仮面ライダージェイル   作:ホワイト・ラム

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さて、今回から第2章といった所です。
いよいよあの人が動き出しますよ?


救いの使い/願い叶えるモノ

『げほっ!けほ、けほっつ……』

暗い海の底から、何かが姿を見せ波打ち際から海岸へと流される。

それはかろうじて人型を保っており、何とか人間だと分かる有様だった。

 

『はぁ――、はぁー……はぁ……うぐっっ!!』

何度もえずいて、口から海水を吐き出す。

ぎろりと、血走った眼をむけ周囲を確認する。

 

『…………ジェ……ネ、ラル……さま……』

最低最悪の怪人クレルが、全身に被った海水と砂をこぼしながらなんとか立ち上がる。

船の沈没に巻き込まれ、体中にダメージを負っても未だに命があるのは、奇跡かジェネラルの加護か……

一先ず命だけは失わなかったクレルが、凶悪な笑みを浮かべる。

 

『くひ、くひひひひひ!ライダー共め……私をあの程度で消せたと思って――ぐっほぐっほ!!はぁ、はぁ……思わないことです!!

私の中に作戦はいくらでもあります……今度は容赦もしません、手加減もしません!!

私と、私にジェネラルが与えてくださったすべての能力で、見るも無残に、身も心も削り取ってあげますよ、くふ、くひひひひひい!!』

何度も転びながら、よろけながら協力者のフェニシオンの研究所へと向かう。

そこが一番回復に適した場所だ。

 

 

 

『フェニシオン!フェニシオンいないのですか!!』

研究所の扉を開け、奥へと入っていく。

コーヒーに書類、電源に入ったコンピューターなどが置いてあり、ついさっきまでここにいた様だった。

 

『なぜ、なぜ肝心な時にあの男はいないのですか!?

まったく!!これだからアイツは――』

クレルが、研究室の机をたたくと同時に何かが床に落ちる音がした。

 

『?』

些細な事なのだろうが、その音がほんの少し気になったクレルは、弱った足を机の裏へと回りこませる。

 

ピ、ピ、ピ、ピ……

 

規則正しい機械音。

相手が何なのか、普通はわかるだろうが負傷した体がクレルから冷静な判断力を失わせていた。

 

ゆっくりと、その『何か』を確認しようと視線を向けると――

 

『これは――やられましたね……』

いつもの様にニタリと嫌な笑顔を浮かべ――

 

ピ、ピ、ピーー!

 

機械の音が止まると共に、研究所が爆発音に包まれた!!

すさまじい衝撃と爆風が、巨大な屋敷のすべてを吹き飛ばした!!

 

 

 

 

 

「あー、ようやっとここまでか……」

岩さんが街中をパトロールという名目で自転車をこぐ。

その籠の中には未だに職務中だというのに、酒瓶や買い物袋が見えている。

だが、その笑みは修復されていく街中を見て小さく笑みを浮かべていた。

 

大きな事件が一つ解決され、小さく安堵の息を付いているのだ。

先日起きたベリアル船を使った非常に大きな事件。

玲久をはじめ数人のライダーたちの活躍で、クレルの悪夢の計画は未然に防がれた。

傷跡はいまだ大きいが、それでもゆっくりと町は平穏を取り戻していっているようだった。

 

 

 

「おーい、指名手配犯ー帰ったぞー。

喜べ!今日は肉を使ってすき焼き――あ”!?」

 

「よー岩さん!遅かったな!」

先の事件での、活躍を見せた玲久を労おうと珍しく岩さんが気を利かせ料理の材料を買ってきていた。

余談だが、岩さんは少しばかりすき焼きにはうるさい。

金持ちではない一般庶民に許された、ささやかな贅沢。それがすき焼きだ。

久しぶりに手腕をふるおうと、意図せず体に力が入る。

 

だが、玲久のいるはずの監獄からはとてもいい匂いがしてくる。

それは――

 

「岩さん!遅いですよ!!早く、早く!」

珍しく興奮した様子を見せる女子大生の、華姿がは手招きをする。

 

「女学生?」

 

「ようやく来たのか、小早川」

 

「め、目栗の坊ちゃん!?」

奥から姿を見せたのは、警視総監の息子の目栗 出流だった。

その姿を見せると同時に、緊張したように体をこわばらせる。

 

「そうかか固くなるなよ。先の戦いの報酬……というわけではないが、ちょっとしたものを用意した。

さ、皆で食べようか」

出流の目の前のコンロには、すき焼きがぐつぐつといい音を立てて煮えている。

 

「は、はい……ああ!?」

岩さんの目の前の鍋に、出流が白滝を肉のそばに入れた。

 

(肉と白滝は離すのは普通だろうが!?)

