注意:駄文気味
今日から新学年、新学期だ。
……だが、俺の気分は窓の外の春の陽気の様に冴え渡るどころか、梅雨の時期の曇天の様に重く沈んでいる。
理由は簡単。1年生の間は楽しかった学校が、2年生になってストレスが溜まるものに変化したからだ。
1年の時銀華と一緒に仕事をしたという実績から、2年に進級した時に女子男子構わず目を付けられていたのだが、とある事件により女子にヒステリアモードがバレた。
そこからの生活は地獄だった。
女子は俺を『報復』の道具として、あの手この手でヒステリアモードにし、便利な『正義の味方君』として利用した。
もう昨年度のようなことは嫌だが、授業がある以上登校しなくてはいけない。出席率だけが俺の取り柄だからな…
俺が突っ伏しながらそんなことを思い出していると、担任の駒場が入ってきた。
「おーい、座れー」
入学時と同じような気だるげな声をかけられ、俺が顔を上げると立っていた連中全員がサッと座った。
実は武偵中ではこんな光景は珍しい。
大抵たらたらと移動するのが数人いて、それを担任がナイフや銃などで脅すのが鉄板だ。
なぜ、この薬でもやってそうなだるそうな声で武偵中の連中がいうこと聞くかというと、駒場の担当するのは
尋問科では犯罪容疑者から情報を引き出す術を学ぶ学科であるが、話術、心理学、人体学を学び、拷問方法すら学ぶというやばい噂もある。
去年、素行が悪くて実際にそこに連れていかれたやつがいたが、もうそこでのことは話したくないらしい。
それでこんな薬中みたいな先生が怖がられるようになったわけだ。
火ないところに煙立たぬというしな。
「えー、あのー。今日ここに転校生が来ることになりましたー」
駒場がそういうと教室がざわめく。
そりゃそうだろう。
こんな奇天烈な武偵中という学校に転校してくるやつなんて珍しい。しかも三年…こんな時期に転校してくるなんて珍しいにもほどがあるぞ。
「じゃあ、入ってきてください」
駒場が声を呼びかけた方にクラス全員の視線が集まる。
俺としては、女じゃないことを祈る。
俺を利用するやつが増えると困るからな。
入ってきたのは青みがかった長い銀髪を持つ女子生徒…って
「えーと、北条銀華です。よろしく……っていうよりはただいまかな?」
『うおおおおおおおおお』
銀華じゃねえか!クラスのほとんどの男子生徒は騒いでいるし、女子も興奮しているが、今回は俺も驚いたぞ。
事前に帰ってくるなら帰ってくるで教えてくれよな。
「えー、北条さんは任務で一旦武偵中から籍が消えておりまして、転校手続きをしてまた戻ってきました」
ああ、なるほど。あいつは海外の学校で
銀華が帰ってきたことに驚いた俺は
『帰ってくるなら、先に言っといてくれよな』
とメールを銀華に送信。
チラリと銀華の方を見ると、メールを打つため少し目を離した隙に、何人かの女子に囲まれているが…今はHR中だぞ?騒いで大丈夫なのか?…と思ったが駒場は女子には優しいんだったな。
まったく、男女差別甚だしいぜ…
「北条さんは廊下側の一番後ろの席です」
一応まだHRということで、そんな女子の輪の中にいる銀華にそう駒場が声をかけると、
「わかりました。みんな、その話はまた後でね」
そう周りの女子に声を掛け、駒場に言われた席についた。俺には瞬き信号で『放課後 非常階段の踊り場』と送りながらな。
一年ぶりに武偵中に帰ってきた銀華はクラスメイトにひっきりなしに話しかけられており、俺どころか蟻の入る隙間もない。そして銀華を囲んでるのは女子が大半。そんなヒステリアモードの地雷原に裸足で突っ込むほど馬鹿じゃないぞ俺も。
そして昼休み、俺は俺の中で定番となった隠れ家の1つ、屋上の貯水タンクの裏、影になっている場所で購買で購入したパンを食べていた。
同じクラスにも俺を利用する女子がいるからな。なるべくそういう奴らからは距離を置かないとまた利用されてしまう。なので屋上に逃げてきたわけだが………
「北条さんが帰ってきたのは予想外だったね」
「やばいって、このままだとあの便利な遠山取られちゃうよ」
「どうしよう」
その避難先の屋上で俺を利用している奴らの集会が行われているぞ……気づかれたらやばいが、ここは向こうから死角。大人しくしとけばバレないだろう、たぶん。
「アタシ一年の時も北条と違うクラスだから知らないんだけど、どんなやつなんだい?」
そう言ったのは
ちなみにヒステリアモードの俺が利用されるようになった原因はこの菊代を助けた事件なのだが……まあ、あの事件は思い出したくないな。
「北条さんはまず菊代でも知っているところでいくと、強襲科のAランク。頭脳明晰、品行方正、容姿端麗で男女ともに学校トップの人気を誇るね」
そう言われて自分でも考えるみると銀華と俺が婚約者って釣り合ってない気がするよな…
そしてその銀華に優っていたクロメーテルは一体何者なんだよ…
「確かにあんな美人、賢い、品があるの三拍子揃ってれば、男子共はほっとかないだろうさ。それでアタシの知らないところっていうのはなんだい?」
「一部で遠山と北条さんは付き合っているっていう噂が立っているんだよ」
「……そう」
菊代がちょっとイラっとしたような声でそう答えた。
いつも思うんだが付き合うって、なんか俺の知らない意味で付き合うっていう意味があるのか?
