機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ~悪魔と英雄の交響曲~   作:シュトレンベルク

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厄祭戦・13③

 悪魔と天使、両方が誇る最強と最優の衝突。悪魔の王と破壊天使が宇宙を縦横無尽に駆け回りながら衝突を繰り返し、竜殺しの英雄と天使長と預言天使が月の大地を破壊しながら武器をぶつけ合う。一般兵たちの介入を許さない戦場が構築され、他のモビルスーツ隊は残りのモビルアーマー討伐に動いていた。

 

 身体から溢れ続ける無限の力を制御し更に引き出す悪魔の王とトライ&エラーを繰り返す事で無限に成長し続ける英雄。それに対抗せんとばかりに攻勢を強めるモビルアーマーたち。人から外れた者たちによる戦いは周囲を破壊しながら、デッドヒートを続けた。最早戦いはどれだけ人の枠を離れられるかにシフトしつつあった。

 地面を踏みしめながら次々と襲いかかってくる攻撃を掻い潜り続ける英雄に、言葉を喋るほどの余裕も残されてはいない。全神経をミカエルとガブリエルの攻撃に傾け、どうすればこの二機を殺しきれるのかだけに思考が行っている。人の技術を持って、化け物を狩ろうとしている。それ故に、相手の一部の隙も見逃さない。

 逆に悪魔から力を引き出し続けるアグニカは、徐々にその魂を汚染されていく。その身に潜んでいた暴力性を露わにしながら、ウリエルとぶつかっていく。バエルの全霊を発揮して目の前の敵を滅ぼすべく力を使っていく。化け物の力を持って、化け物を狩ろうとしている。獣の狩りとも言うべきそれは、圧倒的な力で敵を蹂躙する。

 

「ハハハハハハハハハハハッ!おらおらおら、もっと俺を楽しませろ!お前なんて、どうせその程度の役にしか立たねぇだろうが!」

 

「……………………」

 

 まったく真逆の戦闘スタイルだが、勝利を追求するその姿勢だけは変わらない。武人たる英雄と獣である悪魔。対極に位置する彼らはそれ故に対等なのだと、世界に知らしめるようにその猛威を振るう。その蹂躙劇がモビルアーマーたちにとっては恐怖としてしか映らない。突き抜け過ぎた二人は、最早機械天使であるモビルアーマーすら畏れさせる存在へと成り果てた。

 太陽のように燃え盛る熱と月のように冷めきった熱がこの戦場には存在していた。バエルは主の選択を全面的に肯定し、ジークフリートは主の選択をこの場に限り肯定した。それはやはり、名付けられた名前によって生まれてしまった差異と言えるだろう。

 悪魔としての役割を齎されたバエルと、英雄としての役割を任されたジークフリートでは成長も異なる。もし、ジークフリートがアガレスとしてシリウスに力を貸していれば、バエルと同じようになっただろう。しかし、彼はジークフリート。力のない人間を守る役割を与えられた英雄なのだ。人から外れていく事を歓迎できる筈がないのだ。

 

『主……いや、今は気にすまい。主を無事に妻子の許へ帰す事――――ならば、我は全力を発揮するのみ!』

 

 ジークフリートは己の意志でさらなる力を発現させた。ガンダムとパイロットにおける融合の一線を越しながらも、シリウスとジークフリートの魂が混ざり合う事はなかった。それは、ジークフリートの魂を利用する事で可能にした奇跡。まさしく、主を想っているからこそ起こった奇跡とも言えるだろう。

 しかし、同時にそれはジークフリートの魂を犠牲にしているのと同義だ。ガンダムが圧倒的とも言える出力が出せるのは、ガンダムに魂が宿っているからだ。機械はあくまでも規格通りの出力しか出せない。そこに魂が宿っているからこそ、規格以上の出力を出せるのだ。ジークフリートの魂がなくなれば、飲まれる心配がなくなる代わりに一瞬でミカエルとガブリエルに殺されてしまう。

 そうなる前に、この二機を或いは一機だけでも潰しておく必要がある。それが今のジークフリートであれば可能な筈だ。先ほどまでは死なないための行動しか出来なかったが、今ならば勝つための行動をとる事ができる。この出力と今の段階まで上昇したシリウスの腕を持ってすれば、決して不可能ではない。

 

