哿と婚約者   作:ホーラ

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実家で甥と遊んでたら遅くなりました…

注意:いつも通りの大幅な時間飛び


第13話:前奏曲の終わりと始まり

早いもので三年になってから約8ヶ月、もう年の瀬だ。

三年になってからの学校生活は、銀華の婚約者発言により、またまた豹変した。

 

まず変わってよかったこと。女子に利用されることがなくなったということだろう。

俺を利用していた連中が転校や退学するなどしていなくなり(銀華調べによると、これは本当にたまたま起きたことらしい)、俺以外でヒステリアモードを知っているこの学校の人間は、同じようにヒステリアモードを持つ銀華だけになったからな。銀華はばらすことは当然しないし、銀華が俺のことを婚約者と言ったおかげで女子が近づいてくることも減った。まあ、そもそも最初から少なかったがな。

 

次に変わって悪かったこと。

それは俺が男子から恨みがましい目線で見られるようになったことだ。銀華は美人で人気者、一方俺はクラスでも「遠山って誰そいつ?同じクラスメイト?」といった存在だった。そんな奴が銀華の婚約者と発表されたら、そりゃ反感も買うわな…

あとは銀華の婚約者という俺に興味を持つ生徒が多かったというところだろうか。女子は近づいてくることは減ったが、逆に遠くから興味を持った視線で俺を観察することが多くなり、大変やめてほしい。銀華の発表によって、俺の評価は銀華の評価にも関わるようになったということだから下手なこともできん…

 

それを引き起こした当人の銀華は、女子たちの質問もうまく捌ききったらしく、銀華は一年と同じように暮らしていたんだが、ずるいだろそれ。

 

まあそんなこんながあった今年の学校生活を終え、今日は冬休みの初日だ。

その初日、俺はのんびり家で過ごす………のではなく、一度銀華と訪れたショッピングモールに来ている。

前まではここに来るとヒステリアモード化した自分の黒歴史を思い出しそうで嫌だったのだが、時間がそれを解決してくれた。

インドア派の俺が、人が多いショッピングモールへ冬休みの初日に来ている理由。それは3日後の銀華の誕生日プレゼントを買うためだ。

 

一年目はどっちも互いの誕生日を知らず、二年目は会えなかったのでお祝いを言うだけでプレゼントを贈り合うことはしなかった。

そして三年目の今回。銀華は俺の誕生日の7月に高そうな時計をくれた。ちなみに値段は怖くて聞いてない。

それのお返しも兼ねて、買いに来ているわけである。予算は任務(クエスト)で稼いだので少し余裕はあるが、問題は何を買えばいいのかだ。女子は何を贈られて喜ぶのか全くわからん。

そこで、自身が女に変身するため女の気持ちがわかり、偶々留学先のイタリアから帰って来ていた兄さんに聞いたところ、女の子にとっては何を贈ってもらうかより、誰に贈ってもらうかの方が大事というなんの役にも立たないアドバイスを貰った。その時うっかりカナの名を出してしまい顔を真っ赤にした兄さんに殴られたのに、これ殴られ損だろ。だから自分でプレゼントを考えないかん。

定番ぽいプレゼントにアクセサリーが思いついたが、アクセサリーなどを身につけることは戦闘の邪魔になる可能性があり武偵では推奨されていない。優秀な武偵でもある銀華に送るプレゼントにアクセサリーは不適切だろう。

服も悪くはないだろうが、趣味じゃなかったりサイズが合わなかったりしたりするかもしれん。

そんなことを考えながらショッピングモール店舗を回っていたわけだが…ある店先に置かれていたものに目が止まる。

 

(花とかいいかもしれんな…)

 

俺が足を止めたおしゃれな店先に置かれていたのは生花のように見える造花のようなもの。

いろんな種類があって綺麗だな。銀華の名前に『(はな)』もつくし、銀華の誕生日プレゼントに花はぴったりかもしれん。

男の俺には少し入りづらいが何も思いつかんし我慢だ。

女子力が高いおしゃれな店内に入っていき、店の中にいた少し可愛い元気そうな若い女性の店員に勇気を持って話しかける。

 

「す、すみません…あの店先にあった花って…」

 

俺がそう話しかけると、その俺の声で振りかえったお姉さんは、

 

「いらっしゃいませ!あれはですね、プリザーブドフラワーと言って生花を乾燥させたものなんですよ」

 

