と言っても、まだまだ実力は見えませんが……
「……ひどいモンだな、せっかくの家も資産価値がゼロだ」
野次馬の群れの中、ダァトが焼けて僅かに焦げた柱だけが残った家を見てそうぼやく。
『ヴァウオ!!ヴォウ、ヴォウ!!』
服の胸の中、バイトがせかす様に吠える。
「ああ、わかっているさ。
これは恐らくプレイズナーの仕業……
だが知らん。俺に文字通り火の粉が掛かるまではほおっておくさ」
ダァトが踵を翻し帰ろうとする瞬間!
ドンッ!
「きゃ……!」
「ん?」
膝に誰かが当たる感覚、見ると中学生程度の女学生が倒れている。
「あ、わわ!ご、ごめんなさい!!
私はコレで!!」
慌てる様に、その子は走り去っていった。
「今のやつ……使えるかもな」
ダァトがそっと、腰にぶら下げたブランクキーに手を伸ばした。
「ふーっ、最近外れてバッカだ……だが、ここで来れば……!」
岩さんが新聞を読みながら、ラジオで競馬の結果を聞いている。
苛立たし気に、口に咥えていた煙草を灰皿に押し付けて火を消す。
「うお、こい、来い!来い!!」
ラジオから流れる競馬のアナウンスに、岩さんが今度は馬券を握る!
「……ああッ!!!クソ!!」
しかし次の瞬間、馬券を思いっきり地面にたたきつけ足で踏みにじった!!
「岩さん、警察が競馬とかどうなんだよ?」
「ああん!?指名手配犯ごときが俺に意見するんじゃねー!!
サツだって、立派な人間様よ!!競馬ぐらいするにきまってるだろ!!」
結構な額をつぎ込んだのか、檻の中の玲久に向かって苛立たし気に怒鳴る。
「岩さん、競馬やってる警官なんてかなり少数だと思うけどな……」
「うるせぇ!!これは、大穴……これさえあたりゃ万馬券……!!」
その時、留置所の扉が開き、一人の女が顔を見せる。
留置場であることを加味しても、その女の服は何処にでもいるもので、こんな場所にはひどく不釣り合いに見えた。
「皆さん、おはよう――って!ああ!!燃えてる燃えてる!!」
その女――華姿が岩さんを指さし、大きな声で叫ぶ。
「んあ?」
玲久が岩さんの椅子の下に目をやると……
ボぉッ!!
「アッチィ!?」
岩さんのズボンが燃える!!
煙草の残り火を火種に、ポケットに押し込んだハズレ馬券を伝わって、岩さんのズボンが燃え出した!!
「岩さん!!水、水!!」
「あちちちち!!アチちち!!!」
床に転がり、岩さんが火をそうとする。
その時机に体をぶつけ、ラジオが机から落ちてボリュームが不自然の大きくなる。
『おおっと!!まさかの、出来事!!大穴と思われた「ゴースト・オブ・イグアーナ」が首位に躍り出ています!!』
「ええ!マジか、いけい!!俺に豪華な夕食を運んで来い!!」
ラジオの声を聴いた岩さんが、大喜びで馬券を握る!!
「ペットボトル、水持ってきました!」
華姿がペットボトルの水を岩さんに掛けようとするが、岩さんはそれを回避する!!
「ヤメロ!!俺の万馬券に――」
「お巡りさん、やけどしますよ!!」
華姿が容赦なく、水を掛けようとするが岩さんは火のついたズボンのまま回避しようとする。
「今日は豪勢にステーキを食いに行くか!!」
「病院に行ってください!!」
華姿が岩さんのズボンをつかみ脱がそうとする。
「放せ学生女!!大人しく勉強だけしてりゃいいんだよ!!
公務執行妨害で逮捕するぞ!!」
「公務じゃないでしょうが!!」
無理やりズボンを脱がし、ペットボトルの水をかけて消火する。
一大事だというのに、未だに岩さんは万馬券に夢中だ。
しかし――
『ああっと!!「ゴースト・オブ・イグアーナ」転倒!!転倒です!!』
「クッソだな!!!」
岩さんは容赦なく馬券を破り捨てた!!
「まったく、何やってるんですか!!火の始末をちゃんとしてください!!」
華姿がそう言って叱るが、岩さんはむすっとしたまま、答えはしない。
余程さっきの馬券が響いているのだろう。
「はーっははは!!岩さんはギャンブルに向いてないんだよ」
「んだと!?」
玲久の言葉に岩さんが腰の銃に手を向ける。
「ああもう!!二人とも、なんでそんな子供なんですか!」
華姿が机を拳でたたきつけた!!
