新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ(完結済み)   作:KITT

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第二十六話 決戦! 機動要塞ゴルバ!

 

 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

 第三章 自分らしくある為に!

 

 第二十六話 決戦! 機動要塞ゴルバ!

 

 

 

 持てる火力を振り絞りながら、ヤマトとデウスーラは着実に機動要塞との距離を詰めていく。

 勿論要塞の動きに対する警戒は怠っていない。波動砲が封じられた今、あの要塞を遠方から破壊する手段はサテライトキャノンしかない。

 しかしそれは、あの要塞がサテライトキャノンすら弾き返す防御フィールドの類を持っていない事が前提。

 希望的観測に縋るわけにはいかない。要塞の射程にイスカンダルとガミラス星を入れないためにも、最大戦力であるヤマトとデウスーラをもってあの要塞の能力を把握し、確実な撃破を狙わなければならないのだ。

 ……それにしても、要塞から放たれた攻撃艇の存在が鬱陶しい。

 恐らく要塞から制御されているのだろうが、ヤマトとデウスーラの足を巧みに止めに掛かってくる。

 おかげで周りの艦艇が距離を取りつつある――要塞からの直接攻撃の予兆を察知出来ているというのに、足を速める事も進路変更もままならないとは……!

 戦況分析のため、ECIをフル稼働させていたルリ達オペレーターは、ヤマトの周囲を飛び回る攻撃艇の解析作業は勿論、要塞からも目を離すまいと目を皿のようにして解析データを睨みつけていた。

 攻撃艇がヤマトの至近を飛び回っているのでセンサーが遮られたりして、要塞の様子を伺い難い。

 それでも決して要塞から目を離さなかったルリ達の努力は報われた。

 センサーが示す要塞のエネルギー解析のデータが、要塞中央の巨大なハッチ付近でぐんぐんと上昇して行っている事を掴んだのだ!

 

 「艦長! あの要塞のエネルギー反応がどんどん上昇しています!」

 

 「詳細を!」

 

 第三艦橋のルリからすぐに詳細情報が送られてきた。

 エネルギーの上昇値は――波動砲にも匹敵するレベルだ!

 そのエネルギー反応が生じていた要塞の胴体部分にある巨大なハッチが開き、中からまるで土管を彷彿とさせるような太く短い砲身のような物体が顔を覗かせる。

 間違いない、あの要塞は砲撃するつもりだ! それも波動砲クラスの大量破壊兵器!

 

 「反転上昇!! コスモタイガー隊にも離脱を指示!!」

 

 すぐにユリカは回避行動を指示、エリナにもデウスーラを始めとするガミラス艦に退避を促す事を命じるが、

 

 「駄目です! 攻撃艇が進路を塞いできます!」

 

 ハリは何度か艦首を持ち上げて現地点から離脱しようとするが、その度に異様な攻撃力を持つ攻撃艇に鼻先を抑えらえてしまう。被弾を覚悟すれば突っ込めなくも無いが、あの攻撃力の攻撃艇に取り囲まれてしまえばフィールドを完全に剥ぎ取られ、ヤマトはハチの巣にされる恐れがある。

 元来防御フィールド等無くても堅牢極まりないヤマトだから、すぐには沈みはしないだろうが手傷が増えれば反撃の手段すら――。

 

 「背に腹は代えられないわ! 強行突破よ!!」

 

 「了解!!――く……っ!」

 

 意を決したユリカの指示に従い、ハリは操縦桿を操って強行突破の姿勢を取る。

 バルバスバウ根元のスラスターが噴射、メインノズルの出力も上がる。

 

 「艦首にフィールド集中展開! 火力を前方に集中!」

 

 強行突破を実現すべく、ヤマトは艦首にフィールドを集中展開、体当たりも辞さない覚悟で攻撃艇の真っただ中に突撃、デウスーラもそれに倣う形で続く。

 同行していた他の艦艇は、各々左右に散ってやり過ごそうとする。

 

 ヤマトは足止めしようと群がってくる攻撃艇を小回りと連射の利く副砲とパルスブラストを主軸に、デウスーラは武器の多さを活かした手数で応じる。

 攻撃艇の猛攻がヤマトとデウスーラに突き刺さるが、砲撃は局所展開したフィールドの強度で弾き飛ばし、正面に立ち塞がった攻撃艇はフィールドアタックで強引に蹴散らして進む。

 出力も推力も、質量までもヤマトが勝るとはいえ、流石に2隻、3隻と連続で激突されるとかなり厳しい。

 結局5隻目からは限界を迎えたフィールドが消滅、ヤマトはその尋常ならざるフレーム剛性と装甲強度を活かして無理矢理粉砕して突破する事になった。

 激しい衝撃がヤマトを襲い、艦首波動砲とフェアリーダー周辺に激しい擦過傷が刻まれ、フェアリーダーの一部が欠ける被害を被る。

 デウスーラもかなり被弾する結果となったが、ヤマトが先行してくれたおかげで敵艦との衝突を免れた。

 

 コスモタイガー隊も攻撃の手を止め、全速力でヤマトに先んじる形で予想される攻撃範囲からの離脱を試みる。

 艦艇に比べれば耐久力が紙同然のエステバリスでは、余波に飲まれただけでも大破は避けられない。恐らくガンダムも無事では済まないだろう。

 

 「みんな! 手を繋いでダブルエックスに寄り添え!」

 

 アキトはすぐに通常推進での離脱は不可能と判断。すぐにコスモタイガー隊に終結を指示、敵弾の間を掻い潜って出撃した全てのエステバリスとガンダムが、携行武装を破棄してでも何とか手を繋いで的になる覚悟で団子のように寄り添って固まる。

 その状態でGファルコンGXが最大出力でディストーションフィールドを広域展開、何とか出力がボソンジャンプに耐えられるように準備を整えると、アキトはすぐにジャンプ先をイメージ、ヤマトに打電してボソンジャンプジャマーを切って貰った格納庫をイメージ、ジャンプで一気にヤマトに帰艦する。

 

 そうやって何とかヤマトとデウスーラ、コスモタイガー隊が要塞の砲口からギリギリ逃れたところで、要塞から強烈な光の奔流が放たれた。

 

 小規模な艦隊程度なら丸々飲み込んでしまいそうな凶悪な光の奔流が、ヤマトとデウスーラが先程まで居た空間を通過――イスカンダルとガミラス星の傍をも掠めていく。

 辛うじてビームの奔流から逃れたヤマトとデウスーラであったが、余波を受けて艦体を煽られる。辛うじて互いに激突する事だけは回避出来たが、しばらくは砲撃すらままならなくなる様な激しい揺れに見舞われる結果となった。

 

 そして、左右に散って逃れようとした他の艦艇の大半は、攻撃艇の妨害を受けて逃げ遅れ、ビームの奔流に飲まれていく。

 攻撃艇諸共ビームの直撃を受けて瞬時に蒸発した艦や、余波で甚大な被害を被った艦が多く、その中にはバラン星から今までヤマトを助けてくれていた戦闘空母の姿もあった。

 

 「ハイデルン!?」

 

 思わず座席から立ち上がったドメルの眼前で、大破した戦闘空母に安全圏に離れていた敵艦隊からの砲撃が次々と突き刺さり、その巨体をバラバラに粉砕していった。

 長きに渡って共に戦ってきた部下の呆気無い死に、流石のドメルも言葉が出てこない。

 だが、歴戦の将である彼はすぐに気持ちを切り替えるべく、爆発した戦闘空母に向かって敬礼を捧ぐ。

 第一艦橋の面々もそれに倣って、短い間ではあった共に戦場を駆けた“仲間”の死を弔った……。

 戦術モニターに表示される被害は、ヤマト・デウスーラと共に要塞攻略に乗り出した艦隊だけでは済まされていない。

 遥か後方、最終防衛線を構築していた艦隊の一角すらも消滅させていている。

 ――要塞の大砲の有効射程は、波動砲よりも長く、そして確実に広いものだった。

 このまま撃たせてしまえば、あっという間に艦隊は壊滅してしまう!

 

 「……くそっ! 第一・第二主砲発射用意! 目標、敵機動要塞!――発射!」

 

 立ち直った進がすぐに機動要塞に向けての砲撃を指示。左右に振り分けられていた2基の主砲が旋回、波打つように角度を変えた3本の砲身がピタリと揃い、発射遅延によって時間差で放たれた計6本の重力衝撃波が機動要塞に向かって飛び出す。

 

 遮るものの無い空間を飛び去り、機動要塞に突き刺さる――かに見えたが、既に砲身を格納して防御を固めていた要塞表面であっさりと弾かれてしまった。偏向フィールドだ。

 予想はしていたが、あの巨大戦艦とは比較にもならない強度のフィールドだった。ヤマトの主砲では何百発撃ち込んだとしても、恐らく突破は出来ないだろう。

 

 「くそっ……予想はしていたが、やはりショックカノンで突破は無理のようだ。あの大砲の出力から要塞の出力を推測してみるに、ツインサテライトキャノンは勿論、単発では波動砲でも歯が立たんかもしれん……恐ろしい強度だ――!」

 

 真田が主砲が命中した時の観測データを基に解析した結果、現在使用可能な兵器であの要塞の偏向フィールドを突破する事は非常に厳しいと結論付けた。

 

 「――恐るべき要塞だ。我がデスラー砲も、単発での威力はヤマトの波動砲の2倍は保障しているが……それでも足らぬかもしれんとは……」

 

 悔しそうなデスラーに申し訳なく思いながらも、真田はさらに推論を口にする。

 

 「……あくまで推測ですが、収束率を限界まで高めたと仮定しても、あのフィールドを突破するには単純計算で波動砲4発以上の出力が要求されると考えられます。ヤマトの全弾発射なら可能性はありますが、諸々の事情からその選択は選べません」

 

 「――やっぱり、ヤマトが以前使っていたという波動カートリッジ弾は、こういった敵に対抗するために用意されていたのかもしれませんね」

 

 進が予想を遥かに超える要塞の強さに悔し気に語る。

 

 確かにヤマトの波動カートリッジ弾が追加されたのは、イスカンダル救援を目的とした戦いにおいてこの要塞――ゴルバの並行同位体と交戦した後だ。

 その戦訓からより迅速かつ柔軟な波動エネルギーによる攻撃は勿論、エネルギー偏向フィールドを有する敵に対してミサイル以上の決定打足りえる装備として開発された可能性は十分にある。

 真偽の程は定かではないが、進の推測も全くの的外れという事は無いだろう。

 

 「確かに、主砲に実体弾による射撃が可能であればあの要塞の偏向フィールドを超えて打撃を与えられる可能性はある。しかしヤマトの主砲は実弾射撃機能をオミットしてしまっている……尤も、波動エネルギーをオミットしなければならないと知れている今となっては、46㎝砲弾とは言え、普通の実弾射撃で効果的な打撃を与えるのは不可能に近いだろうがな……」

 

 「――真田工作班長、エネルギー融合反応を無視して急所に当てたと仮定した場合、最低でもどの程度の威力が必要になると思われますか?」

 

 ドメルの質問に真田はしばし悩んだ後、

 

 「そうですね、敵要塞の構造や構成材質が不明なので具体的には言えませんが……やはり、サテライトキャノンクラスの威力は欲しいと思います。ただ、エネルギー兵器の場合は何らかの方法であのフィールドを打ち破って通す必要がありますし、ミサイルの場合はそれこそガミラスが使っているあの超大型ミサイルが必須になります。ただ、迎撃されずに発射直前の発射口を狙うというのは、かなり難しいでしょう……」

 

 要塞の攻略法が手詰まり状態にあると改めて示されて沈黙が訪れる。

 流石のユリカもデスラーもドメルも、この状況における最善策をすぐには思いつかない。

 

 「――仕方ない、敵要塞砲の射程外まで一時退避します。デスラー総統もそれでよろしいですか?」

 

 「他に手は無いだろう。今しばらくは、あの要塞を能力を分析しなければ、対抗する事すら……」

 

 「艦長! 要塞に高エネルギー反応! 砲撃の予兆です!」

 

 第三艦橋のルリから警告がもたらされる。

 光学センサーが捉えた映像がマスターパネルに映し出されるが、見れば要塞がその場で回転し、隣の砲門を開きつつあるではないか。おまけにヤマトとデウスーラを射線に捉えるべく上昇している。

 

 「反転右160度!! 降下角20度!! 全速!!」

 

 すぐにユリカはこの場から移動する事を指示する。

 ハーリーは「了解!」と応じた後歯を食いしばって操縦桿を操り、スロットルレバーを押し込んでヤマトを動かす。

 デウスーラもヤマトと離れる事のデメリットを考え、追従するように動き出す。

 バラバラに逃げた方が一網打尽にされるリスクは減るが、敵艦隊の只中にある現状では、ヤマトはデウスーラの手数が、デウスーラはヤマトの対空火器が欠かせない。

 

 そうやってヤマトとデウスーラは“ガミラス星とイスカンダル星と要塞の軸線上に移動した”。

 あの要塞砲の射程はかなり長い。波動砲クラスと言って過言では無いだろう。

 だからこそ、影響を考慮すれば目的となる星が軸線上に置かれてしまっては発砲もままならないはずだ。

 案の定、要塞のエネルギー反応が低下し砲口を格納した。

 

 が!

