコロニークラスの規模がある大型施設で、旧式化している今でも活用されているらしい。

 ライネック星系はサンザー恒星系の隣にある恒星系の1つで、向かいにあるアルミナート星系と違ってコスモナイトを始めとする宇宙船の建造に適した鉱物資源が特に豊富と確認されている事から、その採掘と加工を効率的に行うために建造されたのだという。

 

 「この工場はつい最近まで、移民船団の用意の為にフル稼働していました。資材の殆どはそちらで使ってしまいましたが、まだいくらか残っています。ヤマトと戦闘空母を回復させるには十分なはずです」

 

 とドメルが断言した。

 移民船団の製造は既に一段していて、ヤマト・ガミラス艦隊が入港するのに不都合はないらしい。

 ここでガミラス本土防衛戦のための準備を整えなければならないが……許されている時間は短い。

 果たしてどの程度まで損害を回復出来るのだろうか。

 一抹の不安を抱えたまま、今ヤマト・ガミラス艦隊は自動兵器工場へと入港するのであった。

 

 

 

 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

 第三章 自分らしくある為に!

 

 第二十五話 ヤマトの戦い! 機動要塞ゴルバの脅威!

 

 

 

 メルダーズは考えていた。

 ガミラスとヤマト、双方を同時に相手取るのは出来れば避けたい。

 ヤマトは波動エネルギーを利用したミサイルを実用化していると報告がある。

 和解したらしいガミラスにそのデータが渡っているかどうかは定かではないが、データがあっても工業規格等の違いを考慮すれば、バラン星攻撃から僅か3日の現時点で用意出来ているとは考え難い。

 つまり、自動惑星ゴルバにとって最も警戒すべき存在はヤマトという事になる。

 波動エネルギーを転用したミサイルも脅威ではあるが、やはりタキオン波動収束砲も無視出来ない脅威となる。

 たしかにゴルバの偏向フィールドの出力と強度ならばタキオン波動収束砲とて受け流せる自信はある。

 だが、ヤマトの物は最大で5連射が確認されている。内1発はそれまでの倍の出力での砲撃だった。

 とすれば4連射した時と同出力で最大6連射。その6発分を1度に放出可能な可能性も示されたという事だ。

 ゴルバの偏向フィールドであっても、6発分のエネルギーを受け流せる確証は無い。特に連射は無視出来ない脅威だ。

 ゴルバとて弱点は存在する。そこを的確に突くのに――6連射は最適であろう。

 

 ――ヤマトとガミラスがエネルギーの過剰融合反応を認知しているのなら、使用を自粛する可能性は極めて高い。

 ゴルバほどの大物にタキオン波動収束砲を撃ち込んだとしたら、相当大規模なエネルギー融合反応を生み出し、星の1つや2つあっさりと吹き飛ばす大爆発を生み出すのは目に見えている。

 だが、万が一にも連中がこの反応について把握しておらず、最終手段としてタキオン波動収束砲を行使した場合――最悪の事態を引き起こすだろう。

 

 (帝国の未来の為にも、ガミラスとイスカンダルは無傷で手に入れなければならない――)

 

 帝国の支配者――聖総統の命令は絶対だ。メルダーズも国に、聖総統に忠誠を誓った身の上。その期待には応えねばならない。

 

 何か活用出来るものは無いかと、ガミラスとヤマトに関する資料を洗いざらい見直していると、ふと思いついた事がある。

 帝国としてはどちらに転んでも取り立てて支障なく、上手くいけばヤマトとガミラスの共闘を阻止する事が出来るアイデアだ。

 地球とガミラスの結束が予想を上回っていたら失敗するだろうが、何もせず手をこまねいているよりは遥かにマシだ。

 

 「メルダーズ司令。七色星団に配した偵察艦から、ヤマトとガミラス艦を確認したとの報告があります」

 

 「……わかった」

 

 念のため、デーダーが戦を仕掛けた場所から最も近い脱出地点付近に偵察艦を置いておいたのは正しかった。

 それにしてもデーダーを破るとは……侮りがたい艦だ。

 やはり、思いついたアイデアを試すべきだろう。

 そう考えたメルダーズは、早速行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 ヤマト・ガミラス艦隊は指定されたドックエリアにその身を滑り込ませ、ガントリーロックで艦体を固定して整備と補給作業を受けていた。

 事前に発注していたおかげで作業は円滑に進んでいる。

 ミサイルなどの消耗品は出し惜しみ出来ない為ほぼ使いつくしてしまっている。この消耗品の補給は最も重要だ。

 しかしヤマトの場合、ガミラスと工業規格が異なる為、自動兵器工場では対応出来ない。なので使い易いように加工された資材を受け取って艦内工場をフル稼働で対応する事になる。

 当然ガミラス艦に比べてコンディションの回復が遅れるので、回収したナデシコユニットを改造して補填する事になった。

 ドリルミサイルで貫通された大穴を塞いで、破損したフィールドジェネレーターの交換やミサイルの補填を行って次の戦いに備える。

 ユリカの発案でさらなる改修を行っているが、果たして極めて限られた時間しかないこの状況下で完成にこぎ着けられるかどうか……完成しなかったらユニットを置いてヤマトだけで行くしかないだろう。最悪後から輸送してもらうしかない。

 ヤマトの隣のドックに入渠した戦闘空母も、各部の応急修理が急ピッチで進められ、艦載機用の弾薬や消耗品の搬入も随時行われ機能を急速に回復させていく。

 

 そうやって物資の積み込みと修理作業も含めて、8時間ほどの滞在を予定していた。

 心休まる滞在時間とは言い難く、修理や搬入作業に携わらないクルーもそれぞれの部署の立て直し、そして何よりこれからの戦いに備えた作戦会議に余念が無かった。

 

 

 

 中央作戦室。

 そこで目を覚ましたユリカを交え、信濃から救出された後入院した大介とゴートを除いたメインスタッフによる作戦会議が行われていた。

 

 「――以上の解析結果から、暗黒星団帝国が実用化している動力エネルギーと波動エネルギーが起こす過剰反応は、使用した波動エネルギーの数十倍以上という凄まじいレベルであり、実際波動砲の1.25%の波動エネルギーを封入された波動エネルギー弾道弾4発で波動砲に匹敵するエネルギー反応を生み出しています。また、ボソンジャンプ戦法に同行したガミラス機とダブルエックスの観測データを入念に解析した結果、サテライトキャノンでも反応が確認され、約2割程の威力向上が見られています」

 

 真田は床の高精度スクリーンに映し出した解析データを指示棒で示しながら、言葉を続ける。

 ――七色星団での死闘を制した後、もはや先入観云々を考えて秘匿しているのは致命傷ではないかと考えたヤマト自身が開示した事で、かつてヤマトが戦った暗黒星団帝国の情報が得られている。

 ――とはいえ、ヤマトの判断は間違ってはいなかった。

 厳密にいえばそれはデータではなく“証言”であったからだ。

 何しろ具体的な数値などについては「わかりません」の一言で切って捨てられたので、言葉からくる印象だけで慎重になり過ぎて、却って戦局を悪化させていた可能性すら指摘されたほどだ。

 特にヤマトの声を聴く事が出来ないドメルにとっては、丁寧に説明した所で到底信じ難い出所不明の情報に成り易いため、ヤマトが下手に入れ知恵しなかったのは寧ろ正解であっただろう。

 今も、ヤマトの証言は無視して得られた情報のみで推論を重ねている。

 

 「……損傷の影響とは言え、モード・ゲキガンフレアを使えなかったのが幸運だったと言えますね。万が一突撃した瞬間にこんな反応を引き起こされては、下手をするとヤマトを守る波動エネルギーの膜が、そのままヤマトを破壊していたかもしれません」

 

 険しい表情でルリはあの時モード・ゲキガンフレアが使えなかったことを安堵し、真田も「幸運としか言いようが無かった」と肯定する。

 

 「……対して、同じ巨大空母に向かって使用されたロケットランチャーガンのタキオン粒子弾頭では、目立った反応が見られていません。勿論、封入されているタキオン粒子は微々たるものなので、反応を検出出来なかったとしても無理はありません。意識してデータを集めていたわけではありませんでしたし……」

 

 ユリカの車椅子係兼ダブルエックスパイロットとして会議に参加しているアキトは、

 

 「あくまで俺個人の体感ですけど、ガミラス艦に対して攻撃した時と違いは感じませんでした。タキオンバースト流まで加工しなければ、過剰反応せずに済むって可能性も否定出来ませんか?」

 

 と自分なりの意見を口にする。

 

 真田とイネスは「まだ断言は出来ないが、可能性はある」と回答した。

 

 「――とりあえず言える事は、サテライトキャノンと波動エネルギー由来の武器全般に反応するって事か――具体的な線引きがわからないと、これからの戦いがやり辛いな……安全を期すなら、タキオン粒子を転用した武装は極力封印した方が確実って考えた方が良いのか?」

 

 コスモタイガー隊隊長兼GXのパイロットとしてリョーコが問うと、

 

 「今の所はそう考えてもらって良いわ。あらゆる面で情報不足だから、断定出来ないのよ……」

 

 とはイネスの弁だ。

 確かに何でもかんでも波動エネルギーを転用した武装を採用したりはしていなかったし、タキオン粒子の転用も機動兵器用のロケットランチャーのみに留まっていた。

 ――この手の武装の代表であった波動カートリッジ弾は、主砲の改装で使えなくなったので、波動爆雷も設置場所を設けられなかった事もあってオミットされてしまっていたのが、幸運だったのか不幸だったのか。

 

 「情報収集を考えるのなら、ミサイルの弾頭にタキオン粒子を封入して実験するのが第一なのだが、これからの激戦の中で正確な情報を収集するのは難しいと言わざるを得ない」

 

 「それに、動力エネルギーだけに反応を示しているのか、それともそれ以外にも何かも反応を起こしているのかすら全く分かっていないしね――もしも仮に、彼らの宇宙船を構成する全ての要素が大なり小なり関わっているとするのなら、迂闊な行動は私たち自身の首を絞める事に繋がるわ。撃破した残骸を回収するなりして、然るべき場所で研究しない限り、迂闊な事は出来ないわよ」

 

 頭脳面ではヤマトトップ2の2人の意見が一致しているというのであれば、それがとりあえずの正解と考えても間違いは無いだろうと、全員が納得した。

 

 「――問題は、暗黒星団帝国がこの情報についてどの程度重きを置いているかだ。これから先、本星を襲撃している艦隊を退ける事が出来たとしても、自国の兵器に対して特別威力を発揮する兵器を保有しているガミラスと地球に対し、本格的な戦争を仕掛けてくる可能性は否定出来ない」

 

 ドメルの疑念は、この現象を発見した時から考えていた難題であった。

 

 「勿論デスラー総統の事だ。地球への賠償の一環として軍事同盟を締結する事は間違いないと私は考えている。そうなれば、ガミラスの艦隊を太陽系に駐屯させて防衛網を構築する事になるだろう。しかし――」

 

 ドメルが言葉を続けようとした矢先、第一艦橋でエリナに代わって通信席についていた交代要員から、ガミラスを介して暗黒星団帝国からのメッセージが届いたと報告が入った。

 ユリカも進も、すぐにメッセージを中央作戦室に送るように指示した。

 

 「地球の宇宙戦艦――ヤマトよ。私は暗黒星団帝国マゼラン方面軍司令長官、メルダーズだ」

 

 メルダーズと名乗る人物からのメッセージの出出しはこうだった。

 

 「まずは貴艦のこれまでの戦いぶり、お見事であったと称賛させてもらおう。しかし、これ以上我が軍の邪魔建てをすることは許さん――そこで提案させてもらう。ヤマトよ、大人しくガミラスとイスカンダルから手を引け、今後一切関わるな。貴艦らの目的がイスカンダルにある事はこちらも承知している。これ以上我々の邪魔をしないというのであれば、貴艦らのイスカンダルでの要件を果たす事は認めよう。また、我々がイスカンダルに求めているのはイスカンダリウムだけだ。唯一残されたスターシアを貴艦らがどうしようと、干渉するつもりは無い。無論、ヤマトからは一切の手を引き、地球を侵略の対象から外すよう私から上層部に掛け合う事も確約しよう。しかし、これ以上邪魔建てするというのであれば――」

 

 メルダーズはそこで言葉を1度区切ってから、力強く言い切った。

 

