哿と婚約者   作:ホーラ

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注意:キンジの年相応な言動

オリ主の容姿は
紅華時はシャナ
銀華時はジャンヌ、メヌエット、カナを足して3で割ったみたいな容姿だと思っててください。




第1話:金と銀

「意味わかんねえ…」

 

頭を抱えながらもう何度目かわからない呟きを俺、遠山キンジはもらしていた。別に俺の物事の理解能力がないわけではない。たぶん誰が俺と同じ状況になっても、俺と同じく意味不明を連呼するだろう。

小学校をこの前卒業した春休みの朝ご飯の時、爺ちゃんに今日はお前の婚約者と昼食を取るという青天の霹靂の宣告をされた後、婆ちゃんに無駄におめかしさせられ、今都内にある高級料亭に爺ちゃん、婆ちゃん、金一兄さん、俺で向かっている。こんな意味不明なことを予測できる人間はたぶん存在しない。

 

まず婚約者ってなんだ!?今まで婚約者の『こ』の字もなかったじゃないか…兄さんに婚約者がいるなら予想ができないこともないが、兄さんにはいないのになんで俺には婚約者がいるんだという真っ当な意見は無視され、爺ちゃんの鉄拳制裁の餌食となった。

俺以外の3人はどうやらすでに俺の婚約者(?)の写真を見ているようで、俺に鉄拳を見舞った爺ちゃんは「こんな別嬪さん、キンジが気にいらないならワシがもらおうかの」と言って婆ちゃんに家の外まで吹っ飛ばされていた。

兄さんは「何事も経験だぞ、キンジ」と言っていたが、笑いを堪えながら言われてもなんの説得力もない。明らかに俺が慌てるこの状況を楽しんでいるな。

 

 

料亭に向かうタクシーの中で3人に聞いてわかったことといえば同い年、美人、婆ちゃんの妹の孫、つまり再従兄弟ということの3つぐらいか。

というか女性、特に美人は困る。異性というだけで話す話題に困るのだが、さらに美人が加わると何喋っていいかわからなくなる。それにHSS、ヒステリアモードのこともあるし、高級料亭に行くというのにストレスで何も食べられなさそうだ。

それに明日、神奈川武偵中学の試験なんだけど…試験前にストレスと悩み事を増やさないでくれ…

 

巣鴨からタクシーに揺られること20分、外観だけで高級とわかる一件の店の前で止まった。タクシーから降り、改めて店を見てみると一見さん御断りの雰囲気がぷんぷんしている。

もし店が違ったら恥だぞ…と思う俺を他所に、一張羅を着ているがこの店の雰囲気には少し劣る服を着た3人はどうどうと中に入って行くので、慌てて俺も3人に続く。

 

「遠山です」

「遠山様ですね、お待ちしておりました。奥へどうぞ」

 

どうやら俺の心配は杞憂に終わったようだ。靴を脱ぎ、女中さんに案内され、迷路かと思ってもおかしくない廊下を進んでいき、ある部屋の前まで案内された。

 

「お連れの方がお見えです」

「どうぞ」

 

女中さんが部屋の中に声を掛けると部屋の中から声が返ってきた。生前の父さんに初めて武偵庁まで拳銃を届けに行った時と同じかそれ以上の緊張感で開けられた襖から中に入る。

 

そこにいたのは少し青みがかった銀髪、絹のような白い肌、華奢ながらも肉付きはよく、モデルが裸足で逃げ出すほどの力強さと凛々しさ、そして儚さを感じさせる容姿をしており、その美しさはどんな巧みな変装でも作り出せないと思わせるような神々しさを放っている女の子であった。服装は大人びた黒を基調にしたものであり、俺と同じ12歳には全く思えない。

そして俺は似たような人物を他に知っている。それは金一兄さんが女装した姿、カナである。彼女はカナと同じぐらいの美しさで、カナと同じような超然としたオーラを醸し出している。

 

「キンジ、入り口で止まるな」

 

兄さんの言葉で自分が彼女に見惚れていたことに気づく。兄さんにすまんと謝り、中に入って脇にどいた。俺たち4人全員が部屋に入ると彼女は深々と頭を下げた。

 

「遠いところわざわざお越し頂きありがとうございます。どうぞお席へ」

 

と言って俺たちに席を勧める。

 

