夏と比べると随分涼しくなり、完全に季節は秋へと移り変わってしまった今日この頃。
時間は午後。空は透き通るほどに晴れていると言うのに、あまり暑さは感じられない。あの夏とは違う。やっぱり季節とは面白いものだ、な~んて。
さて。私が今いる場所は、無縁塚と呼ばれているところ。
何らかの事情で此方側の世界に来てしまった、通称“外来人”の墓となっている場所だ。
偶に外の世界の物が落ちていたりすることもあると、あの道具屋の店主が言っていた。彼処の店で扱っているのは、此処から持ってきた物が大半らしい。
外の世界と繋がっているなんて、何とも不思議なところだなぁ。とは思う。
そんな無縁塚は普通に妖怪などは出てきてしまうため、安全とは言いがたいものがあるのかもしれない。しれないが、まあ、
「大丈夫な筈……」
本当に此処が墓と呼べるのか怪しい、ただの石が乗せられているだけの墓を見ながらポツリと呟いてみた。ちょっと自分を安心させるために。効果があったら嬉しいな。
……別に、私は此処に墓参りをしに来た訳じゃない。
そもそも、此処は誰とも繋がりのない、無縁の者が埋められている墓なんだ。私の知り合いはこんなところには埋められていない。
では何故、この無縁塚に来たのか。
大した用事じゃない。でも、私に取っては何よりも大切なことではある。
とは言っても、何時ものように、ある花を見に来ただけだけど。
彼岸花。別名は曼珠沙華とも呼ばれている花。
秋の彼岸の頃に、30センチほどの花茎を伸ばして、長い雄しべ、雌しべを持つ赤い6弁花を数個輪状につける。花の後、綿系の葉が出て冬を越す。
学名では、放射状と言う意味のある言葉がつけられている。この花の形を表した学名だ。
世間ではあまり良いイメージを持たれていないけど、それは、花の色や形が火を連想させるから。と、彼岸花は毒を持っているから。
が、その毒は水で何度も洗えば落ちるのだそうで、飢餓の時の非常食として食べられたらしいが私は遠慮したい。
別名の曼珠沙華は、“天上の花”という意味。
おめでたい事が起こる兆しに、赤い花が天からふってくるという仏教の経典によるものらしい。
仏教では良いイメージを持たれているんだけどねぇ……
そして、花言葉は、情熱、悲しい思い出、思うはあなた一人、また会う日を楽しみに、等々。
「――やはり、貴方は此処に来ると思っていました」
突然後ろから、何度か聞いたことのある声が響いた。出来ることなら、あんまり聞きたくはなかった声が。
「……ビックリしたなぁ。何で此処に居るのさ? 映姫」
楽園の最高裁判長にして、大の説教好き――四季映姫……なんとかドゥが、振り向いた先に立っていた。
「貴方に会うためですよ」
そんな何とも嬉しい台詞。ただ、こいつに限っては言われても全く嬉しくないし、おまけにちょっと冷や汗まで出てくる。怖いことを言わないで欲しい。
「む……何ですか。その嫌そうな顔は」
頬を膨らませて。じと……っとした目を向けられる。
でも仕方がないと思うんだ。映姫の説教は苦手なんだから。
裁判中は死者相手に説教。仕事が休みの日には人里などに出歩いて説教。仕事があってもなくても部下の死神に説教。
……いや、何なの? こいつ。
毎日説教しかしてないじゃないか。病気かなんかなのかな。毎日人を叱らないと死ぬ病気とか。
「はぁ……まあ良いです。そして、今日は別にお説教をする為に来たわけではありませんから安心してください……と言うのも心外ですね」
「い、いやいやいやいや! そ、そう言うことはあんまり気にしなくて良いんじゃないかな!? うん!!」
全力で気を変えさせないように頑張る私である。
「……そうですか」
幾らか腑に落ちない様子で映姫は呟いた。
どうやら、ギリギリながらも成功した様子。良かった良かった。
頼むから今日1日くらいはこのままでいてください。出会い頭に説教が始まらないなんて、今までで初めての経験なんだから。
「今年も、綺麗に咲きましたね」
ああ、そうだね。此処は毎年、綺麗で立派な彼岸花が咲いてくれる。
特に誰かが世話をしているって訳でもないのにさ。
「…………」
「…………」
其処からは、特に会話もなくお互い無言の時間が続いた。
私の方は、大地を真っ赤に染めるほどに咲き誇ってくれた彼岸花を眺め。
映姫はと言えば、何かしらの想いを馳せたような顔で、私と同じく花を見ていた。
沈黙が続く。
話しかけてみようとも思ったけれど、映姫があまりにも真剣に彼岸花を見ているのでそれはやめた。何を考えているのかは分からない。けどきっと、私とは比べ物にならないほどに、立派な考え事でもしているのだろう。
なにせ向こうは閻魔様だ。
死者の魂、つまりは大勢の死んだ人間と向き合っていかなければならない。そんな仕事、私なら責任が多すぎて直ぐに辞めてしまうと思う。
私は自由に生きていたいんだ。それは果たして良いことなのか、それとも悪い考えなのか。映姫に聞けば分かるかな?
