注意:キンジの出番なし
午前3時、一連の報復がひと段落して帰宅し、ダイニングで麦茶を飲みながら喉を潤している時、秘密回線処理がされている自宅の電話がなった。
『グッドモーニング、銀華君』
「父さん、おはよう…っていうにはまだ早いけどね」
外はまだ暗い。どちらかというとおはようよりはこんばんはの方が正しいのかな?ていうか私まだ寝てない。
『こんな時間に電話したのは銀華君…いや紅華君に任務を依頼したいからなんだ』
「日本で任務?珍しいね」
『確かに紅華君に頼むのは初めてかも知れないね。日本にイバラキと言う地名があるの知っているかい?』
「イバラキ…イバラキ…イバラキ…あ!茨城県のことね」
『その通りだよ。そこには間宮の里がある。今夜、襲撃することになったから君も向かってくれたまえ。アシ君に場所は入れておいたから、場所は問題ないはずさ』
「つまり以前やっていた交渉は決裂したってことね」
『正解だ。さらにいうとこの先に必要だからという意味もあるね』
「ふーん。あ、私今日学校あるから少し遅れるかもしれないけど大丈夫?」
『大丈夫だよ。紅華君が少し遅れても十分な戦力が揃っている』
「誰が来るの?」
『ブラド、パトラ君にカナ君、桃子君にツァオツァオだ』
これはまたまた…豪華なメンツだね。
「殺しは?」
『今回は許可していない。だからあれは使わなくてもいいよ。最近は使いこなせていないようだしね』
「了解、了解」
『じゃあ頼んだよ。紅華君』
ほいほいと答えながら電話を切る。さてと着替えの準備しますか。
私はクラスメイトを含め、女子が5人欠席している武偵中の授業を終えると、一目散に武偵中の駐車場に着けたアイが運転するマイバッハ62Sに飛び乗る。
神奈川から茨城は同じ関東なのに思ったより遠く、武偵中から間宮の里までは数時間かかってしまう。
そして私がついた頃には、予想した通り襲撃が始まっていた。
家とかほとんど燃えているし、私いらなかったんじゃない?
ウオォォォォォン
ブラドが従えるコーカサスハクギンオオカミが遠吠えをあげている。
人々の悲鳴はもうすでにあまり聞こえず、狼の遠吠えと燃えた家屋を撃つバリバリという音だけが聞こえるので、まずは音がする方へ歩いていく。
「ココ、久しぶりね」
「オウ、紅華カ。久しぶりネ」
私が声をかけた相手は重そうなM134ミニガンを構えた少女。中国の民族衣装を身に纏い、髪をツインテールをしている少女の名前はココ。イ・ウーではココよりツァオツァオって呼ばれることの方が多いけどね。
「それでどのココ?」
ココは四姉妹であり、全員同じような姿形性格喋り方をしているので見分けがつかない。
「キヒヒ〜どのココか当ててみるネ」
…じゃあ推理してみますか。まずメガネをかけていないから
「
「正解ネ…」
私が正解をいうと、猛妹はつまらないような顔をして、そういった。間違えて欲しかったのかな?
「他のみんなは?」
「向こうにいるネ。ココはここの敵を掃討してからまた合流するヨ」
「うん、わかった。じゃあお仕事頑張って」
「紅華に言われるまでもないヨ」
ココは下ろしていたミニガンを再び構えるとモーターの駆動音が鳴る。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!
くぐもった音を出しながら、再び燃えている家屋を蜂の巣にする。そのココが撃っているミニガンの反動は……ないように見えるね。
あれは機嬢が開発した無反動多銃身機関銃だろう。あの様子だと逃げ残りの炙り出しってところかな。
さて、私もやりますかね。……だけど、人の気配はもうほとんどしない。
戦闘技術を秘匿するために戦わずして逃げたのかな?だけど、逃げ遅れた人がいてもおかしくないと思うんだけどなあ。
「あ…りっ!…のかっ!」
と誰かを探しているような声が遠くから聞こえる。
お、やっぱりまだいたんだね。声からして大人の女性だけど、はぐれてしまった自分の子供を探しているってところかな?
