Re:“r”EKI   作:Cr.M=かにかま

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11.魔ノ女

 

9月19日。

軍警団ケルト支部、生存者ゼロ。

団員全てが【骸】中毒により骨が腐食したため、異臭だけを残していた。

 

第一発見者、蓮見征史。

 

現在、ケルトの封鎖作業、及び住人に対する【骸】の検査を実施中。

[魔女]の一団と思われる人物は見当たらず、進行状況から一年前から【骸】が流通していた可能性が考えられる。

 

現地医師、マングースの協力の元徹底調査中。

 

第一発見者、蓮見征史は軍警団本部にて拘束中。

 

責任者、ホークアイ・アイアンズ。

 

 

 

「.....まさか、またお前とこうして会うとはな」

「.....俺も同じ人間に二度も身柄を確保されるとは思いませんでしたよ」

「強引な手段を取ってしまったことは謝罪する、しかしあの場でお前を保護するにはああするしかなかった。 重ね重ねすまないと思ってる」

「机の上に座って言われても.....」

 

場所は変わり、軍警団ヌンク本部。

軍警団ケルト支部の悲惨な状況の第一発見者として蓮見はホークアイによってヌンクに連れ戻された。

馬車のような、籠のような乗り物に乗せられたので移動のための時間と体力を節約することができたといえば、喜ぶことはできるのだろうが未だに蓮見も状況が掴めずにいる。

 

「それで、何故お前はケルトへ?」

「友人の実家に戻ってた、これは尋問ですかな?」

「雑談だ、力は抜いてくれて構わない」

 

そう言うホークアイ本人の眼光は鋭く、力を抜いているようにはとても思えない。

 

「そういえば、ヒルコ君は」

「あの場に他に誰かいたのか?」

「俺の連れで子供が一人いたはずだが、髪の白い」

「.....いや、私が到着したときは見てないな。 その子も中に入ったのか?」

「.....いや、外で待たせてた」

 

先にどこかに行ってしまったのか、いなかったのであればそう考える方が自然である。

 

「ケルト支部の中に は三年前のフィガロの悲劇を連想させるものだった、今回は建物内だったがあれが駅全体に被害が出てたと考えるとゾッとする」

「.....三年前」

「あぁ、たくさんの死者が出た。 あのようなことを繰り返すわけにはいかない...ッ!」

 

三年前。

蓮見がこの『イヴ』の世界に迷い込むよりも随分前のことだが、ホークアイの表情が当時の悲惨さを物語ってる。

図書館にあった新聞にも【骸】による事件、被害は明確に書かれていた。

資料から読み取るという手段しか取れない蓮見にとってはどこか他人事のように思える。

そう、例えば時空を飛び越えて過去に行って実体験するということでもしない限りは。

 

「そうだ、あんたがケルトに向かう途中で女の子とすれ違わなかったか?」

「女?」

「その、さっき言った実家に付き添った友人なんだが、俺が軍警団の建物に入る前まで一緒にいたんだ」

「.....いや、私は見てない」

 

レキもヒルコも行方知れず。

ヒルコはともかく、レキは一体どこへ行ってしまったのだろうか。

一度ジャンヌの家に戻って帰りを待つのも一手だが、それではいけない気がする。

それではイロハとマングースによけいな負担を掛けてしまう。

それに─

 

(レキとイロハさんは、まだ一回も会話してないんだ。 このまま仲違いなんて、絶対にダメだ.....ッ!)

 

お節介でもいい、こんな形で親子が後悔することになってほしくない。

 

「.....茶でも淹れようか?」

「しばらく俺を帰す気はない、と。 そう捉えても?」

「雑談にティータイムは必須だろ?」

 

机から降りたホークアイは備え付けのヤカンに入った湯を茶葉の入ったコップに注ぐ。

荒々しい見た目に反して、優雅さを感じさせる動作にギャップを感じてしまう。 もしかしたら、蓮見よりも手馴れているかもしれない。

 

「時に君はジャンヌと親しい関係にあると聞いている」

「まぁ、成り行きですがね。 酔っ払ってるところを拾ったといいますか、酔っ払いに拾われたといいますか」

 

ホークアイの眉がピクリと動く、気のせいかもしれないが一瞬だけ目を逸らされた気もする。

 