いや、聞かないでおこうか。
暫く経ち、不意に映姫が静寂を破って口を開く。
「彼岸花も見たことですし、私も折角のお休みと言うことなので、その……良かったら、これからちょっと付き合って頂けませんか? あー……む、無理にとは言いません。嫌だったら幾らでも断って頂いて……」
――あの……その……。なんて映姫がごにょこにょ言い出した辺りで、私は今何を言われたのか理解出来た。
つまり、私と一緒に出掛けに行きたいと。
どう言う風の吹き回しだろうか。普段ならこんなことは言わないのに……
それに、なんで映姫はこんなに気恥ずかしそうにしているのさ。もう長い付き合いなんだから、別に恥ずかしがることなんてないでしょうが。
さて。これ以上待たせると映姫の頭がそのうちパンクしそうだ。
あたふたしている映姫なんて滅多に見れないものではあるから、暫く見ていたいものではあるけれど。でも、これ以上待たせると流石にかわいそうではある。
まあ、答えなんてとっくに決まっているしね。
「……あ~、やっ、ぱり……駄目ですよね、すみません。突然こんなこと」
「――よしっ。じゃあ、何処か行きたいとこある? 私的には人里が良いかなぁ。取り敢えずご飯でも食べたいし……ま、君次第だけどね。どうする?」
私がそう言うと、映姫はキョトンとした顔をする。
「……いじわる」
「え? 何か言った?」
「……いいえ! 何も言ってません! それより行く場所の話ですが、確かに私もお腹が空いているので先ずは人里に行こうと思います。そしたらその後……」
うんうん良かった。平常運行だ。やっぱり映姫はこうでなくちゃいけない気がする。
うん、今日は疲れる日になりそうだ。
でもま、あたふたする映姫や、私が声をかけたときに嬉しそうな顔をする映姫なんて、とっても珍しいものが見れたんだ。
それだけで今日の思い出は十分だろう。
さ~て、では、気を引き締めて行きますか!
――貴方には後で説教です。
あちょっ、それはやめて
「それでですね!! 小町と来たらこの間も仕事をサボっていて――」
「ああうんうん。大変だったねー」
六回目である。何がって、映姫がこの話をするのが。
夜も更け、辺りは暗闇が包む世界となった。
お昼を食べた後は、映姫と一緒に人里のお店を回ったり、幽香のところへ花を見に行ったりした。
映姫が顔を見せた途端、幽香が弾幕ごっこで挑んだりして大変だったんだけど……
何で彼奴はあんなに喧嘩っ早いんだか。
そんな他愛もないような時間を過ごし、今は夜雀の屋台で映姫と一緒にお酒でも呑んでいるところ。
「大体! 何で小町はあんなに直ぐ仕事をサボるんですか! 私が叱っても次の日にはまたサボってっるんですよ!?」
「うん。そうだねー」
映姫さんが大変です。
「全く! 小町ったらあんなに気持ちよさそうにお昼寝なんてして! 私は忙しくて碌に睡眠なんてあまりとれていないって言うのに……!」
「はいはい。小町は勝手だねー」
「それにこの前だって……!」
「小町が此処でお酒呑んでた話でしょ? さっき聞いたよ。て言うかもう四回目だよその話」
ついでに言えばこのやり取りは三回目である。
「なんでッ! なんで小町はあんなに色々育っているのですか!! 意味が分かりません! 部下が上司よりも胸が大きいなんてありえないでしょう!?」
「いやそれは知らん……」
ヤバいよー。段々壊れてきたよー。前からかもしれないけども。
「なんですかあの胸はッ! もげるべきですあんなの!! もげるか私に全て寄越すかのどちらかです! ですよね!!」
「同意を求めるな。同意を」
胸は確かに羨ましいけどね。
つか、そろそろ帰そうかな。ほら、店主さんも大分困った顔してるし。
これ以上こいつを放っておいたら暴れ出すかもしれん。
「んじゃ、そろそろ私達は帰るよ。ご馳走様でした」
「あ、はい。お客さんお勘定は……」
「はい――?」
え、私が全部払うの!? いやいや嘘でしょ。一体どれだけ映姫が呑んだと思ってるのさ。
「おい映姫。君お金持ってないの?」
「え、おムネ? 持ってるわけないじゃないですか!! 私がさっきから何で怒っていると思って」
「胸から離れろや!!」
はぁ……全く。幾ら休日だからって、ハメを外しすぎるのも如何なものかと……
――――――
「あの……この間はすみませんでした」
「あのさ。確かに久しぶりの休日で遊ぶのは良いと思うよ? でもさ、それにも限度ってものがあると思うんだよね」
「はい……」
後日、映季の部下であるサボり死神は、何時も自分を説教している上司が妖精に叱られているのを目撃し、本気で槍が降って来るのを心配したと言う。
今回は彼岸花と映季さんのお話。
映季さんが愚痴ってるところは一番筆が進みました。
普段真面目な人が酔って本音吐き出してるのってなんか素敵。