哿と婚約者   作:ホーラ

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北条+原作イベント消化回

注意:歴史改変


第18話:木こりの決闘(ランバージャック)

「……嘘……だろ…?」

 

キンジがそういうけど、私もそう言いたい気分。まあ、キンジ自身は遠山の金さんの子孫なんだけどね。

 

「星伽さん。源頼朝、つまり北条政子の血筋は途絶えてるはずなんだけど、私が北条政子の子孫ってことは本当なの?」

 

北条政子の2人の娘は病死、頼家、実朝は暗殺されているはず。普通なら私が北条政子の子孫なんてありえないよね。

でも、相手は2000年の歴史を誇る星伽神社の緋巫女。ということはつまり………

 

「文献上はそうなってるんだけど違うの」

 

本当だよね。他の人が言うなら眉唾ものだけど、星伽さんが言うなら信憑性があるよ。私の勘も正しいと言っているし。

 

「キンちゃんのご先祖様に加藤景員(かげかず)っているでしょ?」

「あ、ああ…」

「景員の息子には加藤景簾(かげかど)がいるの。遠山氏祖の遠山景朝(かげとも)の父親なんだけど…」

 

キンジの先祖のことは自身の口から中学の時に一度聞いている。

キンジ曰く、加藤景員は平安末期から鎌倉初期にいた遠山家の先祖。景員が源氏に味方して戦っていたらしい。それは遠山氏祖の遠山景朝の二代前。星伽さんはその間の景簾のことをどうやら言いたいみたい。

 

「景簾はね、源実朝を警備する任務についていたの。そしてキンちゃんや銀華さんも知っての通り源実朝は鶴ヶ丘八幡宮で襲われちゃうんだけど…。文献には死んだと書かれているんだけど、それは星伽がそうするように頼んだの。星伽が……お医者さんとかに死んだとするようお願いして…」

「星伽が?」

「うん。星伽は源実朝の母親、北条政子に恩があったから…」

「それで、本当の実朝は…?」

「実際の実朝は重症を負ったけど一命は取り留めたの。護衛の景簾が実朝に重症を負わせた『公暁』を返り討ちにした後、必死に治療してね」

 

本当は実朝が生きていたという事実を聞くと、私が北条政子の子孫っていう説もまだ信じられるね。シャーロック・ホームズと北条政子の子孫なんて異文化統合甚だしいけど。

 

「助けてもらった実朝はどうなったの?」

「もう一度命を狙われるのを嫌った実朝はあえて死んだことにして、表舞台から姿を消したの。それを知ってたのは実朝を保護した加藤一族と実朝を死んだことにした星伽、それと数人のお医者さんだけ」

「………」

「そして実朝は新しく姓を母方の北条に変えて、わざと文献から消された景簾の娘と新しく結婚したの。その子孫は遠山家と親戚同士だから仲が良かったんだよ」

 

血が繋がってるからそうだろうね。あの時代は血より地の繋がりを大事にしていたけど、そう簡単に同じ血族と戦えるものじゃないからね。どうしても情が湧いたり好意的になってしまったりする。

 

「そこからキンちゃんの遠山家と銀華さんの北条家は婚約結婚を繰り返して、二つの家には時に星伽を助けてもらってるの。これが私が知ってる北条さんの先祖の全てです」

「だから白雪さんは私の苗字が北条で北条政子の子孫っていうことがわかったんだね」

「うん」

 

そう考えると納得がいくことが多いね。キンジと初めてあった時、女側の私が招待する仕組みだったのって、匿ってもらってる実朝が宴会を開けるわけがないというところからとったのだろう。他にも12歳婚約者発表とかは武士の世界では12歳での婚約は多々あったから。

 

 

「そ、それでね銀華さん。き、キンちゃんを宜しく御願いしますッ!」

「うん、わかったよ。キンジも私に愛想尽かされないように頑張ってね」

「お、おい…!」

 

星伽さんと私の第一次キンジ戦争は和平で幕を閉じたね。武偵中も面白かったけど、なかなか武偵高も面白いよ。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

キンちゃんと銀華さんの2人が決闘した広場から帰った後、私は決闘に巻き込まれていない、壊れずに残ったベンチに座り込んでいた。

東京湾から吹き付ける潮風が動いた後の私にとっては心地がいい。

 

(やっぱり……キンちゃんには銀華さんだなあ……)

 

