機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ~悪魔と英雄の交響曲~   作:シュトレンベルク

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厄祭戦・13①

 半年後、本部の全戦力は宇宙に上がっていた。モビルアーマーを地球に下ろす訳にはいかないからだ。だからこそ、ギャラルホルンは月を戦場とする事を決定した。モビルアーマーたちよりも先に火星支部の戦力と合流し、戦闘準備を整え終えていた。

 地球と火星の間にある最後のコクーンからモビルアーマーの映像が届いて数日、もうすぐモビルアーマーがこちらに来る。それを理解しているからか、艦隊内は極度の緊張状態に陥っていた。ガンダムのパイロットたちやジャンヌを除き、誰もがこれから死戦が始まる事に恐怖を抱いていた。

 

「おい、最高司令官殿よ。そろそろ号令をかけた方が良いんじゃないのか?」

 

「う~ん、それもそうだな。こんな緊張状態じゃあ、演習の成果なんてろくに発揮できないだろうしな。それじゃあ、全艦隊にLCSを繋いでくれ」

 

 あまりにも呑気と言わざるを得ないトップ二人にジャンヌは苦笑を浮かべ、乗組員は緊張が少しではあったが和らいでいた。そしてLCSで全艦隊を通信で繋ぐと、アグニカは強く息を吸い込んだ。そのアグニカを見た瞬間、シリウスはジャンヌに耳を塞ぐようにジェスチャーをした上で自分も耳を塞いだ。

 

テメェら!いつまでガタガタ怯えてやがる!?

 

 その大声に直接聞いた者たちは一瞬鼓膜が破れたんじゃないかと疑った。そしてアグニカの方を見てみると、心底苛々しているアグニカがいた。アグニカはこの時をずっと待ち続けてきた。モビルスーツ登場以前からモビルアーマーはアグニカにとっての宿敵だった。それを根絶やしにする最後の機会に立ち会う事ができたのは、アグニカにとっては僥倖とも言えた。

 しかし、周りの人間が恐怖にとらわれ過ぎている事に不満があった。この戦いは人類を救うための戦いだ。高慢ちきな天使どもを根絶やしにして、人が人らしく生きられる時代の始まりなのだ。自分たちには楽しく明るい未来が待っているのだ。だと言うのに、今から負ける心配をするなどアホらしいにも程がある。

 

「この半年間、お前らがあんなに戦ってきたのは何のためだ!?勝つためだろうが!あのモビルアーマーどもを殺して、新しい未来をこの世界に齎すためだろうが!今から負ける心配なんてしてんじゃねぇ!ふざけてんのか!?

 この厄祭戦が始まって彼此十年か。その間に、どれだけの人間が死んだ?四分の一だ。もうそれだけしか残っちゃいないんだ。その中には大切な人がいたかもしれない。それでも、俺たちは戦わなくちゃならない。何故か?決まってる。俺たちはあいつらが憎いからだ(・・・・・・・・・・・・・・)!」

 

 モビルアーマーに対する謂れのない憎悪がアグニカの中にはあった。しかし、事ここに至ればそれは多くの人間の心の中にあるものだ。それぐらい、モビルアーマーは人を殺し過ぎた。その人にとって大切な人々を殺し過ぎたのだ。

 

「俺たちが何をした?ただ普通に生きていただけだ。確かに、互いに利益を求めあって愚かな戦争をしていたかもしれない。だが、殺された者たちはそれに関係した者たちだったか?いいや、否だ!中には関係者もいただろう。だが、その大半が無関係な人間だった!お前らは納得できるのか!?この無慈悲な殺戮を!無差別の虐殺を!納得できる筈がない!そんな無茶苦茶な道理に納得など出来る訳がないのだ!」

 

 無茶苦茶加減はお前も大差なかったよ、とは思ったが決して口に出す事はなく黙っているシリウスがいた。そんなシリウスを抑えるようにジャンヌはシリウスの手を握っていた。

 

