色々とやることが……
気長に待ってもらえれば幸せです。
「はっはっは!あー、おもしれ!」
玲久がTVを見ながら、膝を叩いている時、留置所の入り口が開く音がした。
「んあ?岩さーん、客」
「あ?うちは留置所で交番じゃないんだが……たまに馬鹿がやってくるんだよなー
はぁ、追っ払ってくるか。
分かってる、はーい、今行きます……よ?」
岩さんが留置所を訪ねた客人の姿をみて、声をくぐもらせた。
「おまわりさーん!助けてください!とっても怖いんですぅ!」
明らかに媚びた口調で、なぜかぬいぐるみを胸に抱く女性。
自身のぬいぐるみを何者かに切り刻まれたOLだった。
「私ぃ、庭木 朱美って言いますぅ。この前、ウチの会社でとっても怖い事があったんですぅ!」
「なにぃ!?何が有ったってんだ?本官に教えてくれないか?」
好みのタイプなのか、岩さんが露骨にデレデレし始める。
何時もは見せない、無駄にきりっとした表情で調書を取り始める。
(うわー、露骨に岩さんが……
淫行で逮捕されないと良いんだけどな)
調書を取る岩さんを見ながら、玲久が心配した。
「初めては5日前の事件だったんですぅ……」
朱美がゆっくりと語りだす。
「であるため――」
とある会社の朝礼、社長が社内放送で泣きながら自身のいきさつを語っていた。
「せんぱーい。犯人見つかりますかね?」
「朱美……あんたも一応被害者よね?」
先輩OL赤原 美佐が後輩OLの庭木 朱美に同情した目で見る。
最近会社やその周辺でおかしなことが起こっている。
事のはじめは、朱美の車のぬいぐるみ。
車内のぬいぐるみがズタズタに切り刻まれていたのだ。
「私の……大切なぬいぐるみだったんですぅ……」
グズグズと鳴きながら語る。
「けど、その被害は止まらなくて……」
朱美の言葉通り、被害はそれだけにとどまらなかった。
次の日には、他会社向けの茶菓子類がすべて切り刻まれ、応接室のソファ、今度は硝子、社長室の扉、そして最後には――
「今日、出社したら……会社の前に、バラバラに切り刻まれた猫が……
酷い、あんなに惨いことがどうして……!」
遂にはハラハラと泣き出してしまった。
「……よし、分かった。本官が直々に見てみよう。
朱美さんは、安心して仕事に戻って欲しい」
「本当ですか?ありがとうございます!
ジュン君も、ありがとーって」
クマのぬいぐるみの手を取って、振って見せる。
何度も頭を下げながら、朱美は帰っていった。
「岩さんどうする気だ?安請け合いしてよかったのか?」
檻の向こう側から、玲久が聞くが岩さんは困った様には見えていない。
「あ?この件、お前も来るんだよ」
「はぁ!?なんで?俺、関係ないだろ!!」
岩さんの言葉に、玲久が激しく抵抗する!!
「うるせぇ!やばそうなやつが出たらお前の出番だろ!!
さっさと準備しやがれ!!」
腰の拳銃を引き抜いて、玲久に突きつける!!
「ちょ、岩さん!?ストップ!ストップだって!
何もしてない一般人になんてもの向けてんの!?」
両手を上げて、降参のポーズを玲久がとった。
「てぇめぇは指名手配犯だろうが!!一般人じゃねぇ!
俺の海老天を食うやつに人権はねぇんだよ!」
「うわっ、朝の海老天まだ根に持ってやがった!
器ちっちぇ!!」
「うるせぇ、ボケが!国家権力に喧嘩売るからだよ!!」
しぶしぶといった表情で、玲久が檻から出てくる。
「さすがに、閉まってるか……」
玲久が固く閉じた扉を前に、つぶやく。
問題のあった会社。度重なる異常事態に緊急回避的に臨時休業している。
岩さんは、残った会社員に話を聞くため社内に入っている。
「まずは現場じゃねーのかねぇ?」
イエローテープの張られた、地下駐車場へと足を進める。
「誰かいませんかーっと……」
玲久ぶらぶらを歩きながら、地下駐車場を見て回る。
「ふむふむ。ここが現場ね……」
地面にチョークで何かのメモが掛かれた場所を見る。
当然だが、自動車は撤去されているので、タダの駐車場でしかない。
「よう、レイク。おまえも来たのか?」
「ッ!?その声は!!」
突如後ろから掛かる声に、玲久が振り返る。
そこにいたのは、いつもの様に黒い服を着た長身の男、ダァト。
ニヤついた顔のまま、玲久を見下ろしている。
足元で、バイトが尻尾を振って小さく吠えた。
会社内にて――
「ほう、ここが第3の現場……」
応接室で、バラバラに刻まれたソファを見ながら岩さんが、写真を撮る。
「あ、あの……警部さん?悪いんですけど、警察なら――」
「だぁってろ!こちとら国家権力よ!!