さっき言った、キンちゃんが昔と変わって明るくなったのは見ての通り。それが銀華さんのおかげということもわかる。代々キンちゃんの家と婚約していることを抜いても、恥ずかしがり屋でおどおどしている私が、海に飛び込んでまで色金殺女(イロカネアヤメ)を取ってきてくれた優しく明るい美人な銀華さんに勝っているところなんて一つもない。銀華さんはキンちゃんのことを信頼しているようだったし、その逆も然り。

私は恐れていた。いや、現実を受け止めたくなかっただけだ。遠山家と北条家が結ばれるのはだいたい半分の確率。キンちゃんのお父さんは北条家からお嫁さんを取っていないから、キンちゃんの代では北条家からお嫁さんを取ることはわかってた。心のどこかでわかってた。それから目を背けていただけだ。

でも……でも、キンちゃんに対しての恋愛感情は捨てきれなかった。

しかし、それは今日まで。

キンちゃんは銀華さんと結ばれなければ()()()()

遠山家の男は北条家の女を娶る時、最高の力を発揮すると星伽では言われている。

キンちゃんに頼るつもりはないけれど、もしかしたら頼ることになるかもしれない。

私の『占』によれば、近いうちに緋緋色金の適合者がこの東京に現れる。それも高い確率で2()()も。緋緋神を止めるのは星伽巫女である私の役目だけど……それを止められる自信は……ない。

もし私が1人で止めれなかったった時、キンちゃんや銀華さんの力が必要になる。

 

星伽巫女

遠山侍

北条姫

 

私、キンちゃん、銀華さんが同学年なのは奇跡に近い。それは何か仕組まれていたとしてもおかしくないレベル。

昔からこの3家で緋緋神に対抗してきた。それは今も昔も変わらない。

星伽は緋緋色金を守っていると同時に、『遠山と北条』という二つの家の関係も守っている。簡単にいうと遠山と北条の仲を保つ役割。今の所心配はないけれど…

 

(銀華さん以外の、キンちゃんに近づく悪い女は斬らないと…)

 

私はそんなことを考えながら、すっかり暗くなった空を見上げた。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

銀華と白雪の決闘があった次の日。

俺には珍しく早めに登校したんだが……

 

「おはよう、キンジ」

「銀華おはよう」

 

銀華がもうすでに自分自身の席に座っていた。まだ誰も来ていない教室で目を閉じて、何か考えごとをしていたようだ。

 

「何を考えていたんだ?」

「何を考えていたと思う?キンジも武偵なんだから推理してみてよ」

 

にっこり笑いながら人差し指を口の前に立てて聞いてくるが……お前じゃないんだから何考えてるかわかるわけないだろ…

 

「昨日のことか…?」

「正解。なかなか私のことわかるようになってきたね」

「まあな」

 

笑顔で銀華はそう言ってくるが、完全にまぐれだしそのことは黙っておこう。

 

「そりゃ、いきなり北条政子の子孫とか言われたら驚くよな」

 

教室には誰もまだきていないのでそんな風に銀華に声をかける。

 

「そうだね。驚いたと同時に納得いく部分も多かったけどね。私とキンジの関係とか」

「まさか俺の幼馴染の白雪のご先祖様を銀華のご先祖様が助けていたとはな。狭い世界だぜ」

 

そして銀華のご先祖様を助けたのは俺のご先祖様。

世界は広いようで狭い。

 

「ねえ…キンジ。私が北条政子の子孫ってことでどう思った?」

 

返答に困るような質問を訊いてくる。ので、

 

「驚いたが何にも思わなかったぞ、銀華は銀華だろ」

 

俺はお得意の生返事。

銀華はその生返事を聞き、不服そうな顔を一瞬したのだが---俺の後ろ、教室の入り口の方を見て顔を綻ばせた。

なんだ?と思い後ろを振り返ると……

 

「お、おはようございます、キンちゃん。銀華さん」

 

そこにはぺこりと俺たちにお辞儀する白雪。

昨日までの銀華とのガンの飛ばし合いからは考えられない現象だ。

 

「おはよう」

「星伽さん、おはよう」

 

銀華も笑顔を浮かべながら俺の前で挨拶している。

銀華と白雪が仲良くなることはいいことだ。2人は同じクラスにいるだけのクラスメイトにすら心的外傷後ストレス障害(PTSD)が残るレベルの殺気を放っていたから、当然それに巻き込まれた俺も胃が痛かった。

それがあとぐされなく一番いい形で解決したのは、流石銀華の対応力といったところ。あの人見知りの白雪と友達になるっていうのは、昨日のにらみ合いからは考えられなかったぞ。

そんなことを考えながら2人を見ていると、こちらを向いていた白雪が気づいた。

 

