哿と婚約者   作:ホーラ

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平和な日常回


第16話:東京武偵高

神奈川武偵中の卒業式が終了し、短い春休みに入った。今回の休みは特にイ・ウー側で用事もないし、東京武偵高の女子寮に引っ越しを行わなければならないなどいろいろ忙しかったので戻らなかったんだけど……

 

「ジリリリリ」

 

朝からイ・ウーと繋がっている秘密回線の電話が鳴る。

はいはい。聞こえてます。

こんな朝から誰かな。まったく時差を考えてほしいよ。まあ、私がどこにいるかは秘密なんだけど。

 

『グッドモーニング、銀華君』

って、父さんかーい。私がどこにいるか知っているんだから朝っぱらから電話は勘弁してほしいよ。

 

『早起きは三文の徳と日本でも言うんじゃなかったかな?』

 

思考を推理してきたね。まったくめんど…

 

『めんどくさいとはまた酷いね。これは推理の初歩の初歩なのに』

 

もう何も考えないことにする。

 

「それで何か用?父さん」

『いや、君の体質についてそろそろ話す時が来たんじゃないかと思ってね』

 

なるほどね。やっと私の体質について本当のことが聞かされるのか。

 

「私もある程度までは推理できたよ。今までHSSじゃないと思っていたけど違う。あれはHSSの一種だよね?」

『その通りだよ。君がそう推理した理由を聞かせてくれないか?』

「まず今まで私はHSSが1種類、ノルマーレしかないと思っていたんだよね。でも、金一義兄(にい)さんから聞くと色々な上位派生型があることがわかった。知らないことは推理できない、そうでしょ父さん」

『ああ、そうだよ。』

「そして、自分自身の感覚的なものもあるけど、キンジが関わると倍率が大きくなったり、父さんが私のこれを推理できないのを見るとHSSじゃないかと思ったんだよ。父さんは女性の心を推理することは得意じゃないからね」

 

電話の向こうで苦笑してる様子が伺えるね。まあ女性に対してデリカシーのなさイギリス代表になれそうだし。

 

『君が言うように、この話題は僕にとってあまり得意な話題じゃないから君のお母さんから聞いた情報をそのまま話すことになるが、君のその体質はHSSの上位派生系、ベルセと呼ばれるものだ』

「ベルセ……?」

『女性の場合だと自分の男性が他の女性に取られた、または取られそうと感じた時に現れるものだ。男性だと逆のようだがね』

 

この前のあれ、つまりベルセは今までにないぐらい高い倍率だったのは、キンジが関わってたのと実際にその行為を見てしまったからかな?

 

『女性の場合、男性と同じように中枢神経系が向上し、嫉妬という感情がトリガーとなっていて君はその部分はわかっていたわけだ』

「そういうことだったのね…」

 

今まで私は嫉妬する行為を思い浮かべ自発的にベルセを発動させていたんだけど、そういう仕組みになっていたんだね…

 

『女性のベルセは嫉妬の深さによって倍率が変わるのだが、一つ問題があってね。軽くベルセになるくらいなら多少攻撃的になる程度で何も問題がないんだが、この前君がなったように完全にベルセになってしまうと愛が満たされるか、嫉妬の対象を滅ぼすまで継続するみたいだね。君のお母さんにも手を焼いたよ。でも完全にベルセになってしまっても制御は一応できるみたいだからいろんな方法でためしてみたまえ』

 

まあ父さんは女心わかんないからね…私も男心わかんないけど…

ていうか私たちはやばい一族な気がするよ。

自分の男取られたらブチギレて、かまってちゃんになって取られた男を取り戻すか、奪った女を滅ぼすって完全に地雷女でしょ。

キンジに嫌われないように気を付けないと…

あとあそこまでいっても制御できるんだね。

どうやって制御するかいろいろ試してみなくちゃいけないなあ。

 

「教えてくれてありがとう父さん、あとどうしてこのタイミングなの?」

『銀華君が軽く暴走したのと、他にも言うことがあったからね』

「まあ否定はできないけど…他にもって?」

『大英帝国の至宝を郵便で送っておいた。次回イ・ウーに帰ってくるときに再びもって帰ってきてくれたまえ』

「なんで急に…」

 

