私が武偵中に入学してからもう一年と九ヶ月が経った。一般的な学校の制度では一年経つと1年生から2年生という風に繰り上がるらしい。
つまり私は二年生になった"らしい"。
"らしい"としか言えないのは私は二年生になって学校に行けてないからなんだよね…
政府のお偉いさんが一年の時の私の働きぶりを気に入ったらしくて、娘の留学時のボディーガードとして海外まで付き添っているから一年弱は武偵中に行けてないな〜
そのせいで私の武偵ランク試験は延期となってまだAのまま。ちなみに試験をサボるようなことがあるとEランクになるらしいけど、まあそんなことする人いないでしょ。
武偵中はイ・ウーとはまた違って面白いんだけどね。
というわけで私はイギリスで要人警護のお仕事中。要人警護といっても日中のボディーガードが中には入れない学校の中だけで、放課後や休日は自由なんだけどね〜。そして今は冬休み。だからこうやって観察できる。
「
静かなロンドンの夕暮れ時に甲高いアニメ声が響き渡る。
声の正体、それは私の視線の先にいるピンクブロンドのツインテールを靡かせ、防弾装備に身を包んだ少女。
あれが私と血が繋がっている、父さんのひ孫の神崎・H・アリアか。
見る限り戦闘のセンスは……確かにあるけど強引というか無理やりというか…
猪のように真正面から突っ込んで両手に持った
実力は今の私、銀華と同じかそれ以下。紅華なら一瞬で制圧できるだろうし、主戦派はもちろんのこと、下手したら研鑽派の人たちよりも劣るね。
あれが初の14歳でのSランクか…私より上なのがちょっと気にくわないけど…ま、いいか。
武偵なんて偽の顔だし、本職はイ・ウーのならず者だしね。
そんなことを考えながら、銃声に集まってきた野次馬に紛れ神崎を観察していたわけだけど、私の視線に気づいたのか知らないけど、事情聴取を終えた神崎がこちらに歩いてきた。
そんな彼女を他の人と同じように見ていたんだけど…
「ねえ、そこにいる銀髪の貴女。名前なんていうの?」
突然私の名前を聞いてきた。というか、いきなり人の名前聞き出そうとするなんて横暴だね。こういうの唯我独尊っていうのかな?よくわからないけど。
「北条 銀華」
私は名前だけを答える。名前以外を教える必要はないし、まず聞かれていない。
「日本人?」
「1/4だけね」
「本当?私もそうなの!」
なんか神崎は1人で盛り上がってる。ていうか、なんで私が話しかけられたのかよくわからないんだけど。
「で、わたしに何か用?」
「いや、私と似たようなものを感じたから話しかけたのよ」
「それは推理?」
「勘よ」
神崎は父さん並みの直感を持ってるのかも…私と神崎の血が繋がっているってことを直感で感じ取ったのだろう。それだったら警戒レベル上げないとね。
「そう…じゃあ私帰るから」
私は野次馬の奥へと消える。
今、神崎と深く接触するのは得策ではないからね。
私の推理と直感では神崎と深く関わるようになるのは2年後から3年後。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
神崎は野次馬を押し分けてこっちに来ようとしてるが、もう遅いよ。神崎が野次馬を抜けるだろう頃には私は裏路地に姿を消していた。
これがホームズ二世とホームズ四世の初めての出会いである。
イギリスではクリスマスホリデー、日本でいう冬休みなので、イ・ウーに帰省している私は週に1度の楽しみであるキンジとの電話を終え、部屋でゴロゴロしていた。
最近のキンジは声から元気がないことがうかがえるんだよね。どうしたんだろう?人には聞かれたくない事情ってものがあるし、安易に聞くことはできないからねー。
理由は推理できないことはないと思うけど、私の直感が推理しない方がいいと言っているので推理はしない。私の直感はそんなにすごくはないけど働く時は働くからね。
もうキンジとの電話も終わったし寝ようかな…っと…メールだ。相手は理子か。
うーんと、なになに?