 そう判断したシリウスはジークフリートを操る。その時のジークフリートはまさしく人馬一体ならぬ人機一体。シリウスの思考をノータイムで読み取り、シリウスの望むように動いた。先ほどまで押されていたのが嘘ではないかと言いたくなるほど、その動きは洗練されていた。

 一時的な物とはいえ、その反応速度は最上位のモビルアーマーであるミカエルとガブリエルを圧倒していた。ホルスターに仕舞われたままだったハンドガンを取り出し、ミカエルの装甲とフレームの間に突っ込んで連射した。装甲に付着した弾丸からは特殊なガスが巻かれ、フレーム材とナノラミネートアーマーを腐食し始めた。

 ミカエルがジークフリートを自分の上から落とそうとした瞬間にはその背から離れ、顔面に蹴りを叩きこんだ。その反動を利用してガブリエルの攻撃を回避し、ミカエルに猛攻を仕掛けていく。ガブリエルの攻撃の一切を無視し、ミカエルを仕留めるために全力を費やす。幸い、先ほど使った特殊兵装の効果でミカエルの戦闘能力の多くは奪われていた。

 

「ここで……仕留める!」

 

 腕部の片方を蹴り砕き、六翼存在する内の半分を斬り砕いた。そして持っていたブレードで身体を貫通すると、ミカエルは地面に斃れこんだ。本来であればそこで止めを刺すところなのだが、ガブリエルの猛攻に止めを刺す事は諦めてガブリエルの対処に移った。その頃にはジークフリートも限界だったのか、最大同調は解除された。

 

『ぐっ……ぬぅ、申し訳ありません主』

 

「いいや、お前はよくやってくれた。お前のおかげで、ミカエルを行動不能に追い込む事ができた。謝る必要なんてどこにもない……あともう一仕事、付き合ってくれよ!」

 

『了解!』

 

 ジークフリートの眼光が光り、スラスターが火を噴く。残されたブレードと刀を握り、ガブリエルに向かい合う。ミカエルほどではないにしても、ガブリエルも強力なモビルアーマーだ。その戦闘能力は決して侮って良い物ではない。ガブリエルの特徴がそんなところにはないとしても、侮って良い理由にはならないのだ。

 《セラフ》と冠されたモビルアーマーは他の天使たちとは役割が異なっている。ラファエルはプルーマに頼らないモビルアーマーの修復技能を持ち、ウリエルはプルーマの生産ユニットを排する代わりに強大な戦闘能力を手に入れ、ミカエルは休眠時はプルーマを大量生産し起動時にはプルーマの生産ユニットを戦闘に回す事で他のモビルアーマーとは一線を介す戦闘能力を手に入れている。

 では、ガブリエルが持っている特殊能力は何か?それは、総てのモビルアーマーとの情報共有能力である。智天使によるプルーマの総力戦を行われた際、その情報をモビルアーマー総てに伝達し渡された情報を智天使に渡していたのが、ガブリエルなのである。それが示すところは――――ガブリエルは総てのモビルアーマーと繋がりながら、その情報を処理しきれるだけの要領を持っているという事でもあった。

 

「チィッ……こいつ、俺の行動パターンを認識していやがるな?」

 

 度重なるシリウスの行動パターンを認識し、演算を繰り返す事で疑似的な未来予知を可能としていた。それによって、ジークフリートの攻撃は紙一重で躱されていた。シリウスが手詰まりになっていると、ガブリエルが突如弾かれた。その方向を見てみると、そこにはヘルヴォルと部下のモビルスーツ隊がいた。

 それを見た瞬間、シリウスはレバーを後ろに引いた。それを確認したヘルヴォルが手を降ろし、モビルスーツ隊がガブリエルに向けて射撃を始めた。そして、ガブリエルがその場に釘付けになっている間にヘルヴォルが近付いてきた。ヘルヴォルからライフルを受け取り、ジークフリートも射撃戦に参加した。

 

「ジャンヌ、他のモビルアーマーどもはどうした?」

 

「残りはガンダムの方々だけで対処できそうでしたので、モビルスーツ隊を半分ほど残してこちらの救援に来ました。……余計でしたか?」

 