大英帝国の至宝ってことはたぶんあの剣だよね。

 

『これは初歩的な推理だよ銀華君。この前出会った同級生のことを君は知っているだろう?』

 

星伽さんのことかな……彼女はキンジのことが好きそうだったんだよね…ということは衝突は免れないし、彼女の武器は色金殺女(いろかねあやめ)……

ああ、なるほどね。

 

「わかったよ。ありがとう父さん」

『うむ。頑張ってくれたまえ。僕はキンジ君との仲を応援しているよ』

 

そんな言葉を最後にイ・ウーとの通話が切れた。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

4月7日

4月に入っての初めての月曜日。

だいたいの学校はそろそろ入学式や始業式が始まる頃だ。

それは、奇抜な学校である東京武偵高でも例外ではなかった。

今、俺はワイシャツを羽織り制服のズボンをはき、東京武偵高の学ランを着ている。

そして現在地は、新しい学び舎、東京武偵高の前。

今、俺がここにいることやここの制服を着ていることから、合格したのは確かだ。

だが俺の気分は晴れない。なぜなら--

 

(Sランクっておかしいだろ!?)

 

合格してたことが嬉しかったのは事実だし、俺にしては珍しくガッツポーズまでしてしまった。だが、合格したということを銀華に電話した時に

 

「キンジ、ランク何だった?私はSランクで次席合格だったんだけど」

 

ということを聞かれ、俺は固まってしまった。

そう言われ、急いで合格通知書が入っていた封筒を確認すると合否の紙以外にももう一枚書類が入っており、それを読むと……

 

『強襲科 遠山キンジ 主席合格 ランクS』

 

とそれには書かれていた。

いやこれは世界に数百人しかいないSランクに選ばれたということで名誉なことなんだが…

しかし、これはヒステリアモードの俺であって素の俺の実力ではない。銀華を倒したのだって正攻法じゃないしな。あいつの体質を利用しただけだ。

そして入学早々Sランクなんて目立つに決まっている。俺はヒステリアモードのことを知る奴がいないところに行きたいのもあったが、あの大層なあだ名が嫌で目立ちたくないからこの学校に来たのに…

だが今更ランクを下げることはできないし、この結果は変えられない。

 

(結局、あの大層なあだ名はここでも広まってるし、東京武偵高(ここ)にきた意味は半分失われたな…)

 

と小さくため息をついていると--俺の後ろに黒い車が停まった。これ……マイバッハ62Sじゃねえか。ということは--

 

「おはよう、キンジ」

 

やっぱりな。後部座席から予想通りの人物、銀華が降りてくる。

 

「…おはよう銀華。もっと目立たないように登校できないかよ…」

「ごめんごめん。キンジの姿が見えたから、ついね」

 

これ以上注目されるのはゴメンだという風に銀華を注意すると、銀華も手をあわせて謝る。

まったく…自動運転する車なんてまだ発売すらされてねえんだぞ。現に近くの車輌科(ロジ)と思われる生徒なんて、それ見て目を丸くしている。自動運転に気づいていないと思われる生徒も、見るからに高級車らしい車から降りてきた銀華を凝視しているしな。

 

「それでこの格好どうかな?」

 

手を広げ、その場で一回転しながらそんなことを聞いてくる。この格好とは臙脂(えんじ)色のセーラ服、東京武偵高の制服のことだろう。この質問は褒めないと銀華が不機嫌になるのはここ3年間でわかっているので……

 

「似合ってると思うぞ」

 

褒めると、

 

「ありがとう♪」

 

と言って上機嫌になった。

大講堂までの道中、『〜〜♪』と鼻歌まで歌い始める始末。よ、良かった。

どうやら俺は、ノベルゲームで言うところの正しい選択肢を選んだみたいだな。

だんだん女子……というか銀華の扱いにも慣れてきた気がするぞ。

だいぶ散り始めた桜のアーチをくぐって--

俺と銀華は大講堂へと向かい、この学校初めての登校を果たす。さあ、入学式だ。

 

 

弾痕を縫ってごまかした跡のある緞帳を左右に開き、この学校の校長である緑松(みどりまつ)武尊(たける)校長が壇上に立っている。

 

「--武偵の武とは、(ほこ)を止めると書きます…」

 