お前は、適当にパソコンでも叩いてろい!!」
「ひっ!?」
岩さんの怒号が、社長を容赦なく打ち据える。
すごすごと逃げるように、社長は部屋を後にした。
「あ、朱美じゃない。何してるの?アンタ、今日は家にいるんじゃないの?」
岩さんと朱美に声がかかる。
それは先輩OL赤原 美佐だった。
訝し気に、二人を見下ろしている。
「むむ?話に聞いてた、先輩さんでしたか?」
「あー、多分そうだけど?ってか警察この前来たばっかじゃん。
なに?また呼んだの?さっさと帰ってもらってよ?
業務も滞って、ほんとに厄介なんだから……
あ、あとアンタ。自分の机の上のぬいぐるみ片しなさいよ。
邪魔なの、仕事に要らない物はどんどん捨ててくから」
キツイ印象を残して、美佐は去っていった。
「ずいぶんキツイ印象の先輩ですな」
「そうなんですぅ~、いっつも怒られバッカでぇ~
けど、悪い人ではないんですよ?いい先輩なんですよ?……怖いですけど……
あ!ぬいぐるみ、片してきます!言いつけ守らないと、先輩本当に怖いんですよ」
そう言って、朱美が部屋から出ていく。
「……やっと、一人になったか……」
駆けていく朱美を見ながら、美佐が一人だけ部屋に残った岩さんに足を進める。
「お前……プレイズナーを作ったのか!?」
ズボンから、バックルを取り出しいつでも腰に巻けるように構える。
「ああ、良さげな奴がいた。丁度都合のいい鍵も有ったし、躊躇する理由はゼロだ」
自身の手に上ってきた、バイトを反対の手で撫でて微笑んで見せた。
「ダァト!!」
バックルを腰に巻いて、キーを手にする。
変身しようとする、玲久を前にしてもなおもダァトは涼しい顔だ。
「良いのかな?俺の目に狂いはゼロだ。
予定通りなら、だいぶ成長した頃だぞ?
オマエの、相棒の悪徳警官……今頃切り刻まれているかもなぁ?」
「岩さん!」
ダァトの言葉に、玲久がエレベーターの方へと走っていく!!
短い付き合いだが、みすみす殺させる訳にはいかない!!
幸い地下駐車場から、直接エレベーターで社内へはいれる。
「うッ!?」
エレベーターの隣の壁、コンクリート製なのだがそこには何度も刃物を突き立てたような傷が無数に浮いていた。
パラッと音を立て、コンクリのカケラが地面に落ちる。
間違いない。ついさっきここで切り刻んだ
急ぐ気持ちを持ちながら、エレベーターに乗り込む玲久。
最上階に被害が固まっているので、おそらく岩さんはそこだろう。
そこへ向けてボタンを押す。
「早くしてくれよ…………」
焦るような気持ちを持って、歯がゆい気持ちでじっとインフォメーションの光を見る。
そして、それはやがて最上階へと。
チーン……!
小さな音を立て、扉が開く。
「岩さ――あ」
『……ふわふわだぁ……』
目の前に立った人物を見て、玲久が呆然とする。
そこにいたのは、岩さんではない。あけ朱美でも美佐でもなかった。
そこに立っていたのはプレイズナー。
黒い体に赤く血の様な物が滲んだ包帯で全身をぐるぐる巻きにした、まるでミイラの様な姿の怪人。
玲久の前で、プレイズナーの両腕の包帯が伸びる。
ダランと伸びた包帯が、金属の、日本刀のような色合いへと変わる。
この属性は、刃物。包帯に刃物の属性が付着される!!
思い出すのは、『切り刻まれた』今回の事件!!
間違いない。このプレイズナーは『スラッシュプレイズナー』だ!!
「まずい!!」
『ばいばぁい!』
玲久がベルトを巻くと同時に、日本刀の様に硬質化した包帯のブレードが薙ぎ払われる!!
ざしゅ!ザシュス!ザッシュ!!
数本の包帯をしゃがんで避ける玲久!!
だが、場所は閉鎖空間のエレベーター、逃げ場はない!!
そして――!!
ガコン!!ミシィ!!
「やばッ!」
そう、エレベーターとは極端な話、ワイヤーで柱吊りになった箱だ。
そこに無数の刃が、通りばどうなるか。
簡単にわかるだろう。
「う、うわぁあああ!!」
ワイヤーのエレベーターその物が切れ、最上階から玲久が地面に向かって叩き落される!!
「なんの音だ!?」
岩さんが何かの落ちた音を聞きつけ、廊下を走ってくる。
気が付くと、エレベーターが扉事切られていた。
呆然とした様子で、美佐が立ちすくんでいる。
「なんと……」
「うわぁん!ケージさん!!聞いてください、私の、私のぬいぐるみがまたぁ!」
そこに、空気を読まず朱美が走ってくる。
手もつのは、腕が少しほつれた縫いぐるみ、この騒ぎに興味はないようだ。
美佐のいた奥から、走ってきた。
岩さんの視界には対照的な顔をした二人の女性。
「動くな!!」
岩さんが、腰の拳銃を引き抜いた。
「ひっ!?」
「え、!?」
朱美、美佐両名に向ける拳銃。
「ついに馬脚を現したな……
最初からずっとおかしいと思っていたんだ!!
