もう少し待ってくださいね。
「ぐぁ!?」
全身に耐えがたい痛みが走り男が一人、道に倒れ込む。
車にぶつかったのか、手足が有らぬ方へねじ曲がり、視界に血が滲む。
パパーッ!
そして、自分めがけて大型トラックが走ってくる。
こちらに気が付いていないのか、スピードを緩める気配さえない。
「い、いやだ……あ、ああ!!」
男は必死で、体を動かそうとするが――
グシャ!!
惨状と思える世界で、別の男がその様子を見る。
足元で小さな物体が動く。
「ヴォウ!!ヴォウオゥ!!」
「ああ、まただ……またして
ダァトが死にゆく男をじっと眺める。
『ぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!ぴぴぴぴぴぴぴ――』
ガチャ!
「……うん、あれ?こんな時間?」
一人の男が、目覚ましを見て飛び起きる。
気が付けば時刻は7時12分、ゆっくり朝食を作る時間などもう残っていない。
「あ、おにいちゃん。ごはん出来てるよ?」
その時扉が開き、かわいらしい女性が顔を覗かす。
「あ、
「もう、社会人になって遅刻なんて恥ずかしいでしょ?
かたずけなんて良いから、早く食べちゃって」
纏衣がせかす。
「わ、わかったよ……」
彼の名は、笹山 健吾。
とある会社に勤める商社マンだ。趣味は釣りとバイクのツーリングで、好物は半熟のハムエッグ。
バタコは吸わず、お酒も苦手。
しかし先輩に進められれば、多少は付き合いで手をのばす。
「……うん、おいしい」
妹は彼の好み通りの卵を毎朝焼いてくれる。
自分で作ると、どうしても納得のいくものが出来ない、なぜだろうか?
「この卵を食べれるのも、もう終わりか……」
健吾が寂しそうに、米を口に含む。
「なによ!そろそろ妹離れできないの?サイッテー!」
ぷんすかと怒る妹の後ろには、たくましい男の写真が飾られている。
「はぁ、まさかお前に先を越されるなんて……」
写真の男は纏衣の恋人にして、婚約者。
大学生同士の身分ではあるが、お互い本気で将来を考えているらしい。
同級生が就活で忙しい中、纏衣はまさかの永久就職を決めてしまったのだ。
「ふふん、お兄ちゃんも早く恋人見つけなよ?
私にかまってないでさ……
お父さんも、お母さんもきっとそう思ってるから……」
馬鹿にしたように笑みを浮かべたあと、真剣な顔をする。
そして二人同時に部屋の隅の仏壇に顔を向けた。
仲の良さそうな夫婦が写真の中で、微笑んでいる。
「私、幸せになるから……お兄ちゃんも自分の幸せ見つけてね?」
「うん、そうだな――って、アチチチ!?」
「もう!ふきん、ふきん……」
健吾がコーヒーカップのコーヒーを誤ってズボンにこぼしてしまう!!
纏衣が拭くものを用意しに、台所に走る。
――この後自分は、机の角で頭をぶつける――
「え?」
妙な既視感が走り、健吾の箸が転がり始める。
その様子をみて、反射的に箸を取ろと手を伸ばすが――
ゴンッ!
「痛てぇ……!」
箸を取るのに夢中で、額を机にぶつけてしまう。
「いてて……?
本当にぶつけた?」
妙な感覚を持ちながらも、その朝食を食べ終わった。
「さてと、いってきま――え?」
自身の家の前、黒いコートの様な物を羽織った男が電柱にもたれかかっていた。
明らかな不審人物に、健吾が纏衣を心配する。
「閉じまり、たのむぞー」
声をかけて、なるべく目を合わさない様にと走る様にして歩き出す。
「おい、お前」
「ひゃい!?」
いつの間にか、すぐ後ろに立っていた例の男に健吾が裏返った声を漏らす。
「今日は家で大人しくしていろ。
外に出歩いても、良い事はゼロだ」
「そ、そうなんですか……けど、大切な会議が有るので……」
「それは命より大切か?大人しく、家に居ろ」
怪しげな男が、健吾の首のネクタイをつかむ。
「な、離して――あなた一体だ、れ……」
「おい、何やってるんだ!!」
偶然、近くを通りかかった警官が男に警告する。
「チッ!俺はダァト、良いか今日は大人しくしているんだぞ?」
指をたて、そのまま音もなくダァトはそこから走り去った。
「なんだったんだ、一体?」
健吾が駅で電車を待つ。
思い出すのは、さっきの不振な男の事だった。
男が男にストーカー?それとも、タダの酔っ払いか……
そんな事を考えていると、突如カバンを引っ張られる!!
