ヒスキンの口調と臭いセリフが難しすぎる…
第14話:再会と開放
3月の初め、冬の寒さが終わり暖かい陽気になる頃。今日は武偵高の入学試験日。
三年間(実際には二年間だけど)、袖を通した神奈川武偵中学の制服を着るのは今日とあとは年度末にある卒業式だけだね。
ちなみに武偵中の終業式・卒業式は、通常の中等学校より遅い3月末にある。春休みが短いように思えるけど3学期の後半からは『欠席消化』といって、出席日数がお上の目に止まった生徒しか出席しない。今のシーズンは仕事で授業に出られないことの多い武偵中生徒に与えられた、補習期間みたいなものらしい。
だから私もキンジも登校していないので制服を着るのは実に半月ぶりだったりする。
「よしっ」
部屋の姿見で服装が乱れていないことをチェックした私は拳銃2丁を太もものホルスターにナイフ、武偵徽章、武偵手帳をポケットに入れて、鞄を持って外に出る。
今日の登校は電車ではなく、
「銀華様、おはようございます」
「おはよう、アイ」
アイの運転する車で行う。私はアイが開けてくれたドアからマイバッハ62Sに乗り込み、アイの運転で東京武偵高の入試会場へ向かう。
私は朝早かったこともあり車の振動に眠気を誘われうつらうつらしていると
「ただいまレインボーブリッジを通過中です。もうすぐ学園島に入ります」
そんな忠告とも取れるアイのセリフが車内に流れる。どうやら結構長い間うつらうつらしてたらしい。
一つ伸びをして窓の外を見ると、そこから見えるのはレインボーブリッジの南側に浮かぶ大きな島。
あれが噂に聞く学園島だね。
確か南北およそ2キロ・東西500メートルの長方形をした
そんな学園島に私が乗る車が入っていき、コンビニやビデオ屋の脇を通り、台場に続くモノレールの駅をくぐって、秘密基地のような校舎の前に停車した。
ここが武偵高か〜。神奈川武偵中とそっくりだね。
そんなことを思いながら私が車から降りると、遠くにいる私と同じ他の受験生がこちらをみてくる。確かに、車で来るのは目立つかも。外車だし。
まだ余裕はあるけど、少し危ない感じだから早歩きで試験会場の目の前の校舎に入っていく。正面玄関の受付で受験票を提示した後に決められた教室に向かう。
私が受験するのは
「おいおい、もしかしてあいつって…」
「間違いない。銀髪であの制服、神奈川武偵中学のやつらがいっていた『
「銀髪ってことは……シルバーか!?シルバーの方が女子だったのか…てっきり俺はゴールドが女子で金髪縦ロールロリだと想像していたぜ」
教室に向かう廊下でそんな声が聞こえて来る。
出たよそのコンビ名。まさかここまで広がっていたとは…噂してる人たちが言ってる通り、私と同じ神奈川武偵付属中学の人たちが広めたんだろうね。
武偵の人たちは大体、情報を入手するのが早い。武偵は武装探偵の略、探偵である父さんをモデルに作ったもの。探偵と言うからには情報通でなくてはならない。
知っていても別におかしくないんだけど、あのコンビ名が広がっているってことをキンジが知ったら嫌がるだろうなあ。
『
それは私とキンジのことをさす。
『金』は遠山金次の金、『銀』は北条銀華の銀を合わせて金銀。私はフレンドリーなタイプだけど、キンジはネクラで極端な2人っていうことから双極ってことらしい。
で、個別にはキンジのことは金だからゴールド、私のことは銀だからシルバーって呼んでいるみたい。
なんでこれでパーフェクト・デュオって読むかは私も知らない。
キンジが初めてこのコンビ名聞いた時、厨二くせえ…と言ってこの名前を嫌っていたが、実は私はこの名前を気に入っている。
だって、かっこよくない?かっこよくないか…
と自分に問いかけ、自分で突っ込むことをしていると--
「だ、誰か!助けてください!」
そんな声が奥から聞こえてきて来る。
耳を澄ませば足音の数は5人。
どこやら女子生徒が何かに追われているらしいね。犯罪者がここにいるとは到底思えないし、もしかしてナンパってやつかな?
私もよくされるし、あれは困るよね〜。だからキンジと歩くときはなるべくくっつくようにしている。
べ、別にキンジとなるべくくっ付きたいからとかじゃないよ、うんうん。
同じ女子のよしみで助けてあげようと心に決め、声が聞こえてきた方向、つまり奥に向かい、角を曲がろうとすると
ドスン!