うわ、明るい。美人というよりカワイイタイプだし。身近な感じがして苦手なタイプだ。

まあ…プレゼントのためだ。それは我慢しよう。あとプリザーブドフラワーとかいうのも初めて聞いたな。

「…ドライフラワーとどう違うんですか?」

「一回脱色させて染め直し、その後乾燥させるのがプリザーブドフラワーですね。ドライフラワーよりも綺麗な色合いでみずみずしいのが特徴です」

 

確かにドライフラワーはカサカサしているが、店頭にあったのは生花と見間違うほどであった。

 

「女性への贈り物としては…?」

「とてもいいと思います!水を与える必要もなく、ドライフラワーに比べ長期間持ちますし。どんな物が欲しいなどといったご要望とかはございますか?」

 

銀華に似合いそうな花……あいつは性格的にけばけばしいのはあんまり好きじゃなさそうだよな…

身につけるものや部屋も上品な感じだし。

 

「あんまり派手すぎず、だけど地味すぎず上品な感じで。あ、でもそんな値段が高すぎないようなもので…」

「じゃあこちらの商品はどうでしょうか?」

 

俺の欲張りな要望にお姉さんは思いつくものがあったらしくショーケースから1つの商品を取り出した。

 

「こちらは紅白の輪菊を使ったプリザーブドフラワーです。グリーンは紅葉(もみじ)のプリザーブドリーフとなっています」

 

店員が取り出した商品は、鉄製のフレームに紙製の紐を可愛く巻いた丸い花器の上に、紅白の7cmはあろうかという大輪の輪菊が二輪載っている。

派手すぎず地味すぎず上品な感じで俺の要望通りだ。

銀華の部屋に置くところを想像したが……うん、いい感じだな。

 

「じゃあ、それにします」

「ありがとうございます。ラッピングは無料ですがいかがされますか?」

 

ラッピングは無料とはラッキーだぞ。クリスマスが近いだけあって贈り物としてこういったものが選ばれるからかもしれないな。

 

「じゃあ、お願いします」

「承りました」

 

お代を払い、店員がラッピングしてる間、手持ち無沙汰だったので、ふと買った商品の名前を確認すると『紅白輪菊の満月』だった。

もし白菊は銀華(しろは)だったら、紅菊の方は紅華(べには)紅華(べにばな)だな。

そんなことをふと思った。

 

 

☆★☆★

 

そして銀華の誕生日前日、12月24日。クリスマスイブの日。

銀華の誕生日前日なので、銀華にどこか行きたいところあるかと聞いたところ、イルミネーションが見たいと言っていた。ネットで検索したところ、丸の内でイルミネーションがやっていることがわかったので、そこにいくことになった。

 

「キンジ、出かけるのか?」

 

玄関で防寒対策のためのコートを来ていると爺ちゃんが尋ねてくる。

 

「ああ…」

 

少し振り返りながら、はぐらかしたような返事をする。銀華と出かけると言ったら、爺ちゃんのことだし絶対何か言ってくるからな。

 

「もしや…銀華とか?」

 

流石爺ちゃん、一瞬で見抜いて来たぞ…

だがまだだ。ここで動揺すれば一瞬でバレる。銀華から学んだ経験を生かし、なんでもないように振る舞うんだ。

 

「…違う」

「嘘つかんでもいい、キンジよ。昨日、キンジの帰りが少し遅くなるかもしれんと銀華から先に連絡あったからな」

 

…って先に銀華から爺ちゃんに連絡入ってたんかい…

 

「キンジよ。クリスマスとやらに若者は仲を深める…ごふっ!」

 

そんな爺ちゃんのうめき声が聞こえ、爺ちゃんはそのまま前のめりに倒れる。

そして爺ちゃんの後ろには婆ちゃんがいた。

婆ちゃんは倒れた爺ちゃんを気にする様子もなく俺のそばに来る。

 

「銀華も楽しみにしてるようだったし、楽しんで来るんだよ。でも楽しみすぎて遅くなるといっても、朝帰りは2人にはまだ早いからやめておきなさい」

「わかったよ、婆ちゃん」

 

防寒のためにコートを着て、財布と武偵徽章、武偵手帳、ベレッタとナイフに加え、銀華に渡すプリザーブドフラワーが入った鞄を持っていく。これは来るべきタイミングで渡すつもりだ。

