納得できないという人も多くいるかな?
「ふんふん……これは……」
岩さんがすき焼きの残り汁を使って作ったうどんを啜りながら、警察の捜査資料を読んでいる。
皆で食事を囲んだ後、結局は正体不明のシーカーの製作者について話すうちに、おかしな雰囲気になり結局そのまま話し合いは終わてしまった。
華姿が大学のレポートがあると言って下宿先に帰り、出流は少し調べたいことが有ると言って家に帰ってしまった。
結局祝賀会という気分も冷めて、岩さんは残しておいた仕事に戻る。
戻る。のだが……
ズー、ズズーッ!!
「はぁ!やっぱりすき焼きの〆はうどんに限るな。雑炊は脂くどくていかん!」
なんと言うかうどんを啜りながらの仕事というのは、ひどく不真面目に見える。
いや、見える以前に、人としてどうかとさえ思うのだが……
「死亡者、怪我人共にゼロ……か。
なぜだ?どうして被害者がいない?」
資料を閉じて、自身の頭をぼりぼりと掻く。
「んだよ、岩さん。犠牲者が出た方が良いって口ぶりだな。警察として大丈夫か?」
後ろからひょいっと資料を覗きこんだ玲久が、岩さんの肩に肘をかけてもたれ掛かる。
「退け!邪魔だ!!!」
岩さんが鬱陶しそうに玲久を振り払い、不機嫌そうな顔をする。
「えー、何々……現場は見通しの悪い車道で、事件はトラックと歩行者の事故と思われる。
被害者はおそらく、10代ほどの少女であり、トラックと思しき車に壁の間に押し込まれたと推測される?
なんだこれ?『思われる』とか『推測される』とか『おそらく』と確実な情報が何一つないじゃないか。こんな仕事でよく警官クビに成らないな?」
「返せ!そいつは一応警官内部の極秘捜査資料だ!!
今回もまたこの手の事件か……」
「この手の事件?」
岩さんの言葉に玲久が珍しく反応して見せる。
「こう――お前の言うプレイズナー関連と思わしき事件だよ」
「あ、また思わしき!っていうかプレイズナー関係あんのこれ?」
捜査資料を見てみるが、ひどくあやふやなことを除けば何処にでもある、普通の交通事故関連の事件だと思う。
「まぁ、その言い方じゃそう見えるわな。
だが、事件はこれだけじゃない。近隣トラブルで殺し合いに発展した事件、複数の――おそらく暴走族と思われるグループがバイクで人をひき殺した事件……今のところ10件近い時間が起きている。
けど、どいつもこいつも被害者がいないんだ」
「被害者がいない?」
岩さんの言っていることがよく理解できずに、玲久が聞き返した。
どれもこれも明確な事件のハズなのに、被害者がいないというのはどういう事なのだろうか?
「消えちまったんだよ、被害者も、容疑者も、その痕跡さえもな。
百聞は一見に如かずだ。よし、指名手配犯!行ってこい!!現場百回だ証拠は自分で探せ!!」
捜査資料を押し付けるように渡すと、玲久を留置所から追い出した。
「えっと……資料の場所はここだよな?」
玲久が渡された資料片手に、明記された住所の場所を歩く。
資料によれば、ここで起きたのは交通事故。
時間は夕方の5時を少し過ぎたくらいで、買い物中の主婦、部活動帰りの学生様々な住人が事故の発生の瞬間を聞いていた様だ。
「あら、お巡りさん?少し前まで大変でしたね」
買い物に行く途中なのか、エコバッグを持った40代ほどの主婦が、玲久の持っている資料をちらりと見ながら話しかけてくる。
「あ、どうも……そうなんですよ。ちょっと、いろいろ調べていて……」
(あー、このおばさん噂好きっぽいな……
普通はこんな風にぐいぐい来ないし……調べてるって言った時、目の色が明らかに変わった。
なーんか、使える情報ねーかな?)