「写真で見るより別嬪さんじゃのう」

「本当に雪華によう似とるねぇ」

 

スケベな目つきでそう言った爺ちゃんを婆ちゃんが肘打ちいれながら言葉を重ねる遠山家の日常を見て、彼女はドン引きするかと思いきや、彼女はニコニコと笑っている。常日頃からこういう光景を見てるということか?少し悪寒を感じるな。

 

立っているのも変なので彼女に勧められるままに俺たちは席に着いた。上座から爺ちゃん、婆ちゃん、俺。対面には兄さん、彼女という席である。

 

「初めまして、北条銀華(ほうじょう しろは)です」

 

席に着いたのを見計らって彼女、北条は自己紹介をしてきた。

当然ちゃ当然なんだけど、俺の目の前に北条がいるのが目の置き場がなくて困る。明後日の方向を見る訳にもいかないし、彼女の横の席の兄さんと変わりたい。

その兄さんは俺にお前も自己紹介しろという目を送ってくる。

 

「と、遠山キンジです。よろしく」

「遠山キンジ……いい名前ですね」

 

我ながら不甲斐ないと思うぐらいしどろもどろであったが、彼女はニコニコとそれを聞いてくれた。

もしかしてこの場で緊張しているの俺だけ?

 

「キンジの兄の金一だ。キンジをこれからよろしく頼む」

 

さっきの予想を裏付けるかのように兄さんはハキハキと自己紹介をする。まあ兄さんは自分の女装姿で美少女慣れしているからな…これを言っても恥ずかしがった兄さんにボコられるだけなので、お口にチャック。続けて爺ちゃんと婆ちゃんが自己紹介したところで食事が始まった。

 

食事は予想を裏切らず美味しかった。まあ、ストレスで胃が痛くなければ、もっと美味しかったとは思うがな。

食事中の会話は爺ちゃんや兄さんが北条に質問して、彼女が答え、彼女が同じ質問を俺に投げかけてくるというものであった。というか北条、コミュ力高えな。緊張している俺がハブられないように上手く話を回してくれている。学校でもぼっち気味の俺とは大違いだぜ。ただ一つ不満点があるとすれば、

 

「〜〜〜。どう思うキンジさん?」

「そのキンジさんっていうのやめてくれないか?一応俺たちは婚約者なんだろ?対等な関係で居たいんだ」

「わかったよ、キンジ」

 

やっぱり思った通りだ。なんか普段と違う言葉遣いをするのに無理している感があったからな。こっちの方がずっと自然だ。

 

「銀華はキンジと同じ歳なんだろ?中学はどこに通うつもりなんだ?」

「神奈川武偵中学に通おうと思っています」

 

神奈川武偵中学ね。

……って俺と同じじゃねえか!

人は見た目によらないというし、俺がいうのもなんだが、北条お前あの変人の巣窟に入ろうと思っているのか…

兄さんから聞いた話では日常的に銃で撃ったり撃たれたりする場所だぞ。そのことわかってるんか。

 

だが俺以外の3人はさも当然という感じだ。なんだなんだなんだ。俺がわからないことを何かわかっているというのか。

 

「ん?どうかしたキンジ?」

「あ、ああ、いやなんでもない」

 

クソッ、何か考えているのか見破られちまった。実力が爺ちゃんや兄さんに劣るのは仕方がないが、同年代の女子には負けたくない。とりあえず明日の入学試験では北条に絶対勝つぐらいの気持ちでやろう。

 

北条の家族について気になっていたが、その話はタブーと事前に言われていたのでそれについて話すことはなく食事会が終わった。

 

最後の最後で驚いたのはお金をここでは払わないってところだな。この食事は俺らの分も含めて向こうが払うことになっているらしいが会計などはなく、北条はただ紙にサインをしていただけだ。どうやら金持ちは食事の時に無闇に財布を出すことはしないらしい。こんな高級料亭、それに5人分の食事の料金なんて考えるだけでも恐ろしいのに、どんだけ金持ちなんだ北条は。

 

店を出ると北条が待たせておいたと思われるタクシーが止まっていた。

 

「今日はありがとうございました」

 

俺たちがタクシーに乗り込む前に北条がお礼と共にお辞儀をしてくる。いや、お礼を言うのはこちらだと思うのだが。

 

「今日はありがとう、銀華。これからもキンジをよろしく頼む」

「ありがとう。美味しい食事だったよ、北条」

 

爺ちゃん婆ちゃんがお礼を言った後に、兄さんもお礼を言ったので俺も続けて礼を言うと、北条は俺の言葉を聞いて不満そうな顔をした。

俺なんか怒らせるようなこと言ったか?

