此処からは展開が早くなっていく予定です。
「霧が……深いな、前が見えない」
「はぐれるなよ?探すのは簡単じゃない」
玲久と出流の二人が、山の中を歩いていく。
深い霧に包まれ、少しでも離れるとお互いの場所が分からなくなりそうだ。
今回二人は、フェニシオンの実験場後にある対プレイズナー用のデータを受け取りに来ていた。
協力者となったフェニシオンの話では、簡単に回遊できるハズだったのだが……
『まだ、いたのか!帰れ!!』
怒号が聞こえた瞬間に、足元の落ち葉が舞い上がり二人を寸断する。
「また、メイズか!?」
玲久が話す瞬間、出流の悲鳴が聞こえた。
「う、あぁあああ!!」
この山の主であるメイズプレイズナー。
ビフロントという覚醒したプレイズナーの一体だが、山に入るなり彼の攻撃を受けてひたすら二人は山の中を彷徨うことになったのだ。
まさかと思っていたが、やはり何者かが手を伸ばしていたらしい。
「玲久!!おれは、データを探す!!シーカーの能力はそっちが得意だ。
だが、怪物は任せるぞ!」
小さくなっていく声の向こう。
玲久は確かに出流の声を聴いた。
「う、うぁあああ!!へ、変身!!」
ずざざざざー!!ずざざざざ!!
足を踏みはずした出流が、山の斜面を転がりながら、変身する。
シーカーの視界を通して、周囲の視界がほんの少しだけ良好になるが、それも気休め程度だ。
「はぁ!!」
シーカーレンズを召喚して、斜面につき刺して転がるのをとめる。
「うっ!?」
少し先を見て、出流は声を上げた。
そこは崖になっており、一歩間違えば転落していただろう。
霧による誘導、木の葉によるかく乱。以上の事からしてビフロントは明確にこちらに敵意が有るのが分かった。
「頼むぞ……玲久」
出流は小さく声を漏らした。
「はぁ……はぁ……!?」
玲久が一人、山の中に立つ。
さっきの攻撃で出流とははぐれた。だが、同時に果たすべき事も頼まれた。
「ビフロントを倒せ、か……」
その言葉に、反応したのか。足元の落ち葉が玲久目指して飛んでくる!
葉は一瞬にして鋭利な刃となり、襲い掛かってきた。
「変身!!」
葉が目に突き刺さる瞬間に、玲久はジェイルに変身して、攻撃を防いだ。
だがジェイルのアーマーにダメージがあった。
「ただの葉っぱが、ジェイルを傷付けれる訳がない……つまり……」
そばにあった木が今度はジェイル目掛けて倒れこんでくる!!
「この山全体がアイツの能力下か!!」
そこからは、小さな攻撃のラッシュだった。
石が飛び、ツタがジェイルの足を絡み取り、落とし穴がジェイルを狙う。
「よっと、はっ!こっちは……!!」
だが玲久は冷静だった。一つ一つ罠を回避して、尚且つ相手の思考を読み取ろうとする。
「やっぱり、この罠……方向性がある!!」
方向性と玲久は表現した。それは、罠の力や性質の違いだ。
有る部分は、最初の滑る罠の様に、移動させる罠。だが、その逆再度に進むと、地面から生える木の槍という様に、行くのをやめさせる罠が有る。
「要するに、こっちには、来てほしくないんだよな!?」
ジェイルが蹴りの一撃で、こっちをふさぐ槍を破壊して好き進む!!
目指すは、ビフロントの隠れる家の場所だ!!
「はぁ!次!!」
落とし穴、滑る床を避け、ジェイルが走る中、急激に地面が割れる。
それは今までの落とし穴と明らかに違う大きな規模。
その中に石の壁が見えて玲久はそこに飛び込んだ。
「壁……人工物だよな?って事は、少なくてもさっきまでの山の外って訳じゃないな」
石づくりの壁を、ジェイルのスーツ越しに撫でる。切った四角い石をレンガの様み積んで壁を作っている様だ。
プレイズナーの能力で作られたのか解りはしないが、少なくとも外よりは目的地に近づいているのは確かなのだ。
ぽこっ
その時、四角い壁の石の一つが尖る。
「ん?」
それが合図だったように、壁中の石が尖り始める。
そして、一部がそのままこちらに伸びてくる!!
「な、これは!?」
その一瞬で玲久は分かった。
ここは、ビフロントの近くにして、ジェイルを殺す為の罠なのだ!!
壁が迫ってくる!!ビフロントはシンプルな作戦に切り替えた様だ。
物量作戦。竹や木の葉ではない。コンクリートと土の塊で押しつぶす作戦の様だ。
一部がブロックの様になり、ジェイルの胸を壁に押さえつける!!