「岩さんは、火の不始末は本当にいけません。
最近、学校の周りでも多いんですからね?」
「ほっとけ、空気が乾燥して火事が起きやすくなっているだけだ」
玲久はそこまで大きく取次はしなかった。
「けど、少し変なんですよ」
「変?」
玲久が華姿の言葉に反応する。
「放火だろ?何人か捕まってるが……全員少しおかしくてな……」
知っていたのか、岩さんが新しいズボンをはきながら話す。
「おかしいってのか?」
「捕まった奴らは、全員「マッチをくれ」って、わめいてばっかりなんだよ」
「マッチ?ひと昔の喫茶店とかに在った?」
意外な物の名前に、玲久が目を丸くする。
「どうも、きな臭いな……」
「おいおい、指名手配犯。
また怪物の仕業だって思ってるのか?けどな、放火したやつは捕まってるし、例のマッチを欲しがってる奴らは複数だぜ?
変身者はいないハズだろ?」
岩さんがそう言って説明する。
プレイズナーは、人が変化する者。
当然犯罪の当事者が捕まっていては、プレイズナーも関係ないだろう。
「けど、不思議ですよね。最近マッチ売りの少年がいるそうですよ?
なんか、人気みたいで偶然目にしたときは、結構な人だかりでした」
その言葉を聞き、玲久が反応した。
「捕まってる……ああ、なら……まさか、他の視点から?
いや、違う!!まさか、他のヤツが動いた可能性が!!」
心の中、思い当たる節に玲久が目を見開き立ち上がる。
「調子はどうだ?」
館の研究室、フェニシオンが椅子に座ったまま目の前の楊に話しかける。
「販売結果は上々です……」
楊が数枚の硬貨を机の上に置く。
「売上じゃねぇ!範囲だ範囲!!」
「こ、今月ではや、3件……配り始めた先月と合わせると17件になります」
パラパラとメモ帳を取り出し、楊がフェニシオンに報告する。
「あー、成功とも失敗とも言えないか……」
フェニシオンが立ち上がり、机の上にある黒い長方形の掌サイズの装置に刺さっているキーを引き抜く。
「そろそろ、変化が停滞した試験管に新たな、溶液を垂らすときか……」
フェニシオンがキーを持って、そばにあったずいぶん古いマッチ箱へとキーを差し込んだ。
『イグニッション!!マッチ!!』
その瞬間、マッチ箱が人のサイズとも思える大きさの炎に包まれた!!
「起きろ、マッチプレイズナー。
そのために必要な人格はプログラムしてあったはずだ」
『うあ……フェニシオン様……』
炎の中から、マッチ箱を巨大化させたような怪人があらわれる。
貧相な胴体だが、背中からは無数のマッチが生えて炎が燃えてる。
猫背の様にまがった腰、胴体から伸びる尻尾は、2足歩行を覚えたアルマジロの様な姿だ。
「行ってこい、オマエの仕事はライダーをつぶすこと……
そして、この研究所の為に資産を少し稼いでくることだ。
研究は金がかかる、〈監獄〉からの支援じゃ心もとないからな!」
『はぁい……』
マッチプレイズナーは、自身のマッチ箱の箱を開けると、そこからぼとぼとと無数のマッチ箱を産み落とした。
「これを、販売してきます」
楊に連れられるようにして、マッチプレイズナーが館から出ていった。
「さぁて、俺のプレイズナーは特殊だ……どうなる?」
フェニシオンが、キーを引き抜いた装置に未だにマウントされている4本のキーに目をやった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
静かな住宅街、一人の男が枯草の生える空き地をこそこそと作業をする。
酒をしみ込ませ縦に切れ目を入れた靴下を、ペットボトルにつめる。
「ああ、う、あ」
意味をなさない言葉が喉から漏れ、震える手でポケットからマッチ箱を取り出す。
「は、早く、早く、」
心がせかしすぎて、体が遅れる。
なんとか最後の一本のマッチを取り出し、マッチ箱で擦ろうとする。
「くそ、はやく、はやく……!!」
「おい、アンタ!何してる!?」
その時、突如声がして男が顔を上げる。
「どう見たって放火だろ!!指名手配犯、マッチを奪え!!出来るならズボンもだ!!マッチだけとは考えられにくい!!」
「分かった、岩さん!」
玲久が走り、怪しい男からマッチを奪い取る。
その瞬間男の顔がガラッと変わった!!