「繰り返されるぞ?この戦いに敗れれば、同じようなことが繰り返される。いや、世界で唯一の軍隊である俺たちが負ければ、確実に人間はおしまいだ。ジ・エンド。さよなら……なんて認められる訳がねぇだろうが!だったらどうする!?決まっている――――勝つんだ!他の誰でもない俺たちが!ここでモビルアーマーどもを根絶やしにする!それ以外、俺たちの選択肢はなきものと思え!」

 

 アグニカの一喝によって、兵士たちは緊張を士気に変える事に成功していた。アグニカはその反応に口端を上げて笑っていた。シリウスはそんなアグニカを見た後、まだ通信が繋がっている画面の前に立った。

 

「皆、聞いて欲しい。最高司令官の言った通り、この戦いに敗北は赦されない。絶対に俺たちは勝利しなければならない。だが、どうか忘れないでほしい。君たちの流す血が、未来を歩く人々の希望となるという事を。俺たちの流す血が後世を生きる人々の支えになるんだ。

 傷つく事を、どうか恐れてくれるな。俺たちが流す血によって敵を斃す度に、後に残される人々が生きる未来は明るい物となるんだ!たとえ、道半ばでこの命を落としたとしても、それを拾い上げて次に繋げてくれる仲間がいる限り!俺たちの戦いは、散らされた命は!決して無駄な物にはならない!

 

 立て!我が頼もしき仲間たちよ!屍を積み上げ、その先に愛しい人々の、大切な人々の未来を築き上げろ!この俺が、シリウス・ダルクが諸君らに約束しよう!必ずや、この戦場で流される血を無駄な物にはしないと!」

 

 シリウスの宣誓に兵士たちの士気は最高潮に達した。数十体に及ぶモビルアーマーとの戦闘で犠牲者が出ない訳がない。しかし、それでも、自分たちの流した血が後に生きる者たちのためになるのならば。命を賭して戦う事ができる。そのために頑張る事ができる。

 悪魔の王と英雄の主たちの言葉は兵士たちにとって、何よりも重い物だった。この未来を導いたのは他でもない彼らなのだから。最初に希望を齎した聖女がいる。次に希望を齎した英雄がいる。最も大きな希望の輝きを示した悪魔の王がいる。ならば、自分たちは絶対に勝たなければならない。たとえ、自分たちが生きられないとしても、彼らにはこれからの未来を導いてもらわなければならないのだから。

 

「エイハブウェーブを確認!モビルアーマーです!」

 

「皆さん、これが最後の戦闘です。互いに大事な物は異なるでしょう。それでも、今だけは互いに背中を預け、モビルアーマーを討ってください!モビルスーツ隊、準備出来次第全機発進せよ!」

 

 聖女の号令に従い、全員がモビルスーツに乗り込んでいく。アグニカとシリウスもブリッジから出てモビルスーツデッキに向かおうとする。シリウスはその前にジャンヌに一瞬触れるだけのキスをして、笑ったまま頭を撫でて行った。

 

「また後で会おう」

 

「ええ、また後で」

 

 モビルスーツデッキに移動すると、そこには最後の調整を施されたジークフリートがいた。シリウスにとって、最も思い出深い機体。互いに最後となる戦場を前に、シリウスもジークフリートも感傷的な気分になっていた。少しジークフリートを見つけた後、シリウスは躊躇なくジークフリートに乗り込んだ。

 

「さぁ、最後の戦場だ。おおいに楽しむとしようか、ジークフリート」

 

『主殿、あなたに感謝を。あの時、主殿が先代の言葉を拾ってくれたから、私はここまで戦う事ができた。この事に関しては主殿に対して、感謝以外の何物もない』

 

「……それは俺も同じ事だよ。お前がいてくれたから、俺はジャンヌと出会う事ができた。彼女を自分の手で守るという大役を担う事ができるんだ。それはお前がいるからに他ならないんだぞ?だからこそ、申し訳なく思っているんだ。この戦いが終われば、お前は……」

 

