スタートは原作4年前からです
プロローグ:紅華と銀華
紅に光る髪を靡かせながら私がいるのは、風の声が聞こえるような崖の上。
下には今回の作戦目標、ゲリラの大部隊のキャンプが煌々と光を照らしていた。
そのキャンプは四方を断崖絶壁に囲まれ天然の要塞と化している。
「さてと、やりますか」
そう一言呟くと、私は地面と30m以上ある崖の上から飛び降りる。普通の人間ならただの投身自殺だけど、こんなことで私が死ぬわけがないんだよね。
私は着地予想地点付近から大樹と見紛うような太く大きな蔓を
「敵襲!敵襲!」
いきなりの私の登場にゲリラはフランス訛りが少し入ったスペイン語で敵襲を伝えるが、もう遅いよ。
わらわらと出てくる敵を、さっきと同じように
しばらくすると彼我の戦力差を理解したのかゲリラは撤退し始めたんだけど、私に対して敗走するなんてボーナスタイムに入ってくれって言ってるようなものだよ。"攻められにくい"要塞は性質上、同時に"逃げにくい"というデメリットも併せ持つの知らないのかな?
この自然要塞唯一の出入り口に荊の壁を作り出して塞ぎ、出口を失って右往左往するゲリラを新たに作り出した荊の中に閉じ込める。
次の瞬間ゲリラから次々と叫び声が上がり始める。なぜなら私が荊の中に閉じ込めた彼らから、体内の血を含む水分を抜き取っているから。だんだんとその叫び声が止んで行き、最後には夜空にふさわしい物音一つない静寂となった。
私の周りには地面から生えた多数の荊と飛び散った血とその死体。自分でやっといてなんだけど、その辺のホラーゲームよりひどいよ、これ。
歩いてさっきゲリラが出ようとしていた出入り口に向かうと、水分を抜かれ干からびたゲリラの死体と共に、この光景に似つかわしくない紅色の菊が咲き誇っていた。
一面に咲き誇った紅菊はお金取れそうなぐらい綺麗だね、死体がない事が前提だけど。
唯一のこの自然要塞の出入り口のトンネルをくぐり、外に隠してあったジェットパックで私はこの場所から飛び立った。このジェットパックは燃料がせいぜい長くて30分しか持たないもので使い勝手が悪いのが不満点。作戦目標が海の近くなら、魚雷を改造した乗り物『オルクス』の方が中が少し狭いという点に目を瞑ればいいんだけど、今回の目標は少し海から離れていたのでジェットパックを使うしかなかったのだよね。あとジェットパックは飛んでる間、風をモロに受けるから目が乾く。もうちょっと使いやすい移動用装置が欲しいなあ。
ジェットパックを背負い時速200kmを超えて10分ぐらい飛行すると海岸に到達し、その後3分ぐらいすると海に浮かぶ巨大な塊が見えて来た。あれが私が暮らす家、原子力潜水艦・ボストーク号、通称
伊Uは数多くの超人的人材を擁する戦闘集団。第二次世界大戦中、枢軸国、つまりドイツと日本の共同計画として創設された超人兵士の育成機関がそのルーツらしい。そしてイ・ウーメンバーの活動目的はバラバラで自主性に委ねられている。だから平気で非合法の活動を皆行うのだけど、取り締まろうにもどこの国も核武装しているイ・ウーを取り締まることができないってわけ。
そんな原子力潜水艦を空から見ると、一箇所ハッチが開いていて、そこから艦内に進入する。そこには私が背負っているのと同じジェットパックがたくさん格納されていた。
当然といえば当然なのだが格納庫は無人。仲がいいヒルダやパトラ辺りが私の到着を待ってくれているかと思ったけどね、そんなことはなかった。現実は非情である。
任務達成を報告するために、艦内を進むと目の前の通路を横切る人物を発見した。私を見て何も言わないということはありえないから、多分気づかれていないね。
後ろから足音を消して、目標の人物に近づく。別に相手は急いでいるわけではないので、すぐに手が届く距離となった。
「だーれだ?」
変声術を使い男の声を出しながら、目を隠した相手に問いかける。
「声は違うが、こんなことするやつなんて1人しかいねーし、匂いでバレバレだ。
「さすがカツェ、よくわかってるね」
私が目隠ししたのはトレードマークの魔女帽子を被り、片方の目に逆卍、つまりハーケンクロイツをあしらった眼帯をつけているカツェ・グラッセ。彼女は私と同い年で水を操る魔法に長け、その超能力から厄水の魔女と言われているんだよね。
その優れた能力から、ナチスの魔女を集めたテロリスト集団『魔女連隊』を代表してイ・ウーに来ている。そのカツェは眼帯をつけていない方の目をジト目に変え私を一瞬見たけど、すぐに襟を正してー
「ーー
「
ビシッとナチス式敬礼で挨拶してきたので私もノリで同じように返す。
「相変わらずカツェはいつの時代の人…?今ヨーロッパでこんなことしたら逮捕されない?」