そんな音が曲がり角の先から聞こえてきた。
どうやら逃げてきた女子生徒と誰かがぶつかったみたいだね。
角を曲がって見ると、私の予想通りぶつかったのだろう、2人の男女が男の方が女を組み敷く形で倒れていた。
男子生徒に組み敷かれた女子生徒のスカートはめくり上がっていて、ギリギリ下着は見えていないものの、健康的で白い太ももが完全に露出してしまっている。
目つきはおっとり優しげで、まつ毛はけぶるように長い、大和撫子の典型のような端正な顔。日本人らしい長い艶々の黒髪が倒れた地面に広がっている。
そして一番目につくのは、そのプロポーション。胸は大きく、腰は引き締まっており、お尻も安産型で大きい。
いかにも気が弱そうだし、ナンパされるのもわかるね。
そして、その彼女を組み敷いている男子。
私はその人が誰かを知っていた。
私がそのことを確認した瞬間、体の芯が熱くなり、頭に血がのぼるのを感じる。
ああ…
これはどうあがいても………
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
アウトだ。
俺と曲がり角でぶつかったのは昔、青森にいた時に近くの神社に住んでいた幼馴染の白雪。
危なっかしいのは昔から変わってないよ。
まさかこんなところで出会うなんてね。
「おいおい、これがラッキースケベってやつか?」
ヘラヘラした声で、白雪を追いかけていたと思われる男たちの中の1人がいい、残りのメンバー3人がゲラゲラ笑う。
というかチンピラみたいな奴らだな。武偵高の受験をするからには少しはデキるようだが、試験を受けに来ているのにナンパするなんて底が知れている。
「お前もう十分楽しんだだろ。今からそいつは合格祈願として俺たちと遊ぶ予定なんだよ」
普段の俺なら4人相手には苦戦していたかも知れないが、あいにく今の俺は不幸な事故によりヒステリアモード。4人相手にも不覚を取らないし、怖がって涙目になっている白雪という女性を守るのは俺の役目だからね。
「じゃあまずは俺と遊んでもらおうかな」
その一言を合図に俺はヒステリアモードの優れた瞬発力で4人のうちの1人に距離を詰め
--ガスッ!
俺のアッパーがナンパ野郎の顎にクリーンヒット。漫画みたいに吹っ飛んだよ。
手は抜いたつもりだったんだが、もしかしてヒス俺の攻撃力、強すぎ……?
……やっベー……やっちゃったかな……
「な、なんだ!?お前!?」
残りの3人も青くなって震えているよ。
だが、武偵高を受験するとだけあって素手では勝てないと判断、得物を取り出すのは流石だね。防弾防刃制服を着てるけど、刺されたら先が尖ってるから痛いし、刺されたくはないね。まあ、今の俺にとってはそんなものオモチャみたいなものだけど。
「死ねやあああ」
ナイフを振りかざし突っ込んできた1人の攻撃をかわしながら、ナイフを取り上げる。
「???」
ナイフを取り上げられた男はなにが起こったかわかっていないようだ。まあ、分かりにくい技だけどさ。
俺が使ったのは
相手の携帯してる武器を両手ですり取る技だ。
俺はそれで奪い取ったナイフを捨てるところもなかったのでポケットに入れる。
もう一度今度は素手で突っ込んできた男の振り上げている右手を掴み、後ろに捻りあげる。そして首筋に掌底。2人目も床に沈んだな。
そして残り2人はその光景を見て、逃げようとしている。まあ明らかに戦力差があるけどさ。一人一人じゃなくて同時に突っ込んだらまだ分からなかったのに。俺としては白雪を助けたから逃がしてあげてもいいんだけど、俺の後ろから迫っている『銀色の流星』が許してくれなさそうなんだよね。
ビュンッ!
俺の耳元で何かが俺を追い抜き風をきる音がした後、その流星が同時に2人を蹴り飛ばし無力化した。
相変わらずの戦闘力だね、銀華は。惚れ惚れするよ。
「あれはシルバーじゃないか!?」
「ってことはあの神奈川武偵中学の制服を着た男子生徒はゴールド!?」
「やべえ、パーフェクトの揃い踏みだ」
俺たちの様子を遠巻きに見ていた俺たちと同じ受験生があの恥ずかしいあだ名を言っている。やめてほしいなそれ。銀華は気に入っているようだったけど。
そして俺と同じく噂されている銀華は、いつもの銀華に比べ様子がおかしい。
いつもはそんなことないんだが、今の銀華は超然的なオーラと殺気を振りまいている。
触れば切れる。そんな研ぎ澄まされた日本刀のような感じだ。
「銀華助かったよ。銀華の助けでそいつらを逃さずに済んだよ」
いつもならそんな銀華から逃げの一手なのだが、今の俺はヒステリアモード。女性に助けて貰ってお礼を言わないなんて、ありえないからね。
俺の声を聞き、こちらに向けた銀華の目を見て、
(……っ!………)
俺の足が--1歩後ずさった。全く無意識のうちに。敵対してないにもかかわらず圧倒されているってのか。このヒステリアモードの俺が。
そんな俺の様子を見た銀華は俺の足元で震えている白雪を一瞥した後、長い銀髪を翻し強襲科の受験生が集まる教室に入っていく。
俺の脳裏にはいつもの瑠璃色の瞳ではなく、紅色に染まった銀華の目がこびりついていた。
何度も「ありがとうキンちゃん…」としつこくお礼を言ってくる白雪を、ヒステリアモードの口のうまさでなだめ、俺のいうことを聞かせ自分の試験会場に向かわせた後、俺は強襲科の試験会場の教室に入る。
自分の受験番号の席に座り、前を向いたままぐるりとヒステリアモードの優れた感覚で周りの状況を取り入れるが、いるぞ。俺の左後ろに、目を瞑っていると思われる銀華が。
先ほどのように殺気を出してはいないが、来たるべき時のために鋭利な刃物を研いでいる。そんな感じがする。
(あれはヒステリアモード……か…?)