 

 「!? 要塞に更なる動きを確認!」

 

 続けざまに放たれた警告に改めてマスターパネルを見れば、要塞の頭頂部――角の様な物が生えた部分――が回転しながら浮き上がり、その内側に収められていた大量の砲門を覗かせているではないか!

 直後、要塞がその場で回転を始め、全周囲に装備された大量のミサイルとビーム砲から怒涛の砲撃が放たれた。

 要塞砲による砲撃を避ける為、要塞とガミラス・イスカンダルの軸線上から逃げられないヤマトとデウスーラの退路を断つかのように展開されていた艦隊の砲撃も合わさって、集中砲火を浴びる。

 ――あっという間にヤマトとデウスーラは大量の火線に飲み込まれる。まだフィールドが健在のデウスーラも、これほどの火力を集中されては堪ったものではない。

 フィールドを喪失しているヤマトは、パルスブラストの弾幕を全力で展開、ミサイルを撃ち落とし、同時にグラビティブラストの干渉と温存していたバリア弾頭で防ぐべく苦心する。

 デウスーラも持てる火力をありったけ振り絞って弾道を狂わせるべく努力を重ねた。

 ……それでもかなりの数がヤマトとデウスーラに命中する。

 フィールドを喪失した戦艦など、数隻以上まとめて轟沈させられるだけの砲撃が命中している――が、ヤマトはそれに見事耐えきった。

 

 反射材を混入した装甲と防御コートは、損傷を修理する度に混合比を調整したり反射材自体の性能の強化、果ては装甲板に使われている合金自体の改良などが行われている。

 どれも単品では劇的な効果を生み出すには至らないが、相乗効果もあってヤマトの防御性能は冥王星の戦いの頃に比べてもますます強固となっている。

 

 そんなヤマトですら表面には多数の弾痕刻まれ、マストやアンテナと言った構造上脆弱な部位が幾つか破壊される。

 装甲を貫通した砲弾は少ない。ディストーションブロックの出力も表面を覆っていたフィールドに引けを取らないから、反射衛星砲の様に1発が極めて重い攻撃でもないと容易く突破出来ないのだ。

 ましてや相手の攻撃は反射衛星砲以下の威力しかない粒子ビーム砲。数の暴力でも易々とは突破出来ない。

 それでも被弾が集中してしまった部位や、元々装甲が薄く脆弱な展望室や破壊されたパルスブラスト跡から内部に砲弾が貫通した箇所があり、貫通には至らずとも多数の被弾によって生じる衝撃によって内部破壊は発生していた。

 

 装甲支持構造が歪んで装甲が部分的に浮き上がり、剥がれ落ちそうになる。装甲の内側に走っている様々なパイプの一部が裂けて、蒸気やエネルギーを吹き出す。コンピューターの幾つかが衝撃でショートして激しくスパーク。モニターが幾つも弾け飛んで回路も断線、内壁が爆ぜる。

 主砲にも被弾が相次ぎ、強固な装甲を持つ主砲は完全破壊こそ免れているが、砲身を半ばから吹き飛ばされたり、駆動系を破壊されて砲身の1つが大きく跳ね上がって沈黙してしまったり、エネルギー供給システムや回転機構にダメージを蓄積していく。主砲よりも小さい副砲は被弾こそ少なかったが、装甲も薄い副砲は1発の被弾でも大きなダメージを受け、機能を損なわれる。各部ミサイル発射管も、損害を被って機能を失っていく。

 それらの破壊に巻き込まれたクルーが負傷して、その場に倒れこむ。程度の軽い者は重傷者をひとまず安全な場所に移動して医療科の面々に引き渡し、担当部署の応急処置を工作班と共同で行う。

 消火剤を撒いて火災を鎮火し、断絶したケーブル等を予備に交換したり、応急処置と割り切って強引接続。

 内側に生じた亀裂は応急修理用の速乾性液体金属を流し込んで処置する。

 大量の負傷者を運び込まれた医務室と医療室も喧騒が絶えず、イネスは医療科の責任者として手術着に身を包んだまま他の医者と手分けして患者の処置を続けた。

 

 (くっ、このまま戦闘が長引くと助かる者も助けられないわ……!)

 

 イネスは戦闘の激しさを嫌でも思い知らされる。手の施しようがない患者を何人も見捨てなければならなかった。その被害は最も激しい戦いであったと断言される冥王星基地攻略作戦の比ではない。

 恐らく医務室や医療室に運ばれていないだけで、負傷しているクルーも大勢いるだろう。――非常に不味い状況だ。

 ダメージコントロールもそうだが、人の存在にその力を左右されるヤマトにとって、艦自体の損害よりもそちらの方が深刻といえる。

 

 ――人の意思を、命を受けて初めて真価を発揮する“今のヤマト”の最大の弱点。それはクルーに対する直接的な被害と言っても過言ではない。

 

 なまじ命を――意志を持ってしまったが故に、クルーと呼応することでマシンスペックすら凌駕する力を出せる存在へと変貌してしまったが故に、人間に対する依存が極まってしまった。

 かつて元々あった世界の“古代”が、“真田”が、ヤマトの在り方として拘っていた“機械ではなく人の意思によって管理されるべき”という部分が、より顕著に弱点として顔を覗かせてしまっているのだ。

 

 

 

 被弾が相次ぐデウスーラも似たり寄ったりの状態で、かなりの人的被害を受けつつあった。ヤマトほど人的制御に依存していないとはいえ、機械制御も被害が嵩めばいずれ破綻する。

 ……このままではなぶり殺しになってしまう。止むを得ず、ヤマトとデウスーラは破損部から煙を吹きながら退路を塞ぐ敵艦隊の真っただ中に再び突っ込んだ。先程攻撃艇を巻き込んだ砲撃をした要塞ではあるが、あれは無人艇であると予想しているし、事実有人艦と思しき他の艦艇は下げさせていた。

 ならば艦隊の中に突っ込めば、要塞砲に晒される危険性は低い。絶対とは言い切れないが……。

 

 そんな苦境に立たされたヤマトとデウスーラを守るべく、後方で戦っていた艦隊の一部が追いつき、要塞の主砲を免れた親衛隊の生き残りと共にヤマトとデウスーラを守るべく艦隊を再編成、再び徹底抗戦の構えを取った。

 特に有り難かったのは、反射衛星砲搭載艦が4隻ばかり追いついてくれた事だ。反射衛星も数十基程同伴させ、ヤマトやデウスーラを始めとする前衛の艦への誤射を避けながら、ヤマトの主砲以上の火力を持つビームで敵艦隊に砲撃してくれるのだ。有り難くないわけがない。

 さらに、バーガー達を始めとするエースパイロットが指揮する航空隊も合流し、攻撃艇の代わりに次々と戦線に投入されてくる艦載機への対処も始めてくれた。

 さらにダメ押しと言わんばかりに、予想通り要塞からの攻撃が止み砲撃密度が目に見えて低下。ここぞとばかりに速度を上げてヤマトとデウスーラが敵艦隊を突破して味方艦隊と合流、交代することに成功した。

 後は応急修理の傍らに火力支援を継続しながら要塞の解析を継続。なんとか攻略法を見つけ出すしかない。

 

 

 

 前進してくる要塞と敵艦隊から一定の距離を取りながら、じりじりと後退していくヤマトとガミラス艦隊。

 戦局は再び泥沼の様相を呈していたが、このままイスカンダルとガミラス星をあの大砲以外の火器の射程に捉えられる前に決着を付けなければ――。

 

 状況は、ヤマトとガミラスが不利だった。

 

 

 

 

 

 

 一方でゴルバの艦橋で戦局を見守るメルダーズは、ゴルバの主砲を強引な手段で避けて見せたヤマトとガミラス旗艦の姿に感心するやら呆れるやら。

 

 「強行突破の可能性は考えていたが、まさか体当たりで突破するとは……」

 

 普通はそんな事はしない。相打ちになるのが精々だし、運良く突き抜けられても構造材の歪みやらが発生してまともに動けなくなるのが必然。

 にも拘らず、ヤマトは“防御フィールドの類無し”でテンタクルス1隻を体当たりで撃破した上、その後の戦闘継続に何ら支障を生じないばかりか、ゴルバと艦隊からの集中砲火に耐えて逃げ延びるとは……

 

 「……化け物か?」

 

 冗談抜きでこのゴルバと同格の存在かと錯覚すら覚えそうなスペックだ。――単艦で戦局を左右する決定打を有する、という点では紛れも無く同格認定だろうが。

 

 それに、第二射に対する対応も速かった。最初の1発を撃てたのは、位置関係的にガミラスやイスカンダルへの誤射を気にせずに済むからだったが、あっさりと見抜かれたか。

 この懸念があったからこそ貴重なテンタクルスを巻き込んでまで狙ったのだが――あそこまで非常識とは思わなかった。

 その非常識の艦載機と見られるあの人形共も、思いの外強い。今時人型を艦載機として運用する国家など見た事が無かった。

 特に動きが良いのが4体程居たが、特別警戒する必要は無いだろう。バランの時は巨大空母を単機で沈めた奴が居たようだが、その程度の火力ではこのゴルバには通用しない。コバエも同然だ。

 

 警戒すべきはやはりヤマトだ。このまま火力でゴリ押して良ければ、最終的には我が軍の勝利は揺るがない。だが連中が大人しく押されてくれるとは考えにくい。

 

 何かしら策を講じなければならないのだが……。

 

 流石のメルダーズも、底が見えないヤマトとそれに追従して見せるガミラス旗艦の奮戦に、良い策を思いつけずにいた。

 ある意味、ゴルバという絶対的な力を持ってしまい、それ故に基本に忠実に戦う事が最も効率が良く、下手な奇策を実行すれば自身の威力を活かす事が出来ない事を承知しているからこその苦慮であったと言える。

 

 そういう意味では、強力な宇宙戦艦であっても所詮は単艦、それに極僅かな艦載機戦力のみで常に不利な戦いを凌いできたヤマトが、そしてそのヤマトの非常識っぷりに揉まれたガミラスが、こういった事態での対応力と爆発力で1歩も2歩も先んじていた事は、必然的な流れだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 1度は後方に下がったヤマトでは応急修理が進められていた。

 とにかく表面に展開するディストーションフィールドの回復が優先され、各所でフィールドジェネレーターの部品の交換作業と再調整が進められている。

 後方に下がったことで装甲外板の応急修理も可能となったので、速乾性液体金属を流し込んで表面に防御コートを乱暴に塗布して処置する。装甲板を張り替える余裕はない。

 作業用の小バッタと、ボソンジャンプで緊急帰投したエステバリスに作業を手伝って貰う事でかなり時間短縮出来ていた。工作班を作業服で外に出すよりもずっと安全でもあるし。

 おまけでデウスーラの応急修理も手伝ったら、

 

 「人型も案外馬鹿にしたものではない」

 

 とデスラー総統も隣で控えるタラン将軍も感服していたという。

 前衛艦隊はヤマトとデウスーラの応急修理と敵要塞解析の時間を稼ごうと奮戦していたが、要塞からの砲撃の雨に加え、七色星団でヤマトを苦戦させた巨大戦艦が登場すると、一気に劣勢に立たされた。

 流石はヤマトのショックカノンすら弾いて見せただけの事はある、やはりあの防御力は脅威だ。火力も不足ないし、たった1艦しかいないというのにここまで食い付いてくるとは――ヤマトと相対したガミラスも、同じような気分だったのだろうか。

