守るという誓を胸に   作:御神楽

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そのいちっ!

 

 夢を見ている。

 誰が泣きながら僕の体を揺すっている夢。

 なんで泣いているんだろう。分からない。でもこの人は泣かせたくない。そう思って手を伸ばそうとしてみるけれど身体はピクリとも動かなくて。

 それが酷くもどかしい。

 

 夢を見ていた。

 黒い影で目の部分だけが見えない4人の人たちが、僕に笑いかけている夢。

 誰なのか、なぜ笑いかけてくれているのか。分からないけれどそれが嬉しくて、僕は密かにこの笑顔を守ると自分に誓った。

 

 夢を見ている。

 日常が非日常に変わった世界。そこで3人が助け合い、生きている夢。

 あれ? 一人、足りない。

 ……あぁ、そっか。僕は守れなかったんだ。守るって誓ったのに守れなくて。

 それでも残りの人達は何が何でも守ろうとして――――

 

 

 ――――夢が、終わった。

 

 

「君の願い、叶えてあげよっか?」

 

 声が聞こえた。

 暗く、何も見えない場所で。嬉しそうに、楽しそうに問い尋ねる声が。

 

「まだ状況が理解出来てないのかな」

 

 また、声が聞こえた。

 今度の声はちょっとだけ残念そうな声。……一体誰なんだろう?

 それに視界は真っ暗で何も見えない。ここは、どこ……?

 

「ここは死後の世界。……のちょっと手前。死した者が気まぐれに連れてこられる神の間だ」

 

 死した者……? 神の間……? 声の主は何を言っているのだろうか。そのいい方では僕が死んだみたいな言い方じゃないか。

 ……あれ? いや、僕は死んだんだっけ……?

 

「うんうん、そうだよ。君は死んだんだ」

 

 ……あぁ、そうだ。そういえば僕は死んだんだ。

 確か人を庇って。

 

「漸く状況を飲み込めたようだね」

 

 うん、漸く飲み込めた。僕は死んで、気まぐれに神様の下に来た、ということだよね。

 でも、少し不可解だ。僕は願い事なんてしていない。それに僕みたいな人間が神様の下に呼ばれるなんてことがあるのだろうか。

 

「したよ。君は願い事を。それも私の所まで聞こえるほど強く、激しく。だから私は君をここに呼んだんだ」

 

 ……。そう、なのだろうか。死ぬ直前の記憶が曖昧で、死んだことは思い出せるのだけどその前後が思い出せない。

 でも、さっきから五月蝿い程に何かが僕に“誓いを守れ”って訴えかけてきている気がする。

 それが僕の願いの源、なのだろうか。

 

「半分正解かな」

 

 半分……半分か。……どうしよう。全く心当たりがない。

 

 ――いや……一つだけ、あった。あぁそうだ。たしか僕はこう願ったんだ。僕に力があれば……って。

 力があれば、きっと皆を守ることが出来たかもしれないから。

 

 

「うん、正解。よく思い出せました。さて、思い出せたところで本題だ。

 

 君の願い、叶えてあげようか?」

 

 

 ……正直に言えば、まだこれが本当に現実なのか信用出来てない。でも……それでもこの願いが叶うのならば――――力が、欲しい。何をも守れる力が、何をも殺すことのできる力が。

 

 僕に生きる意味を与えてくれた()()()()()を守れるような力が――――!!

 

「素直でよろしい。いいよ、叶えてあげよう、その願いを。でも気をつけてね。今からあげる力は何をも守れると同時に、君自身の体を蝕む毒だ」

 

 上等。もとよりその覚悟はずっと前に出来ている。あの人たちを守るためなら僕の身なんてどうなってもいい。

 ただ僕はあの人たちを守れるのならばそれでいいんだから。

 

「……優しさとは、斯も残酷なものだね。

 

 さぁ、行ってらっしゃい。全てが崩壊した世界へ。君が守りたいと願った人たちが生きている現実へ――――」

 

 

 

 

 けたたましく鳴るクラクションの音と、誰かの大きな声が聞こえて目が覚める。

 目を開けると真っ先に視界に入り込んできたのは少しだけ赤く染まった空の色だった。どうやら僕は外で眠っていたらしい。

 

 硬い所で寝転んでいたせいか、少し動かしにくい体を起こして周りを見渡してみる。フェンスに貯水槽、扉があることから考えてビルの屋上だということが分かった。それと現在着ている服がセーラー服……のような緑色の制服だということもわかった。

 

 ……はて、僕はなぜこんな場所に寝転んでいるのだろうか? 眠る前の記憶がどうもよく思い出せない。

 

 ……これは、記憶喪失というものだろうか? いやでも、全く思い出せるものがないわけじゃないからそれは違うか。取り敢えず一回順を追って思い出せるものを確かめてみよう。

 

 まず、名前。藤井(ふじい)有栖(アリス)

 来歴、七夜の里で生まれ育った暗殺者。いや、親族を暗殺者に殺されたちょっと集中力過剰な女子高生だっけ? いやいや、両儀の家計に生まれた殺人鬼だっけ?