「出会い方はともかく、今じゃ部屋も貸してくれてるので恩を返そうにも返せないですよ。 せめて、戻るまではできることはしておきたい」

「そういえば、お前はどこの生まれなんだ?」

「.....」

「ど、どうした?」

 

─果たして、言ってもいいものなのか。

疑問が蓮見の頭を過る。 迷い、こんな時こそいつも頼りにさせてもらってるダイスを使うべきである。

ポケットに手を突っ込んで六面のダイスを取り出す。

 

「.....それは?」

「偶数なら話す、奇数なら話さない」

 

訝しむホークアイを無視して、ダイスを天に向けて投げる。

蓮見の一連の行為に疑問を抱くホークアイはポカンとしてしまっている。 中々見られない表情だ。

 

舞い上がったダイスは一定の高さにまで昇ると、あとは落下するだけ。

昇るよりも早く速度を増しながら蓮見の手元に綺麗に落下していく。

この動作は既に何年も行っている、もう手馴れたものである。

 

─ダイスの目は二。

 

「.....やれやれ」

「今のは一体なんだ、どういった意味があるんだ?」

「気にするな」

 

思った以上にホークアイが興味を持ち食いついてきた。 心なしか瞳が輝いてるようにも見える。

 

蓮見が別の世界からやってきた人間であるということを話そうとした矢先、部屋の扉がノックされる。

 

「失礼します、ホークアイさん!」

「尋問中だぞ馬鹿者」

「すみません! ですが、急ぎ耳に入れてほしいことが!」

 

軍警団の制服を着た糸目の青年が蓮見に聞こえない声でホークアイに何かを耳打ちする。

青年の言葉を聞いたホークアイは目の色を変えた。

 

「それは、確かか?」

「間違いありません! 念のためイバラさんにも現地へ向かってもらってます!」

「わかった、私も直ぐに準備する! すまない蓮見、急用ができたので私はここで失礼する!」

 

今までにない剣幕でホークアイが声を荒げる。

 

「俺は釈放ってことでいいんですか?」

「構わん! 続きはまた今度だ、いい茶葉を仕入れとく!」

 

そう言うや否やホークアイは蓮見を置いて飛び出してしまった。

代わりに無精髭を生やした筋肉質の大男が蓮見の前に現れた。

 

「バタバタしててすまないな、こっちも忙しくてよ」

 

男は蓮見に頭を下げ、そのまま出口に案内してくれた。 軍警団本部の建物は思いの外広い。

蓮見一人では出口まで行けなかったかもしれない。

 

「なにかあれば気軽に来るといい、軍警団は市民の味方だ」

「そいつはどーも」

 

気さくな軍警団の男は手を振りながら蓮見のことを見送る、名前を聞きそびれてしまったが問題はないだろう。

そういえば、と蓮見はふと思い立って、少し声を張らねばならないといけない距離になった男に質問を投げかける。

 

「ジャンヌ、はここにはいないんですか?」

 

居候先の家主ジャンヌ。

合鍵はあるが、色々あって今はレキが持っている。 蓮見の手元にはないため、帰っても閉め出しとなってしまう。

─ダイスを振るまでもない。

 

「ん、あいつはたしか、ケルベロスと一緒にペトラに行ったぞ。 伝言なら俺から伝えておくが.....」

「あー、いや、伝言はいいんでお願いしたいことができましたわ」

「?」

「一泊、させてください」

 

 

 

「見失った、な」

 

メーヴァが目と鼻の先になったところでフードを被った女、レキと思われる人物の姿が消えてしまう。

途中までケルベロスの鼻と動体視力を頼りに追っていたのだが、そのケルベロスでさえ匂いがわからなくなってしまったのだ。

 

「ダメだ、メーヴァは香水の匂いやら人の匂いが多すぎる! 嗅ぎ分けられねぇ!」

「くそ、壁も今は邪魔なものでしかないな」

 

─娯楽と魅惑の駅メーヴァ。

富裕層はもちろん、心を満たす者が集まる夜のない駅とも称される『イヴ』で一番賑やかな場所。

その隣が無法地帯のペトラでは問題があるとメーヴァとペトラの間には巨大な壁があり、検問を通さねばペトラからメーヴァ方面に進めないような徹底ぶりである。

 

軍警団であることを提示した二人は検問を容易に通過できたが、魔女と思しき人物がどこに行ったのかは不明だ。

検問の中に匂いは残っていたとケルベロスは断言している。

 