岩さんが小さく憤るが、そんなことを相手に言える訳はなかった。

相手は警視総監の一人息子。何かあっては自分の首が飛ぶ!

耐え難い憤りをが岩さんは一人飲み込む。

 

「さ、肉の追加だ~特上肉だぞ~」

ぼとぼとぼと!!

鍋の中に、霜がたっぷり降られた肉が出流の手で投入されていく。

 

「な、なにを!?」

岩さんは小さく声を漏らした。

 

(に、肉を食べきっていないのに、追加だと!?そんなことをすれば、肉同士の煮え方にムラができるじゃないか!!

いや、それどころか最初ではなく、次弾に特上だと!?

肉の油が出てただでさえ、くどくなった鍋にさらに油を!?あり得ん!!

鍋が、野菜が、肉が本来の性能を生かし切れていない!!こんなものすき焼きとは呼べん!!)

 

プルプルと震える岩さんを見て、ほかの3人がひそひそと話す。

 

(おい、岩さんどうしたんだよ?なんか震えてるぞ?)

 

(フン、俺の特上肉に喜びを隠せないんだろう。ま、偶には贅沢をさせてやってもいいだろう?)

 

(え、けど怒ってるように見えますよ?)

 

「そんな訳ないだろ。おい、小早川。

どうだ?うまいだろ?」

出流の言葉に、ピクリと岩さんが反応した。

 

「え、ええ……とても美味ですねぇ……!」

上げたその顔はまるで阿修羅か仁王の様に見えた。

 

「そ、そういえば……シーカーの開発者って誰なんだ?」

誤魔化すように、玲久が話題を出流に振った。

 

「開発者だと?なぜ、そんなことを?」

その質問に、出流が固まった。

 

「実は、なんか道具をもらっちゃってさ?」

そう言って取り出すのは鳥型のサポートマシンだった。

前回のベリアル船の甲板で、キングとクレルを倒すのに活躍したアイテムだった。

自立で飛行機能を持ち、キーを差し込んだことにより武器として、ジェイルの新たなフォームを生み出すことに成功した。

 

「奴が接触?そんな馬鹿な……そいつは行方不明なんだ」

 

「行方不明の開発者から、接触があったんですか?」

華姿が疑問を呈する。

 

「いや、行方不明といっても連絡は取れるんだ。

独自の研究室を持っていて、おやじとはどこかで知り合ったらしくてな。

シーカーの設計と、メイン武器は全部そいつのおかげだ」

 

「ん?それっておかしくないか?」

玲久が

が、コップのお茶を飲み干して口を開く。

 

「おかしい?」

 

「そいつ何者だ?なんでキーを知っているんだ?

いや、シーカーはキーの技術を利用した謂わば『疑似クライムキー』だ。

それだけじゃない。クレルに対して特攻能力もあった。

キーだけじゃない、看守の情報まで普通の研究者が知る訳ないし、普通の技術者にそんなものが作れるのか?」

玲久の言葉にそこにいる全員が黙りこくった。

正体を見せぬ研究者。名前も姿も誰も知りはしないという、ひどくあやふやな存在。

 

「なぁ、そいつ本当に俺たちの協力者なのか?」

岩さんが重い口をようやく開いた。

 

今まで当然の様に存在していた、確かな物が音もなく消えていく気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

髪の長い一人の温和そうな顔をした女が、とある部屋で手のひらを合わせて何かを祈っている。

時折小さく唇が動き何か、祈りか、聖典の内容かを口にする。

 

「あら?」

その女が、こちらに向かってくる足音に目をうっすらと開く。

間もなく、女性の居る部屋の入り口がノックされ、一人の少年が姿を見せる。

幼さの残る背丈に、『着られている』という表現が似合う看守の様な制服。

 