 「貴艦らをここで撃沈する。仮にこの戦いを制したとしても、地球に対して我が暗黒星団帝国が報復する事は、避けられないと知れ。貴艦らにとっては侵略行為にしか見えずとも、この戦いは我が帝国の未来を左右する重要な案件。それを阻むという事は、我が帝国に弓引くも同じ行為だ――その覚悟があるのなら、向かって来るが良い――賢明な判断を期待しているぞ、ヤマト」

 

 メッセージの内容は以上だった。

 その内容にドメルはしてやられたという顔になる。

 

 「――やられた……今までは相手から一方的に攻撃を受けていただけだった。それならば、自衛という形で交戦を正当化出来たが、こう言われてしまっては迂闊に戦えない――やはりバラン星の戦いでヤマトが助けに入った事から、ガミラスに恩を売って地球に対する侵略を止める様に訴えたと解釈したのだな……しかも、波動砲の威力を見た事でガミラスが直面しているカスケードブラックホール災害への対抗策に使えると見抜き、ヤマトとガミラスの間で交渉があったと推測されたか……賢い連中だ。こちらの事情をここまで見抜くとは……!」

 

 ……覚悟していた事だ。

 あくまで自衛と言い切れるような形だからこそ、ヤマトは暗黒星団帝国の軍勢に対して一切遠慮する事無く戦ってきた。

 だが、どのような形であれ“交渉”という手段を取られてしまっては、ヤマトの独断で戦う事は――出来ない。

 そんなことをすれば、地球に新しい脅威を自ら招いてしまう。

 

 「――中々痛い所を突かれましたね。ヤマトが単独で行動している以上、ガミラスとの交渉含めて地球政府の了承を得たわけではないと判断してもおかしくありません――ヤマトが引かなければ言葉通り地球を公然と攻め、ヤマトが地球大事に手を引いたとしても、ガミラスを手中に収めた後、結局説得出来なかった、とでも言えば大手を振って地球を攻撃出来る。所詮は現場責任者の口約束。幾らでも反故出来ますしね。どちらにせよ潜在的な脅威である地球も見過ごすつもりはないとしても、こういう手段を取られる中々身動きし辛いのが実情ね……」

 

 ユリカは顎に手を当てながら敵の目的を推測して口に出す。

 

 「それだけヤマトを――波動砲を恐れているということでもあります。連中がガミラスも同型のデスラー砲を開発に成功し、デウスーラに搭載している事まで掴んでいるかは定かではありません。が、もし察しているというのなら、ヤマトとデウスーラが同じ戦場に出現する事を快くは思わないでしょうね。連中にとっても猛毒となるのは、恐らくタキオン波動バースト流――波動砲の直撃に相違ないでしょうし……」

 

 進もまた、自身の推測を口にする。

 

 「バラン星での使用で、連射式であることも、普段は分割して発射しているエネルギーを1度に撃てることも、恐らく敵に知れているだろうことを考えれば、この上なくわかり易い脅威として認知されても、不思議は無いしな……」

 

 守も続く。

 

 「あの巨大戦艦のフィールドは、波動砲で突破可能だ。だが要塞クラスともなれば、波動砲の1発くらいなら退けられるだけのフィールドを有していてもさほど不思議はない。何しろ、空間磁力メッキという実例を俺達は知っているからな。波動砲とて、防御不可能な絶対兵器というわけではないのだが……」

 

 開発に携わった真田も苦々しい表情で語る。

 

 「――仮に波動砲を防げる防御フィールドを有していたとしても、その全容が知れないデウスーラに連射や特大の一撃が可能なヤマト。その2隻が揃ってしまえば、防御フィールドの性質や出力次第では力業で突破されてしまうかもしれない。そして、実体弾に波動エネルギーを封入する術をヤマトは持っている――なるほど確かに、1度には相手にしたくない戦力だね。単純な威力で考えてもそうなのに、猛毒ともなれば」

 

 ジュンも腕を組んで唸る。

 

 「地球がこの有様では、私達だけの判断では到底戦えません。今の地球に――侵略者を迎え撃つ余力なんてありません。時間断層の存在を加味した防衛艦隊の再整備計画だって、どう考えても数ヵ月以上かかります。ガミラスとの軍事同盟が実現するとしても、私達はデスラー総統を信じる事が出来ますが、地球政府がそうである保証はまったくありません。ガミラスに防衛力を全面的に依存しなければならない事を鑑みても、とてもヤマトの独断では――」

 

 ルリも顔を険しくする。

 正直“交渉”にすらなっていない、一方的な通達である事に違いは無くても、こういった言い方をされるだけでこうも容易く動きを封じされれてしまう。

 ――政治とは、本当に厄介な代物だった。

 

 「――これも、波動砲の呪いなのかもしれませんね」

 

 中央作戦室のコンソールパネルを操作しながらハリが零した言葉を、全員が神妙な顔で受け取る。

 

 波動砲の呪い。

 

 神にも悪魔にもなれると形容しても違和感を感じない、強大過ぎる波動砲の力。

 その力故に、意図せぬ災いを呼び寄せてしまう事があるという事を、かつて無い程に痛感する事になった瞬間だ。

 

 「地球が暗黒星団帝国と戦争をしない方針を取れば、ガミラスとは縁を切らなければならなくなる。でも、彼らが約束を当然の様に反故した場合、ガミラスの助力を得られない壊滅寸前の地球では――コスモリバースを積んで波動砲という最終兵器を失ったヤマトでは、到底勝ち目がありません。地球としても、叶うのであればガミラスの援助が欲しい。そうしないと、自力で身を守る術を得る事すら叶わない……仮にヤマトが助太刀せずにガミラスが彼らを退けたとしても、ガミラスと関わること自体が問題となってしまった今となっては……ガミラス、そしてイスカンダルと一蓮托生で共に立ち向かうか、それとも見捨てて彼らが約束を守る事を縮こまって願いながら地球の再興に尽力するか……艦長、僕は嫌です。理不尽な暴力に屈するのは」

 

 ハリはパネルに落としていた顔を上げて、ユリカに言い切った。

 その顔に影は無かった。毅然とした表情でもう1度言い切った。

 

 「僕は嫌です。理不尽な暴力に屈して、せっかく和解出来たガミラスを見捨てるなんてふざけた真似は。僕は――そんな事を――人間の風上にも置けない選択をするくらいなら、最後の最後まで悪足掻きする道を選びたい。この呪いに立ち向かいたいです!」

 

 意外な人物からの徹底抗戦宣言に、虚を突かれた空気が流れた……が、

 

 「――ハーリー君に後れを取るとはね……ユリカ、俺も同感だ。連中に大義名分を与える事になるのは癪だし、ここで戦えば地球はまた長きに渡る戦乱に晒される危険性も高い――でも、理不尽な暴力に屈して言いなりになるのはゴメンだ。俺は、最後の最後まで立ち向かう選択をしたい」

 

 アキトもしっかりと自分の意見を口にした。

 ここで屈するくらいなら、あの時――火星の後継者に囚われて滅茶苦茶にされた時に全てを投げ出している。

 連中からはあいつらと同じ――いや、曲がりなりにも平和を求めていたあいつらよりも醜悪な匂いがする。

 

 「アキト君……! そうね、そうよね。確かに、暴力を笠に着て他人を言いなりにしようとする連中なんて、気に入らないわよね」

 

 意外とエリナも乗り気だった。一歩間違えれば自分も辿っていたかもしれないIFの在り方に、思うところがあったのかもしれない。

 

 「私も、同じ気持ちです。連中の科学力がいかに優れていようと、それを血を流す事に使おうとする輩に屈するのは、主義に反します」

 

 「――僕も戦う道を選ぶ。勿論地球に連絡して判断を仰ぐ必要はある。筋は通さないといけないし、僕たちは所詮軍人だからね……けど、地球が渋るようだったら命令違反覚悟の上で戦う道を選ぶ。ヤマトだもの。きっとそういった前科もあるんだろ?」

 

 真田もジュンも、他の面々も口々に戦う道を選ぶと告げた。

 

 「艦長。艦長代理として、俺も戦うべきであると進言します。言いたい事はもう皆に言われていますが、まだ言われていない事がある――それは、俺達がヤマトの戦士であると言う事です」

 

 進は膝をつき、車椅子に座るユリカと視線を真っ直ぐ合わせて告げた。

 

 「“もう答えは決まっていると思います”が、俺達はそれを曲げるべきではないと考えます――それが、俺達に、ヤマトに込められた真の願いだと思います」

 

 ユリカは進の頭を両手で「ワシっ」と掴むと、倍力機構付きのインナースーツの助けも借りて抱き寄せて「進偉い! よく言った!」と頭をナデナデする最大級の愛情表現を披露。

 クルー一同、「またか」と呆れ、ドメル、ついっと視線を逸らして咳払い。

 雪、わかっていても嫉妬を隠せず頬を膨らませる。

 

 「それでこそヤマトの艦長代理よ! 確かに色々と大事になりそうだけど、それでも私達はぜぇったいに屈服なんてしない! 最後の最後まで悪足掻きしよう!」

 

 と騒いでいる所にデスラーから通信が入った。

 咄嗟に繋いでしまってエリナが「あっ」と口に手を当てて自らの失敗を悟るが、すでに時遅し。

 

 「ヤマトの諸君、そろそろ動揺も――」

 

 「収まったのではないか」と続くはずだった言葉は飲み込まれ、デスラーも1つ咳払いをして顔を背ける。

 

 「――これは失礼をした」

 

 こんな状況でも謝罪の言葉が先に出るあたり、彼は本当に紳士である。

 そんなデスラーの行いに流石に恥じらいが勝り、赤面したユリカと進が無駄に咳払いしたり身なりを正したりしてデスラーに向き直る。

 微妙な空気が流れていた。

 

 「いえいえいえいえ、こちらこそ申し訳ありませんでしたデスラー総統。どうぞ、お続けになって下さい」

 

 ユリカに促されて気勢を削がれたデスラーが改めて要件を告げる。

 

 「ヤマトの諸君、そろそろ連中からの通達のショックから立ち直っていると思って連絡させて頂いた。申し訳ない、敵が一枚上手だった……しかし安心して欲しい。ヤマトの手を借りずとも、必ずや暗黒星団帝国の魔の手を振り払い、地球に対して賠償をすると確約しよう。故に今しばらくの間、ヤマトはそこで身を隠していて欲しい……地球をこれ以上の苦境に追い込むわけにはいかない。それに、ヤマトはカスケードブラックホールを退ける最後の切り札。無用な傷を負い、万が一にも失敗してしまう事があれば、3つの星の明日に関わる一大事。どうか、この場においては――」

 

 ヤマトの立場を慮ったデスラーの言葉に胸が熱くなったが、ユリカはしっかりと自分の意見を告げた。

 

 「総統、お気持ちはとてもありがたいのですが、友の危機に立ち上がらぬわけにはいきません。それに、波動砲を警戒してヤマトに戦いを挑んだ前歴がある以上、脅しに屈してもいずれ地球は彼らの標的になる懸念を捨てられません……これは、どのような理由があれ、波動砲を使ってしまった私達の責任です……ガミラスだけに押し付けて良い戦いではありません」

 

 ユリカの強い口調に多少困惑しながらも、デスラーは「それでは君達の立場が――」と気にしてくれた。

 だからユリカは1つ、この状況においてしなければならない筋を通すため、デスラーの力を借りたいと申し出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ヤマトからガミラスの回線を使った超長距離通信で事の次第を告げられた地球連合政府は、またしても理不尽に襲い掛かってきた新たな困難に頭を抱えていた。

 

 「――以前の報告と合わせて聞く限り、少なくとも我々の視点から見ればヤマトの行動に非があるとは言い難い。ミスマル艦長も古代艦長代理も、良くやってくれた」

 

 連合政府の大統領が、疲れを滲ませた顔でとりあえずの労いの言葉を投げかける。

 しかし、その心中は複雑だ。

 ユリカが残したガミラスとの戦いを終わらせるプラン――彼なりに色々と、部下の意見も交えて検討した結果、悪いプランではないと考えていた。

 もしも本当にガミラスと和解して終われるのなら、仮に賠償が支払われないにしても、報復という最も恐れていた事態が回避出来る。

 賠償があるというのであれば、荒廃してしまった地球の再興は勿論、ヤマトとイスカンダルから得られた技術を活用した新しい防衛艦隊を構築して、地球の守りを万全にするまでの時間を短縮したり、穴だらけの防衛網をガミラスに肩代わりしてもらえる。

 外宇宙に関して無知な地球の政府の現状を考えれば、ガミラスと同盟を組めるというのは地球にとってはメリットしかない。

 ――被害者という立場故に生じる、感情論を除外すればの話だが。

 

