フォルネウスの今後の動向はいかに?
豪奢なホテルを思わせる部屋の一角で、楊が電話を手にしていた。
「クレル……あの人は誰?」
部屋の隅、窓際に座ってブラブラと足を投げ出すフォルネウスをみて、楊が電話の相手――クレルに疑問を投げかける。
『ああ、その調子じゃ、ちゃんと呼び出せたみたいですね。
目的の人物は殺せましたか?』
質問を質問で返したクレルに、楊が口を開こうとした時、フォルネウスが楊から電話を取り上げて自分の耳に当てる。
「やぁ!看守さん。この道具サイッコウだね!
俺好みのガンに、クールなブレードまで付いてる!!
ねぇねぇ、誰か殺しちゃダメなのかい?
プレイズナーって、もっと自由なモンだろ?」
フォルネウスの異常に楽しそうな声を聴いて、電話の向こうでクレルが笑うのが聞こえた。
「なにかおかしなこと言ったかな俺?」
『いえいえ、最近貴方の様なプレイズナーが少なくなってきて、心配していたんですよ。
けど、よかったよかった。
すでに貴方の分の、家と偽装戸籍は用意してあります。
どうぞ、しばらくご自由に過ごしてください』
「よかったぁ!ここで、お預けなんて我慢できないからさ」
フォルネウスはニヤニヤ笑うと、楊に電話を投げ返した。
『さぁて、楊君。君の仕事は以前と同じに戻ります。
逃げた看守であるダァトの捕獲あるいは処分、並びにジェイルドライバーの破壊です。
上級プレイズナーである、ヴァレフォを使うようですが、まぁいいでしょう。
そしてもう一つは、フェニシオンの捜索です』
クレルの言葉に、楊が息を飲んだ。
「まだ、生きている……と?」
『ええ、ベリアルの一件から行方不明ですが……
彼のプレイズナーとしての欲望は『不死』であること。
そんな彼が、簡単に死ぬとは思えませんね』
クレルの言葉に楊は不思議な感覚を覚えた。
上級プレイズナーの中には、知覚することに特化した『ダンタリオン』がいる。
そんな彼が見つけられないのだ、自分が見つけられるのか?
『さてさて、では、引き続き私が動けるようになるまでお願いしますよ?』
嫌な笑い声と共に、クレルは一方的に電話を切った。
「ふぅ……いてて……肺に響きやがる……」
病室のベットで岩さんが、包帯を巻いた体を押さえて横になっていた。
「岩さん……」
フォルネウスに撃たれた傷は深く、奇跡的に内蔵を避けていたがそれでも、しばらくは絶対安静と医者から言われている。
「指名手配犯……酒、買ってきてくれ」
「だめに決まってるだろ?岩さん、無理やり酒で痛み誤魔化してフォルネウスを探しに行く気だろ?
ダメだ、今回はじっとしてろ!」
玲久が半場強引に岩さんをベットに寝かせる。
「チっ、指名手配犯に心配されるたぁ……おれも焼きが回ったもんだな……」
ボスんと音を立てて、ベットに横になる岩さん。
一時期は、致命傷かと玲久が心配したが、病院につけば急所は奇跡的に外れており、生きているのが不思議な位で無事という状況だった。
「アイツが暴れてるんなら……俺が……」
「出来る訳ないじゃん、相手はプレイズナー!
岩さんはさ、まず傷を治しなよ。
あ、ボンボンに頼んでしばらく岩さんは休暇扱いだってさ、有給休暇な上に危険手当が出るってさ。
んじゃ、お大事に~」
「おい、指名手配犯!!酒、サケェ~~!!」
岩さんの声がむなしく、部屋の中で響いた。
病室の外、出流が壁にもたれて立っていた。
「ボンボン……もう一人は?」
「…………小戸は死んだよ。
即死だった。無数の弾丸が体に……
何度も撃たんだろうな、まるでゲームの的みたいにな……」
「――ッ!」
出流の言葉に玲久が、小さく唇を噛む。
小戸という男は確かに悪人だったが、それでも面白半分に殺されていい人間ではない。
いや、殺されても良い人間なんて居ないんだろう。
ガァん!!