 

「銀華」

 

いきなり北条は自分の名前をつぶやいた。

不満そうな顔を含めてよく意味がわからないのだが。

 

「銀華って呼んでほしい」

 

それは今日最初で最後の年相応の頼みと口調であった。どうやら俺が北条と呼ぶのが気にいらないらしい。

 

「わかったよ、銀華」

 

俺がこう言うと銀華は今日1番の笑みを浮かべ、俺たちを見送る。

 

これが俺と銀華の初めての出会いであった。

 

☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

次の日、私は中学の入学試験を受ける会場に向かうため、電車に揺られていた。

 

暇な車内で思い出すのは昨日のこと。

昨日の食事会は必死で敬語や作法、会話などを勉強したおかげでボロが出ずに済んだよ。北条は私の祖母のもともとの苗字らしい。

そしてあの食事会は先祖代々、婚約すると似たようなことが行われているらしいね。

代金は此方持ちということまで決まっていて、何か意味があるぽい?

 

キンジは緊張していたぽいけど、HSSにならないためかな?私にとってはHSSにならないことはいいことなんだけど、男版のHSSもどんなものか一度見ておきたいんだけどな〜。

キンジはHSSになりたくないってことは私もHSSにならなくて済むってことだし、一緒に学園生活を過ごしていく分にはそっちの方が好ましいと思うけどね。

 

あと遠山家のキンジ以外の3人は『できる』って感じだったな〜。特にキンジの爺ちゃんの(まがね)、あれはやばい。たぶん能力使わなかったら十中八九負けるし、能力使っても向こうにHSS使われたら無理ゲー。同じ自分の能力を高める「乗算能力者(マルチレイズ)」だけど私の乗算はどんな想像をしてもせいぜい10倍。ヒステリアモードは30倍。自力ですら負けてるのに勝てるわけないよね。流石アメリカからダイ・ハード(殺し難し)と言われているだけあるね。

一方、キンジはダメダメだったかな…成績でいうと0点に近い。その辺にいる有象無象の一般人よりも少しできる程度。私がどれぐらい力を持っているのかぐらいは見極めて欲しかったな。

だけど仕方ない気もするけどね。だってキンジはまだ宝石で言う原石。何にも磨かれていないんだから。秘められた潜在能力は金一よりありそうだとは思ったし、武偵中学でその才能が発現するといいね。

 

武偵中学で思い出したけど、私も一応武偵になるんだなあ…

 

 

--武偵

凶悪化する犯罪に対抗するために新設された国家資格。語源は「武装探偵」の略。

武偵免許を持つ者は武装を許可され、逮捕権を有するなど警察に準ずる活動が可能になるが、あくまで武偵は金で動き、金さえ貰えれば武偵法の許す限りどんな仕事でも請け負うため「何でも屋」の側面がある。

 

これが武偵の一般的解釈であるらしい(参考文献:広辞苑)。

これ読んで思ったんだけど凶悪化する犯罪ってどう考えても私も含むイ・ウーのメンツのほとんどに当てはまるよね…

イ・ウーでひたすら技を磨き合うだけの研鑽派(ダイオ)はまだマシだけど、私を含む主戦派なんてテロリストと変わんないでしょ。

だけど研鑽派はこそこそしてる感あって、あんまり好きじゃないんだよね。父さんの教えは研鑽派寄りだけど。

 

 

そんなことを考えていると試験会場の最寄り駅に着いた。一つ伸びをして電車から降りると、私と同じように試験を受けに来たと思われる同年代の男女が多く下車しているね。多少できると思われる生徒もちらほらとはいるけど、ほとんどは一般人と変わらないみたい。まあこの時点では何も訓練を受けていないんだから一般人と変わらないのが普通か。

階段を降り、改札を通過するとそれほど遠くない位置に昨日知り合った人物を見つけた。

 

「キンジー」

 

私が手を振りながら呼びかけると、キンジは恐る恐る振り返り、私を見つけると胃が痛いというような顔をした。

その反応ちょっと酷くない?

