やはり俺の青春バトルラブコメはまちがっている。   作:大石

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平塚静はどうにかして捜し出す

 翌々日の昼休み。

 いつもなら俺の絶好の昼食スポットである特別棟の一階。保健室横、購買の斜め後ろで飯を食うのだが、この天気ではそうもいかない。

 自分の席から外を見やれば、どんよりとした雲が日差しを覆い隠し、ぽつぽつと雨が降っているのがわかる。さすがに雨に濡れながら飯を食いたくはない。

 教室内は喧騒に包まれている。この雨で普段は外に行っている奴らが教室に残っているのが原因だろう。うるさいったらありゃしない。

 ちなみにその喧騒の中にあって、俺は沈黙を貫いている。俺のあまりの孤高さに誰も話しかけてこないのだ。俺としてもそちらの方がありがたい。一年のときからこうなので、もう慣れた。というか中学でもこんなんだったから、これが普通である。

 

 もそもそと購買で買ってきたパンを食べ、喉がつまれば水で流し込む。

 ふと教室を見渡せば、その中にはいくつものグループがあることがわかる。

 携帯ゲーム機を持ち込んでプレイする男子二人組。机を合わせて昼食をとる女子三人グループに、男女混合で談笑する五人グループ……。

 中でも目を引くのは、窓際を陣取る金髪の女子生徒を中心にしたグループだ。

 一目でその金髪がグループの主だとわかる配置で、周りを数人の男女が囲んでいる。

 女王は携帯の画面を見ながら、取り巻きたちと仲良く話していた。

 三上美香。それがこのクラスに君臨する女王の名だ。

 別に彼女のことを俺が勝手に女王と言っているのではない。他の男子がそう言っているのを、偶然耳にしたのだ。

 確かになるほど、彼女は女王の名に恥じず成績では学年のトップを争い、運動神経は良い方だと聞く。女王と呼ばれるに相応しいだろう。

 

 そんなことを考えながらぼんやりと女王を見ていると、目が合ってしまった。

 瞬時にして視線を逸らす。やばい、目つきが怖かったです……。

 まぁ、俺と彼女では住んでいる世界が違う。目をつけられさえしなければ、これから関わることもないだろう。

 俯きながらパンを食べ終わると、何もすることがなくなってしまう。

 昼休み終了まであと二十分程度ある。ぼーっとして時間を過ごすのは俺の百八ある特技の一つだ。今日もこの特技に頼らせてもらおう。

 

 と、机に突っ伏そうとしたところで前の扉から一人の女子生徒が入ってきた。

 他クラスだろうとお構いなしにどすどすと入ってきた彼女は、きょろきょろと首を巡らせて何かを探している。

 ん? どこかで見たことのあるような顔だな……。どこかで、つい最近……。

 俺がはっと気づくのと、彼女が俺を見つけてにやりと口角を上げるのは同時だった。

 一直線に俺の方へと向かってくる彼女に、クラスメイトが何事かと注目している。

 緊急退避は間に合わない。

 机の前までやってきた彼女の顔は、二日前、薄暗いゲームセンターの中で見上げたそれと同じだ。ただあのときとは違い、表情に浮かんでいるのは怒りではない。

 

「……探したぞ」

 

「いや、何のことかさっぱり……」

 

「とぼけるな。ちょっと来い」

 

 くそ、すっとぼけ作戦は失敗か……。

 後ろに回られて、強引に襟を引っ張られて教室の外に連れ出される。あの、やめろ。やめて。けっこう痛いんですけど……。

 廊下の人気が少ないところまで引っ張られて、ようやっと俺は解放された。ゴホゴホと咳き込む音が廊下に響く。一体何だって言うんだ。

 名も知らぬ彼女は、俺が落ち着くのを待ってから口を開いた。

 

「君、二日前のガイル使いだな」

 

「……だったらどうした」

 

 ちょっと強気に出てみたが、内心はわりと焦っていた。

 この人気のなさ、まちがいない。二日前の復讐である。情けない話だが、自転車に乗るくらいしか運動をしていない俺がこの暴力女に勝てるとは思えない……。ほんとに情けねぇな。

 逃げ道を探る俺に、彼女は視線を合わせる。

 

「なに、この前私のザンギエフを散々な目に遭わせてくれただろう。それについて、礼を言っておこうと思ってな」

 

 にやりと微笑むその姿が悪魔のように見えた。

 やべえ、お礼(物理)だ。まずいぞ、そうなったら俺に勝ち目など百に一つもない。

 ここからダッシュで逃げなければ……。

 そんな様子を見て、彼女はまたも笑う。

 

「別に取って食おうというわけじゃないんだ。安心しろ、衝撃のファーストブリットはよほどのことがない限り使わないさ」

 

 二日前のアレはよほどのことだったようだ……。

 しかし復讐でないと言うなら、俺をこうして教室から引っ張り出す理由が思いつかない。あの戦法を封印しろ、とか言うのだろうか。それならそれでまぁ、かまわないのだが。

 しかし彼女からは、その予想を裏切る言葉が飛び出す。

 

「一週間後だ」

 

「は?」

 

「今日から一週間後に、私と再戦しろ」

 

 再戦。

 再戦ときたか……。どうやら相当の負けず嫌いさんのようだ。

 だが、俺にそれを受ける理由はない。何で俺がこいつの自己満足に付き合わにゃならんのだ。

 

「……嫌だと言ったら、どうする?」

 

「そうだな……。負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞く、というのはどうだ? もちろん君はあの姑息な戦法を使ってもらってかまわない」

 

「……」

 

 くそ、ちょっと揺らいじゃったじゃねぇか。

 俺が黙っていると、彼女はむうと顔をしかめた。

 

「それでも足りないか……。じゃあ追加で、一回飯を奢る、でどうだ。それでもダメなら――」

 

「わかった。それでいこう」

 

 ため息まじりにそう返す。このままでは俺が折れるまで追加してゆきかねない。最終的に折れるなら、今ここで折れてしまった方がいいだろう。

 

「話は終わりか? なら、もう教室戻るぞ」

 

 がしがしと頭を掻きながらその場を後にしようとする。

 そこへ、声がかかった。

 

「待て」

 

「……なんだよ」

 

 うんざりしながら首を向けると、そこには銃を撃つようにして指を立てた彼女の姿がある。

 銃口は、俺の額に向けられていた。

 

「平塚静。それが、君を倒す者の名前だ。覚えておけ」

 

「あっそ」

 

「おい。名乗り返すのが礼儀というものだろう」

 

「……比企谷八幡だ」

 

「よし。覚えておこう」

 

 満足そうに頷く彼女に、俺は再度ため息をついた。

 なんか変なのに目つけられちゃったなぁ……。

 

 

 

 




女王はあーしさんでイメージしてくれてかまいません。
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