機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ~悪魔と英雄の交響曲~   作:シュトレンベルク

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厄祭戦・6

 ジークフリートの動作試験は何事もなく終了し、いつでも出せるような状態にしてあった。シリウスとアグニカや他のセブンスターズとの時間が合わず、モビルアーマー討伐の任務に出る事は叶わなかった。そんな中、火星圏のリーダー的存在である白き革命の乙女が接触を求めてきた。

 アスガルド結成前の地球圏はそこまでの余裕がなかったので、情勢的に落ち着いてきている現状で行ってくれたのは寧ろ好都合と思っていた。しかし、アスガルドにも一定数のファンがいる辺りは彼女のカリスマを素直に凄いと思っていた。少なくとも、自分(シリウス)には火星圏の人間を纏められるほどの能力はないだろうと考えていた。本当はそんな事はないのだが、アグニカがいるので勢力を二分化しているため、シリウスはそう思っていた。

 

 木星圏にあるコロニーで落ち合う約束を交わすと、シリウスは即座に行動を始めた。地球圏ではガンダムやヴァルキュリアによってモビルアーマーの掃討が進んでいるが、火星圏側は数でモビルアーマーと相対している。合流前にモビルアーマーに襲われれば一溜まりもないかもしれないのだ。救援を送る事込みで準備をしていた方が良いと判断した。

 こちらから迎えに行く勢いで準備を進め、二日後には地球を出発していた。ハーフビーク級の艦を三隻用意し、手土産にガンダムを何機か用意しておいた。文官たちにそれは手土産としては多すぎるのではないか、と苦情を言われたがシリウスはそうは思わなかった。火星圏でガンダムが活躍してくれれば、それを提供したアスガルドの評判は上がる。それにモビルアーマーを討つという目的は同じなのだから、手を貸さない訳がない。

 

「どうも、うちの文官は少し頭が固いな」

 

「仕方がありません。ガンダムは我々にとっての最上級戦力です。私も本音を言えば、その文官たちに賛同しますよ。態々、火星圏の者たちに渡さずとも、とね」

 

「そうではないよ、艦長。我々はモビルアーマーという強大な敵と戦う同士だ。人類の危機だという状況で方向が違うというだけでいがみ合うのは愚かな事だ。いがみ合うのは戦いが終わった後でも遅くはあるまい。今は目の前の危機に注意を向けるべきだ」

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

「それに、たとえ数機程度ガンダムを渡したとしても問題はないさ。こちらにはセブンスターズとアグニカがいる。あの連中がたかがガンダム数機程度に負ける物か。君は想像できるか?初の模擬テストでモビルアーマーを破壊するような奴が負ける姿を。俺には到底イメージできん」

 

「ハハハッ、それは確かに。カイエル閣下がいればどんな相手でも恐ろしくはありませんな。普段は温厚な方ですが、戦場では本当に苛烈な御方ですからな」

 

「そりゃそうさ。あいつは究極の負けず嫌いだからな。負けるぐらいなら無理矢理にでも引き分けに持って行こうとする。やる事なす事無茶苦茶で、こっちの盤面を引っ掻き回してきやがる。後にも先にもあいつだけだろうさ。俺が負けを認めたのはな」

 

「ダルク閣下はカイエル閣下と幼少期からの付き合いだそうですが、やはり昔からああいう方だったのですか?」

 

「……いや、あいつが軍人としてどんな風に戦っているのかは知らなかったが、付き合いのあった奴に訊けば変わったそうだよ。普段は変わらずのほほんとしてやがるがな。昔はあそこまで苛烈じゃなかったよ」

 

 アグニカ・カイエルは良くも悪くもはっきりしている人間だった。勝負がキッチリとつけば、そこで争いは終わりだと思っていた。相手を完膚なきまでに叩き潰すという考えがアグニカはない。だからこそ、シリウスはアグニカの甘さをカバーするように動いていた。シリウスのカバーがあるからこそ、アグニカはスラム街の頂点に立っていたのだ。そうでなければ、スラム街はもっと混沌としていただろう。

 しかし、今のアグニカはそうではない。キッチリと止めをさすまで戦う事を止めない。アスガルドはモビルアーマー討伐に限らず海賊組織の掃討も行っているが、アグニカと相対した連中は一人残らず殺されている。アスガルドという絶対権威に逆らっている以上、仕方ないのかもしれないがシリウスはアグニカの変化を明確に感じ取っていた。同時に変化の理由も。

 

「……まぁ、手加減して命を落とされるよりはよほど良いでしょう。カイエル閣下もダルク閣下も今の情勢下では必要な御方ですから」

 

「そうだな。単騎で盤面を覆す輩は敵にいられると厄介だが、味方にいればこれ以上なく頼もしいからな。精々、あいつには頑張ってもらおう……うん?」

 