「ヴァレフォ様。アレが回収されました」

 

「まぁ、クレルが見つかったの?」

楊の言葉に、ヴァレフォが小さな驚きを見せる。

ベリアルキーが破壊されすでに10日が過ぎていた。

ジェイルとの戦闘に敗北して、崩れるベリアルと共に海中に深く沈んでいったのはその戦いを目撃していたダンタリオンによって報告されていた。

 

【看守のトップにして、〈監獄〉の事実上の支配者が消えた】

 

その知らせを聞いて多くの者は歓喜した。

残念な事にクレルの存在を好むものなど居らず、皆嫌な奴の失態を喜んだ。

唯一の例外は博愛主義を掲げるヴァレフォくらいだろうか?

 

「それで『回収』というのは?」

 

「それは――」

 

『それは半死半生で見つかったからですよ?』

その声を聞いた瞬間、楊の背中にゾワッとする寒気が走った。

振り返ると立っていたのは、体に大量の藻をくっつけ海水を滴らせたクレルだった。

 

「ひっ!?」

 

『おやおや……先輩の復帰を喜んでも良いんですよ……?

もっと、全身で……』

ニタリと笑うその姿には明らかな無理が見て取れた。

足を引きずり片腕は力なく垂れ下がり、常に息は切れている。

嘗ての、姿からは大きく離れてしまっている。

 

「無理をなさらないでください?貴方はとっくに限界を超えているのでしょ?」

 

『何を……根拠に――――うぇ!?』

突如クレルが倒れ込み、白目を剥いてえずいた。

 

『あ、あ……ああッ!!』

クレルの体から一本のキー、蝙蝠の意匠のキーが零れ落ちて破壊された。

 

『!!? こ、こんな……事が……私がジェネラルから頂いた力の一部が……!

その一部がぁ!!!!』

そのままクレルが倒れ、そして意識を失った。

 

「救護室へ向かわせます……」

楊が他の看守を呼び、クレルを連れて行く。

 

 

 

「……」

背に掛かるクレルの体重を楊は感じる。

 

(クレルが意識を失った……キーも一本失ってしばらく目を覚ます事は無いハス……

なら、次のリーダーは……)

楊は密かに『次』の行動隊長を考える。

いや、考える間でもないクレルの他に『看守』として指揮をとれるのはたった一人だ。

クレルは大きな失敗を犯し、外に出したフェニシオンは先の戦いから連絡が取れなくなっている。

ならば――

 

「僕が、僕がこの〈監獄〉の次の指導者だ――なら……」

考えることは一つ。楊は小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キキィイイイイ!!――――――ドシャ!!

 

とある夕方時、狭い道で何かがぶつかる音がする。

それはまるで巨大なトラックが人にぶつかるような――

 

『た、助けてぇー!!助けてぇ!!お願い!!お願い!!殺される!!殺され!!』

助けを求める声。

そしてそれを押しつぶさんばかりの巨大な()()

 

「なになに?」

 

「け、警察!?いま――」

 

「あれ、おかしぞ!?」

 

ざわざわと、大量の人間が集まってくる。

何かがぶつかる音と、悲鳴と、怒号を聞きつけ何事かと、野次馬は半分興味半分と集まるがどこを探しても、『何もない』。

 

ぶつかったと思われるトラックも、悲鳴を上げたと思われる女性も、その女性に暴行を加えたと思われる怒号の主も。

 

 

 

「へぇ……こうなるんだ」

一人の人物が、手にしたキーを見て集まる野次馬の中に塗れて小さく口角を上げる。

 

「面白いものもらっちゃったな……」

こんとキーを指先でつついて、その人物はその場からゆっくりと歩き出した。

その人物は、帰りがけにシスターのような服装をした女とすれ違う。

そばに控えるようにたたずむ、看守服の少年も一緒だ。

 

「どうですか?あなたの願い叶いましたか?」

 

「……ええ……まぁ」

そっけない言葉だがヴァレフォは幸せそうに微笑んで両手を合わせた。

 

「まぁ、よかった。あなたが幸せになれることを心からねがっていますよ」

優しく柔和な裏表のない、笑顔を見せた。




クレルはしばらくお休みです。
この後は、楊君の頑張りに注目ですね。

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