この人が緑松校長か。

奇抜で変人揃いと言われている武偵高の校長であるというのに、何も感想が抱けない。あまりにも特徴がなさ過ぎて。

それが武偵業界で有名な緑松校長の怖さだ。

--通称、『見える透明人間』

よくあるSF映画みたいに光学的に消えるのではない。まったく別の、心理学的な技術による……人の記憶に残らない能力を持っているのだ。彼は。

見えるのに、見えない。記憶できない。意識できない。見過ごしてしまう。あまりにも特徴がなくて。

どうやってるのかわからないが一説には顔、動作、声、身体的なもの全てが日本人の平均を取っているから、この人のことは何度見ても記憶できないと言われている。だから「どんな人?」と聞かれても誰もが「えっと、男で…」となるらしい。

つまり、この人に狙われたが最後。

どこであっても、気づかない。気にならない。狙われてるから気をつけろと言われても気をつけようがないのだ。

そして、自分が緑松にあったことをしるのは撃たれた後ということになる。

そんな危険人物が校長なんかやってるなんていかにも武偵高らしいよな。

 

「皆さんは犯罪の戈を止める武偵として、日本の、そして世界の未来を守る……」

 

そしてこの式ゾッとさせられるのは校長だけじゃない。入学式の後には始業式が行われるので、大講堂の後方には上級生が陣取っているのだ。

2.3年にもなれば、武偵高生は大抵プロとして仕事をこなしていると聞いている。なので始業式は自由登校。事実半分ぐらいしか集まっていないのだが、ヤバいだろ、圧倒的存在感というか殺気。

3年生はプロの風格、2年生はそれの途中って感じだが、どの人もヒステリアモードじゃないと勝てそうにないぞ。

一般中から来てると思われる奴らはその雰囲気に感じ取れていないが、それに気づいてしまう武偵中学から来たやつは額に緊張の汗を浮かべている。何この戦場みたいな入学式。

(イヤだねー…俺たちもああなるのかよ、2年後には……)

社会にあふれる犯罪の戈を止める--武偵として、ああならなくてはいけないということだろうな。入学早々、早速勉強させられたぜ…

 

 

入学式と始業式が終わって大講堂から出る際、自分のクラスを確認して教室に向かう。

クラスは1-C。

同じクラスメイトには運がいいのか悪いのか、銀華と白雪もいた。

そして大講堂から銀華と一緒に教室に向かってるわけだが……

 

「注目されてるね、私たち」

「それが嫌でこの学校にしたんだけどな…」

 

その道中、俺たちを見て、ヒソヒソと話す奴が多い。ヒソヒソ声にはあの恥ずかしいあだ名、ゴールドやパーフェクトなども混じっているぞ。マジでやめてほしい。

 

(もと)はと言えば、お前が婚約者ってバラすからこんなことになったんじゃないか?」

「もしかして私が悪いって言うのキンジ?公にしなかったせいで、HSS(あれ)を利用されていたのはどこの誰だっけ?」

「…………」

 

図星を突かれ何も言い返すことができない。

なぜかわからないが、プンプンと擬音が聞こえてきそうな様子で銀華は怒ってしまう。俺を置いてくようにズンズンと進んでしまうので早歩きで追いかけると、1ーCの教室に辿り着いた。

先に1ーCに辿り着いていた銀華がそのままガラガラガラガラと教室のドアを開けると、

ワァァァァ!

と歓声が上がった。

そして瞬く間に銀華は囲まれる。

 

「私、ずっと銀華様のファンで」

「俺も神奈川武偵中の時から…」

「あのシルバーに会えて感動…」

 

やんややんやと男女構わず褒め立てられているぞ。というか、泣き出す子までいる始末。お前どこか宗教の教祖かよ。

俺なら困り果ててしまうのだが、そこは社交性カンストの銀華。泣いてる子の頭をぽんぽんしてあげたり、銀華のファンと思われる子に握手してあげたり、サインを求められたのでサインをプレゼントしてあげたりしているよ。この人気ぷりなら銀華のサインは高く売れそうだし、今度俺も貰っとくかとか。

そんな(こす)いことを考えながら、バレないように教室に入ると、

 

「キンちゃん!」

 

