iron whale   作:セメント工房

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32・33話は物語の都合上、表と裏で分けさせて頂きました。



それではどうぞ!


33話(裏) 住人の不安と文句

ーーーカスタエル王国帝都 城下町ーーー

時刻は少し遡り、リーチェが発艦した辺りである。

 

夕暮れ時とあって、街は多くの人達で賑わっていた。

仕事が終わって友人と楽しく話している者。

疲れた体を引きずって、家に帰る者・・・。

飲食店で夕食を楽しむ者・・・。

そして春樹達の起こした騒動により、街を警戒して回る王国兵士たち。

街は大半が賑やかさで埋め尽くされていた。

そしてその人込みの中を紫色の髪をたなびかせながら進む一人の美少女がいた。

それはまさかの隣の国の王女、リゼサルヴァだった。

彼女は文句を言いながら人込みを進んで行く。

「人が多いわね・・・」

その文句に、彼女の頭に付けた赤いカチューシャが応えた。

『夕暮れ時ですからねぇ、仕方ありませんよ』

「どうして夕暮れ時は人が多いの?」

『仕事が終わって帰宅する人や、丁度終わって友人たちと楽しむ人達によってごった返すんだと思いますよ』

「へぇ~」

リゼサルヴァは興味なさげに言った。

 

その後、リゼサルヴァはいろんな店に入ってみたりして楽しんでいた。

 

しかし、ある事に気が付き、表情を曇らせた。

「ねぇ、セレナ」

『はい、何でしょうか?』

「さっきから道行く人たちにすごく見られてない?」

『そうですか?・・・確かにリゼサルヴァは美人だし』

「そうじゃないの・・・そう言う視線じゃなくて・・・」

そう言って道行く人を見た。

通りすぎる人たちは、リゼサルヴァを驚く様な表情で見ていた。

『確かに不可解ですねぇ・・・』

「それに、さっきから女の人とすれ違ってないわよね?」

『女のひとですか?・・・誰か探してるんですか?』

「そうじゃなくて、さっきから男性としかすれ違って無いのよ。すれ違ってもおばさんばっかだし」

『う~む・・・確かにそうですね・・・ちょっと待ってください』

「え・・・う、うん」

そう言うとセレナは暫く黙り込んでしまった。

 

セレナはあるデータを確認し始めた。

それは誰も知るはずの無いデータであった。

 

ーーー伊404 ECシステムーーー

セレナもといECシステムは、集めた情報を伊404内のスーパーコンピュータで整理していた。そこには、リゼサルヴァの視点から見ていた映像、そして上空からリーチェが追っていた映像が上がっていた。

それだけではない。

春樹達の現在地と現状、王城の解析データ、街の上空写真、マップ・・・。

そして全てのデータを解析し、今後すべきことを判断する。

その間僅か2秒、ECシステムは独自プログラムを生成し、構築、実行し始めた。

『Engine start    (機関始動)

 Start oretation (作戦開始)

 System check    (システムチェック)

 ・・・

すると、伊404は機関を始動させた。

「な、なんだ!?」

傍にいた王国兵は騒ぎ始めたが、さっきのこともあり、下手に近づこうとする者はいなかった。

そして、レントルの乗員たちは不安げにその様子を見ていた。

「一体春樹殿は何を考えて・・・あれ?あの艦誰も乗ってないよね?」

一人の乗組員はその事に気づいたが、だれにも聞こえていなかった。

 

伊404は、係留ロープを、外部作業用ロボットアームでぶった切り、夜の海へとその艦体を消していった。

 

ーーーカスタエル王国帝都 城下町ーーー

伊404が出港したとは知らないリゼサルヴァは、セレナの返答を待っていた。

セレナが沈黙して約30秒ほどして、返答があった。

『私たちが艦内から出て2時間近く経ちますが、今まですれ違った女性は19人です。その平均年齢は63歳と高齢の方が多く、最低45歳、最高69歳と年齢層が随分と偏っています』

「じゃあ若い女性は・・・」

『一人もすれ違っておりませんね』

リゼサルヴァは驚いていた。

「どうして・・・」

『これはもう周りの誰かに聞くしかありませんね・・・』

リゼサルヴァは周りを見渡した。

すると、屋台でアクセサリーを売っている老婆を発見した。

その人も、リゼサルヴァを見て驚いた。

「すみません、少しお聞きしてもよろしいですか?」

「はいぃ、何でも?」

老婆はゆったりとした口調で言った。

「この街には若い女性がいないのですか?」

それを聞いて老婆は、少し悲しそうな表情を浮かべた。

そしてポツリポツリと話し始めた。

「この街はねぇ、若い女性が出歩くと王様に誘拐されてしまうんじゃよ・・・」

リゼサルヴァは驚いた。

「どうしてですか!?」

「王様は若い女性を王城に連れ込んでは欲を満たすおもちゃにするんじゃと。それはもう酷いもので・・・」

「誰も何も言わないんですか?」

「言った者もおったわい・・・しかし言ったら反逆者として処刑されるんじゃよ。前の皇帝陛下はこんなことはせんかったわい・・・全くすたれたもんじゃよ・・・」

その他にもユーキールの悪評も聞いた。

 

ユーキールは、街の若い女性を集めてはおもちゃのように扱い、そして檻に入れて自分のものとした。

さらに反抗してくるものは容赦なく殺し、女性だった場合は拷問に掛けられた。

街では商品を無償で寄越せと要求し、気に入らなければその店を破綻まで追い込んだ。

 