『その先は口に召されるな、主殿。今はこの戦場を生き抜く事だけを考えればよろしい。あの悪竜どもを根絶やしにする絶好の機会、逃す訳にはいきませんぞ。心配なさらずとも、主殿は必ず守ってみせよう。たとえ、この身が朽ちようとも必ずやあの姫君の許に返してみせましょう』

 

「ハハハッ、英雄様のお墨付きとは嬉しいね。さぁ、行こうジークフリート!一世一代の大勝負だ!張っていくぞぉ!」

 

『了解!』

 

 ジークフリートが艦から出ると、既に出てきているガンダムたちがうずうずしているのが感じられた。どいつもこいつも、目の前にいる大勢のモビルアーマーに興奮を隠しきれないようだ。シリウスは全ガンダムに通信を繋ぎ、声をかけた。

 

「今回はガンダムの本懐を発揮できる最後の機会だ。食い残しの無いように、全力を振り絞れ!」

 

 シリウスの言葉に反応したかのように、ガンダムの眼光が赤く染まる。悪魔たちは最後の戦場を前に、自重などその他諸々を投げ捨てようとしていた。しかし、ジークフリートとバエルが動き出さないせいか、他のガンダムたちは動かなかった。そして、バエルが唯一持っているバエルソードを掲げる。そして、全員の視線が集まった時、バエルソードを振り下ろした。

 

「防衛戦、開始だ!」

 

 その言葉に真っ先に反応したのは、ジークフリートだった。シリウスが阿頼耶識の接続率を己が耐えられる限界まで跳ね上げ、赤から紅へと変化した眼光とリミッター解除を行ったガンダムたちよりもさらに上の出力を叩き出す。そして、そんなジークフリートに反応できずに棒立ちになっているモビルアーマーの頭部に持っているライフルを突きつける。

 弾丸が放たれる度に爆発が起き、頭部を覆っていたナノラミネートアーマーが剥げていく。十発も叩きこまれると、ナノラミネートアーマーは完全に消滅していた。そして、更にもう一発撃たれると完全に頭部が破壊されていた。モビルアーマーを蹴飛ばすと、バスタードソードでプルーマどもを叩き潰し始めた。その頃にようやく他のガンダムたちが戦線に参加した。

 

 ジークフリートが大きな挙動で動くと、その穴を埋めるようにダインスレイブがモビルアーマーたちに打ち込まれた。戦場において、シリウスがどう動くのかを理解しているジャンヌにしか出来ない動きであり、自分がどう動けばジャンヌはどう動くのか理解しているシリウスにしか出来ないファインプレーだった。

 バエルとジークフリート、そして他のガンダムによって戦場をかき回し、その隙に決戦兵装と他のモビルスーツによる大隊規模でモビルアーマーを一機ずつ潰していく。その動きは時に苛烈であり、時に静謐に変化していった。モビルアーマーに対応を許さず、戦場をかき回し続けた。

 

 しかし、それでも犠牲は生まれてしまうものだ。どれだけ犠牲が少なくなるように動いていたとしても、絶対に犠牲は生まれざるを得ない。一人はプルーマにコックピットを潰されて。一人はモビルアーマーの銃弾を受け。一人はモビルアーマーのワイヤーブレードに貫かれて。どんどん兵士たちが命を落としていく。

 しかし、彼らは死ぬその瞬間まで希望がその胸から消える事はなかった。何故なら、彼らには特大の希望が付いているのだから。アグニカが、シリウスがいる限り、彼らの希望が途絶える事はない。必ずや、彼らがモビルアーマーを根絶やしにしてくれると信じている。だからこそ、死んでしまうその一瞬まで彼らは命を賭ける事ができた。

 

 その戦いようはまさしく死兵。たとえ、ここで死せども、貴様だけは道連れにすると言わんばかりの戦いにモビルアーマーは圧倒されていった。希望が絶えない限り、我々が折れる理由はない。そう言わんばかりにモビルアーマーに食らいついていく。