私だって、好きでキンジの婚約者になったわけじゃないんだからさ。

 

「おはよう、銀華」

「おはよう、キンジ。朝から自分の余命が宣告されたみたいな顔をしてるけど大丈夫?」

「酷い言い草だな…」

 

キンジとは婚約者だけど、よくある小説のように婚約者同士ベタベタすると私のHSSが発症する可能性もあるから、イ・ウーにいた時の友達のように接することにしている。キンジも昨日のうちに婚約者について調べたのだろうね、私がベタベタして来ないのを見て、少し驚いている。

 

「銀華、お前も強襲科(アサルト)の入試を受けるんだな」

「女子だから違う学科受けると思ってた?」

「そういうわけではないが…」

 

武偵中学の生徒は全員一般的教養を学ぶための教養学部に所属するが、そのほかにも武偵の活動に関わる専門科目を履修でき、それに応じた学科にも所属する。これは掛け持ちできるので、例えば狙撃といった遠隔支援射撃を学ぶ狙撃科(スナイプ)と武偵活動における車輌・船舶・航空機の運転操縦、整備を習得する車輌科(ロジ)などといった掛け持ちも可能。

その掛け持ちも入学した後に可能なだけで、まず中等部の入学試験では自分に合っていると思われる学科の入試を受験する。これは武偵ランク試験も兼ねており、これの結果によって1年次の武偵ランクが決定する。

 

ということが武偵中のパンフレットに書かれていたはず。ちなみに私が受ける強襲科(アサルト)は拳銃・刀剣その他の武器を用いた近接戦による強襲逮捕を習得する学科で、この状態、つまり銀華にはぴったりなんだよね。探偵科(インケスタ)と迷った覚えがあるけど、推理力や直感は父さんの半分ぐらいしかないし、もう伸びる気がしないから強襲科にしたんだっけ。

調べたところによると、強襲科は犯罪組織のアジトへの突入依頼がくるなど他学科に比べ、危険度は高いらしいんだよね。どうやら入学から高校卒業まで生きていられるのは97.1%程度らしい。こういったことから強襲科は「明日無き学科」という不名誉なあだ名が付いているようだね。

というか今更だけど、私はイ・ウーで毎週のようにゲリラとか反乱軍潰してたんだからイ・ウーも実質強襲科みたいなもんでしょ。

やっぱり私は強襲科でよかった。

 

「キンジも強襲科なんだね、探偵科かと思ってたよ」

「兄さんも強襲科だし、別におかしいことではないと思うぞ」

 

やっぱりキンジはお兄さんに憧れているんだね〜。私は兄弟がいないからわからないけど、姉や兄を弟は尊敬するものなのかな?

 

そんな話をしていると20階ぐらいあろうかと思われるビルの前に辿り着いた。ここは神奈川武偵中や神奈川武偵高の強襲科の実習で使われる施設の一つであり、今日私たちが受ける試験の会場でもある。

 

「うぉ…」

 

中に入ってすぐにキンジは驚くような声を出した。まあ気持ちはわからないこともない。入ってすぐ、弾痕びっしりの壁がお出迎えしたら私でも少し驚く、というか驚いた。これもしかしてイ・ウーより酷いんじゃない…?

 

案内する気ないでしょと思うぐらい超適当な試験会場案内図に従って歩くこと数分、目的地に辿り着いた。

そこは比較的弾痕が少ない大教室で、受験生それぞれに与えられた受験番号ごとに与えられた席に座るというシステムを取っている。

私はキンジと入口で別れ、自分の受験番号を探す。ちなみに私の受験番号10208。

10208…10208…あった。

席の場所は一番入口から遠い右後ろの席。受験番号一番最後なのは、もしかして入試申し込みが一番最後だったからかな?父さんが無理やりねじ込んだ説も捨てきれないけど。まあどっちでもいいけどね。

 

席に座って後ろから人間観察をするけど、やっぱりほとんど一般人だね。もしかしたら私をのぞいたらキンジが一番強いぐらい。

そう肘をつきながら観察していると、試験監督と思われる人が入ってきた。

 

「お前ら、さっさと席につけや」

 

試験官と思われる人は柄の悪い男性でその威圧にビビったのか、受験生はそそくさと席に着いた。その強面の試験官の男性は前の教壇に立つと自己紹介を始めた。

 

「俺は試験官で強襲科の教師も担当している藤堂や」

 

この人が教師!?背中に自分の体長ぐらいある、ゲームで出てきそうな大剣を背負ったこの人が!?