「キンちゃん……あの……どうしたの?」

「いや、なんでもない。というかその呼び方やめてくれ」

 

入学して二度目のやりとりだ。

なし崩し的に昨日までは呼ばせていたが、あの殺気を放ってる状態では指摘できるわけがなかったからな。

 

「ご、ごめんね、ごめんねキンちゃん、あっ」

 

あわあわと慌てふためく白雪。

もうすでにいつものおきまりのパターンと化してきたぞ…

 

「別に、キンちゃんでもなんでもいいじゃない。私なんて理子にしろろんって呼ばれてるんだよ」

ブルータスお前もか…銀華が白雪を援護し始めた。

 

「あいつは別だろ」

「じゃあ私もキーくんて呼ぼうかな。ね、キーくん」

 

じゃあってなんだよじゃあって………そして妙に可愛いいのがなんかムカつくぞ。

キンちゃんでも気恥ずかしく、そう呼ばれる歳ではないと思ってるのに、キーくんなんて尚更だ。

 

「じゃあ、俺はお前のことを『しろろん』って呼ぶけどいいのか?」

「別にキンジが私のことをなんて呼ぼうと気にしないけど」

 

いいのかよ……

 

「だから星伽さんがキンちゃんって呼ぶのも許して上げなよ」

「お、お願いします!」

 

銀華がそういうとその横で白雪が涙目になりながら俺に頭を下げる。

これはまるで俺が白雪を虐めているように見えなくもないぞ…

そんなことを思っていると

ガシャッ!

と廊下で何か荷物が落ちるような音がした。

その荷物を落とした張本人、大柄なツンツン頭の男が1-Cの教室に入ってきて…

 

「遠山キンジ!!俺と決闘だ!!」

 

そう叫んだ。

一難去ってまた一難。

神様、俺への慈悲はないんですか……

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

なんかいきなり大変なことになったね。

今度はキンジが決闘することになるなんて…

キンジに決闘を宣言した男性--武藤剛気とキンジの主張は平行線を辿っている。

 

「だから、なんで俺が決闘しなくちゃならないんだ」

「何回も言ってるだろ!星伽さんをお前が泣かせたからだ!」

「それは俺と白雪との問題で、なんでそれでお前と決闘しなくちゃいけないんだよ。意味わかんねえ!」

 

さっきから2人はずっと同じようなことしか言ってない。

武藤君は確か車輌科(ロジ)のAランクで重度の乗り物オタクって情報しか知らないね。

 

ちなみにキンジと同じく、なんでキンジと武藤君が決闘しなくちゃいけないのかわからない。少し整理してみよう

 

・星伽さんが涙目でキンジにお願いするところを武藤君が見る

・その後武藤君が教室に入ってきた

・そしてキンジに決闘の宣言をした

以上。

…………ダメね。

分からない。

なんで武藤君が星伽さんのことでキンジに決闘を仕掛ける理由が全く分からない。

現に星伽さんも2人の近くでオロオロしてるし。

私がウンウンと理由を考えていると不知火君が教室に入ってきた。

 

「おはよう、北条さん。星伽さんとの決闘は終わったのかな?」

「不知火君、おはよう。よくわかったね」

「昨日までと雰囲気がまるで違うからね」

 

いやー昨日までそんなに殺気出してたのかね?そんなつもりはなかったんだけど。

 

「ねえ、不知火君。武藤君が白雪さんを泣かしたからって決闘をキンジに申し込んでるんだけど理由わかる?」

「……え?」

 

不知火君はイケメンな顔に驚愕の表情を浮かべる。心底驚いたという顔をしてるけど、そんなに驚くことかなあ。

 

「と、遠山君も相当だったけど、北条さんも相当鈍感だね。いや……もしかしたら似た二人だからこそ上手くいってるのかも」

「…………」

 

鈍感って…ひどい言われようだけど否定ができない。父さんが女心わからないように、私も男心ほとんどわからないんだよね。

 

「あれ止めた方がいいのかな?」

「もう少ししたら蘭豹先生が来るしね。北条さん頼める?」

 

ニコニコ笑顔で不知火君は言うけど、まったく食えない人だね。

確かにクラスメイトは続々と登校してきてクラスの注目を集めている。

星伽さんには止めに入れそうにないし、他のクラスメイトは全員無関係だし…仕方ないなあ。

 

「はい、ストップストップ」

 

二人に歩み寄りながら、私がそう声をかけ注目を集める。

 

「もうすぐ蘭豹先生が来ちゃうから、話をまとめないと」

「こいつが意味不明な因縁をふっかけてくるからどうしようもないんだが…」

「意味不明ってなんだ!何度も説明してるだろ!」

「だからその説明内容が意味不明なんだよ!」

 

私の目の前で再びエキサイトしだす2人。

それを見た私は

ドンッ!

