機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ~悪魔と英雄の交響曲~   作:シュトレンベルク

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厄祭戦・2

 シリウスはバーラエナ教授がセッティングしてくれた軍部の関係者と接触した。先方はシリウスが出した数値に希望を見出し、火星圏側との連絡を取り持ってくれた。火星圏側も阿頼耶識研究が煮詰まっていたらしく、シリウスの提案に快く応じてくれた。

 理論上の存在でしかなかった、リアクターを2基搭載したモビルスーツの開発。そして大人の阿頼耶識保持者を生み出す事ができれば、間違いなくモビルアーマー戦において切り札的な存在になりうる。そんな切り札を生み出すことに寄与できれば、お互いにメリットがあったからだ。

 

 さし当たって、リアクターを2基搭載したモビルスーツのシミュレーターを作り上げ、地球圏と火星圏両方の軍部でテストして貰う。その間に火星圏側と阿頼耶識を大人に適合させるために必要な条件とシステムの割り出しを行った。研究を始めてから約1ヶ月ほどで、大人に阿頼耶識を適合させるためのヒントを見つけ出した。この時のシリウスの尽力がなければ、阿頼耶識研究はもう数年の遅れを取っていたと言われている。

 シミュレーターで優秀な成績を残したパイロットの内、理論上阿頼耶識を持つことの出来る者に被検体になって貰えないか声をかけた。勿論、ほとんどの者に拒否されてしまったが、アグニカを含めて八人のパイロットが快く了承してくれた。この七人が後にアグニカを支え、ギャラルホルンのトップに立つセブンスターズの祖先であった。

 

 実験は無事に成功。八人全員が特に障害を持つこともなく、阿頼耶識の移植に成功した。ただ、アグニカだけは最終的に阿頼耶識のデバイスを三つも持っていた。まだ余裕だから、などというふざけた回答をしたアグニカに対して、シリウスは真っ向からのインファイトを敢行。少しの間、その場は騒然とした。

 阿頼耶識保持者はシリウスの実験部隊預かりとなり、日夜研究に励む事になった。研究は多岐にわたるため、普段は隊員同士のシミュレーターによる模擬戦が日常だった。その中でもアグニカは異彩を放っていたが、あり得ないという視線を向けられたのはどちらかと言えばシリウスの方だった。

 

「あの……主任?」

 

「……どうかしましたか?クジャン少尉」

 

「えっと、前から伺いたかったのですが……何故主任まで阿頼耶識システムを持っているんですか?パイロットではないのですから、持っていても仕方がないのでは?」

 

「何を言っているんですか?今の状態が続いていけば、俺のような一般人でもモビルスーツに乗る機会は出てくるでしょう。あって困るような物ではありませんから」

 

「それはそうかもしれませんが……「それに」」

 

「きちんと安全を確認せずに他人にこんな物を施す訳にはいかないでしょう?」

 

「は?」

 

「阿頼耶識は運が悪ければ半身不随になるような代物です。あなた方のような軍人が半身不随になれば問題ですが、俺のような科学者は机にかじりついて理論を組み立てればいい。機体に関しては技師に任せればいい」

 

「…………」

 

 色黒の肌を持つ青年――――ニース・クジャンからすれば、その理論は狂気の理論であるとしか思えなかった。確かにシリウスの言う通り、パイロットであるニースたちが半身不随となればそれは戦力の低下を招く。パイロット一人とっても重要な局面である現在、それは問題以外の何物でもない。

 しかし、だからと言って自分で実験をする人間がいるだろうか?いや、いる筈がない。誰だって自分の命が大事なのだから、自ら障害者になる可能性のある実験を受ける者がいる訳がない。だと言うのに、シリウスはそれをする事ができる。その事がニースには恐ろしかった。

 

 シリウスが首を傾げながら取ったデータの確認をしに向かっても、ニースは立ち尽くしていた。そんなニースの肩が叩かれ、振り向いた先にはアグニカがニヤニヤと笑っていた。

 

「お前も酔狂な事をするな、クジャン。あいつに常識なんて求めても無駄だってのにな」

 

「カイエル中佐……」

 