「細かいことは気にすんな。それだけナチス・ドイツがヨーロッパにとって恐怖の対象ってこった。100年後も怖がられるなんて、魔女にとっちゃ名誉なことなんだぜ。それに
いや、逮捕されるのは結構大きな問題だと思うんだけど…まあ捕まえにきた警官を処理すればいいだけか。
「そうだ、さっき匂いでバレバレってカツェ言ったけど私そんなに匂う?自分の匂いは自分で分からないんだけど」
「普段はそんなに匂わねーんだけどな。お前が能力で人を紅菊に変えた後のしばらくは菊の香りかするんだ。相変わらずエグい能力だぜ」
「カツェにエグいって言われるなんてね」
顔や声には出さなかったが、水を操って相手を溺死させる厄水の魔女にエグいなど言われるのはちょっとショック…
「あ、そうだ
「小説とかでよくあるバイトやめるみたいなノリで言うもんじゃないでしょ…まあどうせ、もう決定したことだろうけど、一応理由聞きたいかな」
「魔女連隊に帰隊するんだ。
カツェの言うイヴィリタとは血は繋がっているが近いとも遠いとも言えない親戚のこと。あったことはないんだけどね。
「そう…少しさみしくなるね」
「しけた顔するな。紅華、お前とはゆ、友じ…仲間だからな。日独同盟もあるし、助けがいるなら呼べよ」
友人という言葉すら言うことができないカツェ、確かフランスの学校に通っていたはずなのだがそこに友人はいるのだろうか?いやいない(反語)
それに日独同盟っていうけど私、日本人の血も1/4しか入っていないんだけどね。毛や瞳の色以外、見た目日本人まんまだけど。
「ありがとう、カツェ。私も友人としてカツェを助けてあげたいから、私のことも呼んでね」
私の友人発言にカツェは少し顔を赤くする。友人で顔を赤くするなんてカツェの今後が少し心配。
「わかった、じゃあな紅華」
「またねカツェ」
私たちはお互いに肩をポンと叩いて、私は今日の結果を報告するために父さんの部屋に急いだ。
カツェと別れて急ぎ足で歩くこと数分、ある大きな扉を持つ部屋の前で立ち止まった。ノックをしようとすると自動で扉が開いた。まるで何か監視カメラで見られているかのようだが、いつものことなので気にせず中に入る。
「ただいま、父さん」
私は奥の椅子でパイプを咥えている男性に話しかける。
「おかえり、紅華。そろそろ帰ってくる頃だと推理でわかっていたよ。カツェ君と会って少し私のところに来るのが遅くなることまでね」
その男性は英国紳士のような容姿に爽やかな顔。20代の見えるが貫禄は20代のものではない。
それもそのはず、この人は卓越した推理力を持ち、格闘技・西洋剣術・拳銃の達人でもあり、日本に設立された武偵と呼ばれる組織の理想で、起源となった人物。
その人こそ私の父、シャーロックホームズである。ちなみに実年齢は100歳超えている
「ゲリラ部隊潰し終わったよ。まあこれも推理されてるんだろうけど」
「紅華君。仮に推理でわかったとしても、本人からそれが事実だと確認するのも探偵としては重要なのだよ」
言っちゃ悪いけど父さんの喋り方はいつも回りくどいなあ。まあ、これも推理されてるんだろうけど。
二、三個状況などを報告し任務完了。
報告も終わったし、お風呂に入って寝ようと思って部屋から退出しようとした時。
「待ちたまえ紅華君。まだ二つ、君と話しておきたいことがある」
「何?」
私と話さなくても推理すればいいのにと思うんだけど、娘とのスキンシップというやつかな。
「今回の任務のために、どんな想像をしたのか気になってね」
ああ、なるほど。これは推理できないだろうね。父さんは推理できなかったものの答え合わせをしたいのだろう。
「今回の任務のための想像は『自分は新しいおもちゃを買って貰えないのに、友達は沢山買って貰えているという5歳児』だよ、父さん」
「相変わらず、君のそれだけは私も推理できないよ」
この想像は私のある体質を発動させるためであり、その体質は私にとって有益なものなんだけど、私にはもう一つ体質があって、そっちはもう本当に私を縛る呪いなんだよねぇ。私としては遺伝子から抹消したいレベル。
祖母や母が生きていた頃にその体質の使い道や裏技を聞きに行ったんだけど、成果無し。大人になったらわかるかもの一点張りで何も分からなかった覚えがある。
「それで、あともう一つって?」
「ものごとに最短にたどり着くためには少し遠回りするのが重要な時もあるのだよ」
そう急かすなという風に父さんは言葉を一旦区切った。
「君に婚約者をつけたいと思う」
「婚約者、婚約者ね…婚約者っ!?」
最初何言っているか分からず、婚約者の三段活用になってしまうぐらい急な話なんだけど!