「どうか……何事だ!?」

 

「前方にエイハブ・リアクターの反応多数!中心には火星側の使者と思わしきハーフビーク級が三隻!その手前には海賊船と思わしき反応あり!後方には……モビルアーマーです!ハシュマルタイプと交戦中の模様!」

 

「チッ……嫌な予想が当たった訳だ。艦長、俺はモビルアーマー討伐に出る。他のパイロットを海賊組織捕縛に向かわせ、完了次第モビルアーマー討伐に参加させてくれ」

 

「了解いたしました。ご武運を」

 

「こんな所では死ねんさ。俺は美人な嫁さんを迎えて大往生で人生を終えるつもりだからな」

 

「確かにそれでは死んでも死にきれませんな。では、我らに勝利を齎してください。あなたの駆る竜殺しの名に偽りがあらんことを」

 

「もちろんだとも。とは言っても、これからするのは天使殺しだが……構うまい。父祖(オーディン)に逆らう神の御使い(天使ども)は皆殺しだ」

 

 獣じみた笑みを浮かべながら、シリウスはパイロットスーツに着替えた。そしてモビルスーツデッキに移動し、準備を終えているジークフリートに乗り込んだ。そして初めての実戦故か興奮しているジークフリートに気が付いた。そんな遠足前日に眠れずにいる子供のような反応に、シリウスは微笑を浮かべる。

 

「いよいよだ、ジークフリート。お前の全力を発揮させる時が来たぞ。しかも、俺たちが助ける相手は白き革命の乙女――――有り体に言えばお姫様だ。お姫様を救うのは何時だって英雄の仕事だ。そうだろう?」

 

 シリウスの言葉に反応するように、カメラアイが光る。そんなジークフリートのリアクションに満足しつつも、操縦桿を握る。先ほどジークフリートにはああ言ったが、シリウスも興奮を隠せなかった。自分のために作業し、自分のために調整された機体を操るのだ。興奮しない訳がない。

 

「さあ、行くぞ。シリウス・ダルク、ジークフリート出るぞ!」

 

 艦から飛び出たジークフリートは海賊艦を瞬く間に抜き去り、火星圏側のハーフビーク級も抜き去った。突如として現れた機体に誰もが困惑を隠せなかったが、ジークフリートがモビルアーマーハシュマルに攻撃すると誰もが動き出した。しかし、シリウスはそれを一切気にすることなくジークフリートを操っていた。まるで初めて貰った戦隊物の玩具で遊んでいるかのように、ジークフリートを操る。

 

「良いぞ、ジークフリート。だが、まだだ。お前ならもっと出来る筈だ!こんな天使如き、軽く手を捻るようにやってのけれるだろう!もっと力を引き出せ、ジークフリート!」

 

 その言葉に反応するかのように、ジークフリートの眼光が赤く染まる。それに応じて、ジークフリートの出力が上昇する。周りに存在するサブユニットであるプルーマを羽虫を散らすように蹴散らし、ハシュマルの特徴とも言えるテイルブレードを手元にあるバスタードソードによって捌いていく。モビルアーマーの特徴たるビーム兵器を一切展開させずに戦闘を続けていく。

 ジークフリートがテイルブレードの隙をついて一太刀浴びせた瞬間、ハシュマルに殴り飛ばされ腕部の運動エネルギー弾を叩きこまれる。何とかその一撃をバスタードソードで防ぐが、運の悪い事に何度もテイルブレードを振り下ろされた部分に直撃されてしまい、バスタードソードに罅が入ってしまった。シリウスは舌打ち混じりにバスタードソードを捨て、右腕部に取り付けられたソードと腰部に取り付けられたハンドガンを抜いた。

 

「忌々しい……とっとと墜ちろ、天使もどき」

 

 シリウスのその呟きに反応したのか、ハシュマルが咆哮する。その咆哮に反応してジークフリートのリアクター音がまるで咆哮の様に響き渡る。それを感じたシリウスは笑みを浮かべる。ジークフリートの昂揚がシリウスにはダイレクトに伝わり、全身に充足する力がハシュマルを絶対に殺すと告げているのが分かるからだ。

 

まだだ(・・・)。もっといけるだろう?ジークフリート。天使(悪竜)共を殺すお前の力がこの程度な訳がない。だから、もっとだ。俺の身を心配しているのなら、それは無用な心遣いだ。目の前のこいつを……殺しきれ!」

 

 シリウスの咆哮にジークフリートが応える。ジークフリートの眼光は最早真紅と呼んで相違ない程に輝き、総ての天使を殺すために全力を発揮する。ジークフリートは理論上、ガンダム以上の性能を発揮する事ができる。エイハブ・リアクターを三基も搭載しているというのは、決して伊達ではないのだ。