「返せえ!!それは俺のだ!!俺の炎だ!!」
すさまじい力を以て、玲久からマッチを取り返そうとする。
「な、力つよ……ええい!!」
べきッ!
小さな音がして、マッチ棒が先端から折れる。
「ああッ!?なんてことをしてくれんだ!!最後の、最後の一つだぞ!?」
泣きそうな顔して、男が玲久からマッチ箱を取り返す。
そして、まるで禁断症状でも出たように、何もないマッチ箱をひたすら引っ掻き回し始める!!
「おいおい、大丈夫かコイツ――危ない!!」
玲久がとっさに男を抱え、その場から飛びのく。
一瞬遅れて、炎が二人のいた場所を舐め回すようにはい回った。
「プレイズナー……出やがったな?」
『あなたの顔、見たことが有ります……ライダーの変者ですよね?
悪いが、燃えてもらいます……』
マッチプレイズナーが、巨大な燃え滾るマッチ棒を手にして語る。
「はっ!やってみな!!おれは自由だ!!変身!!!」
『クライムキー!!コード・チェンジ!!
ブレイク・ア・プリズン!!ゲット・ア・フリーダム!!』
炎を交わしながら空中で一回点!!
着地地点に居る、マッチプレイズナーに飛び蹴りを食らわせる!!
『おおっ……』
「なんだ、コイツ、弱いぞ?」
通常の蹴りで大きくたじろいだ姿を見て、玲久が自身の勝利が近い事を確信する。
『な、なんですとぉ?ならば……これは!!!』
マッチプレイズナーが自身の体をアルマジロの様に球体に丸める。
背中の炎を全身に纏い、高速回転で体当たりを食らわせようとする!!
「オマエ、やっぱよえーよ」
ジェイルが、自身のキーを引き抜き腕の手錠に差し込み回す。
『チェイン・ナックル!!』
音声と共に、ジェイルの両手に手錠型のメリケンサックが召喚される。
このナックルはコードが付いており、投げる手錠として戦闘の補助機能があるのだが……
「んじゃ、ライダーパンチ!!」
『ジャッジメントターイム!!ジェイル・ナックル!!』
エネルギーを纏った拳をたたきつけ、マッチプレイズナーが浮く!!
『あぁあああ!!』
「ほいっっと!!」
両手のナックルを伸ばし、マッチプレイズナーの足と手を拘束する。
そして――
「おりゃぁああ!!」
思いっきり引っ張り、地面にたたきつける!!
『うぅぁあああ!』
「もういっぱっぁあああつ!!」
『あぁああああああ……』
さらに一発、地面に叩きつけた瞬間、マッチプレイズナーの背中の炎が消える。
「ん?たおした?」
玲久、岩さんが見る前で、マッチプレイズナーは音もなく消し炭になり消えた。
「なーんか、あっさりしてるな……キーは?」
「いや、キーどころか、変身者も居ない?」
不信に思う玲久の前で、何かが灰の中から飛び出す!!
そしてそれは、さっきの放火未遂の男の手のマッチ箱に突き刺さった!!
それはキーだった。そのキーが勝手に回り炎に包まれ――
『ふぅ……さっきぶりだな……ライダー』
炎の中から、新しいマッチプレイズナーが生まれた。
「な、一体どうなってるんだ!?」
玲久が珍しく驚く。
「ありがとうございました」
楊がマッチ箱すべてを売り終え、ニヤリと笑う。
開始数分でこの売れ行きだ。
手元に一個だけ残した、マッチ箱を見る。
「見る麻薬か……」
楊が一本火をつけてみる。
小さな一本の炎、だがその色合いは妖しく美しい。
刻一刻と色を形を変えて、燃える炎。
それは人を引き付ける、危険過ぎる麻薬のような力があった。
この炎に心をあぶられた者はどうなるか。
より長くこの炎を楽しみたくなる、より大きな炎を見たくなる。
そして、最後には自分より大きくなった炎に身を投げ……
その瞬間、ふっとマッチが消える。
「あ、」
楊の指先が火傷している。
看守さえ引き込む怪しい魅力……
今日もマッチは飛ぶように売れている。
放火って、無差別殺人みたいなもんで罪が重いらしいです。
故意か否かは分かりませんが、火の扱いには気を付けてくださいね。