「な、なんて、力だ!」
ただのコンクリートでないのはその時点で簡単にわかる。
なるほど、やはりここはビフロントの能力で強化された『土地』そのものが武器と言えるのかもしれない。
「なるほど……最大サイズのプレイズナーって事か」
ミシミシとアーマーが嫌な音を立てながら、玲久が自嘲気味に笑みを浮かべる。
そして、ここに来る前にフェニシオンに渡された、アイテムを思い出す。
『お前にこれを渡しておく……もう儂には必要ない物だ……
贖罪とは思わない。儂らは、散々の死体の上に立っている。
お前はその死体の一人だ、ダァトもそうだ。奴も彷徨っておる……
なぁ、もし……もし儂の悪意が、悪意を砕けるなら、それが儂の願いじゃ……』
そう言って、嘗てベリアルと戦った時に使った鳥型のマシンを渡した。
以前と微妙にデザインが変わっているのは、調整がなされたかららしい。
ジュエルを基本に、新たにフェニシオンのキーを精製して、使用できるようにしたらしい。
「正直な話、俺はまだあいつを許せない!俺を、ダァトを、咲良さんを散々弄んだ奴らを……
許せない、許せる訳ない!!
だけど、今はそれを飲み込んで進むしかない!!
あと少し、あと少しで、奴に届く!!」
玲久はバックルに、マシンを押し込んだ!
明るい炎に照らされ、体に赤いラインが入る!!
それは以前見た、パッショネル・サンをさらに明るくした姿の様だった。
一瞬だけ、背中に炎で出来た翼が広がって霧散する。
握った拳から、火がこぼれる。
ずずずずー!!
尚も地下の壁が迫り、ジェイルを押しつぶそうとする。
「おぉおおおお!!行くぞ!!」
ジェイルは炎を握りしめ、壁に思い切り拳を叩きつけた!!
焔が広がり、壁が音を立てて吹き飛ぶ。
一瞬のラグの後、更に四方八方から壁が迫る。
どうやら本気で殺しに来た様だ。
だが、もうジェイルは止まりなしない!
「うぉおおおおお!!燃えろ俺の炎!!」
ついに完成したジェイルの新たな姿の一撃を受けてビフロントの作る壁が砕けていく!!
迫る壁!!うなる拳!!砕ける!!燃える!!
「全部!!ぶっ壊す!!」
ジェイルが、全身に巡る力のまま飛びかかる!!
砕く!!砕く!!砕く!!砕く!!
何十、何百、何千とも思える破片を残し、全身で進み続ける!!
そしてついに最後の一枚の壁が砕ける!!
『な、なにぃ!?』
小さな部屋の中、そこに異形の怪物ビフロントが佇んでいた。
どうやら、ようやく本体の居る部屋へとたどり着いた様だ。
『ここまで来てしまったか……』
「オマエ、何のためのここにいるんだ?」
玲久は過去の経験から知っている。このビフロントの様な能力に特化したプレイズナーは直接の戦闘能力は高くないと。
必ずしもそうとは言えないが、ここまで来たのに構え一つ取らず、何処か諦めたような声を漏らす様から、予想が外れたということは無いだろう。
『ここは……俺たち家族が唯一、静かに過ごせる場所だ……』
「家族?……ッ!?」
玲久ビフロントの奥にある、3つのミイラを見つける。
少なくても昨日今日死んだものではない事は分かる。
明らかに死体、何度見ても決して穏やかな物ではない。
だが、不思議な事にそのミイラたちは寄り添って、まるで仲のいい家族が団らんしている様に見える。
『俺の家族だ……仲のいい家族だった……だが、父親のリストラで全てが狂った。
生活を立て直そうと借金、失敗してまた借金。母親は父を責めた。
兄は事故で動かなくなった体を恨んだ、すべてがマイナス、マイナスへと進んで最後には……
俺だけが、運悪く生き残った。だけど、俺はすがりたかった!!