いや、イ・ウーにも怪力といえばブラドとかいるけどさ。あいつ吸血鬼で人じゃないし藤堂先生もこれ絶対人間じゃないでしょ…

 

「これからお前らには実技試験を行ってもらう」

 

しかも手でブンブン振り回してる拳銃、遠目だから違うかもしれないけど、もしかしてS&W M29じゃないのあれ?

デザートイーグルやS&W M500の登場で陰に隠れがちだけど.44マグナム弾を扱える拳銃で、拳銃としては常識外れの威力を持っていたはず。

なんて武装してるんだ、あの先生は…イ・ウーは超能力(ステルス)持ちが多かったからかもしれないけど、あんな一目でやばいっていう武装してる人いなかったよ…ロボットならいたけど。

 

「その実技試験は徒手格闘殺し合い(バトルロイヤル)や」

 

ん?今なんて言った?イ・ウーからでて日本で"普通"に暮らすために私が調べた日本の一般常識にはバトルロイヤルをやるシーンなんてなかったんですけど…ここは本当に日本ですか?もしかして神奈川県は日本じゃない説。

 

「本当はCQCでやりたかったけど今回は暗器得物なしや。お前ら防刃防弾制服持っていないからな」

 

CQCは近接戦闘で徒手格闘やナイフなどの暗器を使って戦うスタイルのことでだけど、今回は純粋に徒手格闘、つまり武器無しで戦えってことかな?

 

「ルールは簡単、相手を見つけて倒せ。背中がついたら失格で、一番最後まで残ったやつが優勝や。わかったらスタート位置に移動しろ」

 

私はイ・ウーで経験あるから問題ないけど、いきなりこんなこと言われて他の人は困惑するんじゃないかと思い、周りを見渡すとあれ?もしかしてそんなに困惑してない?

なんで困惑しないんだろう。君たち一般人じゃないの?かえって私が困惑するんだけど…

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「その実技試験は徒手格闘殺し合い(バトルロイヤル)や」

 

入学試験にバトルロイヤルだと…聞いてはいたが本当に狂ってるなこの学校。まあこの学校に入る俺も狂ってるのかもしれないが。

 

「ルールは簡単、相手を見つけて倒せ。背中がついたら失格で、一番最後まで残ったやつが優勝や。わかったらスタート位置に移動しろ」

 

それを聞き、移動のために席を立つ周りのやつらを見るとやる気を漲らせているが分かる。それも当然だろう。強襲科に来るやつなんて血気盛んで好戦的なやつか、知らずに受験している馬鹿のどちらかに決まっている。現に俺の周りはバトルロイヤルと聞いて喜ぶような奴らがほとんどだったしな。

たぶん周りのやつは小学校で喧嘩で負け無しだったやつとかだろう。こういうやつは俺の学校にもいた。女子もこの場にいるが男勝りなやつがほとんどだしな。

まあ喧嘩負け無しといっても多少喧嘩ができる程度だろうな。俺は小さい頃から兄さんとかにいろいろ教えてもらってるからな。ヒステリアモードなしでも俺は強いってところを爺ちゃんや兄さんに見せつけてやるぜ。

 

そう意気込む俺は、出入り口がすいたのを見計らって移動しようと席を立ち、後ろを振り返ると、銀髪の婚約者が困惑した顔で右後ろの席付近で立っていた。もしかしてあいつ…強襲科について知らない馬鹿だったんじゃないか?俺が入口に歩いていくと銀華も入口に歩いてきて合流した。

 

「おい、銀華。入学試験でバトルロイヤルみたいなことやるって知らなかったのか?」

「そうだよ。悪い?」

 

マジで馬鹿がいた。しかも身近に。しっかりしてると思いきや、意外とマヌケなやつだったということか。

 

「馬鹿だなあ、お前」

「……」

 

銀華は何も言い返さない。

 

「そんなことも知らないでこの学校に来てるなんてな」

「……」

 