ヒステリアモードの直感が銀華のあれは同じヒステリアモードと言っているが、女性のヒステリアモードは弱くなるはず。だが、今の銀華は男性、つまり俺たちと同じように強くなっている。もしあれがヒステリアモードとしても、弱くなるノルマーレやリゾナではないだろう。また別の上位の派生系ヒステリアモードなはずだ。
今までにそんな兆候は……
……あった。
あまり思い出したくないことだから故意に忘れていたが、横浜女子校で俺が他の女子についていかないように忠告する時、またヒステリアモードが利用されていたということを問い詰める時、俺はどこか銀華にヒステリアモードと似たようなものを感じた覚えがある。
この二つに共通するのは俺が銀華以外の女性と接触するということだ。
そんな点と点が線で結ばれると--
『あんまり銀華を怒らせない方がいいわよ。特に女性関連で』
そんなカナの忠告が思い出される。
今までの二つはどちらも何かが欠けていた。
女子校の時は銀華は隣にいたが実際に会ってはいない未遂であるし、利用されていた時は実際にそういう行為をしていたとはいえ銀華は実際には見ていない。
しかし、今回の白雪との接触を銀華が見ているとすれば、「銀華のいる場所」で「銀華以外の女とそういう行為をする」という今までに揃ったことがなかった二つが揃う。
(開けかけたことはあっても一度も完全に開いていないパンドラの箱を、今度は完全に開けてしまったってことだな)
つまり今までの銀華が怒った時の怒りは俺でいう甘ヒス、今は完全なヒステリアモードというところだろう。
点と点が結ばれ、その線をヒステリアモードの頭で理解したと同時に、
「おらガキども!静かにせえや!これから試験を始める」
教室に試験監督と思われる先生がやってきて、第一声に怒鳴り散らした。その声は隣で本当の刃物を研いでいたやつやブツブツと念仏のように教科書で唱えてたやつの行動を止め、受験生一同は静まる。
さすが武偵高の先生、女の先生なのに威厳があるよ。背もすごく大きいし。
「試験内容はいちいちペーパーテストやるのもめんどくさいし、『バトルロイヤル』で合否を判断や。ルールは簡単、自分以外の受験生を全員捕縛か戦闘不能にすればいいだけ。ペーパーテストみたいなチンタラしたものより、わかりやすくてええやろ」
教育者としてはその発言はどうかと思うけど……いかにも武偵高ぽいよ。そして入学試験のバトルロイヤルなんて、武偵中学の入学試験を思い出される。
「今配ったプリントに書いてあるのが試験場所や。この建物は
前から回ってきたプリントを見るけど壊れる可能性あるんだね…まあ武偵の活動は場所を選ばないから、そういう意味も兼ねてるのだろう。しかしこの廃屋すごいな。どこで戦っても同じようなパーフォマンスが出せるような設計になってるぞ。
「時間制限はなし。弾薬は支給される
「はい、はーい。りこりん質問がありまーす」
怒鳴るようにして質問があるか聞いた教師に向かって質問したのは、フリルがたくさんついた服を着ており、長い金髪をツーサイドアップに結った、童顔の美少女。
小柄な体型だが女性として出るどころは出ており、全体的に柔らかそうな印象を受ける。
「罠とかも使ってもいいの〜?」
「殺傷武器でなければ何使ってもよし!あと協力したり逃げ回ったりするのは無しや。そんな奴がおったら後ろから撃ち抜くから覚悟しとき!他に質問は?なかったら早よ移動せい!」
そんな大声にほとんどの受験生は怯み、気圧されるようにしてそそくさと移動を始めているが
「ラジャー!!くふ、楽しみだね」
「………」
先ほどの理子と自分のことを言っていた女子生徒と銀華は全く気圧されていないようだ。
理子という生徒はスキップするように、銀華は何事もなかったかのようにスタスタと歩いていく。
「銀華」
俺がそう後ろから呼び止めると、紅の瞳を携えた顔でこちらに振り返った。表情は無表情だが瞳は怒りに燃えているのがわかる。
「その、すまなかった。こんな美しい婚約者をほっておいて」
シュッ!
俺が言い終わる前に俺の頭部を狙った銀華の回し蹴りが飛んでくるが、ヒステリアモードの反射神経でそれをかわす。
俺がかわすとわかっていたと思われる銀華は戦闘態勢を解く。
「御託はいい。この試験で私に勝ったら許してあげるから。でも、負けた時は」
銀華はもう一度教室の出口の方へ髪を翻し振り返りながら、
「あの女も潰すから」
そう言って、教室から出て行った。
次回は戦闘回になります。
理子、試験官、銀華との三連戦。さて無事キンジは生還できるのか。