床を踏みならしながら2人に対して殺気を飛ばす。

 

「静かに聞いてね?」

「「……………」」

 

やればできるじゃん。

 

「ここは武偵高なんだから、やりようはいくらでもあるじゃん。気に入らないなら実力で決着をつける。私たちみたいにね」

 

星伽さんを見ながら私はそう言う。

 

「だけどな銀華。俺にはやる意味がないぞ」

「長い時間言い争うのとパパッと決闘で済ませるのだったら、決闘の方がいいでしょ」

 

私も星伽さんとあとぐされ無くしたいから決闘を選択したわけだし。

まあ大体の戦闘内容は推理できていたから、昨日の決闘は戦闘というよりはお芝居だったけど。

 

「……わかった。決闘を受ける」

 

キンジが承諾したのを見て、言い争っているうちに登校してきた生徒は「うおおおお!」といった感じに盛り上がる。

 

「りこりん、決闘だったら面白いルール知ってるよ、知ってるよ!」

 

理子が湧いてきた。理子と東京武偵高(こんなところ)で会うとは思わなかったよね。最初すごくびっくりしたよ

 

「おはよう理子。それでどんなルール?」

「ランバージャック!!」

「面白そうだしそれでいいか」

 

キンジは嫌そうな顔をしているね。

ランバージャック--元はアメリカの木こり(Lumber)たちがやっていた決闘方式をアレンジしたものである。

そのシステムは単純といえば単純。まず防弾制服の武偵たちが点々と円を描くように立つ。これをリングと呼ぶ。

このリングで決闘者たちを取り囲み、逃げ場を与えず戦わせる。

そうして片方が敗北を認めるか、動けなくなったら終了。基本はこれだけ。

まあこのルールには附則があるんだけど…

 

「ランバージャックか。いいぜ。降りるなんて言わねえよな遠山」

「俺も男だ。勝負を受けた以上降りるとは言わない」

 

キンジかっこいいじゃん。見直したよ。

そんなHSSになってないのに不意にかっこいいシーンを見せられたせいで……

きゅん

体の中心、中央、真芯……お腹の奥が、きゅんってしだして……

やばい、今のでHSSが発動し始めた。

昔だったら完全に発動しちゃただろうけど、ここ三年で成長した私。これぐらいだったら血流操作で抑えられるッ!

目を閉じて素数を数え血流が鎮まるのを待つ。だんだんHSSの血流は収まっていき….

危なかった、なんとかHSSの発動を抑えられた。

まったく……唐突にかっこいいシーン見せるのやめてほしいよ………

 

 

 

そして、放課後--

理子はいい場所を知っているね。あまり目立たない一般校舎の裏。私と星伽さんの決闘もここでやればよかったと一瞬思ったけど、私のエクスカリバーと星伽さんの色金殺女で校舎を切り捨てて破壊しそうだから公園でよかったかも。

 

「今回のルールは徒手格闘!時間無制限で道具使用も一切なしだよ!」

 

理子がリング役並びに進行役としてルール説明を始める。

 

「キーくんの幇助者(カメラート)は当然ラブラブのしろろんでしょ?」

「ああ」

 

幇助者とは『1手だけ手助けしていい助太刀』の事。通常は決闘の膠着を防ぐために横槍を入れたり、もう勝敗が明らかな状態で過剰攻撃が行われていたら割って入って負けを認める係のこと。

 

「ヘッ!パーフェクトの2人が相手なんて上等だ。俺の幇助者(カメラート)は、一石頼んだぜ」

「相手の幇助者がSランクだったら、こちら側も同じにするべきだからね」

 

武藤君の幇助者は一石雅斗。私たちと同じ1-Cで私やキンジと同じSランク。強襲科・狙撃科・車輌科を掛け持ちしていて、勉強もこの三日間見た限りできる。

洒落っ気はない人で体格も大きく、先ほどの発言の通り、真面目だ。

武藤君も同じ車輌科だけあってなかなかいい人を幇助者に選んだね。

 

「あ、そういえばキンジ。リゾナ使う?」

 

手で口を隠しながら耳元でキンジに声をかける。手で口を隠しているのは読唇術で読まれないようにするため。

 

「こんな大衆の面前であんなことできるわけないだろ………」

「聞いただけだよ。頑張ってねキンジ」

 

応援してるよという意味も込めて人差し指でキンジの頭をコツンと突き、キンジから少し離れる。

なんかリングの生徒の殺気が増した気がするけど、多分気のせいだよね。

さて、どうなるだろう。キンジ結構私の技も使えるようになってるから、HSS抜きにしてもBかAランクはあると思うんだよね。

強襲科と車輌科で同じAランクだとしても戦闘能力は強襲科の方が格段に上。案外すぐ終わっちゃうかも。

そんなことを考えている間に2人はリング中央で向かい合っている。

 

お互いの闘気が周りに満ちて、物音一つしなくなった瞬間--

バッ!