 妙な感想を抱きながらも、一応考えてあったあの戦艦の攻略法を実行しよう。とにかく、“周りの物を有効活用すればいけるはずだ”。

 応急修理も途上だが、ヤマト以外にあの艦をやれる艦はない。

 

 「……リョーコさん。あの戦艦をやります。コスモタイガー隊とヤマトの総力を結集して」

 

 ユリカは自分でも無茶を言っているな、と思う。

 あの巨大戦艦のフィールドはサテライトキャノン・クラスの火砲でなければ破れない。

 だがそれは1撃でやるにはそれしかない、というだけの話だ。

 コスモタイガー隊の対艦攻撃の要であった大型爆弾槽は、最近出番が巡ってこなかった事もあって20個は残されている。

 それに、ちょうど良い位置にある“アレ”を使ってヤマトとコスモタイガー隊の全火力を集中すれば、1隻くらいなら殺れる。

 

 「……了解だ艦長。前の戦いのダメージが多少残ってるが、全機被害らしい被害も無い、現時点での最良のコンディションを保ててる――あの巨大戦艦、何が何でも沈め――ん? 何だよウリバタケ、今艦長と……あ? ハモニカ砲の奥の手? んなのあったのかよ……どうして今まで――まさかてめぇ、また“こんな事も”って奴か? え、違う? 1回で壊れる? マジでヤバい?――」

 

 何やら横やりを入れてきたウリバタケと問答を繰り広げているが……内容からするに、何やらハモニカ砲に隠しダネがあった様子。

 ウリバタケすらここまで明かさずにいた奥の手の詳細が気になるが、まあ聞いている時間は無い。

 

 「え~と、とりあえず私達ヤマトの全てを“叩きつけて”、あの巨大戦艦を何が何でも撃破しましょう。まずはコスモタイガー隊が先発、サテライトキャノン以外の火力という火力を容赦も遠慮も無く、徹底的にお見舞いしちゃってください。その後ヤマトが後から追いついて、“フリスビーをぶち当ててから”これまた全火力を徹底的に集中させます」

 

 ガミラス相手なら、サテライトキャノンを必要なタイミングで使う事にためらいは無かった。だってもうばれてるから。

 しかし、暗黒星団帝国に対してサテライトキャノンを使ったのは七色星団での戦いだけ。あの時の艦隊は1隻残らず壊滅させたし、あの状況下でこちらに戦況を報告していたとは考え難い。

 

 だから、まだ敵にはサテライトキャノンの存在が知れていない可能性が残されている。そこに付け入る隙があるはずだ。

 

 GXかダブルエックス、どちらか片方が使ってしまえば、デザイン的な類似から装備した機体が割り出されてしまい以後警戒される事は間違いないが、良く知られていない今なら不意打ちで最大の威力を発揮するはずなのだ。

 

 「アキト、リョーコさん。ガンダムの火力も全部吐き出す覚悟で挑んでほしいけど、2人の機体は要塞攻略の要なんだから、サテライトキャノンを使えなくなるような損傷は絶対受けないようにしてね」

 

 「わかってる。サテライトキャノン、確実にあの要塞に撃ち込んで見せるさ」

 

 そう答えたアキトではあるが、アキトの頭にはボソンジャンプで敵要塞の至近距離に接近し、あの主砲を撃つ瞬間に自爆覚悟で接射するという手段しか思いつかなかった。

 どんなエネルギー偏向フィールドであっても、砲口まで遮蔽してしまえば発砲出来ないはず。

 仮に遮蔽した状態で撃てるとしても、発射口の内側までは無いはずだ。ボソンジャンプならフィールドを乗り越えて接射に持ち込める。持ち込めるが――

 

 (タキオンバースト流の影響を考えると、ボソンジャンプでの離脱は多分厳しい。次元断層の時のヤマトみたいに、反動を吸収させずにバックする? いや、それでも。間違いなく自爆必須の戦術になる……)

 

 それでは駄目だ。アキトの戦いは――贖罪は、ヤマトが地球を救うまで終わらない。

 それは今後も現れるかもしれない脅威も含まれているし、何よりアカツキ達が――義父たるコウイチロウまでもがアキトに「帰ってきて欲しい」と八方手を尽くし、その機会を用意してくれたのだ。

 無碍には出来ない。

 それ以外に手段が無いと諦めてしまう前に、何とかしてサテライトキャノンを通す方法を考えなければ……。

 

 (ボソン砲でガミラスの超大型ミサイルを送り込む? いや、内部に送り込むようなイメージは俺には出来ない。発射口前に送り込むだけじゃ破壊出来ない可能性が……)

 

 やはり、あの規模の要塞を確実に破壊するとなればサテライトキャノンの威力が欲しい。

 

 「……」

 

 戦闘指揮席からマスターパネルに映る要塞を睨み続けていた進も、何かアイデアが無いかと必死に頭を回転させる。

 アキトが考えた手段は勿論進も考えた。だがそれは決して許容出来ない。

 

 (フィールドを中和――駄目だ。一番ポピュラーの手段ではあるが、出力差が大き過ぎて中和には至らない。ボソン砲?――案としてありだが、それを実行する手段が無い。アキトさんは確かにA級ジャンパーだけど、内部のイメージが無ければ送り込む事は出来ない。お母さんなら出来るだろうけど、それをしてしまえば状態が悪化して確実に命を――――何か無いか、フィールドに穴を開けてサテライトキャノンを届かせる何か……)

 

 考えに詰まり、何かヒントになるものは――と後方を振り向く。そこには艦長席に座ったユリカと、その頭上にある沖田艦長のレリーフ――。

 今となっては、ユリカと並んで進の背を押してくれる、目標と言っても過言ではない存在。

 

 (今は、あの巨大戦艦を倒すのが先か……戦いの中で、何かヒントがあれば良いんだが)

 

 進は一端思案を中断。ヤマトの火器のコンディションを確かめる。

 とりあえずの方針が決定したユリカは、デスラーに一言断りを入れた後、すぐに対決の準備を進めさせることにする。

 

 「ミスマル艦長、確実に仕留めましょう。ヤマトの力なら出来ると信じております」

 

 ドメルの言葉にユリカも「お任せを」と応じる。張り切り過ぎで頭痛が酷くなってきたし目の前が軽く揺れるが、だいぶ慣れた苦痛なので耐えられる。――耐えちゃいけないんだろうけど。

 新しいドロップ薬を口に放り込み、雪が持ち込んでくれた無針注射針を腕に撃ち込んだ薬漬けユリカは、ルリと雪に突入コースの割り出しを依頼、ハリにもそれに則って突撃するように指示を出す。

 ヤマトのフィールドはまだ完全ではないが、完全回復を待っているとあの巨大戦艦の蹂躙を許しかねない。

 早急に退場願いたいのだ。

 少々荒っぽく非道な手段が混じるが、背に腹は代えられぬと妥協するしかないだろう……。

 

 「ルリちゃん、ロケットアンカーの強度は大丈夫そう?」

 

 「計算上は何とかなりそうです。ただ、出来るだけ小さいのを選んで下さい」

 

 「ラピスちゃん、機関部の様子は?」

 

 「波動相転移エンジンの出力は80%を維持。何とか安定しています」

 

 「全力運転は?」

 

 「180秒保証出来ます。それ以上は、今のコンディションでは厳しいですね」

 

 ラピスの答えに頷くと、今度はハリと進に「120秒で決着を付けるよ!」と宣言。

 

 「了解!」

 

 2人も威勢良く応じる。ハリは腕に巻かれた包帯に滲む血の量が増えているのが気がかりだが、本人はまだまだやる気らしく交代する気配を見せない。

 これから要求される精密操舵には不安が残るのだが……。

 流石にユリカが不安がっていると、右エレベーターのドアが開いた。

 

 「その傷で精密操舵は無理だと思うぞ、ハーリー……1人じゃな」

 

 何と杖を突いた痛々しい姿の大介が第一艦橋にやって来たではないか。

 頭に包帯を巻いて、右足と肋骨を折っていてとても任務には就けないと入院させられていたのだが……。

 

 「ドメル将軍、申し訳ありませんが予備操縦席を使わせて下さい」

 

 「しかし……」

 

 「島さん、その怪我じゃ僕以上に無理ですよ!」

 

 揃って渋い顔をするが、

 

 「だが精密操舵が必要なんだろ? その腕の怪我じゃ精密操舵なんて出来やしないさ。だからハーリー、お前は無事な左手でスロットル制御を担当してくれ。舵は俺がやる。流石に腕を伸ばしてスロットルを動かすのキツイからな」

 

 「……でも……」

 

 「良いから任せろって。大体入院してなきゃならないのは艦長だって同じなんだ。上司が頑張ってて部下が寝てるってのは、格好付かないだろう?」

 

 「うぐぅっ……!」

 

 まんまとダシにされたユリカが呻く。確かに艦長として指揮を執ると宣言した時猛反対されたのを屁理屈で押し通したのは自分なので、こう言われてはとても言い返せない。

 

 「……わかりました」

 

 流石にハリも折れるしかなかった。出血が増えたからだろうか、腕の感覚がだいぶ薄くなっている。正直精密操舵の自信があったとは言い難い。

 ドメルも大介の気持ちを汲んで、座っていた予備操縦席を明け渡し、自分は空いている航行補佐席に移る。

 

 「さてホシノさん、お手数お掛けするが航行補佐席の表示をガミラス語に変更して貰えませんか? 私も一仕事しなくては」

 

 「――少し待ってください……これでよろしいでしょうか?」

 

 「ありがとう。ヤマトのシステムには慣れていませんが、これで私も少しはお手伝いが出来るというものです」

 

 ルリの仕事にドメルも満足。七色星団の時は知恵袋として色々と手腕を振るったドメルではあったが、ガミラス艦隊と合流してからは立場的に特に指揮を出来る状態に無い。

 それにまだまだ未熟な進ならまだしも、ユリカは多少経験の浅さを感じる事はあるが、伊達に自分と1度は張り合い逃げ延びただけの事はある。特に口を挟む余地も無くヤマトを動かしていて、言い様は悪いが少々暇を持て余していたのだ。

 

 「コスモタイガー隊、全機発進!」

 

 進の指示が格納庫に飛び、急ピッチで再出撃準備を整えていたコスモタイガー隊各機が次々とカタパルトレーンに乗せられ、ヤマトの外に飛び出していく。

 ほぼ全ての機体が大型爆弾槽を追加した重爆撃機仕様。倉庫の在庫を全て出し切る大盤振る舞いの――決して失敗出来ないオンリーワンアタック。

 ガンダムは大型爆弾槽こそ装備していないが、GXがディバイダ―装備に換装され、ダブルエックスもディバイダーを左手に装備している。エアマスターとレオパルドは特に変更は無いが、最大出力で砲撃出来るようにちょっとだけ細工された。

 

 全機発進したコスモタイガー隊が、ヤマトの周囲に1度停滞――突撃の構えを見せる。

 

 「――ヤマト、敵巨大戦艦に向けて突撃開始!!」

 

 「コスモタイガー隊、全機突撃開始っ!!」

 

 ユリカと進の合図で、コスモタイガー隊とヤマトが動き出す。

 先鋒はコスモタイガー隊。大型爆弾槽で重くなった機体を巧みに操り、目標となる巨大戦艦目掛けて脇目も降らず挑みかかる。対空火器を備えていない様子の巨大戦艦ではあるが、その穴を埋めるべく艦首の開口部からイモムシ型戦闘機を次々と放出してきた。

 どうやらヤマトの航空隊を警戒してギリギリまで温存していたらしい。

 だが、前線で艦載機を放出するのは判断ミスも良い所だ。

 

 「あそこが弱点だ!!」

 

 リョーコが叫べば全員が虫型戦闘機の迎撃を交わしながら肉薄、一斉に爆弾槽をパージ。慣性で飛び込んでいく大型爆弾槽は、フィールドで威力の大部分を受け止められてしまったが、20発も連続で被弾した事でフィールドに綻びを生み出す事は出来た様子。

 エステバリスとアルストロメリア全機は、グラビティブラストの火力を全て爆弾槽が命中した場所目掛けて集中させ、そこにエアマスターとレオパルドも参加。干渉して威力を失ってしまうビーム兵器を使えないとはいえ、ガンダムの出力を全て注ぎ込んだグラビティブラストの威力でゴリ押す。

 そこにやって来たのは本命のGXとダブルエックス。2機はハモニカ砲を展開したディバイダーを頭上に構え、ウリバタケから教わったリミッター解除コードを入力して最大出力!

