ぼいろ。 作:みっくすじゅーす
「ぐぬぬ……マスター!もう一戦、もう一戦だけ!」
私の前で見事なぐぬぬ顔をしながらコントローラを握りしめ、再戦を要求してくる紫髪の女性。
結月ゆかり。
なんやかんやあって彼女を引き取り暮らし始めて早三年。
当初は借りて来た猫並に警戒心バリバリだった彼女も、今となってはこのように家事をほっぽり出してゲームに勤しむ毎日……いやダメだろ。
掃除後の休憩と称して私のやっているゲームに乱入して二時間経過。
あと毎度ながらマスターはやめなさいマスターは。
「いえ、引き取られて養われてる身としてはやはり家事炊事床の世話までするのがデフォと(ゲームで)学びましたから。つまりメイドさんです。メイドイコールご主人様。メイドさん、いい響きですよね。服も着こなしたい所ではあるのですがいかんせん胸部装甲が足りないので鉄板メイド服くらいしか似合わなそうで。マキさんならご主人様を誘惑するイケナイメイドさんとか似合うんですけどね羨ましい」
床の世話って何だよとかマキちゃんを何だと思ってるのとかメイドに対する風評被害とか突っ込みが追い付かない!
あとゆかりさんはスレンダー美人っていうカテゴリでトップクラスなんだからもっと誇るといいよ。
フレンチメイド服も買って来るから今度着て欲しい。
「さらりと口説きつつ欲望のままにメイド服も着せていくスタイル、私じゃなきゃ見逃してますね」
いや、さっきの言い分だとメイド服着れば家事炊事をもっと頑張るのかなと。
「床は?」
それは遠慮しておきます。
#
人にはどうしても我慢出来ない嗜好というものがある。
それは酒だったり煙草だったり、お菓子やゲーム、旅行だったり。
私の場合は美味いコーヒーが飲みたいというものだ。
家で作ればいいだろうって?
同居人がコーヒーの匂いは好きな癖に飲むと体調を崩す為、家では中々飲めないのだ。
そのためこうして行きつけの喫茶店でコーヒーをしばくのがもっぱらの私の休日の過ごし方なのだ。
「それで開店前からドアの前に居たんだ……。そうまでして飲みに来てくれるのはありがたいけどね」
私の前でコーヒーを入れてくれる金髪の女性。
弦巻マキ。
休日には父親の仕事である喫茶店を手伝いつつ、バンド活動に勤しむ一人娘にして看板娘という奴である。
「褒めてくれるのは嬉しいけど何も出ないよー。……はい、コーヒー。お父さんほどじゃないけど美味しくできてると思うよ」
マスターのコーヒーは美味い。が、マキちゃんのもそれを受け継いだようでかなりのレベルである。
マキちゃんの場合は女性特有の柔らかさも感じられ甲乙付けがたいのだ。
特にこんな日にはマキちゃんのコーヒーが一番美味い。
「あー……またゆかりちゃんに付き合わされてゲーム?ほどほどにね」
ほどほどにしたいのだが、いかんせん親友がここの所遊びに来なくて、少しばかり不機嫌なのだ。
構ってあげないと家事を更にしなくなるし。
「うっ、いやその、最近お客さん多いし、バンドももうすぐライブがあって練習が……」
ライブ。彼女たちのバンドがライブを行う。それは是非見に行きたいものだ。
その事はゆかりさんには?
「まだ言ってない。うう、不機嫌状態に切り出すのは難しいなぁ……来てくれるかな……」
頑張れ青春。