家族に!!あの思い出に!!来い!!家族を連れていくなら、俺が戦う!!』
ビフロントが、ぎこちない構えを取る。
だが、それを目の前にして、玲久が変身を解く。
「分かった……俺は、もうここを荒らさない……取るモン取ったらすぐに出てく。
それでいいだろう?」
『良いのか?俺は……』
「殺してないんだろ?静かに暮らしたいだけなんだろ?なら、もう手は出さない」
ビフロントが頭を下げて礼を言う。
これは決して正し判断でも、正義に基づいた事でもない。
だが、ビフロントには確かにここは必要なのだ。
誰にも迷惑をかけず、静かに過ごすのであれば、見逃しても良いと玲久は思った。
ビフロントは、何も言わず姿をもとに戻した。
「さぁ、約束は守ったぞ?」
「待ってくれ、俺の仲間が今連絡を――っと、来たか」
ビフロントによって、邪魔されていた通信も回復した様だ。
通信装置からは、出流の声が聞こえてくる。
「こちら出流。霧が晴れたみたいだ。目的地の小屋も見える……」
『二人ともご苦労じゃった。渡した鍵を使って家へ入ってくれ。
台所に、隠し階段が有ってそこから、地下の研究施設へ向かえるハズじゃ』
フェニシオン老人が、通信で二人に隠し場所を伝える。
「なぁ、ジィサン……」
『ん?なんじゃい』
玲久がフェニシオン老人に通信で声をかける。
「あんたのした事、俺は絶対に忘れないからな」
『ッ……』
玲久の言葉に、フェニシオン老人が黙り込む。
「勿論、今日やってくれた事もだ。
罪を犯したなら償ってくれ。あんたはずっと苦しんでたんだろ?
今の俺はまだあんたを許せない。だから、この戦いが終わってから、改めて償ってもらうぞ?
その時、フェニシオンじゃない、あんたの本当の名前、聞かせてくれよな」
『ああ、そうじゃな。戦いの終わりが全ての終わりじゃない……
終わってから、ようやく始まるんじゃな……』
隠れ家の中、フェニシオン老人は満足そうに通信を切った。
そう言えば、ずいぶん自分の名前を呼んでもらっていない。
最後に名乗ったのは何時だったか……
いや、今はそんな事より、すべきことが有る!
「よし、しっかりデータは回収した様じゃな……後は儂が解析をして――」
フェニシオン老人が背伸びをした時、何かが首に絡みついた。
そして、それはフェニシオンの首をすさまじい力で締め始めた!!
「かっ、かはぁ……お、おま、えは……」
電源の切れたパソコン、その黒い画面に映った顔に見覚えがあった。
過去の自分の言葉がフラッシュバックする。
『あいつは臆病だからな』
『ほら、一人ですぐに
旧友との会話がフラッシュバックする。
『ヤァ、久シブリダネ。今ハふぇにしおんト呼バレテイルンダッタカナ?』
振り返ったそこには怪人がいた。
「お、おくびょう……も、の……」
『懐カシイナ、ソノ呼ビ名。ケド、少シカッコ悪イカラサ、「隠れる」ッテ言ウ意味カラ取ッテ今ハ「ハイド」ト名乗ッテイルンダ』
そこに居たのはハイドだった。
球体を繋ぐ、コードのような物でフェニシオンの首を締めあげて掲げる。
「あの時……ぶりかな?」
『ソウダネ』
「ならば……儂らの約束を果たさねば、いかんな!!」
フェニシオンが足元の、椅子を蹴り上げハイドに叩きつける。
しかし、ハイドはそんな攻撃では一切ひるむことは無かった。
『ああ、そうだ。ずっと、こうなる日が来る気がしていた!!』
最期に聞こえたのは、おくびょう者の肉声。
フェニシオンは懐かしい声を聴いて、嘗ての二人の友を思いうかべた。
「すまんな……儂は、ここまでじゃ……つらい役目を任せて、すまない……」
ゴキン!
謝罪の言葉と共に、フェニシオンの首が嫌な音を立てて折れ曲がった。
『ニンムかんりょう』
ハイドが仕事を終えて、帰っていく。
床に倒れる嘗ての親友の、亡骸に目もくれないまま……
何気ない動作で変身を解き、ポケットから携帯を取り出す。
「クレル、私の方の仕事は終わったよ。そっちの首尾はどうだい?」
『これは、これは……ダンタリオン様……級友を手にかけた感覚はどうですか?』
不快感を纏った声に、ダンタリオンは笑みを浮かべる。
「ひどいな、せっかく私が君たちの弱点を消してあげたのに……
それに、欲しい物は手にはいったかい?」
ダンタリオンの言葉に、電話越しでクレルが笑う。
その時、クレルが何かを蹴り飛ばし、地面に倒れる相手を見下ろす。
『ええ、もちろん。あなたの見通す力は素晴らしいですね。
キチンと……裏切り者を
とある港の、倉庫の近く。
倒れ伏すダァトを踏みつけながら、クレルが笑った。
フェニシオン老人は最後に、自分たちの罪から逃げれなくなってしまったんですね。
これで始まりの3人の生きのこりは一人。
3人が始めた事は、当人たちにすら制御できず、今度は被害者を永遠に生み出し続けるのでしょう。
クレルという悪の案内人がいる限り……
残念ですが、彼は心半ばでリタイアですね。