 「波動砲――木星での運用データやカスケードブラックホール破壊作業については勿論……コスモリバースシステムの事を聞かされた時からとんでも無い代物だと嫌というほど思い知らされていたが……まさか新たな脅威すら呼び込んでしまうとは……スターシア陛下が提供を渋られるのもわかる。強大過ぎる力は、どれほど“正しい”形で使ったとしても、必ず災いの種になるのだと、改めて教えられた思いだよ……」

 

 「……大統領閣下。この度の戦争責任、全て我がガミラスにある。この危機を乗り越え、ヤマトによるカスケードブラックホール破壊作業が終了次第、コスモリバースシステムとなったヤマトを責任をもって地球に送り届ける事を、ガミラスの総統デスラーの名に懸けて誓う。そしてヤマトの帰還に大使を同行させ、その場で改めて地球と交渉の場を持ちたいと考えている。無論、最大限の便宜を図る事も約束しよう」

 

 大統領は、正直ガミラスがここまで下出に出てくるとは思ってもみなかった。

 これが演技なら大したものだと思うが、長らく政界に身を置いてきた彼は直感的に嘘は言っていないと判断する。

 とはいえ、無条件に信じる事も出来はしないが。

 

 「デスラー総統。この戦争が終わるのであれば、我ら地球一同、これ以上の喜びはありません。ましてやガミラスの手を借りられるというのであればなおの事――国民感情の手前、過去の怨恨を水に流そうとは安易に言えません。しかし、これ以上血を流すくらいなら、我々は手を取り合う道を選びたい……」

 

 正直な気持ちを吐露する。

 苦境に追い込まれるにつれ、ガミラスへの敵意と恨みは募っていったのは事実だが、同時に拭いようのない“疲れ”も蓄積されていった。

 それに彼は政治家だ。

 感情に身を任せて暴走するよりも、如何にして国益を得るかを優先しなければならない立場にある。

 

 「詳細はヤマトの帰還後に詰めるとしましても、ヤマトが――いえ、“地球が”この危機を乗り越えるのに力を貸すのであれば、ガミラスは地球にも手を差し伸べてくれますか?」

 

 「無論だ。ヤマトは恩人イスカンダルを救う事は勿論、敵国であった我がガミラスも救うと断言している。私は――我が大ガミラス帝国は、受けた恩を仇で返すような真似は決してしない。その恩に報いるまでは、決して」

 

 大統領の問いに即答しながらも、釘を刺す事は忘れない。

 デスラーにとって真に恩人たり得るのはヤマトであり、未だ全貌を把握していない地球政府では断じてない。

 もしも調子に乗ってガミラスに必要以上の無理強いを強いたり、戦いに勝ったつもりで支配者を気取るのであれば――その時は、手を切るだけだ。

 勿論、ヤマトへの恩を果たしきった後で、だが。

 

 「……では、その言葉を信じる事にしましょう」

 

 大統領はデスラーの意図を理解した上でそう返答すると、この通信に同席している統合軍司令と宇宙軍司令のコウイチロウを始めとする軍・政府高官達と視線で話し合い、決断した。

 

 「ミスマル艦長、古代艦長代理」

 

 「はい」

 

 大統領の呼びかけに背筋を伸ばして応えるユリカと進。

 2人に対して、大統領は厳かに命じた。

 

 「地球連合政府大統領として命じる。ガミラスと協力して暗黒星団帝国の軍勢を退けるのだ。ここで要求に従ったとしても、地球の安全を確保出来る保証はない。また、一方的な要求に屈するようでは、今後の地球の外交にも大きな影響を残す事になるだろう――我らは決して理不尽な暴力に屈しないという事を、我らが希望――宇宙戦艦ヤマトの力を持って示すのだ!」

 

 「――了解しました! 宇宙戦艦ヤマト、ガミラスと協力して暗黒星団帝国の軍勢を退け、カスケードブラックホール破壊作業を完遂した後、コスモリバースシステムを受領して、地球に帰還します!」

 

 敬礼するユリカと進に答礼。

 通信を終了した後、その場から誰も立ち去らず静かに言葉を交わし合った。

 

 「これで良かったのでしょうか? ガミラスもどこまで信用出来る事か……」

 

 「確かに。コスモリバースシステムを起動した後では肝心のヤマトも……」

 

 多くの者が、口々に不安の声を訴える。

 当然だろう。あまりにも――あまりにも背負うべきモノが大き過ぎる。

 地球はかつて無い程に大きなモノを背負わされようとしているのだ。

 

 「――しかし、背負っていくしかないでしょう」

 

 コウイチロウが静かに口を開いた。今の今まで、最低限の事務的な発言してこなかった彼が、言葉を発した。

 

 「例え暗黒星団帝国が出現せずとも、ヤマトがその危機を切り抜けるために波動砲の使用を決断せざるを得ないというのであれば、遠からず問題になっていたかもしれない事です」

 

 今更言われずとも、ヤマトが太陽系を出てこちらの管理下を外れた時に明かされた情報から推測されていた事態だ。

 もしも出向前からあの情報を共有したいたのなら――地球はどのような判断を下したのだろうか。

 

 実際問題、ガミラス戦役が開始してからはガミラスへの対抗は勿論、腐敗した組織の自浄も大きな課題として立ちはだかっていた。

 止むを得ず追放したり最悪の手段を取ったケースもありはしたが、幸運な事に人種も何も関係ないこの一大事に直面し心入れ替えた(というかそうでもしないと自分も終わると理解した)人物が一定数居た事が追い風となり、宇宙軍と統合軍の対立も自然解消されて何とか団結する事が出来た事が、地球がギリギリの所で踏ん張れた要因であった。

 

 「それにヤマトのデータベースによれば、“地球は数度に渡って地球外文明から侵略戦争を仕掛けられている”事が伺えます……データの破損により詳細な情報こそわかりませんが、我々が将来的に同じような戦乱の歴史を歩まないという保証はありません。確かにガミラスは加害者であり、私とて無条件に信じられると言えば嘘になる。しかし、もし本当に手を取り合っていけるのであれば、それは今後地球が遭遇するかもしれない戦乱において、心強い味方となってくれる事は疑いようが無いでしょう」

 

 「……」

 

 結局のところ、今回のヤマトの決断を容認した最大の理由がそれだった。

 ヤマトが抱えていたデータには、詳細が不明になっているとはいえ複数の国家により僅か4年の間に5度もの侵略行為や、戦争の余波による重大な被害を被っていた事が記されている。

 

 「確かに――ガミラスの方が話し合ってくれる気になってくれただけ、遥かにマシですな。ここは1つ、ヤマトの“証言”というものを信じてみるとしますか――戦艦の証言というのがイマイチ……いや、平時であればまず間違いなく信用を置けない事柄なのですがね」

 

 この会談に参加していた将官の1人が苦笑交じりに言うと、皆も覚悟を決めた。

 その証言とは、ヤマトに宿る意思の言葉をユリカが文章という形で書き出して今回の通信にちょっとした暗号文として送り付けたものだ。

 

 ヤマトが最初に戦った相手がガミラス帝国であった事。

 

 死闘の末にガミラスを滅ぼして地球を救った事。

 

 その後現れた侵略者に与してヤマトへの復讐を果たさんと挑んできたが……ヤマトと自分が同じ目的をもって戦っていた事から来る共感と敬意によって奇妙な友情を結び、敵対関係を解消した事。

 

 その後彼の与り知らぬところで再建されたガミラスの軍勢と矛を交えた事はあっても、彼が事実を知って以降はヤマトに対しては勿論、地球に対して友好的で、ヤマトや地球に対して援助を惜しまなかった事。

 

 そして何よりも、不運な事故で自国が壊滅してしまったにも拘らず、ヤマト最後の任務を邪魔せんと立ちはだかった敵艦隊を急襲してヤマトの危機を救い、アクエリアスがもたらす水害から地球を救う手助けをしてくれたという内容であった。

 

 

 

 

 

 

 地球との通信で後腐れなくガミラスとの共同戦線を取れるようになったヤマトではあるが、だからと言ってすぐにガミラスとイスカンダル近海にワープするという事は無かった。

 デスラーもドメルもユリカも進も、「ヤマトが屈した見せかけた方が隙を見せるかもしれない」と考えたからだ。

 なので、ユリカはデスラーに向かって「ガミラスではすぐに用意するのが難しい秘密兵器を、万全の状態で投入してみせます!」と大見えを切ってデスラーを驚かせながら、戦況を見守りつつヤマトと同行する戦闘空母と第一空母の修理と補給作業を続ける事になる。

 

 

 

 ガミラスを介したヤマトへの恫喝から3時間程が過ぎた頃になって、とうとう暗黒星団帝国の第二陣が出現――ガミラスの本土防衛艦隊と向き合う形となったのだが――。

 

 「デスラー総統! 敵艦隊の背後に巨大な機動要塞と目される物体を捕捉しました!」

 

 「――メインパネルに出せ」

 

 オペレーターの報告にデスラーは落ち着ていて対応する。

 指示を受けたオペレーターが艦橋前面にある六角形状のメインパネルに情報を表示する。

 

 「光学モニターの最大望遠の映像です」

 

 メインパネルに映し出されたその物体は、敵艦隊の最奥に鎮座していた。

 形状は円筒に近い楕円球状の胴体の上に、球上の“頭部(ご丁寧に角の様な装飾まである)”がくっ付いた、ガミラスと同じく何処か有機的な意匠の垣間見える、黒に近い濃緑色の要塞だった。

 

 「大きさは縦の長さが推定3000m、横幅が1800m。外見からは装備の全容は見えませんが、胴体部分には確認出来るだけで4つの巨大なハッチが存在しており、発進口または兵装の類ではないかと推測されます。また、周囲を偏向フィールドで覆っている事が確認されます。現時点では、偏向フィールドの強度は不明です」

 

 「予想はしていたが、まさかこのような要塞を動員してくるとは……敵ながら大したものだ」

 

 賞賛を口にしながらもデスラーの顔色は険しい。

 ――あの要塞以外にも、少数その存在を確認している巨大戦艦……ヤマトの重力衝撃波砲すら受け付けぬ防御力を持った艦艇の存在を知らされた時から、波動砲すらも無力化してしまう防御力を持った要塞の存在が危惧されてきた。

 まだ戦闘状態では無い為、解析を試みたところでその最大強度を推し量る事は難しいが、デスラー砲も通用しない可能性を考慮しておく必要がある。

 ――その場合、どのような手段でその防御を突破するかを考えださなければならないが……。

 

 「……新反射衛星砲の準備はどうなっている?」

 

 デスラーは敵艦隊に対する切り札として用意しておいた、反射衛星砲の稼働状況を尋ねる。

 惑星防衛用の新兵器として冥王星基地にテスト配備されていた反射衛星砲ではあるが、対ヤマト戦においてその問題点を改めて露呈する結果となった。

 隠蔽を考えて海中に沈めたまでは良かった。威力の減衰は想定内であったし、あのヤマト相手にあれほどの威力を発揮出来たのだから、今後も採用する価値のある隠し場所だろう。

 問題は、反射衛星の存在を知られると思いの他脆いという点だ。

 反射衛星砲は多数の反射衛星を中継することで、目標までの射線を確保する事で砲の死角を無くした兵器だが、砲撃の屈曲に欠かせない反射衛星を任意で移動させる事が出来ず、発見された後はその動作で砲撃のタイミングと射角を知られてしまう事が露呈した。

 開発段階でその可能性は予期されていた。だがヤマトとの戦いで戦闘が長期化すればする程にその弱点が重く圧し掛かってくる事が露呈し、かつ反射衛星自体の生存性を疑問視する事が上がった事から、許される範囲での改修作業が行われる事となった。

 

 というのも、元々反射衛星砲を冥王星で運用した事自体が“地球移住後の防衛網の整備の為”であり、中継地点のバラン星は勿論、手中に収めた後の太陽系の各惑星に設置して、国家の地盤が確たるものになるまで防衛装備として考案されたものだ。

 そういった開発経緯もあり、反射衛星砲は冥王星に配備された物以外にも8基程生産されていて、反射衛星自体も相応の数が用意されていた。

 そして、ヤマト戦の経験を踏まえて色々と改良を加えて現在に至っている。デスラーはそれを使おうとしている。

 ……しかし本来反射衛星砲は、反射衛星によって生み出されたテリトリーの内側に標的を閉じ込めた状態でこそ、最大の威力を発揮するタイプの兵器。当然ではあるが、砲の有効射程の短さも合わせると、テリトリーの構築も出来ない開けた空間ではその威力を発揮出来ない。また、宇宙空間における艦隊戦にも本来不向きな装備だ。