「え、え?」
カバンは線路へと向かい、ひとりでに引っ張られる。
「な、なんで!?」
誰かのイタズラとか、そんなレベルではない力だ。
そして、引っ張る奴は誰も居ない。
本当に一人で線路へ向かっている。
「な、なんで!?た、助けて!!」
急に恐怖が湧き、思わず健吾が声を上げる。
いつの間にか、カバンの紐が体にくっついて離れない!!
ホームに向かって、電車が飛び込んでくる!!
「あ、ああ!!!あああ!!」
電車が目の前に迫った時――
「なにしてる?死にたいのか?」
急に後ろから、背広をつかまれ後ろに引っ張られる。
そこにいたのはダァトだった。
「あ、あんたがやったのか!?悪質だぞ!!」
ダァトがカバンを引っ張ったと思い、健吾が怒鳴る。
「違う、なぜ俺がお前を狙う必要がある?ほら、さっさと帰れ」
シッシッと手で払う動作をするが……
「仕事ですから!」
そう言って、電車に飛び乗った。
「はぁ、自体がつかめて居ないのか?不便だ」
ダァトが困ったようにため息をつく。
「ふー、一体何が――」
ガシャン!!
「ひい!?」
突如自分に向けて、駅のホームの鉄骨の一本が落下してきた。
運よく気が付いたが、あと少しずれてたらと考えるとゾッとした。
おかしい、何かがおかしい。
健吾がそう思いながら、会社内で昼食をとる。
纏衣の結婚式に出る為、有休を貰う事にしたのだがそのつけというべき仕事が山の様に入ってくる。
それは仕方ない、だがなぜか今日は無性に事故が多いのだ。
死にかけたのは優に4度ほどある。
「えっと、次は得意先の商談……」
その時、ピりりりと電話の着信音が鳴る。
仕事用の携帯で、相手は得意先からだった。
「待ち合わせ場所の変更?」
メールには、地図が添付されておりその文面を見て、健吾が不安になる。
不安をかんじながらも、指定先に向かって歩き出す。
「また、何か……」
起きるのでは?と思った瞬間、道の奥から大型トレーラーが車を跳ね飛ばしながら走ってくる!!
ドライバーが驚いた顔をしている様に、ドライバー本人にも止めることが出来ない様だ。
「わ、わぁああああ!!」
走ってくるトレーラーの前を小さな何かが高速で横切った!!
一瞬のタイムラグのあと、トレーラーの前輪が2つ同時に張り裂ける!!
『ビーッ!ビビーッ!!』
健吾の少し前で、トラックが電柱に激突して止まる。
しゅん――
しかしその勢いで、途中でへし折った道路標識が回転しながら健吾めがけて飛んでくる。
運命か何かが、健吾を殺そうとしているのは明らかだった。
「ふぅ、馬鹿は死んでも治らないらしいな?」
パシン!
飛んで来た標識を、ダァトが片手で受け止め近くに投げ捨てる。
「あ、あんたは……」
「気が付いてるか?お前は朝からもう50回以上死にかけている」
「な、なんで?」
ダァトの言葉に健吾が思いつく節を数える。
「当然だが、俺が未然に防いでこの数だ。
これ以上は危険だ、家に帰れ」
「あ、明日は休みますから……得意先だけでも……」
拝むように健吾が頼み込む。
「ダメだ。俺は――いや、むしろ好都合か?
俺を同行させろ、それが条件だ」
有無を言わせず、ダァトが健吾に同行する事となった。
彼の話が本当なら、自分を影ながら守っていたことに成る。
だとすれば、少なくとも彼は信用できるハズ。
健吾はそう考えた。
「本当に、ここか?」
「は、はい……」
ダァトの言葉に、健吾が息を飲む。
得意先に指定されたのは、つぶれた廃工場で――
「やばいブツでも取り扱うのか?」
「そ、そんなはずは――」
いささか、いや、かなり怪しい場所におどおどしながら健吾が歩く。
『やっと来たね?』
少年のような声と共に、入り口がつぶれる。
錆びた鉄が重なり入り口を完全にふさぐ。
健吾は気が付く、目の前に異形の生物がいる事に。
「な、何なんだ、コイツ一体!?」
健吾が怪物を見て、金切り声を上げる。
健吾の脳裏に異常を示す、警告音が鳴り響いた。
だってそうだ、同じハズの日常、同じハズの世界、そうだこんな奴はいなかった!!