「いいや、ナイスフォローだ。俺もあいつの相手には手を焼かされていた所だからな。どうもあいつ、俺の行動パターンを把握しているらしい。さっきから攻撃が躱され続けてる。しかし、この射撃もあいつには決定だとはならないだろう。しかし、まだ決戦兵装を使えるような位置にはない……どうした物か」

 

「では、こういうのはどうでしょう?」

 

 その時、ジャンヌから提案された作戦はシリウスを唖然とさせた。しかし、ジャンヌの表情を見て、ジャンヌが本気である事は分かった。頭痛が痛いとはまさしくこういう事か、と思いながら披露している頭を左右に振った。それでも、ジャンヌの表情は変わっていなかった。

 

「……ジャンヌ、自分の言っている意味が分かっているのか?そんな無茶苦茶な作戦と呼ぶのも怪しい物を実践しようって言うのか?」

 

「では聞きますが、今現在でこれ以外の手段がありますか?」

 

「それは……」

 

「ないでしょう?あのモビルアーマーがこのまま暴れ続ければどうなるか、分かった物ではありません。出来る事ならば、短期決戦こそが望ましい。違いますか?」

 

「それはお前の言う通りだ。だがな、その為にお前が……」

 

「大丈夫ですよ。私にはあなたがくれたこのヘルヴォルがあります。『軍勢を守るもの』――――その軍勢の中には、あなたもいるんです。どうか、その事を忘れないで下さい。あなたが私を守りたいように、私もあなたを守りたいんです」

 

「…………分かった。ただし、俺の指示には従ってもらうぞ」

 

「もちろん。私よりもずっと長い時間戦い続けてきたあなたの言葉を無碍にするつもりはありません。ここで勝って、家に帰りましょう。シエルの待つ、あの家へ」

 

「ああ……そうだな。それにシエルとは一緒に遊ぶ約束までしてるんだ。帰らない訳にはいかない。絶対に帰るんだ、俺たち家族が暮らすべきあの家へ。だから……少しの間、力を貸してくれるか?ジャンヌ」

 

「えぇ、もちろん。あなたにそう言って貰う時を、私はずっと待っていたんですから」

 

 ジャンヌのその答えにシリウスは笑みを浮かべる。俺は本当に良い奥さんを持ったものだと、そう思ったのだ。ジークフリートもシリウスら夫婦のため、今一度己の全力を尽くす事を此処に決意した。ジークフリートが動き出すと同時に、ジャンヌは追随するように動き始めた。

 ジャンヌが提案した作戦は簡単だ。ジークフリート単体では動きが読まれると言うのなら、ヘルヴォルも共に行動するという物。つまり、ジークフリートとヘルヴォルのタッグで動くという事だ。だが、これは一歩間違えればヘルヴォルは撃墜されてしまうだろう。なにせ、完璧にシリウスの思考を読み切れなければ、ガブリエルの攻撃を受けるという事なのだから。

 

 多大なる危険性があったとしても、ジャンヌは挑戦する道を選択した。理由としては幾つかある。まず、シリウスの作ったヘルヴォルがガブリエルの攻撃に反応できない訳がないという判断。ヘルヴォルはシリウスが作っただけあり、中々操作性が難しい。しかし、慣れてしまえばモビルアーマーの攻撃にも易々と反応できる。しかし、それ以上に――――ジャンヌがシリウスを読み違える事などあり得ないという自覚があるからだ。

 

「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「ふっ!」

 

 ジークフリートが距離を詰め、ヘルヴォルがサポートする形で戦闘は移行した。ガブリエルの基本的な攻撃は他のモビルアーマーとは異なり、総てがビーム兵器によって構築されている。質を数で補う事で、最上位のモビルアーマーとしての力を持っている。

 一発一発の威力は小さくとも、ビームが発する熱量に何度も晒されればさしものナノラミネートアーマーでも耐え切れない。普通のパイロットでは乱打という言葉が相応しいビームの嵐とガブリエルの思考速度に対抗しきれない。ガブリエルが最も得意とする戦闘は長期戦であり、膨大な情報があればあるほどにガブリエルは有利になる。

 だからこそ、一見無謀とも言えたジャンヌの作戦はここで成功を見せた。何故なら、ジャンヌは今までモビルスーツに乗って戦場に出た事がない。ガブリエルの莫大な情報データにジャンヌ・ダルクというパイロットのデータは一つもない。ジャンヌほど精巧にシリウスをサポートできるパイロットはいない事を、ここに立証してみせた。