 ……従来品を使う分には。

 

 「はっ。反射衛星砲搭載艦は全艦出撃を完了しております。改良型反射衛星も所定の位置に移動完了しました」

 

 そう、反射衛星砲の改良とは艦載化による砲自体の運用性向上と、反射衛星に機動力を追加の2つである。

 艦載による出力低下を避ける為、機関出力がデウスーラを除けばガミラス最高のドメラーズ級戦艦に増幅装置と合わせて搭載し、それが計8隻。

 反射衛星は、ヤマトがカイパーベルト以降度々見せていたアステロイド・リング戦法を急襲する形で移動能力を得た。

 次いで、ヤマトが次元断層で見せつけた反射機能の転用によるカウンター戦術も模倣出来るよう、様々な手を加えられている。

 

 ――伊達に最強の敵と見込んだヤマトの研究を重ねてきたわけではない。

 

 ヤマトがガミラスの技術や戦術を取り込んで自身を強化したように、こちらもまたヤマトの戦術と発想を取り込んで強化を果たしていたのだ。

 流石に衛星の制御プログラムに関して言えば、ヤマトのアステロイド・リング戦法に劣っていたのが実情であった。

 ……が、先程の通信の際こちらの防衛戦略をヤマトにしか通用しないであろう、過去の戦いを隠語として使って話したところ、チーフオペレーターと名乗ったホシノ・ルリから、

 

 「……30分頂けませんか? 冥王星での戦いは私達にとっても刺激的だったので、“独自に手を加えた逸品”があります。時間を頂ければ、ガミラスの防衛戦略を強化してご覧に見せます」

 

 と自信に満ち溢れた不敵な面構えと共に宣言され、きっかり30分後にはそのままインストールして使える“ガミラスのコンピューター言語で構築された制御プログラム”が暗号データで届けられてしまった。

 冥王星に配備していた反射衛星砲の制御プログラムを完全に解析してしまったばかりか、独自に発展させてしまうとは誠に恐れ入った。

 

 ――デスラーはその瞬間に確信を持った。

 彼女はヤマト登場以前からガミラスに対して幾度も電子戦で食らいついてきた三叉の艦首を持つ白亜の戦艦――そのチーフオペレーターその人だったのだろう、と。

 そしてヤマト乗艦以降もガミラスの技術――それもコンピューター関連を必死になって解析して、万が一ガミラス本星での決戦が余儀なくされた場合、その努力の成果をもってガミラスを無力化する事すら視野に入れていたのだ。

 ――恐らくヤマトが今まであのクラッキング戦法を披露して来なかったのは、この事実を隠蔽するため。

 その隠蔽に一役買っていたのが――トランジッション波動砲だ。

 

 改めて、ヤマトの強かさを痛感させられた瞬間であった。

 本当に、和解出来て良かったと心底思う。

 

 仮にクラッキングによる無力化とトランジッション波動砲の連携攻撃を凌げたとしても、ガミラスが被る被害は当初の想定を遥かに上回っていたであろう事は、疑いようが無くなったからである。

 

 「よし。前衛艦隊が交戦を開始すると同時に、新反射衛星砲も砲撃開始せよ」

 

 「はっ!」

 

 デスラーの命に従って、“艦隊最後尾に位置する”ドメラーズ級がエネルギーチャージを始める。

 

 しばらくはそのままの状態で睨み合う形になったが、やがて前衛艦隊同士が交戦距離に突入し砲火を交え始めた。

 波動エネルギーの過剰反応に対する何らかの回答を得られたのだろう、敵艦隊は積極的に前進、グラビティブラストによる干渉による打撃力の低下を補おうとしている。

 打撃力が増すのはこちらも同じと言えば同じなのだが、偏向フィールドの類を再調整したのか、先程までに比べると攻撃の通りが悪い。

 

 この短時間で対応するとは……やはり暗黒星団帝国の技術力は侮れるものではないか……。

 

 「新反射衛星砲、砲撃開始! 反射衛星のカウンタープログラムも起動しろ!」

 

 デスラーの命令はすぐに部隊全てに伝達され、猛反撃を開始する。

 

 後方に控えていた反射衛星砲搭載ドメラーズ級は、その大出力を活かして冥王星基地の砲よりも早い間隔で強力なエネルギービームを放射する。

 そのエネルギービームは艦隊の外側――一見明後日の方向に向けて撃ったとしか思えない軌道で飛び去った、と見せかけて艦隊の外周や内側に配備された反射衛星が数度に渡って屈曲、標的となった敵艦に突き刺さっていく。

 ヤマトのディストーションフィールドと装甲の組み合わせをほぼ一撃で撃ち抜いた砲撃。それ以下の防御力しか持たない艦艇が耐えられるはずもない。あっさりと射抜かれて宇宙の塵と消える。

 艦隊運動と密に連携を取った反射衛星のコントロールは見事の一言に尽きる。

 不意な回避行動の余裕を持たせた砲撃コントロールではあるが、反射されるエネルギービームの軌道は艦隊の影を上手く利用して絶妙に隠され、敵の回避行動の遅れを招く。

 後方の搭載艦に攻撃を届かせるためには艦隊を突破しなければならないので、そう簡単には砲撃を止める事も出来ない。

 また、艦隊の内側入り込んだ反射衛星のもう1つの役割はカウンター戦法。

 ヤマトが次元断層内の戦闘で駆使し、包囲網の半分を無傷かつ最小限の消耗で突破する要因となった、敵の攻撃を反射して攻撃に転ずるあの戦法の再現。

 距離を詰めれば確かに反射衛星砲による直接攻撃には晒されないし、反射衛星も前衛艦隊の内側にまでは配備されていないが、このような大規模戦闘ともなれば付き物なのが“流れ弾”だ。

 反射衛星はその流れ弾に反応して巧みな制御で撃ち返し、敵艦に損害を与えていく。

 予期せぬ方向からの攻撃というのは心理的に重く圧し掛かるものなので、暗黒星団帝国の艦隊はその正体を見破る事が出来ても、簡単に対処する事が出来ず攻めあぐねていた。

 

 戦線は再び膠着状態に突入し、敵が繰り出してきた航空戦力とガミラスの航空戦力が入り乱れる大空中戦も勃発。

 ガミラス・イスカンダル星域は近代では恐らく最も激しいだろう戦いの喧騒を響かせていた。

 

 

 

 

 

 その頃ヤマトと戦闘空母と第一空母は、予定よりも6時間以上滞在を延長して、ようやく予定していた整備作業を終えて自動兵器工場を発進した。

 

 「ふむふむ。ガミラス艦隊と暗黒星団帝国艦隊はそこまで派手に混戦してないみたいだね。航空戦力は……入り乱れても無理ないか。でも、そっちはガンダムを投入すれば支援出来そうだね」

 

 決戦だから、という理由で雪を介助に引き連れて艦長席に復帰したユリカは、マスターパネルに移された戦況を一瞥しながら頷く。

 

 「ええ、この様子なら想定通りの打撃を与えられそうですね。問題は、急増品故予定通りの効果を発揮出来るかどうか……か」

 

 ユリカの艦長復帰に伴い戦闘指揮席に追いやられた進が、“新装備”のステータスモニターを何度もチェックしながら不安を口にする。

 

 「心配するな進。真田が手掛けたんだ、予定通り1発だけなら問題無く機能するに決まっているさ」

 

 ゴートに代わって砲術補佐席に着いた守は、年長者として進に声をかける。

 その言葉には親友の技術に対する絶対的な信頼が含まれていた。

 ――しかし、“新装備”の制作に協力したはずのウリバタケの存在は奇麗さっぱり抜け落ちていた。だが、その事を指摘する人物は……残念ながら第一艦橋には居なかった。

 

 「ワープ準備、全て完了! 15分後に暗黒星団帝国艦隊左側面、3500㎞の地点にワープアウト予定!」

 

 やはり大介の代わりに操舵席に着いたハリが粛々とワープ準備を進める。

 最初は体格や体力的な問題も加味して進が操舵席に着く事も検討されたのだが……。

 

 「僕にやらせて下さい。島さんの代わりはきちんと務めて見せます」

 

 と強く訴えたので、七色星団から引き続きハリが操舵を担当する事となった。

 ガミラスとの戦いが始まって1年と3ヵ月……苦難の繰り返しの中で、少年は一人前に向かって成長を続けていた事を改めて示して見せる。

 ――その後ろでハリの成長を喜んで熱い視線を送っているルリについては――馬に蹴られたくないと誰も触れなかったという。

 

 

 

 それから15分後、ヤマトは戦闘空母と第一空母の2隻とは1度離れ、単独でサンザー恒星系に向けてのワープを実行した。

 ワープに必要な座標データは提供されているし、何より8光年程度の距離なら曳航の必要はない。

 勿論、ワープ直後に波動砲でも使うというのなら節約のために曳航してもらうところなのだが、今回の戦いで波動砲は使うに使えないのであまり問題にはならない。

 それに、使用する必殺兵器を搭載しているのは独立した動力を搭載したナデシコユニットなのだから、ヤマトの消耗はほとんど関係ないのだ。

 青白い閃光と共に、ヤマトは暗黒星団帝国艦隊の左側面3500㎞という至近距離に出現した。

 惑星上での戦闘ならいざ知らず、宇宙空間での戦い――それも恒星間航行を容易く実現する艦艇での戦闘では、至近距離と言って差し支えない距離。

 ヤマトがそんな至近距離に出現すると同時に、ガミラスの前衛艦隊は追撃を避ける為の牽制射撃を行いながらも全速力で後方へと下がっていく。

 その動きに不穏なものを感じた暗黒星団帝国であったが、突如として出現したヤマトにも警戒を払わなければならず、追撃が一歩遅れる。

 

 ……それが致命傷だった。

 

 「……さあ、ナデシコの遺産の出番よ!」

 

 ユリカの指示でナデシコユニットの先端が外側に移動するように開き、中から急造の発射装置が顔を覗かせる。

 急増故この1発限りで壊れてしまう切り札。それで眼前の大艦隊に致命打を与えなければ、この戦いを早期に終わらせる事は出来ない。

 

 「エネルギー充填120%。目標空間座標、固定完了。影響圏内に友軍の姿はありません」

 

 制御を担当するルリの報告に、ユリカはすぐに命じた。ここで仕損じるわけにはいかない!

 

 「相転移砲! てえぇぇぇーーっ!!」

 

 ユリカの命令に従って、進が発射装置の引き金を引く。

 ナデシコユニットの先端から放たれたエネルギービームが、暗黒星団帝国の艦隊中央に向かって並んでに飛び込んでいき、目標空間にて交差。

 その瞬間、急激にホログラムシールの様な輝きを持った空間が連鎖的に広がり、暗黒星団帝国の艦隊を文字通り“消滅”に導いていく。

 

 そう、これこそがガミラスとの戦いにおいて地球をギリギリの所で踏み止まらせる事に成功した禁忌の力にして、ナデシコから受け継がれた最後の遺産――相転移砲の威力だった。

 

 

 

 その光景を見てデスラーは勿論、ガミラスの戦士は皆唸った。

 

 「最初に聞かされた時は本当に驚いたが、確かに決まればその威力は波動砲にも引けを取らない決戦兵器。本当に盲点だったよ……」

 

 デスラーはヤマトが取った戦術に素直に感心する。

 

 相転移砲。

 

 それは相転移エンジン内部で起こっている相転移現象を意図的に外部で引き起こす、相転移エンジンの攻勢利用手段の1つだ。

 元来相転移エンジンとは、インフレーション理論をベースに考案された“真空をより低位な真空に相転移して差分となるエネルギーを取り出す半永久機関”である。

 本来は炉心内部で安全に制御された状態で相転移現象を起こし、生み出されたエネルギーを活用する事で、自然界に存在している最上位のエネルギー反応――核融合反応をも上回る大出力を得る事に成功した機関だ。

 相転移砲とは、それを外部で引き起こす事で攻撃に転ずる、というシンプルな発想によって実用化されたものだ。

 

 しかし、その現象は当然ながら自然界には存在しない。人為的に起こす必要がある現象であるため要件は案外難しく、隙が大きい。

 確かに起爆さえしてしまえば、瞬間物質移送器やボソンジャンプを利用した転送戦術同様、“指定された空間内部に無差別に超高エネルギーが出現する攻撃”になるため、空間転移そのものを防げる次元間障壁を張るか、ボソンジャンプなりワープなりで範囲外に即座に逃げ出しでもしない限りは、三次元空間に存在する如何なる障壁を(ディストーションフィールドをも)無視して対象を消滅に導く。