声の発生源である村の外れにある池付近に向かってみると、予想通り大人の女性がいた。話しかける前に準備してっと…
「こんにちは」
「……っ!」
私が後ろから挨拶すると、彼女は振り返ると同時に、私から距離を取るようにバックジャンプした。そしてこちらを睨みつけるような、実力を見極めるような視線で私をみてくる。おどかすつもりはなかったんだけどなあ。
「おばさん間宮の人?」
「……あなたはこの村を襲った人たちの仲間ね」
「まあ、そういうことになるのかな?」
「間宮の技を奪ってどうするつもりなの?」
襲われた理由は…そりゃわかってるか。父さんは間宮の技の伝授してくれないかという旨の交渉をしていたんだしね。
でもそれをどうするかまではわかってないみたいだね。
「初歩的な推理だよ。イ・ウーは技術や能力を人に教え、人から教わる組織。それをみんなで共有する。おばさん達は技術を教えなかったから罰を受けたに過ぎないんだよ」
「でも、それだけで里をこんなにするなんて酷い…」
私もその言葉に同意。確かに私もやりすぎだと思うからね〜
キンジを利用した5人に裏から手を回して、5人とも転校や退学させるように仕向けてた私がいうことではないと思うけど。
「自業自得だよね。あと、さっき叫んでたあかりとののかは、たぶんおばさんの子供じゃない?」
「………」
「
「あいつらの仲間を信用できるわけないでしょ!」
私が親切心でそう言ったのに、なんかキレられた。ブラドとかに見つかったら血を抜かれたりして厄介だ。このおばさんの子供なら同年代だろうし、それから救ってあげようかと思ったのに。
「じゃあいいよ。こっちで勝手にするから。おばさんは血を抜かれた状態の娘達が見たいの?」
早くしないとブラドに見つかっちゃうよという忠告したんだけど
「そんなことさせない!」
な、なんか知らないけど私に襲いかかってきたんだけど………
あっ……もしかして私が血を抜くのかと勘違いしてるのか。
本当は技術を隠すためにそのまま逃げるつもりだったけど、娘達が残っていると知った私を処理することにしたんだろうね。
正面からいくつものクナイが私に向かって飛来するけど、私はそれを荊の壁でガードする。
これで仕留められるとは相手も思っていないだろう。確実にクナイは囮、本命は…
バッ!
荊の壁の左側から彼女は姿を現わす。銀華は近距離格闘戦は強いけど、紅華の私の格闘戦はすこぶる弱い。私は距離を取るためにバックジャンプしながら相手の足を狙うように荊を操作するけど、彼女はそれをも前転で躱した。
なかなかやるね〜
私の攻撃を躱した後、彼女がクナイではない何かを地面に投げつけると、ボンッ!という音とともに白い煙が舞い上がる。
まあ、相手の位置を生命反応で把握している今の私にとっては無意味。
煙幕を張り今度は右から奇襲してくる彼女は私が見えているようで、私に向かって一目散に距離を詰めてくる。私は再び荊の壁を張るけど……
バチバチバチバチ!!
荊の壁を突き破って彼女が回転しながら飛来して来た。銃弾や斬撃すら通さない荊の壁を突き破るってどんな威力しているんだ…
その勢いのまま突っ込んで来た彼女は荊の壁を吹き飛ばしたのと同じ威力で……
――――私の姿をした厄水形を吹き飛ばした。
その様子を『地面の中』から捉えていた私は、
「――――
そう呟き、風速50mを超えるような爆風で煙幕を吹き飛ばした。煙幕が晴れ、そこにいたのは何が起こったのかわからないという顔で倒れないように必死に踏ん張っている彼女。
彼女が吹き飛ばした水で作られた分身。これはカツェに教えてもらった厄水形というもの。自分の姿を転写して喋らしたり動かしたりすることができるんだよね。カツェみたいに空気中の水蒸気からは作ることできないから近くに水場―――今回だと池がないと使えないんだけど、実用性は十分ある。最初から彼女と喋っているのは厄水形だったし、上手く行けば相手の顔を捕まえて溺れさせることだってできる。
彼女は底が見えない感じがしたし、話しかける前に準備しといてよかったね。本当に襲ってくるとは思わなかったけど。
あと煙幕を吹き飛ばしたのはセーラの能力。
私たちイ・ウーの超能力者はお互いの能力を教えあってるから、私もある程度は他の人の超能力を使えるし、他の人も私のダウンサイズ型の超能力使えるんだよね。
そして私は彼女の足元から
バチバチバチバチッッッ!