 

「それじゃあ行ってくる」

「気をつけて行きなさいね」

 

婆ちゃんと床に突っ伏している爺ちゃんに見送られながら、玄関を出る。

すると、年末なのでイタリアのローマ武偵高から帰って来ている兄さんが『男』の姿で縁側から顔を出した。

 

「キンジ。銀華とどこかに出かけるらしいな?」

 

兄さんまで知ってるのか…

 

「まあな…明日銀華誕生日だしそのお祝いも兼ねようと思ってる」

「そうか………」

 

なんか思案に明け暮れてそうな顔をしているなと思っていると、すぐに笑顔に変わった。

 

「楽しんでこいよ。粗相をして銀華を怒らせないようにな」

「わかってるよ」

 

そう兄さんに答え、俺は集合場所になっている巣鴨の駅へと向かった。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

駅に向かって遠ざかっていくキンジを見て俺は1つため息を吐く。

 

北条銀華

 

キンジの婚約者であり、俺たちと同じHSSを持っている。この体質は普通の一般女性には理解しがたいものだから、それを自分自身のこととして理解できる女性、つまり銀華は俺たちHSSを持つものにとって稀有な存在だ。

聞いた感じ、キンジの足りないところも補ってくれるているし、キンジも彼女のことを信用している。

去年キンジと会えなかった一年間も電話をしていたところや最近のキンジの様子を見るにいい関係を築けているのは確かだ。

組手などの日々の訓練でキンジの秘められた優れた才能を彼女が引き出してくれているのもわかる。

これ以上ないと言っていいぐらい、キンジにとっていい婚約者だと思う。

 

だが、銀華には気になることがある。それは彼女が何か隠しているということだ。彼女の中学以前のことは秘密となっている。武偵庁で調べて見たが、銀華の中学以前の記録はどの公的の記録にも載っていなかった。

それにクレハ・ホームズ・イステルの存在。彼女もHSSの勘でだがHSSを持っており、調べて見ると上位派生モードと思われるものも使いこなしていることがわかている。HSS自体が稀有な体質であるのに女性となるとさらに少ない。

その点から俺は8割方、クレハが銀華だと睨んでいる。

だが確証はない。ただの俺の予測なだけだ。

確定していない内はなにも動くことはできない。もし違った場合、違った時の被害は計り知れないからな。

 

そして、俺としては銀華がクレハだとしても、別に問題ない。イ・ウーはもうすぐ崩壊する、リーダーの死によって。イ・ウーが崩壊すればクレハが銀華だとしても一般人に戻る。それまで銀華がイ・ウーメンバーということをキンジに知られることなく、イ・ウーの出来事に巻き込まれなければいい。銀華はそう考え、イ・ウー崩壊を待つために黙っているのかもしれない。

俺としてもキンジをイ・ウーと戦わせなければそれでいい。

イ・ウーという強大な敵からキンジを守ることができるのは俺だけなんだから。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

最寄駅である巣鴨の駅に到着した俺は銀華の姿を探していた。

銀華からのメールによれば、もうついてるらしいんだが、どこにいるかさっぱりわからん。

クリスマスイブだからかなんだか知らないが、いつもに比べ人が多い。

こういう人混みで目的の人を探すのは疲れるんだよな。人は少ないに越したことないぜ。

そんなことを考えていると携帯が震える。

見てみるとメールの着信で相手は…銀華だ。

 

『見つけた』

 

それだけがメールに書いてあった。

銀華が見つけたということは俺からも見えるはずなのだが、周りを見渡しても銀華の姿を発見することができない。

再び携帯が震えたかと思うと

 

『10時の方向』

 

再び一言だけ書いてあった。10時の方向、つまり左前を見てみると

 

「3日ぶりかな、キンジ」

「ああ、そうだな」

 

そう挨拶をしながら銀華が歩いてくる。白のセーターと少し短めのチェックのフレアスカート、黒のストッキングを履いて現れた銀華は……可愛い。少し化粧もしているようだ。どこがどうとは言えないがな。

ただでさえもともと美人なのに今日は一段と美人に見える。女の化粧っていうのは手品みたいなもんで男にはどこをどうしてるのか見破れないものだ。なんか気合いを入れてきましたって感じがするな。