 プルーマにタックルしつつ自爆したり、大破状態でモビルアーマーの足に抱きつきナパーム弾の弾倉を持ったままナパーム弾を狂ったように連射し大爆発を起こした。死ぬことを恐れていないかのような戦い方をされれば、モビルアーマーとて不利になるのは道理だ。

 

 犠牲になった人々に報いる事が出来るかは分からない。けれど、止まることはできない。ガンダムたちにも犠牲は生まれ始めていたが、それでもバエルとジークフリートを中心にしてモビルアーマーと戦っていた。しかし、次第にモビルアーマーたちの動きが変化し始めた。

 ジャンヌはモビルアーマーたちの動きが変化したのを敏感に感じとり、兵士たちの陣形を即座に変化させた。同時に艦隊の陣形も変化させ、不測の事態にも対応しきれるようにしようとした瞬間、背後からビームがビームが射出され1番外側の艦が爆発した。

 

 即座に背後に視線を向けると、月の大地を砕きながら1体のモビルアーマーが現れた。この戦場で唯一、姿を見ることが出来なかったモビルアーマー────《天使長》ミカエルがそこにはいた。それと同時にシリウスは何故モビルアーマーたちが地球に来たのかを悟った。

 

「ミカエルが月の裏側で眠っていたからか……!」

 

 モビルアーマーの中でも最強の戦闘能力を持っているミカエル。それを呼び起こし、一塊の集団を形成して地球や火星、木星にコロニーを襲撃するつもりだったのだ。ならば、ここで止めなければならない。しかし、シリウスはガンダム隊の中核だ。この場を離れることは出来ない。

 

「行け、シリウス!」

 

「そうよ!行きなさい、シリウス!あんたの大切な人を守りなさい!」

 

「お前ら……」

 

「大丈夫だよ、シス。俺たちはこんな奴らに負けたりしないし、お前が抜けたぐらいで負けるほど弱くもないぞ?俺らを信じろよ!」

 

「……分かった。ここはお前らに任せるぞ!」

 

 シリウスは少しの間逡巡したが、すぐさま母艦の方に戻っていった。それを見送ると、アグニカはため息を吐いた。アグニカの隣には常にシリウスがいた。しかし、最後の戦場では共にいる訳ではなく、その事実になんとなく物悲しさを感じつつもこれもまた時の流れによる物なんだろう、と思っていた。

 同時に、子供のままではいられないという事も分かっているのだ。シリウスには子供が生まれ、一人の親になった。その変化をアグニカは喜びながらも、胸の中ではどこか一抹の寂しさとも呼ぶべき物が存在した。それは己が子供を作る事ができない身体だっただけに、尚更の事だった。

 

 しかし、その思考を即座に改めた。なにせ、今は一大決戦の真っ最中だ。そんな事を考える時間はあとで幾らでもあるだろう。今は目の前にいる連中に集中しよう。アグニカはそう考えると、バエルが急かすようにリアクターを動かす。バエルも興奮を隠しきれていない事を理解したアグニカは笑みを浮かべながら、レバーを強く握りこむ。

 

「分かっている。行くぞ、バエル。あいつらは皆殺しだ!」

 

 同調率を上げながらアグニカはそう叫ぶ。バエルの眼光を更に赤く染め上げながら、戦場を駆け抜ける。そんなアグニカの道を阻むように、ハシュマル数機とラファエルが立ち塞がる。しかし、それに臆することなくそのままバエルのスラスターを強く踏み込む。

 

「邪魔してんじゃねぇぞ、天使もどきが――――っ!」

 

 悪魔の王は剣を高く掲げながら、天使を翻弄する。昔であれば、斃すだけでも一苦労だった天使たちを今となってはあっさり翻弄する事ができる。その事実にアグニカはこれでは足りないと咆える。そのアグニカの訴えにバエルは応える。最後の戦いという事で、自重という物を失くしているのだ。それがどういう事を意味するのか、この時のアグニカは分かっていなかった。

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