2人で並んで大教室の横に設置されている番号ごとにスタート位置が書かれたパネルの前まで移動する。

俺のスタート位置は…っと

1階か。一階層全員倒して上がっていけば20階に達した時、俺は優勝者ってことだな。

 

「銀華、お前のスタート位置は」

「20階」

 

銀華が20階スタートということはまず戦うことはないだろうな。ボーナスステージが一つ減ったってことだが、まあ婚約者を殴るのもあれだしな。外聞が悪いっていうやつか。

おっと、そろそろ移動しないとな。

 

「じゃあ、頑張れよ」

「ねえキンジ、私が優勝したら馬鹿って言ったことを謝ってくれない?」

「…何?」

 

俺が移動しようと別れの言葉を告げた後、銀華がそう告げた。よほど馬鹿って言われたことが悔しかったのか?

 

「キンジは本気モードじゃないから、私も本気は出さない。もしキンジが優勝したら、そうだね。何か好きな物買ってあげるよ」

「…わかった」

 

俺は今、武偵中に入学してから使いたいと思っている、とある拳銃が欲しいんだが、あいにく金欠だったから買えないものがある。少し悩んだふりをしたが、すぐ飛びつきたかった渡りに船の話だぞ。そして、俺にはデメリットがない。だってバトルロイヤルのようなことが行われるようなことも知らなかった銀華なんかに俺が万が一にも負けるはずがないからな。

 

「じゃあキンジ、私と戦う前に負けないでね」

「それはこっちのセリフだ、銀華」

 

俺は銀華にそう返し別れた。

 

その時の俺は銀華が婆ちゃんと親戚で、婆ちゃんはいつも爺ちゃんを吹っ飛ばしているということを完全に失念していた。

 

 

 

 

 

 

実技試験が始まって約30分、俺はようやく4階までの受験者を全員倒し終わったところだ。

 

スタート位置の1階の受験者はそんなに手強く無かったが、2階と4階で戦った相手は結構手強かった。それもそうか。2階で戦った敵は俺と同じように2階の受験者を全員倒しているわけだしな。逆に弱かったらそれはそれでおかしい。

4階の敵はさらに3階の敵を倒しているわけだし、弱いわけがないか。

 

俺は中央、手前、奥とビルの中に三つある階段のうち手前の階段を使ってビルを登っている。

中央階段は登ったらすぐに、横の通路を2人に塞がれ、挟み撃ちになる可能性がある。階段にまた戻ればいいのだが、逃げたと思われるのは癪だ。残りは手前と奥の2つだが奥の階段は構造的に手前の階段より待ち伏せがされやすい造りになっていて、現に2階の敵はそこでガン待ちしていたからな。もし奥の階段から登っていたら俺は2階の生徒に負けていただろう。

 

慎重に4階から5階に進み、階段で登ったあと不意打ちを食らいそうな場所を階段ホールからチェックする。

よし、今回はいないようだ。このビルはデパートのような造りになっているからデパートなどの人質立て篭もり事件を想定した演習などで使うのかもしれないから待ち伏せしやすい造りになっているのだろう。

そんなことを考えていると--

 

「ぎゃああああああ」

 

悲鳴が同じ階で響き渡った。悲鳴の方向はどうやら奥の階段のようだ。

この階の階段前で他の受験者を待ち伏せしていた奴が不意打ちで倒したに違いない。

それなら今がチャンスだ。不意打ちした奴は成功したことに味を占めて元の場所に隠れたがるって生前の父さんが言っていたからな。それを逆手に取ればいい。不意打ちは場所がわかってれば怖くないし、逆に不意打ちできる可能性も高い。

それにしても迂闊な奴だな。奥の階段を使うなんて。そんな不用意なやつとは入学しても組みたくないから顔を覚えておこう。

 

俺は柱の影まで足音を殺して移動し、そっと奥の階段の方を見る。

あれ…?おかしい。

打ち倒されて、地面で伸びているのは同級生。それは別におかしくない。

しかし、そいつを打ち倒している相手。そいつがどう見てもおかしい。

無精髭を生やして顔には大きな傷。身長は….たぶん190を超えていてガタイもいい。

俺らと同年代にはどうやっても見えない。どう若く見積もっても20代後半だ。

 

 

そういえば兄さんから聞いたことある。

武偵中や武偵高の入学試験は武偵ランク試験も兼ねているから、受験者の他にも抜き打ちで試験官が隠れている場合があるらしい。

状況的に見て、そのケースに当てはまる。

 