 ディバイダーから重力波で構築された巨大な刃が生まれる。

 

 これはウリバタケがロマンとして密かに研究していたが、構造的に負荷に耐えきれず、まず間違いなく1度の使用でディバイダーがスクラップ。下手をすればエネルギーのキックバックでガンダムの腕部すら破壊しかねないと封じていた、ブラストブレード・モードだ。

 

 収束した最大出力の重力波の刃を、切っ先から押し当てるように一転集中で突き刺す。両端のスラスターも全開にして、スパークが迸るディバイダー。

 ダメ押しにとグラビティブラストも次々と撃ち込んで、フィールドへの負荷を蓄積させていく。

 

 

 

 

 

 

 コスモタイガー隊の必死の攻撃で巨大戦艦のフィールドジェネレーターは悲鳴を上げ、乗組員は必至にフィールドを維持せんと応急処置に奔走するが、そんな彼らの眼前には一連の戦法の締め――宇宙戦艦ヤマトが迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 ヤマトの接近を確認したコスモタイガー隊が四方に散っていく。

 GXとダブルエックスは限界を超えたディバイダーを素早く投棄して離脱、最後の止めをヤマトに譲る。

 

 「やるぞハーリー!!」

 

 「はい大介さん!!」

 

 出航以来互いに支え合ってきた2人が操るヤマトが、最大戦速で巨大戦艦へと突っ込む。

 エンジンはラピス達機関士の努力で全力運転状態を維持、工作班の懸命の努力でディストーションフィールドも20%の出力で展開可能となった。

 大介は巨大戦艦の大型3連装砲から放たれるビームを速度を殺す事無く、艦体の避弾経始を利用して受け流す。それでも被弾した部分の防御コートが瞬時に帰化して煙となり、装甲が一部赤熱化して削られる。

 

 だがヤマトは止まらない。その程度では致命傷足り得ない。

 

 熟練の域に達した操舵でヤマトを操る大介に合わせて、ハリがスロットルを巧みに操作、大介が要求する推力を適時得られるようにする。

 そして、不慣れと言いながら航行補佐席のドメルが敵艦の回避行動を予測して進路を2つの操縦席に伝達、ヤマトの進路を確たるものとしていく。

 

 「フィールド艦首に集中展開!」

 

 進の指示でありったけの出力で展開されたフィールドがヤマトを包みこむ。

 そのまま突撃――と思わせて、ヤマトは巨大戦艦の手前で大きく旋回。隣を航行中の巡洋艦に艦首を向ける。少々大きいが駆逐艦を狙うには遠い。妥協しよう。

 

 「フィールド最大出力! ロケットアンカー発射!」

 

 守が砲術補佐席からの制御で両舷のロケットアンカーを射出する。

 高密度のフィールドを身に纏った2基のロケットアンカーが、艦首方向の巡洋艦目掛けて射出。そのフィールドを突き抜けて艦首付近に深々と刺さる。

 

 「引っ張れえぇーーっ!!」

 

 ユリカの号令に合わせて大介は素早く逆噴射、それまでの勢いを一気に殺して急停止――からの逆進で巡洋艦を強引に引っ張る。巡洋艦は予想外のヤマトの行動にパニックを起こす。そんな巡洋艦の艦橋に容赦なく副砲を撃ち込んで指揮系統を黙らせる。

 準備完了!

 

 「錨上げっ!!」

 

 ユリカの命令に従ってロケットアンカーのリールが最大トルクで巻き上げられる。

 リールからは激しい金切り音が鳴り響き、鎖もあちこちで『ギギギ』と金属が変形する音を上げるが、躊躇せずに巻き上げ続ける。

 巡洋艦は制御を失い噴射を続けるメインノズルの推力も借りて、ヤマトの艦首にぐんぐんと迫り――艦首表面に展開されたフィールドに接触寸前になる。

 

 「今だ!! 反転右270度!!」

 

 大介は巡洋艦がヤマトの艦首に接触するタイミングを見切ってヤマトをその場で270度回頭、120度回頭した時点で守はアンカーのリールをフリーに、鎖が自由に伸びるようにする。

 すると、巡洋艦は自身の勢いは勿論、接触したヤマト艦首の窪みに上手く引っ掛けられるような形で“投げ飛ばされる”。円盤状の艦体を持つため、まるでフリスビーの様に。

 哀れ巡洋艦はそのまま“質量弾”となって巨大戦艦に向かって突き進み――直撃する。

 

 「全砲門! 敵艦艦首に向けて全火力を集中! 撃てぇっ!!」

 

 最後の仕上げと、勢いのままに全火力を左舷に向けたヤマトから、怒涛の勢いで砲撃が開始される。

 傷つきながらも機能している主砲3基と副砲2基。それに生き残った左舷側のパルスブラストとミサイルも足して次々と砲火を撃ち放つ。ヤマトから放たれた砲撃は質量弾代わりにされた巡洋艦をあっさりとハチの巣にして大爆発を引き起こしながら、その先にある巨大戦艦の発着口目掛けて集中される。

 度重なる攻撃による負荷、そして味方の巡洋艦を故意にぶつけられて限界を迎えつつあった巨大戦艦のフィールドがついに決壊! 偏向フィールドの加護を失った巨大戦艦の艦首発進口から次々と内部に砲撃が侵入――反対側から突き抜ける。

 

 「急速離脱!!」

 

 効果を認めたユリカはすぐさま離脱を指示、ヤマトはメインノズルと補助ノズルを最大噴射。

 猛烈な噴射炎を吹き出しながら、巨大戦艦の爆発が生み出した火の玉を背に悠然と宇宙を進む。ボロボロになったロケットアンカーを巻き上げつつ、他の艦への火力支援を加えながらもデウスーラの傍らに戻る進路を取る。

 

 共通の目的を持ち、互いに認め合って数多くの修羅場を共に潜り抜けてきたからこそ生まれる連帯感。

 それにフラッシュシステムを介したヤマトとのほんのささやかな、だが確たる一体感があってこそ成し得る“ロケットアンカーによる投げ技”。

 

 そこにミスマル・ユリカの型に嵌らない突飛なアイデアとそれを形に出来るプロフェッショナルが揃った、奇跡のような組み合わせだからこそ成し得た、まさに神業であった。

 

 ヤマトの離脱に合わせて武器を使い果たしたコスモタイガー隊も続き、次々とヤマトに着艦。

 ダブルエックスはサテライトキャノン周りの再点検、GXは装備の換装作業に入った。

 周辺の艦載機の迎撃作業は、エアマスターとレオパルドを中心に、ガミラス航空隊に一任する形となった。

 

 

 

 一方で、「何とかする」と言い切ったユリカの手腕を見届けたデスラーとタランは、相も変らぬ無茶苦茶な戦法に開いた口が塞がらない有様だった。

 

 「…………艦載機の全火力集中からの母艦による火力の集中までは理解出来ましたが、まさか前時代的なアンカーを使って敵艦を“投げ飛ばした”ばかりか、質量兵器として活用するとは……一歩間違えれば相打ちになりかねない危険な戦法をこうも危なげなく……」

 

 彼らの心臓は超合金で出来ているのだろうか。

 ガミラスも最終手段として体当たりをすることが無いわけでないが、それは相打ち前提の最後っ屁でありこのような戦術として使うべきものでは……。

 

 「――タラン、ヤマトに繋げ。あの要塞の攻略法を思いついたぞ」

 

 「え?」

 

 不敵に笑い、プランを話すデスラーの姿に、タランは頼もしさを感じ――同時に「ああ、ヤマトに毒されてしまわれた……」と嘆いたとか嘆かなかったとか。

 

 

 

 「……本気ですか、デスラー総統?」

 

 「無論だ」

 

 デスラーの策を聞かされたユリカは思いがけない提案に思わずデスラーを問い質してしまう。

 だが無理らしからぬ事だと、傍らで聞いていた皆も思ったという。

 

 

 

 結局ユリカも進もドメルも、それ以上に効果的と思われる策を思いつかなかった事もあり、デスラーの作戦を確実にするために八方手を尽くすことになった。

 

 まずは交戦圏への砲撃に使わなくなった反射衛星の回収作業だ。

 使うその瞬間まで、デウスーラの翼部にミサイルやらドロップタンクよろしく吊り下げるようにして配置する。この作業にはヤマトから提供してもらった反重力感応基を使う。

 そして、デウスーラの艦体部分に乗り組んでいたクルーを可能な限りコアシップに、収容しきれなかった人員は全てヤマトが引き受ける。

 ヤマトの艦内も応急修理やら物資や怪我人の運搬で荒れに荒れていたが、移乗したデウスーラのクルーも出来る限りヤマトのダメージコントロールに協力する。

 もう機密とかそんな事を言っていられる状態でもなくなった。とにかく力を合わせてこの局面を脱する事しか頭に無い。

 

 その間にも、徐々に前に出てきていた反射衛星砲搭載艦4隻が、ヤマトとデウスーラに代わって前線への火力支援に加え、要塞へのちょっかいを担当した。

 反射衛星砲の火力では要塞の防御は一切揺るがなかったが、その偏向フィールドの性能を推し量る上で不可欠な行動である。

 

 「――やはりだ。艦長、デスラー総統。あの要塞の偏向フィールドは、ヤマトやガミラスのディストーションフィールド同様、装甲表面に誘導する形で展開されていると見て間違いないでしょう。全体を球形状に包めるフィールドを展開出来るかどうかははっきりしませんがあの規模の要塞です、エネルギー効率を考えて装甲表面に誘導する方式を導入したのなら、恐らくは――」

 

 「なるほど。確かに我がガミラスも、エネルギー効率や武装の効果的な活用を考え装甲表面に誘導するフィールド防御システムを採用しているが、物体を球形状に包み込むフィールド防御方式は採用してはいない。連中も同様である可能性は十分に考えられるという事か――少し調べてみる必要がある。ミスマル艦長、ヤマトの主砲で要塞上部の砲台を狙えるか?」

 

 「有効射程ギリギリですが、何とか届くと思います――進、撃って!」

 

 「了解! 主砲発射準備、目標敵要塞上部の砲台――発射!」

 

 「発射!」

 

 進の指示に応じて砲術補佐席の守も最大射程での射撃を補助すべくヤマトの観測機器をフル活用して照準誤差を修正、第一・第二主砲に伝達して砲撃準備を進めさせ、号令と共に射撃させる。

 第一主砲と第二主砲から放たれた重力衝撃波4本は、真っ直ぐに要塞上部の砲台部分へと突き進み――3本は弾かれたが、偶然砲門に真っ直ぐ命中した1発はその砲門を破壊して小規模の爆発を引き起こす。

 

 「――どうやら、あの偏向フィールドは砲門を覆うようには展開出来ないようだな。とすれば、あの巨大砲にも同様の事が言えるはずだ。もし仮に砲口を塞ぐように展開出来るとしても、デスラー総統の作戦通りに行けば問題無く攻撃を通せるだろう……ヤマトを恐れるはずだ。あの砲撃の出力なら、波動砲1発で相殺出来る。連射性に勝るトランジッション波動砲なら、相殺直後に無防備な発射口を狙い撃ち出来る。敵がヤマトを恐れ、ガミラスを軽視したのは波動砲の有無だけでは無い、連射機能の有無だったのだ」

 

 真田の推測にユリカも進も得心が言ったという表情だ。

 単に波動エネルギーだけが怖いのなら、ヤマトをこれほど脅威に思う理由としては弱い。だが、トランジッション波動砲を有していると確認が取れているのがヤマトだけなら、あの要塞の数少ない弱点を突ける艦艇として警戒されるのも頷ける。

 

 「――真田、あの部分にサテライトキャノンを命中させても効果は無いのか?」

 