 勿論、物理的な障壁である装甲など欠片も役に立たず、そもそも耐えられる物質はこの宇宙に存在しないだろう。

 

 一見すれば、波動砲にも匹敵する強力な武装であるのだが――致命的な弱点として、発射から起爆までの間に無視出来ないタイムラグが存在する、起爆させるための手順が複雑で妨害しやすいというものがある。

 特にエネルギーを投射して目標ポイントで起爆させる瞬間が最も妨害しやすい。

 

 これは、照準された空間にエネルギーを集約(地球側の装置の場合はエネルギービームの交差)出来なければ起爆自体出来ないという、原理上の弱点のせいだ。

 この性質を理解していれば、投射されたエネルギーが起爆地点に到着する前にかき消す、もしくは着弾地点でエネルギーの集約を不完全にすれば良い、という妨害策があっさりと思いついてしまう。

 勿論実行するには相応の技術力が必要になるが。

 実際ガミラスでは、各艦艇に標準装備されているワープシステムの一部である空間歪曲装置を使用して、相転移砲の起爆地点の空間を歪曲する事でエネルギーの集約を乱し起爆を防いでいた。

 

 ――そう、恒星間航行を行える艦艇なら原理は多少違えど備えているワープシステム――これが最大の弱点となっているのだ。

 これは、かつてナデシコが相転移砲で火星極冠遺跡を吹き飛ばそうとしたが、遺跡によって相転移砲をキャンセルされた現象と全く同じである(この時は遺跡の防衛機構がボソンジャンプを使ってエネルギーを散らした)。

 

 そもそも相転移砲の様な大量破壊兵器は、使う場合最大の効果が得られるように使うのが常であるので、その狙いを予測する事自体は容易い。

 何より構造的にほぼ艦首方向にしか撃てないのだから、搭載艦艇さえ見抜けていれば対応する事はそれほど難しい事ではない。

 また、相転移砲も波動砲同様、起動時にはエネルギー反応が急激に上昇する性質がある為、よほど慢心して見落としをしなければやはり発射の兆候は発見しやすい。

 

 ――兆候が確認されたら、下手に動かず空間歪曲システムで起爆用のエネルギービームを屈曲させて起爆を阻止してしまえば良いだけだ。

 

 デスラーが、ガミラスが相転移砲を波動砲に比べて軽んじていたのは、一度存在が露見してしまえば簡単に対処出来るほど脆い存在という認識があったからだ。

 確かに空間歪曲装置は常時稼働出来ないため、確実に起爆を阻止出来るわけではないが、どの艦艇にも標準装備されているシステムであり、1隻でも十分に阻止出来た。

 

 また、もう1つの弱点である“有効射程の短さ”がさらに扱いを軽んじさせた。

 地球で使用された相転移砲は、発掘したエンジンをそのまま利用した未成熟なシステムであった事に由来している部分があったにせよ、最大射程はガミラスのデストロイヤー艦が搭載するグラビティブラストと同程度だった。

 恐らく座標固定や起爆用のエネルギービームの制御等に起因する欠点であったのだろうが、射程距離に差が無いという事は、発射の兆候が見られた艦艇に直接砲撃して妨害すれば良いという単純明快にして確実な妨害手段が取れるという事でもある。

 

 対して波動砲は、準備に多少の時間が掛かる、全エネルギーを使用するため発射後の回復に時間が掛かる、艦首方向にしか発砲出来ないという点から接近戦に弱いという弱点があるが、放出されるエネルギーの桁が相転移砲の比ではなく、射程も長大だ。

 

 確かに転移系攻撃では無い為、十分に強固なバリアの類があれば逸らす事は理論上可能だ。

 粒子ビーム兵器の一種であるため、空間歪曲作用さえ気を付ける事が出来れば反射によって無力化する事も出来る。

 そういう意味では相転移砲に見劣りするのだが、何しろ出力が桁違いなのでどちらもそう簡単に用意出来るものではない。

 実質、波動砲を防げるのは波動砲搭載艦艇よりも機関出力と防御フィールド出力で勝る存在のみという事になる。

 なので、波動砲は搭載艦の規模が大きくなればなるほど、機関出力が大きくなればなるほどにに威力を増し、対処が難しくなるのだ。

 

 さらに、射程距離は惑星間弾道ミサイルの類を除いては最長であり、発射に掛かる準備時間は相転移砲と大差無いか、むしろ座標固定の演算処理に時間が掛かり、それが定まらなければ発射すら出来ない相転移砲よりも即応性は遥かに勝っている。

 また、タキオン波動バースト流の速さと射程を活かせれば、相手の探知圏外からのアウトレンジ戦法すら容易に実行出来るだけのポテンシャルもある。

 

 そういった点を考慮すると、“わかってさえいれば簡単に潰せる相転移砲”よりも、“わかっていてもシンプルに強い分防ぎ難い波動砲”の方が脅威と判断されたのも当然の流れと言えよう。

 

 勿論そんな兵器であるから、ガミラスではその存在を確認していても自分達が使おうと考える技術者も将官も存在しなかった。

 通用するのはその敵と遭遇した最初の1発だけ。

 戦争そのものの行方を左右するとは言い難い脆弱さを持つ決戦兵器。

 そして優れた科学力を誇示する一方で、時代遅れとされたモノへの関心が薄いガミラス特有の思考。

 それらが重なったからこそ、ガミラスは相転移砲を使う事が一切無く敵に情報の一切を与えなかった。

 だからこそ、この状況下で“必殺”の威力を見せつける事が出来たのである。

 

 「対処法の確立した旧世代の兵器であっても、使い方次第では必殺の威力を発揮出来る――ふふふ、また学ばせてもらったよ、ミスマル艦長」

 

 デスラーは状況が状況なら拍手をもってユリカ達を賞賛したいとさえ思ったが、流石にまだそれが許されるほどではない。

 ――後方に控えているあの巨大要塞は相転移砲の範囲外にあったため被害を受けていない。

 ユリカは巨大要塞よりも、単純故に驚異になる“数の暴力”を取り除くことを優先したのだ。

 

 そして相転移砲で戦局をひっくり返したヤマトの次の行動とは……。

 

 

 

 「ナデシコユニットの全ミサイル一斉発射! 撃ち漏らした敵を1隻でも多く沈めるよ!!」

 

 大量殺戮の罪悪感に浸る余裕も無く、ユリカは罪悪感を引き剥がすように吠えた!

 あまり無理するな。出来るだけ大人しくしていろとイネスから念を押されてはいたが、自身が招いた惨状を直視しなければならないこの瞬間だけは――見逃してほしい。

 

 ユリカと同じような考えを抱いた第一艦橋の面々は、余計な口を挟む事なく彼女の指揮に従う。

 

 「了解! ヤマト、全速前進!」

 

 ヤマトのメインノズルとサブノズルが煌々と炎を吐き出し、ヤマトは加速を開始する。

 大量のミサイルを吐き出すナデシコユニットの推進装置は沈黙したままだ。相転移砲の発射に全てのエネルギーを使い切ってしまっている。

 それだけに、ユリカ達も見た事が無い規模の巨大な相転移空間を出現させ、推定1200隻にも及ぶ敵艦を一気に消滅せしめる威力を見せつけた。

 ――恐らく2度と通用しないだろうと思うと、これが相転移砲の最後の雄姿なのかもしれない。

 と、まるで現実逃避するかのような考えが頭を過る。

 ともかく、ヤマトはナデシコユニットから吐き出す大量のミサイルと艦首側の砲から次々と砲火を吐き出しながら加速、ナデシコユニットは急遽追加した排出弁を開いて残存していた波動エネルギーやタキオン粒子を宇宙空間に放出、中身を空にする。

 

 「ユニットパージ! 同時に機関逆転急制動! 直後に取り舵90度! ガミラス艦隊に向かって全速!」

 

 「了解! ナデシコユニット分離!」

 

 真田は艦内管理席からの制御でナデシコユニットをヤマトから切り離す。

 直後にヤマトは艦首側の姿勢制御スラスターと波動砲口からの全力噴射で急減速、ナデシコユニットだけがそれまでの勢いのままに敵艦に向かって突撃していく事になる。

 まさか艦体の一部をそのまま攻撃に転用するとは思わなかった巡洋艦の1隻が、哀れナデシコユニットに正面衝突されて諸共に砕け、宇宙を漂う塵屑となり果てる。

 その間にも急減速からの回頭を終えたヤマトは、オーバーブースター全開。

 全力噴射で急加速しながらガミラス艦隊に向かって飛び込んでいく。

 ヤマトの動きに対応出来た艦艇はすぐさま主砲を発射してヤマトを砲撃するのだが、全力で逃げに入ったヤマトに中々当てられず、当たっても防御を突破出来ない。

 ヤマトは第三主砲と第二副砲、艦尾ミサイルと煙突ミサイルからの反撃で敵の足止めを敢行しつつガミラス艦隊の中に飛び込むことに成功。

 事前に作戦を伝達されていたガミラス前衛艦隊は速やかに敵艦とヤマトの間に割って入って、ヤマトへの追撃を決して許さぬ盾となり、ガミラス航空編隊と入り乱れた大空中戦を展開している敵艦載機部隊は、突如として出現したヤマトに対処する余裕も無く見過ごすしかない。

 

 結局暗黒星団帝国は、ヤマトの電撃参戦による奇襲によって、全戦力の1/3以上を一度に損失する大損害を被る羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 「――なるほど。これの準備の為に参加を遅らせていたという事か、ヤマト……!」

 

 メルダーズは肘掛けを強く握りしめながら、怒気も露にモニターに映るヤマトの後姿を睨みつける。

 予想に反してヤマトを排除する事に成功したのかと、少し気が緩んでしまったのが失策だった。

 ガミラスの思わぬ新兵器の投入にヤマトの奇襲攻撃。どちらも事前に予測する事が難しい攻撃であったが、だからと言ってメルダーズに不手際が無かったとは言えない。

 

 正直に言えば、ヤマトの参加は想定されていた事態だった。

 

 何しろ最初に我が帝国がヤマトを襲った時の理由がタキオン波動収束砲を警戒しての事。

 それにあのデーダーを打ち破ったのなら、タキオン波動収束砲か波動エネルギーを封入したミサイルを使用した可能性が高い。

 それくらいの火力が無ければ、プレアデスの防御を突破して撃沈する事など出来はしないだろう。

 バラン星の戦闘で解析した限りでは、ヤマトの重力波兵器の威力ではプレアデスの偏向フィールドを抜くには少々力不足だという事が判明している。

 そして波動エネルギーを使用した兵器でプレアデスを破ったのなら、恐らくこちらが波動エネルギーに異様に脆い事も気付かれているはずだ。

 

 ――だとすれば、遅かれ早かれ我が帝国が地球に牙を向くであろうという結論に至っても不思議はない。

 それならば、ガミラスと手を組んだ方が地球が生存出来る可能性が高いと踏んだのだろう。

 

 (中々――肝の据わった指揮官だ)

 

 十分な情報を持っているのなら、こちらの思惑を見抜かれる事は驚くに値しない。

 とはいえ、思惑を見抜かれたとしても滅亡に瀕しているらしい祖国の情勢を考えれば、はっきりと戦争になると脅せばもう少し躊躇するかと考えたのだが……どうやら見縊っていたらしい。

 

 (それとも、私が考えている以上にガミラスとの交渉が上手くいっているのか?)