ちっ…同学年だけだったら余裕だったものを…

あの大男は試験官に選ばれるぐらいに力のある人物だ。正面戦闘になったら、ヒステリアモード時ならともかく、今の俺ではまず勝てない。さっさと逃げるか、このまま隠れておくか、不意打ちか…

 

そんなことを考えていると、大男は俺に気づいたわけではないだろうが、こちらの方向に歩いてきた。もう今から逃げたら、バレてしまう。不意打ち、やり過ごす、どちらをするにしてもとりあえず隠れるしかない。

 

隠れていた柱から、音を立てずに通路にいる大男にとって死角となる場所を移動し、物陰に身をひそめる。

顔を出したらバレるかもしれないので、音で相手の居場所を探るしかない。

神経を耳に集中させると、かすかに足音が聞こえる。あんだけ身長とガタイがあれば体重も当然ある。体重があれば足音を意識して消さない限り、足音は消せない。

 

逆に裏を返せば、意識すれば足音は消せるのだ。普通こういったバトルロイヤルでは、不意打ちなども考え足音を消すのがセオリーだろう。つまりあの大男は、俺たち12歳にやられることはないと油断しているか、そんなに有能ではないかのどちらかだ。

それならどちらにしろ、チャンスだ。相手が俺に気づいていないぽいし、最初の一撃なら確実に決まる。

 

大男が通り過ぎた瞬間作戦決行だ。通り過ぎたら、背後から忍び寄り勢いをつけて背負い投げの要領で投げる。それで倒してしまえば、俺の優勝は決まったも当然だろう。

 

刻々と大男の足音が近づいてきて、ついに俺の隠れている物陰の横を通過する。

3…2…1…

今だ!

 

物陰から飛び出し、数歩で近づき男の腕と襟をとり背負い投げの要領で投げようとした。

 

「なっ!?」

 

その不意打ちは失敗に終わる。

なぜなら男は体を回転させながら俺の手をかわし、その勢いのまま回し蹴りを放ってきたからだ。

その後、俺と男の間から鈍い音がはしり、腕で防いだにも関わらず数メートル吹っ飛ばされた。

い、痛え…子供相手になんつー威力だよ。

 

「お、よくガードできたな」

 

大男が少し感心するような声で言うが、ガードできなかったらどうするつもりだったんだ。

とっさにガードしてそれが間に合ったから良かったものの、間に合ってなかったらたぶん救急車だぞ。

 

「お前、俺が油断してると思っていただろ」

 

大男は俺が態勢を整えているにそう言ってくる。どうやらランクを見極める試験官だけあって、相手が不利な態勢の時は攻撃しないらしい。フェアプレイの精神かもしれないが、年齢や体格などはフェアじゃないぞおい。

 

「俺は敢えて油断しているように見せたんだ。お前みたいな俺が試験官と知っているやつが突っ込んできてくれるからな」

 

つまり俺たちはテストされていたということか。

油断しているようにみせ、俺たちの判断力を試したということだろう。

悔しいが俺は奴の罠にまんまとハマったわけだ。

 

「さてと、俺も早く帰りたいから終わらせてもらうぜ。ちょっと痛いかもしれないがな」

 

そう言うと奴は右拳を握りしめ駆け寄っくる…俺の方へ!

俺は再びガードしたが、大男の拳に再び吹っ飛ばされる。弾かれた俺は背中がつかないようにバク転のように手をついて受け身をとり、

 

「--ッ!」

 

優れた瞬発力で追撃してきた、大男の蹴りをかわした。さっきは追撃してこなかったのに大人気なくねえか。

 

「!」

 

違う、今のはフェイント-

大男は反対の膝を蹴り上げ、俺の防御のために突き出した左腕を弾く。

それだけで全身を回転させられた俺は、さっきのお返しとばかりにその勢いを利用して斜め軌道の突き返し蹴り(ブラジリアンキック)を放つ。

だが、奴の顔を狙った俺の蹴り足は奴の両手でがっちりとキャッチされ、俺は奴に逆さ吊りにされた状況になった。

 

「放せ…!」

 

暴れて手を振りほどこうとするが男の握力は強い。

もう流石にこの状況はひっくり返せない。奴は俺の背中を床に叩きつけるだけで俺は退場だからな。そう俺は諦めた時、

 