 

 ガブリエルは困惑していた。自分には膨大と言って差支えない程の戦闘データがある。同胞が培ってくれた人間側の強敵の行動パターンを記している戦闘データを持っているのだ。だからこそ、ミカエルを打倒したジークフリートを圧倒していたのだ。だが、あの機体は何だ?あの機体が現れて以降、演算結果とは違った行動を繰り返してくる。

 いや、その言葉は正確ではない。ジークフリートは演算通りの動きをしている。自分の計算は少しも外れていない。であるならば、ジークフリートは先ほどと同じように自分に圧倒されるのが当然だろう。だが、そうはなっていない。あの機体が尽く自分の邪魔をしてくるからだ。であるならば、あの機体は邪魔だ。

 

「――――どこを向いてやがる」

 

 シリウスのその言葉と共に、ガブリエルは身を翻そうとした。しかし、ジークフリートの行動の方が一拍早く、二十門以上あるビーム砲の内五門ほど斬り裂かれた。破壊されたビーム砲をすぐさま撃ち抜き、爆発する事で目晦ましとして距離を開けてヘルヴォルに残りのビーム砲を全門向けて撃ち抜こうとした。そう、撃ち抜こうとしたのだ(・・・・・・・・・・)

 

「そんな余裕を俺たちがお前に与えてやる訳ねぇだろ」

 

 しかし、ジークフリートはビームで撃ち抜いた瞬間にはスラスターを使って距離を詰めていた。そして持っていたブレードで装甲の隙間を貫き、空いた穴を刀で斬り裂いた。これによって、ガブリエルは大きく体勢を崩す事になり、その隙を見逃すほどシリウスとジークフリートは甘くはない。

 

「死ね、ガブリエルゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 ガブリエルは焔を吐きながら残された翼からビームを吐き出した。そのビームに機体を押されながらも、リアクターを貫くように残されていた刀を突き刺した。さしものガブリエルも限界だったのか、地面に斃れ伏した。いつもであれば抜かりなく頭部を貫くまでしただろうが、《セラフ》級のモビルアーマー二体との戦闘は疲れたのかそこまで頭が回らなかった。

 

「シリウス」

 

「……ああ、ジャンヌ。一度艦に戻ろう。全体の戦況の把握をしなければならない。アグは……多少苦戦しているみたいだが、あの分なら間違いなくウリエルは狩れるだろう」

 

 アグニカの方に視線を向け、戦局を確認した。元々、あの状態のアグニカならば負ける事はないと思っていたが、確認として見ただけだ。そして、再びジャンヌに視線を向けたその瞬間、シリウスは背中からジャンヌは真正面から衝撃を受け、地面に倒れた。

 

「な、何が……馬鹿なっ!?」

 

 シリウスが視線を向けた先には五体満足の状態のミカエルが立っていた。先ほどまで戦闘不能の状態であったはずのミカエルがこんな短時間で戦線復帰、しかも五体満足の状態でいられる筈がない。一体何故、と思った瞬間、ミカエルの装甲の隙間が見えた。そこでは何かが蠢きミカエルのフレームを修復しているのが見えた。

 それを見た瞬間、月を見回した。そして幾らか離れた場所に破壊されたラファエルを見つけた。それを発見した瞬間に理解した。このミカエルを修復したのはラファエルなのだと。ラファエルが自らの命を犠牲にする代わりに、ミカエルを復活させたのだ。

 

 ラファエルは単体によるモビルアーマーの修復が可能と言ったが、その秘密はラファエルに搭載されているとある物が要因となっている。ラファエルはプルーマの生産ユニットを積んでいない代わりに、ナノマシンを搭載している。そのナノマシンは周囲に存在するプルーマを始めとした素材を分解し、モビルアーマーを修理する際に分解した素材を使用する。

 ナノマシンは壊れたパーツ同士を繋ぐ糊のような役割もこなしており、それによって斬り裂かれたミカエルの翼を繋いだのだ。破壊された腕部に関してはラファエルが自らのパーツを使用したのだろう。同じ《セラフ》級のモビルアーマーだ。互換性がない訳がない。

 