そう言って白雪がお世辞にも運動神経がいいとは言えない走り方で俺の前まで詰め寄ってくる。そういや白雪も同じクラスだったな。今さっきのことなのに忘れてたぜ。

 

「あの、その、お久しぶりです」

 

ぶん!と勢いよく頭を下げる。

 

「久しぶりって言ったら…久しぶりだな。あとその呼び方やめてくれって昔言ったろ」

「あっ……ごめんね。でも私、キンちゃんのこと考えてたから、キンちゃんを見たらつい、あっ、私またキンちゃんって……ご、ごめんね、ごめんねキンちゃん、あっ」

 

白雪は顔を上げ見る間もなく蒼白になり、あわあわと口で手を押さえる。

その様子を見て俺は頭を抑えた。

…文句を言う気も失せるな。というかこの慌てっぷり、こいつ大丈夫なのか?

あ、そういや、大丈夫って言われ今思い出したが、白雪に聞きたいことあったんだよな。

 

「白雪、お前星伽から出て大丈夫だったのか?」

「う、うん。星伽から許可は貰ってるよ。でも私これが星伽から出るの初めてで不安で」

 

やっぱりちゃんと許可は貰っているのか。

そして箱入り娘だった白雪が青森から東京に上京してきたら、こうなってしまうのも仕方ない。

しょうがないが…しばらくの間フォローしてやるか。

 

「やあ、お取り込みのところすまないね」

 

そんな声が横からかけられる。そちらに目を向けると目の覚めるようなイケメン面の男が話しかけてきていた。優男スマイルがよく似合う奴だな。

 

「まずは自己紹介からかな。僕は不知火亮。君や北条さんと同じ強襲科だよ。遠山君」

「なんで俺の名を知っているんだ?」

「君たちのことはポピュラーな噂だからね。1年でSランクなんて片手で数えれるぐらいしかいないんだよ。それに君と北条さんのコンビ名はここでも有名だからね」

 

そうかよ…

 

「何何?私の話してるのキンジ」

 

ファンサービスを終えた銀華は、自分の話題が出てるのを聞いていたようで、俺たちの会話にの首を突っ込んでくる。というかさっきまでの怒りはどこにいったんだよ。まああのままずっと怒ってても困るんだけどさ。

 

「君があの有名な北条さんだね」

「うんそうだけど貴方は?」

「ああ、すまない。僕は不知火亮だよ」

「不知火君ね。よろしく」

 

不知火は女性が誰でもクラッと来そうなイケメンスマイルを浮かべているが、対する銀華は………ん?長年付き合って来た俺しかわからないとは思うが、少し不知火を警戒しているな。なんでこんなイケメンでいい人そうな奴を会ってすぐ警戒するかよくわからないが。

 

「話を戻すけど強襲科では君たちの話題はポピュラーだよ。2人あわせて抜き打ちの試験官5人も倒したってことで話題になってる」

「キンジも2人倒したんだね〜知らなかったよ、流石主席合格」

「主席合格は今関係ねえだろ…っていうか合計5人ならお前は3人倒したってことじゃねえか!」

 

そんな言い合いをしてる俺たちを見て不知火は「あはは」と笑う。そんな様子に言い合うのもアホらしくなった俺たち…というか銀華は人見知りでモジモジしている白雪に声を掛ける。

 

「初めまして、星伽白雪さんだよね?」

「は、初めまして。ど、どうして私の名前を?」

 

人見知りなのでおどおどしながらもしっかり挨拶するところが8人姉妹の長女、真面目な白雪らしいな。

 

「俺が教えたんだよ。入学試験の帰りに」

「キンちゃんが?」

 

そういえば、白雪は知らなかったんだな。

 

「俺と中学1年から一緒の学校からの相棒の北条銀華だ」

「よろしくね、星伽さん」

「あ、あいぼう……?」

 

なぜだ。

なぜただ銀華を紹介しただけなのに白雪の雰囲気が怖いものに変わってる気がするぞ。横の銀華は余裕の笑みを浮かべているしなんなんだこれ。俺を挟んで俺のわからない戦いをやるのやめてくれよ…

 

「あの、キンちゃん…北条さんとはどうい…」

 

白雪が俺に何かを聞こうとしたようだが最後まで言い切る前に、

 

「りこりん、ただいま参上!」

 

突然扉を勢いよく開けはなち、なんか変なポーズを取っている理子が現れた。理子が現れたことによるワー!という歓声にビビり白雪の声はキャンセルされたわけだ。

現れた理子の制服はなんだそれ…やたらヒラヒラなフリルだらけの服じゃねえか。たしか、スィート・ロリータとかいうファッションだっけかそれ。

そんな姿を俺は馬鹿だなあという風に見ていたのだが、横の銀華はなんだ…?