 「効果はあるだろう。とは言え、あの要塞の構造材の強度や構造がわからん。それにヤマトの様にフィールドを装甲の間にも展開していたり、非常用の隔壁としても活用している可能性は否定出来ん。発想自体は誰かしらが思いついていても不思議ではないからな。一応ガミラスの艦艇では採用されていない事は確認出来ているが、暗黒星団帝国にそのまま当てはめるのは止めておいた方が良いだろう。それにあそこは要塞の末端だ。司令室の類が無いとは言い切れないが、仮に司令室を破壊出来ても要塞そのものが健在では最悪共倒れを図ってくる可能性がある……狙うのなら、構造的に動力炉に直結していそうな巨大砲が適切だろう――そちらにもエネルギー逆流や、こういった事態を想定した障壁の類が用意されている可能性は高い。あったとしても、どの程度の強度なのかは皆目見当もつかん。幾ら質量50億tはあるスペースコロニーを1発で消滅させるツインサテライトキャノンと言っても、波動砲やあの要塞の砲撃に比べると見劣りしてしまうのは事実だからな……デスラー総統の策は、そういった点でも有用であると考えます、艦長」

 

 「……」

 

 ヤマトが異様に強固だと思ったら、そんな秘密があったのかと今更ながら納得するデスラー。考えてみれば、ガミラスではディストーションフィールドを装甲表面に展開して防壁にする使い方はしても、隔壁代わりに使おうという発想は無かったと記憶している。

 と言うよりもガミラスは装甲板に複合装甲を採用している。話からするに、恐らくヤマトは装甲自体に“隙間”をも受けている中空装甲を採用し、その隙間の部分にディストーションフィールドを張り巡らせることで防御力の底上げを図っているのだろう。

 推測ではあるが、恐らく複合装甲も交えた複合中空装甲と言った具合だろうか。

 

 確かにヤマトは単艦での長距離航海とガミラスとの戦闘を前提に開発された艦。単純に性能のみを追求するのであれば決して間違っていない選択と言える。が、その分装甲を作る手間もコストもかかる。

 ガミラスでなくても十分な数の宇宙艦艇を揃えようと思えば、コストと性能で折り合いが付けやすい複合装甲にディストーションフィールドの様な防御フィールドを組み合わせた方が効率的だ。

 故にガミラスでは何時しか過去の遺物と化していた中空装甲。この様な使い方があったとは。

 

 ついでにあのダブルエックスという機体の最大火力もさらっと出てきていたが、シュルツでなくても「地球人は頭おかしい(真顔)」と言いたくなるスペックだ。

 水中――しかも深度300m地点にある基地施設を1発で消滅させたのだから、その程度のスペックはあると推測は付いていたが……改めて聞かされるとやはり正気を疑いたくなるスペックだ。

 そんな大火力を全長10mにも満たない機動兵器に装備させ、最悪パイロットの裁量で使わせるとは――。

 滅亡の淵に追い込んだガミラスが言えた立場では無いだろうが、それでも声を大にして言いたい。

 

 地球人は発想も突飛だがやる事も極端から極端に走り過ぎる! と。

 

 ヤマトのスペックもガンダムのスペックも、少数で多数を退けるための苦肉の策なのは理解出来る。だが考えたからといって実現してしまうのは本当にどうかと思う。

 

 「それにもう1つ朗報だ。先程の巨大砲の砲撃によって受けた被害と、これまでの戦闘データの解析をルリ君とオモイカネに手伝って貰っていたんだが、彼らが使用するビーム兵器は波動エネルギーとの融合反応を起こさないと断言しても良い。もしも反応を引き起こすというのなら、ヤマトの波動砲発射でその事実に気付いていた彼らが遠慮なくこちらを攻撃していたことの説明がつかない――彼らは攻撃そのものには問題が無くても、撃破した後の波動エネルギーの流出がどのように作用するのかだけが心配だったのでしょう。それが解消された現在だからこそ、あの要塞の巨大砲すら気兼ねなく動員出来た。つまり――」

 

 「つまり、モード・ゲキガンフレアであの巨大砲を防いだとしても、過剰反応で自滅する事は無い――という事ですね」

 

 進の問いに真田が頷く。

 デスラーの策の一番の問題は、如何にしてあの要塞に無傷で突っ込めるかだったのだが、モード・ゲキガンフレアが使えるのなら、解決したも同然だ。

 

 「……お手数をかけて申し訳ないのですが……そのモード・ゲキガンフレアと言うのは、波動エネルギーを身に纏った突撃戦法の事でしょうか?」

 

 一応訪ねておくタランに、第一艦橋の全員が頷く。

 なぜその様な名前になったのかは後日伺えたが、ロボットアニメという文化を持たないガミラスの面々にとって理解に苦しむものであった事は言うまでもないだろう……。

 

 

 

 そもそも何故火器兵器を持ちながら体当たりが最強武器なのだと率直な疑問が飛んだのだが、「ロマンって奴です」と返されてますます渋い顔になったとか。

 

 

 

 ともかく、作戦は決行された。

 

 ヤマトはGファルコンDXとGファルコンGXをカタパルトから撃ち出した後、デウスーラを伴い支援砲撃を受けつつ最大戦速で敵機動要塞に向かって突撃を開始する。

 ヤマトを先頭にデウスーラが続く形になっているのは依然と変わらないが、少しでもエネルギーを温存すべく砲撃を一切控え、残されたわずかなミサイルのみを使用した反撃で敵艦隊を突き進んでいく。

 当然敵艦隊もヤマトとデウスーラに火力を集中、その進路を阻む。ヤマトとデウスーラは、デウスーラが切り離した反射衛星を使って砲撃を適度に捌きながらも、大きく旋回しながら艦隊の密度の薄い部分を選択して突き進み、艦隊を突破する。追撃は無い。

 

 当たり前だ。ヤマトとデウスーラが通ったルートは仕組まれたもの。安全に進もうとすれば自然と要塞の巨砲の射程内に飛び出してしまう様になっている。承知の上で逆らわなかっただけだ。

 恐らくメルダーズも多少きな臭いものを感じながらも、巨砲で狙えるなら好都合と考えたに違いない。早速要塞の巨砲が重々しくハッチを開き、砲身を覗かせる。

 ――撃つ気だ。

 

 「艦内全電源カット! 波動砲、モード・ゲキガンフレアで準備!」

 

 要塞の動きを確認するよりも早く、ユリカはヤマトの切り札の発動を指示する。次元断層での戦い以来使っていなかったモード・ゲキガンフレア。十中八九連中は知りもしないだろう。

 波動砲クラスの要塞の巨砲を防ぎきれるかは少々不安が残るが、ここはヤマトを信じて突っ切るしかない!

 

 「波動相転移エンジン、圧力上げます。非常弁全閉鎖! 波動砲への回路、開きます!」

 

 非常灯を除いて全ての照明が落とされた艦内。

 機関制御席のモニターの光で暗い艦橋内に青白く浮かび上がるラピスの顔。この戦いにおける、ヤマトのラストアタックを目前に控えながらも、その表情に焦りは一切浮かんでいなかった。

 もう何度も繰り返した波動砲の準備手順。そこに迷いはない。

 激戦続きでエンジンは好調とは言い難いが、そこはヤマトの根性と自慢の部下達の手腕でどうにでも出来る。そう言い切れるだけの実力を見つけた。

 完調とは言い難いエンジンの唸りを上げ、フライホイールの回転が高まると同時により強い輝きを発し、出力がグングン上昇していく。

 

 「波動砲、安全装置解除。最終セーフティーロック解除!」

 

 進の操作で6連炉心の前進機構のロックが外され、突入ボルトへの接続準備が進んでいく。

 時同じく、戦闘指揮席のコンソールが反転して波動砲トリガーユニットが出現。進は力強く左手でグリップを掴み、右手でボルトを押し込んで発射モードを切り替えてから、右手でもグリップを握りしめる。

 

 「ターゲットスコープオープン! 電影クロスゲージ明度20!」

 

 ポップアップしたターゲットスコープの中央に、巨砲を展開しつつある要塞の姿が見える。――今から叩き潰す標的の姿だ。

 

 「多目的安定翼展開。タキオンフィールド発生開始!」

 

 操舵席のハリが主翼とタキオンフィールドの制御を担当、ワープ航法のアシストも含めて目を瞑ってても出来るくらいに慣れ親しんだ操作。勿論文句のつけようがない完璧な仕事を披露する。

 

 「突入コースのデータ、戦闘指揮席に転送します。そのルートを辿れば要塞の近くまで到達出来るはずです」

 

 雪が主電探士席から戦闘指揮席に突入コースのデータを転送。盲目飛行を余儀なくされるモード・ゲキガンフレアを活用するには、どうしても欠かせない作業の1つ。

 後は、要塞の動きがこちらの予測から外れない事を祈るだけだ。

 

 「デスラー総統、ヤマトの突撃と合わせて下さい。ハードウェアの関係で、デウスーラでは完璧なモード・ゲキガンフレアの再現が困難です。ヤマトの航路からずれると、あのエネルギー砲に耐えきれずに吹き飛ばされます」

 

 「わかった。ヤマトに遅れず付いて行こう」

 

 ルリから送られてきたプログラムのインストールは既に完了している。

 デウスーラもタキオン波動バースト流の制御を目的としたタキオンフィールドジェネレーターを艦首に装備している。まるでナデシコのディストーションブレードのようにも盾のようにも見える、デスラー砲を挟み込んだ艦首構造物がそうだ。

 これは、ヤマトの解析データから波動エネルギーの制御システムとしてあの可変翼を使っているのではないかという推測の上、ワープ時の負荷軽減のために使用されるタキオンフィールドをタキオン波動バースト流の制御に使えるようにと、デウスーラのデザインに反映された結果だ。

 主翼のデッドウェイト化を避けるためと、コスモリバースシステムありきで構築されたヤマトに対して、デウスーラのそれは波動砲としてのエネルギー制御に特化している。

 本来こういった用途にはとことん不向きな構造になっているが、そこは力業でどうにかする。

 

 既存の艦艇を使いまわすのではなく、無理をしてでも新造艦として用意したおかげで、この起死回生の一撃を見舞う事が出来るのだと思うと、デスラーは工廠のスタッフ一同に頭が下がる思いだった。

 

 ――彼らの英知の結晶、決して無駄にはしない。

 

 その思いと共に、デスラーは床から出現したデスラー砲の発射装置を掴む。拳銃型のヤマトに対して、機関銃を模したそれを。

 側面のレバーを引いて安全装置を解除。ヤマトと並行して行われた準備は順調に進み、エンジンの出力は間もなく120%に到達する。

 そして、メインパネルに映るゴルバの姿を、発射装置のアイアンサイト越しに睨みつける。

 

 ――これで、この戦いに終止符を打とうではないか。

 

 デスラーはグリップを握る手に力を籠める。

 

 「出力120%に到達! 6連炉心、突入ボルトに接続!」

 

 「総員、対ショック準備!」

 

 「デスラー砲、エネルギー充填120%」

 

 眼前の要塞のエネルギー反応が高まっていく。発射は目前だろう。

 タイミングが遅すぎても速過ぎても、ヤマトとデウスーラは消滅する。たった1度しか出来ない、あの要塞を葬り去るこの作戦。

 この作戦の成否が――ガミラスとイスカンダル、そして地球の命運を決定する。

 気負いながらも進は不自然なほど落ち着いている自分を自覚した。

 失敗すれば終わりだと理解しながらも、頭の冷静な部分が「今までもそうだった。気負う事は無い」と告げる。

 思えばヤマトの航海は常に綱渡り。ガミラスの攻撃は苛烈であり、未知なる宇宙すらも牙を向いた。

 それら全てを潜り抜け、ヤマトはガミラスとの戦いすら終わらせて――イスカンダルに来た。

 後は、カスケードブラックホールをヤマトの全力をもって排除さえすれば――恩人の星イスカンダルを破滅から救い出し、ガミラスと手を取り合う道筋が見える。

 

 ―――だから、眼前の“小石”に躓いているわけにはいかない。

 

 確かに彼らにとっては祖国の命運を左右する戦いかもしれない。――だがそれはこちらとて同じこと。

 結局、ガミラスと戦っていた時と何も変わらない。相手が話し合いで解決出来ない姿勢を見せているのなら、残された選択肢は屈服か、徹底抗戦かの二択しか残らない。

 後者を選びながらも和睦の道を探す事は出来るかもしれないが、それは基本的に楽観的すぎる考えだ。

 

 ――ガミラスとこのような結末に至れたのは、本当に、本当に運が良かっただけ。たった1つ何かが掛け違っていたら、こうはならなかった。

 