心の中で相手の性格を考えた玲久は改めて、笑みを浮かべて見せる。
なるべく、友好的にそして無害そうに――
「なーんか、事件当時の事で気が付いたことってありますか?」
「えー!?私?いや、警察の協力に成るかどうか……あ、けど、その日は確か――」
来たと言わんばかりの笑みを浮かべて、その主婦が当時の事を話し出す。
「えっと、確か時間は夕方?夕方の何時だったっけ?5時は確実に過ぎてて……
けど30分には行ってない……ハズ?兎に角5時半くらいだと思って。
私夕飯の買い物に行ってたんだけど、急にトラックの音……えーと、クラクション?が聞こえてきて、この道前から危ないなーって思ってたのよ。
それでね?クラクションの音とすぐ後に、女の子の悲鳴とグシャって何かがぶつかる音がしたのよ!!
もぉう、パニックパニック!!普通に考えて事故だし?
誰かいないかなーって、走っていったのよ。音のした方に。
けど、誰も居なくて、最初はまさかひき逃げかと思ったけど、血なんて地面にないし、ぶつかった形跡もなくって、ほら絶対此処なんだけど何もないでしょ?」
その主婦が電信柱を叩くが当然、傷やおかしい部分はない
「あれ、それ傷?」
玲久が電信柱の影に隠れるようにして、白く汚れた部分を指さした。
「あ、これ?違うわよ。確かに事故の時出来たものだけど、これは別件。
えっと……2年前?酔っ払い運転のトラックが突っ込んだのよ。
まぁ、その一件があったから今回も――って思ったんだけどね?」
ペラペラと聞いてもいないことばかり話す、主婦に玲久が辟易とする。
「あー、これ以上は結構です。事故の情報ありがとうございました」
「え、ちょっと!?もういいの?他にも聞きたいことない?
何なら事故以外の事も……あ、近所に虐待を疑われている家があるのよ!!
ベランダに女の子ほっぱり出して、一応学校には行ってるんだけど、夫婦仲も悪くて――やっぱり親が悪いのよ!!お母さんはその子供を10代で妊娠して、父親はまともに働かなくて……もう、私ね?それでその子がかわいそうで――」
「そういうのは児童相談所へ電話してください」
乱雑にそう話すと玲久が、来た道を帰り始めた。
「ちょっと!?待ちなさいよ!!」
主婦が玲久を追いかけようとするが、すたすたと玲久はそのまま去ってしまった。
「なによもう……今思うとなーんかあの警官怪しいのよね……
私服だし、検査に使うであろう道具を何も持ってないし、その癖資料だけはちゃんと持ってたし……
ハッ!?ひょっとして偽警官?偽物の警官が出てくるような事件――ぐぇ!?」
主婦の女性が急に首に巻き付いてきたコードのような物で後ろから締め上げられる!!
「あ、か、かはっ!?」
買い物袋を落とし、片方のサンダルが地面に落ちて音を立てる。
「ふふふ、僕のことを嗅ぎまわるなら許さない……」
薄れる視界の中、正面から何者かの声が響いた。
首を後ろから締め上げられている事と、目の前に居てその様子をせせら笑う何者か。
明らかにこちらに対して友好的でない、恐怖の存在と息苦しくなり失われていく意識の中尚も必死にあがき続ける主婦の女性。
「やめろ」
凛とした声が、その場に響いた。
その声に反応したのか、主婦の女性が離され地面に倒れ気絶する。
夕焼けに照らされ、暗く鳴りつつある道の真ん中で3つの影が立っている。
一人は老人、一人は小さな影、もう一つは異形の影。
「こいつは……
お前は必ず後悔するぞ」
老人はそう話すと、2つの影に背を向ける。
『いいやぁおお!!』
異形の影が何かを老人に向かって投げつける!!