『会いたいから部屋に行ってもいい?』
私の部屋は何度も言うがイ・ウー最深部。こんなところまで来させるのは忍びないよ。
『私が理子の部屋に行くから、ちょっと待ってて』
そう返信し、私は姿見の前で服を正して部屋の外に出た。
教会のような大広間を抜け、通路をいくつか抜けて理子の部屋に向かうと…
「こんばんは、紅華だったかな?」
「金一……だったよね」
通路で金一義兄さんと対面する。金一は今年の中盤ぐらいにメーヤの紹介でイ・ウー入りしたんだけど……目的もまあ推理できるよね。私が推理できるぐらいだから父さんも推理できてるだろうし、父さんはどうするつもりなんだろう。ちなみにまだカナ=金一を認識している人間はほとんどいない。
「どこかお出かけだったのかい?」
「ちょっとロンドンにね」
金一の話しかけ方を見るに、私を小学生と勘違いしている節がある。いや、まあ体型みたら、そこいらの小学生より小さいんですけど…銀華の時とギャップがある理由は簡単な推理でもわかることだけど小学生扱いは解せぬ……
「噂の四世を見に行ってたというところかな?」
「そうよ、一応親戚だしね」
そう言って私はそのまますれ違って去ろうとする。
「ちょっと待ってくれ、聞きたいことがあるんだ」
そして私は止まる。
今日はよく呼び止められる日だね。
私は振り返ると金一が真剣な目をしている。
そういう目、キンジそっくり。
「何?」
「…俺がHSSという体質を持っているということは君も知っていると思うが、この体質は特異体質で世間では知られていない。だが、
これは罠だね。金一は私が動揺するのを誘っている。たぶんHSSの直感で私がHSS持っていることを見抜いているんだ、銀華の前例もあるし。だが確証はない。だからこうやって揺さぶって疑念を確信に変えたいんだろうね。そして紅華=銀華がバレるのはかなりマズイ。キンジにはまだこっちの世界、裏の世界に踏み込んでほしくないし。
「普通の人間ならまだしも、父さんだよ?知ってても別におかしくないよね」
「確かに教授だったら知っててもおかしくないな。すまん、おかしな事を聞いた」
上手く誤魔化せたかな。それに金一も上手く誤魔化してきたね。
それじゃあという風に手を振り理子の部屋に向けて再び歩き出す。
「あともう1つ、君の行動は人を助ける時と襲う時の両極端だ。その違いはなんなんだい?」
そう金一に言われると同時に、私は殺気を金一に向かって放つ。でも、流石に金一はこれぐらいじゃビビらないか…
「気まぐれ、それ以外にない」
振り返らずにそう言って私は今度こそ本当にそこから立ち去った。
しばらく歩いて理子の部屋にやっと到着。
ノックをするとドアが開いた。
「久しぶり〜紅華!」
ドアが開くと同時に理子が抱きついてくる。
確かに会うのは久しぶりだね。半年ぶりとかかな?
私がイ・ウーにいることは減ったし、理子も忙しいみたいだからね。理子だけじゃなく他のメンバーとも会う機会は減っている。
仕方のないことだけどね。
「確かに久しぶりだね〜。寝るまでは暇だしゆっくりお話でもしようか」
「うん」
そういう理子はあまり元気がない。元気がないというか聞きたいことがあるってところかな?その理由を推理すると…
「ホームズ四世のことが気になるの?」
「うん……少しね」
やっぱりビンゴ。私が四世を見に行ったことを理子はリサからでも聞いたのかな?
そして、理子は少しねと言っているけどたぶんかなり気になってる。理子の本名は峰理子・リュパン四世。ホームズとリュパンだから因縁でも感じているのかな?私もホームズだけど。
「うーんと、そうだね〜。遊び甲斐はありそうだけど私とは馬が合わないね。もし緋弾の計画がなかったら興味は湧いてないと思うよ」
あの様子じゃ脳筋って感じだから、たぶん推理力は全く遺伝してないよね。同じホームズ家だからといって合う合わないはあると思う。
「紅華的に見て実力は?」
「実力?Sランク武偵らしいけどそれほどでもないといったところ。理子でも十分勝てると思うよ?」
そういうとなんか理子は安心してるけどなんでだろう。やっぱり理子にとってホームズは因縁の相手だし戦いたいのかな?私もホームズだけど理子に戦いを挑まれたことはないんだけど。同じ四世だからかもしれないね。
「そっか、そっか〜」
理子はそう言って擦り寄ってくるけど、やっぱり理子は甘え癖があるね。理子の境遇を考えれば仕方ないけど。
「ねえ理子、もっと面白い話しよう?理子の話、私聴きたいなあ」
「うん!紅華にりこりんが話したいと思った話題はね…」
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あたしは峰・理子・リュパン四世。
イ・ウーの一員で、目の前であたしの話を楽しそうに聞いてくれているのは紅華。
紅華はホームズの姓を持っていて、リュパンの姓を持つあたしが対抗心を抱くかとみんな思ってるかもしれないけど、そんなこと思えないよね。思うのもおこがましい。
紅華はあたしがルーマニアのブラドの屋敷から抜け出した時、逃げる過程でボロボロになったあたしを拾ってくれた命の恩人。
最初裏路地で紅華に見つけられた時は、もうダメだと思ったね。明らかにやばい雰囲気醸し出してたし、横にはナチスのハーケンクロイツの眼帯つけたカツェがいたし。でもそんなことはなかった。
紅華は傷ついたあたしを、カツェが止めるのも聞かず
こんなによくしてくれる人にどうして対抗心を持つことなんてできると思う?