60〜90万ボルトの高圧電流を流しスタンガンのようなダメージを与える。
そんな攻撃を受けた彼女は
「あっ…」
といった声を上げ倒れる。この攻撃……初見で回避は無理だよね。私もヒルダの能力を使えるようになるのにだいぶ苦戦したし。
「さっきの技、たぶん人体のパルスを回転によって増幅収束させたものだよね。その集めた振動を指先に集めて相手を破壊する技。違う?」
私はそう問いかけながら隠れていた地面からぞぞ……ぞぞぞぞ……と姿を現した。
感電したせいで満足に動けない彼女が驚愕の目を私に向けてくるよ。
「……貴女は……いったい……?」
「私はクレハ・H・イステル。イ・ウー、リーダーの娘ね」
「貴女が…あの人の……娘なのね」
私の本名を答えてあげると少し納得したようだね。
「………ののかより………年下に見える10歳ぐらいの子にやられるなんてね……」
そんな失礼なことをいって来た。いやだから私14歳なんだけど…
「あと5分ぐらいで痺れは取れると思うから、痺れ取れたらここからさっさと逃げた方がいいよ。それに貴女の娘も逃がしてあげるから心配しないでいいし」
「え…?本当に何も…しないの?」
背が小さいのは事実だし、まあいいやと思ってそう言い残し立ち去ろうとしたら、彼女は驚いたような声を上げているね。確かに、私は結構イ・ウーでも異端だからなあ…
「弱者や負傷者に追い打ちをかけるのは、今の私はしない。おばさんと戦ったのは自己防衛。私のイ・ウーでの立場は『医者』だからね」
彼女と別れ村に戻ってから数分、彼女の娘2人を見つけることができた。ほとんどの人間が逃げてしまい、物陰に隠れることもせず堂々と道の真ん中を歩いてたらそりゃ目立つよね…。お姉ちゃんと思われる茶髪の少女は武器のつもりなんだろう、右手に包丁を持ち、左手で黒髪の少女を引いている。
その2人はコーカサスハクギンオオカミに追われていて……ココが言っていたみんながいる場所に行っちゃいそうだね。
その追いかけっこについて行くけど、後ろの狼を気にしすぎで前方に見えるパトラたちに気付いてない。
前を見てないし慌ててるし、あれは転ぶね。
「お姉ちゃ…キャッ!!」
「ののか!」
やっぱり。ののかと呼ばれた妹と思われる少女が、地面に散乱している家屋の瓦礫に足を取られ転倒する。しかも、みんなが集まっているちょうど目の前で。
「ほほっ、逃げ遅れがいたようぢゃの」
「殺しちゃダメよ、教授に言われたでしょ」
「ぷっぷー!ルールが何ネ!その時のルールはその時のルール。今は今、ココが決めた新ルールでやるの事ネ!」
パトラ、カナ、ココが続けてそう言う。
ていうかココはいつものルール全否定。まあそれはそれでココらしいけど、ココたちの上司の諸葛にはどうにかしてもらいたいものだよ。そして、ココはミニガンの銃口を2人に向け…
ヴヴヴヴヴヴヴヴ!
ミニガンを乱射した。そのミニガンから発射された弾は…
ブスブスブスッ!
私の展開した荊の壁によって防がれる。
……私が防がなかったら死んでるでしょこれ。
「みんな久しぶり、ココはさっきぶりかな」
私は恐怖で震える2人の横を通り、挨拶をする。私はルールを破ったココに対して
「あとココ、殺すなという命令だったはずだけど、さっきのあれはどういうことかな?」
「チ、チガウネ。あ、あれは紅華が防ぐと思ったヨ」
殺気をぶつけるとココは震えて大人しくなる。最初からそうしとけばいいのに。
紅華怖いネと聞こえた気がするがたぶん気のせい。
そんなことをしていると、静観を貫いていた夾竹桃がゆっくりと姉の方に近づいていく。
そして目を細め、両手を伸ばす。いつもつけている手袋を外し露わになっているのは、陶器のような白い肌に反して様々な色の爪。あの爪には、色別に種類の違う毒が仕込まれていたはず。そして右手で姉、左手で妹を掴む。
「
「っ!」
「…でもまだ何か隠しているわね」
「………。」
夾竹桃が言葉を投げかけても、言葉が返ってこないから会話にならない。恐怖でそれどころじゃないんだろうね。
「左手で毒された子はお気の毒」
左手で握っている黒髪の少女の肌に、夾竹桃は爪で傷をつける。
「毒してあげるわ」
たぶん使った毒は符丁毒だろうね。夾竹桃は間宮一族から聞き出したいことがあって、妹を毒し、たぶんその解毒剤との取引で姉からそれを聞き出す算段なんだろう。
そして符丁毒は即効性のある毒じゃないから、この場で殺すことにはならない。
よく考えるものだよ夾竹桃も。伊達に日本で一番賢い大学、東京大学に通ってるだけあるね。
「ののか!ののか!」
毒された妹の方は力が入らない様子で地面に倒れた。そんな妹を抱きかかえる姉に
「私の名は夾竹桃、いずれまた来るわ――――咲いた花を摘みに」
夾竹桃がそう告げると、それが合図だったのか、カナ達は撤退し始めた。残ったのは獣のような姿をしたブラドと私。
「間宮の血はまだ手に入ってねえからな」
そういって間宮の毒されていない方、つまり姉から血を吸おうとするが……
「なんだ…紅華」
「その子達はほっといてあげて」
私はそれを止める。この子達の親とも約束したしね、無事に逃すって。約束は守らなくてはいけない。
「お前は四世の時といい、今回といい、虫けらを救うのが好きなのか?」
「そんなことはないよ」
ブラドも相性が悪い私と戦うのは嫌なようで、諦めてくれたようだね。狼を連れて撤退していく。
じゃあそろそろ私も帰ろっかな。明日も学校だし。
「どうして私たちを助けてくれたの?」
私に対して、茶色の髪の姉が話しかけて来る。口調からしてたぶん自分より年下と勘違いしてそうだね…まあいいけど…
「絶望の淵にある淑女に助けを求められたら、紳士たるもの、危険を顧みるべきではない…ていうのは冗談。私達に与えられた命令の中に不殺があったからね。それを守っただけ」
私はそう言い残し、間宮の里から撤退した。
強さ基準として銀華+紅華=1/2シャーロックです。
シャーロックがチートすぎる…
あと1話か2話で中学生編は終わると思います