 例え互いを認め合ったところで、抱えた問題を解決出来なければ争いに終わりは無い。たまたま、ガミラスとの戦いには落し所があった。それがご都合主義的なまでに噛み合って最良と思える結末に辿り着けただけなのだ――。

 

 (だから――申し訳ないが、お前達を下す)

 

 生きたいのは――皆同じなのだ。幸せになりたいのは――皆同じなのだ。

 その道を阻む障害が眼前にあるのなら、それを取り除きたいのは共通の願い。

 全てを丸く収める事が出来ないのなら――果たしてどのような選択が正しい。

 少なくとも、自分達が生きるために他者を振り落とすという選択は――現実的であっても最良の結果とはとても言えないだろう。

 だが、最良ばかりを求めて現実を見失うわけにはいかない。

 だからせめて――せめて、自分達の行動の結果からは逃げずにいる。

 もしこれで恨みを買い、それで地球が本当に戦火に見舞われるというのなら――その尻拭いは自分達でする。

 その結果――直接自分達の手で彼らの文明に終止符を打つことになるとしても……だ。

 

 かつてヤマトは“そうしてきた”。“そうせざるを得なかった”。“それ以外の道を模索する事が出来なかったから”。

 

 だから、自分達もそれに倣おう。

 カメラの映像を映す正面の窓。シャッターが下りていて、映像を映しながらも内側の光景を鏡のように映している。

 その中で、バイザー越しにユリカと視線があった気がした。彼女は視線で進に言った

 

 ――行くよ、と。

 

 進も視線で応じた。

 

 ――行きます、と。

 

 

 

 「波動砲――」

 

 「デスラー砲――」

 

 「発射っ!!」

 

 進は引き金を引いた。デスラーも引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 ゴルバの主砲が放たれた時、メルダーズは勝利を確信した。

 ヤマトとガミラス旗艦の防御フィールドでは防ぐことは出来ない。

 タキオン波動収束砲で相殺を図っていた節があるが、どうやらそれも叶わなかったようだ。

 

 (勝った……)

 

 思わぬ強敵を前に、らしくない事を考えた。

 ……まさか味方の巡洋艦を旧式のアンカーで“投げ飛ばして”プレアデス級巨大戦艦の防御を突破するとは。

 力尽くにもほどがあるが、質量兵器に対してはエネルギー兵器よりも効果が薄い空間歪曲フィールドの弱点を突いた、なかなか良い着眼点だ。――方法は滅茶苦茶だが。

 だが善戦もここまで。幾ら何でもゴルバの主砲を受け流してヤマトが反撃する事は叶わない。ガミラス旗艦諸共蒸発して消え、後は――。

 メルダーズは眼前の光景に目を奪われた。らしくなくポカンと開いた口からは「馬鹿な……」と驚きの声が力無く漏れだし、自身の迂闊さを呪い――敗北を確信した。

 

 

 

 

 

 

 要塞から放たれた波動砲にも匹敵する砲撃の中を、波動エネルギーの膜で包み込まれたヤマトとデウスーラが突き進む。

 ヤマトに比べるとエネルギー制御が甘いデウスーラも、ヤマトが砲撃のエネルギーを切り裂いてくれているおかげで何とか持ちこたえている。

 激しい振動にさらされながら、2隻は要塞の星をも砕く強烈な砲撃の中を突き進み――突き抜けた。

 

 眼前には、無防備に露出したままの砲口が覗いている。チャンスは今しかない!!

 

 「反転左120度! 全速離脱!」

 

 デウスーラの前方を直進していたヤマトが急転換してデウスーラの進路上から離脱する。エネルギーを使い果たして停止した波動相転移エンジンの代わりに、自沈前から継承されている補助エンジンが限界までエネルギーを振り絞って噴射。

 今出せる最大速度で要塞から離れていく。

 ヤマトの方向転換を見届けたデスラーは、間髪入れずに最後の指示を出した。

 

 「コアシップ離脱! 艦体を要塞の砲口に向けて突撃させろ!!」

 

 デスラーの指示で、合体していたコアシップが艦体から分離されヤマトとは逆の方向に向けて転進、要塞から最大戦速で離れていく。

 対して艦体部分は真っすぐに無防備な砲口目指して突進していく。

 

 そう、これがデスラーの考えた機動要塞攻略作戦の要だった。

 

 要塞に対して有効といえる戦術は、敵の砲撃を誘ってトランジッション波動砲の連射を生かして相殺から砲口を狙い撃つ戦法だ。

 だが、敵要塞の動力エネルギーと波動砲のエネルギー融合反応による被害がどれほどのものになるのかは、データ不足で見当もつかない。下手をするとヤマトはもちろん、ガミラスやイスカンダルに深刻な被害をもたらしかねない為、この状況下では選択出来ない手段だ。

 そして、あの要塞を確実に葬るためには最低でもサテライトキャノンクラスの破壊力が要求されるが、サテライトキャノンの威力では要塞の防御フィールドを突破出来ない。波動砲ですら通用しないと目されているのだから当然だ。

 だから、届かせるには防御フィールドに何らかの方法で穴を開けるか、発射後の無防備な瞬間にあの砲口に撃ち込むのが最善なのだが……砲口内部にエネルギーの逆流を想定した防御策が無いとは言い切れない。そうなると、サテライトキャノン以上のエネルギーを扱うあの砲口を直撃出来たとしても破壊出来る保証がない……砲口が万全の状態だったら。

 そういった部分まで考えられたデスラーの作戦はその点非常にシンプルであり、現状では最も効果が期待出来る手段であった。

 要するに、デウスーラの艦体部分を質量弾として砲口にぶつけて破損させる事で、フィールドにも物理的な構造にも穴を開け、さらに発射口にデウスーラの艦体を突っ込ませることで、砲口を塞ぐために展開されるかもしれないフィールドをデウスーラの艦体で強引に遮り、サテライトキャノンの砲撃を通すチューブとして使うという二段構えの作戦だ。

 もしも要塞が全体を球状に包むフィールドを展開可能であった場合は破綻してしまう可能性があったが、現状取れる最善の手段であった事は誰も疑っていない。

 

 というよりも、もしも球状に展開出来るというのならそれこそ被害覚悟でトランジッション波動砲の6連発の力業で突破を試みる以外の選択肢がないのだ。

 

 巨大な要塞の砲口に対して艦体のサイズが適切だと判断されたのは、翼部を含めた全幅がガミラス最大のデウスーラだった。

 それに、デウスーラはデスラー砲を有しているため、完全再現こそ出来ないもののヤマトのモード・ゲキガンフレアに追従する事で、要塞の砲撃の中を突っ切って無防備な砲口を狙う事が出来る唯一の艦艇だった。

 また、コアシップによって人員を直前になってから脱出させる事が出来ると言うのも決め手の1つではあったが、これ自体はドメラーズ級も艦橋が独立円盤として機能するので模倣出来なくはない。

 だがドメラーズ級では出来ない、モード・ゲキガンフレアの真似事をする事で懸念材料である波動エネルギーを効率的に外部に放出し、波動エネルギーによる過剰融合反応の発生そのものを阻止出来るという点でも、デウスーラが適任であった。

 

 無論、思い立った後も自身の座乗艦として精魂込めて建造されたばかりのデウスーラを早々に沈めるというのは、工廠の技師達の苦労を思えば後ろめたかったのも事実ではある。

 しかし、これ以外に有効と言える手段が無いため、デスラーは断腸の思いで決断したのだ。

 作戦立案に関しては渋い顔をしたタランも、デウスーラを沈めると言った時のデスラーの表情を見て、涙を拭ったのである。

 

 デスラーの悲しみと決意を乗せたデウスーラの艦体は、その行動に驚きながらも発射口を閉鎖しようと動き出していたハッチの隙間を掻い潜り、見事発射口に突き刺さる!

 ハッチは突っ込んだデウスーラの艦体を圧し潰すように力尽くで閉鎖しようとするが、総統の座乗艦に相応しく強靭に造られていたデウスーラの艦体は捩じ切られることなく耐えきり、堅牢を誇る要塞の防御に小さな小さな穴を開けた。

 

 ――そう。要塞の防御フィールドは要塞の表面にこそ展開されていたが、球状に展開される事は無かったのだ。

 

 

 

 その光景を、艦隊から離れた地点に移動したGファルコンDXのコックピットから見届けたアキト。その壮絶な最期を慣れてしまった敬礼で見送る。

 要塞の注意を引いて狙いを悟られぬようにと、最大射程付近である約38万㎞の距離にあった。

 すでにツインサテライトキャノンの発射準備は完了している。一緒に準備しているリョーコのGファルコンGXもだ。

 

 「…………デスラー総統の行動、無駄にはしねぇぞ!」

 

 「ああ!! この一撃で……決着をつける!!」

 

 金色のリフレクターを広げ、両腕両脚のエネルギーラジエーターを輝かせ、余剰エネルギーを放出するGファルコンDX。

 青白く輝くリフレクターを広げ、同色に輝く全身のエネルギーコンダクターを見せつけるGファルコンGX。この機体は今、GファルコンDXの上で上下逆さまになってサテライトキャノンを構えている。

 共にGファルコンに装着された増設エネルギーパックは勿論、ガンダム本体やGファルコンからのエネルギーもありったけ供給した、文字通り全身全霊を込めた最大の一撃を見舞う準備を整えた。

 膨大なエネルギー反応を察知して、敵艦載機が迎撃すべく向かってくるのを、七色星団で共に戦ったゲットーやクロイツ、バーガー率いる部隊が応援に駆けつけてくれた。

 熾烈極まる航空戦を展開し、次々と互いの機体が火達磨になって宇宙に散っていく。

 

 その中に、ゲットーとクロイツの機体もあった事を、アキトとリョーコは戦いの後に知った。

 

 今、ガミラスの願いも背負って――場合によっては彼らを屠るために使われるはずだったその力を、機動要塞に向かって放つ。

 

 「いっけえええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 アキトとリョーコの絶叫が重なる。

 上下合わせに隊列を組んだGファルコンDXとGファルコンGXのサテライトキャノン――計3門から莫大なエネルギービームが放出される。

 3本のタキオンバースト流は、発射されて少しの間だけ平行に進んだが、すぐに軌道が捩れ、螺旋軌道を描きながら徐々に収束――やがて1本の巨大なビームとなって宇宙を突き進む。

 

 これがガンダムエックス開発以降切り札として考案されるだけはされていた、「ダブルサテライトキャノン」だ!

 

 約38万㎞もの遠距離から放たれたダブルサテライトキャノンの砲撃は、妨害すべく間に入ってきた敵艦数隻を苦も無く消滅させながら、要塞の砲口に突き刺さったデウスーラに到達。デウスーラが生み出した極々小さい偏向フィールドの穴を正確に射抜き、破壊された要塞の砲口から内部へと飛び込んだ。

 予想されていた内部の防壁の類が無かったのか、それともデウスーラの突撃で防壁が破壊され防げなかったのか。

 どちらであったのかはわからない。

 ただ1つ確かな事は……。

 

 ダブルサテライトキャノンの砲撃で、要塞は内側から爆ぜて消えたという事だ。

 

 

 

 

 

 

 「おのれ……っ! おのれ……っ!」

 

 己が敗北を悟った瞬間、メルダーズはそれまでの冷静さをかなぐり捨てて吠えた。

 もうどう足掻いてもこの状況は覆せない。まさかゴルバの主砲を相殺するバリアシステムを有しているとは――! いや、あれも恐らくはタキオン波動収束砲の――!

 モニターに微かに映る、反転して離脱するヤマトの姿。

 もしもガミラスの戦力のみであったなら、負ける事は無かった!

 もしもこれまでの航空戦で、あの人形を侮る事無く速攻で仕留めていれば負ける事は無かった!

 

 後悔先に立たず。全ては後の祭り。

 

 光速で迫るタキオンバースト流の輝きが、ゴルバの主砲に突っ込んだガミラス旗艦の艦体を貫き、発射口から内部に飛び込んで内部を苦も無く消滅させていき――動力炉に到達する。

 多少破損したとはいえ、主砲のエネルギー逆流に備えたエネルギー反射障壁や防護フィールドも全く役に立たなかった。

 波動エネルギー程ではないとはいえ、タキオン粒子を加工したビーム兵器にもここまで脆弱であったとは……!