 ……ダメだ、なんかここらへんの記憶が混濁してる。まるでいくつかの記憶を無理矢理押し込まれた感じだ。

 

 うーん。これ以外思い出せるものがない。どうしたものか。

 ……そうだ、ポケットの中とか持ち物チェックしようか。もしかしたらそれで何か思い出せるかも知れないし、携帯とかが入っていればここがどこか、とかわかるかも知れない。

 

 

 ……なんて思って持ち物チェックしてみたんだけど……見つかったものがヤバイ。何がヤバイってすごく物騒なんだよ。飛び出しナイフにナイフのようなもの。

 

 ナイフの方はボタンを押すと飛び出す七ツ夜って書かれている武器。

 

 ナイフのようなものは、これもボタンを押すと飛び出すんだけど、こっちの方は飛び出すというより射出する……と言ったほうが正しい感じの武器。ちなみに持ち手のところに蜘蛛糸(スレッド)と書いてあった。

 七ツ夜同様これがこの武器の名前なんだろうか。

 

 どちらも刃が鋭くて、試しに床に突き立ててみたらコンクリートなのにあっさり刺さった。……あと、七ツ夜の方を握ったら何故か突然黒い線と赤い線が見えるようになってビックリした。しかもその線を見ていると頭痛が激しくて正直邪魔以外のなんでもない。幸いon-off出来たから良かったけど。

 

 ちなみに携帯は見付からなかった。武器以外何も見つからないとか僕は記憶を失う前一体何をしていたのだろうか。

 

 ……まあ、無くしちゃったものを考えても仕方ない。いつの間にか外も暗くなってて寒いし、移動しよう。

 

 少し歩いたところにある扉を開いて、階段を下りていく。夜なのに電気は付いておらず足元を確認しながら歩くだけで精一杯だ。

 それに、なんだろうか。下に行くにつれて鉄臭いような、鼻を突く臭いが強くなっていく。それと同時に頭の中で警笛のような物が鳴っている。

 

 暗いことへの恐怖心と、身体に染み付いた癖……のような物で自然と手は蜘蛛糸を握っていた。

 そして流れるように刃を射出して壁に突き立てた後、身体は意識に反して集中し始める。まるで時間の流れがスローになるかのように深い集中は、どういうわけか蜘蛛糸越しに周りの音を高感度で知覚出来た。

 

 それによって聞こえたものは……何かがズリズリと動いている音と、獣のような、いやそれ以上にどこか不気味な呻き声と――――悲鳴。

 

 その悲鳴を聞いただけで身体は動いていた。蜘蛛糸を仕舞い、悲鳴が聞こえたであろう場所に全速力で駆けていく。

 何故見知らぬ人の悲鳴にここまで反応するのか。僕自身よく分かっていないが、どうしてか“守らなきゃ”という脅迫概念が思考を支配していた。

 

 足元もロクに見えないというのにさっきまで歩くだけで精一杯だった階段を軽快に駆け下りていく。

 全速力で駆け下りたお陰か、悲鳴が聞こえた所まで二分とかからずに行けた。けれど……そこで見たものは、血だらけで身体のあちこちが欠損しているニンゲンが、人間を食べているところ。

 

「――――ぁ……あぁ、アァァァァァアアァァァッッ!!」

 

 視界が赤黒く染まった。頭は真っ白になって、身体は獣の如く動いていた。

 一足でニンゲンのもとに近付き、その身体に縦横無尽に走っているあらゆる()をただ只管七ツ夜と蜘蛛糸で()()()。ニンゲンは僕の行動に反応出来なかったのか、振り向くことすらせず細切れにされた。

 

 それでもニンゲンだった面影が残っている物体に走っている線をなぞり続ける。

 

 ニンゲンが面影すら残ることなくただの肉塊になった頃には、僕の息は上がっていて、体には嫌な汗が伝っていた。

 

 

 ……残ったのは、ただの肉塊になったニンゲンと、既に事切れている女性の死体。そして……。

 

「……ぁ、ぁあっ……また、守れなかったっ……また、僕の所為で死なせちゃった……っ!」

 

 自分に対する憤りと、虚無感。

 

「……あぁ、そうだ。守らなきゃ、皆を。殺さなきゃ、こいつらを。学校、いかなきゃ……」

 

 覚束無い足取りで()()()()()()()()女性に近づき、真っ黒な丸い点を突く。動き出そうとしていた手は重力に引かれパタリと落ち、周りは少し遠くから聞こえる呻き声と足音に支配された。

 

 皆がいったい誰なのか。何故、守らなきゃいけないのか。どうして学校に行かなければ行けないのか。自分でも分からないのに、そうしなきゃという思考が体を動かす。でも――――

 

「――――その前に。オマエラを、殺さなくっちゃなぁ……ッ!」

 

 ぞろぞろと集まって来ていた数多のニンゲンに向かって七ツ夜と蜘蛛糸を手に僕は駆け出した。




ふと頭に浮かんだ物を我慢できずに書いて、自分の文才も鑑みず投稿しました。
続きは思い浮かんでるので、書ければ投稿します。
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