 

 それ以外には考え辛い。地球に支援したであろうイスカンダルを守ると言うのなら理解出来る。だが、それだけの理由ならガミラスと共同戦線を張るような事態には発展しない可能性が高い。

 互いに「敵の敵は味方」の理論で一時共闘が関の山。この様な事前の打ち合わせが無くては実行出来ない様な作戦は展開出来ない。

 

 間違いない、ヤマトとガミラスは紛れもない軍事同盟を結んだのだ。それも国家間の取り決めとして、真っ当な契約によって。

 それも、メルダーズが脅しを掛けるよりも早くに。

 

 (だとすれば、ヤマトの決断は間違っているとは言い難い。聖総統が脅威となるタキオン波動収束砲の技術を見す見す見逃すとは考え難い)

 

 メルダースは勿論これまでに判明した波動エネルギーとの過剰反応の事や、それを直接転用した兵器がある事は本国に伝えている。

 ――無論、ヤマトの名も。

 そのヤマトの祖国――地球は滅亡の淵にあるらしい事もしっかり伝えたところ、聖総統をして「貴官の任務はあくまでイスカンダルとガミラスだ。邪魔になるようなら排除しろ、そうでなければ今は捨て置け」と断言していた。

 

 「今は」というのがミソだ。

 

 確かにヤマトは脅威だが、地球もガミラスも我が帝国の所在を知らない。つまり、暗黒星団帝国にとって致命的な存在であるタキオン波動収束砲の砲火が、すぐに本国に襲い掛かる事はあり得ないのだ。

 ましてや滅びの淵にある星が再興するのに何年、いや何十年かかるというのか。ガミラスの助けを借りたとしてもすぐには動けないだろう。

 それに、こちらも地球の詳細な所在を知っているわけではない、ガミラスの捕虜から聞き出した情報ではマゼランの隣にある銀河系にある事しかわかっていないのだ。

 故に、メルダーズの言葉は全くの嘘っぱちという事ではない。

 もし仮にヤマトが本当にガミラスとイスカンダルから手を引くなら、その航海の目的を果たしてイスカンダルの女王1人連れていく事くらい、目こぼししても何の問題も無かったのだ。

 

 (……尤も、今すぐに地球をどうにかする事は出来ないというだけで、潜在的な脅威である地球を、聖総統が何時までも野放しにするとは思えん……どちらにせよ、ヤマトとは矛を交える運命であったという事か……)

 

 仮にこの戦いでヤマトとガミラスがこのゴルバを含めた艦隊を下したとしても、現在我が帝国が行っている宇宙戦争が一段落するまでの間は手出し出来ないだろう。

 

 ……あのガトランティスとかいう連中は手強く、油断出来ない。つい最近こちらのテリトリーに無遠慮に侵入した挙句、一方的に侵略を開始したあの野蛮人の国家。

 他の星に対して戦いを仕掛けながら戦える程、生易しい相手ではない。今だって戦況は決して楽観出来ない状態なのだ。

 

 そういった状況にあるので、最優先目標はガトランティスの排除。そのための資源確保だ。

 元々予定されていた資源調達作戦にわざわざ帝国最強のゴルバまで動員したのは、速やかに、そして確実に作戦を成功させて資源を持ち帰り、あのガトランティスの軍勢を退ける為だ。

 ――失敗は許されない。祖国の命運がかかっているのだ。

 

 「……メルダーズ司令。先程の攻撃の解析結果が出ました」

 

 「うむ」、と頷いて報告を聞く限りではヤマトが再度あの攻撃を仕掛けようとして来ても対処のしようがあるようだ。

 尤も、ヤマトはあの攻撃の後追加装備を破棄しているので恐らく2度と使えない――いや、通用すると考えていなかったからこそ破棄したのだろう。

 この装備を使った理由も検討は付いている。

 タキオン波動収束砲よりも攻撃範囲が広いのもそうだが、エネルギー融合反応を気にしなくて済むからだろう。

 ――つくづく頭の回る連中だ。

 戦力の激減も痛いが、それ以上に士気が低下した事の方が厄介だ。

 

 「――止むを得んか……ゴルバを前に出せ!」

 

 このゴルバの偉容をもって味方を鼓舞し、敵の士気を折るしかない。

 恐らくヤマトが最も得意とするのは電撃戦。それに乗っかるのは癪だが、こちらも持久戦に持ち込んでこれ以上奇策を弄されても困る。

 

 「続いてテンタクルス発進! ヤマトとガミラス艦隊に対して攻勢に出る! 各艦も残された艦載機を全て出撃させろ!――ヤマトは、地球はここで確実に潰すぞ!」

 

 

 

 

 

 

 「お待たせしまた! デスラー総統!」

 

 「デスラー総統。ご命令通り、ヤマトをお連れいたしました」

 

 ユリカの挨拶とドメルの報告が続けざまにデウスーラの艦橋に木霊する。

 敵艦隊への奇襲攻撃を成功させたヤマトは、最大戦速でガミラス艦隊の合間をすり抜け、デウスーラの隣までやって来ていた。

 勿論事前の打ち合わせ通りである。

 

 「最良のタイミングで来てくれたね、ヤマトの諸君。ドメルも大任ご苦労だった。引き続きヤマトの補佐をお願いするよ」

 

 デスラーは待ちに待った救援の到着を心より歓迎する。

 戦力としては所詮戦艦1隻と極少数の人型機動兵器のみ。

 だが、その力は大ガミラス帝国最強と称される将軍ドメルの艦隊相手に正面突破して逃走出来る程なのだ。

 

 そしてその実力を支えているのは、300程度という小柄な艦体に惜しげもなく積み込まれた機能の数々。

 マイナーな人型機動兵器を主力艦載機に採用していることもそうだが、艦にも艦載機にも“大規模破壊を実現可能な戦略砲を搭載している”。しかも通常兵装もこの上なく充実しているという、詰め込み過ぎな兵器構成。

 地球人は一騎当千の兵力に拘りでもあるのかと疑いたくなるような、色々と常軌を逸している兵器構成。

 

 そこに合わさるは、ミスマル・ユリカ艦長の特異な性格と天才性によって生み出される“柔軟で突飛な戦術指揮”と、“そんな指揮(と人柄)にちゃんと付いていける色んな意味で有能なクルー達”の組み合わせだ。

 そのせいでその行動と戦術の傾向と対策を立てるのが難しく、少しでも読み違えると手痛いしっぺ返しを食らってしまう。

 あげく単独での長距離航海の途上にあって(小規模とはいえ)装備一式に改良を施せるだけの技術力と豊富なアイデア。

 

 如何にガミラスと言えど、こればかりはそうそう模倣出来ない。

 

 そう理解した(させられた)だけに、最初の時に感じた「たかが戦艦1隻に頼る」事でプライドが痛むことが無くなった。

 

 ぶっちゃけてしまえば“色々な意味で規格外”なヤマトを“常識的に扱うだけ無駄”と割り切った(割り切ってしまった)のである。

 

 現に今も相転移砲という過去の兵器を有効活用してみせた。それに関してはデスラーでも思いつけたかもしれない。

 だが拡張パーツとはいえ艦体の一部を切り離して“意図的に”突撃させる質量兵器に仕立て上げるなど……構造上の問題もあるとはいえ、普通は考えない(コスト的にも勿体無い)。

 相変わらずではあるが、どうしてそんな発想に行きつくのやら……。

 

 「しかしミスマル艦長、本当に指揮を執って大丈夫なのか? 素直に古代艦長代理かドメルに任せても良いのではないか?」

 

 スターシアにコスモリバースシステムに関するあれこれは教えて貰っている。ユリカに万が一の事があっては、これからに大きな影響を及ぼす。

 ガミラスもイスカンダルも地球も救われずに終わる可能性が極めて高い。

 なので、本当ならヤマト共々後方に下がっていて欲しいのだが……言っても聞いてくれない。

 

 「ご心配ありがとうございます! でも、この総力戦にあっておちおち寝てもいられないですから。危なくなったら戻りますから、やらせて下さい」

 

 力強く言い切られては、デスラーも反論する気概が失せる。

 視覚補助用のバイザーに遮られ、その表情の全てを知る事は出来ないが、口元に浮かぶ微笑は彼女の強い意志を表している様に、不敵なものだった。

 

 ――どうやら、こういった女性相手に口では勝てないらしい。

 

 諦めがついたデスラーの答えは簡潔だった。

 

 「……そうか、くれぐれも無茶はしないように頼むよ」

 

 適当なところで切り上げて艦隊指揮に注意を向ける。

 予定では、ヤマトはこのままデウスーラの隣に位置したまま共に前線に向けての援護射撃を続ける予定だ。

 後は新反射衛星砲の威力と合わせて敵艦隊を翻弄し、隙を見てあの要塞を――。

 

 「デスラー総統。敵機動要塞が搭載艇を放出しながら前進を開始しています」

 

 「うむ……」

 

 どうやらヤマトの相転移砲の一撃は想像以上に相手の士気に影響を与えたらしい。

 だからこそ、要塞自ら前線に飛び出して指揮を執る事で士気を上げ、同時にその威力を持ってこちらを一気に瓦解させるつもりなのだろう。

 その能力が分からぬ以上、迂闊に兵力を向けるわけにはいかないが、本星を射程に捉えられるのは避けたい。

 となれば……。

 

 「デスラー総統。リスクは大きいですけど、立ち向かいましょう。このままガミラス本星やイスカンダルを射程に捉えられては、人質に取られるかもしれません。それに、あれほどの要塞を星の近くで破壊した場合、どれほどの余波が生じるか……出来るだけ遠くで戦って、叩き潰しましょう」

 

 ユリカも同じ結論に至ったようだ。止むを得ないか……。

 

 「――前進開始! 敵要塞を迎え撃つ!――ヤマトにはデウスーラと共にあの要塞への攻撃を担当して貰う!」

 

 「了解です! 主砲発射準備! 目標前方の敵艦隊! 要塞への突入コースを確保します!」

 

 ユリカも快く応じて砲撃準備を整える。

 

 「デウスーラ、砲撃準備に入れ!」

 

 タランもデウスーラの武装を開放して攻撃準備を整えさせる。

 デウスーラは全身に格納されていた大量の艦砲を艦体の各所から出現させ、前方の敵艦隊に向けて個々に指向させる。

 最新鋭艦という事もあり、ドメラーズ級に採用された無砲身49㎝4連装砲に匹敵する口径である有砲身48㎝3連装砲を6基、同33㎝3連装砲を6基、同口径の無砲身砲6基、そこに左右に広がった翼部や後部、艦底に多数のミサイル発射管を装備していて、総砲門数はガミラス最高を誇る、まさに武力の塊。

 その総火力はヤマトをも凌ぐだろう(ただし主砲の単発火力はヤマトが凌駕する。これは重力衝撃波砲がオーソドックスな重力波砲を凌ぐ火力を有するため)。

 砲の配置は艦の左右対称となっていて、戦闘空母の隠蔽式砲戦甲板同様、艦隊の中心線に沿わず、並列かつ背負い式に配されるという一風変わった方式を採用している。

 艦の形状もあり、一方向に向けて全ての火力を集中する事は出来ないという欠点はあるが、多数の火器を個別に指向する事で多方向の敵に対して攻撃を行える方が大事とされてこの方式が採用された。

 

 その火力を存分に発揮する機会に恵まれてしまったデウスーラであるが、その傍らには宇宙戦艦ヤマトの姿がある。

 

 ――ヤマトとデウスーラが組めば、勝てぬ相手など居ない。

 

 デウスーラはヤマトと歩調を合わせながら前進し、射程内に捉えた敵艦に向けてその火力を存分に叩き付け始めた。

 

 

 

 猛烈な反動と共に、ヤマトの主砲から重力衝撃波が撃ち出される。砲身がキックバックして砲室内の尾栓が後退、冷却装置から少量の白い煙も吐き出された。

 ヤマトが誇る46㎝重力衝撃波砲の火線は、バラン星や七色星団の時と同じように敵艦を食い破って撃沈させる。相変わらず巨大戦艦以外には必殺の威力を見せつけていた。

 

 ヤマトは修理を終えた安定翼を展開、旋回性能低下を対価に艦の安定性を増し、より精密な砲撃が出来るようにしている。

 如何に一撃必殺の火力であっても当たらなければ意味が無い。幸いな事に、今までのヤマトでは在り得ない程の僚艦に恵まれている。

 この場においては、回避行動よりも命中率重視の攻撃姿勢を貫いた方が賢いだろう。

 

 隣で同じように重力波を次々と撃ち出しているデウスーラも、流石ガミラス最強と称されるだけの事はある。

 ヤマトの様に一撃必殺とまではいかないようだが、ドメラーズ級にも劣らぬ火力で敵艦隊に打撃を与えていく。何より砲門数がヤマトの数倍というだけあり、手数に物言わせた攻撃の激しさたるや。

 やはり総統座乗艦というだけあって、相当気合を入れて設計・開発したのだろうという事が容易に伺える。

 

 そうやって戦艦達が持てる火力を振り絞る中、ヤマトから発進したコスモタイガー隊各機はガミラスの防空戦に参加し、敵艦載機の対応に回っている。

 ヤマトとは別経路で艦隊と合流した戦闘空母と第一空母も艦載機を放出。戦闘空母は砲戦甲板を展開して砲撃戦に参加し始めた。

 ヤマト、デウスーラ、戦闘空母は、大量のデストロイヤー艦やその派生のミサイル駆逐艦や巡洋艦、指揮戦艦級やドメラーズ級と混じって重力波(重力衝撃波)とミサイルを次々と発射して、敵艦隊に対して打撃を与えていく。