「シスは……いや、シスもこの世界で生きていくためには力が必要だってことを知ってる。俺だってそうさ。偶々方向性が違うだけで、俺たちのやっている事は同じなんだよ。孤児だった頃から、俺たちは力を求めているんだ」

 

 アグニカは暴力という力を。シリウスは知力という力を。お互いが何かしらの力を欲している。互いの欠点を埋め合わせようとしているかのように、彼らは力を求めはしたがそのスタンスは逆だった。

 

「俺だけじゃなくて、あいつも本心では分かっていたんだと思うぜ。何かしらの大きな争いが起こるんじゃないか、って事はな。だからこそ、こういう事態に備えてたんだ。だって、そうだろう?そうでもなきゃ、エイハブ・リアクターの研究なんてする訳がない。

だって、俺たちは元々親なき力なき孤児たち(オルフェンズ)だ。エイハブ・リアクターなんてのはな、俺たちからすれば本当に縁遠い物なんだよ」

 

「ですが、分かっていたというのは少々言い過ぎなのではありませんか?エイハブ・リアクターは十分なエネルギーを生み出す物です。それについて詳しいという事は、後々に役立つのではありませんか」

 

「まぁ、そういう進路もあったろうがな。だけど、エネルギー源としてのエイハブ・リアクターとモビルスーツや艦隊を動かすエイハブ・リアクターっていうのは、構造なんかが違うらしい。俺にはよく分からんが、こっちの道に進んでるんだから、そういう事だろうな」

 

 結局、戦いという物から離れられない。アグニカもシリウスも孤児時代の経験に基づいた行動をしている。本人にそのつもりがなくても、片方から見ればそういう風に見えてしまう。そうなっている事に気付けたとしても、アグニカであれば肯定するしシリウスも否定はしないだろう。

 

「それに、あいつの事を何やら舐めているようだけどな。あいつはパイロットしての腕も相当なもんなんだぜ?なにせ、あのシミュレーターの最難関訓練プログラムを組んだのはあいつだからな」

 

「えっ……あのカイエル中佐以外にはまだクリアできてないあのプログラムですか!?」

 

「そうそう。しかも、あいつは事前に自分でやって正確にできているのか確認するタイプだからな。既にクリア済み、って訳だ」

 

「……なんであの人は本職の軍人ではないんですか?」

 

「さぁな。でも、あいつ個人は争いなんて好きじゃないんだよ。でも、経験で分かっちまってるんだよ。知ってるか?スラムなんかじゃ力がなきゃ生きていけないんだ。徒党を組んで、力のある者なんかが組んだり力のない奴が力のある奴に近付いたり……ともかく、力って奴に皆敏感だったんだ。そりゃあ、死活問題なんだから当然なんだけどよ」

 

「…………」

 

「俺とあいつはずっと徒党を組んでた。俺がトップであいつが参謀。そんな関係でずっとやって来たんだ。だから、分かっちまうんだよ。お互いの気性って奴がな」

 

 シリウスにとって、戦闘というのは一つの手段でしかない。回避できるなら回避した方が良いと思っている。しかし、回避するにしても力はあった方が良い。力があるという事は、それだけ相手に対してプレッシャーをかけられるという事だからだ。いざという時でも、それを躊躇なく振り回せるようにしておく必要はあった。

 アグニカにとっても、戦闘というのは一つの手段だ。けれど、それは生きるために必要な手段だ。こちらから圧倒的な力を見せれば、相手もこちらに対して噛みつこうとはして来なくなる。スラムの中でのシマを自由自在に操る事が出来るようになる。それはスラムで暮らす上で、非常に重要な物だ。

 

 つまり、シリウスが消極的防衛として力を求めるのなら、アグニカは積極的防衛として力を求めた。使い方と方向性が違うだけで、二人とも力を求める事に対して否定的ではない。だからこそ、彼らは力を求める。絶対的にして圧倒的な力を。この世界で生きていくために必要な物であるが故に。

 

「阿頼耶識もモビルスーツも力だ。暴力よりとはいえ、その二つが力であることは純然たる事実だ。だからこそ、俺たちはそれを求めずにはいられないんだ」

 