銀色の彗星が煌めいた。

 

「うお!?」

 

大男が痛みと驚きが入り混じったような声をあげ--俺を頭から床に落とした。とっさに手をついて転倒を防ぐ。

あ、危ねえ…頭から落とされるとは思ってなかったぜ。

俺を助けてくれた人物-それは

 

「キンジ、試験前あんなに威勢を張っていたのにこんなもんなの?」

 

銀華であった。あれ?あいつ確か20階スタートじゃなかったか?もしかして…

 

「10階ぐらいでお互いに全員倒して会えると思ってたのに、キンジが遅いから15階分全員倒す羽目になったんだけど」

 

各一階ごとに配置された10人と計算するとこの短時間で150人近くの屍を超えてきたってことか!?実際に戦った人数はせいぜい多くて50人程度であろうがそれにしても早すぎる…

 

「宮坂はどうした…?」

「貴方と同じぐらいの年のおじさん?私のこと女だからって舐めてかかってきたから瞬殺しちゃった☆」

 

可愛い子ぶって銀華はそう言うが、その笑顔逆に恐怖しか覚えねえぞおい。

 

「じゃあ手加減はいらないってことだな!」

 

大男は銀華に突っ込み、拳や蹴りを放つが、銀華はそれをいなす。ガードしないのは体格差による力の差を考慮しているからだろう。

言うなれば大男は剛、銀華は柔の戦い方だ。

割って入る隙すら見つからない、2人の高速の戦いがしばらく続くていたが、

 

「そろそろやりますか」

 

そう銀華が呟くと、大男が銀華に対して繰り出した蹴り足、その右膝に銀華は迎撃(カウンター)の左肘を繰り出したのを皮切りに、今までの攻守が入れ替わった。今度は銀華が攻め始めた。

というか相手の蹴り足にカウンター入れるなんて、なんという反応速度してるんだ銀華は。俺が三輪車、大男が原チャリだとしたら、あいつの反応速度F1カーレベルだぞ。

 

攻守が入れ替わり、早い足技で銀華が攻め立てるが、決定打は与えられていないようだ。いくら反応速度が速いと言っても12歳の女子。相手のガードを崩すほどの力はないだろう。

それを銀華は理解したのか。それまでの細かい攻撃とは違う大振りの蹴りを放ち、相手にガードさせ、その蹴りの反動で少し距離を取る。

距離を取った銀華は近くの壁に向かって走り、壁に向かってジャンプする。そのまま三角飛びの要領で壁を蹴り、月面宙返り蹴り(ムーサルトキック)を放とうとしている。銀華は決定力が足りないのを高さで補うことにしたのだろう。

 

だがそれは諸刃の剣だ。もしガードされてしまったら、決定的な隙が生まれてしまう。それを見逃すやつではないだろう。実際に奴は完全にガードの構えを取っている。

これは厳しいかと思ったその時、銀華は宙返りのちょうど頂点で脚を曲げ、その曲げた足で"天井を踏み台"として自分の蹴りの威力を増大させた。

 

「う…」

 

天井を蹴ることでさらに威力をました銀華の蹴りは男のガードを崩した。それを見逃さず、銀華は着地してすぐ飛び蹴りを相手の顎めがけて放ち、それが見てて気持ちいいぐらい綺麗に入り、大男は回転しながら吹っ飛んだ。

 

この勝負銀華の勝ちだ。

というか銀華、お前天井を踏み台として蹴るって何メートル飛んでるんだよ…武偵になるのなんかやめて高跳びの選手にでもなったらどうだ?

 

そんなことを考える俺の近くにすすっと銀華は近寄ってきて

 

「ツギハキンジノバンダヨ」

 

そんな死神のような宣告と共に俺は宙を舞い、試験終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

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北条 銀華

今年度の強襲科の主席生徒。近接戦闘において高い能力を持つ。実力はSランクに認定。だが12歳でSランクの前例が過去にないためAランクとする。

 

 

 

遠山キンジ

強襲科Eランクに認定。ただしDに近いEランク。戦闘の中に才能が見え隠れしており、どうやら試験前にも何か訓練を受けていた模様。磨けば光るだろう逸材。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




小6キンジのクソガキぽさが伝わってたらいいなあ…
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