「それよりジャンヌ、あいつ知った顔なのか? さっき呼びかけてただろ」

「.....見間違いであってほしいのだがな、友人の顔だったよ」

「ならそいつの住処に張り込みに行くぞ、可能性の芽は少しでも潰しておくに限る。 案内しろ」

「.....たしかに、友人だけど家は知らない。 家出してんの、あいつ」

「あ?」

「それでうちで居候、だからヌンクまで戻らなきゃいけない」

「.....チッ」

 

完全に手詰まり。

メーヴァに入ることはできたが、魔女の行方を失った。 汽車に乗って逃げられた可能性もある。

 

「.....もし、私の知るレキなら汽車には乗れない」

「あ? そいつはどういうことだ?」

「─あいつは無一文なのよ」

 

そこで親友であるジャンヌは気がついてしまったのだ。 ケルベロスは鳩が豆鉄砲をくらったような表情をしている。

 

「.....つまり?」

「私の見間違いじゃなくて、魔女の顔がレキ本人なら、まだこの駅にいる可能性が高い」

「一時間だ、それ以上は時間の無駄だぜ」

「気が合うわね」

 

寸分の可能性も潰す。

ジャンヌとケルベロスは犬猿の仲だが、それはあくまでも同族嫌悪に近いところがある。

つまるところ、根は似た者同士なのだ。

 

検問を抜けて少し歩いたところでケルベロスがジャンヌに問いかける。

 

「お前のダチ、レキだったか? そいつが仮に魔女だとしたら─」

「─とっ捕まえるよ。 居候してくれた分の家賃請求しなきゃいけないし」

「ハッ、安心したぜ」

 

とは、言ったものの人の数も余計な匂いもメーヴァでは馬鹿にならない量だ。 いくらケルベロスの嗅覚が優れているとはいえ、判別は難しい。

ならば─

 

「逆にメーヴァの雰囲気と違う匂いを探す。 違和感を探したら魔女に辿り着くんじゃないの?」

 

と、ジャンヌは提案する。

 

「.....お前なぁ、他人事のように言うが簡単じゃないぞ? 砂浜の中で特定の砂を見つけるようなもんだぞ」

「あら、軍警団の幹部たるケルベロス様がそんなこともできないの? なら、近々その席は私のものね」

「─このアマが、いいだろうッ! 手柄を取られて泣き喚くんじゃねぇぞ!」

 

この犬、煽りに対して滅法弱い。

特に敵対視している同僚からの一言が効いたのだろう。

 

男に二言はない、ケルベロスはメーヴァの数多ある匂いの中から嗅ぎ分けられる範囲内での違和感を探す。

富裕層が多く占める綺麗な駅での中の僅かな違和感。

香水の匂いもなく、どこか土臭い匂いが強い場所と人物を。

 

─ドン、とすれ違い様にぶつかった人物にジャンヌは謝罪をするが、ケルベロスだけは視線をその人物から外さなかった。

 

「─見つけた」

 

 

 

「迂闊だったぜ」

 

まさか、ジャンヌがヌンクにいないとは思いもしなかった。

とりあえず、一泊は了承してくれたため、寝る場所には困らない。

少し腹ごしらえをするために蓮見は街へ駆り出していた。 いつもと変わらぬ風景。 【骸】による被害が出た日が遠い日のように思える。

 

商店街に入り、露店を見ていると見知った人物がパン屋の前に立っていた。

 

「─レキ」

「あれ、蓮見さん?」

 

行方が知れなかった相棒の姿がそこにあったのだ。

 

 

 

─時同じくして、メーヴァでも進展があった。

魔女と思われる人物をジャンヌとケルベロスが追い詰めていた。

しかし、そこで二人は魔女の姿に疑問を覚える。

 

たしかにケルベロスは魔女の匂いを追いかけてきた。 そこに間違いはないし、黒い外套にフードを被る姿も一致している。

─しかし、ここまで高身長で姿勢も正しい。 猫背ですらないのだ。

 

ケルベロスが強引に抑えているところ、ジャンヌがフードをゆっくりと剥がした。

フードの下から出てきた顔はジャンヌにとっても見覚えのある、居候の友人の顔。

 

「─レ、キ?」

「.....あ?」

 

行方が知れなかった友人の顔がそこにあった。




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