買い物に付き合うとか訓練に付き合うっていう意味の付き合うじゃないんだよな、文脈的に。この前から思っていたが女子の世界の言葉は俺にとって難しい。
「じゃあ、アタシがとりあえず放課後に警告しておくよ。今まで通り従えっていうことと私たちとの関係を北条にバラすな。バラしたらみんなにその体質のこと流すよって」
「菊代脅しうまいね〜」
「さすが
武偵の中では有名な話だが、強襲科は諜報科に弱いのだ。これは歴史でいえば侍と忍者の関係に似ている。
侍は最強の存在だった。良い刀を持ち、高度な技や剣術を身につけている。良いものを食べて鍛錬しているから、体も強い。見張りがいたり、櫓などがある堅牢な城や屋敷に住んでいるから防御も万全だ。
そんなやつ、何らかの理由で殺そうとしても殺せない。
それは正面から行った場合。裏からなら殺せる。
それをやるのが忍者だ。
忍者は侍みたいに正々堂々戦ったりしない。密かに忍び寄り、寝込みを襲うわ、毒を使うわ、飛び道具をつかうわ、挙げ句の果てには偽の情報を流し切腹に追い込んだりする。汚いといってしまえばそれまでだが、それを恥とは思わない連中だ。勝てば良いという、逆の意味でタフな精神を持っている。
菊代が学んでいる諜報科の精神はそれに似ている。
彼らは脅しもするんだ。割と普通に。
そして俺のヒステリアモードが他の人にバラされるのは俺にとって今、一番やってほしくない手だ。
「じゃあ、アタシが遠山に連絡しとくよ。放課後に来るようにってね」
菊代がそう言うと共にポケットの中に押し込んであった携帯が震えた。
さて………放課後。予定がダブルブッキングしたわけだが……どちらを優先するか、授業中にも行なったが、最後の比較検討する。
まず
――――先に銀華の方に行く。
この話はどちらかの方を先に済ませるというものだから、どちらかを待たせる覚悟が必要になる。遅れると言えばいいかもしれないが、理由を聞かれる可能性も高い。なので慎重に選ばなくてはいけないだろう。
銀華は『基本』優しいやつなので、待たせても、たぶん怒られない。少し不機嫌になるぐらいだろう。
もう1つ
――――先に菊代の方に行く。
こっちのほうが優先度は高い。なにせもし行けなかったらヒステリアモードのことをバラされるんだからな。銀華の方に比べてまったく行く気は起きないんだが、確実にいかなきゃならん。
しかし銀華を待たせた場合の懸念材料もある。それは、あいつが時間に厳しい人間だった場合だ。兄さんがそうなのだが、待ち合わせ場所に遅れるとすげえ叱られる。事件は武偵を待ってくれないとかなんとか言って。銀華は『基本』優しいのだが、もし兄さんと同じタイプだった場合。少しの遅れなら笑って許してくれることは今までの経験からわかっているが、長時間待たせた銀華を想像するのは………考えただけでも恐ろしい……
だが、そうなったらなっただ。それよりはヒステリアモードをバラされる方が何倍もまずい。俺は菊代との待ち合わせ場所、物好きしか来ないような人気のない校舎裏に向かう。
「やっと来た…遠山」
そこには予想通り、俺を呼び出した、少し茶に染まった髪を菊のような髪留めで結い上げたツリ目の少女ーー鏡高菊代が校舎の壁に寄りかかりながらこっちを見ていた。
菊代はいい笑顔でこちらを見ている。
斜に構えたところがミステリアスな、学校で二番目の美少女と言われる笑顔で。
可愛らしい笑顔ともいえるが、利用されている側としたら嫌な笑顔だぜ。
「それでこんな場所に呼び出しといて、今日は何の用なんだ」
屋上で聞いていましたともいえるわけがないので知らないふりを通す。
「邪推しないでよ。アタシは遠山とお話がしたいだけ」
「こないとバラすと書いて脅しときながらお話がしたいだけときたか」
とりあえず少しキレてるふりをしながら、菊代が話を進めるのを待つ。
「そう書かないと遠山来ないでしょ…それでね、まず、アタシから質問なんだけど…」
「質問?」
イカン…屋上でそんな話していなくて急なことだったから少し驚いちまったぞ…
