東方日妖精   作:空色空

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第二話 白い詰め草

「う~……暇だぁ~……あっついぃ」

 

 場所は湖の近くの草むら。季節は春と夏の間。太陽は空高く昇り、少し暑いと感じるようになった日差しが、ジリジリと私を焼く。うむ、暑い。どうにかならないものだろうか。太陽の光はポカポカして気持ちが良いけれど、これからの季節、どんどん太陽が嫌いになってしまいそうだ。

 

 まあ、それは私がこうやって寝転がっているのが悪いとも言える。と言うか、それが原因だろう。

 だって仕方がないじゃあないか。チルノと大ちゃんは今日は寺子屋に行っているんだ。つまり今、私には遊ぶ相手がいない。偶には一人でゆっくりするのも良いれど、こうまですることがないのは、なんとも暇だ。

 

 ……寺子屋かぁ。私は行ったことがないなぁ。人里で慧音に会うたびに、「来てみないか」とは誘われているけれど、どうにも行く気になれない。不思議なことに、頭では寺子屋に行きたいと思っているのに、体が動いてくれないんだ。なんでなのかは自分でも良くわからない。

 決して、勉強が苦手だからとか、勉強をあまりしたくないからとか、チルノと大ちゃんに、ちょっと頭が弱いのがバレちゃうからとか、そんな理由ではない筈。決して。

 いや、私は馬鹿では無いんだ。自分で、記憶力と考える力がちょっと悪いかなって気がしちゃってるけど。馬鹿ではない。チルノと一緒にして貰っては困る。

 

 ……私だって、がんばってるもん!!

 

 そんなことを考えていると、気持ちが「うがー!!」となってしまって、私は草の上を転がりまわった。馬鹿じゃないやい!! 馬鹿じゃないやい!!

 

「うがー! ……あっつい」

 

 そりゃあ、動いていれば暑くもなる。馬鹿じゃないかな、私。なんて思ってしまった。ちくせう。

 うむう。しかし何とかならないかなぁ、この暑さ。汗で服が肌に引っ付いてしまって、私の全身を不快感が包み込む形になってしまっている。これじゃあ裸の方がまだマシかも……

 

 いや、止めておこう。暑さで頭がやられてきたのかな? 外で裸なんて、誰かに見られたら大変だ。

 暇だ~。あっつい~。誰か~……ん?

 

 

 うつ伏せで寝転んだまま目を開けて見てみると、ソレはあった。

 

 白い花を咲かせる、小さい植物。同じ場所に沢山固まっていて、大体、何処でも見られると思う草。

 

 

 シロツメクサ。漢字で書くと白詰草。

 ヨーロッパ原産で、江戸時代に日本に渡って来た。名前の由来は、オランダ人がガラスの器具を箱詰めするときに、割れないようにこの草が敷き詰められていたことから。白い花の、詰め物の草。ということだ。

 確かに、沢山のこの花に包まれれば、フカフカしてて気持ちが良いと思う。ガラスも割れなさそう。シロツメクサのベッドとか良いかもしれない。

 別名は、クローバー。これを聞くと、私は四葉のクローバーを連想する。見つけたら幸福になれると言う、あの四葉。

 なんで四葉が生まれるのかと言うと、主に二つの要因がある。

 一つは、遺伝子的なもの。所謂、突然変異ってやつ。

 二つ目は、人に踏まれるなどして成長途中で傷ついてしまい、其処からもう一枚の葉が生えてくるから。

 

 だから、成長しているクローバーに針などでちょこっと傷をつければ、人工的に四葉のクローバーを生み出すことが出来る。生み出すことは出来るけれど、やっぱり私は、自然に生えているものを探すのが楽しい。

 

 花言葉は『幸福』『約束』『私を思って』『私のものになって』そして、『復讐』 

 前半はロマンチックだけれど、最後がやけに怖い。これも原因があるけど、その話はまた今度。

 

 

 ……うん。四葉、か。

 よーし。暇だし、久しぶりに四葉のクローバー探しをやってやろうじゃないか。そろそろ私にも幸福が欲しいと思って来たところ。今度チルノにお菓子を買ってあげなきゃいけないから、私にお金が来るように願いも込めて。がんばるぞー。

 

 

 何かに集中すると、周りのことが分からなくなるもの。私は、今まで悩まされていた暑さもすっかり忘れ、四葉探しに勤しむことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

「はあ……今日の収穫は良くないなぁ」 

 

 此処は魔法の森。人里の人間たちには、そう呼ばれている。

 鬱蒼とした木々が生い茂っていて、辺りには瘴気が立ちこめる。そんな森。

 私はそんな森に生えている茸を使い、新しい魔法を生み出すための材料としている。魔法使いをやっている私としては、家の周りに魔力の材料があるのはありがたい。

 

 今日も今日とて、私は家から出て、材料を探していた。

 もう夏も近くなって来たから、上から降り注ぐ日光と森のジメジメが合わさって、それはそれはあっついことになってしまっている。

 

 今日の分の収集は完了。今いる場所はそんなに家から離れていないので、飛ばずに歩いて帰っていた。

 暑さにうんざりしていて、さらに、あまり良さそうな茸を見つけることが出来ず、私はいつもよりも軽い風呂敷を背負い、少し落ち込みながら歩く。

 

 

 そんなトボトボとした帰り道、ソイツを見つけた。

 

「ふっふふ~ん。よっつば~、よっつば~、どっこにいる~」

 

うわぁ……変な奴に出くわしちまった。今日は厄日か。

 

 ソイツは、良く見てみると羽が生えていて、どうやら妖精のようだ。

 しきりに、「四葉四葉」と歌っていて、地面を見ながらふらふらと歩いていた。

 