なんで女子は化粧や服で自分の可愛さを界王拳のように底上げできるんだろうな。永遠の謎だぜ…

そして、その銀華はこっちを見てモジモジしている。

 

「どうかしたか?」

「…ねえ、キンジ。この格好どうかな?」

「ん?似合ってるしかわいいと思うぞ」

 

思っていたことを述べると銀華は照れ気味に嬉しそうに笑った。やっぱり気合いを入れてきたんだな。いつも会ってる俺と会うのになんでそんな気合いを入れるかはわからんが。

 

「じゃあ行こうか」

「うん」

 

俺たちは駅構内に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

巣鴨から丸の内の最寄駅である東京駅に移動した。相変わらず東京駅は人が多い。これで乗降数は日本で8位ていうんだから驚きだ。

 

「人多いねえ〜」

「そうだな」

 

そう言いながら俺の横を歩く銀華がそう言う。ちなみに俺の右手は銀華の左手と指を絡める、世に言う恋人繋ぎで繋がれており、銀華は腕を組むように体を寄せてきている。最近、銀華と2人で出かけるといつものことなので恥ずかしさやヒス耐性もついていると思ったが、流石に人が多いところだとたくさんの人に見られて恥ずかしいな。

 

「夜ご飯どうする?」

 

銀華がそんなことを聞いてきたので、銀華の方を見ると……

 

「うお…」

 

近距離で銀華の上目遣いを見てしまい、驚きでそんな声をあげてしまう。女子、それも美人であるところの銀華の上目遣いは反則だぜ…

俺がここ最近成長期で身長がグンッと伸びたので、銀華との身長差ができ、それによって意図せず銀華がこちらを見上げるような上目遣いになってしまったわけだろうな。

 

「うお?魚ってこと?」

「……そ、そうだ」

 

銀華は自分のことを美人とは思っていないようだから、俺が銀華の可愛さに急に驚いたりヒスリかけても気づくことはあまり多くないことが分かっている。俺と一緒であいつもヒステリアモード持っているから、俺の女心が分からないのと一緒で男心わからないのかもな。

 

「じゃあ、魚料理ならこの駅に行ってみたい店があったからそこに行きたいんだけどいい?」

「いいぞ、高すぎなければ」

 

任務で今は財布に余裕があるとはいえ、あんまり高すぎると困る。

少しビクビクしながら、銀華に連れられ向かった先は……

 

「ここか…?」

「そうだよ。何か変だった?」

 

最近開店したと思われる回転寿司だった。まだ夕飯時には早いにもかかわらず少し混んでおり、俺たちは最後尾にならぶ。

一回、任務の打ち上げをするとかなんとか言って銀華のおごりで回らない寿司に行ったことある。そこは目玉が飛び出るような値段だったのだが、ここは見る限り駅構内にあるから少し高いと言ってもそこよりはだいぶ安い。金持ちの銀華がこんなところに行きたいというなんて夢にも思ってなかったぞ。

 

「どうせキンジは私が回転寿司に行きたいというなんて思わなかったんでしょ〜」

「………」

 

バレてるし…相変わらず自分自身のこと以外はズバズバ言い当ててくるやつだぜ…

 

「じゃあここでキンジ君にクイズです、ちゃらん!なんで私は回転寿司に行きたいと思っていたのでしょーか?制限時間は30秒です」

 

隣で右手人差し指指を左右に揺らしながらチッチッとカウントダウンの真似事をしているが、自由すぎるだろ銀華…

 

「ちなみに正解できたらここは私がキンジの分まで払うよ」

「まじか!」

「ちなみに正解できなかったらキンジが私の分まで払うんだよ」

「ちょっと…おい」

「残り20秒でーす」

 

どうしてこうなった…いや正解すればいいんだ。今までの銀華の行動や性格を考えれば…

 

「行ったことなかったから、知識を経験に変えたいっていうところか?」

「ピンポーン!正解!なかなかキンジも私のことわかるようになってきたじゃん」

 

簡単で助かった…こういうクイズを出すような子供ぽいところもあるんだよな銀華は。大人ぽいのか子供ぽいのかよくわからんやつだぜ。

少し待つと俺たちの番が来たのか店内に案内される。2人なのでカウンター席に案内されるかと思いきやテーブル席に案内された。テーブル席の方が気楽だしラッキーだったな。

 

この回転寿司はレーンの真ん中に何人かの板前が立っており、その人たちが握ったものをレーンに流すって仕組みぽいな。

でも周りを見てみると真ん中の板前に欲しいネタを注文してもいいようだ。流れてるものより握ってもらえる注文の方が新鮮だしいいんじゃないか?