 ヤマトとデウスーラに同行する艦隊の殆どがガミラスのシンボルカラーの緑ではなく、高貴な色とされる蒼で塗られている。

 親衛隊という総統直属の部隊らしく、独自に改良が施された艦も勿論、乗員の練度も桁外れに高かった。

 

 距離を詰めてきた敵艦隊も負けじと猛反撃。大量のビームとミサイルが撃ち込まれてくる。

 ヤマトはデウスーラの前面に飛び出して、その膨大な数の対空火器を駆使して自身とデウスーラに向かって来る大量のミサイルを次々と撃ち落としていく。

 重要度においてはデウスーラとヤマトに差は無い――どころか、むしろヤマトの方が重要とさえ言えるのだが、デウスーラは対空火器が乏しく随伴艦便り。

 対してヤマトは対空砲の数が非常に多く弾幕が厚い。こういった時の迎撃役としては非常に優秀なのだ。

 おまけにデウスーラは先述の通り艦の中央にある武器がデスラー砲だけなので、ヤマトが眼前にあっても砲撃の邪魔にならない。

 

 この2艦、出会い方が違えば全面対決待ったなしだったはずなのに、共闘すると思いの他相性が良い。

 

 互いの長所を上手く組み合わせる事が出来れば、たった2隻で膠着した戦局さえも動かせるだろう。

 今回は出番が無いだろうが、ヤマトがこうして正面に陣取る事で、デスラー砲の発射兆候すらある程度隠蔽出来てしまうであろうと考えると、ヤマト側は生きた心地がしないが、それはそれで考慮する価値のある戦術かもしれない。

 

 パルスブラストもミサイルも出し惜しみせず吐き出しながらデウスーラを護衛、主砲と副砲で前方の敵艦を火達磨にしながら、ヤマトはデウスーラをエスコートしながら敵艦隊に向けて進撃を続けた。

 

 

 

 一方、ヤマトから発進したコスモタイガー隊はガミラス航空隊と協力して防空戦に従事していた。

 限られた時間では、七色星団の戦いで大きく損傷したエステバリスを完全には修復出来ていない。

 応急修理で騙し騙しの戦いになる為、専らガミラスの戦闘機を上回る火力と、その場に停滞可能な人型の特性を生かし、1歩引いた位置からの火力支援がメインとなった。

 

 例外は例によってガンダム4機だ。

 

 一時的にガミラス航空隊の支援に回されたガンダムは、まさに獅子奮迅の大活躍を見せつける。

 ガミラスの航空戦力と敵航空隊との戦いの状況は、ガミラスがやや劣勢といった状態だ。機体性能でやや遅れを取っているが、数の優位と熟練の連携をもって立ち向かっているガミラスに、膠着した戦局を覆すほどの力は無い。

 ……そこに到着したのは、ガミラスをも驚かせた人型機動兵器――ガンダムだ。

 

 「行くぜ野郎ども! 手当たり次第にやっちまえ!」

 

 GファルコンGXのリョーコが威勢良く檄を飛ばす。このような混戦状態では威力を発揮し難いが、波動砲が封じられ波動エネルギー弾道弾が使用不能に陥った今、サテライトキャノンは貴重な必殺兵器。

 ガンダムの戦力を殺さずサテライトキャノンを保護するため、GXにはレオパルド、ダブルエックスにはエアマスターが専属で防衛を担当する事になっている。

 組み合わせは機体の相性もそうだが、付き合いの長さから呼吸を合わせやすいと判断されての事だった。

 

 可能な限りの武装を持ち込んでの出撃となったが、弾薬の補充が間に合わなかったため各機Gファルコンの爆装は見送られている。

 

 リョーコは展開形態で出せる最高速度で身近なイモムシ型戦闘機の編隊に突撃。左腕に担いだハイパーバズーカの照準を向ける。

 察して回避行動を取る敵編隊に向けて、構わず引き金を引く。

 ハイパーバズーカから煙を引いてロケット弾が発射。砲身後部の排気口からも噴煙が噴き出す。

 ハイパーバズーカのロケット弾には誘導機能がある。ミサイルに比べると弱く射程も短いが、この距離でなら食い付けない事も無い。

 ハイパーバズーカに合わせて右手のシールドバスターライフルを連射。計3発のビームを撃ち込む。

 敵機の回避行動に追従するロケット弾と3発のビーム弾が、イモムシ型戦闘機1機を火達磨にする。

 

 「おっしゃ! 続くぜぇ中尉!」

 

 リョーコに続いて並走していたサブロウタのGファルコンデストロイも、ツインビームシリンダーに右肩のビームキャノン、両肩のショルダーランチャーにGファルコンの武装を足した砲撃を放ちながら突撃する。

 歩く弾薬庫とも称されるレオパルドが戦闘機にも見劣りしない速度で突撃してくる様は、とてもインパクトが強い。

 しかも多数の火器を同時に使用しているに関わらず、操るサブロウタの技術と相応の性能を与えられたレオパルドの火器管制システムによって、個々の火線はいずれも正確な攻撃として襲い掛かる。

 如何に機動力に優れた戦闘機と言っても、回避可能な空間を物理的に埋められては回避しようがない。

 その身を覆う防御フィールドも、艦載の対空火器にも匹敵するガンダムの火力の前には必ずしも通用せず、その身を砕かれて宇宙の藻屑となる機体が多数となった。

 

 エックスとレオパルドの猛進撃を受けたイモムシ型戦闘機の編隊は、見慣れぬ人型機動兵器の恐るべき戦闘力に戸惑いを感じさせながらも速やかに対応してくる。

 回避行動と共に反撃を加えるも、人型特有の(と言っても戦闘機との合いの子状態だが……)運動能力を駆使して反撃を避け、時には航空機らしからぬ強力なフィールドと物理的なシールドで防がれ決定打を与えられなかったイモムシ型戦闘機が新たに遭遇したのは……。

 

 「この距離……取った!」

 

 「悪く思うなよ!」

 

 月臣のGファルコンバーストとアキトのGファルコンDXの2機だ。

 相も変わらず並みの宇宙戦闘機を凌駕する凄まじい速度と爆撃機にも迫る火力を両立したエアマスターの恐ろしい事恐ろしい事……機首のノーズビームキャノンの大型ビーム弾と拡散グラビティブラストの重力波の散弾で眼前の敵機に次々と砲撃を加えつつ、両腕のバスターライフルからもビームを放ち、大砲を避けた直後の敵機に命中弾を与えていく。

 他のパイロットも言っていたが、「本当に宇宙戦闘機涙目だよなこれ……」である。

 ある意味、非常な現実の一端と言えるのだろうか。

 

 そして際立つ動きを見せるのはやはりアキトとダブルエックス。

 ヤマト発進から今日まで、常に最前線でヤマトの戦いを支えてきたアキトとGファルコンDXの組み合わせは完熟しきっていた。

 左手の専用バスターライフルと右手で装備したシールドバスターライフル、それに拡散グラビティブラストを上手く使い分け、相手の射程外から一方的に撃ち落としていく。

 元々サテライトキャノンの為にと、最高水準のセンサーを満載し、繊細な姿勢制御を可能とする程安定感に優れたダブルエックス。こういった精密射撃はお手の物である。

 エアマスターによって撹乱され、注意をそちらに向けた敵機を次々と撃ち落とし、どんどんその数を減らしていく。

 

 そこに向き直ったエックスとレオパルドが次々と攻撃を撃ち込む。

 撃ち尽くしたハイパーバズーカに、Gファルコンのカーゴスペースにサブアームで吊るしていた予備のマガジンを叩き込みながら、拡散グラビティブラストを撃ちかけて敵の動きを乱す。

 そこにレオパルドが全武装を開放した全力射撃を加えて次々と火の弾を生み出し、運良く生き残れた機体もダブルエックスの精密射撃と、Gファルコンを切り離してノーマルモード特有の運動性能を発揮するエアマスターのヒット&ウェイ戦法で残さず撃ち落される。

 4機のガンダムに翻弄され、瞬く間に40機近い敵機が宇宙の藻屑と消えた。

 

 乗り換えてあまり時間の経っていなかった月臣とサブロウタも、七色星団の激戦を経てそれぞれの機体の扱いに習熟したと言える域に達し、搭乗時間が最長のアキトと一足早く乗り換えたリョーコは、追加されたフラッシュシステムとのマッチングが進んだ事で、バラン星の時には不可能だったIFSとフラッシュシステムを併用した操縦系を利用出来る様になっている。

 この恩恵で、アキトとリョーコはまさに自身の体の延長の様な感覚で機体を操る事が出来るようになった。

 特にアキトは――。

 

 「ドッキングアウト! 連携攻撃開始だ!」

 

 バラン星ではわずか5分が限度だった遠隔制御によるGファルコンとの連携攻撃。

 あの戦いで得た経験を基にシステム回りの再調整と戦術を組み立て直した事で、より柔軟かつ負担の小さな運用を可能としていた。

 というのも、アキトのパートナーとして火星の後継者との戦いを支えたラピスが本気を出す事(IFSの解禁)の折り合いを自分の中で付けた事もあって、アキトの操縦の癖を彼女なりに分析して組み上げたGファルコンの自動制御AIと、フラッシュシステムによる行動パターンの入力を併用する事で、負荷を減らしつつ連携戦術を維持出来るようにアップグレードが実現したのである。

 

 パートナーの協力を得てより力を増した愛機を駆って、アキトは別の敵機に襲い掛かる。

 Gファルコンを先行させて敵の動きを牽制しつつ、追いついたダブルエックスがブレストランチャーとバスターライフルを撃ち込んで敵機を撃破。

 距離が近くなれば一度シールドバスターライフルを手放し、右手でハイパービームソードを抜刀、不運にも接近を許してしまった敵機を容赦なく両断。

 そんなダブルエックスを背後から撃とうとした敵機に向かって、これまた専用バスターライフルを手放して逆手に引き抜いたハイパービームソードのリミッターをカット。最大発振したビームの刃が100mも伸びて相手を串刺しにする。

 リミッター解除の弊害で案の定破損したハイパービームソードを投げ捨て、手放した2種のバスターライフルを回収、直後にUターンしてきたGファルコン合体、収納形態の最大推力で別の敵機に食らいついて拡散グラビティブラストを発射。撃墜。

 

 獅子奮迅の働きを見せるダブルエックスを止めるべく向かって来た敵機に拡散グラビティブラストとツインビームシリンダーの砲火が浴びせられ、収納形態のGファルコンDXの後ろについて追いかけてきた敵機も、再合体して追いついてきたGファルコンバーストが次々と撃ち落としていく。

 GファルコンGXが撃ち尽くしたハイパーバズーカから一端手を放し、空いた左手で左サイドスカートアーマーにマウントされたXグレネーダーを掴み取り、ストック底にある安全装置を左膝に打ち付けて解除、投擲する。

 投擲されたXグレネーダーはクルクルと回転しながら宙を進み、安全装置解除からきっかり10秒後に起爆する。

 対艦ミサイルをベースにした弾頭だけあって、爆発の規模はそこそこ大きい。爆発に煽られたり飛んでくる破片を避けるべく舵を切った機体に向けて、シールドバスターライフルを撃ち込んで確実に撃ち落としていく。

 その後宙を漂っていたハイパーバズーカを回収し、サブアームを使って予備マガジンを叩き込んで再び構える。

 予備マガジンはまだ幾つか残っている。ありったけを使ってこの大航空戦を制し、ヤマトの支援に向かう必要がある。

 

 サテライトキャノンは、現状二次被害を極限まで抑えて使える最強の兵器なのだから。

 

 

 

 「このまま中央突破! 要塞を目指して!!」

 

 「はい!」

 

 ユリカの号令の下、ヤマトはすぐ後ろにデウスーラを引き連れた状態のまま、敵艦隊の真っただ中に突入する。

 セオリー通りなら艦隊旗艦であるデウスーラを連れ込むのは悪手中の悪手と言えるのだろうが、デスラーは自身が前線に赴く事にあまり抵抗を感じない人物であるし、総統自ら前線に立つというのは、全軍の士気を高める役割を果たしていた。

 デスラーの人望が伺える瞬間だ。

 彼が一声激励する度に、デウスーラが敵艦を沈める度に、全軍の士気が高まっていく。

 そしてそのデウスーラを直援しているのがヤマトであるという現実が、殊更大きく作用しているようであった。

 