 妖精がこんな場所まで何の用だろうか。

 さっきから、大分様子がおかしいし。

 

 ……ちょっとついて行ってみようか。

 

 私は、木の陰に身を隠しながら、怪しい妖精を尾行してみることにした。

 

 

 

 

 どんどん進んでいる妖精。

 抜き足差し足で、こそこそとそれについていく私。

 

 客観的に見て、かなり凄い絵面だ。

 怪しい奴を尾行したら私まで怪しくなってしまった。

 しかし、果たしてこの妖精は一体何処まで行く気なんだろうか。

 そう疑問に思ったときだった。

 

 ポロッと、私の風呂敷の中から茸が一つ零れ落ちた。

 

「あっ」

 

 思わず声を出してしまう。

 

 直ぐに拙いと思い口を塞ぐも、時既に遅し。

 妖精は私の声にビックリしたのか、一回ビクッと肩を震わせ、此方を見てきた。

 う~ん、バレてしまえば仕方がない。

 

「君は……?」

 

 妖精が聞いてきた。

 

「人に名前を聞くときは、まず先に自分から名乗るもんだぜ」

 

 さっきまで人をつけておいて、それはないだろうと自分でも思うが、ついつい口から出てしまったので仕様がない。この口は減ってくれることを知らないんだ。

 

「私は千九咲。それで、君は?」

 

 ふむ。千九咲ね。まあ、覚えておいてやろう。寧ろ、此処まで奇行を晒していたのだ。忘れることのほうが難しい気もする。

 

「私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ!」

 

 ビシッと自己紹介を決める。

「魔法使いって時点で普通じゃあないんじゃ……」なんて呟きが聞こえた気もするが、まあ、其処は気にするな。勢いで言ってみただけだ。

 

「それで、千九咲。お前はこんなところで一体何をしているんだ?」

「ん? 四葉探しだよ?」

 

 首を傾げながら、千九咲はそう答えた。

 四葉ってあれか? クローバーのことか?

 おい千九咲。何故そんなに不思議そうにする。首を傾げたいのはこっちだ。

 

「四葉探しって……こんな場所でか?」

「こんな場所……? あれ? 此処って……何処?」

 

 どこって……

 気付いてなかったのか。どれだけ集中していたらそうなる。

 

「此処は魔法の森だぜ」

「魔法の森……? おおー! あそこか」

 

 まったく。お騒がせな妖精だ。妖精で騒がないほうが珍しい気もするけれど。

 

「ありゃ。私、そんなところまで来てたんだ。……どうやって帰ろう?」

「はぁ? 飛んで帰れば良いだろ」

 

 妖精なんだから、飛べないなんてことはないだろう。さあさ、帰った帰った。私はこれから研究で忙しいんだ。無駄な時間を食っちまった。

 

「それはそうなんだけど、方向が分からないや」

 

 困ったように笑う千九咲。コイツ、頭の出来が……ああ、それが妖精か。妖精なら仕方がない。

 

「今失礼なこと考えてるでしょ」

 

 ジト目で睨まれる。ちっこいせいでそんなに怖くはないな。

 

「別にそんなことはないが?」

「ホント……?」

 

 うん。ホントホント。

 

「と、それは良いとして。……う~ん。どうしようか……」

 

 うんうん悩みだす馬鹿妖精。

 正直、もうこれ以上お前にかまっていられないんだが。

 ……仕方がない。これ以上此処にいられるのも困るし。手伝ってやるか。

 

「おい。千九咲」

「う~ん……いっそのこと此処の木全部なぎ倒して、見晴らしを良くしようか……ん? 何、魔理沙?」

 

 何か凄いことを口走ってやがった。妖精のお前にそんなことが出来るとはとても思えないが。

 

「お前の家って何処にあるんだ?」

「えっと……でっかい湖の近く」

 

 良かった。こいつのことだから自分の家が分からないかと思ったが、どうやら杞憂に終わったらしい。流石に馬鹿にしすぎただろうか。

 

 ふむ。湖か。湖なんて沢山あるが、でっかい湖とくればあそこしかないだろう。これで間違っていれば湖の中に沈めてやる。

 

「連れていってやるから、ちょっとついてこいよ」

「ホント!? ありがとう!」

 

 弾けるような笑顔で、この妖精はお礼を言った。

 その笑顔は本当に眩しくて、少し見惚れてしまった。

 

「お、おう……じゃ、行くぞ」

「うん!」

 

 

 私は千九咲を連れて一旦家まで帰り、茸が入った風呂敷を置いた。

 それから、千九咲を箒の後ろに乗せて、湖まで飛んでいく。

 

「おお! 早い! 魔理沙はこんなに早く飛べるんだ。凄いね!」

 

 そう言われると、何か嬉しくなってくるな。ああでも、あんまりはしゃいで箒から落ちるなよ? っておい、バンザイなんかしてたら危な

 

 

「うわぁ!! 落ちるぅ!!?」

 

 

 

 ……言わんこっちゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒に乗って、千九咲と話をする。 

 そんな暫くの高速空中旅行も終わり、目的地が見えてきた。

 確認をとってみたが、どうやら此処で間違いないらしい。

 

 湖の畔にそっと着地し、千九咲を降ろしてやる。

 

「今日はありがとう!! またね、魔理沙!!」

「ああ。またな」

 

 其処で千九咲とはお別れ。

 結局、研究の時間はなくなってしまったが、まあ、偶にはこんな日も良いんじゃないかなって思う。

 

 またね。なんて『約束』

 そう言えば、あいつの探していた四葉。もとい、シロツメクサにはそんな花言葉もあったかな。




 

 結局、四葉を見つけることは出来たのでしょうか。
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