玲久が廊下の壁に拳を叩きつけた。
「岩さんも……!」
「ああ、解っている。警察の対プレイズナー部署は、フォルネウスをA級プレイズナーと認識した。
調査部が発見しだい、こっちに連絡が来る。
今は待て。そして、最高の状況でこの悪魔を倒すんだ」
出流の言葉を玲久は、飲み込んだ。
焦っても何も出来ないという事は分かっていた。
玲久は再度悔しさと、言葉を飲み込んだ。
「まったく……すべてが嫌になる……」
病院の外、出流が河の近くの土手を歩いていく。
警察官の一人が、プレイズナーによる重症、復帰は何時になるかもわからない。
そんな追い詰められた状況で、出流は自分の無力を感じていた。
「俺は……戦う事すら……」
現場に居なかったという仕方ない点などはあるが、それでも釈然としない出流。
父親のことも、シーカーの製作者のこともそうだ。
何時も自分の知らない所で、誰かが何かを企み実行に移していく。
「俺は、流されるままでいいのか?」
自問自答をしながら、尚も歩いていく。
初めてベルトを手にして、父親と協力して自身のシーカーを支援する部隊まで作った。
だが、いまいち戦局は振るわないというのが、出流の自己評価であった。
「子供は悩みが無くて良いな……」
土手の下で、数人の子供たちがとある一角に集まっているのが見える。
何かを覗きこんで、ワイワイと楽しそうに話している。
「なんだ?」
その様子に、興味を惹かれた出流が土手を降りていく。
「あ、子犬か」
数人の小学生たちが、覗きこんでいた箱の中には4匹の子犬。
出流は犬種には詳しくないが、おそらく雑種だろう。
「かわいそー」
「かわいー」
「捨てられたんだな」
ワイワイと子供たちが、ランドセルの中から給食の残りと思われるパンや牛乳を犬たちに食べさせる。
みな、一様に「かわいい」や「かわいそう」というが、所詮は他人行儀な言葉だけだった。
自身が少し親切にすれば、もう良いと思ったのか、べたべたと触った後家に帰っていく。
だが、それでも数人は責任感があるのか、家に帰らずにじっと箱の中を見ている。
「なぁ、これ、お前のウチで買えないか?」
「ウチ、かーちゃん犬嫌いだし……もう、猫がいるしな……」
「私の家のマンション、ペットダメだから……」
優しいのか、決して家に連れ帰れない動物をみて、悲しそうにする。
だが、一人の少女が出流の姿をみた後、急いで走ってきた。
「ねぇ――お兄さんのお家で飼えませんか?」
「え?」
出流が目を丸くすると、ほかの男子たちも走ってきた。
「お願いします!かわいそうなんです」
「一匹だけでもいいから……」
結局はこの小学生は、自身で飼うことはあきらめたのだ。
そして、偶然近くにいた、大人に押し付けることにしたのだ。
「いや、俺は――」
出流が断ろうとするとき、露骨なまでに困ったような顔をする子供たち。
断るに断れない状況に出流が困るが――
「君たちは無責任だよ。それは少し卑怯だ」
別の青年の声で、子供たちが黙らされる。
歩いてきたのは、銀色のジャケットを羽織った、一人の青年。
「君たちのやろうとしたことは、ただの責任転嫁だ。
自分でないなら良いという、人として最低の行為だよ」
厳しい意見を述べる青年に、出流が口をつぐんだ。
「け、けど……」
「うちじゃ飼えないって?じゃあさ、どうすべきだと思う?
保健所に連れていく?このまま放置?」
「それは……保健所は、その……」
青年の言葉に小学生たちが言葉を濁す。
「おい、お前!それは――」
出流があまりに冷酷な、物言いに怒りを見せる。
しかし青年はすぐに身をひるがえすと、尚も小学生たちに問いかける。
「そう、保健所はダメだ。基本的に犬が欲しければペットショップに行く時代だ。
保健所でお気に入りの犬を探す人はほとんどいない。
それに放置も、頂けないね。免疫能力の弱い子犬は野外に居たら、すぐに死んでしまう」
「なら……」
「どうすれば……」
口々に子供たちが話す。厳しい顔をしていた青年がその時笑った。
「うん、見捨てないその気持ち。とってもグットだ。
相手を思いやる善意はとても素晴らしいものだ。
小さな善意でも100人集まれば、大きなことが出来るはずさ。
かして、御覧?」
青年が、犬を箱ごと持ち上げた。
「見た所病気は無いみたいだ……大きな傷もないし……これなら……」
数度見て、青年は何度もうなづいた。
「この犬、4匹とも俺が貰うよ」
「え?」
「あ」
「なんで?」
青年の言葉に、少年たちが驚いた。
さっきまで攻めるような口ぶりだっただけに、その驚きは出流も同じだった。
「俺は、人の優しさが好きなんだ。いや、正確に言えば『優しさを信じる心』かな?