 

典型的な絶対王政で悪評は絶えず、国民からの信頼は最低であった。

 

「・・・酷い」

「私たちは皇帝陛下が早く変わる事を祈るしか無いんですよ。お嬢ちゃんも早く安全な所へお帰り」

リゼサルヴァは自分の国が国民を大切に思っているだけあって、ユーキールの行為にひどくショックを受けた。

 

リゼサルヴァは、老婆にお礼を言ってその店を後にした。

「あまりにも酷いです・・・」

『やはりどこの世界にも居るんですよ、ああ言う人が』

「・・・私に何か出来ませんかね」

『何かですか・・・』

セレナは少し考えた。

『分かりました!では、少し手伝って貰えませんか?』

「私に出来る事なら是非!」

『では、私の指示に従って・・・』

セレナが何か言いかけた時、リゼサルヴァの肩を誰かが叩いた。

振り向くと、そこには王国兵士が居た。

「すみませんねお嬢さん。ちょっとお話聞かせてくれないかな?」

そう言ってリゼサルヴァに近づこうとしてきた。

リゼサルヴァはゆっくりとあとずさりながら逃げようとする。

すると頭に声が響いた。

『リゼサルヴァ!逃げなさい!』

その声を聴き、くるっと向きを変えて走り出した。

「おい!逃げたぞ!追え!」

王国兵士も全力で追ってきた。

しかし、空からの赤く細い無数の糸によってそれは阻止された。

『いい?今から言う方向に逃げなさい!まずはそのまま走って!』

 

リゼサルヴァはセレナの指示通りに走り始めた。

 

暫く大通りを走り、たまに路地裏、時に家の屋根の上・・・。

 

そうして何とか王国兵達を撒くことが出来た。

リゼサルヴァは町から少し離れた山の下にいた。

「はぁ・・・疲れた・・・」

『すみません。大丈夫ですか?』

「あははは・・・疲れたけど楽しかったわ」

『そうですか!では少し休憩しましょう』

「そうね・・・」

リゼサルヴァは近くにあった切り株に腰かけた。

「これからどうするの?」

『それはこれからのお楽しみです!期待してて下さいね!絶対に驚きますから!』

そう言ってセレナはある作業に取り掛かった。

 

ーーーカスタエル王国 沖合ーーー

伊404は沖合まで出ると、艦首を再びカスタエル王国へ向けた。

そしてリーチェから春樹達が檻から脱出したと報告を受けた。

『Riche mission complete(リーチェ 任務完了)

 master escort to continue (マスターの護衛を続行)

 ・・・

そしてその知らせを聞いて、あるものに指示を出した。

『FromE.C.system to Detroit.(ECシステムよりデトロイト)

 Ready(出撃準備).

 snowhawk (スノーホーク)

 Ready(出撃準備)

 ・・・

それにこたえるように通信が来る。

『Detroit roger (了解した)

 ・・・

『snowhawk roger (スノーホーク 了解した)

 ・・・

格納庫の中でブルーシートに覆われた二つの物体が光った。

そして、格納庫の扉が開きジープが引っ張り出され、甲板に取り付けられたクレーンで洋上に吊り上げられた。

すると、ジープの奥に仕舞われていたブルーシートに覆われた塊の一つが、甲板に引っ張り出されてきた。

それと同時にブルーシートが剥ぎ取られ、その正体を甲板上で晒す。

一つ目のそれは、ジープよりも一回り大きなタイヤを片側4つ計8つ備えており、その重々しさを醸し出している。

格納庫内から出されたその一つ目、17式水陸両用装輪戦闘車デトロイト。

まず目につくのが、戦車の様な砲塔。

127mm砲が、ボディより前に少しはみ出している。

そして装輪装甲車を連想させる様なその足回りである。

見た目は自衛隊の16式機動戦闘車そのものである。

 

それは何故か、カタパルトにセットされた。

『Detroit sortie(デトロイト 出撃)

 ・・・

そのメッセージと共に、艦首からその重たいボディを打ち出された。

 

デトロイトは、そのまま海面に突っ込んだ。

しかし、何故か車輪より上は水面から完全に出ており、洋上の戦車状態になっていた。

そして、デトロイトはそのまま洋上を時速100kmで航行し始め、カスタエル王国方面へ姿を消した。

 

デトロイト出撃後も、伊404は静まらなかった。

今度はカタパルト側面から支柱が現れた。

そしてその上に、格納庫内に設置されたロボットアームによって、パネルが敷かれ始め、甲板上にヘリポートが完成した。

格納庫内から引っ張り出されてきたのは、SH70スノーホーク。

SH60シーホークにアパッチの装備を取り付けた様な見た目をしており、哨戒活動だけで無く陸上戦も想定した様な装備をしている。

機体下部には30mmチェーンガンを装備し、厳つさを出している。

 

即席のヘリポートに引っ張りだされると、折りたたんだメインローターを展開し、回転させる。

そして、アイドリングが安定するとシステムから指示が出る。

『Snowhawk take off

 ・・・

それと同時に回転数が上がり、機体を垂直に持ち上げると、カスタエル王国の方へと消えて行った。




いやぁ欲張ったww
水陸両用装輪戦闘車にスノーホーク・・・厨二感満載ですわ
実在したら絶対カッコいい!


さて、次回はどんちゃん騒ぎできるか!?


意見感想があればどしどし書いてください!
最後まで読んで頂きありがとうございました!

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