そんなことを俺は考えていたのだが…

 

「……あー……!」

 

目をキラキラさせて銀華は寿司が流れるレーンを見ていた。こんな目をキラキラさせてる銀華はみたことないぞ…

 

「彼女さんは回転寿司は初めてなんですか?」

 

そんな光景をみて板前のお兄さんが話しかけて来た。もちろん彼女とは銀華のことだろう。

 

「はい、そうなんです。一度来てみたかったんですけどなかなか機会がなくて」

「彼氏さんがこういうところあんまり好きじゃないとか?」

「いえ。最初回転寿司行くならここがいいなあって。北海道から東京進出の第1店舗ですよねここ」

「よくご存知で」

 

銀華はお兄さんと仲良くなっており、俺だけ置いておきぼりだ。なんか疎外感感じる。

 

「ん?キンジどうした?」

「お前、相変わらずモテるな」

 

皮肉気味にそう言ったんだが…

 

「どうしてそう思うの?もしかしてキンジも私に惚れちゃった?」

「…………」

 

何も言い返すことができない。その返しズルくないか。

 

「でも嬉しいな。キンジにも独占欲あったなんて」

「?」

 

俺は銀華の言ってる意味がわからんかったがお兄さんはこっちを見てニヤニヤしている……なんなんだよいったい……

 

「じゃあお兄さん、しめ鯖お願いします」

「はい、しめ鯖一丁!」

 

そんな元気な声が店内に響き渡る。

そんな声をスタートの合図に銀華はレーンの皿を取り始めたわけだが、皿を取るわとるわ。成人男性が食べる量を大きく凌駕していてお兄さんも驚いているよ。そしてとても美味しそうに食べるもんだから、それを見た周りの客も同じもんを注文しているぞ。何かのCMにでも出たらどうだ。出たら出たでその婚約者として注目されるのも嫌だけどな…

 

 

満足した俺たちは、銀華のおごりで支払いを済ませ、夕方から夜になり暗くなった通りに出て、目的地に向かう。

俺と、腕と腕、手と手が縄みたいに絡み合ったようなスタイルで歩く銀華の足取りは、スキップまではいかないが軽い。楽しい気持ちを我慢できていないって感じだ。俺なんかと一緒に歩いて何が楽しいかわからんが、銀華の楽しい気持ちが俺まで伝わって来て俺まで楽しい気持ちになる。そういえばこんなこと前にもあったな。

今日はクリスマスイブなのでイルミネーションに向かうまでの道も結構混んでおり、色々な人とすれ違うんだがーー

銀華を連れてると、男も女もすれ違いざまに皆チラチラ振り返ってるのがわかる。

 

(なんというか、見る人みんなを虜にするっていうのかな……そういうのが銀華にはあるよな)

 

銀華が美少女だってことぐらいは俺でもわかる。銀華は男女区別なく、ただそこにいるだけで注目してしまう、そんなカリスマ性みたいな魅力を持っている。2年までクラスでも遠山って誰?みたいな扱いだった俺とは大違いだよな、まじで。

そんなルンルンな銀華と共に歩いて行き、小道から大通りに合流すると

 

「…っ…」

 

綺麗にライトアップされた木々が車道を挟んで二列にずらっと並んでいた。その道は思っていたより長くイルミネーションが続いており綺麗だ。

 

「……うわぁ……綺麗……」

 

横の銀華もそんな声を上げている、イルミネーションに負けないようなキラキラとした目で。

イルミネーションの光が銀華の銀髪に反射し、いつも見慣れているはずなのに、その姿に声を失ってしまう。

 

「ん?どうしたキンジ?」

「…なんでもない。この道歩くか」

「うん!」

 

そんなやりとりをしてイルミネーションが施された道を歩いているわけだが、妙にカップルが多いな。クリスマスイブはそういうものなのか?

 

「連れて来てくれてありがとう、キンジ」

「前…夏祭りの時に言ったしな。体験したことのないことやらせてやるって」

「よく覚えてたねキンジ」

 

嬉しそうにニコッと笑う銀華に

ドキッ!