 ハンドガンをハシュマルの口元に突っ込み、弾丸をすべて吐き出させる。ダメ押しと言わんばかりにソードをビーム発射口に突き刺し、完全に破壊する。そして上昇した出力でハシュマルの顔を蹴りつける。それによって、ハシュマルはのけぞった。更にその上から殴り込み、口の下――――顎の部分を破壊する。ダメ押しと言わんばかりに腕部の指の一つを踏み砕いて距離を取る。

 

 各部から焔を撒き散らしながらハシュマルが咆哮する。修復を行おうにもプルーマはシリウスの部下と火星圏側の戦力によって破壊されている。何より、目の前の相手(ジークフリート)がここから退避するのを見逃すはずがないという確信があった。

 実際、シリウスとジークフリートにハシュマルを見逃す気など欠片もなかった。無理矢理な行動をしたため、腕部と脚部に損傷が発生していた。これは間違いなく、艦に戻ったら修復ルートまっしぐらだなと苦笑を浮かべながらハシュマルを睨みつける。そしてハシュマルが再び咆哮した瞬間、最大速度でハシュマルとの距離を詰めた。

 ハシュマルはテイルブレードでソードを持っていた左腕……ではなく、基点と言える左肩を潰してきた。それによって一切の武装を失くしたジークフリートに悠々とテイルブレードを突き刺そうとした瞬間、ハシュマルの首が断たれて動けなくなっていた。

 

 一体何故、と思考した瞬間吹き飛んだ左腕のソードラックに嵌まっていたソードがなくなっていた。左肩ごと左腕をもぎ取られそうになった瞬間、シリウスは奇跡とも言える反応を見せた。後ろに吹き飛ぶ腕と前に動こうとする機体の間で生まれる反作用を利用し、東方に伝わる居合い抜きを再現してみせたのだ。首と胴体を繋ぐ装甲の隙間を見事に切り裂いてみせたのだ。

 文字通りの神業だったが、そこで慢心することなく転がった顔面に剣を突き刺した。その上で装甲の隙間からリアクターを貫通するようにソードを突き刺した。そして周囲のプルーマが動けなくなったのを確認した後、ジークフリートは停止した。シリウスも目と鼻から血を流しており、動けなくなっていたというのが正しいかもしれない。

 

 その後、部下にジークフリートと腕と装備を回収され、共に木星にある大型惑星間巡航船『天形』に向かった。この一帯はテイワズと呼ばれる複合企業によって統治されている。ヤクザと言われるマフィアの一種でもあるが、きちんと統治できているのであれば問題ないので放置されている。今回はその代表取締役であるマクトール・バリストンに場所の仲介を頼んでいた。

 天形に向かう航路の中で意識を取り戻し、専用の調整を施したチョーカーを付ける事で普段通りに動けるようにしていた。目を覚ました後にジークフリートを見に行くと、整備班の人間に怒られてしまっていた。バエルの時と同じぐらいに壊してしまったので、「お前さんもあいつと親しいだけあるわ」と嫌味を言われてしまった。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 シリウスはマクトール立ち合いの元、火星圏代表と相対していた。目の前にいる少女は美しい少女だった。火星圏側の軍服を身に纏っている少女は成人なり立て、というぐらいの歳だ。それでも木星圏を纏めている百戦錬磨の偉丈夫と多少年上とはいえ、地球圏の軍関係を纏め上げた英雄を相手に毅然としていた。

 その毅然とした姿にマクトールは感心し、シリウスは納得していた。確かに、自分たちを相手にこれだけ毅然としていられるなら、人々の心を揺り動かす事も不可能ではないと。だが、それとこれと話は別だと言わんばかりにシリウスは少女を見つめていた。

 

「それでは、初めまして火星圏を纏め上げる若き革命の乙女。俺の名前はシリウス・ダルク。地球独立治安維持組織アスガルドで宰相として活動しています」

 

「え?……あ、失礼しました!私は火星独立組織アルタイルでリーダーをしているジャンヌ・ダルクと申します」

 

「おっ?なんだ。お前さんたち、同じ苗字なのか。なんだ?兄妹なのか?」

 

「いや、偶然でしょう。俺は孤児でしたから、親の顔も名前も知りません。拾われた施設でそう名付けられただけなので、偶然でしょう」

 

「いや、面白い偶然じゃねぇか。いっそ、運命的な物を感じるな」

 

「そうかもしれませんね。しかし、交渉の話はまた別ですから。それでは話し合いを始めるとしましょうか」

 

 厄祭戦が開始してから三年、火星と地球はようやく同じテーブルにつく事が叶ったのだった。

 

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