 想定外のエネルギーを流し込まれ――そして艦載機が保有する火力とは到底信じがたい超高出力ビーム砲が、堅牢を誇るはずのゴルバを滅していく。

 

 「おのれヤマト……! おのれえぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~っ!」

 

 ヤマトぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!

 

 メルダーズの絶叫は、無敵と思われていたゴルバの消滅と共に宇宙へと消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な機動要塞の爆発を背にヤマトとデウスーラ・コアシップは、ガミラス・イスカンダル方向に向けてゆったりと進んでいた。

 コアシップの波動エンジンは健在だが、ヤマトはエネルギーを使い果たしてしまって再始動に時間が掛かる。

 ここまでの戦いで相当無茶も繰り返しているので、強引な再始動は如何に頑強なヤマトと言えど、止めておいた方が賢明だろう。

 

 要塞を撃破され、完全に浮足立った暗黒星団帝国の艦隊は統率を失っている。

 それでも逃げ帰ろうとしないのは、失敗した部隊の行き場が無いという事なのだろうか。

 デスラーはそんな敵艦隊に向かって、

 

 「撤退するのであれば追撃はしない。命を無駄に散らすか今日の屈辱に耐えるか、好きな方を選びたまえ」

 

 とだけ宣告した。

 結局、戦力の要である機動要塞を失い、相転移砲の一撃で艦隊戦力を大きく喪失した暗黒星団帝国に、抗う力も意思も残されてはいなかった。

 

 

 

 「……終わった……」

 

 最後の1隻がワープで消え去ったのを確認して緊張の糸が切れたユリカ。全身の力が抜けて艦長席にもたれかかる。補装具であるインナースーツがあるとはいえ、自力で動けそうにないほど億劫だ。

 ――瀕死の身の上だというのに、我ながら無茶をしたものだ。ヤマトとの繋がりで補填されていなければ、指揮を執る事もままならなかっただろうが。

 

 「――流石に休ませてもらうね……進、後は任せたよ」

 

 「――了解、艦の指揮を引き継ぎます」

 

 返事を聞くと、「よっ」と疲れ切った体をシートから引き剥がして立ち上がる。ふらつくし頭痛も酷いがまあ何時もの事だ。

 

 「私が付き添うわ。雪ちゃん、悪いけど通信席をお願い。さて――医務室も医療室も戦場でユリカの分のベッドも埋まってるし……私の部屋を貸すから、薬と食事を摂ったら一眠りしなさい」

 

 それなりに体力には自信があるエリナだが、流石に今回は疲労困憊だ。バラン星や七色星団の時も通信量は増大していたが、やはりここまでの大規模戦闘ともなるとさらに桁が跳ね上がるし緊張感も凄い。

 艦隊旗艦でこそなかったが、ヤマトはデウスーラと共に実質艦隊の中核として獅子奮迅の大活躍をしていたのだから。処理する情報量はとても多いのだ。

 

 ――地球帰還後、ヤマトが現役続行可能なら、通信設備をもう少し改修した方が良いかもしれない。再建当初は単独での作戦行動しか想定していなかったので、これほどの量の通信を捌くには少々スペックが足りない。

 最悪、ヤマトは再建予定の地球防衛艦隊において、旗艦の役に就かないとも限らないのだ。後でレポートをまとめておかないと。

 

 さて、疲労困憊ですぐにでもベッドで横になりたい気分ではあるが、他の皆もまだまだ事後処理で休めないし、何よりユリカの世話役は自ら引き受けた責務だ。

 危なげな足取りのユリカの傍らに付き添って、転倒したりしないように体を支える。

 インナースーツの助けを借りてはいても、疲労が激しいのか足取りが覚束ない様子。とにかく薬と栄養を摂らせて寝かせよう。

 後はカスケードブラックホールを波動砲のフルパワーで破壊して、イスカンダルに寄港した後、彼女をコスモリバースシステムに組み込めば、地球まではその命を維持させられる。

 

 ――その後は、エリナ達の祈りをフラッシュシステムとコスモリバースが形にさえしてくれれば……ユリカはかつての輝きを取り戻せる。

 

 ようやく……ようやくここまで来た。後少しで、この物語にハッピーエンドの印を刻める!

 

 

 

 その後ヤマトは、無事だった多くのガミラス艦と共にガミラス星に寄港する事になった。

 戦闘によるダメージの回復は勿論、カスケードブラックホールの詳細な情報を得るためには、イスカンダルへの寄港よりもガミラスへの寄港の方が効率が良かったのだ。

 何しろ今のイスカンダルの湾港施設は長期に割ってメンテナンスも無しに放置されている。

 そんな施設で扱うには、ヤマトのダメージは大きい。

 確実に、しかも改装を含めた作業をしようとするのであれば、軍港の規模も大きく設備も充実していて現役バリバリのガミラスの方が良いのだ。

 ――ヤマトのデータが漏洩が深刻になるのが問題ではあるが、カスケードブラックホールを破壊するためにはどうしてもトランジッション波動砲の全弾発射システムを再調整しなければならない。

 発射システム内の空間磁力メッキの実装と、負荷の掛かりそうな場所への補強を短時間で済ませる為にはやむを得ない措置である。

 

 ヤマトは先導するデストロイヤー艦やらデウスーラ・コアシップに導かれるようにガミラス星の大気圏に突入した。

 ボロボロになった翼を広げ、大気に乗って滑空するように高度を落としていく。

 

 それにしても、救援に駆けつけた時にも思ったが、見れば見るほどに変わった星だ。

 ガミラス星の地表は植物の生い茂った緑一色の姿で、なんと海洋らしい海洋の姿が見受けられない。どころか、地表には巨大な大穴が数個空いている。

 いや、もっと正確な表現をするのであれば――地殻に大穴が開いているのだ。

 恐らく地下水などによる浸食でそうなったのだろうが、ガミラス人は地表ではなく地殻内部の空洞部分を居住スペースとして活用しているようで、穴から覗ける範囲には海洋すらある。

 ――ある意味、地底湖ならぬ地底海とでも形容すべき姿に、天文学に興味のあるクルーはどのような歴史を歩んでこうなったのかを密やかに議論していた。

 

 「我がガミラスは、大昔にあった侵略戦争の教訓もあり、自然発生していたこの地下空洞に居を構え、宇宙空間から直接居住エリアや軍施設観測出来ないようになっています。厚さ数十㎞にも及ぶ地殻を破壊したり、貫通して攻撃出来る兵器は少ないので、むしろ地表に居住するよりも安全なのです」

 

 とはドメルの説明である。要するに軍事国家であるが故の備えというものなのだろう。

 先導するガミラス艦の管制に従って指定された大穴を潜る。穴を抜けた先には、照明で照らされた地底の街並みが見える。

 まるでファンタジーの地底王国のようで、空の代わり地殻の天井が街を覆い、直径数㎞はある巨大な天然の石柱が乱立してそれを支える中、地球を遥かに上回る超近代都市の街並みが広がっている。

 今まで見た事もない光景に、すっかり目を奪われてしまった。

 

 「ドメル将軍、明かりの確保は電力で賄っているのですか?」

 

 「いえ、サンザーの光をプリズム等を使って誘導して利用しています。勿論星の自転で昼夜が切り替わるようにも配慮されていますよ」

 

 真田の質問快く応じるドメル。他にも色々と聞きたい事も多かったが、まずはドック入りが先だ。

 ガミラス本土防衛戦という激戦を乗り切ったヤマトは消耗しきっている。

 散々砲火を浴びた装甲表面は無事な個所が見当たらないほどあちこちに弾痕が刻まれていた。

 相変わらず展望室等の脆弱部位を除けばほとんどの場所が貫通されていないとはいっても、装甲の層が覗いしまっている個所は多く、劣化して機能を喪失した塗料兼防御コートは白化したり黒化したりと、すっかりボロボロだ。

 あちこちアンテナやマストも折れているしで、戦艦大和の時から変わらない優美なシルエットも少々崩れてしまっている。

 

 間違いなく、冥王星での戦いを上回る大損害であった。

 特にクルーへの被害は天と地ほどの差があり、半数近いクルーが負傷、その内7割程が入院を要する程の重症を追っている(とはいえ病室が足りない為、自室に戻して医療機器を取り付けて経過を見る事になった)。

 

 そして、今までの航海で出た人死には冥王星の戦いで2名、バラン星の攻防で撃墜されたパイロット2名の計4名と不自然にすら思えるほど軽微であったのに、この戦いでの死者は40名を超えた。

 治療中であったも経過の悪いものがさらに10名ほど居るため、もしかすると彼らも戦死者リストにその名を連ねる事になるかもしれない。

 なまじヤマトが異様に強固でクルーへの人的被害を抑制してしまっていたが故に、航空戦においてもベテラン揃いでガンダムの大活躍があってパイロットの被害すらも殆ど無かっただけに、ここまでの人死にが出た事にショックを受けたクルーはとても多かった。

 

 特にナデシコ出身者にとっては、かつてない人的被害に隠れて涙を流す者が多かったと言われている。

 

 それほどの被害を出しながらも、暗黒星団帝国の軍勢を退ける事に成功したヤマトは、ようやく見えてきたガミラスの軍港へとその身を滑り込ませていた。

 やはり宇宙戦艦を扱うドックという事もあってか、屋根の類も無く開放的な印象を受けるが、剥き出しの鉄骨だったりあちこちに走っているケーブルの束だったり、ガントリークレーンなどの存在が雑多な印象を与える。

 デスラー総統の勧めもあって、ヤマトはデウスーラがその身を委ねていたドックの隣――本来なら親衛隊の指揮戦艦級の1隻が使用していたスペースへと案内されていた。本来そのドックスペースに収まるべき艦は――要塞の主砲で蒸発してしまった。

 親衛隊はこの戦いで大きな被害を出し、総数が1/5程度と大きく目減りしてしまっている。

 無理もない。本来ならデウスーラ共々後方にあって、デスラー総統を護衛するのが主任務だったのに、今回はその総統が自ら最前線に飛び出して砲火を交えたのだ。

 むしろ、最後の最後までデスラー総統を守り切ることに成功したのだから、この被害もまた、彼らにとっては勲章と呼べるものなのかもしれない。

 

 ガミラスの艦隊も、総数の3割程を損失する大きな被害を出している。要塞砲の被害は、それほど大きかったのだ。

 

 ヤマトは主を失ったドックにその身を滑り込ませると、安定翼を畳んで管制官の指示に従って位置を微調整、ドック床から伸びている、鋏状のガントリーロックで固定される。

 ヤマトの艦体が固定された後、ヤマトは左舷上部の搭乗員ハッチを開放、合わせてタラップがドックの横壁から伸びてきてヤマトの左舷搭乗員ハッチ繋がる。

 指揮戦艦級に比べると、ヤマトの方が17mほど小さかったので、タラップの位置が合うように前後の位置を微調整出来たのが幸いだった。船台の高さも調整され、ガミラス艦とは根本的に規格が異なるヤマトを何とか受け入れる事に成功する。

 

 勿論ドックの管理者や作業員一同、まさかあのヤマトを受け入れる事になるとは思ってもいなかった。和解したという話は聞かされていたが、ヤマトが寄港するとなれば当然イスカンダルの方だと考えていたものが多数であったし、規格が根本的に異なるヤマトをドックに入れらるかどうかなど、それこそやってみなければわからない。

 それでもデスラー総統の命令とあれば、やって見せねばならぬのがガミラス軍人の定めであったが。

 

 そうやってヤマトへの通路が確保されると、早速ヤマトに収容されていたデウスーラのクルーが次々と退艦し、入れ替わりにコンテナを乗せた台車を押してドック作業員がヤマト艦内に入り込んでくる。

 コンテナの中身は食料と医薬品――の材料となる物品だ。

 

 起源を同じとしていて、交配すら可能と言われるほど遺伝子情報が似通っていても、住む星の環境やらこれまで積み重ねてきた生命の歴史の違いで微妙な差異がある。

 それを考えると、ガミラスの医薬品をそのまま提供するのはリスクが高いと判断され、医薬品に加工する前の材料を提供して、自分達で加工した貰った方が手間はかかるが安全と判断されたのだ。

 一応、スターシアから提供された守の治療データ……つまり地球人に対する薬品の耐性や効果に関するデータは提供されたのだが、如何せん薬を造るにも時間が掛かるしその暇もなかった。