だが――
『ヒョーロロロロ!!』
突如空から飛来した、飛行物体がその攻撃を弾き飛ばした。
それは以前、ジェイルが船の上で戦った時に使った鳥型のデバイスだった。
その姿を見た異形は小さな影を守るように前に立った。
「そう構えるな……まぁ、こんな物はおもちゃにすぎん。
お前も欲しければ自分で研究するが良い……」
老人はそのままデバイスを引き連れ帰っていった。
ザッ、ザッ、ザッ……
「ふぅ……あのタイプのプレイズナーは奴のだな……
クレルがアイツを外に出すとは思えん……
つまりは、今はクレルが動けない状態にあるという訳か――」
老人はそう言いながら、小さくつぶやいた。
「悲しいな……奴のプレイズナーは……」
老人はそう言って小さく歩を進めた。
「…………」
少年が、古ぼけたアパートの錆びた扉の前に立つ。
「(……!!……!…………!!)」
「(……!!!!……!!……!!……!!)」
扉の向こう、そこから醜く言い争う男女の声が聞こえる。
「…………」
少年は一瞬だけ深呼吸をして、震える手でドアを開ける。
「貴方はいっつも!!自分の事ばかり!!」
「うるさいんだよ!!第一お前のやりくりの仕方が悪いから!」
ぎゃんぎゃんと喚く様な、すさまじい怒声が聞こえる。
そして、その後何かが壊れるような音が聞こえた。
嫌な音が響き、少年はそれから逃げるように自分の部屋へと走っていった。
「………!!」
敷いてある布団に入り込み、枕の自身の顔を埋め嫌な声を聴かないように耳をふさいだ。
(お前が男を連れ込んでいるのは知っているんだぞ!!)
(あなただって!何なの!!このカードは!!稼ぎも少ないのに何でこんなお店に行っているんですか!!)
(うるせぇ!!文句ばっかり言いやがって!!いいか!!お前は家事だけをしてればいいんだよ!!)
再度響く何かが壊れる音、互いに止む事の無い罵声に怒号。
怒鳴る父親、悲壮な声を上げる母親。
もはや何が原因かすらわからず、ただ怒りの連鎖が毎朝、毎晩、毎日ひたすら続いている。
「~~~~!!」
少年は声にならない声を出し、ポケットに入った小さな鍵を取り出し自身の胸に差しひねった。
その瞬間、少年の背が膨らみ飛び出るように異形が出現する。
それはまるで、レコード盤を乗せた紫の人間の様に見えた。
腰を前に折り、背中にレコード盤を置いたというのがより、正確な姿だろうか?
両肩からはスピーカーが出現している。後ろから見ると大型のジュークボックスが出現している。
名前を付けるのならば、サウンドプレイズナーだろうか?
「お願い……幸せな、時間を!!」
『りょうか~い』
そのプレイズナーは自身の体に乗せたディスクを回し始める。
そして両指の先にあるイヤホンを伸ばして少年の、耳に当てる。
『ん、お帰り。友達と遊ぶのは楽しかったかい?』
『夕ご飯、もうできるわよ?手洗ってらっしゃい』
聞こえてくるのは、両親の優しい声。
思い出すのは、家族の仲の良かったころの声。
目を閉じればそのすべてが、リアルな音により齎された。
ぬるま湯のような、優しくゆっくりと流れるもう戻ってこない時間が少年の脳裏に思い出す。
「あは……あはははは……あはははは……」
少年は涙を流す。ただ楽しいころの思い出に浸って、ただひたすら過去の思い出におぼれ続ける…………
とある古い洋館で一人の女が、小さく船をこぐ。
「ああ、いけない……眠ってしまったようですね……」
ヴァレフォが起き上がり、小さくあくびをする。
「ヴァレフォ様……例の少年が……」
楊が姿を見せ、音符のマークのついたキーを差し出す。
「ああ、満足してしてしまったのですね……全ての力をキーに注ぎ込んで……
彼は最後まで幸せだったのでしょうね」
ヴァレフォは大切そうにキーを抱いた。
「さぁ、悲しみが一つ消えました。もっと、もっと多くの願いを叶えましょう?
キーならきっとそれができるわ」
ヴァレフォは聖母の様に優しく微笑んだ。
サウンドプレイズナー。
ヴァレフォの生み出したプレイズナー。
非常に珍しく、使用者の体外に分離する形で動き出す。
音を呼び出し、自由に周囲に聞かせる能力を持つ。
例えば、悲鳴や交通事故の音を何もないところへ呼び出し、疑似的に事故を演出させたりする。
例えば、過去の楽しい思い出を再生させる。
欠点は使用者の体力を大幅に奪うこと。
一日数時間なら、問題は無いが、体力の限界を超えて過度に使用し続けると使用者はゆっくりと衰弱していってしまう。