さっきは、あえて残酷なことを言ったけど、俺は本当は人の優しさを信じていたいんだ。
性善説……っていってもわかんないかな?
人は生まれた時から、優しい人って言う意味なんだけど、成長して変わっていくんだ。
君たちは優しいよ。この犬たちのために何かしようとしたんだ。
ほら、撫でてあげて?ひょっとしたら、君たちのにおいを覚えていくかも」
青年が、犬を子供たちに撫でさせる。
「覚えておいて、優しさだけじゃどうにもならないときはあるけど。
それでも、絶対にやさしさを捨てちゃダメなんだ」
青年の言葉に、少年たちが強くうなづいた。
「じゃ、俺はもう行くよ」
青年は犬を抱えたまま、歩いて行った。
「優しさを信じる心か……」
出流が去っていった青年を見送りながら、小さくつぶやいた。
「よし!ああいう市民を守るためにも、もっと俺も頑張らないとな!!」
出流が決意を新たに、歩き出した。
「ふぅ、重かった……けど、ようやく手に入ったよ」
うちっぱなしのコンクリートの床と壁、部屋の隅にはシャワーとホース。
そして壁にかかる真新し、工具の数々。
部屋の真ん中には手術台を思わせる、台かベットか……
青年は少年たちから、受け取った犬をその台の上に置く。
「きゃん!キャン!!!」
「アン。アン、アン!」
子犬たちが、甘えて青年の手をなめる。
「ああ~かわいいな~。誰でも、つい笑顔になってしまうね。
さてと、コレの実験を始めようかな?」
青年は懐から、キーの刺さった紫の銃を取り出す。
「しばらくは、面白い玩具になってくれよ?」
青年――フォルネウスは邪悪な笑みを浮かべ、自身のこめかみを銃で撃ちぬいた。
暗い部屋の中、一人の老人が拡大鏡を目に嵌めてドライバーを動かす。
そして最後に、ねじを締めて作業台の機械を閉じる。
「修復は終わりだな……動作確認、するか?」
「いや――あんたがやった仕事だ。
その心配はゼロだ」
作業台の老人がにやりと笑って、動き出したバイトを撫でる。
「やれやれ、この隠れ家も何とか、慣れてきたな……」
老人の作業台には、様々な道具や設計図が並んでいる。
その一枚を、ダァトが拾い上げ、その内容を読みあげる。
「ネクストドライバーシステム……現段階仮称『シーカーズシステム』……
やはり、あのドライバーの出どころはお前だったのか……
いや、正確にはデータと設計があんた、そしてそれを結んだのが――」
「私と、ドクターだよ」
部屋の入口。そのこには出流の父にして、警察署所長の目栗がいた。
「やぁ、ドクター。なんとか、追手の目は誤魔化せたようだね」
「目栗……あんたが、ここを用意してくれたおかげだ。
ふふふ……実際に会うのは、何年振りかな?」
老人と目栗が固く握手をする。
「これで全部が納得がいった。
なぜ、シーカーとかいうやつが、ベルトとして有るのか。
そして、なぜシーカーには対看守用能力があるのか……
特に後者は『看守』を研究しないと制作は不可能――つまり」
「私は、長い間ずっと、チャンスを待っていたんだよ。
悪人の汚名に耐え、過去に自身が死にたくないと愚かにも願った罪を背負って……
偽りの若さを身に纏いながらね」
老人が、ポケットから一本のキーを取り出す。
古く錆びた赤いキー。そこにある衣装は炎を纏った鳥と37の数字。
研究所が一瞬だけ、熱気に包まれ、老人が炎に取り込まれる。
そして次の瞬間現れるのは、赤いジャケットを羽織った一人の青年。
「さぁ!いよいよ計画が動くぜ!!」
それは行方不明になっていた、フェニシオンその人だった。
次回の話は少し鬱っぽくなっています。
目を背けがちな真実を、浮彫にしたいですね。