キンジが武藤君に対して縮地法で一気に距離を詰めた。

 

「なっ…!?」

 

一気に距離を詰められたことに驚く武藤君に対し、キンジは右ストレートのパンチ。驚いた武藤君はかろうじてガードが間に合うけど、このコンボそれガードしちゃダメなんですよ。

キンジは右ストレートを跳ね返された衝撃を使って左足を軸にクルッと回って放つ回し蹴り。

 

「ぐぉッ!」

 

そんな呻き声とともに武藤君は後退する。

今キンジが使ったコンボは私が中学一年の時キンジに対して散々使ったコンボ。右ストレートをガードするんじゃなくて、いなすか避けるかすると回し蹴りまで持っていかれないんだけど、それを防ぐための縮地法。最近の私はあんまり使わない初手だけど、やっぱり相手の隙に刺さるね。このコンボ。

 

追撃するように駆け出したキンジは右ストレートを放つフェイクをかけながら左ストレート。今度は読んでいたのか、それを手のひらでガードした武藤君はそのまま腕を取り……

 

「うおりゃああああああああ!」

「なっ…!?」

 

キンジを一本背負いで投げ飛ばす。なるほどあの大柄な体格上、組手は得意なわけだね。つまりキンジは掴まれないようにヒットアンドアウェイで戦う必要があるんだけど気づいているかな?まあまずは腕の拘束を解かないとそれすらできないんだけど。

 

「ぐ…!」

 

もう一度そこから一本背負いで投げとばそうとしていたが、それを読んだキンジの跳ね上がるようにして頭を狙った蹴りが直撃。キンジの拘束を解かれた。

そっからの試合は泥仕合、キンジの打撃が武藤君に入るが、それを掴んで投げ技に持っていく武藤君。中でも武藤君のエクスプロイダーはすごい威力ありそうだねあれ。

 

こうなってしまうと幇助者にできることは何もない。手を出すと2人の戦いに水を差すことになるし、まずそもそも2人の距離が近すぎて下手に撃つと味方に当たる。向こうの一石君も同じように思っているようで、『どうする』とマバタキ信号で送ってきたので『どうしようもない』と返しとく。

まあいざとなったら打てる手は一つなんだけどね……

 

 

 

 

2人は何度もリング役の理子や不知火君などに押し戻されながらも戦った。

そのせいでお互いに疲弊しまくっているね。

そのせいで戦闘は膠着。

 

「ハァ……ハァ。タフなやつだな武藤」

「おめえもなかなかタフじゃねえか、遠山」

 

お互いに肩で息をしている。この様子じゃ当分終わりそうにないね。だから………

 

「ぐほっ!」

「ぐはっ!」

 

二つの叫び声が同時に聞こえ、2人とも宙を舞う。私の蹴りによって。

リングの生徒は呆然としている。

幇助者で膠着状態を打破するのはわかるのだろうが、味方まで蹴り飛ばすのかと思っているのだろう。

私と一石君は私に吹っ飛ばされて倒れた2人がいるリングの端へと歩いていく。

 

「な……何すんだよ銀華……」

「こんな状況で出てくるのは卑怯だぜ……」

 

2人は悪態をついてくる。

 

「卑怯ではないよ、武藤君。彼女は僕に介入の許可を取ってから介入したんだ」

「一石…」

「彼女は自分の婚約者を蹴り飛ばしてまでこの試合を終わらせたかったんだ。もう十分殴り合っただろ?それに死ぬまでやるのはどちらかが武偵法9条を破ることになるから、武偵としてそれは見過ごせない」

 

真面目だなあ一石君。私は面倒くさくなったからマバタキ信号で許可を取って蹴り飛ばしただけなのに。

 

「ま、どちらももう動けなさそうだし、決闘は終了。結果は引き分け」

 

私はこの泥仕合の決闘の終了を宣言した。

 




甘いお話が書きたいよ…(次回も戦闘回)

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