信じられないものを見たという顔をしているぞ。

 

「銀華どうかしたか?」

「ううん、なんでもない。これは推理しとくべきことだったね」

「?」

 

なんか銀華は後悔してるようだったがよくわからん。多分聞いても教えてくれないだろうし、ほっておくか。

 

「あ、キーくん発見。おっはよう!」

「キーくんって…だからなんだよそのあだ名…」

「遠山君と知り合い?随分と賑やかな人が来たね。一応自己紹介しとこうかな。僕は不知火亮だよ」

「知り合いってほどでもないんだが…」

「不知火ってことは…ぬいぬいだ、ぬいぬい!」

 

なんだこのテンションの高さは。白雪だけじゃなく不知火まで若干飲まれ気味だぞ。そんな理子に対して

 

()()

 

と銀華が一声掛けると、その声で理子の動きが止まる。

そして恐る恐る銀華の方に振り返っている。

なんだ?今の銀華は怒っていないはずだが…

だが、そちらをみて安心したのかすぐに再び元に戻った。

 

「…ふーむ、君がウワサの北条銀華だね!」

「そうだよ、よろしくね理子」

「うーん、銀華(しろは)だからしろろんだ」

「ちょっと可愛らし過ぎない?」

「えー、いいじゃん。しろろん可愛いんだし」

「ありがと」

 

可愛いと言われて照れたのか上目遣いで理子にお礼を言う銀華だが、その様子はとても愛らしい。

 

「くはー、その上目遣いのお礼ずるいよしろろん。もしりこりんが男だったら今ので落ちてたね。キーくんもそういうところに惚れたんでしょ」

「あ、ああ」

 

……って、何本当のこと言ってんだ俺!

いきなりのことだったから、つい言っちまったぞ!完全に自爆じゃねえか。

 

「やっぱりねー!ひっかかった!ひっかかった!キーくんとしろろんが婚約者同士って話の確証はなかったけど、裏付けが取れました。やっぱりキーくんとしろろんはラブラブチュッチュッの関係なんだ」

 

ラブラブチュッチュってなんだよ…と俺は思うのだが、馬鹿が集まることで有名な武偵高。それを聞いて大盛り上がりだ。

「パーフェクトが婚約者同士だったなんて」「あの噂は本当だったのか!」「あのシルバーと婚約者同士なんてうらやま…許せねえ!」

…というか盛り上がりすぎだろ…

その当人の銀華は照れているのか顔を赤くして完全に沈黙。ヒステリアモードの俺以外に銀華をこうさせた奴初めて見たぞ。もしかしたらこの前の入学試験を思い出してるのかもしれないな……

…っていかんいかん!銀華の唇の感覚を思い出してヒスっちまう。

そんな俺の思考がーー

しゃきーん!

中断させられた。近くで刀を抜く音で。

 

「キンちゃん様と、ラブラブチュッチュなんてうらやまけしからんううううううェッ!」

 

ぐわっと近くから謎の熱風が吹いてくるような錯覚が俺を襲う。油が切れたロボットのように声の方を向くと、声の主は思った通り

 

「…し、白雪ッ……!」

 

全身から立ち上るどす黒いオーラを纏いながら青光りする日本刀を構えている。

一体どこにスイッチがあるのかしらんが、白雪は昔からときどきなぜか鬼神のようなバーサーカーになることがある。こういう時はなぜか大抵俺の周りにいる女子が攻撃を受けるのだ。

 

「ま、待て!落ち着け白雪!」

「キンちゃんは悪くない!キンちゃんは騙されたに決まってる」

 

そう言って白雪は大上段に日本刀を構える。

その光景に武偵高のクラスメイトでもドン引きで、逃げることすら忘れている。ただ1人を除いて。

 

「キンジは騙されてないよ。ねーキンジー」

 

そんな白雪にビビらなかった銀華は白雪を挑発するように、俺と腕を組んだが、これ微妙に俺のこと盾にしてませんかね。

 

「う、うらやまけしからああああたん!この泥棒ネコ!き、き、キンちゃんをたぶらかして汚した罪、死んで償え!!」

 

俺は汚れてなんかいないしなんだその罪は!?