「と、遠山と北条は………つ、付き合ってるの?」
だから付き合ってるってなんだ。俺にはそれの定義が分からん。どうなったら付き合ってるのかまずそれを教えて欲しい。
そんな頭の上に疑問符が浮かんでいる俺を見かねたのか
「だから北条は遠山の…か、彼女かって聞いてんの!」
彼女って…あれか!よく映画で見るカップルの女の方のことか。
それならば銀華は彼女なのか。
これも意外と難しい。
まず婚約者は彼女なのか。
いや結婚はまだしてないし彼女ではないと思ったが、結婚したら妻になるのか。定義がわからん。
よく分からんが、嘘をついても諜報科の菊代にバレる可能性もあるし、こっち系の話題でややこしくなっても困る。なので、
「よくわからん」
と俺が正直に言うと、菊代は俺が嘘をついてないとわかったのだろう。
「ま、まあ、いいわ。本題はまた違うから」
そういって菊代は寄りかかっていた校舎の壁から体を離し、少し慌てていた顔を真面目な顔に戻した。
「遠山、最近知らない子に迫られたことあった?」
「………?」
いきなりどういうことだ?
その質問の意図が汲み取れず、頭の上に再び疑問符を頭に浮かべる。
「もし遠山のその体質が多くの人に知れ渡ったら、今まで以上に!多くの女子に迫られるでしょ?そうしたらアタシが遠山を利用する機会が減ることになる。だからあまり広めないようにしているの」
なるほど…つまり便利なヒーローを独占したい訳か。それにしても、ヒーローを独占するなんて強欲だな、菊代も。
「それで何が言いたいんだ?」
「わかってないなー遠山。アタシはアンタを脅迫してるんだよ。これ以上広められたくなかったら、これからも私たちの頼みを聞くしかないってことだよ」
そういって俺の前に菊代は立つ。
やっぱり…ワルだな。菊代は。
確かに菊代の言う通りだ。
これ以上体質を知られるとこの状況は今よりさらに悪化するだろう。
そしてこの状況を打開できるカードは……俺にはない。というかまず秘密を知られた時点でこっちから切れるカードがない。
「じゃあ、私からのお願いなんだけど…」
菊代がお願いをするために体を寄せて来て…
「キンジ。やっと見つけた!ここにいたんだねー」
その途中で、その声を聞き菊代は俺から距離を取った。この声は…銀華だが…
「なかなか来ないから、校内をパルクールで回っていたら、いやーこんなところで見つかるなんてね」
そんな声が上、校舎4階の屋上からしたと思うと…
校舎の側面に右足を蹴りたて、すぐに左足を蹴りたて、それを繰り返して……おい、まじかよ。壁を走りながら降りて来たぞ!?普通のヒステリアモードの俺でもできんぞそれ。リゾナならできるかもしれんが。
そんなカンフー映画じみた動きで壁を走って降りて来た銀華は、勢いがついてすぐには止まれないのだろう。その勢いのまま俺と菊代の間に割って入って止まった。その人間やめたの登場に俺も菊代も面食らった。
「あれ、この人キンジのお友達?キンジも友達作れるようになったんだね。私感動だよ」
銀華が泣き真似をしながら制服の袖で涙を拭う動作をした後、やるじゃんといった風に背中をバシバシ叩いてくるが…
痛い痛い痛い痛い!!
銀華、お前絶対俺が来なかったこと怒ってるだろ!ちらっと銀華の顔見たけどニコニコ顔なのに目だけ笑ってなかったし。
「……あんた誰?」
「自己紹介まだだったね。北条銀華。キンジのクラスメイトだよ。よろしくね鏡高さん」
その目だけが笑ってないニコニコ顔で菊代と挨拶を交わす。
「…ふ、ふーん。アンタがあの北条なの」
それなりに恐怖に耐性のあるであろうヤクザの姫君、菊代も銀華の笑顔でビビってるよ。いやー俺も怖い。今すぐこの場から逃げたい。だけど…
「お取り込み中、悪いけどキンジ借りてくね。じゃあ、またね鏡高さん!」
「え…?」
「痛い痛い痛い!すまん、すまんかった」
逃がしてくれるわけないよな…
銀華、俺の腕を思いっきり引っ張りながら、そしてつねるな。
肩がっ!!肩が脱臼するって!それにつねりもかなり痛えって!