不覚にもヒス性の血流を感じてしまう。

い、いかんぞ。そんな自然な笑顔。私服、化粧に加え、笑顔まで銀華に加わったらヒス性の役満、フルコンボだ。何か話しを逸らさないと…

 

「し、銀華。そういやお前、明日が誕生日だよな」

 

銀華と組んでいる方の逆の肩にかけたカバンを確認しつつ、話を変える。

俺と腕を組んでいた銀華は--

 

「…え。う、うん」

 

さっきまでのキラキラした態度から一転、ギクシャクした態度になって、こっちを見上げてきた。

ちょっと固まってほっぺも赤くしてるし。

なんだよ、そのテンションの急な方向転換。

まあ銀華がそんな様子になってくれたので、ヒス性の血流はだいぶ収まったのはありがたいな。

 

「キンジ覚えててくれたんだ…」

「まあな。お前の誕生日覚えやすいしな。クリスマスだし」

「あ、う、うん。ありがと…じゃ、じゃあ何かお祝いしてくれるのかな?」

 

銀華どうしたんだよ。目が泳いでるし、明らかに挙動不審だ。

 

「ああ、1日早いがハッピーバースデー銀華。これはプレゼントだ」

 

と俺はカバンの中からラッピングされたプリザーブドフラワーを、くっつくのをやめて腕から手を離していた銀華に差し出す。

それを両手で受け取った銀華は

 

「あ、開けてもいい?」

 

どっきん、どっきん。

という心音が聞こえてきそうな面持ちになった。

そんなに緊張しなくてもいいと思うんだがな。そんなに緊張されると気に入ってもらえないんじゃないかという思いから俺まで緊張するぞ。

 

「ああ」

 

俺がそう言うと銀華は邪魔にならないよう道の端っこに移動した後丁寧に包みを剥がした。中身を見た銀華は

 

「……綺麗。これプリザーブドフラワーっていうんだよね確か。これキンジが選んだの?」

 

赤面しながら笑顔を浮かべこちらを向いていた。照れ2割喜び8割といった感じだな。

 

「そうだ。あと悪いな、そんな高いものじゃないんだ」

「ううん。とっても嬉しいよ。プレゼントなんてそんなに貰ったことないから。誕生日プレゼントは初めてだし」

 

へえ、そうなのか。てっきりお前の求心力なら山のように貰っていると思ってたぞ。それに銀華の親はプレゼントをくれない人なのか?

 

「そうか。正直、何を送ればいいかわからなかったんだが気に入って貰えたか?」

「うん!それにキンジすごいね。直感だけでここまで来れるなんて。名探偵の素質があることを保証するよ」

「??」

 

銀華の言ってることの後半がよくわからなかったが、よくある話だ。それに名探偵はお前だと思うぞ。何回もお前の推理にこれまで助けられてるし。

 

「あ、そういえばキンジ」

「…なんだ?」

「キンジは神奈川武偵高じゃなくて東京武偵高に行くんだよね?」

「そのつもりだ。兄さんやお前に追いつく為にも腕を磨く必要があるし、寮もあるからな」

「私にも来て欲しい?」

「あ、ああ」

 

急に問われ、思わず答えてしまう。ていうか、よく知ってたな俺の進学先。銀華には話していなかったはずなのに。

 

「東京武偵高に行くということがわかるのは初歩的な推理だけどね」

 

俺の心を読んだようにそんなことを言ってくる。

 

「まあ推理の披露は置いといて……これからもよろしくねキンジ」

 

こちらに右手を差し伸べる銀華の背後ではイルミネーションが輝き、俺が送ったプレゼントの二輪の菊が銀華をさらに飾っている。

その姿は幻想的だった。

 

「ああ、よろしく」

 

俺はその手を取り握手した。

俺にとって最高の相棒(パートナー)で婚約者だよ、お前は。

 

 

 

 

 

でも、この時の俺は知らなかった。

銀華の本当の姿や力を--

 

 

GO For The NEXT!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第1章完
オリキャラをなるべく出さないようにしてたら銀華とキンジのデートシーンばっかりななって困りましたね(ネタ切れ的な意味で)

中学時代は5話ぐらいでぱぱっとやって終わりと思っていたら案外話数かかってビックリしました。
次回からはやっと原作メインキャラの登場です。

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