「……カイエル中佐。いかなる経緯があろうとも、彼は私たちが守るべき一般人です。私たちはその事から目を逸らしてはいけない。違いますか?」

 

「まぁ、それはそうだな。だが、分かっただろう?あいつはそんな弱者としての立場に甘んじる事は────」

 

「それでも。もし、主任が戦場に立つというのなら、私たちが支えれば良い。そうではないでしょうか?」

 

「………………」

 

 ニースの言っている事は理想だ。現実として、シリウスはアグニカに匹敵するレベルのパイロットとしての実力を持っている。それを支える、というのは並大抵の事ではない。普通は支えるどころか足を引っ張るのが関の山だ。それでも、ニースは決してその真摯な瞳を崩すことはしなかった。

 

「クックックッ…………アッハッハッハッハッ!お前、あいつを支えるとか正気かよ!?どれだけ高く見積もっても、お前があいつに敵う可能性なんてゼロに近いぞ?」

 

「もちろん、そんな事は分かっています。それでも、私がここで諦めてしまえば、私は彼に申し訳がたちません。私は力なき人々を守るために軍人となったのですから」

 

「あ~、なるほど。だったら、好きにすれば良いんじゃないか?やろうとしている奴に一々口を挟めるほど、俺も偉い訳じゃないからな。好きにすれば良い。ただ、その道は楽じゃないとだけ言っておくさ」

 

 アグニカは分かっている。シリウスを支えるという事がどれだけの難題であるかを。孤児時代から一緒に行動してきたアグニカだからこそ、シリウスの無茶振り具合はよく知っている。なまじ何でもできるからこそ、シリウスの期待度は高い。アグニカにシリウスが従っていたのだって、アグニカがシリウスに勝ったからに他ならない。

 元々、シリウスはアグニカとは敵対するチームの人間だった。互いに生きるためにぶつかり合い、最終的にシリウスはアグニカに負けた。しかし、アグニカはシリウスの事を気に入り、自分のチームに誘った。シリウスは疑問に思ったが、負けた以上は従うという信条に従った。

 

 シリウスは確かに優秀だった。アグニカをスラム内での頂点に導き、その後もチームの中ではトップに近い地位を保ってきた。しかし、その優秀さを当然の物として受け止めていた。だからこそ、周りにもそれだけの成果を要求していた。残念ながら、アグニカの周りでは頭の出来よりも腕っぷしの方が重要だったため、それほどの成果を上げることは出来なかった。

 シリウスはそれを責める事はなかったが、シリウスのチームに入っていた者たちは平然と嘲った。そこで内部抗争が起きかけた。アグニカとシリウスに締めあげられ、崩壊には至らなかった。しかし、それ以来シリウスはまず自分で安全を確認する癖がつくようになった。他人に仕事を最初から任せるという事をしなくなったのだ。他人に任せられるだけの能力があるかどうかは関係なく、他人に頼らなくなった。

 

「あの癖、どうにかなれば良いんだけどな……難しいだろうな。あいつ、頑固だし」

 

「どうかしたのか?カイエル中佐」

 

「ん~?いや、何でもない。そっちこそ、俺に何か用事だったのか?ファリド中尉」

 

「いえ、何やら考え込んでいるご様子でしたので。何か力にでもなれれば、と」

 

「ハハハッ、要らねえよ。クジャンと喋ってたのは俺の話じゃねぇからな。というか、お前はまだ訓練メニューが終わってないだろ。そっちの方を先に終わらせろよ」

 

「今日のノルマは終わらせましたよ。それより、一体何の話を?」

 

「シス……主任は阿頼耶識を持ってるだろ?それで少し話をしていただけさ。まぁ、大した話でもない。それより腹減ったんだけど、飯食いに行かないか?」

 

「……そうですね。私も丁度訓練が終わりたてで空腹ですし、食堂にでも行きましょうか。皆さんもどうですか?」

 

 茶髪の青年――――イグニウス・ファリドは周りで作業している人々に声をかけた。仕事をひと段落させた人は共に行く事にしたが、モビルスーツのフレームを作っている技師などは残った。食事を適当に済ませたシリウスは攻防の端にある電子端末の前に座り、フレームの完成度を確認しながら他の機体の設計図を作っていた。