まず、婚約者って何?いつの時代の話!?今日日婚約者なんて小説ぐらいでしか聞かないんだけど!?
「まあ、落ち着きたまえ。紅華君」
父さんはいつも通りにこやかな笑みを浮かべているが、今日はその笑みに腹が立つ。
「言いたいことはわかるが、これは僕じゃなくて蘭華君やお義母様が決めたことなんだ」
「母さんとお婆様が?」
蘭華とは私の死んだ母の名前である。ちなみにお義母様とは、私の祖母で名前は雪華。
「12歳、つまり中学生になるときに公表しろと言われていたからね。理由は言われてないけど、その理由も推理できているよ」
「……拒否権は?」
「あると思うかい」
わかっていたことだが、その言葉を聞いてがっくりと項垂れる。父さんは母さんの遺言だけはキチンと従うからね…それほど愛していたっていうことかもしれないけど。
まあ私の知っている母さんの他の唯一の遺言は、生きている間は世界に戦乱を巻き起こさないっていう当たり前でしょ!と思えるものだけど。私が今日行ったゲリラの掃討もその一環。先週も行った掃討も私…あれ?私ばっかり働かせられてる?
「項垂れることないさ、紅華君。君も彼を気にいると思うよ」
「どうせ父さんの推理だから、本当にいい人なんだろうけど。で、どんな人?」
私がそう言うとテーブルの上に置いてあった封筒が風で私の方に飛んできた。無d…贅沢な超能力の使い方だなあ…
開けてみると私の婚約者のプロフィールなどが書かれていた。名前は遠山金次。家系図を見てみるとどうやら祖母の代で姉妹、つまり彼とは再従兄弟にあたるようだ。
ざーと上からプロフィールを読んで、何も面白いこと書いてないと思った瞬間、最後の行で私の目が止まった。
「なんで彼が君の婚約者に選ばれたのかわかったようだね」
最後の行には彼の体質が書かれていた。それは私に刻まれた呪いの体質と同じ、ヒステリア・サヴァン・シンドロームであったのだ。
あの後少しこれからの注意を父さんから受けた後、私は今自分の部屋のベッドに寝転がっていた。
今の私の髪の色は青みがかった銀、目の色は瑠璃色。髪の毛や瞳が紅であったさっきまでの姿と比べるとまるで2pキャラなのだが身長や顔すら違うので完全に別人である。これには理由があって、私は戦闘タイプごとに髪や瞳の色、姿までもが変わる。紅色の時は超能力、ゲームでいうところの純魔法タイプであり、銀色の時は近接戦闘タイプなのだ。これは2代目のイ・ウー艦長の祖父から受け継いだ能力であり、この能力を今知っているのは父さんだけである。
それにしてもこの姿(母さん命名通称:
けど、過ごしているうちにもしかしたら私の呪われた体質、ヒステリア・サヴァン・シンドロームについても何かわかるかもしれない。
ヒステリア・サヴァン・シンドローム、略称:HSS。
性的興奮を感じると思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する、特定の人間が持つ遺伝による特異体質。
だけどこれは男性の場合のみ。HSSは戦闘能力上昇能力ではなくあくまで 「魅力的な異性を演じて子孫を残す」ことに由来しているから、男性が使うと「女性を高い知力と身体能力で守り女心を鷲掴みにするカッコいい男性」 となり強くなるが、女性の私が使うと「男性が守りたくなるようなか弱くいじらしい男心をくすぐるような可愛らしい女性」となるため弱くなるという、クソほど使えない能力になる。
父さんに聞いたところ、私の一族は遠山家と縁を結ぶことが昔から多々あり、実際祖母の姉も金次の祖父に嫁いでいる。たぶんそういうことから私たちの一族の血にもHSSが紛れ込んだのかもね。
私はイ・ウーに男性が少ないということもあって男性と喋った経験が数えるほどしかない。普通の学園生活送ろうとすると同性としか喋らないのは厳しいよねたぶん。いや、普通の同性とすら喋る話題怪しい気がする。だって私が最近同性と喋った話題って
「大ドイツ帝国の復活(カッツェ)」
「エジプトを起点とした世界征服(パトラ)」
「
ぐらいしかない…普通の中学生が世界征服みたいな話をするわけがないし、何を喋ればいいんだろう…
オリ主能力まとめ
紅の髪と目を持つ、身長は135cm、超能力を使うモード。イ・ウーでは基本この姿
すこし青みがかった銀髪、瞳は瑠璃色。身長は160cm。近接戦闘タイプ。イ・ウーでこの状態を知っているのはシャーロックだけ
HSS(ヒステリア・サヴァン・シンドローム)
原作主人公が持つ特異体質。主人公の呼び方はヒステリアモード。性的興奮をトリガーに強くなるのだが女性の場合は弱くなる
???
紅華の家系が代々持つ体質。男版HSSのように超能力や身体能力を一時的に向上させることが可能。
第1章はプロローグだから早めに原作入りたいですね