痛みで叫ぶ俺を銀華が引っ張り、それを菊代がいきなりのことで唖然としながら見送り、俺は銀華との集合場所であった非常階段の踊り場まで引っ張られ、ようやく解放された。
「婚約者との約束をすっぽかして、浮気相手と会うってどういうつもりなのかな?遠山君?」
銀華は笑ってそういうが、銀華の笑い顔が過去最高に怖えよ…しかも遠山君呼び。もしかしてあの二択の選択肢、どちらも地獄に続いてたんじゃないか?
そんなことを今言っても仕方がない。
銀華の機嫌を直すことに集中しよう。
浮気相手とはたぶん菊代のことを言っている。だったらそこの誤解を解くのが先だ!
「い、いや誤解だ!菊代と俺の関係はな…」
「…関係は?」
これもしかして…何言ってもアウトじゃないですか?
嘘をついたら一瞬で銀華は見破りそうだし、事実を言ったら利用されてたとはいえ俺が性的に興奮していた事実は変わらない。世間一般の浮気の定義がよくわからないが、浮気に入る可能性も十分ある。
詰んだ…
「……」
「まあいいけどね」
え?許してくれるの?
「人には聞かれたくない秘密がある。それは私にも当然あるから私だけ聞くのはアンフェア。私の秘密を全部キンジが知った時に話してもらおうかな」
銀華はキレモード(怖い)から通常モード(優しい)に戻ってくれたようでいつもの笑顔に戻った。助かった…
「そういや言ってなかったな。おかえり銀華」
「うん。ただいま、キンジ」
銀華がいる俺の日常が一年ぶりに帰ってきた。
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私はキンジと一緒に下校し、マンションの自室に戻った。
いや今日の『あれ』はまずかったね。
『あれ』はキンジが関わるとすぐに発動しちゃうし、自制も効きにくく、掛かりもイ・ウーにいた時よりも強い。今まではヒステリアモードと別物だと思っていたけど…キンジが関わるようになってから変わったから、もしかしたらヒステリアモードの一種なのかもしれない。
そんなことより、今日推理したことの整理をしないと。
キンジがここ一年元気がなかった理由。それはたぶんHSS関連だね。
昼休みの終わり、教室に帰ってきたキンジはなんか思いつめた顔をしていた。午前に比べ午後は時計を見る回数も増えていたし。つまりは、昼休みの間に、時間を気にしなければならない理由ができたってこと。時計を見る、たぶんタイムリミットまでに何かを決めなくてはいけない、その必要ができたということと推理できるよね。
そして用事といえば私との放課後の待ち合わせ。
そう考えるとそれはキンジが私との約束に対し何も言わずにすっぽかした理由と繋がる。私には言えない理由があったんだと考えられるよね。そして私に言えない理由、それは女性関連だろう。
で、それが確定したのが鏡高菊代との密談。あの場所は密談にもってこいだと前々から思ってたからすぐにキンジは見つかった。そして、あんな人気のないところにいるのは明らかに人には見られたくない聞かれたくない行為をするためだよね。
それらをまとめて推理すると、キンジはあの鏡高菊代にHSSを見られて、それを脅しの種に正義の味方君として利用されてるってところかな。体質の性質上、女にはキンジ逆らえないし、気が滅入る理由としても当てはまるね。
浮気の線は………無くはないけど、流石にあの反応だと違うと思いたいよね。うん。
その一週間後、調べて見ると色々わかった。
まずキンジは浮気をしてなかった。違うとは思ってたけど一安心だね。
それと私の推理通り、キンジはHSSを利用されていた。それも鏡高だけでは無く合わせて5人に。
怒りでそいつら殺そうかと思ったけど、私銀華は今武偵だし、紅華で人を殺すのは父さんの命令の時だけにしてるので断念。
殺さずにキンジのこの状況を助ける方法………。
……いい案が思いついたよ。
紅華となった姿で私がいるのは、千石に位置した場所にあり、けばけばしい看板を持つレストラン。通称
私の『
パシュッ!
そんな発射音が左右から1つずつ聞こえる。そのあと何か飛翔音が近づいてきたと思った次の瞬間、
ドオオオオオオオオオオン!
目の前の車が大爆発した。
たぶん車の前後、私の左右から放たれたのは
車内に生存者は…うん、いないね。
鏡高組の幹部は大慌て。そりゃそうだろうね。目の前で組長が爆殺されたら普通の人は慌てる。
そして、その間に犯人と思われる二台の車両は離脱して行く。
こいつらは鏡高組と敵対する
これで鏡高組はスパイがいるという不信感によって、今の幹部では無く直系の菊代を組長にせざるを得ないだろうね。
つまり菊代は武偵中を去ることになるだろう。
さて、目標はあと4つ。
さあ、私の『報復』はまだまだこれからだよ。
銀華視点の語尾や口調が書きにくくて苦戦。