(ーー!?)

そこでさらに俺は--

自分の側から立ち上り始めた--

第二のドス黒オーラにハッと気づく。

 

「言ってくれるじゃない」

 

この前ほどじゃないにしても、怒った様子で白雪を睨みつける銀華は

……わさ……ぁ……

と、長い銀髪を広げていく。

そして瑠璃色の目の片方、左目が、この前と同じ紅色に変わっていく。ガチギレするとこの変化が両目になるんだな覚えておこう。

そんな怒った王蟲みたいな現象にビビりまくる俺だが……

 

()()私を殺す?やれるものならやってみなよ」

「キンちゃんどいて!どいてくれないと、そいつを!そいつを殺せない!」

 

白雪はものともしていない。まあ銀華も白雪にビビっていないからどっこいどっこいなんだが…

 

「ねえちょっとキンジ耳かして」

 

と囁くポーズを取るから

 

「なんだよ」

 

耳というか頭を銀華の顔に寄せたら--ちゅっ。頰にキスされた。

 

「……っ……」

「うおおお、本当にラブラブチュッチュの関係だ。理子見ちゃったよ見ちゃった!」

 

その様子を見たクラスメイトは大盛り上がりだ。俺を呪うような呪詛の声まで聞こえるが、今はそれどころじゃない。

 

「し……C……シィェェェェェェェェェェェッ!」

 

謎の絶叫とともに日本刀をブルブルブルルル!と震わせた白雪が……カッ!

己の中の何かが覚醒するように両目をカッ開いた。怖え!

桜色の唇が、痙攣して震えるようにぴくぴくと動いて…ああ、読唇するんじゃなかった。コ・ロ・スと言ってますよ。もう怒りのあまり声出てませんけどね。恐ろしさのあまりヒス性の血流も引いたよ。

 

「人の世にはしていい事と悪いことがありますッ!そんなうらやまハレンチな行為するなんてうらやま許せません!」

 

教室で日本刀ふりまわすのはしてもいいことなのかよ白雪!

 

「けっ…決闘ですッ!決闘なら事故死もありえるッ!抑抑(そもそも)遠山家の安寧を確保し、もって日の本の平和に寄与するためこの決闘、(まこと)に已むを得ざるものあり!」

 

ギュッ!と日本刀のつかを握り直し、炎を吐くように叫んだ白雪は

 

「し、ししししししッ、銀華!あなたに決闘を申し込みます!キンちゃんの()()()として、決闘を申し込みますぅぅぅぅぅッ!」

 

銀華にそういった申し込みをする。そんな挑戦状を叩きつけられた銀華は

 

「いいよ、受けるよその決闘。キンジの()()()としてね」

 

売り言葉に買い言葉。いつの間にか瑠璃色に戻った目でそう答える。婚約者という部分に大きく反応した白雪は

 

「天誅うううううううううッ!」

 

大声でそんなことを叫びながら、日本刀を振り上げ銀華、つまり俺のいる方へ迫ってきた。

そして銀華の脳天めがけて刀を振り下ろした!あ、ありえん!

これ本気で()る気だぞ!

 

「よっと」

 

俺の腕を逃すように突き飛ばしながら離した銀華は、

ばちいいいいいいいいいっ!

白雪の日本刀を、左右の手で挟んで止めた。

(し、真剣白刃取り!)

できるとは聞いていたが使用されるのを初めて見た。

流石銀華だな。

って感心している場合じゃないだろうよ。

 

「ほいっ」

 

刀をホールドしたまま銀華は、ばっ!ドン!飛び蹴りで白雪を吹き飛ばした。机や他の人がいないところに吹き飛ばすのが、優しい銀華らしいがそんなことよりも………

 

どうしてこうなった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うん、平和だな!

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