 「コスモタイガー隊各機へ! ヤマトとデウスーラは中央突破をする! 護衛に当たれ!」

 

 進もコスモタイガー隊に改めて指示を出す。

 コスモタイガー隊もガミラス航空隊への支援を次々と切り上げ、ヤマトとデウスーラの護衛に就くべく最大戦速で合流を図った。

 

 

 

 ヤマトは使用可能なすべての武装をフル活用して前進。

 前方の第一・第二主砲、第一副砲は正面の敵影に向けて休まず撃ち続けられ、後方の第三主砲と第二副砲も側面に回り込んだ敵艦に向けてせわしなく旋回し、その威力を示す。

 パルスブラストも対空砲としてはかなり長い射程と高い火力を存分に生かすべく、前半分は収束モードで敵艦に向けて発砲、後ろ半分は拡散モードで対空防御と役割分担してとにかく撃ちまくる。

 そして、デウスーラへの誤射の危険が高い艦尾ミサイルを除いた全てのミサイル発射管からありったけのミサイルを吐き出す。

 艦首ミサイルは主砲の射程外――前方の喫水以下の位置にいる敵艦に向けて、舷側ミサイルは弧を描きながら、やはり主砲の射程外にある喫水より下の位置にいる斜め前方の敵に向けて優先して、煙突ミサイルは主砲と副砲の補助としてヤマト前方の扇状の範囲に位置する敵艦に撃ち込まれる。

 誘導兵器であるため、発射管の向きが明後日の方向でも発射後に軌道を変えれば全方向に対応出来るミサイルの強みを生かして、とにかく弾薬を惜しまず強気に攻め続ける。

 

 ヤマトを捉えたビーム弾や、撃ち落しきれなかったミサイルもヤマトに次々と被弾。

 流石に弾幕密度が上がった事で、ヤマトもそしてデウスーラも徐々に被害を蓄積していく。

 

 ヤマトの後方に位置するデウスーラも、その大量の火砲を総動員して敵艦隊に猛然と火力を叩きつける。

 大量のグラビティブラストは勿論だが、翼部に24門、後部に14門、艦底に13門装備されたミサイル発射管からも次々とミサイルを撃ち出していく。

 ヤマトを凌駕する圧巻の弾幕の威力は絶大であり、まさにガミラスの象徴に相応しい暴力を振りまくデウスーラ。

 対空防御こそヤマトに依存する形ではあるが、ヤマトでは手数が足らない部分をデウスーラが補う形になっている。

 図体が大きい分被弾もヤマトよりも多いのだが、ヤマトにも引けを取らない重装甲と強固なディストーションフィールドによって、受ける被害をかなり抑え込んでいた。

 その傍らには戦闘空母やデストロイヤー艦を始めとするガミラスの艦隊が、ヤマトとデウスーラを守る様に左右を固めて敵艦隊に深く切り込んでいく。

 

 

 

 熾烈極まる砲火の応酬。ズシンッ、と大きな衝撃音と共にヤマト第一艦橋のすぐ下に敵弾が命中する。

 表面と装甲内に多重展開されたディストーションフィールドのおかげで、宇宙戦艦であっても比較的装甲が薄く耐久力が低い事の多い艦橋としては驚異的な耐弾性能を見せつけてはいるが、内部メカの耐衝撃性能はそこまで並外れてはいなかった。

 被弾による衝撃で操舵席のコンソールの一部が爆ぜ、小さな火と煙が上がる。

 

 「うっ!!」

 

 飛び散った破片が右腕に食い込んでハリが苦悶の声を上げる。

 

 「ハーリー君!!」

 

 (ユリカとルリのフォローの為に)主電探士席に就いていた雪が、傍らに置いていた医療キットを手に駆け寄り右手の傷を確認する。

 

 「診せて、手当てするから!」

 

 すぐに肘掛けのスイッチを操作して座席を下げさせてから右に回して、負傷した右腕を診る。

 

 「……これで良し。応急処置だからすぐに医務室で手当てして貰った方が良いわ」

 

 傷口から目立つ大きめの破片は引き抜いたが、細かい破片が残っているかもしれない。すぐにも医務室に連れて行って検査、破片があるような手術も必要だが……。

 

 「進、ハーリー君と変わって操舵席に……」

 

 「……最後までやらせて下さい!」

 

 ハリの身を案じたユリカの言葉を遮り、ハリは再び操縦桿を握りしめる。ズキリと右腕が痛むが、歯を食いしばって堪える。

 

 「これは僕が請け負った仕事です! 島さんの代わりは、最後まで僕が果たして見せます!」

 

 「でも――」

 

 「僕だって男です!!」

 

 なおも食い下がったユリカを黙らせた一言だった。

 

 「――わかった。なら、ハーリー君に任せた……!」

 

 ハリの心意気を受け取ったユリカはこのまま最後まで(少なくとも彼が限界を迎えるまで)任せる事にした。

 

 「――その歳でその心意気、流石は私も見込んだヤマトのクルーだ」

 

 予備操舵席に座るドメルもハリの姿勢に感服した様子だった。

 

 

 

 その頃、ヤマトの機関室も苛烈さを増していた。

 ヤマトの重装甲と多重展開される強固なフィールドに守られ、機関室に抜けた敵弾は存在していない。

 だが、繰り返しになるが衝撃まで完全に防げているわけではないのだ。

 

 「くそっ! また出力低下だ!」

 

 太助は機関制御室のコンソールを叩いて何度もプログラムチェックを繰り返す。

 出航以来改修を繰り返してきたエンジンなので、冥王星で激戦を繰り広げた頃に比べると信頼性も安定性も増しているのは事実だが、抜根的な解決に至るほどの改修は出来ていない。

 それに自動工場プラントに滞在した14時間も使って整備はしたが、七色星団での激戦のダメージが癒え切っているとは言い難い。

 太助は数度のプログラムチェックを行ったが、バグらしいバグは発見出来ないでいた。となれば出力低下の原因は、エンジン本体の機械的な部分のはずだ!

 

 「山崎さん! そっちはどうなってますか!?」

 

 コミュニケに向かって声を張り上げると、「もう少しだ!」と怒鳴り声が返ってくる。

 直後、不安定だったエンジンが安定を取り戻し始めた。

 そして、波動エンジンのフライホイールの下側にあるメンテナンスハッチから山崎を始めとした数人の機関士が這い出てくる。

 

 「良いぞお前ら! だいぶ腕を上げてきたじゃないか!」

 

 全身油汚れに塗れて右手のスパナを振り上げる山崎に、部下たちも各々の工具を振りかざして応えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 メルダースは、持てる火力の全てを吐き出して進撃してくるヤマトとデウスーラの姿をモニターに認めて眉を顰める。

 

 (よもやここまでの戦闘能力を有していたとは……宇宙戦艦ヤマト、何という性能。そしてガミラスの旗艦もこれほどの力を有しているとは……)

 

 正直誤算だった。だがようやく納得出来た。

 ガミラス相手に単独で抗い続けた実力は、決してタキオン波動収束砲に依存しただけのものではなかったのだ。

 クルーの練度、艦の性能。全てが高次元にまとめ上げられたまさに一騎当千の存在。

 それに絶対に祖国を救わんとする強い意志が加わる事で、常識では測り切れない絶大な威力を発揮するというわけか!

 

 そこにヤマトに全く見劣りしないガミラス旗艦の力が重なると、まともに戦っては手の付けようがない。

 

 「……正直無人機とは言え気が進まぬのだが、致し方あるまい……テンタクルスを差し向けてヤマトとガミラス旗艦の動きを封じ目暗ましをさせろ!――ゴルバの主砲を使う!」

 

 

 

 

 

 

 熾烈極まる砲撃戦を繰り広げながら着実に要塞へと接近を続けるヤマトとデウスーラ。

 合流したコスモタイガー隊の援護を受けながらも敵艦隊中央を猛進していくのだが……。

 

 「第二主砲被弾!」

 

 「第五対空砲大破!」

 

 「右舷展望室損傷!」

 

 第一艦橋には次々と被害報告が飛び込んでくる。フィールドそのものの消失は免れているとはいえ、出力低下で徐々に貫通弾が頻発するようになり、装甲の薄い部分や対空火器の一部が破壊され始めている。

 

 「フィールドジェネレーターの負荷、さらに増大。このままでは後10分でフィールドの展開自体が不可能になります!」

 

 守の報告にユリカの表情も曇る。流石に旗色が悪くなってきた。

 

 「敵巨大要塞への距離、あと50万㎞。要塞の解析作業を始めます」

 

 そろそろ頃合いと見た第三艦橋のルリが、要塞の解析作業の開始を宣言する。

 ここまで距離が近づけばかなりの精度で解析作業が行える。徹底的に洗い出してその弱点を探し出す。それがルリ達電算室オペレーターの仕事だ。

 

 「ミスマル艦長、あの要塞から出現した小型艇……油断出来ません」

 

 ドメルの進言にユリカは真田に解析を求めてみた。

 

 「私も同感です。まるで全身武器の塊の様だ……恐らく人が乗るスペースも使って武器を搭載した無人機でしょう」

 

 真田がマスターパネルに移した搭載艇の映像を交えて見解を語る。

 扇状の本体に、先端からまるでガトリングのように突き出した4本の砲身。全体を見るとまるでイチョウの葉っぱの様な印象を受ける姿だ。

 例によって生物的な意匠が目立ち、駆逐艦クラスの大きさを持っている。

 見かけ通りの重武装っぷりで、その火力はワンサイズ上の巡洋艦にも引けを取らない。

 そして、サイズの通りかなりすばしっこい。

 

 「副砲とパルスブラスト、両舷ミサイルはあの攻撃艇を優先して狙え! ヤマトとデウスーラに近づけさせるな! 主砲と艦首ミサイルは他の艦を狙うんだ!」

 

 進はすぐに攻撃艇に対して小回りの利く副砲とパルスブラスト、そして1度に放出可能なミサイルの数が多い両舷ミサイルでの迎撃を指示する。

 あの機動力と接近戦を挑もうとする攻撃パターンを考えると、主砲では過剰火力な上小回りが利かない。

 副砲とは元来、こういった用途で使うために搭載された武器だ。時代の流れで不要な存在となり、ヤマトが登場するまで明確に復活していなかった存在ではあるが。

 

 攻撃艇の執拗な攻撃に晒され、ヤマトとデウスーラが受ける被害がさらに増える。

 各所からの被害報告の数がさらに増え、ヤマトの装甲に刻まれる傷も加速的に増えていく。

 装甲表面の塗装も兼ねた防御コートはビームが被弾する度に反射材が生み出す反射フィールドで敵弾の威力を削ぐが、耐久限度を超えた負荷に破壊され、煙となって消えていく。

 完全に破壊されずとも傷ついた防御コートは白化し、弱ったフィールドはさらに弱っていく。

 ますます激しさを増す攻撃艇の猛攻だが、ユリカはそれ以外の艦艇が徐々にヤマトから距離を取りつつある事に気付いた。これは――。

 

 「艦長、敵艦隊の動きが妙です。まるで要塞とヤマトの間から離れようとしている様にも思えます」

 

 「私も古代艦長代理と同意見です。恐らくあの要塞の大砲の類で狙っているのでしょう」

 

 「艦長、どうする? 波動砲やモード・ゲキガンフレアでの相殺はリスクが高いよ?」

 

 進とドメルとジュンに言われ、ユリカは「警戒して。動きがあったら全速で逃げます」と答え、念のためデスラー達にも警告を出す。

 艦隊の動きについてはやはり気付いていたようで、デスラーからも「何時でも回避行動に移れるように」と念を押された。

 

 ――ここからが、本番と言ったところだろう。

 

 

 

 迷いを振り切り、ついにガミラスと肩を並べて暗黒星団帝国と相対したヤマト。

 

 長らく無用の長物と考えられていた相転移砲の一撃により、戦局を優位に持ち込んだヤマトでは在ったが、その眼前には自動惑星――ゴルバの偉容が佇む。

 

 負けるなヤマト、君が最後の希望なのだ!

 

 今や地球だけではない、ガミラスとイスカンダル、3つの星の運命を背負い、ヤマトの戦いは終局を迎えつつあった。

 

 人類最後の日まで、

 

 あと242日!

 

 

 

 第二十五話 完

 

 次回 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

    第三章 自分らしくある為に!

 

    第二十六話 決戦! 機動要塞ゴルバ!

 

    全ては、愛の為に


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