 ラファエルの執念とでも言うべきか、先程まで優勢だったはずのシリウスたちは追い込まれていた。シリウスとジャンヌを何とか助けようとモビルスーツ隊も動くが、ミカエルの圧倒的な火力に次々と撃破されていった。力を限界まで解放したジークフリートだからこそ、ミカエルを一時的に戦闘不能にできたのだ。普通はミカエルというモビルアーマーを斃す術はない。

 しかし、斃す術がないからと諦める訳にはいかない。何か手がない物かと周囲に視線を向けた瞬間、青く輝く惑星――――地球の姿を見た。その惑星を見た瞬間、シリウスは苦渋の選択を行う事を選択した。シリウスは自軍に通信を繋いだ。繋いだ通信先は――――ダインスレイブ隊だ。

 

「ダインスレイブ隊!月は地球の軌道上から離れた!俺たち――――シリウス・ダルクとジャンヌ・ダルクごと、モビルアーマー・ミカエルを破壊せよ!」

 

「なっ、何を仰るのですか!宰相とジャンヌ様ごと撃つ事などできません!」

 

「戯け!この機を逃すな!このままであっても、俺たちは死ぬ以外に選択肢がない!それならば……我らの命を地球の、世界の平和のための礎とせよ!」

 

「しかし!」

 

「……シリウス様、本当によろしいのですか?」

 

「構わない。どちらにしても死ぬしかないなら、せめてこいつを道連れにしてやりたいんだ。頼む」

 

「……ダインスレイブ隊、発射体勢を取れ。目標、月裏側に存在するモビルアーマー・ミカエル!」

 

「カルフ様!」

 

「全責任は私が取る!発射体勢を取れ!我々は、あのような化け物を地球に行かせる訳にはいかないのだ!我々はギャラルホルン!世界の治安を守るための組織だ!それが私情を優先させる訳にはいかない!たとえ、偉大な御方を失ってしまうとしても……我々には通さなければならない筋がある!」

 

「くっ……了解!」

 

 シリウスは心の中で自分の命令に従ってくれた副官に礼を言うと、アグニカの端末に短文のメールを送りつつジャンヌに通信を繋いだ。シリウスを見つめるジャンヌの顔には微笑が浮かんでいた。もう後幾らもしない内に死んでしまうかもしれないのに、ジャンヌの表情は酷く穏やかで……シリウスは勝てないなと思ってしまった。

 

「悪いな、ジャンヌ。俺と死出の旅路を共にさせる事になっちまって」

 

「大丈夫ですよ。前にも言ったでしょう?あなたの命が明日までなら、私の命も明日までで良いと。シエルの事は心残りですが……」

 

「大丈夫……ではないかもしれないが。セブンスターズの連中とアグにサファイアさんが支えてくれるさ。あの子なら、しっかりとやっていけると俺は信じているよ」

 

「ええ、私もです」

 

「……ああ、そう言えば昔アグに妙な話を聞いたんだよな。知ってるか?この世界には生まれ変わりなんていう概念があるそうだ。非科学的極まりないが、こんな状態にもなると信じても良いんじゃないかと思えてくるんだから、現金な物だよな」

 

「ふふっ、そうかもしれませんね……では、ここに約束しましょう。たとえ、ここでこの命果てようとも、いつか必ず再びあなたと巡り会ってみせると」

 

「……ハハハハハッ、やはり君は最高の女だな。そうだな、どれだけの時間がかかろうとも必ず君と巡り会ってみせる。これは俺の宣誓だ。だから、その時まで――――」

 

「ええ、その時まで――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「――――一時の別れとしよう/しましょう」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シリウスとジャンヌがそう言葉を交わした瞬間、ダインスレイブが放たれジークフリートとヘルヴォルごとミカエルを貫いた。ダインスレイブはミカエルのエイハブ・リアクターを貫いており、空気中に火花が散り同時に大爆発が起こった。その瞬間、誰もが戦う事を止めてその方向に視線を向けた。それはこの男も例外ではなく――――

 

「シス……?」

 

 ウリエルを完全に破壊しきり、ダインスレイブの一撃とミカエルの爆発によって破壊された月の方を見ながらアグニカはぽつりと呟いた。そして、ちょうどシリウスから届いたメールを開いた。そこにはただ一言、こう記されていた。

 

――――シエルと世界の平和を頼んだぞ、俺が最も信頼する親友。と。

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