 ガミラス自体も決して小さくはない被害を被った以上、ヤマトのために割ける労力にも限度があるので、自給しなければならないのである。

 

 ガミラスから提供された品々を早速真田率いる工作班が艦内工場に運び入れ、医薬品の生産ラインに早速ぶち込んで、不足気味だった医薬品を合成して医療室と医務室、重傷者が戻った部屋に運び込んでいく。

 ここまではすぐに作業する必要があったが、流石に激戦によるクルーの疲労が深刻だった。

 

 結局ドック入りした後は、半数以上のクルーを休ませて、交代制でヤマトの機能回復に努めることになった。

 

 

 

 「こうして顔を合わせるのは初めてだね。救援に感謝する」

 

 「こちらこそ、お会い出来て光栄です、デスラー総統。私が艦長代理の古代進です」

 

 「副艦長の、アオイ・ジュンです」

 

 タランを率いて自らヤマトを訪れたデスラーに、ヤマトの代表として迎えた進とジュン。

 デスラーと進は力強く握手を交わし、互いの健闘を称える。

 進にとってもついに実現したガミラスとの和解だ。思えば、ヤマトの旅の始まりの時から随分と認識が変わったものだと思う。

 

 ――しかし、これで良かったのだろう。

 

 ただ憎しみのまま戦うよりも、こうやって少しでも良い形で終わらせるように心掛けない限り、真の平和というものは得られないのではないかと思う。

 しかしどれほど平和を望む心を持っていても、時に暴力に頼らねばならない事も多いというのは、皮肉が利いているなとも思う。

 だが、暴力に頼りながらも心を失わなかったからこそ、ガミラスとの間に和解という“結果”を作り出せたというのなら、ヤマトの戦いは決して過ちではなかったのだと信じたい。

 同時に、スターシアの願いに反する事も無かったのではないかとも考えるが、その結論を出すのは彼女自身だと思い直す。

 

 その後デスラーは案の定と言うべきか、ユリカの状態を訊ねてきた。

 やはり気になっているようで、「今お休みになられました。容体の急変はないようです」とだけ答えると、一応満足してくれたようだ。

 恐らく直接会ってみたいのだろうとは思うが、流石に戦闘直後という事もあって遠慮してくれた様子。紳士だ。

 

 その後、話の流れで彼を第一艦橋に案内する事になる。

 ユリカとの対面は果たせずとも、やはり関心の強いヤマトの指揮中枢には強い関心があるらしく、断れなかった。断る理由も無いと言えばないし(一応機密に関する事は頭を過ったが、後で改装なり何なりしてごまかしてしまえば良いと妥協した)。

 

 デスラーとタランを引き連れ、進とジュンは左舷側の主幹エレベーターを使って第一艦橋へと上がった。

 ドアを潜ると、何人かのクルーが席を立ち、艦橋に足を踏み入れたデスラーとタランに向かって(普通の)敬礼をする。デスラーとタランもガミラス式の敬礼で答えながら、艦橋の中央に向かって歩みを進める。

 艦橋に残っていたクルーは主電探士席の雪と、機関制御席のラピス、砲術補佐席の守、それと中央の次元羅針盤付近にドメル将軍だけだ。

 真田はヤマトの損傷個所やら工場の稼働状況の確認のためウリバタケ同伴で動き回っているし、ハリは部下に仕事を任せたルリによって医務室に引っ張られて行って治療中、大介も自室に引っ込んで療養生活に戻っている。

 

 「改めてお礼を言わせてもらうよ、ドメル。よく大任を果たしてくれた。君にヤマトの事を任せて、本当に良かった」

 

 「はっ。勿体なきお言葉です、総統……!」

 

 デスラーはドメルにも握手を求め、類稀な働きを示した部下を労う。実際彼を介してヤマトを図ろうとしてなければ、ガミラスはヤマトと暗黒星団帝国を1度に相手しなければならなかったかもしれない。

 いや、ヤマトは同じように脅された場合、ガミラスの後ろ盾を得られない状況下では到底手出し出来なかったはずだ。地球との超長距離通信も、ガミラスの手を借りて初めて実現した事。

 

 ――いくらユリカであっても、暗黒星団帝国との戦争を始めてしまう危険性のある行動には出られなかっただろう。地球政府も、ガミラスとの同盟が得られると確約が無ければ到底容認出来なかったはずだ。

 

 ドメルが初めてヤマトのデータを見た時、デスラーと同じくその存在に共感を覚えていなければ、初めて対峙した後彼らを認め、撃滅にも和解にも転べるように色々と考え行動していてくれなければどうなっていた事か……。

 少なくとも、ゲールにバラン星を任せたままヤマトと対峙させていたら、敵対を続けていたかもしれない。ゲールはその忠誠心故にガミラスの――デスラーの敵を見過ごそうとはしない。

 それにあのバラン星の戦いの時も事前にドメルがヤマトを庇う判断の数々を指示しなければ、ここまでスムーズには事が運ばなかった。ドメルの判断と行動が、ガミラス最大の危機を退けたのである。

 

 かつてない大任を果たしたドメルを労った後、デスラーは艦橋に残っていたクルーに対しても1人1人労いと感謝の言葉を掛けて回った。かなり異例な事であるのか、傍らに控えるタランも驚きの表情。

 だが、一番驚いたのは機関長という重要な役職についていたのが、わずか13歳の少女だったことだが。

 対するラピスも国家元首に直接感謝されるという想定外の事態に軽くパニックになり、ちょっと噛んだ応対をしてしまったが、デスラーは微笑を持って答え、決して年齢を軽んじたりせずむしろその功績を純粋に褒め称えた。勿論、ラピスの目線に合わせるため腰を落とすことも忘れない。

 彼は紳士なのだ。

 

 そうやって挨拶を終えた後、デスラーは第一艦橋最後部にある艦長席に振り替える。

 今は空席であり、指揮を引き継いだ進が座る席ではあるが、本当の主は――。そこまで思ってから、座席の後ろにある昇降レールとそこに掛けられたレリーフが目に留まる。

 

 「――古代艦長代理、あのレリーフの人物は一体?」

 

 「……沖田十三。宇宙戦艦ヤマトの初代艦長だった人物です。我々は直接対面した事は無いのですが、ヤマトがこの世界に漂着した時、艦長が彼の亡骸を埋葬したとのことです――彼の「万に1つの可能性を発見したのなら、最後の最後まで諦めてはならない」という考えは、艦長を通して我々に伝わっています。ある意味では、ヤマトの父と言える人です。艦長も、沖田艦長の方針を可能な限り継承すべく苦慮されていましたし、艦長自身、万全とは言い難い体調にあって、心の支えとしていたようです」

 

 進は改めて、このレリーフに向き合う。本当に、直接対面し教えを請えなかった事が残念で仕方がない。

 ――もしも彼が存命のままヤマトと共にこの世界に来ていたら、どのような事になっていたのだろうか。

 もしかしたら、ヤマトの艦長として進達を導いてくれたのだろうか。それとも自分達に全てを託してヤマトには乗らなかったのだろうか。

 どのような形であれ、彼と直接会う事が出来たらどのような関係になったのか、全ての秘密を知ってから、時折考えることがある。

 

 ――少なくとも、今の進達を見た場合成長を喜ぶよりも先にナデシコ的な軽~い空気に頭を抱えていたかもしれない。守の例を見るに。

 いや、もしかしたら日頃の気の緩みは多少見逃してくれたりするのだろうか。沖田艦長の人なりを正確には知らないので、ただ単に厳格なだけな人物ではない可能性も僅かにある。

 

 余談ではあるが、肝心の沖田艦長はかつてのヤマトのマスコット(?)であるアナライザーからのセクハラ被害を訴えた雪に対して、「とにかく困った」と困惑した後、被害申告の際勢い余って自分でスカートを大きく捲ってしまったのを目の当たりにして、“思わず覗き込んでしまったり”、「しかしそういう癖は取り除かん方が良いと思うがなぁ」と失言する程度にはお茶目な所がある。

 

 当然、かつてのクルーを含めて誰も知らない一面ではあるが(眼前にいた雪は聞き逃した)。

 

 「そうか……」

 

 デスラーはそれ以上質問する事も無く、その場に膝をついて沖田艦長のレリーフに首を垂れる。傍らに控えていたタランもそれに倣った。

 その心中を進が察する事は出来ないが、恐らくユリカにも影響を残したヤマトの父に対して敬意を示すと共に、感謝しているのではないかと勝手に思った。

 

 そうしてしばらく静かな時間が流れた後、デスラーはドメルを率いてヤマトを離れた。国家元首としてやらねばならない執務が溜まっているのだとか。ドメルはドメルでヤマトに同行していた間の報告書の提出は勿論だが、本星に帰還したからには家族に顔を見せるのが自身に定めらルールらしく、今回の功績を鑑みたデスラー直々に1週間の休暇を与えられ、艦を降りて行った。

 とはいえ、機会があれば是非ユリカや進に自分の家族を会わせたい様子だったので、機会があればと応じる事になった。

 どちらにせよ、ヤマトは修理と並行した波動砲の改造と各部の補強のため、ガミラスのドックで時間一杯お世話になる事が確定している。

 ……正直曳航ワープで時短していなかったら、ヤマトの修理と改修作業の時間を碌に取れなかったところであった。

 

 また、扱いを特別にせざるを得ないヤマトはやはりというべきか、総統親衛隊の管轄に置かれる形になった。

 まあそれ以外に良い手段も無いし、整備作業を円滑に行うためにはむしろ管轄下に置かれた方が何かと都合が良いので文句は一切ない。

 おまけにデスラーが信を置くタラン将軍が管理者を買って出てくれたこともあり、資材の提供の窓口にはさほど困らなかった。

 何しろ機関部や波動砲周辺の改造に必須なコスモナイトの備蓄が乏しいヤマトだ。提供してもらわないと満足に改造も出来ない。

 そういう意味では、「すでにヤマトに大きな借りがあります」とタランも副総統のヒスも好意的で、多少余分に融通してもらえたのが大変有り難かった。

 ついでに工廠の設備も幾つか使わせてもらえたので、提供してもらえた反射衛星の詳細なデータ(鹵獲品の解析ではわからなかった部分)を基に、空間磁力メッキの開発を急ピッチで進める。

 

 合わせてガミラスが収集したカスケードブラックホールのデータも検証し、どの場所にその本体である時空転移装置が存在していて、そこに波動砲のエネルギーが届くかどうかの検証も行わなければならない。

 欲を言えば安全圏から波動砲を撃ち込んで終わらせたいのだが、エネルギーが引きずられて仕損じるリスクと折り合いをつけられなければ、カスケードブラックホールに自ら飛び込む形で距離を詰め、発射しなければならない。

 

 そうやってタラン将軍を交え中央作戦室で結論が付けられたが、ユリカの状態を鑑みると十分な改修を行う時間が無い。ヤマトの改修作業は乗員のみで行う今のペースだと、約36日かかる予定だ。

 だがユリカはもう1月も持たない。

 イスカンダルでコスモリバースのコアユニットに接続するまでの時間を考えれば、改修に許される時間はたったの18日。

 

 しかしやるしかない。

 

 ヤマトの肩には3つの星の命運がかかっている!

 

 その後、またしても地球との緊急通信が繋がれ、機密漏洩覚悟でヤマトの改修作業を行う事となった。

 作戦成功の暁には、ガミラスの造船技術や超長距離ワープ技術の提供などがデスラーの名の元に約束され、地球とガミラスの戦争に終止符を打つ、最後の作戦が決行されるのであった。

 

 

 

 辛くも機動要塞ゴルバを下し、暗黒星団帝国の魔の手から逃れたヤマトとガミラス。

 

 そして今、ついにヤマトは最後の敵――カスケードブラックホールに立ち向かう時を迎えていた。

 

 ついに決着の時が来たのだ!

 

 ヤマト、カスケードブラックホールを見事打ち破り、コスモリバースシステムとなって母なる地球の未来を拓くのだ!

 

 人類滅亡と言われる日まで、

 

 あと、240日!

 

 あと、240日!

 

 

 

 第二十六話 完

 

 

 

 次回 新宇宙戦艦ヤマト&ナデシコ

 

    第三章 自分らしくあるために!

 

    最終話 この愛を捧げて

 

    見届けよ、これが愛の奇跡だ!


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