それに私によくしてくれるだけじゃなくて、戦闘能力面でも紅華は十分すごい。
ブラドと交渉したり、イ・ウー主戦派の魔女の中でのリーダーだったりどんなチートって感じ。
ブラドはイ・ウーのナンバー2で、主戦派魔女のパトラはナンバー3。
ナンバー2と対等に渡り合えて、ナンバー3を従える紅華ってなんなのって話でしょ。紅華はそういうランクに興味はないからランキングに入ってないけど、入ってたら確実にナンバー2かナンバー3取れるよね。
今のあたしがそんな紅華に勝つなんて野生の2レベルのポ〇ポで育成された100レベルのミュ〇ツーに挑むぐらい無理ゲー。それぐらい実力差がある。
ただ…紅華の誰もが認める強さと人を惹きつける魅力にあたしが憧れているのは、確かなんだけどね。
「理子どうしたの?」
「ううん…なんでもない」
深く考えすぎたのか、紅華が年齢と乖離している童顔で私の顔を見て首を傾げている。
「そう。悩み事があったら言ってね」
紅華はどこまでも優しい……だが怒らせると手がつけられない。イ・ウーで怒らせると一番やばいのは紅華って言われているぐらいやばい。一度紅華を怒らせた奴が紅華に消されて、そう言われるようになった。そんなパンドラの箱を開けようとしているバチカンは意味がわからないよ…
「うん。じゃあ逆に紅華の方は悩み事ないの?」
ないっていう答えを想像した質問だったんだけど…紅華はぽっと顔を赤くした。なに、その。紅華には珍しい普通の乙女みたいな反応。
「……あのね、最近ある人に全然会えなくて寂しくて、その人のことばっかり考えちゃうんだけどこれってなんなのかな?」
「…………」
もじもじしながら言うそんな姿は……
完全に恋だね…
紅華が恋に落ちるなんて考えてもみなかったよ。
それにしても初心だね〜
背が小さい以外に欠点のない紅華が惚れる相手が少し気になる。
「あれ、理子?」
「……ごめんごめん。もしかしてその人とメールをしたり電話したりしてる?」
「よくわかったね理子。リュパンの名を返上して、ホームズになったら?」
「それは汚名だよ!?」
紅華が冗談でそんなこと言ってるのはわかってるけど…ちょっと焦るよね。何せ大怪盗と名探偵では天と地ぐらいの差があるし。
紅華はあたしの反応みてクスクス笑っているけど、その顔も女の私からみても可愛い。
「それで紅華がそうなってしまった原因は、名探偵理子の推理によると恋です!」
「………やっぱり」
紅華も自覚はしてたみたいだね〜
ただそれを認めたくないっていうのかな?
あと魔女が恋に悩むってのもいいね。実力は違うけど同じ人間なんだと実感できる。
「それでその紅華の心を奪った大怪盗がどんな人か、りこりん同業者として気になるなー」
「詳しくは言えないけど…強いて言うならば女装が上手で、普段は頼りないけど、いざとなったら頼りになって、一緒にいると楽しくて、優秀な能力を持つ女装が上手い人だよ」
顔を赤くしながら、手を頰に当ててそう答える紅華は…完全に脳内トリップしてるね。これは完全におちてるよ。ギャルゲーでいう完全に攻略されてるって感じ。
…って女装が上手いって何?
女装が趣味の変態なの!?
そんな人を紅華は好きになっちゃったって。
………………。
なんだろう。このこみ上げるような殺意は。
あれかな。怪盗でもないのにヒトの心を盗んだことを、怪盗としての私のプライドが許せないのかな?
「くふふふふ…」
「不気味な笑い声あげてるけどどうしたの?」
「ううん、なんでもない」
ここに紅華の心を奪った本人はいないのに喚き散らしてもしょうがない。
手を振ってなんでもないアピールをしながら返事を返す。
「そう、それならいいけど…….あっごめん理子。電話」
そう断りをいれてから紅華は携帯の電話を取る。
「……。うん、私……うん……うん……了解。すぐ行く」
そう言って携帯を閉じた。
見た感じ、あたしにとっていい内容じゃなさそうだね……
「ごめん理子。ちょっとカツェたちに呼ばれて、出かけないと行けなくなっちゃった」
「仕方ないよ、いってらっしゃい紅華」
そう言ってあたしは紅華を見送る。
ふう……
紅華が出て行った後、気持ちを落ち着けるために一つ息を吐く。
あたしにとって紅華は自分を救ってくれた特別な人だけど、紅華にとってのあたしは単なる1人の仲間にすぎない。
紅華にとっての特別な人はたぶんその紅華が恋した相手しかいない。
それがたまらなく悔しい。
(あたしも、いつか紅華の心を盗んで大切な人になってあげるんだから!)
そう決意を胸に、あたしはベッドに潜り込んだ。
理子はガールズラブというよりは紅華に依存している状態です。
死にかけのところを助けてもらってるので理子→紅華の関係は、例えるならリサ→キンジや、かなめ→金三のような関係ですね