 

「ふぅ……これで取りあえず十機分は完成か。まだ一機も出来てないけど、これができればきっと開発は進むな」

 

 そう呟きながら、シリウスは段々完成へと近づきつつあるモビルスーツを見上げた。後は装甲と武装を用意すれば、いつでも動ける状態になる。そこでシリウスは思い出した事があった。作成したモビルスーツのフレーム名と機体名を決めていないのだ。

 

「忘れてた……う~ん、なんか良い名前はない物か」

 

 その時、何かの声がシリウスの頭の中に響いて来た。シリウスは周りを見渡したが、モビルスーツのいる所で作業している技師以外には誰もいなかった。技師にしても、シリウスの方を向いている者は誰もいなかった。シリウスは眉を顰めながら首を傾げた。そうして首を傾げていると、再び声が響いてきた。

 

「……なんて言ってるんだ?」

 

 何かを言っているのは分かる。だが、どこから言っているのかも分からなければ、何を言っているのかも分からない。仕方がないので、瞼を閉じて何を言っているのかだけでも聞き取ろうとした。すると、段々とではあるが何を言っているのかが分かってきた。

 

「ガ……ン……ダ……ム……?ガンダム?ガンダムって言っているのか?」

 

 そう呟きながらモビルスーツの方を向くと、カメラアイの部分が光っていた。どう見ても起動しているようにしか見えない。だが、パイロットであるアグニカはいないし、作業中の技師の誰もが気付いていない。あまりにも非科学的な現象にシリウスは頭を抱えた。自分が幻聴でも見ているのではないか、とすら疑い始めた。実際、この仕事を始めてから他人よりも睡眠時間は少ないので間違いではないと思えた。

 けれど――――目の前にいる機体……本人(本機体?)曰くガンダムはシリウスの事をまっすぐに見つめていた。その瞳からは邪気のような物は一切感じられなかった。寧ろ、生まれたての赤ん坊の様に純粋でまっすぐな瞳をしているようにすら感じられた。結局、機械である事に変わりはないのだが。

 

「ガンダム……ガンダム・フレームか。うん、中々に良い名前なんじゃないか?そういえば、モビルアーマーって天使をモチーフに作られているんだったっけ」

 

 シリウスは電子端末で軍の回線にアクセスし、データバンクに収められているモビルアーマーのデータを確認した。軍のデータバンクには敵方であるモビルアーマーのデータも収められており、シリウスはそれを閲覧することのできる権限を持っていた。

 

「うん、やっぱりだ。そうなると、天使の敵になるんだから、こいつには悪魔の名前を付けた方が良いかな……サタンとか?いや、でもなぁ。最強になったらサタンでも良いかもしれないけど……ルシファーも却下だな。モビルアーマーにいるし。さて、それじゃあ……」

 

 シリウスはぶつぶつと呟きながら悪魔の名前を調べ始めた。技師も主任は一体何をしているんだろうか……と思いながら作業を進めていく。最低限するべき事をしてから、口を挟もうと考えていたからだ。しばらくすると、うんうんと頷き始めた。

 

「よし、決まった。お前の名前はバエル――――ガンダム・バエルだ」

 

 それが悪魔の王であり、この世に最初に生まれたガンダム・フレームでありギャラルホルンの象徴として扱われた伝説のモビルスーツ、バエルが誕生した瞬間だった。




ニース・クジャン:クジャン家の初代当主。ペシャン公の祖先。理想に燃える好青年だが、ちょっと天然っぽいところがある。基本的には仲間思いでシリウスの事も心配しているが、本人には欠片も理解されていない。

イグニウス・ファリド:ファリド家の初代当主。なんか余裕ぶっていたおっさんの祖先。容姿的にはマクギリスの髪を茶色に変えたぐらいのイメージ。アグニカを慕っており、シリウスには少し嫉妬気味。やはり当の本人には欠片も理解されていない。実はバイ。

※シリウスはガンダム・フレームと対話する力を得た!
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