東方日妖精   作:空色空

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第十一話 さくら、さくら。花ざかり

「春だねぇ」

 

 縁側に腰掛け、綺麗なピンクに染まった花を見ながら、私はポツリと呟いた。

 

「ええ。もうすっかり春ね」

 

 私のなんとなくの呟きに対して、隣に座っていた白玉桜の主――西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)は、同じくピンク花を見ながら、そんなことを言った。

 

 花びらが一枚。ゆっくり、ひらひら、落ちた。

 

 

 桜。

 春になるとピンク色の花を咲かせる。

 色々な種類があるが、その中でも特にソメイヨシノが有名。

 桜には穀物の神が宿るとも、稲作神事に関連していたともされ、農業にとり昔から非常に大切なものだった。また、桜の開花は、他の自然現象と並び、農業開始の指標とされた場合もあり、各地に「田植え桜」や「種まき桜」とよばれる木があった。

 

 桜の果実は、サクランボとして、各地で食べられている。美味しいよね、サクランボ。

 

 花言葉は『純潔』『優れた美人』。

 

 桜は日本にとって特別な花となっている。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、幽々子って、春は好き?」

「好きよ? こうやって見る桜はとても綺麗に思えるし、桜を見ながら呑むお酒も美味しいもの」

 

 随分と幽々子らしい答えだなぁ。

 君は美味しいものがあれば、時期なんて何でも良いんでしょ?

 食べるのが大好きなこいつのことだ。その内神社で開かれるらしい花見には必ず行くだろうし、其処に出る料理の大半は食べ尽くしてしまうだろうなぁ。

 その体の何処にあんなに大量の食べ物が入っているのか、とても気になるところではある。

 

「お団子とお酒をご用意致しました」

 

 そんなところに、お盆の上に沢山のお団子とお酒を乗せて持って来た、此処、白玉桜の庭師――魂魄妖夢(こんぱくようむ)が現れる。

 

「あら、丁度良いところにお酒が来たわね」

 

 うん、丁度お酒の話をしていたところだったからね。

 

 そして、妖夢はお酒とお団子を私と幽々子の間に置く。

 うん、とっても美味しそうだ。お酒もお団子も。量がおかしいと言う点にはもう触れないでおこう。

 

「では、私はこれで……」

「あら、貴方も一緒に呑んでいきなさいな。桜を見ながらのお酒、美味しいわよ?」

 

 私達から離れようとした妖夢を、幽々子が呼び止める。

 うんうん。私もそれには賛成だ。妖夢も、私達と一緒に花見をするべきだと思う。出来るだけ多い人数で呑んだほうが、お酒も美味しくなるってものだからね。

 

「わ、私は今、仕事中で……」

「良いじゃない、別に。仕事なんて後回しにしても大丈夫でしょう?」

「そ、そういう訳には……」

 

 幽々子の提案に、未だ乗り気ではない妖夢。

 

 こうなれば仕方がない。私の力で妖夢をその気にさせてあげようじゃないか。

 

「あーあー、どーしよっかなー。折角出してもらって悪いけど、二人だけじゃこんなに沢山のお団子食べられないしなー。うん、無理無理。絶対にこれは食べられないよ。幾ら幽々子がいても流石にこれはなー。三人いれば食べれるだろうけど……」

 

 言ってからチラッチラッと、妖夢の様子を伺う。

「……そう言うことなら……う~ん……でも」とかなんとか言っているのが聞こえた。

 

「まあ私なら、このお団子も一人で食べられると思うけれど」

「黙れ!」

 

 折角の私の演技とお誘いが無駄になるでしょうが。

 

 え、嘘。これ全部食べられるの? 山みたいになってるんだよ? ホントどうなってんのこいつの胃袋。

 

 私が真剣に幽々子の胃袋は何処か別の場所に繋がっているのではと疑い始めた頃、未だ悩んでいる様子の妖夢に幽々子からの必殺の一撃が。

 

「命令よ。私達と一緒にお酒を呑んでいきなさい」

「そ、それはズルじゃありませんか……? はぁ、……分かりました。御一緒させていただきます」

 

 どう頑張っても、主の命令は絶対なのだ。

 

 真面目なのも良いけれど、やっぱり偶には……ね。

 

 と、まあ、そんなことがあり、妖夢は私の隣に座った。

 

 

 

 

 

「それにしても」

 

 お酒を呑み始めて暫く。幽々子がポツリと、

 

「今年もあの桜は咲かないままだったわねぇ」

 

 そんなことを言った。

 幽々子の視線の先には、美しく咲いている周りの桜とは反対に、未だ枯れたままの、一本の桜が。

 

 ……西行妖(さいぎょうあやかし)、か。

 

「……幽々子、まだあの桜を咲かせようとしてるの?」

「いいえ。この前の私が起こした異変が終わった後、紫にひどく怒られてしまったから」

 

 ――あの下には誰かが眠っているらしいけれどねぇ……

 

 私は、其処に眠っている人のことを知っている。知っている……けれど。だからと言って、教えなきゃいけないなんてことはない。それにそもそも、私に教える気はない。

 

「ねぇ、千九咲なら、あの桜を咲かせてあげることが出来るんじゃない?」

 

 ……やっばりまだ諦めてないじゃん。

 

「いや、出来ないよ。私じゃ力がたりないし。それに、仮に出来たとしても、私は咲かせようとは思わない」

 

 今あるものは、今の姿のままで。

 

 何かを無理矢理に変えてしまったとき、きっと、別の何かが壊れてしまうものだと思う。だから、無理に何かをしてあげることはない筈なんだ。

 

 西行妖だって、何時までも咲かないのだったら、多分、ずっとそのままでいい筈。

 少なくとも私は……いや、みんなはきっと、幽々子に消えて欲しくなんかないから。

 

「そう? 残念ねぇ……あの桜の下にいる人とも、一緒にお酒を呑んでみたいと思っていたのだけど」

 

 そんな理由で、この前幻想郷が滅びかけたんだなぁ……

 幻想郷の脆さと言うものを感じる。安定しているように見えて、その実、案外ギリギリの状態で維持できているものなんだ。

 

「何を笑っているの?」

「いや、なんでもないよ。幽々子は幽々子だなぁって」

「? ……そう?」

 

 そうなんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

「ああっ! それ私が食べようと思っていた奴!」

「ええっ!? そ、そうだったのですか? すみません……」

「まあまあ、お代わりなら沢山あるし、良いじゃない」

「君が馬鹿みたいに食べるせいで私達の分が無くなるんだよ!」

 

 




 春と言えばやっぱり桜だと、僕は思います。
 みなさんはどうでしょうか?



 さて。そんなこんなで十一話目の日妖精ですが、諸事情により、一旦ここで完結とさせていただきます。
 詳しい話は活動報告にて。
 今まで読んでくださったみなさん、ありがとうございました。

 とは言っても、不定期にまた書きたくなったら書くかも知れません。
 そのときは軽い気持ちで目を通していただけると、とてもありがたいです。
 では、この辺で。
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