だが――
ヒュン――
『何か』が、健吾に向かって鉄の槍を投げそしてまた別の『何か』が空中でその槍を弾く。
「つぅ!」
頬に少しだけ走った痛みが、コレが現実だと実感させる。
『ヴォウ!!ヴォウ!!』
槍を弾いた『何か』が吠える。
「え、犬?ロボット?」
それは掌サイズの、四つ足の光沢あるボディをしていた。
「やれやれ、やっと姿を見せたな?
だが、ここじゃレイクの応援の期待値はゼロだ。
なら、仕方ない、な?
バイト、来い……!」
ダァトが、健吾と怪物の間を隔てるように割って入った。
「……こんな所まで、ご苦労。砂鉄と、物を引き寄せる力……マグネットか。
そんなに新しいおもちゃを自慢したかったか?楊?」
『ダァトォ……』
怪物がダァトの名を呼ぶ。
「相手をしてやる。特別に、な?」
ダァトが黒いコートの前をはだけさせると、腰にベルトが装着されていた。
そして、突き出した左手にバイトが乗り、メリケンサックの様に変形した。
「変身……」
バイトが変形した、メリケンが3つの口を同時に開く!
そして、ベルトの半円の部分、Dを左右反対にしたような形状に上からスライドさせてパーツと押し込む!!
『エマージェンシー!!エマージェンシー!!エマ!エマ!エマ!エマ!エマージェンシー!!』
赤と黄色の発光がダァトを包む!!
「さぁ!ハンティングの時間だ!!」
『Go!!ブレイキングファング!!』
光が晴れると、そこには紫の戦士がいた。
目立つのは、光沢の有るスーツと所々にある紫の毛皮の様な姿。
右手にはオオカミをイメージさせる手甲が装備され、顔も赤い複眼を獣を牙をイメージさせるフェイスガードが守っている。
下半身にも、外から内に狭まる白い部分があり、両足を開いた部分は口を開いた獣をイメージしているのだろうか?
『データにある……看守を作る最中で、あまりに失敗が多かったから生まれた第4世代の看守……
その中でもお前は――』
『半分は第3世代をミックスさせた特別型コードネームは――
ハウンダー!!』
その言葉と共にハウンダーが走る!!
『負けるか、前時代の遺物に――』
マグネットプレイズナーが磁力を使い、鉄の塊をハウンダーに投げるが――
『いい足場だ』
ハウンダーが空中でそれに、
そしてマグネット向けて跳躍、ベルトのバイトと一回ベルトに押し込む。
『ファーストバイト!!』
『今のお前にはコレで充分だ』
ハウンダーがオオカミの顔の意匠のある右手、その目の部分が光る。
そして――
『ぐぅぁああ!?』
マグネットの鳩尾に、深々と拳が突き刺さる!!
『悪いな、お前の勝率は最初からゼロだ』
拳を引き抜き、ハウンダーが後ろを向くと同時にマグネットプレイズナーが爆発四散した。
「な、なにが起きたんですか……?」
健吾が不安そうに、変身を解除したダァトに聞く。
「あれはプレイズナー、要約するとバケモンだ。
そしてさっきの俺もな?」
「なんでもいいです……助かったな――ら!?」
背中に衝撃を受け、健吾が口から何かを吐き出す。
「なに?」
「ぐぼっ……?」
なぜか健吾の腹から鉄骨が生えていた。
天井の一部が、さっきの戦闘で剥がれたと理解した時には、健吾の視界は薄れていた。
「ああ、
ダァトが残念そうに、口を開く。
『ぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ!!ぴぴぴぴぴぴぴ――』
ガチャ!
「……うん、あれ?こんな時間?」
一人の男が、目覚ましを見て飛び起きる。
気が付けば時刻は7時12分。
そして、また『今日』が始まる。
フェニシオンレポート21
『ライダーシステム』
看守の持つ、プレイズナーに対する有利性は以前のレポートで紹介したが、看守のシステム自体に非常に多きな問題がある。
看守を作る作業は非常に成功率が低く、人数を確保することが出来ない。
さらにその特性上、精神に異常をきたした者が非常に多い。
報告書では、第一世代の看守は全員精神が崩壊し、残っていない。
続く第二世代は唯一一人だけ生存しているが、やはり性格に問題がある。
第三世代からはより、精神に負荷を掛けない看守が必要となる。
そこで我々は、Dr佐久良と協力して、疑似的に看守の能力を実現させる道具を研究している。
プロジェクト段階での仮の名は――※コレよりは閲覧が禁止されています。