両手を上げて、こっちへ来い!!赤原 美佐!!」
先輩OL赤原 美佐が驚いたような顔をして否定する。
「そんな、私、何も――」
「!?、良いから来い!!」
「え、何を――ぎゃ!?」
岩さんが、美佐の手を引いた瞬間、美佐の背中に焼けつくような痛みが走った!!
「な、なんなの?『ソレ』」
「あー、惜しかったなぁ……」
美佐の目の前、朱美が自身の左手をゆっくり動かす。
その手は爪が銀色に変色して、長く刃物の様に変化していた。
「なんでバレたのかなぁ?」
朱美の言葉に、岩さんが美佐をかばいながら銃を向ける。
「へん、理由はねぇよ。半分以上が勘よ。
けど、最後にアンタミスしたな。そのぬいぐるみ。
そいつだけ、なんで切り傷じゃないんだ?今回の犯人の獲物は刃物。
なのにそいつだけ、切り傷じゃねーのは変だろ?」
朱美がその時、笑い出した。
「くふ、くっふふ!
だって……だって、コレ……すっごくフワフワしてるんだよ?
フワフワーで、やわらかくて……とーっても素敵なのぉ……
私昔からフワフワした物が大好きなんだぁ」
ビリッ!ビリり……!
朱美が、ぬいぐるみの首に穴をあけ、指で押し広げていく。
「みーんな、みーんなやわらかく成っちゃえ!!」
「いい!?」
ドロリと擬音の尽きそうな、濁った笑みを浮かべ、朱美が引きちぎったぬいぐるみの中から一本の鍵を取り出す。
「そこが隠し場所か……」
「アハッ……!」
右足に鍵穴が開いて、そのに朱美がカギを差し込んだ。
『エヴォリュート!スラッシュ!!』
一瞬だけ、朱美の姿がいびつにゆがんだ。
そして、次の瞬間にはスラッシュプレイズナーの姿へ変わる。
『キャハ八ハ!みーんな、みーんなバラバラ!
みーんなバターみたいに来ちゃうよん?』
腕を振るった瞬間、壁が、床が様々な物が切れた。
「コイツ……完璧に頭が――」
『ばいばい、げーじさん!!』
足から、刃物をはやし岩さんを蹴ろうとするが――
「させる……か!」
突発的に、近くに会った書類の山を投げつけた!!
『いぎ!?いったーい、けど無駄!私からは逃げれない!!!』
「それはどうかな?」
暴れるスラッシュプレイズナーに、玲久の声が響いた。
『なぜ!?さっき殺したハズ――』
「爪が甘いって奴だぜ!」
開いたエレベーターの、中から手錠が飛び出しスラッシュプレイズナーの足に絡みつく!!
『これは!?』
「とっさの変身が間に合ってね!!!」
勢いよく手錠の鎖が巻き上がる!!
ジャラララララ!!
「指名手配犯……おせーぞ!!」
「ははっ、ごめんって岩さん」
エレベーターの中から、ジェイルが姿を現した。
『くぅぅぅぅ!切り損ねた、奴か!!
まぁいい!次こそバラバラに――』
「やってみろ!!俺は自由だ!!
岩さん!!コレ持っていて!!」
ジェイルが反対側の手錠を岩さんに投げ渡す!!
「お、おい?指名手配犯!?」
「じゃ、よろしく!!」
鎖の位置を確認して、ジェイルがエレベーターの中に飛びこんだ!!
「ああっ!バカやろ!!」
岩さんが慌てて、近くの柱に鎖を結び始める。
『ちょっと、何――を!?』
エレベーターの中のジェイルの重さにスラッシュプレイズナーがエレベーターの中に引きずり込まれる!!
『ちょ、ちょっと!?』
「頼むぞ、岩さん!!!」
「任せとけ!!」
エレベーターの中からの声に、岩さんが反応する。
じゃらん!!びぃぃぃん!!
岩さんとジェイルの間の鎖が伸びきった!!
ジェイルが空中で止められ、スラッシュプレイズナーだけが、地面に落ちていく。
その様子をみて、ジェイルが岩さんに伸びている手錠を外し、自分もスラッシュプレイズナーを追う!!
「止めだ!」
『チェイン・ジェイル!!』
足の先にエネルギーを為、地面に落下するスラッシュプレイズナーを蹴り潰した!!
『いぎゃぁあああ!!!』
地面とジェイルの攻撃の衝撃で、スラッシュプレイズナーが完全に沈黙する。
「うーい……一階ご到着でーすってか?」
地下の駐車場。気絶した朱美を背負って玲久が姿を現した。
パチパチ、パチ。
「見事だ、見事だよレイク。
楽しませてもらったよ、その鍵は俺からのプレゼントだ。
有効に使ってくれたまえ」
ダァトが、一瞬で姿を消す。
キィン……
一本の鍵が、朱美から排出される。
「……わりに合わねーっての……」
自嘲気味に笑って、玲久がスラッシュキーを拾った。
今かいはかなりあっさりでしたが、スラッシュは結構やばいプレイズナーです。
切断って、シンプルだけど強力ですよね。